抄録
台湾猿の肛門も人の場合と略ぼ同様, 柱帯, 中間帯及び外皮帯に分けられるが, 先ず柱帯では上皮に対する固有膜からの乳頭形成が見られないから, 知覚神経分布も甚た劣勢で, 極く少量の非分岐性及び単純性分岐性終末を上皮直下に見るに過ぎない.
中間帯には稍々著明な乳頭形成が見られるから, ここでは多数の知覚線維の進入を見, その終末には非分岐性及び分岐性終末の他, 陰部神経小体も発見される. 尚お上皮内神経は人及び他の動物の場合と異って, 柱帯にも中間帯にも証明されなかった.
陰部神経小体はI型及びII型に分けられる. I型に於ては1-2条の知覚線維が特殊細胞核所有の内棍に進入し, この中で絲球状配列を示す数条の分枝に分れて終る. 本小体は人の肛門に見られる陰部神経小体第I型 (泉) に類似するが, 但し規模の点ではより劣勢を示す. II型小体は可なり特有な形態を示す. 1-2条の知覚線維は濃染性の内棍内に進み, 多少複雑な分岐性終末に移行する. 終末枝は所々に原線維性拡散を示す太さの変化に富んだそして強い迂曲走行をとる太い線維で表わされ, その先端は通常棍棒状に肥厚して終る.
肛門外皮帯は厚い表皮で被われ, 之に対する真皮からの乳頭形成も良好, 従って真皮乳頭層は一般有毛性外皮に於けるよりも遙かに知覚神経線維に恵まれている. 之等知覚線維は中間帯に於けると略ぼ同様, 非分岐性及び分岐性終末の他, 陰部神経小体に終る. 但しこの部の陰部神経小体は概ねI型に所属する.
肛門外皮帯の毛包頸部は多くの場合周囲から大型の皮脂腺で包囲され, 従ってこの部の特殊結合組織領域は毛髪神経管 (瀬戸) で表わされ, その知覚性毛髪神経の分布も強力である. 興味深い事には之等毛髪神経の終末は大部分柵状終末で表わされ, 極く一部のものは叢状終末で表わされる. そして本動物の口唇外皮部の毛包に於て最も多く見られた輪状網状終末はここでは殆んど発見されない.