Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
山羊と兎の幽門部と十二指腸の神経分布に就て
馬場 義男
著者情報
ジャーナル フリー

1961 年 21 巻 3 号 p. 387-406

詳細
抄録

山羊の幽門部に於ける Auerbach 神経叢に関する神経節は内外両筋層間に於けるよりも筋層自身の中により多量に形成され, 又屡々筋層周囲にも発見される. この状態は下方十二指腸の近位部に迄続く. 幽門部及び十二指腸内の Meissner 神経叢に附随する神経節は Auerbach 神経叢のものよりは発達遙かに劣勢である. 以上両神経節内の神経細胞は大方尚お著明な多極性を示し, Dogiel 第I型と第II型細胞の組織学的区別も可能であるが, 然し中には殆んど神経突起を所有しない幼若型細胞も認められる.特に Meissner 神経叢内に於て然りである. 以上の所見は大体兎の幽門部と十二指腸の場合にも当てはまるが, 但しその発達は前者の夫に比すれば可なり劣勢である.
以上両動物に於ても幽門部及び十二指腸に向う外来神経束は他動物に於けると一致して多数の微細な植物線維とより少量の有髄性知覚線維とから成る. 前者は Auerbach 神経叢及び Meissner 神経叢と密接な関係を示し, 両神経叢内神経細胞からの長突起と共に平滑筋層の外, 粘膜下膜及び固有膜の中に広く拡り, その終末は植物性終網 (Stöhr) となって終る. 後者知覚線維は幽門部では僅少であるが, 十二指腸特にその近位部に於ては可なり多量に発見される.
山羊の幽門部に来る脳脊髄性の有髄性知覚線維は粘膜筋膜又は固有膜内に入って髄鞘を失った後, 2-6条の終末線維に岐れて稍々広範囲に拡る単純性分岐終末に移行する. 尚お終末枝の多くは余り太さの変化を示すことなく長く走った後, 専ら幽門腺間に尖鋭状に終る. これ等終末は後述の十二指腸に見られるものに比し一般により小規模に作られるが, 然し形態的類似性を示すから, 両終末は同一作用を行うものと考えられ, 本質的には恐らく消化性反射に関係し, 又これらの場所の病変に対しては警鐘的役割を演ずるものと思われる. 尚お以上の所見は比較組織学的に見て猫 (沓沢) の場合に可なり類似する.
山羊の十二指腸には恐らく内臓神経に由来する大径及び中径知覚線維が可なり多量に見られ, 之等は Auerbach 神経叢を経て Meissner 神経叢に達し, 然る後, 十二指腸腺に満された粘膜下膜に或は更に粘膜筋膜から固有膜に進み, そして十二指腸腺間, 腸隠窩の周り或は更に腸絨毛内の結合織に来て分岐性終末となって終る. その拡散範囲は幽門部の場合よりも一般により大である. 然しその終末枝は幽門部の場合と類似して余り太さの変化を示さず, 旦つ特記す可き迂曲走行を走らない.
兎の十二指腸には幽門部に於けると異って可なり多くの知覚線維とその終末とが証明される. 殊に総胆管の十二指腸への開口部よりも近位部に於て然りである. 知覚線維は稀ならず大径のもので表わされ, その終末は形態的に山羊の場合に類似し, 広範囲に拡散する分岐性終末から成る. 但し終末枝は山羊に於けるよりも屡々波状走行を示す.
最後に兎の総胆管の十二指腸への開口部附近にも知覚線維とその終末が証明された事は興味深い. 而もその量は十二指腸に於けるよりも多い. 知覚線維は十二指腸腺に類似の管状腺で満される粘膜下膜から更に一列性円柱上皮で包まれる縦走性粘膜ヒダの上皮下組織にまで進み, これ等の場所に分岐性終末を形成して終る. その終末様式は十二指腸の場合に一致し, 且つ終末線維の拡散範囲も可なり大である.

著者関連情報
© 国際組織細胞学会
前の記事 次の記事
feedback
Top