抄録
家鶏卵を39±0.50°Cで孵卵して, 卵黄嚢造血領域の初期血島, 及び血流開始直後の卵黄嚢血管からの血液を材料にとった. Giemsa 染色, 及び May-Grünwald-Giemsa 染色で赤血球系細胞の発達段階を観察しながら, 一方では石英スライドグラスに材料を塗抹した. 塗抹した材料は24時間ホルマリン蒸気を作用して, ヘモグロビン (以下Hbと略記) をメト-Hbとなし, メタノール固定後408mμの単色光で Heme のを顕微分光写真法で撮影した. 更に, Ralph 法でHbを染色した.
所見は次のようであった.
1. Primitive blood cell には Heme の吸光とHbの染出が認められない.
2. Promegaloblast では全細胞質に亘り, Heme の吸光が有意義の程度に均一に認められるが, basophilic megaloblast 期になって核内に現れるその顆粒状の吸光像は本期の細胞ではまだ認められない. Hbの染色像も同じ結果を示す. 故に, Hbは初期から主として細胞質中で形成されるのであろう.
3. Basophilic megaloblast の細胞質内 Heme の吸光は前者より著しく増加する. 同時に, 本期の細胞に於いて, 初めて, 顆粒状の Heme の吸光が核内に散在して現れる. 然し核内の1乃至2ケの円形部位には吸光が認められない. 恐くその位置に核小体があるのであろう. Hbの染色標本も同じ結果を示す.
4. 有糸分裂の中期から終期にある basophilic Megaloblast の Heme 吸光像では染色体が直接細胞質内にあるにも拘らず, 染色体の位置に静止核に見られるのと同じ様な顆粒状の, その他の細胞質の部分の吸光度よりいくらか強い Heme の吸光像がある. 故に, この所見と3及び4の所見から核内のHbは細胞分裂時に染色体に附着して取り込まれたものと推定せられた.