抄録
中枢神経の発生初期, 即ち神経管には, いわゆる His の芽細胞と海綿芽細胞とがあり, 前者は丁度精巣の精芽細胞の如く, たえず分裂して新生細胞を神経管につけ加えており, 後者は前者から作り出されたもので, 分裂することなくグリア細胞へ分化してゆくものと考えられて来た. ところで著者の1人は, この両細胞が実は同一の細胞で単に分裂の相が違うだけであることを既に報告し, この細胞 (His の芽細胞と海綿芽細胞をひっくるめて) を母基細胞 matrix cell と呼ぶことを提案している.
今回はこの母基細胞が生きているときに示す動的なふるまいを見るため, 8週人胎児の間脳をとって, 先ずガラス面上にローラーチューブ法で培養してみた. その結果母基細胞はガラス面上で小集団をつくり, いわゆるプソイドロゼッテ様の構造をとることが明らかとなったが, その特徴はあまりはっきりしない. そこでこれは in vivo で3次元に発育していたものを2次元で培養したため元の構造が失われたのであろうと考え, Leighton の方法に従ってスポンジを支持体として3次元培養を行なってみた. すると in vivo で見られた特有の分裂パタンが再現されたのみでなく, 移植片で, 初め平らで開いていた脳室面が次第に凹みはじめ, 丁度 in vivo で神経管が閉じるときのように管状となり神経管と酷似した構造を作った. この構造は一たん平面に培養したものをかき落して集めた上, 3次元培養を行なっても得ることが出来た. 著者らは更にこの管形成のメカニズムを母基細胞の動的な性質から説明することを試み, ここに1つの仮説を提出した.