抄録
陰嚢は発達良好な乳頭形成を示すから知覚線維に恵まれている. 又平滑筋の存在は植物神経の発達を意味する. 会陰も同様な外性器外皮に属するから其神経分布も陰嚢の夫に類似する.
陰嚢及び会陰の皮下組織内に形成される神経叢は有髓性の知覚線維と無髓性の植物線維とから成る. 後者は專ら筋層内に, 一部は乳頭内に其終末なる植物性終網を形成する.
知覚終末としての上皮内線維及び小形の Pacini 氏小体は陰嚢にも会陰にも認められない.
陰嚢に見られる知覚終末は単純性非分岐性及び分岐性終末, 叢状終末及び陰部神経小体の3型に分けられる. 単純な非分岐性及び分岐性終末は一般有毛性外皮に於けるよりは多量に專ら乳頭内に形成される. 叢状終末は少量に存し, 稀に糸毬状配列を示すこともあるが, この終末では結締織性被膜を欠く.
陰部神経小体も陰嚢には比較的多く, 乳頭内に又屡々乳頭層内に発見される. 之等は山田の分類に依る第I型及第II型に所属し, 氏の第III型は此所には上存在しない. 第I型では有被膜性内棍内に無髓性になつた知覚線維が再度の分岐吻合に依る糸毬形成を内棍全領域内に示し, 第II型では内棍中央部丈が単純な分岐性終末に依つて占領される. 尚お此等小体の内棍は微細顆粒状の基礎質と特殊核とから成る共同細胞様性状を示し, Schwann 氏鞘に由来したものと思考される.
会陰に見られる知覚終末も陰嚢の場合と同様3型に分けられる. 然し其分布状態は後者と多少異る. 即ち非分岐性及び分岐性終末は陰嚢に於けるより多量に存在する. 然し陰部神経小体は量的にも規模の点でも陰嚢のものより劣勢を示す. 此部の陰部神経小体も山田の第I型及第II型とから成り, 乳頭及び乳頭層内に発見される.
陰毛は一般稚毛よりは遙かに強力な発達を示すが, 之に対する知覚性毛髪神経の終末部は專ら瀬戸の所謂毛髪神経楯に依り表わされるから, 此神経の終末状態は一般に単純, 即ち単純性叢状終末に依り表わされる. そして其発達状態は頭髪に於けるもの (瀬戸) より稍々劣勢, 睫毛 (瀬戸) 及び口唇外部 (瀬戸, 藤井, 幾井) に於けるものよりは遙かに劣勢, 然し一般稚毛に於けるものよりは多少複雑性を示す.