抄録
4ケ月及び10ケ月人胎児の臍帯及び其附着部の神経分布に関する研究成果は次の様に要約される.
臍帯内では臍動静脉周囲にも胎生結締織内にも神経の分布は見られない又前腹壁内を通る臍動静脉も臍帯内の場合と同様, 外膜は胎生結締織から成り, 中膜内には弾力線維を含まないから, 想像された様に此所でも神経附髄は見られなかった. そこで此胎盤循環系の血液運行は神経司配下にある臍動静脉中枢部の働きにより受動的に行われるものと考えられる. 又此動静脉が神経を伴わない事は生後, 前腹壁内の其結織性閉鎖にも又臍帯内の臍動静脉死滅脱落の上にも好都合ならんと思考される.
臍帯の起始部或は移行部の形成は発生学的に臍帯と前腹壁外皮との両者に由来する様である. 即ち此部は臍帯とは多少の, 前腹壁とはより多くの類似性を示し, 上皮は剥離性の薄い重層扁平上皮から成り, 上皮下には腹壁に於けるよりは劣勢の線維性結締織の形成を見, 中心部を通る臍動静脉の周辺部は胎性結締織で満される. 汗腺も発達劣勢乍ら尚お其存在を見る. 毛根は原則的には存在しないのを一般とする. 其他微細血管, 血液毛細管及び淋巴管の進入は認められる. 此移行部は生後に於て臍部となる部である.
臍帯移行部には神経の分布を見る. 然し此所でも臍動静脉及び其の周囲の胎生結締織内には神経の進入は見られない. 神経は専ら小血管に伴って走り, 其多くは植物線維であり, 其終末は既に胎生4ケ月に於て典型的な植物性終網で表わされ 専ら上皮下結締織内に拡散する. 反之知覚線維は極めて少量に存し, 其終末は非分岐性最単純終末で表わされる.
臍帯移行部周辺の前腹壁外皮には移行部に於けるよりは遙かに多くの神経線維の分布を見る. 知覚線維は大多数知覚性毛髮神経として毛髮神経楯又は管に終る. そして極めて少量の知覚線維は真皮乳頭層に進み 甚だ単純な非分岐性終末に移行する. 此部に於ける植物神経線維の拡散は甚だ著明であり. 其終末はこゝでも植物性終綱に依り表わされる.