Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
犬食道下部及び胃噴門部の神経分布
菅又 剛三郎
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1955 年 7 巻 4 号 p. 585-596

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抄録
犬食道下部及び噴門部に於ける植物神経の分布状態は人間 (Stöhr, 吉利, 佐藤), 白鼠 (大井) 及び針鼠 (豊田) に於けると本質的差異を示さないが, 其発達状態は人間に於けるより劣勢, 針鼠及び白鼠に於けるよりは稍々優勢. 特に神経細胞の発達状態に於て然りである. 即ち Auerbach 氏神経叢内の神経細胞は人間に於けるよりは発達劣勢の, 然し略ぼ同数に存する Dogiel 氏第1型及び第2型細胞と所属不明の幼若型細胞とから成る. Meissner 氏神経叢内の神経細胞は其発達甚だ劣勢で, 何れも幼若型として表わされるに過ぎない. 尚お噴門部では神経細胞が稀ならず粘膜筋膜並びに固有膜内にも発見される事は注目に価する.
植物神経線維の終末は之等の部に於ても Stöhr の終網に依り表わされ, 終網は総ゆる被主宰細胞に対して専ら接触的主宰関係を示す.
犬食道下部並びに噴門部に於ても少量ではあるが, 知覚線維並びに其終末の存在が確認された. 食道下部に於ける知覚終末は, 第1に Auerbach 氏神経叢内に形成される甚だ不規則な配列を示す分岐性終末で表わされる. 之は人間に見られるもの (定) よりは遙かに小規模のものである.
第2は蛇行状終末或は之に類似の終末である. 之等は人間に見られるものと多少異り, 側枝を出す事なく, 殆んど総て非分岐性であり, 専ら粘膜筋膜から固有膜にかけて発見される. 第3の知覚終末も専ら固有膜内に形成されるもので, 特記すべき迂曲走行を示さない非分岐性終末並びに単純な分岐性終末に依って表わされる. 尚お犬食道下部に於ては人間食道固有膜内に見られる糸毬状終末の如き複雑性終末の存在は認められなかった.
犬噴門部に於ても少量ではあるが知覚線維並びに其終末の存在を見る. 此知覚終末は人間の場合と異って筋層内には殆んど形成されず, 専ら粘膜下膜から粘膜固有膜にかけて形成され, 特に其大多数は固有膜内に発見される. 此状態は針鼠胃に於ける所見 (豊田) に甚だ類似する.
知覚終末は専ら非分岐性終末即ち最単純性終末として表わされ, 人間に見られる様な分岐性及び糸毬状終末の如き複雑性終末は殆んど認められない. 尚お之等非分岐性終末の多くのものは特有な波状走行を示す所謂蛇行状終末或は之に類似の終末に所属するが, 人間食道のものと異って側枝を出す事なく, 其先端は概ね尖鋭状に終る.
以上犬の食道下部及び噴門部内にも著明な知覚神経終末の存在する事は本問題に関する当教室の他の業績と相俟って此部に於ける知覚感受も亦植物線維に依る事なく, 常に脳脊髄性知覚線維に依るものであることを愈々明かにするものである.
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© 国際組織細胞学会
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