Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
猫口腔粘膜の神経特に知覚神経分布に就て
鎌田 重一
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1955 年 8 巻 2 号 p. 243-260

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抄録
猫口腔も甚だ知覚線維に富んでいるが, 人間の場合よりは遙かに其発達が劣勢である. 之は特に舌に於ける舌乳頭形成がより劣勢である事に由る.
猫糸状乳頭は小型及び大型乳頭に分けられ, 前者は舌背に, 後者は舌背後方から舌根に延びて存す. 小型糸状乳頭幹は共通性重層扁平上皮内に形成され, 乳頭幹の先端には角歯の形成を見る. 大型糸状乳頭は相互間に著明な境界溝を有する. 之等糸状乳頭も人間のものよりは発達が劣勢であるから, 之に対する知覚線維の分布もより甚だ劣勢, 其終末様式は非分岐性及び単純性分岐性終末で表わされるに過ぎない.
猫茸状乳頭は糸状乳頭との間には明かな輪状溝を有し, 非角化性の重層扁平上皮で被われ, 上面の上皮は外側面の上皮よりも遙かに薄く2-3の味蕾を含む味蕾上皮で表わされ, 此点人間のものよりも良好な発達を示す. 従って神経分布も良好, 著明な基礎神経叢に由来する植物及び知覚線維は専ら味蕾上皮下に拡散する. 知覚神経末としては非分岐性及び単純性分岐性終末の外, 上皮内線維特に蕾内及び蕾外線維の形成を見る.
猫有廓乳頭は人間に於けるよりも遙かに僅少で, 其構造は犬のものに類似する. 即ち上面の上皮も側面の上皮と同様味蕾上皮から成る. 又興味深い事には犬の場合と異って壁上皮にも屡々多数の味蕾を含む. 猫葉状乳頭は舌外側縁後方で舌口蓋弓への移行部に形成され, 発達良好な味蕾乳頭を示す. 内側のみに溝があり, 外側方は舌口蓋弓の厚い上皮に直接する. 溝に面する上皮は多数の味蕾を含むが, 上面及壁上皮には味蕾は稀に発見されるに過ぎない.
有廓及び葉状乳頭でも基礎神経叢からの植物及び知覚線維の乳頭幹への拡散状態は茸状頭乳の場合と略ぼ同様であるが, 知覚終末様式には非分岐性及び単純性分岐性終末の外に可成り複雑な分岐性終末及び単純な糸毬状終末も稀ならず存し, 且つ味蕾に対する上皮内線維の発達も茸状乳頭に於けるよりも良好, 又味蕾に関係を示さない上皮内線維の存在も認められる.
舌根部の粘膜は人に於けると甚だ異なり, 舌濾胞の形成はなく, 之に代って角歯を有さない大型糸状乳頭の形成を見る. 知覚線維は舌背の糸状乳頭に於ける様に非分岐性及び単純な分岐性終末に終る.
猫舌下面は舌尖から後方可成り広範囲に亘って舌背の舌乳頭と同一乳頭で被われている. 従って此部の知覚線維の分布状態は舌背に於けると異らない. 舌下面後方部は人舌下面と同様表面平滑な背の低い非角化性扁平上皮で被われ, 上皮に対しては固有膜からの小乳頭の形成を見る. 但し人に見られる味蕾乳頭 (大垣及び堀田) は猫では認められない. 知覚線維の分布は発達劣勢な乳頭に比例して甚だ貧弱で, 少量の非分岐性及び単純な分岐性終末を見るに過ぎない. 但し単純な糸毬状終末が稀に発見される事は興味深い.
舌下面は其後方正中線に存する狭い繋帯によって口腔底に移行する. 此部では上皮は急に厚くなるが, 之に対する乳頭形成は甚だ劣勢, 従って知覚終末形成も極めて僅少にして且つ単純である.
猫軟口蓋は表面平滑な薄い非角化性上皮で被われ, 之に対する乳頭形成も甚だ劣勢, 人間に見られる味蕾乳頭 (酒井) の如きは存在しない. 従って知覚線維の分布も極めて劣勢, 其終末も非分岐性及び単純な分岐性終末で表わされるに過ぎない. 但し固有膜内に稀ならず特有な有髄性終末棍の形成を見る事は注目に値する.
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© 国際組織細胞学会
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