日本人口學會記要
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わが國に於ける人工妊娠中絶の公衆衛生並びに人工學的研究 : 総論
古屋 芳雄村松 稔安方 魁人古屋 鞆彦
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1954 年 2 巻 p. 1-9

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抄録

昭和24年8月1日より同25年7月31日に至る期間中に優生保護法の條文に基いて人工妊娠中絶を受けた1,382名の既婚婦人について調査を行つた。中絶時から面接までに経過した時日は18ヵ月より41ヵ月に至る間である。対象全体は大都市,中都市,農漁村にほゞ同数ずつ分布して居る。調査を受けた世帯の教育,経済水準は国全体よりやゝ低い。人工妊娠中絶時,三分の二の婦人は年令30才以上で,83%は少なくとも2人の生存児を持つていた。約四分の三は中絶以前に受胎調節をしたことがなく,この中絶前,受胎調節不実行者の40%は中絶後実行者となつた。受胎調節不実行者に於いては,無関心及び十分の知識のないことが最も重要な理由であり,実行者に於いては,雑誌,新聞が最も多い知識の入手経路であつた。調査をうけた婦人の約半数は中絶後18ヵ月乃至30ヵ月の観察期間中に少くとも一回再び妊娠して居り,しかもその中75%は中絶後12ヵ月以内に妊娠したものである。再び妊娠した者の中,ほとんど半分は第二回目の人工妊娠中絶を受けた。57人の婦人は18ヵ月乃至30ヵ月の観察期間中に合計3〜5回の中絶を受けている。約四分の一の婦人は不妊手術を希望する,又は既に受けたと回答し,その中既に不妊手術を受けたものの数は47人(全休の3.4%)に達している。全対象の中,17%はほゞ純然たる健康上の理由から中絶を受けたと述べ,更に他の17%は次の子の出産までにもう少し間をあけたいとの理由から中絶したと答えている,総数の50%に於いては,経済的困難が中絶の主原因であり,又13%はもう之以上子供が欲しくないからと答えたが,之は大部分更に子供のふえた場合の費用のことを考えてのことと思われる。人工妊娠中絶後何等かの自覚的障碍を訴えたものは約半数に達し,中絶を受けたもの総数の5%はその障碍は重症で再び医師を訪れねぱならぬ程度のものだつたと述べた。全体の約60%は外来の手術,即ち手術を受けた場所からその日の中に自宅に帰つたものであつた。中絶手術の平均費用は約2,200円であつた。これらの中絶手術はすべて優生保護法により特に指定された医師の行つたものである。

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