日本人口學會記要
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日本における工業化の進展と國内人口移動の性格
野尻 重雄
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1955 年 3 巻 p. 33-36

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抄録

1870年頃,後進国として近代工業化の要望にめざめた日本は,その後太平洋戦争に至る間,専ら農村人口の移動により短期間に工業化が促進された。しかし後れてとり入れた機械施設のための資本に比して労働力雇用に要する資本の割合が少なく,かつ広き海外市場を有せなかつたために資本の蓄積が急に行はれなかつた。これによつて,工業化の進度は人口を大量に吸収し,家庭的手工業を破壊し,家族的農業組織に何等かの変革を与える程度のものでなかつた。これがために日本農業における零細な規模の家族経営には,常に過剰なる人口を有し,これから仮賃銀工業労働力を,必要によつて自由に引き出し,また失業人口をこゝに送りかえすことによつて工業化はおし進められた。太平洋戦争による敗戦の結果,農村は多くの帰還人口を受取つて未曾有の人口過剰の下に置かれている。工業化が未だ順調に進展しない現在にあつては,農業より工業への人口移動は極めて微弱な状態に置かれている。

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© 1955 日本人口学会
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