2018 Volume 54 Issue 2 Pages 44-52
中山間地域をはじめとする過疎地域では,バス路線の廃止や鉄道の縮小・撤退により利用できる公共交通機関が限られており,自身で車を運転することが難しく,身近に同乗を依頼できる相手がいない場合,移動に多大な困難を伴う.そのことにより高齢になってから住み慣れた地域を離れざるを得ない事態や,危険を承知で自ら運転することによる事故が生じている.こうした地域は交通空白地と呼ばれ,年々拡大傾向にある(国土交通省,2013).人口減少を背景に今後さらに地方行政の財源が縮小していく見通しにある中,十分な交通手段を地域で確保するためには,自治体だけでなく多様な主体が連携し地域独自の交通サービスを構築する必要がある.
これまでの地方における公共交通への批判として主に以下の3点が指摘されている(国土交通省,2015,若菜・広田,2016).
① 住民目線,利用者目線,地域団体目線を組み込むことの必要性
② 地域の足は行政が用意するものという認識が強く,自分たちで守るという意識が弱い
③ 使い勝手が悪く利用が少ないという悪循環で運営されておりコスト(経営)感覚が乏しい
国家および地方財政の悪化が続く中,このように住民主体の地域経営的視点の必要性や自助意識を醸成することの重要性が指摘されている.一方で,特に山間部において独自の交通サービスを継続的に運用している事例に対する詳細な分析はあまりされていない.これまで地域交通については政策的観点からも議論されている(たとえば竹内(2000)や国土交通省国土交通政策研究所(2016)等)が,主に鉄道やバス,タクシーといった事業者主体の運送を中心としたものが多く,住民がドライバーを担う場合や配車手配を含む運営を地域主体で実施する事例への考究は少ない.特に2006年の道路運送法の改正を機に住民が有償でドライバーを担うことが,条件を満たす一部地域(詳しくは後述)において可能となり,住民主体の交通確保が以前に増して期待されるようになっているが,法改正以降,そうした地域における住民主体の運送に言及した研究は限られている.その中で福本・加藤(2011),福本・加藤(2012)は,住民による運営・運行について組織化過程に存在する障壁と,それを解消し組織化を促し得る方策について検討している.また,若菜・広田(2016)は,岩手県内にて住民主体で運営する事例を対象に分析し,実施に向けたステップを示した上で課題に言及しているが,ガバナンスの観点からの整理は十分でない.
近年,特に土木計画,都市計画,環境政策等の分野の実務と研究において,政策や計画の策定過程として利害を有する多様なステークホルダーによる合意形成が重要視されてきている.本稿では,住民がドライバーを担い,配車オペレーションを地元団体が担うことで交通空白地問題を克服ないし軽減している事例を対象に,各主体がどのように連携体制を形成してきたか,形成過程における課題や要点は何かを,主体間の関係性に注目しながら明らかにする.
本稿では,公共セクター,民間営利セクター,民間非営利セクター(NPOやコミュニティ集団)の3者のガバニング(統治活動)がそれぞれに重なり合っている状態を指すコ・ガバナンスの概念を分析視点として設定し,各主体間の関係性に注目し利害調整や連携体制の形成過程を分析する.
コ・ガバナンス(Co-governance)について,山本(2005)は,複数のアクターによるガバニング(統治活動)がオーバーラップしている状態としている.
国内レベルにおけるガバナンスの様態としては,政府(公共セクター),民間営利セクター(企業),民間非営利セクター(NPOやコミュニティ集団)の3者が想定され,それぞれに重なり合っている状態をコ・ガバナンスとしている(図1).
コ・ガバナンスの概念図
ローカルガバナンスの場合には,ローカル・ガバメント(地方政府),民間企業の(地域貢献としての統治への)参加,民間非営利セクターによるコミュニティ・ガバナンス(NPO,コミュニティ集団)の3つの活動領域が互いに重なる状態を指す.
本稿では,3つの活動領域が重なる互いにオーバーラップしている領域を「コ・ガバナンス領域」と定義した上で,山間部において地方自治体,地元住民および団体,交通事業者の3者が連携し地域の足を確保するための取組みをコ・ガバナンス領域にある活動として位置づけ,地域で持続的な交通サービスを構築・運営する上での課題をコ・ガバナンスの形成における課題と読み換え分析を進めていく.
(2) 調査対象の概要と位置づけ本稿では,自家用有償旅客運送のうち,運営主体が市町村である市町村有償運送に取組む豊岡市における「チクタク」と,運営主体がNPO等の地域団体である公共交通空白地有償運送に取組む京丹後市における「ささえ合い交通」の2事例を扱う1.事例は,市町村有償運送および公共交通空白地有償運送から1つずつ,住民がドライバーを担い,配車オペレーションを地元団体が担うことで交通空白地問題を軽減している事例を選定した.
国土交通省(2013)によれば,交通空白地域の可住面積は36,433 km2(九州に匹敵)であり,年々拡大している.ここでは,バス停から600 m,鉄道駅から1 km圏外を公共交通空白地としているが,交通空白地について明確な定義は定められておらず,地域がそれぞれの実情に合わせて定義し用いている.定量的に判断するために,上記のように鉄道駅やバス停から半径何百メートル以上と範囲を指定している例が多いが,道幅や坂道の勾配など,交通機関の使いやすさを決める要因は多々あるため,地域の実情に合わせた定義が必要となる.そのため,交通空白地とは原則的には路線バスがないか,タクシー営業所外かで位置づけられる.
自家用有償旅客運送制度とは,過疎地域での輸送や福祉輸送といった,地域住民の生活維持に必要な輸送について,それらがバス・タクシー事業によっては提供されない(交通空白地であると認められる)場合に,例外的に市町村やNPO法人等が自家用車を用いて有償で運送できることとする制度で,2006年度に創設された.同制度は,担い手が市町村かNPO等地域団体か,また輸送の目的が地域住民のための日常的な外出支援か身体障害者や要介護者の移送か,により大きく4つに分類される(表1).
対象 担い手 |
地域住民向け | 身障者向け |
---|---|---|
市町村 | 市町村運営有償運送 424件 | 市町村福祉運送 118件 |
NPO等 地域団体 |
公共交通空白地 有償運送 95件 |
福祉有償運送 2,432件 |
資料:国土交通省(2013)より引用
1)件数は2015年3月31日時点.
件数の推移としては,福祉有償運送および公共交通空白地有償運送が増加しているものの,市町村合併の影響もあり,全体としてはほぼ横ばいとなっている.本研究では,地域住民に向けたサービスを扱うため,以下では主に市町村有償運送および公共交通空白地有償運送に関する議論を中心に進めていく.
豊岡市は,兵庫県の北東部に位置する人口82,250人,高齢化率31.6%(総務省統計局(2016))の市である.2005年に1市5町(豊岡市,城崎町,竹野町,日高町,出石町,但東町)が合併して成立した.
2) 市内における交通施策豊岡市内の公共交通施策として,運行形態や種別の異なる4つのバス交通を地域特性や需要に応じて運行しており,地域の足を確保するという課題に対応するために体系的な交通計画を整備していることが特徴としてあげられる(図2).
豊岡市における交通体系のイメージ
利用需要が多く見込める中心市街地については回遊性の確保を目的に循環バスとして「コバス」,ある程度の需要が見込める中心市街地から地域拠点,地域拠点間の移動については路線バスとして「Zバス」,路線バスが対応していないエリアについては市営バスとして「イナカー」,さらにイナカーとして運行するための需要基準に満たない交通空白地については地域の主体的な取組みを市が支援するかたちで地域主体交通として「チクタク」が運行している.Zバスは,兵庫県北部(但馬地域)をエリアとするバス会社である.乗客減少に伴い,2008年10月1日から一部路線が市・町民バスに移管されている.図2内右下の矢印はそれぞれ,イナカーおよびチクタクの運行範囲と両者の接続を意味しており,路線バスもイナカーも対応していないエリアを運行するチクタクは,路線バスが対応していないエリアを運行するイナカーに接続することで,全体として市内の交通需要に応える体制をとっている.
各サービスの運行形態は,車輌の所有者,運行主体,事業主体の点から整理できる(図3).
豊岡市内におけるバス交通の種別
路線バスは交通事業者であるZバスが道路運送法第4条に基づき一般乗合旅客自動車運送事業としてZバスが所有する緑ナンバー車輌で運行している.コバスはもともとZバスの路線を市に移管しているため,運営が市である点を除き車輛やドライバーについてはZバス運行の路線バスと同様である.イナカーおよびチクタクは市町村有償旅客運送事業として同法78条に基づき運行している.相違点は車輌の大きさとドライバーが運送事業者か地元住民か,である.豊岡市ではイナカーとして運行するための需要基準として,通学利用を除く1便あたりの一般利用者数が平均で1人以上という最低基準を設定している.この基準を満たさなければ路線廃止となる.
3) 「チクタク」運行の経緯と実績出石町奥山地域では,上記の市で定める基準を満たさないため,2010年度末でのイナカー廃止が決定した.これを機に当時の区長から移動手段確保の要望が市にあり,2010年11月から翌年3月末までの5ヶ月間のパイロットを経て,代替輸送としてチクタクが運行を開始した.奥山地域への導入を契機に,現在では市内4地域(出石町奥山,出石町小野,但東町資母,但東町合橋)で運行している.運行の時間,停留所の場所,本数は4地域で実情に合わせて異なるが,週に3日曜日を決めて運行しており,デマンド制(前日19時までに予約),ドライバーは地元の有志が担うという点は共通している.利用は地域住民のみに限られており,料金は上限200円/回である.2011年度におけるチクタクの利用者数と市負担額を2010年度におけるイナカーと比較した結果2によると,利用者数が約5倍に増え,市負担額が半分以下になっており,導入による一定の成果が認められている.運行概況は表2のとおりである.
地域 | 地区数 | 人口 (65歳以上) |
導入 時期 |
運転手 人数 |
運行日 | 運行 便数 |
運行 時間 |
利用者数 (年間) |
運行稼働率1) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
奥山 | 4地区 | 218人 (84人) |
2010年 11月 |
10名 | 3日/週 (月水金) |
往路3便 復路4便 |
7:30 –14:56 |
982人 | 95% |
資母 | 5地区 | 343人 (176人) |
2011年 5月 |
22人 | 3日/週 (月火木) |
3往復6便 ×2系統 |
8:15 –15:50 |
292人 | 44% |
ひぼこ (小野) |
4地区 | 1,270人 (362人) |
2011年 7月 |
17名 | 3日/週 (月水金) |
往路3便 復路5便 |
8:15 –17:07 |
1,489人 | 97% |
合橋 | 15地区 | 1,043人 (427人) |
2013年 12月 |
21名 | 3日/週 (月水金) |
2往復4便 ×3系統 |
7:55 –17:44 |
560人 | 78% |
1)運行稼働率は運行可能な便数のうち,実際に運行した本数の割合を示している.
「チクタク」の名称は“地区”の“タクシー”というところに由来しているが,上述したとおり運行形態はバスである.イナカーと比較して高利用率を実現している理由の1つはドアツードアに近いかたちで運行できる点にあると考えられる.
チクタクでは停留所を利用者の自宅の玄関前や行き先であるスーパーや病院の入口等に設定することで,利用者が遠くのバス停まで歩かないといけないという問題を解消している.また,ドライバーは近所の顔見知りの人であることが多く,利用における安心感につながっているのではないかと思われる.こうした利用者目線の運行体制の工夫が利用者数の増加につながっていると考えられる.
5) チクタクの運用における合意形成本稿では,紙幅の都合により奥山地域での合意形成過程に注目する.奥山地域は奥山地区を含む4つの地区からなるエリアである.奥山地区はチクタク導入時11世帯,人口17人,高齢化率88.2%であり,当時の区長であった現運営組織代表のA氏が,地区での公共交通の必要性を強く認識していたため,イナカーの廃止が決定してから市との折衝を開始させた.その過程で地域住民が主体となって運行を実施するのであれば交通確保にあたり支援する方針を市が示したことをきっかけに,地区内での合意形成に動いている.
ここでの合意内容は,地元負担は労力のみということで,有償ボランティアであるドライバーへの運転手当として3,000円/日の報酬,利用受付や運転手手配,必要書類の作成等運行管理業務に対する事務委託料として20,000円/月,その他消耗品費として20,000円/年,また車輌維持費として燃料代,車検代,保険料等を実費相当額として市が運行経費として負担し,運賃収入は市が徴収するという内容である.
奥山地区は谷筋の一番奥手に位置するため,また奥山地区のみの運営では実現性や持続性が困難なことから,病院やスーパーといった目的地に行くまでの途中にある近隣3地区(和屋,榎見,坪口)の協力を得る必要があった.しかしながら,地域主体交通の要望は奥山地区からのみであったため,A氏は事情を説明しに各区長を回り説得にあたった.同様に,ボランティアドライバーの確保についても,対象地区から選出してもらう必要があるため,奥山地域としてまとめるのに苦労したという話だった.
また,利用者である地域住民への周知も,A氏が利用意向に関するアンケート調査の実施や3地区の区長・副区長等に対する事業の説明等に励んだ.その後地域公共交通会議での了承や市町村運営有償登録の認可を経て,半年ののちに運行に至ったという経緯から,A氏がいかに尽力したかが窺い知れる.
6) 他地域への展開について奥山地域での導入を皮切りに,市内で広がりをみせるチクタクの仕組みであるが,導入時から業務に携わる市の担当者の所感では,他地域への展開についてはおすすめしないという消極的な回答だった.理由として責任の所在に関するリスクを挙げていた.事故など走行に関する責任はドライバーにかかるが,運営に関する責任は現行法ではそのエリアを担当する市職員個人に一義的にかかる仕組みでしか運用できず,そのため担当職員の個人負担が大きすぎるという見解であった.運営主体は市であるので責任問題が生じた際の罰金等は最終的には市が負担することになるが,一旦はエリア担当職員が罪に問われ肩代わりするかたちをとるため,他地域に展開する際にもリスクが一人に偏るという点が,導入において懸念材料になるだろうということであった.
(2) 丹後町「ささえ合い交通」 1) 京都府京丹後市京丹後市は,京都府の最北部に位置する人口56,145人(2017年8月末現在,住民基本台帳による),高齢化率35.3%(総務省統計局(2016))である.2004年に,峰山町,大宮町,網野町,丹後町,弥栄町および久美浜町の6町が合併して成立した.
2) 市内における交通施策京丹後市内の公共交通施策としては,運行形態や種別の異なる3つのバス交通を地域特性や需要に応じて運行している.路線バスとして「Tバス」,路線バスが対応していないエリアを定期便・ダイヤ型の「市営バス」,予約運行型の市営バスとして「デマンドバス」が運行している.「市営バス」は,2008年より弥栄町・久美浜町・大宮町,2014年より丹後町にて運行している.「Tバス」は,京都府宮津市・京丹後市・与謝郡など丹後半島周辺地域をエリアとするバス会社である.路線バスのほかに船舶,ケーブルカーおよびリフトを運営している.「デマンドバス」は,2014年7月14日より新たに丹後町にて実証運行を開始した.電話による予約運行で,必要とする区間を運行している.予約受付と運行は丹後町のNPO法人が担っている.これらに加えてデマンドバスの運行を担うNPO法人が地域主体交通として「ささえ合い交通」を運営している(図4).
京丹後市における交通体系のイメージ
京丹後市丹後町で運行している「ささえ合い交通」は,日本初のスマートフォンを使って配車し,自家用車を用いて運行している事例として注目を集めている.このささえ合い交通に加え,デマンドバスの運行を担う「NPO法人 気張る!ふるさと丹後町」の代表であるB氏は,デマンドバスの運行を担う中で,デマンドバスの利用には事前予約が必須であり,乗車できる曜日や地域が限られている等,ドアツードアで即時配車の交通を望む住民からさらなる地域交通の充実を望む声を受け対応策を考えていた.そんな折に,京丹後市およびウーバージャパンから連携の要請があったという.ウーバー(Uber)とは,アメリカ合衆国の企業であるウーバー・テクノロジーズが運営する,自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリで,一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを提供している.この仕組みをベースに丹後町内から京丹後市内のどこにでも,移動したいときにいつでも移動できる交通サービスを導入することで,移動の利便性を高め,持続可能な地域交通の運行を目指すのがささえ合い交通である.2016年5月の運行開始から約1年が過ぎ,人口約5,400人の丹後町内において月に60組以上が利用している.利用者は丹後町住民の他に外国人観光客などで,利用割合は8:2程度である.
4) ささえ合い交通の仕組みと特徴ささえ合い交通は,公共交通空白地有償運送として「NPO法人 気張る!ふるさと丹後町」が主体となり運行している(図5).
事業形態(ささえ合い交通)
運行区域は,降車は京丹後市全体だが,乗車は丹後町のみとなっている.午前8時から午後8時まで年中無休で運行している.車輌は自家用車を使い,即時配車に対応している.ドライバーは住民有志18名が有償ボランティアを担い,運行距離に応じて賃金を得る仕組みである.料金は最初の1.5 kmまで480円,以遠は120円/kmを加算していく方式で,おおむねタクシー料金の半額程度で利用できる.
5) ささえ合い交通の運用における合意形成ささえ合い交通の運用における合意形成過程について,実務を担当した「NPO法人 気張る!ふるさと丹後町」の代表理事を務めるB氏への聞き取り内容を示す.
「(代表のB氏が)NPOを作ったときに一番やりたかったことは,市役所に勤務していた当時,バス路線から離れた住民から何とかしてくれという声が挙がっていたので,ガソリン代が出ればいいくらいの運行ができたらいいなと思っていたが,道路交通法の壁が立ちはだかった.道路交通法に沿って運行しようと思うと専任態勢で行わないと,とてもじゃないけどできそうになくて諦めていた.そうこうしているうちに退職し,専任態勢もとれそうだという状況になったときに,市から「(B氏の)NPOでデマンドバスを走らせてくれないか」という話が出てきた.問題はあったが,やらないよりやる方がいい,ということで交通事業者であるTバスとも話をしながら進めていった.そして活動してから1年過ぎたころに,当時の係長が「ウーバージャパンから公共交通に関することも含めて力になれることがあるかもしれないということで打ち合わせに来るから,出席してもらえないか」と言われ,出席したことをきっかけにウーバーとの関係が始まった.ウーバーと連携を始める際,初期投資はいらず,やるといった以上は1年経って辞めるなんてことはお互い言わずに協力し合っていきましょうと話合い,協力してくれるドライバーも出てきて,最終的にはデマンドバスと助け合い交通の両方の運営をしてくれるかという話になった.不十分さもたくさんあるが,何度も住民説明会を行い,最後まで反対する人はいたが,いいんじゃないかという声があったので始めた.ウーバーも努力する姿勢があったし,デマンドバスのドライバーからは反対の声が大多数だったが,その他の協力者からはやってみたらいいのではという声も出始めた.あとはドライバーが自信をもって運転できるかという点で,ドライバー会議を何度も行い,不安はあるけど,これならできるというところまでいった.当初は何度したかわからないくらい会議をし,2年前の半年間で合意をした.それまでは,デマンドバスをより丹後町の実態に即したものにしようと考えていたので,デマンドバス運行をしていなかったらウーバーとの出会いもなかったし,支え合い交通もなかった」.(聞き取り:2017年9月7日)
市内に唯一残っていたタクシー業者とは,「丹後町は頼んだで.我々ではそんなところまでは無理だ」ということで大義が整っており,紳士協定ができていたという.
また,ウーバーとの連携が大きく取り沙汰されるようになってから,京丹後市内に急遽タクシー営業所が2社入ることとなり,丹後町周辺の地域が公共交通空白地の要件から外れてしまったことについて,B氏は「(交通事業者は)ウーバーというものは(ガン細胞のように従前の交通事業者を脅かす存在として)転移するために活動しているとしか見えていない.せっかく丹後町にもそういうものを作って,みんなが献身的に活動し,ドライバーもボランティア的に活動していることがそんなに憎いのかということになってしまう.白タク行為をしていて,不幸な事故が起こってしまうほうがよっぽどひどい話ではないかと感じる」と憤りを露わにしていた.
交通空白地でのコ・ガバナンスの形成過程を捉える上で,地元住民間での合意形成,地方行政との合意形成,交通事業者との合意形成に分けて整理する.
① 地元住民間での合意形成
チクタクの場合には,奥山地域での合意形成に苦労があったこと,また,ささえ合い交通の場合にも,住民への説明やドライバー間での合意形成に時間をかけたことが語られていた.地元住民が有志でドライバーを担うため,思いに共感する協力者の獲得やドライバーの取組みへの納得感が取組む上で重要になると考えられる.
② 地方行政との合意形成
地方行政との合意形成については,両事例ともスムーズであったように思われる.チクタクの場合は,A氏の要望を受け止めるかたちで市側から提案があり,ささえ合い交通の場合は,B氏が行政OBで公共交通担当に当時の後輩がいたことや,行政の事情に精通していたことなどが要因として考えられる.
③ 交通事業者との合意形成
チクタクの場合,市と交通事業者のあいだで公共交通施策に関する取り決めがすでにあり,その上で市から出された提案なので,地域公共交通会議で了承を得るという手続きをふんではいるものの,新たに議論が必要であったということはない.また,ささえ合い交通の場合は交通事業者とB氏のあいだで直接のやり取りがあり,紳士協定が結ばれていたことが述べられている.京丹後市の場合は,全国のタクシー業界からの反発を受け,地域主体交通を妨害するような動きも見られたが,地元の交通事業者との合意形成に関しては良好であった.
(2) 交通空白地でのコ・ガバナンス形成の要点両市における交通空白地でのコ・ガバナンスの形成において,図1に基づき図解による整理を試みる.
両市において,非営利セクターであり運行主体である地元住民間での合意形成が重要かつ時間を要することは共通している.次に,主体間の連携の強度でいえば,豊岡市の場合では市と地元組織間,また市と交通事業者間における連携が強く,地元組織と交通事業者間の連携については比較的弱い(図6).他方,京丹後市の場合では市と地元組織間,また地元組織と交通事業者間における連携が強く,市と交通事業者間の連携については比較的弱いと整理することができる(図7).このことからコ・ガバナンスの形成において,3者間の連携が同様に強くなくとも,連携体制において孤立する主体を生み出さないことが重要であると推察できる.
豊岡市における主体間の連携体制
京丹後市における主体間の連携体制
交通空白地で地域主体の交通を運営する上で,未実施の地域への導入を見据えたときに克服すべき課題と,それをふまえての展望について考察する.
チクタクの事例で課題となったように,市町村運営有償運送では,市からの委託業務となるので地元組織に経営上のリスクがない反面,責任の所在に関するリスクがつきまとう.一方のNPO等地域団体が担う公共交通空白地有償運送では,経営上のリスクも含めた運営責任を団体で負うため,組織内の合意形成においてより労力が必要となる反面,問題が発生したときに一個人に責任が偏るリスクはない.また,システムの利用に際して初期投資が要らず,ランニングコストについても動きがなければほぼ発生しないため,経営上のリスクはほとんどない.他地域展開を見据えたときには一個人に責任が偏ってしまうというリスクの生じない仕組みが望ましいが,交通空白地の指定をローカルガバナンスのレイヤーのみで完結できない点が共通する課題として残る.
以上をふまえ,合意形成による課題解決の限界性について,すなわち,これまで社会課題の解決においてトップダウンではなくボトムアップの合意形成が重視され,中でも利害関係を有するステークホルダーによる合意形成が理論面でも実務面でも重要視されてきたことは前述のとおりだが,その有用性を認めた上で,同時に手法の持つ限界性について最後に記しておきたい.
京丹後市の事例では,ローカルガバナンスにおいてステークホルダー間での合意形成が十分に図られていたにも関わらず,近隣地域へのタクシー事業者の新たな参入により交通空白地の要件を部分的に外す動きが観測された.営業エリア外へ2社が採算度外視で参入する動きからは,全国的なタクシー業界による反発の姿勢がみてとれる.これは既存システムにおける既得権益からの新たな社会システムへの抵抗と捉えることができる.すなわち,地方の交通空白に関する課題とその解決において,従前の合意形成手法のみでは限界があることを示唆しており,社会構造の転換までを見据えた新たな手法の検討が求められているといえる.こうした課題への対応は今後の研究課題としたい.
本研究は2016年度エディテージ研究費基礎研究グラント,平成29年度農業農村工学会学術基金の助成を受けて実施した.また,本調査の実施にあたり,NPO法人 気張る!ふるさと丹後町および豊岡市交通政策係の皆様には多大な協力を得た.ここに感謝の意を表す.