Journal of Rural Problems
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2018 Volume 54 Issue 2 Pages 60-61

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1. 本書の構成

本書は,近年,急速に作付・利用の増加している水稲の飼料利用(飼料用米,稲発酵粗飼料)の展開構造を,政策,現場の対応,研究動向から整理し,未だ曖昧な状態にある水稲の飼料利用の推進目的や社会的意義について論点提示を試みたものである.540点の技術研究,農法論や農業経営経済研究の引用論文や著書,施策等の丁寧なレビューを行いつつ,水稲の飼料利用について480頁の大著を体系立てて整理された価値ある著書である.

本書の構成と内容は以下の通りである.

第Ⅰ部では,水田利用と畜産の展開過程を整理し(第1章),水稲の飼料利用に関わる既往研究の整理を行い(第2章),分析枠組みを提示する(第3章).ここでは水稲の飼料利用が,多額の助成金とともに行政主導で推進されてきたこと,しかし,その論拠は明確でないこと,研究面においても水稲の飼料利用推進の共通了解のないままに展開されていること(何を守ろうとしているのか,飼料用水稲でなければならないのか等)を指摘し,土地条件に着目した分析視座の必要性を論じている.

そこで第Ⅱ部では,国際比較や国内動向から見た水稲の飼料利用の特質(第4章),水稲の飼料利用の地域性(第5章)を押えた上で,土地条件に着目して水稲の飼料利用の展開を分析する.研究対象は,主食用米生産圃場(第6章),耕作放棄地や不作付水田(第7章),中山間地域(第8章),二毛作地域(第9章),平場から山間谷地田までを含む地域(第10章)であり,東北から九州におよぶ各地の分析を通じて水稲の飼料利用の意義を明らかにしている.

第Ⅲ部では,水稲の飼料利用の展開構造を,「仮初め的性格」と捉えた上で,「水稲の飼料利用をわれわれの社会に活かす」ことに前向きな研究者や行政官等によって取り組まれてきたものとして総括する.

2. 本書へのコメント

水田活用の直接支払交付金は非公共事業を除く農林水産予算の約5分の1を占め,飼料用米とWCS用稲に対する交付金は1千億円を超える規模にある.このため社会的関心は高いが,農業経営経済研究では学術的研究要素に乏しいためか,真正面から取り上げられることはなく,著者の指摘する通り論点も明確にされていない.それでは,水稲の飼料化に関わる論点,著者の表現で言う「共通了解すべき点」は何か.正直なところ著述からこの点が評者には明瞭に伝わってこない.以下,著述内容と私見から水稲の飼料利用にかかわる論点について,コメントする.

まず,「水稲の飼料化」あるいは「水稲の飼料利用をわれわれの社会に活かす」というテーマを設けた時点で,何か大切なものを置き去りにし,共有できる土俵を見失い,議論を狭め複雑にするように思われるのである.水稲の飼料化の議論に入る前に,共通了解の得られている問題を整理する必要があるのではなかろうか.それによって,水稲の飼料利用の意義や是非が明確になると思われる.

今日の日本農業の主たる問題が,①食料生産基盤として農地の保全,②主食用米以外の作物による水田利用,③自給率の低い家畜飼料の国内生産と利用推進にあり,④水田や農地の畜産利用の推進が必要な課題である点について異論はないであろう.

また,農業従事者の高齢化等による離農と担い手経営への農地集積が急速に進行していること,このため,⑤限られた農業労働力でより広い農地管理が必要であること,⑥担い手経営として農業の収益性向上が必要であること,これらを可能にする作目や技術開発,営農構成が必要となっていることも共通認識される課題である.その際,⑦農業問題の解決に最も重要な人材育成,農業経営者の育成につながる作目選択の自由度のあることが重要なことは理解されるであろう.さらに,⑧TPP11に参加国が署名し年内発効の見通しとなる中で,畜産物の生産力強化が急務の課題であることも共通に理解される.⑤~⑧の課題も農業経営経済研究者には共有できる課題であり,社会的にも受け止めるべきものであるが,これらの課題に思いをはせる技術研究者は日本では非常に少ない.

日本農業が抱えるこれら共通了解できる土俵,とくに⑤~⑧の課題に立って,水田の畜産利用を考えると,果たして水稲の飼料利用の推進が問題解決につながるのか疑問と言わざるを得ないであろう.たとえば,主食用水稲に加えて飼料用米やWCS用稲を生産することは,春作業と秋作業のピークが顕著となるため広い水田の管理を困難にし,雇用の安定化もはかり難くなる.所得の多くが補助金に依存し経営者の創意工夫がはかり難い営農となる.牧草や飼料用トウモロコシと比べて作業労働時間が多く単収も低いため,飼料増産や国産飼料の低コスト生産・供給にもつながりにくい.世界一社会的コストの高い畜産物を生産する畜産経営を促すことになりかねないのではないだろうか.

このように現実の農業問題を踏まえると,水稲の飼料化では解決できない点が多く,別の展開方向を考えざるを得ない.著者もこの点は認めており,もともと畑作物の栽培困難な湿田の有効利用対策として始められた水稲の飼料化が,土地条件を無視して,画一的な制度設計のもとで全国一律に行われている点を指摘する.牧草や飼料用トウモロコシの栽培可能な乾田化しやすい水田圃場ではこれらを生産することが,飼料用水稲よりも単収は高く,省力生産が可能であり,飼料価値も高いため,財政の逼迫する中で,政策目標の達成により有効と考えられるのである.しかし,こうした適地,不適地に関する研究は少ない.

以上の点は言うまでもなく産業施策,経営政策の立場である.これに対する水稲の飼料利用推進の論拠は,水田の多面的機能,とりわけ洪水防止機能である.これが高く評価されれば,畑地化は止めて水田そのものを守ることが正義となり,財政依存が高くても,国土保全政策として水田を水田として利用できる飼料用水稲の生産が支持される.

もう1つコメントしたい点は,水稲の飼料利用を飼料用米とWCS用稲と固定的に考えている点である.こうした利用を前提とする限り,畜産経営の発展は望めない.TMR調製し調理や給与作業を省力化し,規模拡大を促そうとする取り組みが各地で行われているが,コストアップは必至であり体質強化につながるか疑問である.評者は否応なしに水稲の飼料利用の研究開発に関わった際,なんとかこれを畜産経営の発展につなげることができないかと考えた末に,行き着いたのが作業労働の5割以上を占める給餌や排せつ物処理の省力化に寄与する放牧利用である.もちろん,牧草の方が栽培経費も少なく放牧利用に向いているが,牧草成長の衰退する晩秋から初冬の放牧飼料として,耐倒伏性を備えた飼料用稲の圃場での立毛貯蔵性を活かして開発した経緯がある.

「水稲の飼料利用」から一歩下がって,現実の水田作営農が抱える内外の共有される問題に立ち戻ることによって,より有効で建設的な水田及び農地の畜産利用に関わる施策や研究が展望できるのではなかろうか.

 
© 2018 The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
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