2022 Volume 58 Issue 2 Pages 67-74
This study aims to reveal elements that encourage non-residents, who are not residents’ family members, to maintain collaboration with residents in rural communities, by focusing on the case of Kumadani, Echizen Town, Fukui Prefecture. Three non-residents were interviewed. Our research revealed that the following elements generate positive emotions in non-residents: Residents or people involved in a community: 1) create an opportunity for non-residents to learn, 2) provide support to expand non-residents’ networks and develop relationships in a community, 3) recognize non-residents individually, 4) create an environment for non-residents to try and exercise their abilities, 5) develop non-residents’ sense of belonging to a community, 6) develop non-residents’ sense of gaining confidence or credibility, and 7) develop non-residents’ independence to be involved in a community. From these elements, 1), 3), 5), and 7) encourage non-residents to maintain collaboration.
人口減少,高齢化に直面する農山村コミュニティでは,地域活動の担い手不足解消が喫緊の課題となっている.一方,内閣府(2014)によれば,20歳代の80%強,30歳代の80%弱が積極的に,または機会があれば農村に行って農作業や環境保全活動,伝統文化の維持活動に協力してみたいと思っている.また,近年では,総務省などによって,地域外から地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」の重要性が言われ,そういった人たちが地域と継続的に関われる施策の展開が重要だとされる.このような背景から,移住・定住をともなわず,地域外から通い,住民と協働する「外部人材」の確保も今後,重要であると考える.
実際,ボランティアやインターンシップ,大学との連携活動,「地域おこし協力隊」など,地域に地縁・血縁のない外部人材を取り込む様々な取り組みが各地で展開されている.そこでは,個々の外部人材の地域との関わりの継続性が常に課題となり,これまでも一定の研究が重ねられてきた.これら外部人材に関する先行研究を整理すると,定住を前提としたものか,継続的な交流を前提としたものかという軸が一つある.前者としては「地域おこし協力隊」や「緑のふるさと協力隊」を対象にした研究がなされる一方(桒原・中島,2014;藤井他,2016など),後者としては,「地域づくりインターン」の他,大学や大学生の地域連携活動を対象とした研究がなされている(西川・成田,2021;川見他,2010;内平・中塚,2014など).
いずれの場合においても,これまでの研究はその活動の実態や課題,そして関わりの促進・継続の要因を解明しようとしているが,外部人材の特性や受け入れ地域との時間距離,活動共有時間,人との出会い,ネットワークなど,所与の条件や制度についての分析がほとんどであり,具体的に,「どのように対応すれば,訪れた人に地域に継続的に関わる気持ちになってもらえるのか」という地元側の素朴な課題に答えようとしたものは見られない.
これに対して,筆者はこれまで地縁・血縁のない訪問者の受け入れに有効とされる要素の抽出を試みたが(小林・筒井,2021),受け入れ側が考えるノウハウをまとめたものであり,実際に訪問者がどのような点に応じて関わりを続け,深めようと考えたのかは明らかに出来ていない.
そこで本研究では,地域と協働関係を持つに至った外部人材を事例として取り上げ,その活動の展開プロセスを住民らの働きかけとの関係性のもとに表出化し,住民らのどのような働きかけが,地縁・血縁のない人たちの定着を促したのかを明らかにすることを目的とした.
なお,本研究での「外部人材」は地縁・血縁がなく,かつ居住地は対象集落外の人とし,また,「協働」を地域内で行われている活動を住民と外部人材が協力して行っている状態とする.
対象とするのは,福井県越前町熊谷区の活動である.対象者は,対象地域にこれまで地域外から関わりを持ってきた人で構成されたSNSグループのメンバー32人(多くは大学のフィールドワークで学生時につながりを持った人たち)の中から,2年以上自らの意思によって通いによる協働活動を継続しており,今後も地域へ関わり続ける意思のある3人を選定した1.
調査にあたっては,2012~2021年の間に住民,地域に関わる関係者らによって撮影・作成された20,650枚の写真,記録資料,本人のSNSから,対象者の地域での行為を特定し,写真を入れた時系列の図を作成した.この図を用いた資料提示型半構造化インタビュー2をオンラインで行った.主な質問項目は,「地域に入るきっかけ」,「地域で何をしてきたのか」,「その時の気持ち」,「その時なぜ地域に行ったのか」,「その時の住民や関係者との関わり」,「地域に関わり続けている理由」である.分析では,聞き取った内容をテキスト化し,対象者の発言の中から,対象者のポジティブな気持ち3とそれに関わる住民や地域外に居住する関係者からの働きかけが確認できる事象を抽出した.つまり例えば,「この時,〇〇という気持ちになった,それは地域の〇〇さんが〇〇と言ってくれたから/〇〇をしてくれたから」という事象の抽出である.そして,抽出した事象を,本人への影響,住民らからの働きかけを軸に分類,それらの関係を考察し,住民らからの重要な働きかけを導き出した.
対象地域である福井県越前町熊谷区は,越前がにや日本六古窯の一つである越前焼の産地として有名な越前町の南西部にあり,農山村に位置する集落である.熊谷区の人口は41人,世帯数は16世帯(2015年国勢調査)である.2012年から京都外国語大学(以下,外大)の教員,有志の学生らによって地域の維持や活性化を目的にフィールドワークが行われている.コロナ禍では現地での活動頻度は低くなっているが,これまで月に1回ほど地域活動や農作業への参加,手伝いなどを行ってきている.外大は地域内の空き家となっていた場所を拠点として活動を展開してきている.ここは「くまカフェ」と名付けられ,2016年4月からはカフェ機能も備えている.
調査対象者は,a氏(30歳代男性),b氏(20歳代女性),c氏(20歳代女性)で2021年6~7月にかけて調査を行った(表1).
性別 | 年齢 | 現居住地 | 調査実施日 | |
---|---|---|---|---|
a氏 | 男性 | 30歳代 | 福井県 | 2021.6 |
b氏 | 女性 | 20歳代 | 島根県 | 2021.6 |
c氏 | 女性 | 20歳代 | 京都府 | 2021.7 |
資料:筆者作成.
a氏は趣味で陶芸をやっており,陶芸に関するイベントで熊谷区のことを知っている地元新聞記者(以下,記者d)と出会った.熊谷区に古い窯跡があるとのことで,2014年春に記者dに誘われ,初めて訪れた.その後,記者dから外大が熊谷区で活動していることや地域外に住む若手農家(以下,農家e)が区内でお米を作っていることなどの情報提供を受け,彼らの活動日に直接会いに行った.そこで外大教員(以下,教員f)が住民の主要メンバーとの仲介をしてくれ,住民の方々と連絡先を交換した.夏にかけて住民と木の伐採作業などを何度か行い,住民と仲良くなっていった.
その後体調不良でしばらく熊谷区に行けていなかったが,2015年4月に約半年ぶりに訪れ,住民と外大生がともに耕作をしている畑の整備作業を手伝う.間が空いてしまい,自分のことを忘れられていると思っていたが,住民の人たちが顔と名前を覚えてくれていてありがたいと感じた.住民や農家eが中心となって行われた生き物観察会や田植えイベント,古窯跡発掘調査報告会などにも農家e,教員fに誘われ,参加している.単なる参加者から次第に運営側としても関わるようになる.親しみのある地域について,歴史,自然,暮らしなど階層的に理解することができ,おもしろいと感じていた.
2016年の秋には,何か形になることを示さなくてはと思い,自らが農学部出身ということもあり,水田畦畔の植生調査を行った.翌年1月には外大生の研究報告会に合わせて,教員fの誘いを受け,植生調査の結果を住民に報告した.「知らなかった」,「驚いた」とa氏の発表に好意的な反応を住民が示し,この頃植物について非常に興味を持ち,大学院でさらに研究したいと思った.その後の田植えイベント,生き物観察会では住民や農家eから講師を依頼された.植生調査をしたことで,田んぼ周辺の雑草の種類を把握しているため,田植えイベントでは周辺でとれる野草を使ってお茶を作り,参加者や住民に振る舞い,好評を得た.2017年1月の植生調査の報告や,これまでの田植えイベントの様子を見て地域の人たちが自分の能力をようやくわかってくれたのかなと,この頃感じている.その他,住民や外大生のワークショップや交流会,田んぼや畑の整備作業,地域行事などにも度々参加している.
地域のイベントや行事などがある際は,住民や関係者から継続的な誘いがあり,「外大の人たち,記者d,農家eがあらかじめ関わりしろをある程度作っておいてくれたことはすごい大きくて,主体的に地域に関わるベースになった,助けられた」と発言する(a-15).さらに,住民の方とは,活動ベースの関係から,ご近所さんや顔なじみのような関係になってきていると感じている.地域に関わり続けている理由として,「熊谷の自然,風土,歴史,住んでいる人の暮らし,人となりを見させてもらって,階層的に理解が積み上がって,更に深い理解をしたいという知的好奇心みたいなものが働いている」と発言する.表2は,a氏の行為,気持ち,住民らからの働きかけの関係がわかるようにまとめたものである.
時期 | 番号 | a氏の地域での行為 | 気持ち | 住民からの働きかけ | 関係者からの働きかけ |
---|---|---|---|---|---|
2014.6 | a-1 | 農家e,教員fと出会う | 勉強なり刺激なりがあるだろう | 情報提供する | |
a-2 | 住民の主要メンバーと出会う | 仲介する | |||
2014.夏 | a-3 | 木の伐採作業をする | 住民と仲良くなってきた | 誘う | |
2015.4 | a-4 | 畑整備作業をする | 覚えてくれていて,ありがたい | 顔と名前を覚えている | |
2015.8 | a-5 | 生き物観察会・古窯跡発掘調査報告会などに参加する | 親しみのある地域のことを知るのはおもしろい | 誘う | |
2015.9 | a-6 | 交流会に参加する | 住民や外大の人と仲良くなり,情報交換をして相手への理解を深めることで,今後の活動にいかしたい | 誘う | |
2016.5 | a-7 | 田植えイベントに参加する | 田んぼ仕事が好きなので,おもしろい | 誘う | |
a-8 | 農学部出身としてできることはしたい | ||||
2017.1 | a-9 | 住民に植生調査結果を報告する | 植物に興味を持ち,大学院で研究したい | 誘う | |
a-10 | 好意的な反応を示す | ||||
2017.4 | a-11 | ワークショップに参加する | 異なる視点を知ることで地域の捉え方に厚みが増し,おもしろい | 誘う | |
2017.6 | a-12 | 田植えイベント講師・運営補助をする(野草茶を作ってふるまう) | 自分の能力をようやくわかってもらえた | 依頼する | |
a-13 | 好評価する | 好評価する | |||
a-14 | 生き物観察会講師,蛍鑑賞会運営補助をする | 依頼する |
資料:インタビュー,写真・資料より,筆者作成.
1)先に,働きかけと関連づけられたポジティブな気持ちを抽出し,その時期,地域での行為,をまとめている.
b氏は2013年4月に外大生として,教員fの授業で紹介があった,越前町の他の地区でのフィールドワークに1度参加したことがあり,その時楽しかった思い出がある.その後休学をして,しばらく越前町でのフィールドワークには参加していなかったが,復学をし,最終学年を迎えた2016年の春にゼミの担当教員であるfに熊谷区でのフィールドワークの現状などを聞き,「行ってみたら?」と声をかけてもらった.2016年4月にくまカフェオープン記念式典に参加し,地域散策もし,そこから熊谷区との関わりが始まる.5月には住民と学生でワークショップを行い,参加した.この時,学生の世話を中心的に行っている住民がb氏を下の名前で呼び,他の住民たちへ紹介した.
7~9月中旬の夏休みの間は,他の学生と一緒に活動をすることもあったが,福井県内で住み込みバイトをしながら,週に1回ほど個人で熊谷区に通っていた.この頃行われた学生と住民の交流会では,住民の前で自己紹介をする機会を教員fに提供してもらったり,住民に話しかけてもらったりし,これで顔が広がれば動きやすくなるだろうと感じていた.加えて,今関わっている熊谷区の炭焼きをテーマに卒論を書く提案をもらい,炭焼き作業を手伝いながら,卒論調査も兼ねることにした.また,住民の中で藁でかごを編む方法を教えてくれる人がおり,興味を持ってその作業をするためにも通っていた.10月には卒論アンケートの配布と回収を行いたく,一人だと各戸のことがわからないが,学生の世話を中心的に行っている住民が一軒一軒の配布に付き添ってくれ,スムーズに進めることができた.また,「がんばってね」と住民から声をかけてもらうこともあった.
2017年3月に外大を卒業してからも,外大生の活動に合わせて行ったり,住民に連絡をして,個人で行ったりしている.現役の外大生から若い発想をもらえることも行く理由となっていると言う.学生の間は教員fから活動連絡があり,卒業後には外大関係者などから活動の情報が届く.卒業しても住民はb氏のことを覚えてくれていて,今までと変わらず自然体で接する.その他,里山・畑整備作業,炭焼き,地域行事などに度々参加している.
地域に行き始めたころは気分が落ち込んでいた時期で,継続的に外大関係者から活動の誘いや活動情報の連絡をもらい,地域に行けば自分が必要とされていると感じてきた(b-14).そして,卒業しても関わることで,卒論調査などこれまで関わってもらってきた恩返しになるのかなとも思っている.さらに,熊谷区と関わる中で,次第に田舎暮らしがしたいという気持ちも強くなっていき,田舎暮らしについて知るためにも通っている.加えて,住民がおすそわけをくれたり,「また来たね~」などと声をかけてくれたりし,自分が当たり前に来るものとして,無理なく自然体で接してくれたことがうれしいと感じている.地域に関わり続けている理由として,「学生の中の一人じゃなくて,一人の人間として認識されているっていうのがあった」と発言する.表3は,b氏の行為,気持ち,住民らからの働きかけの関係がわかるようにまとめたものである.
時期 | 番号 | b氏の地域での行為 | 気持ち | 住民からの働きかけ | 関係者からの働きかけ |
---|---|---|---|---|---|
2016.5 | b-1 | ワークショップに参加する | 住民が持っている地域に関する情報や意見を知れて,楽しい | 誘う | |
b-2 | 学生の中の一人ではなく,一人の人間として認識されている | 下の名前で呼ぶ | |||
2016.6 | b-3 | 里山整備作業をする | 林業をしていなくても,当たり前に木の伐採をするといった住民の生活の知恵を見ているのが楽しい | ありのままの姿を見せる | |
2016.7-8 | b-4 | 交流会に参加する | これで顔が広がれば動きやすくなるだろう | 自己紹介の機会を提供する | |
b-5 | 話しかける | ||||
b-6 | 炭焼きを手伝う(卒論調査も兼ねる) | 元々参加するつもりだったが,卒論のためにも頻繁に行き来したい | 卒論調査実施の提案をする | ||
b-7 | 地域に馴染んでいる | ご飯に連れて行く | |||
b-8 | 藁でかごを編む | かごを編むことに興味を持ち,そのためにも通いたい | 道具を作る | ||
b-9 | 教える | ||||
2016.9 | b-10 | シャクナゲを植樹する | 作業はしんどいが,後に住民とゆっくりできるひと時があるから頑張れる | 作業後に手作りおやつを提供する | |
2016.10 | b-11 | 卒論アンケートの配布・回収をする | 一人だと各戸のことがわからないが,住民が付き添ってくれたおかげで,スムーズにいった | 付き添う | |
2017.4 | b-12 | 里山整備作業,外大バスツアーで案内をする | 若い人の発想ももらえるから行っている | 発想を提供する | |
b-13 | 自分が当たり前に来るものとして,自然体で接してくれてうれしい | 今までと変わらず自然体で接する |
資料:インタビュー,写真・資料より,筆者作成.
1)先に,働きかけと関連づけられたポジティブな気持ちを抽出し,その時期,地域での行為,をまとめている.
c氏は現在現役の外大生で,教員fの授業の一環で2018年4月に初めて熊谷区を訪れ,地域見学などを行った.その授業自体は日帰りだったが,希望者は1泊して次の日も地域活動に参加してもよいとのことで,他の学生より抜きん出ていたいという気持ちがあり,積極的に2日目も参加した.8月には,教員fの授業やゼミの受講生たち向けの合宿(主に地域活動への参加や手伝い)が行われ,参加は任意であったが,積極的に参加した.5日間の期間中,他の学生が途中で帰ってしまったことにより,後半は学生がc氏一人になった.その際,地域の人がよく話しかけてくれたり,農家eが観光に連れて行ってくれたりし,祖父母の家に来ているような感覚で,地域に馴染めてきたと感じた.また,何人かに顔を覚えてもらい,やっと認識されたかなと感じた.
9月には,畑の整備作業などを行った.教員fに先輩リーダーと一緒に活動のリーダーをするよう促され,同級生の中では自分が一番活動に参加し,現地について知っていることもあり,リーダー意識が芽生え,自信を感じていた.10月には地域の秋祭りに参加した.住民からプログラムの一枠を提供してもらい,外国にまつわるクイズ大会をc氏らが中心となって,企画・実施した.司会者に外国語で挨拶をするよう振られたこともあり,これまではまちおこしをする学生として関わっていた雰囲気だったが,この時は外国語大学の学生であることを感じてもらえた雰囲気で,今までにない経験だったと言う.2019年7~8月には,前年と同様に合宿が行われ,参加した.この頃から,先輩リーダーが参加しなくなり,教員fにその代わりとしてのリーダーをするように言われ出した.次第に頼られる頻度が高くなり,頼られることで,信頼されていると思い,うれしく感じていた.
2020年1月には,熊谷区で新年を迎え,区の寄り合いに参加した.この時に,寡黙な人だと思っていた住民の方から下の名前で呼んでもらえ,仲良くなり,うれしいと感じた.「名前を覚えてもらっているっていうのが信頼されている証なのかなって思います」と発言する.この時期には,住民の方から顔を覚えてもらっていて,声をかけてもびっくりされることなく,自然に話すことができ,仲良くなって楽しいと感じた.この他,交流会,炭焼き,畑・里山整備,イベントの手伝いなど外大としての活動に度々参加する他,プライベートでも訪れている.
住民や教員fとの雑談の中で,これまでの外大の活動の経過や自分たちがやっている活動の意義などを教えてもらうことがあり,「(それを)知れたことによって,楽しさを見出した」,「(それが)活動に参加するモチベーションになった」と発言する(c-15).また,後輩ができていくにつれて,リーダーとして,どうしたら他の学生にも継続して活動に参加しようと思えるモチベーションを持ってもらえるのかを考えており,「自分の考えを実践できる場として活動を続けています」とも発言する.地域に関わり続けている理由について,「現地に馴染んでいく感覚がすごい心地いいから行っている」,「自分が地域でやってる活動の背景とか意義を教えてもらって,理解して,それが活動のモチベーションになった,それが続けてきた理由」と発言する.表4は,c氏の行為,気持ち,住民らからの働きかけの関係がわかるようにまとめたものである.
時期 | 番号 | c氏の地域での行為 | 気持ち | 住民からの働きかけ | 関係者からの働きかけ |
---|---|---|---|---|---|
2018.8 | c-1 | 合宿に参加する | 祖父母の家に来ているようで,地域に馴染めてきた | たくさん話しかける | |
c-2 | 観光に連れて行く | ||||
c-3 | 何人かの住民にやっと認識された | 顔を覚える | |||
2018.9 | c-4 | 里山・畑整備作業などを行う | リーダー意識が芽生え,自信が持てた | 先輩とリーダーをするよう促す | |
2018.10 | c-5 | 秋祭りに参加する(外国にまつわるクイズ大会を企画・実施) | 自分たちが外大生であることを感じてもらえた | プログラムの一枠を提供する | |
c-6 | 外国語で挨拶をするように振る | ||||
c-7 | 微笑ましく見る | ||||
2019.7-8 | c-8 | 合宿に参加する | 信頼されていると思い,うれしい | リーダーをするよう促す | |
2019.9 | c-9 | 畑整備作業をする | 頼る頻度が高くなる | ||
2020.1 | c-10 | 寄り合いに参加する | 名前を呼んでもらえてうれしい | 下の名前で呼ぶ | |
c-11 | 信頼されている | ||||
c-12 | 住民と壁がなくなり,仲良くなって楽しい | 自然に話す | |||
2021 | c-13 | オンラインミーティングに参加する | 話の中で自分の名前が出てきてうれしい | 話の中で名前を出す | |
c-14 | 信頼されている |
資料:インタビュー,写真・資料より,筆者作成.
1)先に,働きかけと関連づけられたポジティブな気持ちを抽出し,その時期,地域での行為,をまとめている.
表5は,表2~4,4節文中に示す,a氏,b氏,c氏の事象を,本人への影響,住民らからの働きかけを軸に分類したものである.以下,表5を参考に,本人への影響と住民らからの働きかけの関係を考察し,住民らからの重要な働きかけを導き出していく.
事象の番号 | 本人への影響 | 住民らからの働きかけ | |
---|---|---|---|
小項目 | 大項目 | ||
a-1,a-2,a-5,a-6,a-11,b-1 | 学びになる | イベント・人が集まる場に誘導する | 学びの場の提供 |
b-12 | 発想を提供する | ||
b-3 | ありのままの姿を見せる | ||
a-3,a-6 | 地域での人脈が広がる,住民らと関係が深まる | 作業・交流の場に誘う | 地域での人脈拡大・関係深化のサポート |
b-4 | 本人を住民に周知する機会を提供する | ||
b-5,c-12 | 話しかける,自然に話す | ||
a-4,c-3 | 自分の存在が認知されていることを実感する | 顔や名前を覚える | 個としての認知 |
b-2,c-10 | 名前を呼ぶ | ||
c-13 | 名前を話に出す | ||
a-7,a-8,a-9,a-12,a-14,c-5,c-6 | 自身の能力を試行・発揮・周知できる | 本人の能力を試行・発揮・披露できる場を提供する・場に誘う | 本人の能力を試行・発揮・周知できる環境づくり |
a-10,a-13,c-7 | 本人の能力を試行・発揮・披露できる場で好意的な反応を示す | ||
b-6,b-8,b-9,b-11 | 地域でやりたいことへの助言・協力をする | ||
b-7,c-2 | 地域との親和感情を抱く | 観光・ご飯に連れて行く | 地域との親和感情の醸成 |
b-10 | 地域での作業に対して労う | ||
b-13 | 自然体で接する | ||
c-1 | 話しかける | ||
c-4,c-8,c-9 | 自信や信頼獲得感を得る | リーダーとして頼る | 自信や信頼獲得感の醸成 |
c-11 | 名前を呼ぶ | ||
c-14 | 名前を話に出す | ||
a-15 | 地域に関わる主体性が生まれる,自己有用感を抱く | 関わりしろを継続的に提供する | 地域に関わる主体性の醸成 |
b-14 | 活動の継続的な情報提供をする,継続的に活動に誘う | ||
c-15 | 本人がやっている活動の意義を提示する |
資料:筆者作成.
1)事象の番号は,表2~4,4節文中の番号に対応している.
まず,住民らがイベント・人が集まる場へ誘導(仲介,誘い,情報提供)したり,発想を提供したり,暮らしのありのままの姿を見せたりすることが,本人には地域,住民,地域に関わる人たちについての知識を得たり,情報交換ができたりするといった,学びの機会となっている.これらの働きかけを「学びの場の提供」とまとめた.次に,住民らが作業・交流の場に誘ったり,本人を住民に周知する機会を提供したり,話しかけたり,自然に話したりすることによって,本人の地域での人脈が広がるとともに,住民らとの関係が深まっていく.また,地域での動きやすさにもつながる.これらを「地域での人脈拡大・関係深化のサポート」とした.
また,住民らが顔や名前を覚えたり,名前を呼んだり,名前を話に出したりすることは,本人に自分の存在が地域で認知されていることを実感させる.これらを「個としての認知」とした.さらに,住民らが本人の能力を試行・発揮・披露できる場を提供したり,その場に誘ったりすること,そういった場で好意的な反応を示すこと,地域で本人がやりたいことへの助言・協力をすることによって,本人は地域で自身の能力を試行・発揮・周知できる.これらの働きかけを「本人の能力を試行・発揮・周知できる環境づくり」とした.
加えて,住民らが観光・ご飯に連れて行くこと,地域での作業に対して労うこと,自然体で接すること,話しかけることによって,本人は地域に馴染めている感覚を持ち,地域との親和感情を抱くことにつながる.これらを「地域との親和感情の醸成」とした.そして,住民らがリーダーとして頼ったり,名前を呼んだり,名前を話に出すことによって,本人が自信や信頼獲得感を得ることにつながる.これらを「自信や信頼獲得感の醸成」とした.最後に,住民らが関わりしろを継続的に提供したり,地域での活動について継続的な情報提供をしたり,継続的に誘ったり,本人がやっている活動の意義を提示したりすることで,本人の中で地域に関わる主体性が生まれたり,自分が必要とされているといった自己有用感を抱いたりする.これらの働きかけを「地域に関わる主体性の醸成」とまとめた.
以上の働きかけが継続的な協働を行う外部人材のポジティブな気持ちを生み出していることが明らかとなった.その中でも,4節で示した地域に関わり続けている理由についての対象者の発言から,a氏には「学びの場の提供」,b氏には「個としての認知」,c氏には「地域との親和感情の醸成」,「地域に関わる主体性の醸成」が継続的な協働を促す重要な働きかけであったと言える.
そして,本事例では,住民からの働きかけの他に,地域外に居住する関係者からの働きかけもあり,住民以外の主体も補完的役割を果たすことが重要であることも示唆された.
本研究では,資料提示型半構造化インタビューを用い,地域と地縁・血縁のない外部人材の通いによる継続的な協働のプロセスを紐解き,住民らの働きかけに着目して考察を行った.その結果,「学びの場の提供」,「地域での人脈拡大・関係深化のサポート」,「個としての認知」,「本人の能力を試行・発揮・周知できる環境づくり」,「地域との親和感情の醸成」,「自信や信頼獲得感の醸成」,「地域に関わる主体性の醸成」が継続的な協働を行う外部人材のポジティブな気持ちを生み出す働きかけであることが明らかとなった.さらに,その中で,「学びの場の提供」,「個としての認知」,「地域との親和感情の醸成」,「地域に関わる主体性の醸成」が継続的な協働を促す重要な働きかけとなっていた.
これらは個人の考え方や属性が影響するものであるが,30歳代の一般の訪問者,学生として訪問し卒業後も関わる20歳代の社会人,現役学生といった,比較的若い世代の対象者から導かれたものとして,限定的であるが,協働を促す要素として活用されることが望まれる.なお,b,c氏両者について,参加は任意であるものの,大学の活動として地域へ通ってきた経過があり,活動を主導・継続している教員fの存在も重要となっていたことは追記しておきたい.
本研究では,外部人材のパーソナリティや住民への働きかけについては捉えられておらず,これらは今後の課題としたい.
注