アジア動向年報
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主要トピックス
アメリカとアジア アメリカの影響力後退と中国の台頭
村田 晃嗣
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2011 年 2011 巻 p. 9-16

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概況

2010年には,アジアで中国の影響力拡大が一層顕著になり,朝鮮半島で危機が相次いだ。後者については,アメリカは韓国との同盟関係を強化することで対応したが,前者については,アメリカ経済の低迷や内政の混乱,さらに日米関係の動揺もあって,十分に対応できなかった。

11月の中間選挙での民主党の大敗によって,バラク・オバマ大統領の権力基盤は一層脆弱になった。今後のアメリカ政治は,2012年の大統領選挙に向けて進んでいく。内政と経済の再建にあたりながら,米中関係を安定させ,日米関係を改善しながら,アジア太平洋地域での多国間協力の枠組みを有効に活用できるかどうか。これらにアメリカのアジア政策の今後の成否がかかっていよう。

日米関係

2010年1月19日に,現行の日米安全保障条約は改定署名50周年を迎えた。両国政府は,日米同盟がアジア太平洋地域の平和・安定の維持に「不可欠な役割」を果たしており,安全保障協力深化のための対話を強化する,との共同声明を発表した。オバマ大統領も,「日本の安全保障に対するアメリカの関与は揺るがない」と表明した。

しかし,日米関係は混迷をきわめていた。1月16日には,8年にわたる海上自衛隊のインド洋での給油活動が終了した。さらに,米軍普天間基地の移設問題では,一向に展望の見えない状況が続いていた。

1月29日の所信表明演説で,鳩山由紀夫首相は「5月末までに具体的な移設先を決定する」と改めて約束し,安保改定50周年に際して「重層的な同盟関係へ深化・発展させる」と宣言した。しかし,これに先立つ24日には,沖縄県名護市長選挙で,基地受け入れ反対派で新人の稲嶺進・前市教育長が,自民党と公明党の支援を受けた基地受け入れ容認派の現職を破って当選を果たした。稲嶺新市長は,「辺野古の海に基地を造らせないと約束した。信念を貫く」,「鳩山首相には『基地の沖縄県内でのたらい回しはやめてください』と言いたい」と語った。名護市辺野古に普天間基地施設を移設するという2006年の日米合意の実現は,きわめて困難になった。

こうしたなかで,4月にはワシントンに,オバマ大統領の呼びかけで47カ国の代表が集まって核安全保障サミットが開催された。核テロは国際的な安全保障に対するもっとも重大な脅威のひとつであり,4年以内に管理の不備な核物質の防護を徹底管理することなどが共同声明で謳われた。しかし,朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核問題や中国の核軍縮の必要性についての言及はなかった。また,日本側が希望したとされる日米首脳会談は実現せず,夕食会でのわずか10分の非公式会談となった。席上,鳩山首相はオバマ大統領に,「5月末までに決着させる」,「日米同盟はたいへん大事だ。その考え方のなかで普天間問題を努力している最中だ」と述べた。

鳩山首相は,沖縄県外移設の「腹案」として徳之島を想定していたが,4月にはこれも地元の強い反対で頓挫した。5月には,鳩山首相が沖縄を訪問して「県内移設」,「辺野古移設」を表明するに至り,東京での日米外相会談,ワシントンでの日米防衛相会談で協議の末,日米の外務・防衛担当閣僚が「辺野古移設」で合意,共同声明を発表した。後述のように,朝鮮半島情勢が緊迫化したことが,迷走する鳩山首相とっては「助け舟」となった。

ところが,6月には当の鳩山首相が退陣して菅直人内閣が成立した。6月のカナダ・トロントでの主要国首脳会議(G8)で,菅首相とオバマ大統領は初の首脳会談に臨んだ。両首脳は,日米同盟がアジア太平洋地域の平和と繁栄の礎との認識で一致し,後述の韓国哨戒艦沈没事件で,日米韓が連携して取り組むことを確認した。また,菅首相は普天間基地移設問題を,5月の日米合意にもとづいて「実現に向けて真剣に取り組みたい」と着実に履行する考えを伝えた。しかし,7月の参議院選挙で民主党が大敗したため,菅内閣の政権基盤もきわめて不安定になった。アメリカとしても,普天間問題をめぐって日本政府に強いリーダーシップを期待できなくなっていた。

9月には菅首相が国連総会出席のためにニューヨークを訪問し,オバマ大統領と会談した。ここでは,普天間基地移設問題は5月の日米合意を踏まえて推進することが確認されて,オバマ大統領は「日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安定に重要」と改めて表明した。対中関係では,「互いに注視し,日米間で緊密に連携をとっていく」ことで,両首脳の意見は一致した。尖閣諸島をめぐる日中の衝突事件についても意見交換されたという。この間に,アメリカ国防省報道官は,米軍の垂直離着陸機MV22オスプレイを,在日米軍基地に配備すると明言した。

11月に横浜で開かれたAPEC首脳会議出席のため,オバマ大統領が来日し,菅首相と会談した。両首脳は日米同盟の深化を再確認し,2011年春に首相の訪米を実現し,安全保障共同声明を発出することで合意した。また,日中関係の緊張を念頭に,オバマ大統領は「(中国が)国際社会の一員として,適切な言動を取り,責任を果たすことが大切だ」とけん制した。環太平洋戦略的連携協定(TPP)については,菅首相が「アメリカとも情報収集を含めて協議する」と述べ,オバマ大統領もこれを歓迎した。懸案の普天間基地移設問題に関しては,「5月の日米合意をベースに沖縄県知事選挙後に最大限の努力をしたい」と言及した。

11月4日の中間選挙での大敗で,オバマ大統領の国内政治基盤が脆弱になった。日本側も国内政治基盤が脆弱なうえに,中国やロシアとの摩擦を抱えるようになった。両者とも日米の蜜月を演出する必要があったのである。

11月末の沖縄県知事選挙では,現職の仲井間弘多知事が再選された。だが,仲井間知事もすでに県内移設に慎重な姿勢を示しており,この問題はさらに難航が予想される。しかし,普天間基地移設問題は,単に日米関係だけではなく,米軍のアジア太平洋戦力全体にかかわる問題である。早期の解決が求められる。

また,中国の台頭や朝鮮半島の緊張激化を受けて,日米協力は一層重要になってきた。12月に,日本政府は翌年度以降の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)の総額を今後5年間は現行水準(2010年度で1881億円)に維持することで合意し,11年連続の減少傾向に歯止めをかけた。また,同月3~10日には,陸海空自衛隊と米軍による日米共同統合演習が,過去最大の計4万5000人が参加して,日本全国の基地や周辺海域で実施された。日本海では弾道ミサイル対処訓練も行われた。また,今回初めて韓国軍幹部4人が演習を視察し,日米韓の連携を示した。

なお,3月には外務省の有識者委員会(座長・北岡伸一東京大学教授)が,日米両国政府の4つの外交「密約」を検証する報告書を岡田外相に提出した。日米安全保障条約改定時の核持ち込み問題,朝鮮半島有事の際の戦闘行動,沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりについては,「密約」と判断された。それらは日米関係のなかで,安全保障上の必要性と民主主義的な透明性をどうバランスさせるか,有事の際の日米同盟の信頼性をどう維持するのかなど,今後の重要な課題を含んでいる。

米中関係

アメリカでは,2009年に論じられた米中G2論(二極体制論)は急速に退潮した。

2010年1月末に,オバマ政権は台湾向けの総額64億ドルの武器売却を決定した。このなかには,地対空誘導弾パトリオット(PAC3)や多目的ヘリコプターUH60ブラックホークなどがあったが,台湾の希望したF16戦闘機は含まれなかった。それでも,中国外務省は「強烈な憤慨」を表明し,米中の軍事交流の停止と,報復措置として台湾への武器輸出に関与したアメリカ企業に制裁を科すと発表した。

これと時を同じくして,中国当局はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の特使と北京で非公式の対話を再開した。2月には,オバマ大統領もダライ・ラマ14世とホワイトハウスで会談し,中国におけるチベットの宗教や文化,人権の擁護を「強く支持する」と述べるとともに,中国との非公式対話の再開を歓迎した。両者は「建設的,協調的な米中関係の重要性で合意した」という。オバマ大統領はまた,中国が「超大国を目指すのなら,開かれた社会であるべきだ」と語った。この会談は,アメリカ国内の人権派の批判をかわす狙いがあったとみられる。

中国での表現の自由の制限も米中関係の争点になった。1月にワシントンで,クリントン国務長官は「インターネットの自由」について演説し,「政治的な検閲」を批判した。3月には,インターネット検索最大手グーグルが,中国本土でのネット検索サービスから撤退すると発表した。ドメイン名取得サービス最大手のゴーダディ社も,中国ドメイン「.cn」の新規取得サービスを取りやめた。いずれも,中国当局による監視の強化に反発したものである。アメリカ国務省による2009年の『人権報告書』も,中国について,インターネット規制など情報統制を通じた人権弾圧の拡大を警告した。

5月24~25日には,北京で2度目の米中戦略・経済対話が行われた。3月に起きた韓国哨戒艦沈没事件の対応をめぐって,米中で緊密な協議を継続することで一致し,中国の天然ガス開発にアメリカが協力することも決まった。クリントン国務長官によると,中国がイランの原油輸入に依存する度合いを低下させる効果も期待されている。

6月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議の直前に,中国は人民元相場の弾力化を発表した。しかし,7月にアメリカ財務省が議会に提出した半年に1回の外国為替報告書で,ガイトナー財務長官は中国を「為替操作国」に指定することは見送ったものの,人民元は「依然として過小評価されている」として,「今後も引き続き人民元相場の動きを注意深く監視していく」方針を強調した。

9月には,国連総会出席のため中国の温家宝首相がニューヨークを訪問し,オバマ大統領と会談した。オバマ大統領は人民元問題について,「今後数カ月の間に,より迅速で相当な切り上げを期待する」,「もし中国が行動しない場合,アメリカの利益を守るための手段がある」と,世界貿易機関(WTO)への提訴などを含む対抗手段にも言及して警告した。また,南シナ海での中国の海洋進出について,オバマ大統領は航海の自由の重要性を強調して中国をけん制した。

10月19日の『ニューヨーク・タイムズ』紙は,中国がハイテク製品の製造に不可欠なレアアース(希土類)の輸出停止措置を,日本のみならず欧米諸国にも拡大したと報じた。アメリカ通商代表部(USTR)は,これが事実ならWTO協定違反の疑いもあるとして調査を始めた。レアアースはかつてアメリカでも生産されていたが,人件費の高騰や環境汚染などの問題から生産量が縮小している。

アメリカ議会の超党派による対中政策諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」は,11月17日に2010年度報告書を発表した。まず,安全保障面では,同報告書は中国の海空軍力の近代化を警戒し,在日米軍基地などへのミサイルによる「攻撃能力を現段階で保持する」と指摘した。中国の国防予算も増額を続けるなかで,こうした懸念は米軍部にも共有されている。経済面では,同報告書は中国の人民元問題を「為替操作」と認定し,南シナ海での動きを「アメリカの国益への潜在的脅威」,レアアース問題では「世界経済への懸念を引き起こした」と指摘した。

このように,中国が世界的な存在感を強めるなかで,米中関係の強化が求められるが,人権,貿易,安全保障など,個別の領域で両国は深刻な対立や摩擦の種を抱えている。

朝鮮半島

2010年は朝鮮戦争勃発の60周年にあたった。年初に北朝鮮は,休戦協定を平和協定に転換する会談を「早期に始めることを休戦協定の各当事国に提起する」としたうえで,6カ国協議復帰にも言及した。1月4日には,韓国の李明博大統領も「南北間の日常的な対話のための機構」を準備する必要があると述べた。

しかし,3月26日に朝鮮半島西岸の北方限界線(NLL)付近で,警戒中の韓国海軍の哨戒艦「天安」(1200トン級)が沈没し,乗組員46人が死亡する事件が発生した。その後の調査で,北朝鮮の魚雷による外部爆発の疑いがもたれた。李大統領は事件を北朝鮮による「軍事的挑発」と断定し,北朝鮮に対する制裁措置を発表した。これに対して,北朝鮮は沈没への関与を「捏造」として猛反発した。

こうした朝鮮半島情勢の緊張のなかで,アメリカのクリントン国務長官は5月末に訪韓し,強固な米韓同盟を強調した。同長官は「北朝鮮の好戦性と挑発行為を見過ごしにできない」,「アメリカは追加的な措置を検討して北朝鮮と指導者の責任を問う」と語った。オバマ大統領も北朝鮮に対する現行の政策を見直すよう,各省庁に指示した。これによって新たな金融制裁の発動などが検討対象となった。

6月末にカナダ・トロントで,オバマ大統領と李大統領は米韓首脳会談に臨んだ。朝鮮半島での緊張を背景に,有事の際に軍の作戦を指揮する「戦時作戦統制権」を米韓連合司令官(在韓米軍司令官)から韓国軍へ移管する時期を,当初の2012年4月から2015年12月に延期することで両首脳は合意した。会談後,オバマ大統領は「米韓同盟は太平洋地域の安全保障の要」と表明した。これは従来,日米同盟に対して用いられてきた重い表現である。両首脳はまた,米韓自由貿易協定(FTA)交渉について,牛肉と自動車をめぐる非関税障壁などの対立点を11月までに解消することでも合意した。

その後,韓国政府主導による哨戒艦沈没事件に関する国際調査団の調査結果を踏まえて,米韓と日本は国連安保理でも北朝鮮を名指しする強い非難を求めた。だが,中国の反対などで北朝鮮への名指し非難は回避され,「重大な憂慮」が表明されるにとどまった。

7月21日には,ソウルで米韓外務・国防担当閣僚会議(2プラス2)が開催され,クリントン国務長官とゲーツ国防長官ら米韓4閣僚がそろって,南北軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)を訪問した。両長官がともにDMZを訪問するのは初めてで,北朝鮮に対する警告を狙ったものである。

一方,米朝関係では,8月25日にジミー・カーター元大統領が訪朝して,不法入国罪で服役していたアメリカ人男性をともない27日に帰国した。アメリカ政府は「私的な人道活動」と位置づけているが,北朝鮮側には米朝関係改善の糸口にしたい意図があったとみられる。

ところが,事態は再び急変した。11月23日にNLLに近い延坪島に向け,北朝鮮が海岸から断続的に170発もの砲撃を行い,韓国軍兵士2人と民間人2人が死亡,19人が負傷した。この砲撃は,北朝鮮による「瀬戸際戦術」の一環とみられる。この事件を受け,アメリカは空母「ジョージ・ワシントン」を黄海に投入し,4日間にわたる米韓合同演習を展開した。動員された兵力は7300人という大規模なものであった。

この間,北朝鮮による核開発の動きも進展していた。11月2~6日に北朝鮮を訪問したアメリカのプリチャード元朝鮮半島平和担当特使は,同国側から「寧辺に軽水炉を建設中」との説明を受けたという。また,ヘッカー・スタンフォード大学教授も,北朝鮮で秘密裏にウラン濃縮施設が建造されており,「1000台以上の遠心分離機を見た」と明らかにした。北朝鮮側は「2000台がすでに稼動中」と説明したという。これが事実なら,プルトニウム型だけではなく,ウラン濃縮による核開発も北朝鮮で着々と進行していることになる。アメリカ政府は,ボズワース北朝鮮担当特別代表を日中韓諸国に派遣して対応を協議した。

11月11日にはG20首脳会合出席のために,オバマ大統領がソウルを訪問し,李大統領との首脳会談を行った。両首脳は6カ国協議の再開には北朝鮮の軟化が必要であることで一致する一方,最終決着が期待されていた米韓FTAでは結論を先送りした。

12月6日には,ワシントンで日米韓外相会談が開かれた。共同声明では,北朝鮮による延坪島砲撃事件やウラン濃縮の動きを非難した。クリントン国務長官は「北朝鮮の挑発的,攻撃的行動がアジアの平和と安定を危うくしている」と指摘し,マレン統合参謀本部議長を日韓に派遣すると明らかにした。

このように,米韓同盟関係の重要性は高まり,日米韓が一致して北朝鮮の挑発行動に対処しようとしてきた。しかし,中国の協力なしには北朝鮮を協調路線には誘えないし,国内事情から韓国が北朝鮮に対して著しく敵対的になることもアメリカにとっては望ましくない。オバマ政権は慎重かつ粘り強く,朝鮮半島政策を推し進めていかなければならない。

その他

7月にベトナムの首都ハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で,東アジアサミットへの米ロ両国の参加が正式に合意された。オバマ政権は中国の影響力拡大を懸念し,東アジアサミット参加に積極姿勢を示していた。ただ,米ロ両国の参加で「東アジア」の概念は一層あいまいになった。

9月末には,ASEAN10カ国の首脳とオバマ大統領がニューヨークで会談した。南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島をめぐる中国とASEAN諸国の領有権問題について,「紛争の平和的解決」や国際海洋法にもとづいた「航行の自由」の重要性を強調した共同声明が発出された。ただし,中国を刺激することを恐れて「南シナ海」とは明記されなかった。

10月にハノイで開かれたASEAN拡大国防相会議でも,ゲーツ国防長官が南シナ海問題について「実力行使なしに,外交を通じ国際法に沿って解決されるべきだ」と表明し,多くの国が南シナ海問題や「航行の自由」について言及した。

同月末には,同じくハノイで東アジアサミットが開催された。特別ゲストとして出席したクリントン国務長官も,「航行や商業の自由は重要」,「紛争が発生すれば国際法に即して解決すべき」と述べて,南シナ海問題でのアメリカの積極的関与を示し,ASEANと協調して中国をけん制した。

11月6日に,オバマ大統領は9日間にわたるアジア歴訪(インド,インドネシア,韓国,日本)を開始した。同大統領の外遊としては最長である。インドでは,オバマ大統領はインドに対する軍用輸送機など総額100億ドルの新たな輸出に合意し,インドの国連安保理常任理事国入りを支持した。続くインドネシアでは,同大統領は経済成長するアジア諸国との関係強化に意欲を示しつつ,「自由のない発展は貧困の別形態だ」と述べ,民主化の必要性を主張した。両国訪問はビジネス重視であり,またアメリカの対アジア関与の拡大をめざすものであった。しかし,韓国では先述のように米韓FTAは先送りになり,G20首脳会議でも中国の為替改革のための国際包囲網を形成できず,逆にアメリカの金融緩和が批判された。中間選挙の大敗後のアジア歴訪だったこともあり,アメリカの対外的威信が低下したとして,この外遊を「三振アウト」,「大恥」などと酷評するアメリカ国内メディアもあった。

2011年の課題

周知のように,2012年にはアメリカ,ロシア,韓国で大統領選挙があり,台湾でも総統選挙,中国では国家主席の交代が控えている。北朝鮮は2012年までに「強盛大国」の門戸を開くと呼号している。このため,2012年には東アジアの国際環境に大きな変化が予想される。この変化を前に,2011年はいわば準備の年となろう。中国の影響力の拡大と朝鮮半島の混乱が,依然として予測される。そうしたなかで,アメリカは大統領選挙に向けて内向化しがちだが,自国の経済を立て直し,日本や韓国との同盟関係を強化・再構築しながら,多国間協力の枠組みを活用する必要に迫られている。

(同志社大学教授)

 
© 2011 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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