2012 年 2012 巻 p. 179-192

ASEANは,2015年を目処に政治安全保障共同体と経済共同体,社会文化共同体から構成されるASEAN共同体の構築を目指している。2011年のASEANは,政治安全保障共同体の構築に向けた取り組みが注目された。
ASEANの政治安全保障共同体で目指される世界は,加盟諸国と人々が公正で民主的,調和的な環境において平和共存する状態である。この状態を実現するためには,加盟国間や域外国との紛争を平和的に解決し,良好な関係を維持するメカニズムが必要である。そのための取り組みとして2011年には,第1に,カンボジア・タイ国境画定および南シナ海の紛争についてASEANの関与がみられた。第2に,東アジア首脳会議(EAS)にアメリカとロシアが新メンバーとして参加したのを契機に,域外諸国との軍事協力強化が図られた。
経済協力では,経済共同体の実現に向けてさまざまな分野で自由化が進む一方,経済統合と格差是正との調和,および域外経済関係のあり方についてASEANの方向性が示された。
プレア・ヴィヒア寺院(カンボジア領)周辺の国境画定をめぐる問題で初めてASEANが関与することになった。2010年にもカンボジアはASEANへ調停を依頼したが,タイが二国間解決を希望したため,ASEANの関与はみられなかった。しかし,2011年2月に両国軍が再び衝突し,カンボジアが国連安全保障理事会(安保理)に調停を依頼したことを機にASEAN議長国であるインドネシアが関与することになった。
2月14日,安保理は両国に停戦を呼びかけ,ASEANによる調停を期待するという議長声明を発表した。国連の介入を拒否するタイに,インドネシアは地域レベルで解決できることを示さない限り国連の関与は不可避とし,ASEANの調停を受け入れるよう説得した。タイの同意を得て,2月にASEAN緊急外相会議が開かれ,インドネシアから監視団を受け入れることと,両国の外相会議である合同国境委員会を第三国(インドネシア)で開催することが合意された。
しかしその後,監視団の派遣地域について両国は対立した。国境未画定地域である寺院周辺に派遣を希望するカンボジアに対し,タイは両国領土内への派遣を要求したのである。インドネシアはタイの意向を取り入れ,30人2チームで構成される監視団を両国領土内にそれぞれ派遣する案を提示した。しかし,ASEANの関与に反対するタイ国軍への配慮から,タイ政府は派遣の条件として,新たに両国の国防大臣会合である総合国境委員会(GBC)開催とカンボジア軍撤退を提示した。4月末に再び両軍が衝突し,カンボジアは次に国際司法裁判所(ICJ)へ調停を依頼した。寺院がカンボジア領に帰属するとする1962年のICJ判決の解釈を求める一環として,戦闘状態の続く寺院周辺に対し暫定的措置を求めたのである。ICJは7月,当該紛争地域を暫定的な非武装地帯とし,両国は軍を撤退するとともに,ASEANの仲介(インドネシアの監視団)を受け入れることを勧告した。ICJの勧告後も,監視団派遣はカンボジア軍撤退と二国間会合開催が条件と主張するタイと,二国間会合は監視団派遣後とするカンボジアの間で折り合いがつかず,監視団派遣の実施は暗礁に乗り上げた。
両国関係に改善の兆しがみられたのは,タイでタクシン元首相の妹インラックを首相とする政権が発足した後である。8月,新政権の国防大臣は,ICJが示した非武装地帯にインドネシアの監視団が派遣されることを容認した。タクシンと親交のあるカンボジアのフンセン首相も,タイの政権交代を歓迎した。12月にはプノンペンでGBCが開催され,両国は軍撤退完了に向けて共同作業グループを設置することで合意したのである。
2011年末現在,監視団派遣というASEANの合意は履行されないままである。おもな原因は,カンボジア・タイ間の利害対立というよりは,タイ政府の国軍との利害調整不足にある。しかし,2011年4月以降,両国軍の衝突は起きていない。この点について,安保理やICJの勧告,監視団派遣やインドネシアの関与というASEAN合意が両国に自制を促したとの見方もできる。カンボジアは2012年以降もインドネシアの仲介を受け入れる方針で,タイの姿勢次第で新たな動きがみられるかもしれない。
ミャンマーの2014年議長国就任を承認2011年11月,ASEAN諸国は,2014年にミャンマーがASEAN議長国に就任することを承認した。ただし,承認を決定する前に,ミャンマーにおける民主化の進捗状況を確認するといった一定の手続きがとられた。
ASEAN議長国は,国名(英語表記)のアルファベット順に基づく輪番制である。1997年に加盟したミャンマーにも,2006年後半から外相会議の議長国を担当する機会があった。しかし,同国の民主化遅延を理由に,欧米諸国がミャンマー主催の会議には出席しないとしたため,ほかのASEAN諸国による説得の末,2005年,同国は民主化に専念するという理由で議長国を辞退した。
2010年以降のミャンマーにおける民主化の進展を評価する一環として,ASEAN諸国は,2011年1月の非公式外相会議でミャンマーに対する制裁解除を欧米諸国に求めた。しかし,ミャンマーの議長国就任については,同国が4月の特別非公式外相会議で就任希望を表明したにもかかわらず,複数の国が承認を留保したために11月の首脳会議まで決定が持ち越された。承認を留保した加盟国のひとつが,議長国のインドネシアである。インドネシアは欧米に制裁解除を要求する際にも制裁解除と和解は同時に進めなければならないとし,民主化勢力との和解の努力を続けるようミャンマー政府に求めてきた。議長国就任問題についても,緊急を要するものではないので状況を見極め,じっくり議論すべきとし,ミャンマーは他国が否定的な見方をしないように民主化を進めなければならないとの方針を示した。
5月の首脳会議ではミャンマーの議長国就任提案を検討するにとどめ,ASEANの代表としてインドネシア外相がミャンマーを訪問し,民主化の進捗状況を確認することになった。7月の外相会議では,ミャンマー政府もインドネシア外相の訪問を受け入れることに同意した。インドネシア外相は10月末にミャンマーを訪問し,政治犯釈放やアウンサン・スーチーとの対話など民主化が進展していることや,アウンサン・スーチーが議長国就任に反対していないことなどを確認した。また,欧米諸国も同国の民主化進展に一定の評価を与えた。
かつて,ミャンマーが議長国を辞退したのは欧米諸国との関係が悪化することをほかの加盟諸国が懸念したからである。今回のインドネシアの姿勢はASEAN諸国の意向だけでなく,域外諸国の意向をふまえる必要があったことと関係がある。インドネシア外相が民主化の進展を確認し,ASEAN内で合意が得られ,域外国も一定の評価を与えたことを受け,11月の首脳会議の決定に至ったと考えられる。
南シナ海問題でガイドライン策定2011年7月,ASEANと中国の外相会議で,2002年の南シナ海行動宣言(DOC)を実施するためのガイドラインが策定された。DOCは,ASEAN諸国と中国が南シナ海の領有権問題を平和的な方法で解決することや平和を害するような行動を自制することなどに合意した文書である。また,解決の難しい領有権問題を一時的に保留して,軍事関係者の交流促進や環境調査協力などを実施することも盛り込まれた。しかし,DOCの原則や活動はなかなか実践と結びつかず,2011年前半には,中国やフィリピン,ベトナムなど紛争当事国同士の調査船や漁船の衝突が続いた。
ASEAN諸国は,ガイドラインを南シナ海における行動規範策定の基礎になるものと位置づけた。5月の首脳会議では,DOCを発展させて,「地域行動規範」(Regional Code of Conduct)策定に向けて努力するとの議長声明が発表されている。当初ASEAN諸国は,拘束力のあるガイドラインを目指そうとしたが,中国が消極的だったため,ガイドラインの性質は非拘束的なものになった。
7月に合意されたガイドラインは,DOCの実施について(1)対話と協議を重視すること,(2)DOCで掲げられた活動やプロジェクトの実施は自主的なものであること,(3)最初に行う活動は信頼醸成措置を目的にするものであること,(4)具体的な措置や活動の実施に関する決定はコンセンサスに基づき,そうした措置や活動が最終的に行動規範の策定に資するものであることなどである。
ガイドラインには,紛争当事国の海軍がこの地域でどう行動すべきかについてのルールや,石油やガスなどの資源を共同開発する際のルールなどは盛り込まれなかった。とくに後者の点について,紛争当事国のフィリピンは不満を表明した。同国は,資源の共同開発地域を設定するため,国連海洋法条約に沿って係争地帯とそうでない地帯を分離する枠組みとして「平和,自由,友好と協力(ZoPFF/C)構想」を提案した。しかし,この提案には中国だけでなく議長国インドネシアも係争・非係争地帯の特定そのものが争点になるとして,「まずは緊張を緩和する非対立的アプローチを採用すべきだ」と反対したため,合意には至らなかった。
ガイドラインの内容や性質にこだわったものの,策定そのものに中国が合意したのは,アメリカがASEAN重視を明確に打ち出し,南シナ海問題に関与する姿勢をみせていたからである。中国はアメリカを牽制するため,ガイドライン策定によってASEANと中国で南シナ海問題を解決できることを示そうとしたと考えられる。インドネシアなど複数のASEAN諸国は,内容よりもガイドライン策定によってこの問題を協議するモメンタムを醸成することができたと評価した。この問題では作業部会での話し合いが続けられてきたが,今回初めて高級事務レベル会合が開かれたことは注目に値する。外相会議の共同声明では,ASEANと中国が高級事務レベル会合を開催し,行動規範策定に向けて取り組むことが謳われた。協議を通じて信頼醸成を高めることにより,行動規範の策定を進めて対立の解消につながることが期待されている。
東アジア首脳会議の変化と軍事協力の強化2011年,EASにアメリカとロシアが新メンバーとして参加した。ASEAN諸国は,ASEANが主導してきたEASを政治安全保障の場として位置づけ,軍事面で域外諸国との関係強化を図ろうとしている。
5月の首脳会議でASEAN諸国は,伝統的および非伝統的安全保障上の脅威に対処する場としてEASを位置づけた。とくに,南シナ海問題で重要性が増している海洋安全保障では,2010年から開催されているASEAN海洋フォーラムを活用して,EAS諸国が参加するASEAN拡大海洋フォーラムを開くことを検討した。このフォーラムは,専門家や政府関係者が集い,海洋安全保障について話し合う場である。
また,EAS諸国の軍関係者の連携を強化することも謳われた。2010年の第1回ASEAN拡大国防大臣会議(ADMMプラス)では,人道支援・災害救助,海洋安全保障,テロ対策,防衛医学,平和維持活動の5分野で専門家会合を設置することが合意された。この合意を受けて,2011年4月には,ADMMプラス高級事務レベル会合が初めて開かれ,上記の5分野の専門家会合の役割や開催手続きが検討された。専門家会合の役割に関するコンセプトペーパーでは,共同訓練や軍事演習の実施に向けて検討を進めることなどが打ち出されている。
11月の首脳会議では,「互恵的な関係構築のための原則についての宣言」が発表された。この宣言でASEAN諸国は,EAS諸国に対し,独立と主権平等,領土保全の原則,国際法の尊重,相互理解・信頼醸成の重要性,平和と安定,繁栄の促進,内政不干渉原則の尊重と武力不行使,多様な価値の尊重,人権の尊重,平和的紛争解決の遵守などを求めた。これらの原則のほとんどは国連憲章に明記されたものである。ASEAN諸国があえてこうした原則を確認するのは,とくにアメリカや中国などの域外大国に対し,軍事行動や威嚇など攻撃的な行動を自制するよう求めるためである。
EAS諸国との関係強化は,将来のASEAN共同体のあり方にも重要な役割を果たす。2011年の2つの首脳会議でASEAN諸国は,「国家を単位とするグローバルな共同体のなかのASEAN共同体」というビジョンを示した。その中身は,2022年までにASEANがグローバルな課題に取り組むことができるように,ASEANとして団結し一貫した立場を形成することや,そうした課題に対処できる能力を高めること,ルールに基づく組織運営を強化することなどである。世界の大国が参加するEASはグローバルな問題を話し合う場になったともいえる。ASEAN諸国としては,引き続きEASなどのASEAN主導の広域制度を活用して,共同体の構築を進める構えである。
域外諸国との連携を強化することに加え,ASEAN諸国間の軍事協力を強化することも示された。第1に,平和維持活動の強化である。5月のASEAN国防大臣会議(ADMM)で発表されたコンセプトペーパーのなかで,ASEAN各国の平和維持活動センターの連携を深め,地域秩序と平和を維持する能力を高めることや情報交換および共同訓練を実施することを目指すとした。具体的には,すでにセンターを設置しているカンボジアとインドネシア,フィリピン,タイの連携強化を進め,そうした連携の恩恵をASEAN全加盟国が受けられるようにするというものである。11月の首脳会議では国連との連携を深める文書が発表され,国連の平和維持活動にASEAN諸国が積極的に関与することも謳われた。第2に,加盟国が協調して軍需産業の育成に取り組むことが合意された。ADMMで採択されたコンセプトペーパーでは,共同生産や共同事業などを通じ,協調して加盟国の軍需産業の生産能力強化を図ることが計画されている。この合意には,ASEAN諸国の軍事防衛力が域外諸国の軍需産業に依存することが背景にある。他方,軍需産業の生産技術に関して透明性を確保することで,軍事力を互いに把握する狙いもあるとみられる。
ASEANの経済統合の方向性について,公平な経済発展との調和が再確認された。ASEAN経済共同体の青写真では,公平な経済発展が重要な項目としてあげられているが,近年は「自由化」の側面が強調される傾向にある。経済共同体ではASEAN自由貿易地域による物品貿易の自由化に加え,サービス貿易や投資の自由化,熟練労働者の自由な移動などの取り組みが進められている。5月の首脳会議では,2015年以降の経済共同体のビジョンを策定するよう経済大臣会議に指示がなされた。
一方,11月の首脳会議で発表された「公平な経済発展のためのフレームワーク」において,経済統合は貧困削減や経済格差是正に資するものであることが強調された。経済統合が進展するなかで,公平な経済発展を確保することは,産業競争力の低下や開発が遅れた地域を抱える加盟国にとって重要な課題である。とくに,2011年議長国のインドネシアは,国内産業の競争力低下に悩まされるとともに,低開発地域を多く抱えているために,こうした問題を取りあげる必要があったと考えられる。また,2010年に発表された「連結性強化のためのマスタープラン」の実施には,低開発地域のインフラ整備に重点を置くべきだとする指針も示された。
インフラ整備には資金確保が肝要である。ASEAN諸国は,2010年に続き2011年11月の首脳会議で日本や韓国,中国,アメリカなどから資金協力を受けた。また,「ASEAN連結性に関するEAS宣言」が発表され,ここでもASEAN諸国は,EAS諸国との連結性を強化するためEAS諸国に資金協力を求めた。タイの提案で,2010年の「連結性強化のためのマスタープラン」に続いて,EAS諸国との連携を重点に置いた「連結性強化のためのマスタープラン・プラス」の発表を検討することも合意された。
サービス貿易の自由化の進展ASEANの経済統合は,物品貿易の自由化からサービス貿易の自由化へと進展している。サービス貿易の自由化は,1995年に「サービス貿易枠組協定」(AFAS)が締結されたことで本格化した。
サービス貿易の自由化交渉は,参加国が市場アクセスや内国民待遇など基本的義務を負う分野をリスト(自由化約束表)に掲げる「ポジティブリスト方式」に基づいて段階的に進められる。交渉結果は各国の自由化約束表を集めたパッケージとして公表されており,2010年末時点でAFASの交渉対象分野は,情報通信技術や観光,建設,ビジネスサービス,輸送,通信,教育,ヘルスケアなどに属するサブセクターである。別途交渉が行われる金融・航空関連サービスでも,それぞれ保険業務や航空機修理などのサブセクターが自由化対象となっている。
各国は,個々のサブセクターにおいて,サービス貿易の形態ごとに自由化を約束する。サービス貿易の形態には,越境取引と国外消費,サービス業務拠点の設置,人の移動の4つがある。越境取引と国外消費に比べ,サービス業務拠点設置と人の移動については,自由化約束の範囲が限定的であり,完全自由化に向けてさまざまな課題がある。サービス分野の投資に相当するサービス業務拠点設置では,外資出資比率についてその緩和目標を70%にとどめているうえ,各国の業法などにも外資出資を規制する条項が含まれており,法改正が必要となる。人の移動については,熟練労働者に限って移動の自由を促進するとしている(助川成也「ASEAN経済共同体に向けて」,山影進編『新しいASEAN――地域共同体とアジアの中心性を目指して――』,アジア経済研究所,2011年)。
航空分野では航空機修理などの関連サービスに加え,2015年の「ASEAN単一航空市場」を目指して貨物・旅客輸送に関する自由化も進展している。貨物輸送自由化協定に続き,2010年末に署名された「旅客輸送完全自由化に関するASEAN多国間協定」が発効し,実施の段階に入った。2011年12月の運輸大臣会議では,ASEAN単一航空市場の実施に向けたロードマップが示された。しかし,これまでに合意された航空自由化関連の諸協定だけでは2015年までに域内の完全航空自由化が達成できる状況ではない。第1に,当該協定は3カ国以上の批准で発効するため未批准の国も多い。第2に,単一市場実施に向けたロードマップでは45項目の方策のうち約3分の1を2015年以降に実施するとしている。第3に,自由化の対象が限られる。ASEAN単一航空市場では,航空自由化の段階のうち,自国から相手国への運輸権(第3の自由)と相手国から自国への運輸権(第4の自由),相手国で旅客または貨物の搭乗載を行い,さらに第三国への輸送する運輸権(第5の自由,以遠権)までが自由化の対象とされている。本国をハブとする三国間輸送(第6の自由)や他国間輸送(第7の自由,ゲージ権),他国の国内輸送(第8の自由,カボタージュ)は,EUでは認められているが,ASEANの場合は対象外である(花岡伸也「アジアにおける航空自由化の進展とローコストキャリアの展開」,『運輸と経済』第70巻第6号,2010年)。
域外関係でもサービス貿易の自由化が進みつつある。たとえば,中国とは建築や土木,金融,観光,輸送などの分野で自由化を実施することで合意している。
広域の自由貿易協定形成に向けた取り組みASEANと域外国(ASEAN+1)との自由貿易協定(FTA)の締結および発効が一段落し,より広域のFTA形成に向けた取り組みが本格的に始まりつつある。2011年には,日本と中国,ASEAN双方から東アジアのFTA形成に関する提案が出された。
東アジアのFTA構想としては,ASEAN+3(日本・中国・韓国)を構成メンバーとして想定する「東アジア自由貿易地域」(EAFTA)と,ASEAN+3諸国とオーストラリア,ニュージーランド,インドの16カ国で検討されている「東アジア包括的経済連携」(CEPEA)がある。この2つの構想の早期実現を目指して,日本と中国が共同で貿易投資自由化に関する3つの作業部会(物品,サービス,投資)の設置を提案した。これまで中国はEAFTAを,日本はCEPEAを重視するとされてきたが,今回はそうした方針の違いを超えて,東アジアのFTA実現に向けて具体的な作業を開始する点が強調された。背景には,環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に多くの国が参加を表明したことにある。とくに,中国はアメリカ主導のTPPへの牽制として,東アジアの経済統合を加速させたい思惑があるとみられる。
ASEAN諸国は日本と中国の共同提案を歓迎しながらも,広域のFTAがASEAN主導で形成され,ASEAN諸国にとって不利にならないようにするため,11月の首脳会議で「地域的な包括的経済連携に関するASEANフレームワーク」という統一方針を発表した。具体的には,広域のFTAはその形成に際し,(1)ASEAN+1のFTAの改善を同時に進めること,(2)開放度の高いFTAであること,(3)経済技術協力を含むこと,(4)ASEANの経済統合に寄与すること,(5)カンボジアとラオス,ミャンマー,ベトナムに対して特別かつ異なる待遇を付与すること,などである。同時に開催されたASEAN+3諸国やEAS諸国との首脳会議でも,広域のFTA形成はASEAN+1のFTAを基礎(basis)あるいはひな形(template)にすべき点が強調された。こうしたフレームワークの発表には,日本および中国主導で東アジアのFTA形成作業が進むことに対するASEAN諸国の警戒感が背景にある。
このほか,東アジア地域では金融および農業協力が順調に進められている。2011年4月,ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィスがシンガポールに設置され,事務局長(任期3年)には,中国の魏本華(ウェイ・ベンフア)氏が任命された。ただし,同氏は任期のうち1年で退任し,残りの2年は日本から根本洋一氏が就任する予定である。農業協力では,10月に「ASEAN+3緊急米備蓄制度に関する協定」が締結され,各国が緊急時に支援できる備蓄量を申告することになった。申告備蓄はそれぞれ,ASEAN諸国合計8万7000トン,中国30万トン,日本25万トン,韓国15万トンである。緊急米備蓄の運営基金(総額400万ドル)の設立も合意され,日本と中国,韓国がそれぞれ100万ドル,ASEAN諸国が合わせて100万ドルを拠出することになった。
政治安全保障共同体を構築するためには,紛争解決や平和維持のための活動にASEANが必要に応じて関与できる体制を整えることが望まれる。ASEANの紛争解決には紛争当事国の同意が必要であるが,カンボジアとタイの国境紛争で明らかになったのは,国内における利害調整の必要性である。外相レベルのASEAN合意形成と実施は,関係する国内政治アクターの利害を調整したうえで進める必要がある。そのほか,従来の外務省を中心とするASEAN諸国間の協議に加え,国防関係者の信頼醸成や交流を深化させていくことも必要となろう。
取り組みの必要性が2011年初めに指摘されたが,進展がみられなかった分野として移民労働者問題がある。インドネシアとフィリピンは,労働者の送出国として自国労働者の処遇をめぐり,受入国のマレーシアやシンガポールなどと対立している。処遇が問題となっている移民労働者の多くは非熟練労働者であり,2007年にその権利保護の必要性が謳われて以来,ASEAN社会文化共同体の構築に向けた課題のひとつとなっている。しかし,送出国と受入国の利害が対立し,その取り組みは十分に進んでいない。
域外関係に関するASEANの諸方針にはASEAN諸国の危機感がうかがえる。域外大国間対立の影響をいかに軽減し,域外諸国から実質的な協力を引き出すために,ASEAN諸国はこれまでにも増して団結を誇示し,ASEANの統一方針を発信し続ける必要がある。
(地域研究センター)

(出所) ASEAN Charterをもとに筆者作成。


