2013 年 2013 巻 p. 197-224
2012年,政府,とりわけズン首相は,近年の経済停滞や大規模国有企業の管理の問題などに関して各方面から批判を受け,厳しい立場に立たされた。党中央委員会第4回総会決議に基づき年間を通じて展開された綱紀粛正キャンペーンでは,明確な責任追求は回避されたが,これまで政府の下に置かれていた汚職防止指導委員会が党政治局直属とされたことなどは,今後,党の政府に対する監視・指導が強化されることを予想させる。国会では,首相を含む国家機関幹部に対する信任投票を2013年から年1回実施することが決定された。一方,インターネットを通じた政府批判,体制批判に対しては,政府の強硬な姿勢が目立った。
経済は前年以上に停滞した。経済停滞の背後には,前年の徹底した金融引き締めによる企業の資金不足・投資の減少を引き金とする「生産減少→不良債権の増加→信用収縮」という悪循環がある。不況による消費需要の減少が企業の在庫増加につながったことも,企業の生産縮小を余儀なくした。5月には,納税期限延長,減税,免税といった内容を含む企業救済策(政府決議13号)を,政府が打ち出したが,中小企業を中心に操業停止・倒産が相次ぎ,その数は年内だけで5万5000に上った。民間企業の経営不振もさることながら,国有企業の非効率な経営が原因となり,銀行の不良債権が増大した。また銀行による貸し渋りが多発した結果,企業はさらに資金繰りに苦しむことになった。
対外関係では,南シナ海の領有権に関連して,中国との摩擦が深刻化している。このこととも絡んで,政府は活発な外交活動を展開した。多くの国・地域との間でパートナーシップ協定やFTAの交渉,実施も進展した。
2011年末に開催された党中央委員会第4回総会は,「現時点における党建設の差し迫った問題に関する決議」を採択した。同決議は,1月16日,チョン書記長によって公布され,その内容は18日付の新聞各紙に掲載された。決議は,党建設に関し少なからず問題が残っており,国民の党に対する信頼が低下していることを指摘し,これを正すことができなければ,党の指導的役割の障害になり制度の存亡にも関わるという危機感を表明している。差し迫った問題として第1に挙げられているのは,指導的地位にある党員,高級幹部までを含む一部の党員が,政治思想や道徳,生活面で堕落し,個人主義,機会主義に陥り,セクショナリズムや汚職などの問題が生じていることである。その他,中央レベルの幹部の人事が適切に行われていないこと,集団指導の原則が形骸化し,個人の責任が曖昧になっていることなども挙げられている。
このような問題に対処するため,決議は,(1)批判・自己批判,(2)党組織・幹部と活動,(3)制度・政策,(4)政治道徳と思想の4分野における対策を列挙している。このなかでもっとも重要とされてきたのが,(1)の批判・自己批判である。2月27~29日に開催された「第11期党中央委員会第4回総会決議を実施する全国幹部会議」で,チョン書記長は,第4回総会決議を厳格に実現することの重要性を強調し,批判・自己批判の際の主要な基準のひとつである「党員がしてはならない事項」19カ条の遵守を呼びかけた。
批判・自己批判の実施にあたっては,まず党政治局および書記局が,7月12日から通算21日間にわたり,率先してこれを行った。その議論の詳細は一般に公開されていない。しかし,党政治局,書記局による批判・自己批判活動に関する報告が討議された党中央委員会第6回総会(10月1~15日)の閉幕にあたり,チョン書記長は,同報告が党政治局および「その構成員のひとり」に対する処分を提案したのに対し,党中央委員会が処分を行わない方針を決定したことを明らかにした。このように党政治局がその内部における確執を公にすることはまれである。
国内メディアは沈黙しているが,外国のメディアや研究者は,この「ひとり」がズン首相であることは疑いないとみている。ズン首相の就任以来,国有企業は急速に経営を拡大する一方で巨額の負債を累積し,経済の不安定要因となっている。インフレと金融引き締めの繰り返しは,経済成長を減速させている。このような首相の経済運営の手法に対する批判が党中枢で高まっている。しかし,注目された党中央委員会第6回総会では,首相の処分は見送られた。
批判・自己批判は,8月から年末にかけて,全国の各級党委員会でも実施された。メディアを通じて国民に喧伝されたイニシアティブであったが,処分者が出なかったこともあって,その成果については判然としない印象が残った。チョン書記長は,12月に行われた有権者との会合で,批判・自己批判は息の長い綱紀粛正への取り組みの第一歩であると釈明している。
批判・自己批判と並行して,汚職防止にかかる組織体制の改革も進められた。5月7~15日には党中央委員会第5回総会が開催され,汚職問題に対する党の取り組みを強化するため,党政治局直属の汚職防止指導委員会を設置すること,党中央内政委員会を復活させ,汚職防止指導委員会の常務機関として機能させることを決定した。また,党中央委員会第6回総会は,党中央経済委員会を復活させることを決定した。汚職防止指導委員会は,従来,政府の下に置かれ,首相が長を務めていたが,上記決定に伴い第4回国会で汚職防止法が改正されたことで,汚職防止指導委員会の長は政府首相から党書記長に変更された。内政,経済の両委員会は,2007年に党中央委員会事務局に統合されていたが,その復活は党の政府に対する監視・指導を強化する狙いがあるものとみられる。ズン首相が発揮してきた強い指導力には,今後,党内からの制約が強まることが予想される。
国会の活動2012年には,第13期第3回(5月21日~6月21日)および第4回国会(10月22日~11月23日)が開催された。
第3回国会では,労働法(改正),ベトナム海洋法など,13の法案が可決された。改正労働法(2013年5月1日施行)では,(1)女性労働者の産休期間を従来の4カ月から6カ月に,(2)旧正月休暇を従来の4日間から5日間に,(3)試用期間中の賃金を正規雇用時の賃金の85%以上 (従来は70%以上) にするなどの変更があった。ベトナム海洋法は,南シナ海の領有権を初めて法律で定義するもので,2013年1月に施行される(対外関係の項参照)。
第4回国会では,首都法,個人所得税法修正補充法などの9法案が可決された。首都法は,首都ハノイの位置づけや役割,その建設,発展のための政策や責任について規定している。首都への人口流入を抑制するため,住民登録に関して居住法の規定よりも厳格な要件を定めている点が注目される。個人所得税法修正補充法では,2013年7月1日以降,個人所得税の基礎控除額が現行の400万ドンから900万ドンに引き上げられるなど,納税者の負担が軽減されることになった。
(出所) ベトナム国会ウェブサイト(http://na.gov.vn/)より筆者作成。
また,第4回国会は「国会,人民評議会によって選出され,または承認された役職者に対する信任投票を行う決議」を採択した。国会による信任投票は,国家主席,国会議長,首相および閣僚,最高人民裁判所長官などを対象とし,年1回行われる。国会議員総数の3分の2を超える議員が信任の度合いを「低」とした場合,または2年連続で議員の過半数が信任の度合いを「低」とした場合には,対象者は不信任投票の対象となり,議員総数の過半数が不信任票を投じれば罷免されることになる。12月11日,国会常務委員会は,2013年5月に予定されている第5回国会で,49人の中央国家機関幹部を対象に第1回の信任投票を行うことを決定した。信任投票制度の導入は,政府をはじめとする国家機関に対する国会の監視機能を一段と高めることになる。
近年では,2010年に,ベトナム造船集団(ビナシン)の経営破綻を受けて,国会議員のなかから,ズン首相をはじめ関連閣僚を対象とした不信任投票が提案されたことがある(実現せず)。第4回国会では,冒頭10月22日の政府報告において,首相が,ビナシンやベトナム海運総公司(ビナラインズ)などの大規模国有企業の管理・監督における政府の弱点,欠点に関して,「政府の長としての大きな政治的責任を厳格に受け止め,国会,全党,全国民の前に率直に過ちを認める」と述べた。これに対し,11月14日の質疑応答セッションにおいて,ズオン・チュン・クォック議員(非党員)は,首相が国会の前で過ちを認めたのは史上初めてのことであると述べる一方,この機会に首相は,政府が謝罪の言葉と断絶し,代わって“辞職の文化”という近代社会にふさわしい習慣を取り入れるための努力を始めてはどうかと質問した。この発言は,国会議員が首相に直接辞任を促したものとして注目を集めた(質問者本人は否定)。信任投票制度の導入は,このように国会においても政府批判,首相批判が高まっているなかで実現したものであり,第1回投票の成り行きが注目される。ただし,ベトナムの国会議員の9割以上は共産党員であり,共産党幹部でもある国家幹部に対し,どこまで独立した判断に基づいて信任・不信任の投票を行うことができるかは未知数である。
第4回国会ではまた,「1992年憲法改正案への人民の意見集約に関する決議」も採択された。意見集約は2013年初頭の3カ月間にわたって行われ,在外ベトナム人を含む各層国民は,草案に対する意見の表明を行うことが奨励されている。
なお,第3回国会では,5月26日,ロンアン省選出のダン・ティ・ホアン・イエン議員が,選挙時に候補者としての履歴を正しく申告しなかったという理由で罷免される出来事もあった。ベトナム国会における議員の罷免はこれで3例目である。イエン氏は,工業団地開発で頭角を現した民間企業グループ,タンタオ・グループの会長であり,実弟のダン・タイン・タム氏(サイゴン・インベスト・グループ会長)とともに著名な実業家である。姉弟は,企業経営者層の候補者が躍進した2011年5月の選挙でともに初めて国会議員に選出され,注目されていた。
企業関連の不祥事2010年のビナシンの経営破綻に続き,2012年にはもうひとつの大規模国有企業,ビナラインズも放漫経営から深刻な経営難に陥っていることが明らかになった。その他にも,国有,民間を含む大企業トップの辞任,逮捕が相次いだ。
2月6日,ビナラインズのズオン・チ・ズン会長が,首相の決定により,会長を辞任して,交通・運輸省海事局長に就任した。5月18日,公安省は,故意に経済管理に関する国家の規定に違反し重大な結果を生じさせた疑いで,ズン元会長に対する逮捕状を発布した。ズン元会長は,2007年の浮体式ドックの購入などを巡り,多くの規定違反を犯し,ビナラインズに多額の損失を与えたとされる。ズン元会長は逮捕を逃れて逃亡したため,6月末には,国際刑事警察機構(ICPO)がズン元会長を国際指名手配した。9月5日,公安省は,ズン元会長がICPOによりASEAN域内で逮捕されたことを発表した。
元会長への逮捕状発布に先だって公開された政府監査の結果によれば,ビナラインズは,多くの老朽船舶の購入や,本業外分野への非効率な投資などにより,2009~2010年の2年間で1兆6860億ドンに上る損失を出していたとされる。ビナシン事件を髣髴させる状況が,再び監査によって指摘されるまで放置されていたことは,政府,首相の経済管理に対する新たな批判の高まりにつながった。ズン元会長が,ビナラインズが監査の対象となっている最中に海事局長に任命されていたことについても,交通・運輸相などの責任が問題となった。
2月1日,ズン首相はベトナム電力集団(EVN)のダオ・ヴァン・フン会長を解任する決定に署名した。EVNは不動産,銀行,保険などを含む多分野に投資を行っており,とくにその100%子会社のEVNテレコムは2010年に1兆ドンの損失を計上するなど,経営の非効率性が問題視されていた。EVNはまた,本業の電力事業でも,安定的な電力供給を行えず,近年,頻繁な停電が人々の生活や経済活動に影響を与えていた。12月末,フン元会長は,EVNテレコムの巨額の損失に関し,首相による警告処分を受けた。
8月30日には,ビナシンのファム・タイン・ビン元会長に対する20年の懲役判決が確定した。ビン元会長らは,故意に経済管理に関する国家の規定に違反し,ビナシンに総額9100億ドンの損害を与えたとされる。
大企業トップの転落は国有企業にとどまらなかった。8月20日には,ベトナム最大の民間商業銀行のひとつ,アジアコマーシャル銀行(ACB)の創業者の1人であるグエン・ドゥック・キエン元副会長が,違法な経済活動を理由として逮捕された。また,11月2日には,もうひとつの主要民間商業銀行,サコムバンクの創業者,ダン・ヴァン・タイン会長が突然,理由を明示せずに会長を辞任している。
土地収用に関わる紛争の激化2012年には,土地収用に絡んで地方当局と住民の間の大規模な衝突が発生し,土地法改正の議論に拍車をかけた。
年明け早々の1月5日,ハイフォン市ティエンラン県で,水産養殖が営まれていた土地の強制収用に当たっていた警察官6人が,土地使用権者らの武装抵抗に遭い,重傷を負うという事件が発生した。事件は,ティエンラン県当局が,土地使用権者である男性に1993年と1997年の2度にわたり交付した計約40ヘクタールの土地について,使用期限が過ぎたとして,補償もなく収用を強行しようとしたことから生じた。男性とその親族は手製の銃や地雷で抵抗したため,当局は100人以上の警官や兵士を動員してこれを鎮圧し,その家屋を破壊した。男性らは,殺人未遂などの疑いで逮捕された。
この事件は,一地方の問題では終わらなかった。メディアは連日この事件を取り上げ,男性が20年間この土地の開発に心血を注いできたこと,地域のほかの農家も同様に土地収用に不満,不安を抱いていることなどを紹介し,県当局の行為の不当性,違法性を指摘した。ダン・フン・ヴォー元資源・環境省次官ら専門家は,問題の根源は土地法の規定の不合理や不明確さにあるとして,迅速かつ抜本的な土地法改正を促す声をあげた。ベトナムでは,土地は全人民所有とされ,個人や組織が取得できるのは土地使用権のみである。土地使用権の期限は,1年生作物の栽培および水産養殖のための土地の場合,20年と定められている。土地使用権の期限が経過した場合でも,土地が有効に使用されているなどの条件を満たせば,期限の延長が認められる。しかし,その判断は地方当局が行うため,実際には地方当局による恣意的な運用が横行しているという。
公安省,資源・環境省,ベトナム祖国戦線など多くの機関が本件についての調査を行った後,2月10日にはズン首相自らがこの問題に関する会議を開催し,事態の収拾に当たった。会議において首相は,土地法の規定には不明確な点や矛盾点があり,未解決の係争の多くが土地の管理・使用に関するものであることを認めた。本事案については,県当局が1997年に男性に交付した土地について定めた使用期限および県当局による土地収用の決定は違法であり,強制収用の手法自体にも多くの誤りがあったという判断を示した。この結論を受けて,ティエンラン県人民委員会の主席,副主席が解任され,刑事訴追も受けたのをはじめ,50人に上る関係者が処分を受けた。
4月24日には,フンイェン省ヴァンザン県で,県当局が約1000人(報道によっては数千人とも)の警官らを動員して,166戸5.8ヘクタールの土地を強制収用し,反対住民20人が拘束されるという事件が発生した。対象となった土地は,大規模都市開発プロジェクト「エコパーク」の建設予定地の一部で,2004年に首相による土地収用の決定が出されていたが,提示された補償などに不服をもつ住民の反対により実現が遅れていたものである。強制収用以後も陳情などの形による住民の抗議は続いているが,中央・地方の関係当局は一貫して本件の強制収用は合法であったという立場をとっている。
反体制活動,ネット上の体制批判への厳しい対処ベトナムにおけるインターネット利用者数は,9月時点で3100万人超となり,人口の35%を占めるに至っている。党指導部内の抗争,企業関連のスキャンダル,土地収用にかかわる紛争,南シナ海問題などは,急速に発展するネット社会における論評の的となってきた。
政府はネット上の世論の動向に敏感になっている。9月12日,首相は政府官房公文7169号に署名した。この公文は,事実に反する情報を掲載して国家・社会に悪影響を及ぼすサイトとして「ザンラムバオ」,「クァンラムバオ」,「ビエンドン」という3つのブログを名指しして,これらのブログの投稿者を調査し,厳格に処分することを関係機関に求めている。同公文はまた,国家幹部が,反国家的な内容をもつサイト上の情報を読んだり,流通させたりすることを禁じている。
8月から9月には,筆名ディウ・カイで知られるグエン・ヴァン・ハイら5人の著名なブロガー(ブログ開設者)が,懲役4年から12年の実刑判決を受けた。これらのブロガー達は,公務員の汚職や中国との関係などについて政府に批判的な記事や政治的自由の拡大を擁護する論説を書いていた。12月27日にはやはり著名なブロガーで法律家のレ・クォック・クアンが脱税容疑で逮捕されている。
このような言論統制の強化は,国際的にも懸念をひき起こしている。5月3日,アメリカのオバマ大統領は,「我々はブロガーのディウ・カイのような人々(ジャーナリストたち)を忘れてはならない」と発言した。9月24日には,在越アメリカ大使館が,ディウ・カイに対する判決に関して深い懸念を表明し,ベトナム政府はこれらのブロガーを釈放すべきであるとする声明を出している。
反体制活動の摘発も相次いだ。フーイェン省警察は,反動的政治組織を設立し,政権打倒を企てた容疑により,2月から4月初頭までに18人を逮捕した。4月には在米越僑グエン・クォック・クアンがテロ容疑で拘束された。5月にはザーライ省警察が,反政府少数民族組織FULRO(被抑圧民族解放統一戦線)の指導を受けた活動家12人および関係者多数を逮捕した。
(石塚)
2012年の経済運営では,前年に引き続き,成長より安定が優先された。年初に出された政府決議1号では,インフレ抑制とマクロ経済安定化を優先したうえで,前年に成長モデルの転換における重点改革領域として示された公共投資,金融セクター,国有企業を中心に生産性・競争力向上のための経済構造再編を推し進め,穏当なレベルの経済成長を維持するという方向性が示された。
成長より安定が優先された結果,また,長引く世界同時不況の影響の下,経済停滞は前年以上に深刻化した。2012年のGDP成長率は1999年以来最低の5.03%にとどまり,年初目標だった6~6.5%を大幅に下回る結果となった。部門別成長率も,農林水産業2.72%(前年4.01%),工業・建設業4.52%(前年5.53%),サービス6.42%(前年6.99%)と,軒並み前年を下回る低水準となった。
対外貿易は,輸出総額1146億ドル(前年比18.3%増),輸入総額1143億ドル(前年比7.1%増)となり,20年ぶりの輸出超過となった。輸出では,電話・電話部品が前年比97.7%増の126億ドルに達し,繊維・縫製品に続く第2の輸出品目となった。電話輸出増の大半はサムスン電子ベトナムの携帯電話輸出によるものである。また,農産品輸出も健闘した。コメの年間輸出量が800万トンを超えたほか,コーヒー,キャッサバが輸出量・額の大幅増を記録した。一方,輸入では,ガソリン(輸入額前年比10%減),肥料(同7.9%減),鉄(同7%減)など,生産原料品目における輸入減が目立った。輸出超過の要因として,輸出の増加だけでなく国内生産・消費の落ち込みによる輸入の停滞があることに留意する必要がある。
外国直接投資は,計画・投資省の2013年3月11日の報告(年初速報から修正)により,前年比微増であったことが明らかになった。年初から12月31日までの登録資本金額は前年比4.7%増の163億ドルとなった。新規投資が86億ドルで前年比約29%減となった一方で,拡張投資が77億ドルと前年の約2.5倍に増加した。国別では,日本の登録資本額が約56億ドルで最大となり,登録資本総額の34.2%に及んだ。東京急行電鉄の都市開発プロジェクト(ビンズオン省,認可額12億ドル),ブリヂストンの自動車タイヤ工場建設(ハイフォン市,認可額5億7480万ドル)など大型投資案件が複数認可されたことによるものである。
財政収支は,年初から12月15日までの実績で,収入は予算比88.9%,支出は予算比90.9%となった。公共投資案件の削減や中止により支出が抑えられたものの,不況の影響で原油収入以外の収入が伸びず,財政赤字は拡大した。公的債務のGDP比は55.4%となり,前年(54.9%)より若干増加した。
金融緩和に動くも,物価,為替は安定2012年の金融政策は,企業の資金繰りの悪化に鑑み,前年までの引き締めから若干の緩和に転じた。利下げを行ううえで最大の懸念事項であるインフレについては,年初から,ガス価格の連続的値上げやテト(旧正月)特需といった物価上昇圧力が散見されたものの,前年の引き締め政策の効果も残存して,1,2月の月間消費者物価指数(CPI)上昇率は1%台に抑えられた。年初2カ月の物価動向をみた当局は3月,3年ぶりの利下げを実施した。世界銀行をはじめとする国際金融機関からは,金融緩和は時期尚早との見解が示されたが,その後も主要政策金利は段階的に引き下げられた。計6回の利下げにより,リファイナンス金利は年初の15%から9%,ディスカウント金利は年初の12%から7%まで下げられた。
こうした金融緩和の下でも,インフレが再燃することはなかった。9月には,度重なる燃料価格の引き上げや,制度変更による医療サービス費の高騰などにより,前月比CPI上昇率が2%台に跳ね上がり,インフレ再燃が懸念されたものの,10月以降,物価が急騰することはなく,年間のCPI上昇率はここ3年では最低の6.81%に抑えられた。この6.81%は主として医療サービス費の上昇(前年比63.6%増)によるものである。また,為替相場も落ち着いていた。ドンの対ドル相場は2009年以降,下落幅が大きくなっていたが,2012年は年間を通じてほとんど変動がなかった(図1)。
(出所) 統計総局ウェブサイト(http://www.gso.gov.vn)。
物価,為替の安定は一見明るいニュースである。しかし,これらは経済収縮の帰結とも考えられ,手放しで喜べるものではない。インフレ抑制には,2月の石油ガソリン関連商品の輸入税引き下げ(財政省通知25号),9月末の電気および医療サービスの価格調整を主内容とする価格管理強化策(首相指示25号)など,政府対応策の効果もあっただろう。しかし,真の要因は,不況による消費・資金需要の減退との見方が強い。また,為替相場の安定についても,外貨建て貸付の制限(3月8日付国家銀行通知3号,5月2日付国家銀行決定857号)など為替政策の影響もあるだろうが,国内生産・消費の落ち込みによる輸入の停滞からドル需要自体が減少したことの影響も看過できない。
金については,国際価格と比した国内価格の高さの是正や,為替相場の安定化を目的に,国家銀行が金の生産・取引を独占的に管理するという方向性が示された(政府議定24号)。一方で,実態においては,金価格の国内・国際格差が拡大し,12月末には格差は過去最大の1テール(37.5グラム)当たり490万ドンを記録した。
不良債権の増大に苦しんだ銀行部門銀行部門の構造再編は,前年に示された経済成長モデル転換に向けた改革の柱のひとつである。3月には,2011~2015年の銀行部門再編計画が発表された(首相決定254号)。銀行システムの安全性ないし健全性,金融機関の経営効率の改善といった目標が示された。また,その実現に向け,大手銀行の強化と経営状況の悪い銀行の合併・買収といった具体的方向性が示された。
しかし,年間を通じて銀行再編はあまり進展せず,その間にも銀行の不良債権問題が急速に悪化した。7月12日,国家銀行の査察機関は,数年来4~5%程度であった銀行の不良債権比率が8.6%まで拡大していることを公表した。
不良債権が膨れ上がった最大の要因は,国有企業と不動産関連企業への貸し出しといわれる。国有企業のなかでも多く不良債権を抱えているのは,ベトナム石油ガスグループ(ペトロベトナム)やEVNなどの国家経済集団(大規模国有企業グループ)である。不動産市場における取引停滞および価格暴落により不動産業者の倒産が相次いだことも,不良債権増大の要因となった。
また,与信業務の質の問題もある。とくに新興の小規模金融機関の与信業務の質が低いといわれる。8月にはビン国家銀行総裁が,与信業務の質が下がっている要因として「利益集団」と呼ばれる一部の株主が貸し出し判断を左右し,自らの利益のために銀行資金を流用しているとの見解を示し,話題となった。
不良債権の増大から銀行が貸し出しに慎重になったこと,また借り手の企業側も経済停滞のなかで投資拡大に二の足を踏んだことにより,利下げやそれによるマネーサプライ増加にも関わらず銀行貸出は拡大しなかった。不良債権問題の解決のため,年末には,国家銀行が100兆ドン規模の不良債権処理会社(Vietnam Asset Management Company:VAMC)の設立を提案し,政府で議論が始められた。
迷走する国有企業改革政治の項で述べたとおり,2012年には国有企業の経営における経済法規違反や本業外の分野への無計画な投資など,非効率な経営の実態が改めて明らかになった。とりわけ,国家経済集団の設立と管理において多くの権限を握る首相に対する風当たりがいっそう強まったことなどが背景となり,国家経済集団の管理に関する動きが活発となった。
1月,ズン首相が国有企業の構造改革強化を指示した(首相指示3号)。その一方で,計画・投資省は,2009年の政府議定101号(国家経済集団の試験的な設立,組織,活動,管理に関する議定)に代わる,国家経済集団・総公司の管理・監督に関する新議定作成の任務に就くこととなった。この任務には,1月の首相指示3号における国家経済集団の設立と活動管理に関する規定の見直しも含まれる。新議定作成のため,4月末には計画・投資省内に起草委員会が設立された(計画・投資相決定489号)。
一方,計画・投資省が新議定案を作成中の9月に,ダム政府官房長官は今後も5~7の国家経済集団を維持する方向性を公にした。ここには,国家経済集団の数を現状の約半分まで減らすという意味と同時に,石油,電力,通信などの重要分野は引き続き首相の直接管理下に置くという意味が含まれていると捉えられる。
実際,10月には,経営難に直面していたベトナム住宅・都市開発集団(HUD)とベトナム工業建設集団(VNIC,通称ソンダグループ)の2集団を解散し,両集団の中核企業およびメンバー企業を総公司に改組などの後,建設省の管理下に置くことが決められた。13あった国家経済集団はこの時点で11となった。非効率な経営が明るみにでたビナシンおよびビナラインズについても,9月に交通・運輸省が自らの管理下に置くという提案を政府に提出している。
年末には,国有企業の所有者としての国家の権利,責任,義務の所在について定めた政府議定99号が公布された。国有企業の管理・監督について管轄省庁および地方政府の権限を拡大すると読める内容が含まれており,中央集権化しすぎた国有企業管理の現状に対する反省の表明とも捉えられる。しかし,国有企業と直接の利害関係にある国家機関に独立的・中立的な企業管理・監督ができるのかという問題は残されたままであり,改革へのプラス効果には疑問が呈される。
株式化については,2011~2015年の5年間で899社(うち2012年中に93社)の株式化を終えるという目標を,財政省が6月末に発表した。しかし,証券市場の低迷,法的手続きの複雑さ,国有企業の抱える負債の大きさなど,さまざまな要因を背景に,2012年の株式化目標は実現されなかった。また,7月には,2011~2015年の大規模国有企業・国有企業グループ(国家経済集団,総公司)の構造改革計画が出され,本業外への投資を2015年までに解消する方針などが示された。
冷え込んだ不動産・証券市場不況は不動産市場および証券市場への投資停滞を招いた。不動産市場では取引停滞が深刻化し,不動産価格は前年比30~50%も下落した。国家銀行によれば,10月31日時点の不動産融資の貸付残高は前年末比3.6%増の約208兆ドンとなった。主として都市部でのアパートや貸しオフィスの取引停滞によるものである。貸付残高の47.8%がホーチミン,23.7%がハノイにおける不動産融資である。不動産市場の停滞は,前述のように不良債権の増大につながり,2012年の経済停滞を深刻化させた主要因となった。
証券市場における取引も活性化せず,11月にはハノイ証券取引所の株価指数であるHNXが一時,史上最低の50.6ポイントまで下がるという記録的低迷に陥った。大手銀行幹部の逮捕,辞任も証券市場に少なからず打撃を与えた。8月のACB元副会長の逮捕,11月のサコムバンク会長の辞任が証券市場にもたらした損失は,それぞれ56億ドル,10億ドルといわれる。
その他の動き公的債務の削減に向けた公共投資の抑制は,銀行改革,国有企業改革と並んで,経済改革の柱となっているものの,経済停滞が続くなか,地方では建設業への公共投資が肥大化する傾向が続いている。投資効率の悪いプロジェクトへの無計画な投資も多く,債権の未払いが問題となっている。問題解決のため, 10月には首相指示で,地方政府はプロジェクト資金源の確保と2015年までの返済計画を用意することなどが求められた(首相指示27号)。
発電部門における競争的市場原理の導入は,約1年の試験的実施を経て,7月1日から本格導入が始まった。競争的市場に参加する発電会社はEVN傘下の電力売買会社(EPTC)に入札して電力を販売する。5月17日には工商省・電力調整局が7月1日から競争的発電市場に参加する企業のリストを,また12月25日には2013年の市場参加企業のリストを公表し,各々において29社,45社の発電企業が入札に直接参加することが示された。一方,それらの発電企業の多くはEVN傘下企業であり,市場原理導入後も実質的にはEVNの寡占状態が大きく変わるわけではないとみられる。
(荒神)
南シナ海問題では,ベトナムと中国の双方が自らの主権を主張し,相手方の主張を批判する言動を繰り返し,対立を深めた。両国首脳も,この問題が二国間関係に及ぼす影響への懸念を表明しつつ,互いに歩み寄る姿勢をみせてはいない。
4月1日,ペトロベトナムは,ロシア国営ガス会社ガスプロムとの間で,南シナ海の大陸棚にある2つの鉱区を共同開発することで合意し,生産物分与契約を結んだ。ベトナムとインドの間で進められてきた油田の共同開発計画については,5月,インド側が技術的な理由による延期の方針を示していたが,ベトナム側の要請により,さらに2年間,開発を継続することとなった。一方,中国の海洋石油総公司(CNOOC)は,6月23日と8月27日の2度にわたり,南シナ海の係争地域を含む海域の石油・ガス田鉱区を共同開発するための国際入札を実施した。
中国国家海洋局は,4月19日,中国政府の承認を得て「全国海島保護計画」を公布,施行した。同計画は,ホアンサ(西沙)諸島における観光開発などの内容を含んでいる。また,ベトナムで6月21日,南シナ海の領有権を明記したベトナム海洋法が成立すると,同日,中国政府は,ホアンサ,チュオンサ(南沙)諸島を含む「三沙市」の設置(昇格)を承認したことを発表した。これを受けて,7月17日,中国海南省議会は正式に同市を発足させ,公的機関の設置やインフラの整備などを急速に進めている。10月1日には,ホアンサ諸島のフーラム(永興)島で中国の建国記念日の式典が初めて挙行された。
中国は5月,新パスポートの発行をはじめたが,そのなかに南シナ海を自国領とする地図が記載されていることが後に明らかになった。ベトナム側は,このパスポートを認めず,無効として扱う一方,中国人旅行客の入国は拒否せず,別途入国査証関連書類を手渡すという手段で対抗している。
年末にかけても両国は対立の度を深めている。11月27日,中国海南省議会は,南シナ海を含む管轄海域で,島への上陸など違法行為を行う外国船舶に対して,地元当局が立ち入り検査するなどの権限を認める新たな沿海国境警備治安管理条例を可決した。これに対し,11月29日,ズン首相は,農業農村開発省水産総局の下に漁業管理局を創設する議定に署名した(2013年1月25日発効)。この機関は,ベトナムの領海において漁業活動を行う国内および外国の組織,個人による法令違反の検査,発見,処理などを行うものとされる。その直後の11月30日,南シナ海で活動していたペトロベトナムの石油探査船ビンミン2号が,接近してきた中国の漁船2隻によってケーブルを切断される事件が発生した。ベトナム外務省はこれに抗議したが,中国外務省は,ベトナム側の説明は事実と異なるとして,反対にベトナム側を非難している。
こうしたなか,9月7日には,APEC首脳会議でウラジオストックを訪れていたサン国家主席が,中国の胡錦濤国家主席と会談した。その席で胡国家主席は,両国が南シナ海における紛争を棚上げし,共同開発の道を歩み,二国間の交渉と友好的協議を堅持し,同地域の平和と安定を守ることを強調した。これに対し,サン国家主席は,ベトナムは中国との合意を誠実に履行し,平和的友好的協議を通じて海上問題を早期かつ適切に解決することを願っていると応じた。このやりとりは,中国側が紛争の棚上げによる事態の沈静化を促したが,ベトナム側が応じなかったものと解釈される。9月20日には,第9回中国・ASEAN博覧会が開かれていた中国の南寧で,ズン首相と習近平国家副主席が会談した。その際,習国家副主席は,南シナ海問題について,「この問題が中越関係のすべてではないが,処理を誤れば両国関係全体に影響を及ぼす」と指摘し,ズン首相は「両国に見解の違いはあるが,交渉と協議を通じて適切に解決したい」と応じたと伝えられた。
多国間の枠組みによる問題解決を主張するベトナムが期待をかけるASEAN・中国の「南シナ海行動規範」(COC)の制定については,11月のASEAN・中国首脳会議でも公式協議の開始に向けた合意ができなかった。フィリピン,マレーシア,ブルネイとの間で12月12日に予定された4カ国外務次官級協議は,マレーシアとブルネイの不参加のため延期になり,開催の目処は立っていない。ただし,ベトナムとフィリピンの間では問題解決に向けた協議が続けられているという。
国内世論も中国への反発を強めている。ハノイでは7月に3回の反中国デモが行われ,8月5日にはデモに集まった参加者が強制排除された。ビンミン2号事件の後の12月9日にもハノイとホーチミンでデモがあり,17人が拘束された。
なお,ベトナム外務省は,台湾の行政官によるチュオンサ諸島のバービン(太平)島訪問(5月)や,同島での実弾発射の演習の計画(8月),台湾高官がバンタン(中洲)礁に旗を立て,主権を主張したこと(9月)に対しても,抗議の意を表明している。
活発な外交活動の展開南シナ海問題や後述する政府開発援助(ODA)の減少傾向などとも関連して,ベトナムは活発な外交活動を展開している。2012年にベトナムに来訪した外国の代表団の数は,2011年と比べて4~5倍に増えたという。
7月,サン国家主席は,就任後初めての欧州外遊に当たり,ロシアを訪問した。ソチでのプーチン大統領との会談において,両首脳は,2001年に締結された両国間の戦略的パートナーシップを強化し,全面的戦略的パートナーシップとすることで合意した。プーチン大統領は,5月の外交政策に関する大統領令のなかでも,中国,インドと並んでベトナムをアジア太平洋地域における重要なパートナーとしている。今回の訪問を機に,双方向貿易の拡大,原子力発電所の建設や石油ガスの探査,開発などにおける協力などが合意された。11月には,メドベージェフ首相が来訪,ズン首相と会談し,ベトナムがロシア,ベラルーシ,カザフスタンの関税同盟との間でFTA交渉を2013年の第1四半期中に開始し,2年以内の交渉妥結を目指すことなどで合意した。
EUとの間では6月,パートナーシップ協力協定が調印された。同協定は,幅広い分野における双方の関係に関する基本的な原則を規定しており,各分野における協力,対話の進展の基礎となることが期待される。10月にはEU・ベトナムFTAの第1回交渉がハノイで行われた。同月末にはファン・ロンパイ欧州理事会議長が,1990年のベトナムとEUの外交関係樹立以来初めてとなるベトナム公式訪問を行った。
近年,緊密さを増す対米関係においては,8月,両政府による初めての枯葉剤除去作業が始まったことが注目された。アメリカは,南シナ海問題についても,クリントン国務長官がCOC策定に対する支持を表明するなど,基本的にベトナム側の主張に近い立場をとってきた。他方,両国関係には,とくに人権問題に関連して摩擦もみられた(政治の項参照)。6月初め,パネッタ米国防長官が,米政府高官としてベトナム戦争後初めてカムラン湾を訪問した際,同長官と会談したズン首相は,アメリカ政府が人権問題を理由に禁止しているベトナムへの武器輸出を解禁することを求めた。ベトナム外務省は9月にアメリカ議会下院で成立したベトナム人権法について,誤った情報や偏見に基づいていると批判している。
日本との間では,相互に協調的な外交関係と,直接投資やODAなどを通じた強い結びつきが保たれた。1月には,ベトナムが日本のTPP交渉への参加に支持を表明した。8月には,枝野経済産業相が来訪してズン首相らと会談し,レアアースの共同開発の加速などにつき合意した。11月の東アジアサミットでは,日本がCOCの早期策定への期待を表明した。
その他,近年ベトナムとの経済的結びつきを強める韓国との間では,8月にFTA交渉開始が宣言された。イタリア,シンガポール,タイとの間では,戦略的パートナーシップの確立を目指すことで一致している。
ODAは減少傾向明らかにベトナムが2010年に世銀やアジア開発銀行から中所得国と認定されたことで,ODAのレベルや構成にも引き続き変化が現れている。4月には,スウェーデンが2013年末をもって対ベトナムODAを終了することが報じられた。フエ財相は,7月,世銀のコックス東アジア・大洋州地域総局副総裁との会談で,国際開発協会(IDA)融資の適用を10年程度延長することを要望したと伝えられる。
12月10日,対ベトナム支援国会合がハノイで開催され,2013年の支援約束額の総額は約65億ドルと発表された。ドナーによる支援約束額は,2009年末の支援国会合における80億ドルをピークに3年連続の減少となったが,対前年比では今回の減少幅が最大(約12%減)となった。日本の約束額は前年と同レベルの26億ドルであり,ベトナムにおけるトップドナーの地位を維持している。なお,支援国会合は,2013年から,民間セクターなど,より広い関係者が参加する「開発パートナーシップフォーラム」に改められることとなった。
(石塚)
2013年には,2012年に導入された党・政府間および国会・政府間の関係にかかる新しい制度枠組の運用が始まる。党による綱紀粛正や国会による政府の責任追及の動きは,形を変えて継続することになる。党中央委員会第4回総会決議が指摘する国民の体制への信頼低下をくい止めるためには,これらの動きを指導層内部における政治抗争に終わらせず,現下の急を要する経済・社会・外交上の諸課題に対処するための政策やその実施の改善につなげていくことが必要である。また,憲法や土地法など,ベトナムの経済体制の基本的な部分に関わる法改正が予定されている。これらの法改正が,ベトナムの長期的な発展戦略に対応し,また社会における主要な懸案の解決を促進するものとなるかが注目される。
経済分野では,2011年に成長モデルの転換の道筋として示された国有企業,公共投資,金融部門の3領域における構造再編の重点的な推進が引き続き主要課題となる。2012年にはこれら3領域の構造的問題が不良債権の増大という形で表面化した。これ以上の経済停滞を回避するため,着実かつ速やかな構造改革が求められる。マクロ経済運営における舵取りは,成長と安定のバランスをとる難しさから,2013年も引き続き困難なものとなるだろう。
(石塚:新領域研究センター)
(荒神:地域研究センター)
1月 | |
3日 | 政府決議1号により,2012年の経済社会課題の解決策,提示。 |
5日 | ハイフォン市ティエンラン県で,土地の強制収用に当たっていた警察官6人が住民の武装抵抗に遭い,重傷。 |
16日 | 「現時点における党建設の差し迫った問題に関する決議」公布。 |
16日 | ズン首相,国有企業の構造改革強化を指示(首相決定3号)。 |
18日 | 祖国戦線,ティエンラン県の土地収用問題に関し監察団を設置することを決定。 |
30日 | カマウ尿素肥料工場,商品生産を開始。ベトナム石油ガス集団(ペトロベトナム)が3年越しで建設。 |
2月 | |
1日 | ハノイ市,交通渋滞解消のため,時差通勤・通学導入。 |
1日 | ブリヂストンの自動車タイヤ製造工場建設,認可。認可額5.75億㌦(ハイフォン市)。 |
2日 | 2020年に向けた農業生産発展計画,公布。 |
3日 | ベトナム電力集団(EVN)のダオ・ヴァン・フン会長,巨額赤字の経営責任を問われ,解任。 |
6日 | ホーチミン証券取引所,新株価指数「VN30」導入。 |
6日 | ベトナム海運総公司(ビナラインズ)のズオン・チ・ズン会長,会長を辞任して,交通・運輸省海事局長に就任。 |
9日 | サン国家主席,ラオス訪問(~11日)。ベトナム・ラオス団結・友好年の開幕。 |
10日 | ズン首相,ティエンラン県における土地収用に関する会議を主催。県当局による土地収用は土地法違反と認定。 |
12日 | ミン外相,訪中(~15日)。各分野における両国関係と懸案事項につき協議。 |
13日 | ベトナム空港総公司3社(北部,中部,南部)の合併,決定。 |
21日 | ベトナム航空,国家資本投資総公司(SCIC)からジェットスター・パシフィック航空の資本70%を引き受け。 |
21日 | 財政省,石油ガソリン関連商品の輸入関税引き下げを通知(財政省通知25号)。 |
22日 | クアンガイ省の漁船が南シナ海で中国の監視船に武力で威嚇される。 |
23日 | ティエンラン県人民委員会主席,副主席,違法な土地収用の責任を問われ,解任。 |
24日 | 「現時点における党建設の差し迫った問題に関する決議」の実施に関する党政治局指示第15号公布。 |
27日 | 第11期党中央委員会第4回総会の決議を実施する全国幹部会議開催(~29日)。 |
29日 | 保健省と財政省,公立病院における検診・治療費の上限を定めた合同通知。医療サービスの質向上を目的に,複数の医療サービス費の上限を引き上げ。4月15日発効。 |
3月 | |
1日 | 2011~2015年の銀行部門再編計画,公布(首相決定254号)。 |
2日 | ズン首相,工業団地などの新規造成の一時凍結と計画の見直しを指示。 |
2日 | ベトナム・中国両外務次官,ホットラインを開設。 |
3日 | 中国,南シナ海でベトナムの漁民21人と漁船2隻を拘束。 |
13日 | 国家銀行,政策金利の引き下げ(3月12日付国家銀行決定407号)。リファイナンス金利が15%から14%,ディスカウント金利が13%から12%に。 |
29日 | ズン首相,核安全保障サミット出席のため訪問中の韓国で,李明博大統領と共同声明発表。両国間の関係強化を確認。 |
30日 | ベトナムが設計から建設までのすべてを請け負った石油採掘基地(ブンタウ)が完成。 |
4月 | |
3日 | ズン首相,プノンペンで開催の第20回ASEANサミットに出席(~4日)。 |
3日 | 国家銀行が金の生産・取引を独占的に管理することを決めた政府議定24号公布,5月25日発効。 |
5日 | ペトロベトナム,ロシア国営ガス会社ガスプロムとの間で,南シナ海の大陸棚にある2つの鉱区の共同開発に合意。 |
8日 | チョン書記長,キューバ・ブラジル歴訪(~15日)。 |
10日 | リクシルのアルミサッシ工場建設,認可。認可額11.2億㌦(ドンナイ省)。 |
11日 | 国家銀行,政策金利の引き下げ(4月10日付国家銀行決定693号)。リファイナンス金利13%,ディスカウント金利11%に。 |
12日 | 公務員の最低月給を83万ドンから105万ドンに引き上げる政府議定31号公布,5月1日発効。 |
17日 | 在米越僑グエン・クォック・クアン,テロ容疑で拘束。 |
19日 | 中国国家海洋局,「全国海島保護計画」を公布・施行。 |
21日 | ズン首相,日メコンサミット出席のため訪問中の東京で,野田首相と会談。 |
24日 | フンイェン省ヴァンザン県で都市開発のため土地収用,反対住民20人拘束。 |
5月 | |
7日 | 党中央委員会第5回総会開幕(~15日)。 |
8日 | ザーライ省警察,FULROの指導を受けた活動家多数を逮捕。 |
10日 | 政府,29兆ドン(約14.5億㌦)規模の企業救済策を公布(政府決議13号)。 |
16日 | 中国,南シナ海でベトナムの漁船2隻と漁民14人を拘束。5日後に漁船1隻を除き解放。 |
18日 | 公安省,ビナラインズのズオン・チ・ズン元会長に逮捕状。 |
21日 | 第13期第3回国会開幕(~6月21日)。 |
21日 | ベトナムと中国,トンキン湾海上国境につき初の専門家レベルの協議。 |
21日 | 農村工業を奨励する(khuyen cong)政府議定45号公布。7月5日発効。 |
26日 | 外務省報道官,アメリカ国務省の2011年人権報告書は不正確な情報に基づく記述を含むと批判。 |
26日 | 国会,ロンアン省選出ダン・ティ・ホアン・イエン代表の罷免決議。 |
26日 | サコムバンク株主総会で,サザンバンクの幹部ら6人が取締役就任。 |
28日 | 国家銀行,政策金利引き下げ(5月25日付国家銀行決定1081号)。リファイナンス金利12%,ディスカウント金利10%に。 |
31日 | デンマーク,援助資金の不正利用疑惑により,気候変動に関する無償資金援助3件を停止。 |
6月 | |
3日 | パネッタ米国防長官,米政府高官としてベトナム戦争後初のカムラン湾訪問。 |
4日 | クアンチ省でベトナム援助国会合中間会議開催(~5日)。 |
4日 | パネッタ米国防長官,ズン首相およびタイン国防相と会談。カムラン湾への米軍のアクセス拡大などについて協議。 |
4日 | ベトナム,中国両国海軍が南シナ海で13回目の合同巡視を開始(5日間)。 |
5日 | ハノイでベトナム・南米貿易投資フォーラム開催(~6日)。 |
11日 | 国家銀行,政策金利の引き下げ(6月8日付国家銀行決定1196号)。リファイナンス金利11%,ディスカウント金利9%に。 |
20日 | 第5回ベトナム・アメリカ政治・安全保障・防衛対話,ハノイで開催。 |
21日 | 国会,ベトナム海洋法を可決。 |
21日 | 中国政府,チュオンサ,ホアンサ諸島を含む三沙市設置を承認。 |
21日 | チュオンハイ自動車,韓国の現代自動車と連携し,クアンナム省でベトナム初の自動車エンジン製造工場の建設を開始。 |
23日 | 中国海洋石油総公司(CNOOC,中海油),南シナ海地区にある9カ所の油田開発に関し,国際入札を実施。 |
24日 | ベトナム・カンボジア国交45周年を記念して,国境標石の除幕式に両国首相出席(キエンザン省)。 |
24日 | ASEAN・中国,「南シナ海における関係国の行動宣言」の実施に関する会合(~25日)。 |
27日 | ベトナムとEU,パートナーシップ協力協定調印。 |
30日 | カウゼー(ハノイ市)=ニンビン間高速道路,開通。 |
7月 | |
1日 | 発電部門における市場競争原理の本格的導入を開始。 |
1日 | 国家銀行,政策金利の引き下げ(6月29日付国家銀行決定1289号)。リファイナンス金利10%,ディスカウント金利8%に。 |
5日 | ハノイで初のベトナム・ラテンアメリカ貿易投資フォーラム開催(~6日)。 |
9日 | ハノイ証券取引所,新株価指数「HNX30」導入。 |
9日 | ミン外相,プノンペンで開催の第45回ASEAN外相会議に出席(~13日)。 |
10日 | クリントン米国務長官,来訪(~11日)。 |
12日 | 党政治局と書記局,批判・自己批判を開始。 |
17日 | ズン首相,2011~2015年の大規模国有企業および国有企業グループ(国家経済集団,総公司)の構造改革計画を承認(首相決定929号)。 |
17日 | 中国海南省議会,三沙市の設立を正式に発表。 |
18日 | ベトナム・ラオス友好協力条約締結35周年を記念する集会が両国で開催される。 |
25日 | 世銀のコックス東アジア・大洋州地域総局副総裁,ハノイでズン首相と会談。 |
26日 | サン国家主席,ロシア訪問(~30日)。 |
8月 | |
2日 | 外務省報道官,アメリカ国務省による「信仰の自由に関する国際報告書(2011年版)」を批判。 |
6日 | ベトナムと韓国,FTA交渉開始宣言。 |
9日 | ベトナム・アメリカ両政府,ダナンで枯葉剤除去作業を開始。 |
14日 | 東京急行電鉄の都市開発プロジェクト,認可。認可額12億㌦(ビンズオン省)。 |
15日 | ズン首相,ハノイで枝野経済産業相と会談。 |
15日 | ギソン港で3万DWTの船舶を入港可能にするための開発工事,開始(タインホア省)。 |
17日 | 富士ゼロックスのカラー複合機・小型LEDプリンター工場建設,認可。認可額1.2億㌦(ハイフォン市)。 |
20日 | アジアコマーシャル銀行(ACB)のグエン・ドゥック・キエン元副会長逮捕。 |
27日 | CNOOC,南シナ海などの26鉱区を対象に,国際入札実施。 |
28日 | ホーチミン市都市鉄道1号線(ベンタイン=スイティエン区間),着工。 |
28日 | サイゴンハノイ銀行,ハノイ住宅銀行を吸収合併。 |
30日 | ファム・タイン・ビン元ビナシン会長に対する懲役20年の実刑判決確定。 |
9月 | |
5日 | 公安省,ズオン・チ・ズン元ビナラインズ会長のASEAN域内での逮捕を発表。 |
6日 | サン国家主席,ウラジオストックで開催のAPEC首脳会議に出席(~9日)。 |
7日 | サン国家主席,中国の胡錦濤国家主席と会談。 |
12日 | ズン首相,3つのブログの投稿者の調査,処分を求める政府官房公文7169号に署名。 |
12日 | チョン書記長,シンガポール訪問(~14日)。 |
13日 | 外務省報道官,アメリカ議会下院で可決されたベトナム人権法は,不正確な情報に基づいていると批判。 |
20日 | ズン首相,中国・南寧で開催の第9回中国ASEAN博覧会と中国ASEANビジネス投資サミットに出席(~21日)。習近平国家副主席と会談。 |
24日 | ホーチミン市の人民裁判所,反国家宣伝罪に問われた3人のブロガーに対し,4~12年の懲役判決。 |
24日 | カンボジアのシハモニ国王,来訪(~26日)。 |
26日 | ズン首相,価格の安定化に向けた管理強化に関して指示(首相指示25号)。 |
10月 | |
1日 | 党中央委員会第6回総会開幕(~15日)。 |
8日 | EU・ベトナムFTA第1回交渉(~12日)。 |
10日 | 地方のインフラ建設における未払い債権の解決に関する首相指示27号公布。 |
22日 | 第13期第4回国会開幕(~11月23日)。冒頭の政府報告で,ズン首相が経済運営の過ちを認める。 |
23日 | 国内最大の海上巡視船DN2000の進水式実施。 |
27日 | 第2回ベトナム・タイ合同閣僚会議,ハノイで開催。両国首相,戦略パートナーシップ構築に向けた協力で合意。 |
31日 | ファン・ロンパイ欧州理事会議長,来訪(~11月2日)。 |
11月 | |
2日 | サコムバンクのダン・ヴァン・タイン会長,辞任。 |
6日 | ロシアのメドベージェフ首相,来訪(~7日)。 |
15日 | 国有企業の所有者としての国家の権利,責任,義務の所在に関する,政府議定99号公布。 |
17日 | ズン首相,プノンペンで開催のASEAN首脳会議および関連首脳会議に出席(~20日)。 |
21日 | 社会・失業保険法の施行細則(2008年政府議定127号)の一部を改定する政府議定100号公布。失業登録の条件が職を失って「7日」から「3カ月」に。 |
27日 | 中国海南省議会,沿海国境警備治安管理条例を可決。 |
29日 | ズン首相,漁業管理局を創設する政府議定102号に署名。 |
30日 | ペトロベトナムの石油探査船,中国の漁船にケーブルを切断される。 |
12月 | |
2日 | フーコック国際空港,キエンザン省に開港。 |
7日 | フィリピン外務省報道官,12日に予定されていた南シナ海4カ国協議の延期を発表。 |
10日 | ベトナム支援国会合,ハノイで開催。 |
11日 | 国会常務委員会,2013年5月に予定されている第13期第5回国会で,政府首脳や 閣僚を含む中央国家機関幹部49人に対する第1回の信任投票を行うことを決定。 |
23日 | ソンラー水力発電所,7年の施工期間を経て,落成。 |
24日 | 国家銀行,政策金利の引き下げ(12月21日付国家銀行決定2646号)。リファイナンス金利9%,ディスカウント金利7%に。 |
27日 | 三菱東京UFJ銀行,ベッティンバンク株の20%を取得。 |
27日 | ブロガーで法律家のレ・クォック・クアン,脱税容疑で逮捕。 |