2014 年 2014 巻 p. 389-412
2013年のシンガポールは,政治面では,指導層が今後の国家運営モデルの変化に踏み込んで言及するという,これまでにない意思表示が行われた。リー・シェンロン首相は,少子高齢化による人口減少や価値観の多様化のなかで,今後の政府は公平な社会構築に向けた役割が拡大すると述べた。これを反映して,2013年度予算案や人民行動党(PAP)の党規約改正では,富の再分配,社会福祉の充実,低所得層保護などが打ち出された。もっとも,これは必要に応じた漸進主義であり,PAPが国家運営に指導的役割を果たすという基本姿勢には変化がない。それは2013年中に施行された,新しいウェブサイト規制からも明らかである。
経済面では,GDP成長率が通年で4.1%となり,インフレ率も2.4%と落ち着いて推移した。上昇を続けてきた不動産価格も,年初に2009年以来通算7回目の価格抑制策が実施され,以降も断続的に対策がとられた。これにより,通年の住宅価格は1.2%の上昇にとどまり,2008年以来の小幅上昇率となった。経済ハブとしての競争力も,不断の強化が図られている。人民元オフショア・センター化の動きでは,中国系銀行による人民元決済サービスが開始されて具体的前進をみせた。また,宇宙関連産業や金取引など新分野の育成に加えて,伝統的に強みを発揮してきた空運・海運分野でもインフラ拡張や税制優遇などを実施している。
社会情勢面では,近年に続き,外国人労働力の流入による人口急増とインフラ逼迫が議論となっている。こうしたなかで,政府は2030年の総人口を650万~690万人と予測した『人口白書』を発表したが,国民の間には移民政策への根強い批判もみられるなど,波紋を広げた。一方で,外国人労働力の規制は強化され,一部では非熟練労働者の不足による雇用の需給ギャップも発生しているが,政府は痛みを伴う移行でも継続する姿勢を崩していない。なお,2013年はデング熱の感染拡大,汚職問題,外国人労働者による暴動も発生しており,シンガポールが国の信頼の証として克服してきた類いの諸問題が頻発した。
対外関係面では,首脳の相互訪問などによる日本との往来が活発になり,米中との間でもパワーバランスの変化を睨みながら,慎重なバランス外交を継続している。このほか,マレーシアとの高速鉄道建設が具体的進展をみせ,台湾との自由貿易協定やベトナムとの戦略的パートナーシップ協定なども締結されている。
シンガポールではこの数年,建国以来の政権与党であるPAPへの逆風が続いている。2011年の総選挙では野党が歴史的躍進を遂げ,同年の大統領選挙でも与党系非主流候補が善戦し,2012年の国会補欠選挙では野党候補が当選している。この流れは,近年の政府による施策が国民の不満を招いてきた結果であった。これを受けて政府は,内閣改造,交通システムや社会福祉の改善,住宅価格高騰の抑制,外国人労働力の流入規制など,政策の調整を実施してきた。
しかし,リー首相をはじめとした指導層も,低コストと効率優先という建国以来のモデルのなかでの政策調整では,将来直面する諸問題を解決できないことも認識している。これは2013年に,指導層が今後の国家運営モデルの変化に踏み込んで言及するという,それまでのシンガポールにはみられなかった意思表示をしたことからも明らかである。
たとえば,リー首相は8月8日の建国記念日メッセージで,社会,教育政策について抜本的に見直す考えを示した。また,8月11日にはゴー・チョクトン名誉上級相が,転換点のなかで政府と国民は新しい合意を必要としており,過去に有効だった政策も見直しや修正をしなければ,シンガポールは衰退すると警告した。さらに,8月19日にはリー首相が,「これまで我々を導いた道筋とは異なる道であり,もはや後戻りはない」との姿勢を再度強調した。これを受けて,12月8日のPAP党大会では,25年ぶりに党規約が改正され,高齢者福祉や低所得層保護が盛り込まれるなどの転換が示された。
もっとも,国家運営モデルの修正とは,あくまでも必要に応じた漸進主義であり,PAPが指導的役割を果たすという基本姿勢には,変化がない点も確認できる。たとえば,リー首相は「経済競争力の維持には政治が重要であり,正しい政治のあり方とは,政党が相互に争うのではなく,国家が直面する問題に一致して取り組むことである」(7月5日発言)とも強調している。
こうした姿勢は,ニュースや分析記事を提供するウェブサイトへの,新たな規制からも明らかである。5月28日,通信・情報省は,シンガポールのニュースや分析記事を定期提供するウェブサイトを,すべて免許制にすると発表した。具体的には,シンガポールの情報を1週間にひとつ以上提供し,1カ月5万人以上の在住者がアクセスするウェブサイトは,5万Sドルの保証金預託で免許登録(毎年更新が必要)し,また,メディア開発庁(MDA)の削除命令は24時間以内に履行する,という内容である。さらに法改正によって,2014年には海外にホスティングされるウェブサイトも,同様の規制が実施される予定である。これは近年の政権与党への反発が,批判的内容・意見を掲載する独立系ウェブサイトによって拡散されているとの認識が,政府内に根強いためである。
この新規制は,ネット空間での表現の自由を制約するとの強い反発を巻き起こしたが,政府は「ネット規制を強めることを意図していない」「ニュースサイト編集に影響を及ぼすものではない」(ヤーコブ・イブラヒム通信・情報相)と否定した。しかし実際には,シンガポールの政治,社会,時事問題を報道・議論するウェブサイトが規制を受けている。11月には,政治・社会問題をテーマとする「インディペンデント」と「ブレックファースト・ネットワーク」がMDAから免許登録を命令され,また外国から運営資金の提供を受けないようにとの指導が出された。これに対して国際的ハッカー集団「アノニマス」は激しく反発し,11月5日にはサイバー攻撃を呼び掛けた。リー首相は6日,「シンガポールのネットワークを攻撃・脅迫する者に法の裁きを受けさせる」と警告したが,首相府,大統領府,学校,国立美術館などのウェブサイトが,相次いで攻撃を受けた。
予算案の提出2月25日,2013年度予算案が国会に提出された。この内容で目立ったのが,(1)企業の負担軽減,(2)富の再分配強化,の2点である。
まず(1)をみると,近年に強化されてきた外国人労働者の流入規制による労働力逼迫とコスト上昇への支援,さらには国民の雇用機会に公平性を提供するためとして,シンガポール人従業員の賃上げ分40%の政府補助,3年間の時限措置として法人所得税の30%還付が盛り込まれた。一方で,外国人労働力の流入規制は強化され,後述のように雇用税引き上げなどを実施するとした。
また(2)をみると,低所得層収入補助の支給対象30%拡大と金額25%増額,消費税クーポン配布の2倍拡大,未就学児童支援予算を2倍の30億Sドルに拡大,医療費政府負担を30%から40%に拡大,医療補助の所得基準緩和や対象拡大,貧困層医療支援の基礎基金と年間補助の大幅増額,2030年までの総合病院・地域診療所の大量増設が盛り込まれた。一方で,高級住宅の不動産税を2014年1月から段階的に最高16%(従来6%)に,自動車付加登録税を車両本体価格3万Sドル以上140%,5万Sドル以上180%に引き上げるなど,富裕層の負担を強化した。
この内容は,中低所得層の社会福祉への不満が大きい現状に,政府として応えたものである。一方で,現在の税収レベルでは,今後予想される社会福祉の支出増大を賄えないことは確実で,それを約半数の国民が不安と考えるなかでは,将来的に富裕層を中心とした負担増が予測される。
国会補欠選挙,その他の政界動向政権与党への逆風が継続していることは,1月に実施されたパンゴール・イースト選挙区(1人区)国会補欠選挙の野党勝利で明らかとなった。この国会補欠選挙は,2012年12月に当時の国会議長でPAP所属のマイケル・パーマー議員が,同党女性職員と不適切な関係にあったことを追及され,辞職したことによる。16日の候補者受付では,PAPのコー・ポークーン,労働者党(WP)のリー・リリャン,改革党(RP)のケネス・ジャヤラトナム,シンガポール民主同盟(DA)のデズモンド・リムが立候補した。当初,この選挙は野党の準備不足に加えて,同選挙区が伝統的な与党地盤であることから,PAPに有利と考えられていた。しかし,26日の投開票では,WPのリー候補が投票総数の54.5%(1万6038票)を得て勝利する衝撃的な結果となった。一方で,当選が有力視されていたPAPのコー候補の得票率は43.7%(1万2856票)にとどまった。前年の国会補欠選挙に続いて野党連勝となったことは,国民の根深い不満を改めて印象づけるものとなった。
このほかの政界動向としては,国会議長の交代と内閣の小規模改造がある。前者については,1月8日にリー首相がハリマ・ヤーコブ国務相(社会・家庭開発担当)を国会議長に指名すると表明し,14日に国会で選出された。また,内閣改造は8月28日発表,9月1日付で実施された。内容をみると,チャン・チュンシン社会・家庭開発相代行兼国防担当上級国務相(前陸軍司令官)が社会・家庭開発相兼第二国防相に昇格。エイミー・コー国務相(保健・人材担当)とジョセフィーヌ・テオ国務相(財務・運輸担当)が上級国務相に昇格。モハマド・マリキ上級政務次官(国防・国家開発担当)とシム・アン上級政務次官(教育・通信・情報担当)が国務相に昇格。タン・チュアンジン人材相代行の国家開発担当兼任が解除。デズモンド・リー議員が国家開発担当相,ロー・エンリン議員が社会・家庭開発担当政務次官に任命された。2011年および2012年の内閣改造に続いて若手や女性の積極登用が目立っており,次世代のシンガポールを担う後継指導層育成という目的がより明確化しているといえる。
2013年のシンガポール経済は,GDP成長率が通年で4.1%となり,前年の1.9%を上回った。各期推移(季節調整済み,前期比・年率換算)をみると,第1四半期1.5%,第2四半期14.9%,第3四半期0.3%,第4四半期6.1%であった。
第1四半期は,建設業とサービス業が伸びたものの,製造業の減少が影響して低い伸び率にとどまった。第2四半期は,非石油地場輸出などの貿易が低迷したものの,金融・保険や商業などのサービス業が大きく牽引した。第3四半期は,製造業や建設業が減速して低迷したものの, 年初見通しの通年1~3%成長は達成確実となり,11月21日には通産省が通年成長率予測を3.5~4%に上方修正している。第4四半期は,製造業が低迷したものの,建設業やサービス業の伸びが貢献した。
2014年の経済成長見通しについて,通産省は2.0~4.0%としているが,アメリカの財政問題やユーロ圏の経済問題が顕在化すれば,予想を下回るとの見通しも示している。リー首相は,2014年初頭の国民向けメッセージで,「これからは低成長の時代となるため,生産性向上によってのみ実質賃金増が維持可能」「競争力を維持して,国民に望ましい雇用を創出する必要がある」と述べている。
なお,物価については,消費者物価指数(CPI)上昇率が2012年の4.6%から2013年は2.4%に縮小した。具体的推移をみると前年同期比で,第1四半期4.0%,第2四半期1.6%,第3四半期1.8%,第4四半期2.0%となった。内容をみると,労働需給逼迫と賃上げによる人件費上昇が物価に転嫁される一方,Sドル高為替政策の維持で輸入インフレは抑制され,全体では穏やかなインフレ率に終始した。このため金融管理局(MAS)の年2回の金融政策会合(4月と10月)では,インフレ抑制と経済成長のバランスを考慮し,「緩やかなSドルの値上がりを容認する」という為替政策の維持を決定している。
不動産価格の動向2009年から急上昇を開始した不動産価格は,民間住宅指数を例にみれば,2011年には前年比5.9%の上昇を記録したが,その後は価格抑制策の効果によって,2012年は2.8%,2013年は1.2%の上昇に鈍化している。
不動産価格の上昇は,インフレ率の押し上げだけでなく,国民の住宅取得にも悪影響をもたらしてきた。政府は2009年から2012年に合計6回の価格抑制策を実施したが,それでも2012年第4四半期の住宅価格は前期比1.8%上昇と,2011年第2四半期以来の高い上昇率となった。
このため,2013年1月11日には第7回目の価格抑制策を決定し,12日から実施された。内容は,(1)外国人に課す「不動産取得者加算印紙税」を10%から15%に引き上げる,(2)永住者に課す同税を1軒目購入5%,2軒目購入10%とする,(3)国民に課す同税を,従来は3軒目購入から3%としていたのを,2軒目7%,3軒目10%に改定する,(4)個人が組む2軒目以降の担保掛目を60%から50%に引き下げる,(5)法人が組む担保掛目を40%から20%に引き下げる,(6)工業用不動産を転売する場合,取得後1年以内15%,2年以内10%,3年以内5%の印紙税を売り手に課税する,などの幅広いものである。この施策の目的は,民間住宅取引の30%を占めるとされる投資目的取引の抑制にあり,1軒目を購入する国民に影響を及ぼさないよう配慮している。また,1月18日にはコー・ブンワン国家開発相が,2016年までに約20万戸の住宅を供給すると発表し,1月29日発表の『人口白書』でも,2030年までに70万戸を供給することが公表された。
こうした施策を受けて,第1四半期の住宅価格は民間・公団ともに上昇率が鈍化し,取引額1000万Sドル以上の高額投資用不動産取引も,金額ベースで前期比39%減の50億Sドル,外国人と永住者の購入比率は全体の26.7%まで低下した。第2四半期には,民間住宅価格は新築で1%,中古価格も0.5%と4年ぶりの低い上昇率となり,外国人と永住者の購入比率も全体の21.2%まで低下した。
しかし,政府は抑制策を緩めることなく,6月末には新規制を実施した。この内容は,(1)住宅購入者が組む新規ローンの返済額を月収の60%以下に抑制,(2)ローン借り手名義の親族名利用禁止,などである。さらに,8月には公団住宅(HDB)購入について,(1)永住権取得から3年は中古HDB購入不可,(2)HDB購入ローンの返済額を月収の35%以下から30%以下に引き下げ,返済年数も同ローンで30年から25年,銀行融資も35年から30年に短縮する,などの対策を発表した。こうした厳しい対応によって,2014年には住宅価格上昇率の抑制が予測されている。
また,近年の抑制策強化と前後して,住宅から工業用不動産に資金がシフトし,価格が急上昇していた。このため政府は,2012年には工業用地の賃貸期限短縮,用地安定供給の確約,工業用不動産開発税の引き上げ,用地の追加放出などを実施し,2013年1月には上述の転売者への印紙税課税を実施した。これによって工業用不動産取引は,2012年月平均322件から2013年第1四半期全体では完成物件319件,未完成物件138件と減少し,価格も借地権30年物件4.2%減,同60年物件4%減,同99年物件1.6%減,期限なし3.5%減と下落に転じた。そこで資金は商業用不動産に向かう気配をみせたが,都市開発庁は3月26日に先回りする形で,新築の商業ビル内店舗の最小床面積を50平方メートルに設定するなど,同セクターへの資金流入を制限する構えである。
金融セクターの動向シンガポールは世界的に著名な「グローバル・フィナンシャル・センター・インデックス」(GFCI, Z/YEN Group調査)で,世界第4位に位置づけられる金融センターである。その制度は強固であると同時に,不断の機能強化が図られており,高い信頼性を維持している。しかし,この信頼性には一部の格付け機関から疑問が示された。
7月15日,アメリカの格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MCO)は,シンガポールの銀行セクター格付けを「Aa1」と最高レベルに維持したが,中期的見通しを「ネガティブ」に引き下げた。理由としては,(1)住宅ローンを中心とした家計負債の増加によって,金利上昇時の返済延滞リスクが増大し,銀行経営に影響を与える,(2)世界的な金融緩和縮小と金利上昇が進めば,新興市場から資金が引き揚げられ,シンガポールの銀行が活動する地域でも資産や担保価値に圧力が加わる可能性がある,などが指摘された。
これに対してMASは翌16日に,シンガポールの銀行セクターは健全であり,金利上昇に直面しても対応可能な資本力をもつとの声明を発表した。また, 7月31日にはアメリカの格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が,シンガポールの銀行セクターの格付けを「AA-」,見通しを「安定的」にそれぞれ維持した。S&Pは,金利上昇は深刻な問題にはならず,銀行の流動性や資産内容も良好であり,仮に下振れしても十分な留保金を積んでいると評価した。
この内容は,IMFが4月と5月に実施し,11月に公表したシンガポールの金融システム安定評価テストでも裏付けられている。その結果は,仮に2年で不動産価格が50%下落しても住宅ローン返済不履行には抵抗力がある,シンガポールの金融システムは高度に発展しており規制や監督も良好,銀行の健全性指標は強固というものであった。むしろ懸念材料としては,資産価格の高騰による内外での融資拡大が挙げられている。
2011年から戦略的に取り組んできた,人民元のオフショア・センター化にも大きな進展があった。2月中旬に中国人民銀行は,中国工商銀行シンガポール支店を人民元決済銀行に指定した。これにより,従来は香港を通していた人民元決済がシンガポールでも可能となった。5月27日,中国工商銀行シンガポール支店は,特定銀行向けに人民元決済サービスの提供を開始した。取引初日には20億元,7月末までには4700件,2500億元相当の決済を実施した。人民元預金口座も1400億元を突破し,2012年12月と比較して40%の増加となった。こうした背景には,ASEANと中国の輸出入総額が過去5年で70%近く増加するなか,ASEAN側の輸出超過によって流入増加が予測される人民元の取り込みがある。たとえば,シンガポール企業の10社に1社は人民元建て決済を利用しており,その数は今後も増加すると予測される。MASのリョン総裁補佐は,「今後も人民元の国際化は発展し,アジアの金融図式を大きく変える可能性がある。金融センターであるシンガポールは,早急に人民元取引への対応力を向上させ,将来に備えることが重要」と述べている。10月22日には,シンガポールと中国の二国間合同委員会で,相互通貨の直接交換,シンガポール金融機関への「人民元適格外国機関投資家」資格付与と最大500億元の投資枠設定が取り決められた。12月4日には,シンガポール証券取引所(SGX)が,香港証券取引所(HKEX)との人民元建て商品の開発,データセンター連結,規制方針について提携すると発表した。
2013年には,イスラーム金融ビジネス振興策の議論というもうひとつの動きがみられた。3月初旬,MASは同月末に期限を迎えるイスラーム金融ビジネスへの優遇税率を延長しないと決定した。イスラーム金融の世界市場は1兆3000億米ドル規模で,毎年15%前後の拡大をみせており,これについてシンガポールは早くから着目し,2004年から振興策を開始していた。隣国マレーシアはスクーク(イスラーム債)の2001~2013年初頭までの発行額世界シェアが,リンギ建て79.8%,外貨建て12.4%に達するのとは対照的に,シンガポールはSドル建て0.05%,外貨建て0.41%でしかなかった。これはマレーシアがイスラーム国として,当該金融商品がイスラーム法に適法か否かを審議する機能を持ち,認可期間がわずか2週間であるのと比較して,この機能を持たないシンガポールは2カ月かかるなどのデメリットがあるためである。こうしたことから,3月の税制優遇廃止によって,政府がイスラーム金融ビジネスの振興を断念したとの観測も流れた。しかし,4月3日にはMASのン総裁補佐が,「イスラーム金融は金融業の重要な一部で,今後も振興を援助する」と述べ,また,6月4日にもリム・フンキャン通産相が振興は断念せず,イスラーム金融商品の認可,監督,税制などを見直すと表明した。
ビジネス・ハブとしての機能強化資源のない都市国家であるシンガポールは,地の利を生かしたビジネス・ハブとしての機能を,つねに強化してきた。イギリスの『エコノミスト』誌が1月7日に発表した「2013アジア・ビジネス・アウトルック」では,生活コストや不動産価格の上昇,労働力不足などによって,多国籍企業のアジア拠点として魅力が低下しているとも指摘している。しかし,同じく『エコノミスト』誌の世界都市競争力順位でシンガポールは3位に入り,大手会計事務所アーンスト・ヤングの「グローバル化指数調査」でも,香港に次いで2位となっている。こうしたなかで,戦略的なビジネス・ハブ化への試みが続いている。
そのひとつが,宇宙関連産業の育成策である。2月21日,政府は同分野を育成するため,経済開発庁(EDB)傘下に宇宙技術産業局を新設し,研究機関や企業を支援すると発表した。現在,同分野は高付加価値産業として,2012年の関連売上高が87億Sドルを記録し,2万人の雇用を創出している。こうしたなか,シンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリングは,国産商業衛星を設計・開発すると発表し,2015年の運用開始を目指すなど,今後の発展が期待されている。
シンガポールを知的財産取引のハブにする計画も浮上している。4月1日,政府は同取引を戦略的に発展させるための10年計画を発表した。この計画では,知的財産取引を新たな成長分野と位置づけ,その申請,管理,紛争解決などの手段を整備することで,ハブ化を進める方針が示された。
金保管センターとしての強化も,具体的進展をみせている。同分野は2012年10月,金取引の商品・サービス税(GST,消費税に相当)免除が決定してから弾みがついている。たとえば,世界的な貴金属・貴重品の輸送・保管企業であるマルカ・アミットは2年で金保管能力を2倍に,同業のブリンクスは3倍に拡大し,ドイツ銀行は200トンの保管庫を開設,JPモルガンもサービスを開始している。この動きは,2008年以降の世界的な金融経済危機を受けて金の現物保有が急増する一方で,欧州の保管センターであったスイスが各国政府に口座情報を開示し,アジアの保管センターであった香港も中国の政治的影響を受けはじめたと考えられていることも関係している。シンガポールは,現在はロンドンで値決めされている金価格についても,アジア時間帯の参考価格算出機能を誘致すべく,ロンドン貴金属市場協会との協議を開始するなど,アジアの金取引ハブを目指している。
伝統的に強みを発揮してきた空運・海運ハブの分野も,不断の競争力強化に努めている。チャンギ国際空港は2010年4000万人の取り扱いを突破して以降,2011年4650万人,2012年5120万人を記録している。この能力拡充のため,2月には年間取り扱い能力1600万人が可能な第4ターミナルに13億Sドルの投資が決定され,2017年に完工予定である。また,2020年の完成を目指して第3滑走路の建設も開始され,さらに8月30日には,年間取り扱い能力5000万人の第5ターミナル建設計画が,2025年の完成を目指して始動すると発表された。これによって,現在の取り扱い能力である年間7000万人は,2017年8500万人,2025年1億3500万人まで拡大する。これについてテオ・チーヒエン国務相は,「迅速に行動することで,拡大するアジア航空市場でのシェアを確保する」としている。このほか4月11日には,港湾競争力をいっそう強化するための施策も発表された。その内容は,港湾税の20%割り戻しや引き下げ,トン税の50%割り戻し,環境対応型シンガポール船籍の登録税75%引き下げ,クリーン燃料・汚染抑止技術使用船への入港税引き下げなどである。これにより,シンガポールに入港する船舶の83%はコストが低下すると予測され,世界的な港湾競争力が強化される。
近年,シンガポールの争点となっているのが,外国人労働力の大量流入による人口急増と,これによるインフラの逼迫である。シンガポールは,外国人労働力を社会のさまざまな分野で活用することで,その社会活力を維持してきた。しかし,近年は単純労働だけでなく,専門性の高い職域でも外国人の流入が進み,国民との雇用競争から社会の不満が高まっていた。また,外国人労働力流入による人口増加は各種インフラの逼迫をもたらし,社会問題となっている。
こうした問題への関心が高まるなか,政府は1月29日に,2030年の総人口を650万~690万人と予測した『人口白書:活力に満ちたシンガポールのための持続可能な人口』を公表した。仮定では少子高齢化で人口減少が2025年から始まるとし,これを避けるため,(1)住宅,出産,育児,ライフ・ワーク・バランス,育児休暇などの改善による結婚・出産奨励措置(2013年度予算20億Sドル計上)を導入する,(2)永住者人口を50万~60万人に設定して,永住権を毎年3万人に付与,さらに毎年1万5000~2万人の永住者に市民権を付与する,としている。これにより2030年の人口は,居住者420万~440万人(国民360万~380万人+永住者60万人),外国人230万~250万人と予測している。なお,現状から150万人前後の人口増を見込むと,現在も逼迫する住宅やインフラはさらに不足するため,白書は住宅70万戸の建設や都市輸送網の敷設距離を2倍に拡大することなども打ち出している。
この白書が出された背景は,シャンムガム外相兼法相が述べるように,「起こりうる状況について議論を活発化させる」ことであった。すなわち,人口増加率は2009年来最低の1.6%,年齢65歳以上の高齢者比率も11.7%まで拡大して人口減少が進む一方,外国人の流入制限により労働活力が低減するなかで,避けては通れない問題を現時点から検討するという戦略的な目的がある。
人口白書の国会議論は,2月4日から5日間行われ,4日には意見を述べた議員の多くが国民人口の減少によるアイデンティティ希薄化を懸念,5日には労働者党(WP)が対案を提出して批判姿勢を強調した。議論総括ではリー首相が,外国人労働力の流入抑制,市民権付与の抑制,永住者人口の50万人前後維持などを表明し,政策全体は2020年を目途に見直すとも言及した。承認議決では与党77人が賛成したものの,野党全員と指名議員の一部13人が反対票を投じた。国民の間でも白書と政策への批判は根強く,2月16日にはホンリム公園に設置され有名無実となっていた「スピーカーズ・コーナー」(国民が自由に意見を述べることができるとする場所)に4000人もの市民が集まり,12人の代表が批判意見を展開するという,シンガポールでは珍しい光景もみられた。
継続する外国人労働力の流入規制近年のシンガポールで議論の的となってきた外国人労働力については,2013年も流入規制が強化された。1月12日,ターマン・シャンムガラトナム副首相兼財務相は,企業には労働需給逼迫と人件費上昇は懸念事項であり,「コスト面での支援策は講じるが,外国人労働力の流入規制は緩めない。経済構造を再構築しなければ,5年後も労働力は逼迫したままで企業も影響を受ける。痛みを伴う移行であっても継続する」として,外国人労働力への依存軽減を進めると同時に,生産性向上と高付加価値産業への移行推進を明言した。
これに先立つ1月10日に人材省は,(1)外国人向け就業ビザの「就業パス」(EP),「Sパス」(SP),「ワークパーミット」(WP)の申請・発給・更新手数料を4月1日から大幅に引き上げる,(2)外国人労働者雇用税を2013年7月から2年で段階的に引き上げる,(3)外国人労働者の全従業員に対する割合を45%(2012年には50%)から40%に引き下げる,(4)SPの審査基準を厳格化して雇用枠を縮小する,(5)SPとEPの賃金基準を引き上げる,(6)外国人起業家向け「アントレ・パス」の審査要件を強化する,などを決定した。さらに,9月23日にはEPの基準賃金引き上げを含む規制再強化が発表された。
この規制強化に対して,2月上旬にはシンガポール・ビジネス連盟,中小企業協会,日本を含む9つの外国商工会議所が,労働者不足の深刻化を懸念する要望書を提出した。3月の予算審議では,国民に公平な雇用機会を与えるべきとの主張がある一方で,流入抑制によってシンガポールが外国人嫌いになりつつあるとのイメージを払拭し,優秀な人材を歓迎するメッセージを発信すべきとの議論も出た。リー首相もこの点を懸念しており,5月1日のメーデー演説では,「ビジネスや海外人材を歓迎していないという誤ったシグナルを送るべきではない。シンガポールのコストは低くないが競争力と活力に満ち,プレミアムを支払う価値があるという名声を維持すべき」と述べた。
しかし,規制強化によって低賃金の非熟練労働者が不足し,雇用の需給ギャップも深刻化している。たとえば,2012年9月の調査では6カ月以上も埋まらない非熟練労働者向け求人は4割近くとなり,2013年半ばの調査でも47%の企業は人材確保が困難という結果がある。政府は人材不足を生産性向上でカバーすることを目指しており,各種支援プログラムや助成基金を用意し,また,6月にはレストラン,小売り,ホテルなどのサービス業で,WPに許可された職種以外の兼務を認めた。しかし,リー首相も5月1日のメーデー演説で認めたように,現在のところ「目覚ましい進展はなく,生産性向上には時間がかかる」のが現実である。
よみがえる過去の弊害シンガポールは東南アジアでも,伝染病,汚職,暴動といった問題を克服し,域内随一の信頼性を獲得することで,強い競争力を維持してきた。ところが2013年に相次いだ事件は,克服したはずの弊害がよみがえった印象を与えた。
そのひとつが,デング熱の流行である。デング熱は熱帯病の一種であり,出血性では死に至る可能性もある。蚊が媒介するため,公衆衛生レベルが密接に関連する問題でもある。これまでもシンガポールでは時々の流行があったものの,基本的にはコントロールに成功していた。しかし,2012年12月からの感染拡大は,2013年1月第4週に入ると過去5年間で最多の267人の新規患者を出し,2月第2週には322人を記録した。合計ベースでは2月中旬1800人,3月末3100人,4月末5200人,5月末8600人,6月初旬9200人が感染し,そのうち25%が入院した。当初は郊外,とくに東部に集中したが,北部や西部にも拡大し,10月には中心部の世界的繁華街オーチャード地区でも18人の感染者が発生した。10月末には1週間で500人が感染するなど拡大し,合計1万8000人以上が感染,6人が死亡した。保健省(MOH)はペスト・コントロールを強化し,国家環境庁(NEA)は家屋立ち入り検査などを実施したが,感染拡大を阻止できなかったことは,公衆衛生的にきわめて安全というシンガポールの信頼性を,大きく損なうものであった。
近年では汚職の頻発も問題となっている。2012年は中央麻薬取締局の現職・前任の長官や,シンガポール国立大学法学部教授による不正容疑が発覚して話題となったが,2013年7月には首相直属の汚職調査局(CPIB)の若手幹部が,170万Sドルの公金横領や局所有車の不正流用などで告訴された。この幹部は,横領資金をカジノで浪費しており,その職位とあわせて波紋を呼んだ。10月には外務省儀典局長が贈答品経理を不正操作し,8万9000Sドルを横領した容疑で逮捕されている。このように相次ぐ不正疑惑の是正のため,人事院は財務,調達,業界監督の地位にある公務員の定期異動や長期休暇取得の義務化を導入した。
しかし,もっとも衝撃的であったのは,12月に発生した暴動であった。これは12月8日夜,観光地としても有名なリトル・インディア地区にて,バス事故でインド人労働者が死亡したことを契機に,南アジア系の外国人労働者400人以上が起こしたもので,9台の警察・救急車両が破壊・放火され,警官18人が負傷した。警察は特殊部隊とグルカ兵部隊300人を投入して鎮圧した。リー首相は「重大な事件で,発端が何であれ暴力・破壊といった犯罪は許されない。必ず犯人を特定して法の下に裁く」と述べた。逮捕・起訴された外国人労働者は28人に上り,このほか53人が国外退去処分となった。この事件は,1969年以降は暴動のなかったシンガポール社会に大きな衝撃を与えた。しかも,2012年に発生した26年ぶりの大規模ストライキ事件と同様に,外国人労働者によって引き起こされたという点でも,国民からの強い反発を招いている。外国人労働者と国民の軋轢に苦慮する政府は事態を重視し,リー首相は事件翌日の9日,Facebookで「今回の暴動が外国人労働者への差別につながらないように」と国民に訴えた。
都市国家のシンガポールにとって,外交は国際社会での生存を確かにするための手段である。シャンムガム外相兼法相は,「領土は小さいが,経済と政治の成功や外交努力によって,国際社会でも存在感をもっている。外交はシンガポールの安全保障にとって重要である」(8月5日)と述べている。この発言が象徴するように,シンガポールは国連やASEANでも積極的に活動し,30以上の国・地域と自由貿易協定を結ぶなど,活発な外交活動を繰り広げている。
こうしたなかで2013年に特筆すべきは,日本との往来が活発であった点である。1月11日には,岸田文雄外相が東南アジア歴訪の途中でシンガポールを訪問し,リー首相やシャンムガム外相兼法相と会談した。岸田外相は,ASEAN有力国であり地域経済ハブでもあるシンガポールとの関係重視を表明し,シンガポール側からは日本のリーダーシップ発揮への期待が表明された。3月13日には,訪日したゴー・チョクトン名誉上級相(前首相)が安倍首相と会談し,日本の環太平洋経済連携協定(TPP)参加やASEAN関与強化を支持する発言があった。さらに5月21~24日には,リー首相が日本を公式訪問し,22日には安倍首相との会談が行われた。シンガポール側は2002年に締結した経済連携協定(EPA)の抜本的改善を要請すると同時に,日本のTPP協議参加は「きわめて望ましい」と評価した。
7月26日には,安倍首相が日本の現職首相としては11年ぶりにシンガポールを訪問し,リー首相と会談した。席上では,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やTPP交渉推進への連携が確認され,日本側からは憲法改正や集団的自衛権の行使容認について説明があり,安全保障分野での協力拡大でも合意した。この訪問にあわせ,日本銀行とMASは金融協力協定を締結した。
さらに12月中旬にはリー首相が,日本とASEANの友好協力40周年を記念する「日・ASEAN特別首脳会議」出席のため再訪日し,13日には安倍首相と会談した。この席上では,2014年5月開催予定の「アジア安全保障会議」(通称「シャングリラ・ダイアローグ」,国際戦略研究所[イギリス]主催)への安倍首相参加が実現する運びとなり,そのほかに航空サービス協定自由化,東アジア情勢などについての意見交換が行われた。
近年にないほど活発な動きをみせた2013年の日本とシンガポールの外交は,シンガポール側からすると,安倍政権の誕生によって日本が経済的・外交的な復活を遂げる可能性を考慮したうえで,関係を強化したいという思惑がある。日本側からすると,とくに対中関係が緊迫化するなか,一部加盟国が同様の問題を抱えるASEANとの連携を目指すうえで,域内外交に影響力のあるシンガポールとの関係強化が必要であると判断したものである。
対米・対中関係2011年以降,アメリカは台頭する中国を念頭にアジア太平洋への再シフトを開始したが,その動きは安定していない。こうしたなかでシンガポールは慎重なバランス外交を行っている。
4月2日,訪米したリー首相はワシントンでオバマ大統領との会談に臨んだ。このなかでリー首相は,アメリカのアジアへのいっそうの関与を歓迎し,これをシンガポールも支援すると述べた。この後の共同記者会見では,オバマ大統領が二国間関係を「特別なものであり,傑出した経済パートナー」と述べ,「アメリカとアジア諸国が安全保障と経済繁栄を得るための助言をシンガポールに求める」との強い表現を用い,期待を表明している。とくに両国間では経済のみならず,地域における安全保障政策でも密接な関係があることは,周知の事実である。
安全保障面では,4月18日には,2011年に発表されていた米海軍の最新鋭沿岸海域戦闘艦(LCS)のシンガポール常駐について,その1隻目が配備された。12月には中国が東シナ海上空に設定した「防空識別圏」について,訪米したン・エンヘン国防相とヘーゲル国防長官が会談後,両国は深い懸念を共有していると表明した。なお,11月にはオーストラリア紙の報道によって,アメリカとオーストラリアによる対インドネシアおよび対マレーシアの盗聴工作に,シンガポールが便宜を図っていた事実も明らかとなった。
一方で,リー首相は8月25~31日の日程で中国を公式訪問している。26日には李克強首相と,二国間の政治関係進化,ASEAN・中国自由貿易協定の見直しなどを話し合った。リー首相は同日に習近平国家主席とも会談している。しかし,この席上では習国家主席が,「中国の重大な関心事についてASEANが理解し,支持するように求める」と発言して関心を集めた。この発言は,東シナ海と南シナ海で中国が引き起こしている摩擦を念頭に,中国への支持を明確化するよう,従来よりも一歩踏み込んだ要求をしたといえる。これに対してリー首相は,二国間関係の持続的発展に期待を表明し,「シンガポールは中国とASEANの関係発展のためにも,積極的役割を果たす用意がある」と述べるにとどまった。
マレー半島の高速鉄道計画2013年は,シンガポールとクアラルンプールを結ぶ高速鉄道計画で具体的な進展がみられた。2月19日,シンガポールを訪問したマレーシアのナジブ首相は,リー首相と会談し,2020年までに高速鉄道の完成を目指すことで合意した。12月6日には,両国が建設推進合同委員会の設置で合意し,2014年には具体的計画を発表する見通しとなった。
現在のところ,両国政府がインフラ建設を資金援助し,運営は民間委託する官民パートナーシップ(PPP)方式が構想されている。総工費は,マレーシア政府試算で300億~400億リンギ(約900億~1200億円)を想定し,途中5駅(スレンバン[ヌグリスンビラン州],アイル・クロー[マラッカ州],ムアル[ジョホール州],バト・パハ[同],イスカンダル[同])が設置見込みとなっている。
運営委託業者には,マレーシアのUEMグループとアラ・グループによるコンソーシアム,YTLグループ,DRBハイコムなどが参入を企図していると伝えられる。インフラやシステムの納入を目指して日本企業も早期から動いており,2月5日にはJR東日本もシンガポールに事務所を開設している。こうした動きには日本政府も支援を表明しており,12月に訪日したリー首相が安倍首相と会談した際にも高速鉄道が話題となった。リー首相は,「日本には新幹線技術があり,高速鉄道計画にも関心がある。高品質で信頼性の高い技術を誇っており,シンガポールは日本の提案を歓迎する」と表明している。
その他の注目事項多方面との貿易・投資関係を重視するシンガポールは,各国・地域とのFTAやTPPに積極的である。たとえば,日本のTPP交渉参加について,シンガポールは早期から支持を表明していたが,4月の日本政府による交渉参加表明を受けて,「地域の経済成長を刺激する協定において,日本は重要なパートナーになると確信する」との歓迎声明を出している。また,11月7日には,交渉に時間を要していた台湾とのFTAも締結された。これにより,シンガポールから台湾への輸出品目の97%は関税が即時撤廃,残りは3年以内に順次撤廃され,台湾からシンガポールへの輸出品目の100%が無税となる。
このほか,シンガポールは9月11日,ベトナムと戦略的パートナーシップ協定を締結した。これはアメリカ,フランスに次いで3番目であり,内容は,政治,経済,軍事,安全保障などの各分野で,二国間関係を強化するものである。シンガポールはベトナムからみて2番目の投資国であり,経済面では工業団地の開発,航空分野の市場開放,金融分野での技術協力を促進し,今後の観光,貿易,投資の拡大を目指すとしている。軍事面では演習などの交流強化,政治面では両国首脳のホットライン開設や政府機関交流を促進するとしている。
2013年のシンガポールでもっとも大きな出来事は,従来の国家運営モデルを修正する動きが,明確に確認されたことである。それまでの低コスト・効率優先のあり方から,社会のバランスや富の再分配を重視したあり方に転換すると宣言したことは,少子高齢化や価値観の多様化に直面する社会の現実を反映している。
無論,資源のない都市国家シンガポールは,生存のための発展と拡大を維持する必要に迫られている。したがって,PAPが主導する秩序ある統治という基本自体には変化がなく,急速な社会体制の変化は考えにくい。しかし,国家指導層は,諸条件の変化から将来的な国のあり方に変容が避けられないことも認識している。
このようななかで,シンガポールの将来を占ううえでも,2014年は前年に明確化された大きな方向性の修正とともに,政治・経済・社会の各方面で,どのような具体的政策が実施されるのかが注目される。
(在香港海外派遣員)
1月 | |
10日 | 人材省,外国人労働者への新規制を発表。 |
11日 | 岸田外相,来訪。リー首相,シャンムガム外相兼法相と会談。 |
12日 | 国家開発省,通算7回目となる不動産価格抑制策を実施。 |
14日 | ハリマ・ヤーコブ前国務相,初の女性国会議長に選出。 |
18日 | コー国家開発相,2016年までの住宅20万戸供給を表明。 |
26日 | パンゴール・イースト選挙区の国会議員補欠選挙で労働者党が勝利。 |
29日 | 人材省,人口白書を公表。 |
2月 | |
14日 | 地下鉄(MRT)ニュートン駅で火災。 |
16日 | ホンリム公園で4000人の市民が人口白書を批判する集会に参加。 |
19日 | マレーシアのナジブ首相,来訪。リー首相と会談。両国間高速鉄道の建設で合意。 |
21日 | 経済開発庁,宇宙関連産業の支援育成策を発表。 |
25日 | 政府,2013年度予算案を国会に提出。 |
26日 | 経済開発庁,1月工業生産高は前年同月比0.4%減と発表。 |
3月 | |
1日 | 国家開発省,ホテル・商業用地開発税の大幅引き上げを実施。 |
4日 | クレメンティ・ロードで道路陥没事故が発生。 |
11日 | ターマン副首相兼財務相,中小企業支援策の詳細発表。 |
13日 | ゴー・チョクトン名誉上級相(前首相),訪日し,安倍首相と会談。 |
26日 | 統計局,2月消費者物価指数は前年同月比4.9%上昇と発表。 |
4月 | |
1日 | 政府特別委員会,知的財産取引ハブの形成にむけた振興計画を発表。 |
2日 | リー首相,訪問先のワシントンでオバマ大統領と会談。 |
3日 | ンMAS総裁補佐,イスラーム金融ビジネス振興策を継続と表明。 |
11日 | 運輸省,港湾競争力の強化に向けた優遇策を発表。 |
12日 | 通産省,第1四半期国内総生産は前年同期比0.6%減と発表。 |
18日 | 米海軍,沿岸海域戦闘艦(LCS)1隻目をシンガポールに配備完了。 |
5月 | |
11日 | 当局,マーライオン公園で不法集会に参加したマレーシア人21人を逮捕。 |
22日 | リー首相,日本を公式訪問。安倍首相と会談。 |
27日 | 中国工商銀行シンガポール支店,オフショア人民元決済サービスを開始。 |
28日 | 通信・情報省,ニュースや分析記事を掲載するウェブサイトへの新規制を発表。 |
6月 | |
4日 | リム通産相,イスラーム金融ビジネス振興策の見直しを表明。 |
24日 | 政府,ピーク時のMRT混雑緩和のため,一部駅での早朝通勤無料化を開始。 |
27日 | 経済開発庁,5月の工業生産高は前年同月比2.1%増と発表。 |
7月 | |
5日 | リー首相,「経済競争力を維持するには政治安定が重要」と発言。 |
15日 | 米格付け機関ムーディーズ,シンガポール銀行セクターの中期格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げ。 |
21日 | 路線バスの横転事故で乗客1人が死亡。 |
26日 | 安倍首相,来訪。リー首相と会談。 |
8月 | |
1日 | 人材省,6月失業率は2.1%と発表。 |
5日 | リー首相,サンクトペテルブルクで開催されたG20首脳会議にゲスト出席。 |
8日 | リー首相,公正な社会を構築するため政府の役割を拡大すると発言。 |
11日 | ゴー名誉上級相,転換点のシンガポールは政府と国民の新しい合意が必要と発言。 |
12日 | 通産省,第2四半期国内総生産は前年同期比3.8%増と発表。 |
19日 | リー首相,国家運営モデルについて,「これまで我々を導いた道筋とは異なる道であり,もはや後戻りはない」と発言。 |
26日 | リー首相,訪問先の北京で習近平国家主席,李克強首相と会談。 |
30日 | テオ国務相,チャンギ国際空港第5ターミナルの建設計画を発表。 |
9月 | |
1日 | 内閣改造が実施される。 |
10日 | リー首相,アジア金融危機の再発はないと言明。 |
11日 | リー首相,ハノイでグエン・タン・ズン首相と会談し,戦略的パートナーシップ協定を締結。 |
16日 | リー・クアンユー元首相,90歳の誕生日を迎える。 |
24日 | 統計局,8月消費者物価指数は前年同月比2.0%上昇と発表。 |
10月 | |
6日 | リー首相,米政府機関の一部閉鎖はアメリカの政治システムに有益ではないと発言。 |
7日 | リー首相,バリ島で開催のAPEC首脳会議に参加。 |
14日 | MAS,金融政策会合で為替政策の現状維持決定。 |
22日 | シンガポール・中国の二国間合同委員会,通貨直接交換などで合意。 |
24日 | 統計局,9月消費者物価指数は前年同月比1.6%上昇と発表。 |
11月 | |
5日 | ハッカー集団アノニマス,シンガポールへの攻撃を呼び掛け。 |
6日 | リー首相,ハッカー集団の攻撃には断固とした法的措置をとると明言。 |
7日 | シンガポールと台湾の自由貿易協定(FTA)締結。 |
11日 | 都市再開発庁,10~15年先までの国土開発基本計画案を発表。 |
21日 | 通産省,通年経済成長率予測を3.5~4%に上方修正。 |
25日 | 統計局,10月消費者物価指数は前年同月比2%上昇と発表。 |
12月 | |
4日 | シンガポール証券取引所と香港証券取引所,人民元建て商品の開発などで提携と発表。 |
6日 | シンガポールとマレーシア,高速鉄道建設推進合同委員会の設置で合意。 |
8日 | リトル・インディア地区で400人規模の暴動が発生。 |
10日 | リー首相,韓国を公式訪問。 |
13日 | リー首相,訪日中の東京で安倍首相と会談。 |
23日 | 統計局,11月消費者物価指数は前年同月比2.6%上昇と発表。 |