アジア動向年報
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アメリカとアジア 「内向き」になる第2期オバマ政権と揺れる「アジア回帰」
松本 明日香
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2014 年 2014 巻 p. 9-22

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概況

オバマ政権は第1期中頃より対中牽制的な「アジア回帰」政策を重視しはじめたが,第2期である2013年には議会の紛糾による「決められない政治」のもとで,軍事面での対外介入を避ける「内向き」の姿勢をみせ,「アジア回帰」政策は通商重視の対中関与的なものへと変質していった。

2012年大統領選挙で勝利したバラク・オバマは,2013年1月に2期目の政権を発足させたが,就任演説で優先政策課題として掲げたのは,国内経済の再生と財政再建であった。次いで,2013年2月の一般教書演説では北朝鮮ミサイル・核問題や中東情勢に触れつつも,安全保障上の中国問題は後回しにした。オバマ政権は通商上の対中関与政策を重視し,2013年6月には米中首脳会談を開催した。しかし,10月には17年ぶりに政府機関の一部閉鎖へと陥り,オバマ大統領のアジア歴訪はキャンセルされ,アジア外交の要とされる環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の合意も先延ばしされた。また,11月以降には中国による防空識別圏(ADIZ)の設定を非難する姿勢を見せたが,撤回要求にまでは踏み込まなかった。

政府の一部閉鎖と強制歳出削減

2010年および2012年議会選挙の結果,2012年に引き続き2013年も,大統領と上院は民主党,下院は共和党が過半数を占めるねじれ構造となった。そのため,減税失効と歳出の強制削減が重なる「財政の崖」回避のための議会上下両院交渉が,2013年1月1日までもつれ込んだ。

オバマは2013年1月21日,2期目大統領に就任したが,支持率は50%強で,1期目就任前後の70%弱および,歴代大統領の2期目就任平均の約55%よりも低いものであった。政権基盤が弱体化するなか,就任演説で優先課題として掲げたのは,国内経済の再生と財政再建であったが,強制歳出削減凍結について両党合意に至らず,結局,オバマ大統領は3月1日に強制歳出削減措置に署名した。

オバマ政権は歳出削減を進めはじめた2012年にアジア太平洋地域にリバランスする(比重を移す)新国防戦略を発表したが,今回,強制削減の発動で想定以上の国防費削減が求められている。イラク,アフガニスタンの2つの戦争が終結に向かうなか,国防費削減も可能だとの見方もあるが,北朝鮮やイラン,テロリストの脅威が残されているとも指摘されている。ヘーゲル国防長官は国防費の強制削減が続いた場合,「より大きなリスクを抱える」と表明している。

2013年度予算の削減項目を医療福祉にするか,軍事費にするかについて,両党は膠着状態に陥り,10月には政府機関の一部が閉鎖となった。その結果,後述するようにオバマ大統領は予定していたアジア外遊とアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会談などへの参加をキャンセルすることとなり,「アジア回帰」政策に躓きがみられた。幸い,上下院は10月16日に一時的な妥協を見せ,暫定予算が同意され,政府の債務上限を引き上げ,政府機関の一部閉鎖も解消した。暫定予算に関しても,12月18日,上院本会議で,超党派の財政協議の合意に基づく修正予算決議案が賛成多数で可決され,期限が切れる2014年1月に政府機関が再閉鎖される事態は回避された。

外交担当者の異動

第2期オバマ政権発足に伴い,国務長官には第1期オバマ政権の「アジア回帰」政策を担ったヒラリー・クリントンに代わり,ジョン・ケリーが1月24日に指名された。ケリー国務長官は2004年大統領選挙では民主党の大統領候補であり,その後2009年から4年間上院外交委員長を務め外交通といわれる。1月24日,上院外交委員会の国務長官指名承認公聴会で,中国について「世界の経済大国であり,関係強化は重要だ」と強調したものの,アジアよりは中東やヨーロッパに傾斜する傾向がある。訪問回数も欧州はイギリス7回,フランス6回など,中東はイスラエル5回,パレスチナ7回などと頻繁であるのに対して,アジア太平洋は中国1回,日本2回,韓国1回と少なかった。

国務長官の交代とともに,東アジア・太平洋担当の国務次官補には,第1期オバマ政権でアジア太平洋への戦略的リバランス政策の策定に深く関わったカート・キャンベルに代わり,同策定に加わっていたダニエル・ラッセルが選出され,「アジア回帰」政策を継続する姿勢は示された。ラッセルのアジア経験としては,2009年1月に国家安全保障会議に加わる前,国務省日本部長を務めたほか,駐大阪・神戸総領事や,在韓大使館政治部主任がある。

駐日大使に関しては,ジョン・ルースの退任に伴い,後任にキャロライン・ケネディが指名され,10月16日に上院で承認された。初の女性駐日大使であり,1963年に暗殺されたケネディ元大統領とジャクリーン夫人の間の子供のうち,ただひとりの存命者でもある。政治・外交経験の少なさが危ぶまれるが,2008年選挙で叔父の故エドワード・ケネディ上院議員とともに当時上院議員だったオバマ候補への支持を表明してオバマ勝利の流れをつくり,オバマ大統領に直接のパイプがあるとされる。

駐中大使に関しては,12月20日,オバマ大統領はロック駐中国大使の後任として,民主党の通商畑の重鎮マックス・ボーカス上院財政委員長を指名した。アメリカの対中貿易赤字は年間3000億ドル台と過去最大の水準であるが,ボーカス議員は上院で通商政策を所管する財政委員会のトップとして,中国に対し人民元改革などを求めたり,世界貿易機関(WTO)加盟を後押ししたりしてきた。また,ボーカス議員は議会でTPP推進の旗振り役も務めてきた。

日米同盟の強化

アメリカは対中関与政策を進める一方で,日本とは同盟関係を強化していった。10月3日,日米外交・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(SCC:2プラス2)は,「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」を見直し,2014年末までに再改定することに合意した。1997年に行われた前回の改定は朝鮮半島有事を念頭においていたが,再改定では平時に主眼がおかれ,領海侵入を繰り返す公船との衝突や不法上陸を課題として,情報収集・警戒監視・偵察(ISR)の相互運用性および日米での情報共有を促進することが特記された。

また,2プラス2共同文書では,アジア太平洋地域およびこれを超えた地域における安全保障および防衛協力の拡大を念頭においている。北朝鮮の核・ミサイル開発や周辺国の海洋進出などを受け,日米共同での抑止・対応能力を高めていくため,弾道ミサイル防衛協力や,防衛装備や技術協力,オーストラリアや韓国との同盟強化,新たな安全保障空間であるサイバー・宇宙空間での日米協力を掲げている。また,米軍再編の一環として,在沖縄米海兵隊のグアム移転,沖縄の基地負担軽減策なども言及した。

さらに,2013年末には日本の安全保障において重要な政策が相次いで実現した。国家安全保障会議(日本版NSC)が12月4日に設立され,これを受けて,2014年1月には内閣官房にNSCの事務局である「国家安全保障局」が設置されることとなった。NSCの発足に続き,日本政府は初の「国家安全保障戦略」(NSS)の策定と新たな「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防)の見直しを行い,12月7日に閣議決定した。また,安倍政権は,外国と情報を交換するNSCの創設と,国会での審議が難航した「特定秘密保護法案」は一体の関係にあるとしている。NSC発足に対して,アメリカ政府・有識者は歓迎の意を示している。駐日アメリカ大使館のカート・トン首席公使は,アメリカは同法案成立により日本を「より強力な同盟国」と評価していると発言した。

米軍再編の一環として,日米両政府は2022年度あるいはそれ以降に普天間基地を返還することで4月5日に合意し,2プラス2共同文書においても在沖縄海兵隊のグアム移転を2020年代前半に開始すると明記した。米議会は2012 会計年度および 2013会計年度において日本側が拠出した資金を含むグアム移転関連事業費の執行を凍結していたが,日本側の変化を受けて,12月21日に2014 会計年度予算で日本側拠出のうち約1億1400万ドルの執行,およびアメリカ側による8600万ドルの支出を認める法案を可決した。

なお,オバマ政権は,尖閣諸島については(1)特定の立場をとらない(中立的立場),(2)日本の施政権を認める,(3)尖閣を日米安保条約の適用対象として条約の義務を履行する,と表明するとともに,日中双方に平和的解決を求めている。(2)と(3)に関しては,2013年1月2日にオバマ大統領が署名し,3日に議会で可決した2013会計年度国防授権法に,「日本の施政権を認めるというアメリカの立場が第三国の一方的行為により影響を受けることはない」と明記されている。18日,クリントン国務長官は「日本の施政権を害しようとするいかなる一方的行為にも反対する」旨の発言をしていた。

1月3日に,東シナ海において中国海軍艦船が日本の海上自衛隊護衛艦に対して火器管制レーダーを照射するという事件が起こったが,日米両政府は外務・防衛当局の審議官級協議を開催し,情報や分析結果を共有するとともに,中国軍の活動活発化をふまえ,日米間の今後の連携強化を確認した。また,中国が11月23日に防空識別圏(ADIZ)を東シナ海上空に設定したと発表したが,即座にアメリカ政府は反対を表明した。バイデン副大統領は12月3日,安倍晋三首相と会談を行い,12月4~5日の訪中で懸念を伝える考えを示した。ただし,オバマ政権は同設定の撤回までは求めなかった。

安倍政権に対する期待と懸念

オバマ政権は「アジア回帰」の枠組みのなかで,アベノミクスやTPP参加などの経済・通商政策を歓迎し,財政削減に伴う同盟国の軍事費負担の観点から先述の日本の安全保障政策の増強を歓迎する一方で,協調主義的な観点からアジアでの諸国間関係に懸念を示している

TPPに関して,安倍首相は2月22日にワシントンでオバマ大統領と会談した際,TPP交渉参加に前向きな姿勢を示し,3月15日にTPP交渉参加を表明した。アメリカは,日本の参加によってTPP参加国のGDP総額が世界の4割を占め,重要性が格段に大きくなるとして支持をし,4月12日には第1回日米協議の合意が発表された。また,アメリカはとくに自動車,保険その他の非関税措置の分野でTPP交渉と並行して進められている日米二国間交渉を重視している。

一方で,アメリカは,歴史問題が,それぞれ同盟を結んでいる日本と韓国との日米韓協力を阻害することを懸念している。たとえば安倍内閣閣僚の靖国神社参拝に反発して韓国の尹炳世外相が訪日を中止したことに関し,4月22日,国務省のベントレル副報道官代行は記者会見で,日韓政府に冷静な対応を促した。また,10月3日には,ケリー国務長官とヘーゲル国防長官がともに千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ,暗に靖国参拝を牽制していた。そのなかで行われた12月26日の安倍首相の靖国神社参拝に関して,アメリカ政府は同日,中韓両国との関係悪化をもたらすもので「失望している(disappointed)」と駐日大使館の声明を通じて表明した。

中国との首脳会談

2013年半ば,アメリカは中国との対話を重視する姿勢を強めた。6月7~8日,オバマ大統領と中国の習近平国家主席は,習氏就任後初めて会談を行った。両者は北朝鮮情勢で制裁強化など具体的措置をとることで合意した。習国家主席はTPPについて交渉の進展に合わせた情報提供を要請し,情報提供のための協議枠組みを設けることを両者は申し合わせた。オバマ大統領は尖閣諸島をめぐる日中対立を外交的対話で解決する必要性を強調したほか,中国からアメリカ企業へのサイバー攻撃に懸念を表明した。習国家主席は調査を約束し,両者は共通ルールづくりを急ぐことで一致した。

一方で,同時期に,香港において元中央情報局(CIA)職員であるエドワード・スノーデンが国家安全保障局(NSA)による通信上の個人情報収集(PRISM計画)と,中国や日本を含む諸外国への諜報活動内容を告発したことで物議を醸した。

首脳会談の翌月7月10~11日には米中の主要閣僚による第5回「米中戦略・経済対話」がワシントンで行われた。戦略分野で91項目,経済分野で70項目の成果が発表され,両国間で緊張が高まるサイバー攻撃問題,中国国内の「影の銀行」問題,シリアなどの地域問題など,対話の領域が拡大された。

11月20日,スーザン・ライス大統領補佐官はワシントンでの講演で,米中両国の「新大国関係」構築への意欲を示し,米中で世界を取り仕切るG2論に言及した。ただし,12月4日にライス大統領補佐官は「人権」を「アメリカの利益と価値」とするスピーチを行い,人権問題では中国を暗に牽制した。

対北朝鮮政策における米中協力

2013年初頭は北朝鮮をめぐって,オバマ政権はアジア外交を展開するなかで,米中協力を活発化させた。2012年12月に行われた北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射を受けて,2013年1月には米中は北朝鮮への制裁を強化する国連安保理決議案を採択することで合意した。また,中国は北朝鮮の核実験予告に対して,その動向に強い懸念を持っていると表明し,北朝鮮に自制を求めていた。

4月13日にケリー国務長官は北京で習近平ら指導部と会談して,北朝鮮への影響力行使を求めた。4月23日には,訪中していた米軍のデンプシー統合参謀本部議長が習国家主席と常万全国防相と会談し,両国のいっそうの連携を呼び掛けた。

南シナ海・東シナ海での対中牽制

アメリカは議会の紛糾や対外介入に批判的な「内向き」な国内世論動向に拘束されてきているが,南シナ海や東シナ海においては対中牽制的な姿勢を示している。5月6日,国防総省は中国の軍事力に関する議会向け年次報告書で,中国政府が尖閣諸島周辺を中国領とする独自の直線基線を設定したことを「不適切」と断じ,尖閣諸島周辺海域での領海侵犯とあわせ,「国際法に合致しない」と批判した。6月19日,議会の諮問機関「米中経済安保見直し委員会」は,中国海軍がアメリカなど他国の排他的経済水域(EEZ)で活動を拡大しているとの報告書を公表した。6月25日,上院外交委員会は,尖閣諸島周辺や南シナ海で領有権を主張し示威行動を活発化させている中国を非難する決議案を全会一致で可決した。

日韓の防空識別圏(ADIZ)と重なる東シナ海上空での防空識別圏が事前協議なしに中国によって設定されたことに関して,ケリー国務長官は11月23日,「アメリカは領空に入る意思のない外国機にADIZの規則を適用しない」と述べ,中国の立場に同意できない旨の発言をしている。国防総省は,米軍のB-52戦略爆撃機2機が26日,中国が東シナ海に設定した防空識別圏内を,事前通報を行わず訓練飛行したことを明らかにした。バイデン副大統領は12月6日,韓国の延世大学の講演で,中国が設定した防空識別圏に関し,習国家主席ら中国指導部と会談した際に,「同盟国の日韓に対するアメリカの防衛義務を明確に伝えた」と発言した。ただし,長時間に及んだ会談の主な議題は米中協力であった。

一方で,国務省は11月29日,「国際線を運航するアメリカの航空会社は(航行先の)各国当局の航空情報に従って運航するものだ」と,民間航空会社が中国の求める飛行計画提出に従うことは妨げない考えを示した。カーニー大統領報道官は12月3日の記者会見で,中国に対し「運用しないよう求める」と述べたものの設定の撤回は要請しなかった。

米韓通商・同盟の強化

アメリカは韓国と通商および安全保障両面での連携を深めた。通商面に関しては,通商代表部(USTR)によると,2013年は韓国経済の低迷によって韓国の輸入が落ち込んでいるなかで,米韓FTAによるアクセスの改善によってアメリカの多くの品目(航空機,医薬品,電気製品,サービス,農産品など)の輸出が好調に推移した。また,4月24日,米韓両政府は,2014年3月で満了となる米韓原子力協定の期限を2年延長し,改定交渉を続けることで合意したと発表した。

安全保障面に関して,2012年末の北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて,アメリカは韓国をはじめとする東アジア諸国との協力関係を強化しようと試みた。キャンベル国務次官補は1月16日,韓国の外交通商省幹部や柳佑益統一相,朴槿恵次期大統領と会談し,北朝鮮をめぐる東アジアの安全保障情勢や対中関係,日韓関係について意見交換した。北朝鮮の3度目の核実験実施を受け,米韓国防当局高官による会合が2月21~22日にワシントンで開かれ,北朝鮮に対し,米韓合同軍事演習の強化などを通じて抑止力を高めていく方針で一致した。4月12日にケリー国務長官は,ソウルで朴大統領や尹炳世外相と会談し,13日に,北朝鮮が正しい選択をすれば,6者協議共同声明を履行する準備があるとする共同声明を発表した。5月7日にオバマ大統領は朴大統領との初会談をホワイトハウスにて行い,北朝鮮問題などについて議論を交わし,8日には朴大統領が上下両院合同会議で演説をした。ヘーゲル国防長官は9月30日に朴大統領とソウルで会談し,10月2日には金寛鎮国防相と定例の米韓安保協議会を開き,北朝鮮による核兵器使用の兆候が把握された場合に先制対応するとの抑止戦略で合意した。また,2013年に実施された複数の米韓合同軍事演習は,韓国軍の戦時作戦統制権が2015年末に米軍主導の米韓連合司令部から韓国軍に移管されることを前にした訓練でもあり,6月1日には同司令部を韓国軍が主導し米軍が支援する組織に改編することで合意された。

北朝鮮のミサイルと核

アメリカは北朝鮮のミサイルと核開発に対して,国連安保理などを通して外交面での制裁などを課した。これにあたって,東アジア諸国との連携を深め,軍事演習を盛んに行ったが,軍事介入は控える姿勢をみせた。1月22日,国連安保理は,前年の北朝鮮によるミサイル発射を非難し,これまでの制裁を拡充・強化する安保理決議2087を全会一致で採択した。安保理は北朝鮮が再びミサイル発射や核実験をした場合は「重大な行動をとる」と警告した。しかしその直後,24日に,北朝鮮はアメリカに対して攻撃的な姿勢を表明した。25日,アメリカのデービース北朝鮮担当特別代表は,6者協議議長を務める中国の武大偉朝鮮半島問題特別代表らと北京で会談し,北朝鮮に核実験の自制を求めることで一致した。

結局,2月12日に北朝鮮の3度目の地下核実験が実施された。これを受け,オバマ大統領は,安保理決議に違反するとし,「北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの計画はアメリカの安全保障ならびに国際的な平和と安全保障に対する脅威をなす」と声明を発表した。3月7日,安保理はさらに制裁を拡充・強化する安保理決議2094を全会一致で採択した。決議は,制裁の対象に初めて外交官を加え,貨物検査も義務化するなど,もっとも厳しい内容となった。

ドニロン国家安全保障担当大統領補佐官は,3月11日,アメリカは北朝鮮を核保有国と認めないと述べたうえで,「4つの原則」,すなわち,(1)日本・韓国との緊密で幅広い協力,および中国新政権との緊密な連携,(2)北朝鮮の挑発行為に報酬を与えない,(3)アメリカ本土と同盟国の防衛を確約する,(4)北朝鮮がより良い道を選ぶことを奨励する,を明示した。実際に10月には日米韓での合同軍事演習が行われたほか,北朝鮮の核問題をめぐる日米韓の実務担当の高官級協議が11月6日,国務省で開かれた。日米韓の3者は,北朝鮮が核放棄に同意した2005年の6者協議共同声明を再確認し,「北朝鮮に,完全かつ検証可能な,すべての核兵器と核計画の放棄を求める」との立場で一致した。

4月にケリー国務長官は,中国,韓国,日本を訪問した。14日に東京で岸田文雄外相と共同記者会見を行い,15日には東京工業大学での講演で北朝鮮について,「日中韓を含む指導者の団結ははっきりしている」と述べ,自制を促した。一方で,オバマ大統領は11日,ホワイトハウスで潘基文国連事務総長と会談し,北朝鮮について,「必要なあらゆる措置をとる」としつつ,事態の外交的解決を目指し北朝鮮への食糧支援の可能性に言及し,対話を否定はしない構えも示唆した。

アジア太平洋地域の多国間関係

オバマ政権は東南アジアなどを中心とするアジア太平洋地域においては,当初より積極的な通商および安全保障両面での「アジア回帰」政策を展開したが,やがて議会での紛糾と中東情勢への注力により「内向き」になっていった。

5月31日~6月2日,シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)にヘーゲル国防長官が出席し,その際,6月1日に日本の小野寺五典防衛相,韓国の金寛鎮国防相と会談して,北朝鮮の核・ミサイル開発と挑発行為を協力して抑止することを確認した。また,6月30日~7月2日にケリー国務長官はブルネイを訪問し,ASEAN地域フォーラム(ARF)などに参加した。

しかし,10月の政府機関の一部閉鎖の結果,オバマ大統領は予定していたマレーシアとフィリピン訪問を中止し,インドネシアのバリ島で開催されたAPEC首脳会議,TPP交渉のための首脳会合,ブルネイで開催された東アジア首脳会議(EAS)を欠席した。オバマ大統領は10月8日の記者会見で,APEC首脳会議などを欠席したことで「世界におけるわれわれの信用を傷つけた」と外交への影響を認めた。代理としてケリー国務長官が一連の首脳会議に出席したが,TPP交渉は合意に至らなかった。また,オバマ大統領不在のAPECでは,中国の意向をふまえ,南シナ海問題で現行の「行動宣言の完全かつ効果的な履行」を再確認する議長声明が採択されるに留まり,中国との協議を進めるための法的拘束力のある「行動規範」は原則論のみ記された。

東南アジア・南アジアでの二国間関係

アメリカはアジア太平洋の地域枠組みに取り組む姿勢を示す一方で,東南アジア・南アジア諸国での二国間関係の強化に取り組んだ。アメリカは,南シナ海領有権で中国と争うフィリピンを支援しており,8月14日,米軍の巡回頻度と規模拡大による抑止強化を目指す新協定の締結に向けた米比の第1回協議をマニラで行い,ヘーゲル国防長官は8月30日,アキノ大統領やガズミン国防相と会談した。ただし,6月28日,フィリピンのガズミン国防相は米軍がスービック海軍基地などを使用する可能性を示唆したが,ヘーゲル国防長官は8月30日の会談後の記者会見で,「恒久的な基地を求めているのではない」と述べた。11月,フィリピンが台風30号に被災した際,ヘーゲル国防長官は原子力空母ジョージ・ワシントンを現地に向かわせた。

オバマ大統領は5月20日,ホワイトハウスで47年ぶりに訪米したミャンマーのテインセイン大統領と会談を行った。また,オバマ大統領は9月27日,ワシントンでインドのシン首相と会談をした。アメリカの新国防戦略とインドのルック・イースト政策を調和させていくことで一致した。

2014年の課題

2014年には議会の中間選挙が行われ,金融緩和縮小が開始される。中間選挙に向け,オバマ政権が内政に集中して,さらに「内向き外交」になる可能性がある。緩和縮小は2013年の景気回復を背景とするが,今後,景気の鈍化や新興国からの投資引き上げによるアジアへの影響が懸念される。

このなかでオバマ政権は輸出を通じた雇用支援を目標として掲げている。2013年にはアジア太平洋とのTPP交渉において頻繁に会合が開催されるも妥結には至らず,また,TPPを成立させるためには,オバマ政権は貿易促進権限(TPA)を議会で通過させる必要があるが,2014年にも引き続き交渉は継続される。アジア太平洋での安全保障面では,強制歳出削減を織り込んだうえで,負担を同盟国と分担することで米軍プレゼンスの継続を図る,「アジア回帰」政策の維持が求められることになろう。

(日本国際問題研究所研究員)

重要日誌 アメリカとアジア 2013年
  1月
1日 上下両院,「財政の崖」を回避する法案を可決。
2日 オバマ大統領,2013会計年度国防授権法案に署名。
7日 オバマ大統領,パネッタ国防長官の後任にヘーゲル元上院議員(共和党)を,ペトレイアスCIA長官の後任にブレナン大統領補佐官を指名。
16日 キャンべル国務次官補,ソウルで外交通商省幹部や柳佑益統一相,朴槿恵次期大統領と会談。
17日 キャンべル国務次官補,東京で菅義偉官房長官,岸田文雄外相と会談。
21日 オバマ大統領,2期目の就任式。
25日 デービース北朝鮮担当特別代表,北京で武大偉朝鮮半島問題特別代表らと会談。
29日 上院,ケリー国務長官指名を承認。
31日 日米韓,防衛当局局長級協議,北朝鮮の核実験予告について共同声明発表。
  2月
3日 ケリー国務長官,北朝鮮問題での連携について岸田文雄外相や金星煥韓国外交通商相と電話会談。
4日 オバマ政権,外国からのサイバー攻撃に先制攻撃を命令できる政策をとりまとめ。
5日 政府,中国海軍艦船による海上自衛隊護衛艦への火器管制レーダー照射について懸念を表明。
5日 オバマ大統領,3月1日からの国防費を中心とした歳出の強制削減の発動を先送りするよう議会側に要請。
7日 日米外務・防衛当局の審議官級協議開催。
8日 2012年の中国のモノの貿易総額が前年比6.2%増の3兆8667億6000万㌦となり,アメリカを抜いて初めて世界最大となったことが判明。
12日 北朝鮮が地下核実験を実施。国連安保理緊急会合,対応を協議。
12日 オバマ大統領,2期目初の一般教書演説。
22日 オバマ大統領,ワシントンで安倍晋三首相と会談。
  3月
1日 連邦予算の強制歳出削減が発動。
1日 米韓合同軍事演習「フォールイーグル」,実施(~4月30日)。
4日 TPP協定第16回交渉会合,シンガポールで開催(~13日)。
5日 北朝鮮の3度目の核実験実施を受けて国連安保理は非公開会合を開き,米中が合意した決議案を全メンバー国に配布。
7日 国連安保理,北朝鮮に対して大幅な制裁強化を決議。米財務省も北朝鮮の銀行幹部らの資産を凍結する追加制裁発動。
8日 ドニロン大統領補佐官,北朝鮮の貿易決済銀行「朝鮮貿易銀行」と米銀行などとの取引を禁止する単独制裁措置を発表。
11日 米韓合同軍事演習「キーリゾルブ」実施(~21日)。
14日 オバマ大統領,中国の習近平国家主席と電話で協議。
18日 カーター国防副長官,韓国で金寛鎮国防相と会談。
19日 ルー財務長官,中国の習国家主席と会談。
20日 ケリー国務長官,中国の王毅外相と電話会談。
20日 ルー財務長官,李克強首相と会談。
26日 暫定予算法に中国製のIT機器の政府調達を制限する条項が盛り込まれる。
  4月
5日 米比合同軍事演習「バリカタン」実施(~17日)。
11日 オバマ大統領,ホワイトハウスで潘基文国連事務総長と会談。
12日 ケリー国務長官,ソウルで朴槿恵大統領や尹炳世外相と会談。
13日 ケリー国務長官,北京で習近平国家主席らと会談。
14日 ケリー国務長官,東京で岸田外相と共同記者会見。
15日 ケリー国務長官,東京工業大学で講演。
22日 デービース北朝鮮担当特別代表,ワシントンで武大偉朝鮮半島問題特別代表と会談。
23日 デンプシー統合参謀本部議長,習国家主席や常万全国防相と北京で会談。
24日 米韓,来年3月で満了となる米韓原子力協定の期限を2年延長し,改定交渉を続けることで両国が合意したと発表。
25日 バーンズ国務副長官,北京で李源潮国家副主席や楊潔篪国務委員と会談。
  5月
1日 通商代表部,中国などの知的財産権保護に関する報告書を発表。
2日 国防総省,北朝鮮の軍事力に関する報告書を発表。
6日 国防総省,中国の軍事力に関する議会向け年次報告書を発表。
7日 オバマ大統領,韓国の朴大統領とホワイトハウスで会談。
7日 議会調査局,日米関係と歴史問題に関する報告書を公表。
8日 上下両院合同会議で韓国の朴大統領が演説。
13日 米韓海上合同訓練,韓国南東部海上で実施(~14日)。
13日 デービース北朝鮮担当特別代表,訪韓。
15日 デービース北朝鮮担当特別代表,北京で武大偉朝鮮半島問題特別代表と会談。
15日 TPP協定第17回交渉会合,ペルーのリマにて開催(~14日)。
17日 エネルギー省,FTAを結んでいない日本などへのシェールガスを含む液化天然ガスの輸出認可を発表。
20日 オバマ大統領,ホワイトハウスでミャンマーのテインセイン大統領と会談。
31日 ヘーゲル国防長官,シンガポールで開催中のアジア安全保障会議に出席(~6月2日)。
  6月
1日 ヘーゲル国防長官,小野寺五典防衛相や韓国の金寛鎮国防相とシンガポールで会談。
1日 米韓,韓国軍に対する有事作戦統制権を2015年末に米軍から韓国軍に移管した後,連合司令部を韓国軍が主導し,米軍が支援する組織に改編することで合意。
6日 英米紙,FBIと米国家安全保障局(NSA)が大手IT企業9社から非公開のインターネット情報を収集していたと報道。
7日 オバマ大統領,中国の習国家主席とカリフォルニアで会談(~8日)。
9日 英米紙,アメリカの情報収集を暴露したのはエドワード・スノーデン元CIA職員と報道。
17日 オバマ大統領,韓国の朴大統領と電話会談。
17日 G8サミット開催(~18日)。日米欧を中心とするFTAの推進で合意。
19日 日米韓,国務省で北朝鮮の核・ミサイル問題に関する局長級会合。
19日 議会の諮問機関,「米中経済安保見直し委員会」報告書を公表。
21日 司法当局,スノーデン氏をスパイ活動取締法違反などの容疑で連邦地方裁判所に訴追,逃亡先の香港政府に逮捕要請。
25日 上院外交委員会,尖閣諸島周辺や南シナ海での中国の行動を非難する決議案を可決。
27日 米比海軍合同演習「キャラット」を南シナ海で実施(~7月2日)。
30日 ケリー国務長官,ASEAN地域フォーラム(ARF)などに参加(~7月2日)。
30日 英紙,日本大使館を含む38のアメリカ国内の大使館や代表部を監視対象としてアメリカが盗聴などを行っていたと報道。
  7月
1日 日米韓の3カ国外相,ブルネイで会談。ケリー国務長官,ASEANと外相会議。
9日 上院,ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)の指名を承認。
10日 米中「戦略・経済対話」がワシントンで開幕(~11日)。
15日 TPP協定第18回交渉会合がマレーシアのコタキナバルにて開催(~25日)。
23日 TPP協定交渉会合,12 番目のTPP交渉参加国として日本の参加を正式に承認。
23日 エヴァン・メディロス中国部長,国家安全保障会議アジア上級部長に就任。
25日 オバマ大統領,ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席とホワイトハウスで会談。
31日 米中,中国雲南省で人権対話を開催。
  8月
14日 米比新協定締結に向けて第1回協議をマニラで開催。
19日 米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」実施(~30日)。
19日 ヘーゲル国防長官,国防総省で中国の常万全国防相と会談。
22日 TPP協定第19回交渉会合がブルネイにて開催(~30日)。
22日 TPP協定交渉の閣僚会合開催(~23日)。2013年内妥結に向けて今後の交渉を推進させることを盛り込んだ共同声明を発表。
30日 ヘーゲル国防長官,フィリピンでアキノ大統領らと軍事協力について協議。
  9月
4日 上院外交委員会,シリア攻撃を認める決議案を賛成多数で可決。
5日 ラッセル国務次官補,韓国,日本,ブルネイ,インドネシア,中国を訪問(~14日)。
6日 オバマ大統領,G20首脳会議が開かれているサンクトペテルブルクでロシアのプーチン大統領,中国の習国家主席と各々会談。
6日 アメリカ,日本など11カ国,シリアのアサド政権による化学兵器使用を批判する共同声明を発表。
14日 ケリー国務長官,ラブロフ・ロシア外相とシリアの化学兵器廃棄に関して協議,アサド政権に1週間以内の化学兵器の申告を義務づけることで合意。オバマ大統領,米露合意を歓迎。
18日 米比合同演習「フィブレックス」を実施(~10月11日)。
27日 オバマ大統領,インドのシン首相とワシントンで会談。
30日 ヘーゲル国防長官,ソウルで朴大統領と会談。
  10月
1日 2014会計年度予算の不成立によって一部政府機関が閉鎖。
1日 政府,医療保険改革の基幹となるオンライン保険取引所の運営を開始。
1日 ケリー国務長官,アジア訪問(~11日)。東京にて日米安全保障協議委員会(2プラス2),バリにてAPEC閣僚会議,ブルネイにて米ASEAN首脳会談とEAS,マレーシアで国際起業家サミットに参加。
2日 オバマ大統領,政府機関閉鎖や債務上限の引き上げ問題の解決を目指し,共和党と民主党の上下両院指導部と会談。
2日 ヘーゲル国防長官,ソウルで金寛鎮国防相と安保協議会。
3日 東京で日米2プラス2開催,日米防衛協力のための指針(ガイドライン)再改定で合意。
3日 オバマ大統領,7~10日のインドネシア・ブルネイ訪問を取りやめると発表。APEC首脳会議,TPP首脳会合なども欠席。
6日 インドネシア・バリ島で開かれたAPECにてTPP閣僚会議,開催(~8日)。
7日 APEC首脳会議,開催(~8日)。
8日 「TPP首脳声明」と「TPP貿易閣僚による首脳への報告書」,発表。
9日 オバマ大統領,バーナンキFRB議長の後任にイエレン副議長を指名。
9日 ケリー国務長官,中国の李克強首相とブルネイで会談。
10日 日米韓合同海上訓練,韓国南方沖合で実施(~11日)。
10日 G20財務相・中央銀行総裁会議,ワシントンで開催(~11日)。
11日 ケリー国務長官,台風の接近を理由にフィリピン訪問を中止。
16日 上下両院,連邦債務上限引き上げと政府機関再開のための法案を可決。
16日 上院本会議,キャロライン・ケネディ駐日大使の指名を承認。
17日 日本生まれのハリー・ハリス海軍大将,太平洋艦隊の新司令官に就任。
18日 駐日大使や連邦下院議長などを歴任したトーマス・フォーリー氏,死去。
23日 パキスタンのシャリーフ首相,ホワイトハウスでオバマ大統領に無人機攻撃を停止するよう要請。
28日 ラッセル国務次官補とデービース北朝鮮担当特別代表,武大偉朝鮮半島問題特別代表と会談。
  11月
6日 日米韓,北朝鮮の核問題に関する実務担当高官級協議を国務省で開催。
20日 ライス大統領補佐官,オバマ大統領が2014年4月にアジアを訪問すると発表。
20日 米豪,ワシントンで2プラス2を開催。
25日 アーネスト首席副報道官,中国による東シナ海上空での防空識別圏(ADIZ)設定について,「不必要に挑発的だ」と非難。
26日 国防総省,B-52戦略爆撃機2機が,中国が東シナ海に設定したADIZ内を事前通報せず訓練飛行したと発表。
29日 国務省,中国が設定したADIZに関連し,「国際線を運航するアメリカの航空会社は(航行先の)各国当局の航空情報に従って運航」とする報道官談話を発表。
  12月
3日 バイデン副大統領,東京で安倍首相と会談。
3日 カーニー大統領報道官,東シナ海上空にADIZを設定した中国に対し,「運用しないよう求める」と記者会見。
5日 米軍艦艇,南シナ海の公海上で中国海軍艦艇に進路を阻止され,回避行動。
6日 バイデン副大統領,ソウルで朴大統領と会談。
10日 上下両院の軍事委員会,2014会計年度の国防授権法案を公表。
12日 ヘーゲル国防長官,シンガポールのウン・エンヘン国防相とワシントンで会談。
16日 ケリー国務長官,ハノイでベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相と会談。
18日 上院本会議,超党派の財政協議の合意に基づく修正予算決議案を可決。暫定予算の期限が切れる来年1月に政府機関が再閉鎖される事態を回避。
19日 オバマ大統領,国防次官補(アジア太平洋担当)にシアー駐ベトナム大使を指名。
20日 オバマ大統領,ロック駐中国大使の後任にボーカス上院議員を指名。
26日 政府,安倍首相の靖国神社参拝は中韓両国とのさらなる関係悪化をもたらすとして「失望している」と表明。
 
© 2014 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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