アジア動向年報
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各国・地域の動向
2017年の台湾 年金改革の進展と頼清徳内閣の発足
竹内 孝之
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2018 年 2018 巻 p. 175-202

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2017年の台湾

概 況

蔡英文政権は5月で発足1年を迎えた。国民党の不正資産に対する追及を本格化させ,軍人年金を除く年金制度改革や移行期正義に関する立法を実現させた。しかし,1月の週休二日制の導入をめぐる不手際や8月の大規模停電のため,政権への不満は高まった。TVBSの世論調査によると,政権への満足度は20%台後半で推移し,11月の最高値でも31%にとどまった一方,不満足度は最高63%(6月)に達した。9月には行政院長を財政学者出身の林全から,台南市長として人気の高い頼清徳に交代させたが,世論の支持は必ずしも回復していない。

経済は好調な外需に支えられ,経済成長率は3%を超え,失業率も低水準を維持した。ただし,約20年間在職した彭淮南中央銀行総裁の退任表明や,大規模停電で露呈した電力網の脆弱さなどの不安材料も見られた。また,今後の公共投資に関する「前瞻(先進的)基礎建設計画」には鉄道建設への過剰投資の懸念もある。

対外関係では,台湾と日本双方による窓口組織の名称変更が特筆される。アメリカのトランプ大統領は当初「一つの中国」政策の見直しに言及したが,米中首脳による電話や会談では同政策の継続に言及したため,台湾ではその姿勢に不安の声も出た。その後,中国は台湾の世界保健機関への参加を妨害し,パナマに台湾と断交および中国と国交樹立させ,中国軍機による台湾周辺での飛行や挑発を繰り返した。このため,アメリカは中国を警戒し,台湾を重視する姿勢を強めた。台湾もアメリカへの期待を高め,最新鋭の F-35B戦闘機の売却を打診した。

国内政治

林全内閣の改造

2月3日,徐国勇行政院発言人(報道官)が内閣改造人事を発表した(表1)。これには政権の支持率を挽回させるねらいもあった。退任の要因について,郭芳煜労働部長は週休二日制導入をめぐる混乱,楊弘敦科技部長は実績不足や2016年12月に台湾積体電路製造(TSMC)の投資計画を同社の発表前に漏らした失態を問われた。医官出身の林奏延衛生福利部長は年金問題で呂宝静政務次長や林万億政務委員,あるいは対日食品輸入規制の緩和で政権与党と対立したと報道された。曹啓鴻農業委員会主任委員は女性秘書3人を自身の官舎に下宿させ,その1人に職務を代行させていたと報じられたが,徐国勇報道官は「秘書も家賃を負担しており,法的な問題はない」と擁護した。なお,曹啓鴻の後任,林聡賢宜蘭県長(民進党員)は衛生福利部長就任も取り沙汰された。しかし,林奏延・前部長に同情する医療関係者の反発を恐れ,職業政治家ではなく,歯科医師出身の陳時中・元衛生署副署長が衛生福利部長に起用された。

表1  2017年2月に交代した閣僚

(注)1)退任後,考試院公務人員保障暨培訓委員會主任委員に就任。

   2)2月1日付けで交代。

   3)蒙蔵委員会は9月に文化部に事実上吸収され,同委員長は任命されなかった。

考試院および監察院の人事と考試院の組織改革をめぐる論争

台湾では日本の人事院や会計監査院に似た「考試院」と「監察院」が三権と並ぶ地位を持ち,政権交代後も両院には前政権の任命した委員が残った。そのうち大学教授出身の高永光考試院副院長(外省人)が2016年12月に,浦忠成考試委員(原住民族)が2017年2月に辞任したため,蔡英文総統は2016年12月に民進党員の李逸洋公務人員保障・培訓委員会主任委員を副院長に,2017年2月に陳慈陽台北大学法律学系教授を考試委員に指名し,2月24日に立法院で承認された。

ただし,与党民進党は本来,両院の廃止(憲法改正が必要)・縮小を主張している。柯建銘立法院党団総招集人(立法委員団長)は「考試委員も既得権益者なので,公務員年金改革(後述)に抵抗している」と非難し,「考試院の規模縮小を検討する」と述べた。段宜康立法委員も「考試委員17人分の給与は5700万元(約2億円)もある。日本の人事院人事官と同様,3人に減らすべき」と主張した。一方,李逸洋副院長は立法院の審査において,「考試委員の削減は同院が管轄する多種多様な国家試験の検討に支障をきたす」と性急な改革を牽制した。

蔡英文総統は3月1日に監察委員11人を指名した。しかし,年内は重要法案が多いこともあり,立法院における同人事案の承認手続きが見送られた。

年金制度等の改革

台湾では,国民皆保険の歴史が浅く,基金の積立が少ない。そのうえ,公務員退職者は所得代替率が9割近い年金,年18%の優遇預金金利を享受している。そのため,国家財政や年金基金の破綻すら懸念された。しかし,馬英九・前政権は支持基盤である公務員の反発を恐れ,改革を検討するにとどまっていた。

政権交代後の2016年6月,総統府は国家年金改革委員会(以下,年改会)を設置した。その招集人(座長)には陳健仁副総統,副招集人兼執行長(実務上の責任者)には林萬億政務委員,委員には関係官庁や労働組合,公務員の利益団体,市民団体の代表が就いた。ただし,総統には法案提出権がなく,年改会の役割も基本方針の提言にとどまった。2017年1月には行政院年金改革弁公室が年改会の議論をふまえ,公務員退職者向け優遇金利の廃止,年金支給水準の引き下げ(年金・退職金の支給額の基準を退職前15年間の平均,所得代替率を60%),保険料率と支給開始年齢の引き上げなどの具体案(年改会版)を発表した。

実際の法案作成は民間労働者向けを労働部,国公立教員向けを教育部,軍人向けを国防部と国軍退除役官兵輔導委員会(以下,退輔会),そのほかの公務員向けを考試院に属する銓敘部が担った。労働部や教育部,銓敘部は年改会版を踏襲した。しかし,前政権の勢力が多数を占める考試院は銓敘部案を変更し,支給基準を退職前10年間の平均,所得代替率を70%とした「公務人員退休撫卹法」(公務員退職金・年金法)法案を決定した。陳健仁副総統は「考試院案は恒久的な解決策でない」と批判したが,立法院では与党民進党の主導で支給基準を退職前5~15年間の平均,所得代替率を60%へ再修正のうえ,6月27日に可決された。

29日には「公立学校教職員退休資遣撫卹條例」(公立学校教職員退職金・年金法)も可決された。さらに国民党等の役職員歴を加算することで過大支給された公務員の退職金や年金の返還を求める「公職人員年資併社団専職人員年資計発退離給與処理條例」(議員立法)も4月25日に成立した。

一方,国防部や退輔会は「国防は命がけであり,軍人は他の公務員と異なる」と主張して抵抗し,11月に基本方針のみを発表した。その内容は支給基準を退職前3年間の平均とし,所得代替率を最低50%に20年超の服役年数分×2.5%(大将は2%)を加算するとした(上限100%)。たとえば,大佐で昇格が止まり,48歳で退役すると,所得代替率は70%になる(20歳で入隊と仮定)。蔡英文政権がこれを許容した背景には,徴兵制廃止に向けて兵役期間を短縮したが,それを補う志願兵が不足しており,軍人の待遇に配慮する必要があった。それでも退役軍人は改革案に反発し,その一方で与党内では妥協への批判が起きたため,年内は軍人年金の改革が決着しなかった。

さらに公務員・軍人年金のほか,週休二日制をめぐる混乱もあり,民間労働者に負担増と給付減を求める「労工保険(民間労働者向け保険)条例修正案」は4月に行政院院会(閣議)決定,立法院へ送付されたが,実質的な審議は見送られた。

国民党主席選挙と同党をめぐる動き

5月20日,国民党主席選挙が行われ,呉敦義・前副総統(本省人)が約14万4000票(得票率52.24%)で圧勝した。現職の洪秀柱主席(外省人)は約5万3000票(19.20%),郝龍斌・前台北市長(外省人)は約4万4000票(16.03%)であった。

従来,投票権を持つ国民党員の半数は外省人といわれ,彼らが2016年の同党主席補欠選挙で洪秀柱を当選させた。しかし,今回は投票権を持つ党員が2016年の約33万7000人から14万人増え,約47万6000人となった。また,投票数も前回の約14万から倍増し,27万6000となった。増加分の大半は呉敦義陣営の政治家らが動員したと見られ,その中には殺人を犯した暴力団員も混ざっていた。洪秀柱陣営は「これでは中国国民党が台湾国民党になってしまう」と外省人の危機感を煽りつつ,入党申請書の精査を求めた,その結果,虚偽申請として却下されたのは少数であった。

呉敦義・新主席は選挙戦中より対中国政策の基本方針として馬英九政権時代以前の「一つの中国,各々が表現」を主張し,8月20日の就任後は統一派色が強い洪秀柱主席による政策綱領を改めた。これが中国の不興を買ったとの見方もある。5月の当選時には習近平から中国共産党総書記の名義で祝電が届いたが,呉敦義に敬称でない通常の二人称を用いていた。また,就任時は祝電がなかった。さらに,中国側の日程調整が難しかったこともあるが,2017年は恒例の国共フォーラムや両党党首会談の実施が見送られた。

このほか,国民党の馬英九・前総統は3月14日,2013年9月に職権乱用により王金平立法院長に対する電話盗聴記録を検察から入手した容疑で,台北地方検察院に起訴されたが,10月11日の一審で無罪判決が下り,検察は控訴した。馬英九は別途,民進党の柯建銘立法委員(王金平との通話を盗聴された被害者として)にも刑事訴追されていた(2016年12月)が,一審(3月28日),二審(10月11日)とも無罪となった。これらの判決は,総統は検察指揮権を持たず,行政と立法の対立を調停したにすぎないと主張した。しかし,陳水扁・元総統の第二次金融改革をめぐる便宜供与疑惑では,2審判決(2010年)や3審確定判決(2012年)が行政院長任命権を通じた「実質的な影響力」を認め,有罪とした。そのため,今回の馬英九への無罪判決にはこれらの判例と矛盾するとの批判も出た。

国民党の不正資産問題では,かつて国民党の青年部と目された「中国青年救国団」(以下,救国団)が最高法院から本部の入る「志清大楼(ビル)」の使用権を国に返還するよう命じられ(2月),退去を余儀なくされた(9月)。同様に国民党の女性部と目された「中華民国婦女聯合会」(婦聯会)は不当党産処理委員会から,国民党独裁時代の強制的な募金が収入源であったと指摘され,資金を国庫に納めるよう求められた。これらの団体内部では政府に従おうとする「ハト派」と徹底抗戦を主張する「タカ派」の対立が激化した。救国団では12月にハト派の白秀雄理事長が辞任した。一方,婦聯会では12月22日に内政部の命令でタカ派の辜厳倬主任委員が解任された。25日の補選で当選した雷倩・新主任委員は29日,資産の9割を国に寄付すれば,免責されるとする行政契約の内容につき,内政部や不正党資産処理委員会と基本合意した。しかし,婦聯会ではタカ派が多数派を占めるため,先行きは不透明である。

12月10日に立法院は,政党法案を可決し,成立させた。民主化後も政党の設立は社団法人などを扱う人民団体法に依拠してきたが,今後は政党法に依拠することになる。また,過去の国民党のような政党による営利事業への投資や,政府,学校などへの党組織の設置などは禁止される。

総統府人事

2016年10月以来,総統府秘書長は異例の不在が続いていた。蔡英文総統は頼清徳台南市長に就任を打診したが,頼清徳は将来の総統候補と目され,権限が乏しく,職階も行政院長より低い総統府秘書長に興味を示さなかった。そのため,呉釗燮国家安全会議(国安会)秘書長が総統府秘書長に任命され,5月24日に就任した。呉釗燮は国際政治学者であり,国安会秘書長の方が適任に思えるが,蔡英文総統の信任が厚いことから異動したと思われる。後任の国安会秘書長には同日,元参謀総長の厳徳発国安会諮詢委員が就任した。厳徳発は陸軍出身だが,空軍出身の馮世寬国防部長との良好な関係が起用された要因の1つとされる。なお,2018年2月に呉釗燮は外交部長,厳徳発は国防部長に異動した。国安会秘書長には李大維外交部長が異動したが,総統府秘書長は再び空席となった。

林全内閣から頼清徳内閣への交代

9月4日,林全行政院長の辞任が発表され,7日に内閣は総辞職した。林全院長は6月に辞意を伝えたが,蔡英文総統は税制改革をやり遂げるよう求めていた。林全院長はこの税制改革案の閣議決定をもって「任務完了」とした。

9月8日,頼清徳台南市長を行政院長,施俊吉台湾証券交易所(取引所)董事長(会長)を同副院長とする新内閣が発足した。閣僚の異動は最小限にとどまった(表2)。蔡英文総統は対中国穏健路線への与党内の不満や世論の支持低迷に悩まされたため,前任より8歳若く,ポスト蔡英文の最有力候補で,台湾独立をとなえる頼清徳を起用したとみられる。ただし,頼清徳は「親中愛台」 (親中国かつ台湾の愛国者)を自称する発言(6月)や慰安婦問題での日本への謝罪要求(9月29日)など真意の不明な発言も見られた。また週休二日制の見直しは「収入増など労働者への恩恵もある」と主張したが,労働組合の反発や廖蕙芳労働部政務次長(労組出身)の辞任を招いた(11月)。

表2  内閣交代にともなう閣僚人事

(注)1)2月に林美珠が労働部長に異動した。羅秉成の管掌は法政。

   2)李世光・前部長が8月の停電で引責辞任し,沈栄津が職務を代行していた。

   3)蒙蔵委員会は9月に文化部に事実上吸収され,同委員長は任命されなかった。

中国のテレビ局による音楽催事をめぐる台湾大学での衝突事件

9月24日,国立台湾大学の陸上競技場で中国の浙江電視台(テレビ局)による音楽イベントが開催されたが,大学名の「国立」を「台北市」に置換したポスターや,授業や学生の利用を妨げたこと,設営された舞台が台北市建築管理処の検査に合格せず,また競技場の設備を損傷したなどの問題が起きていた。これに反発した学生や台湾の主体性を重視する「本土派」の市民団体が当日,抗議活動を行ったところ,張安楽が率いる「中華統一促進党」(実態は外省人暴力団「竹聯幇」)が乱入し,学生1人を棍棒で殴り,頭部出血や骨折を負わせた。大学には警官隊が常駐しているが,隊長が外出中のため出動が遅れ,到着まで40分かかった。

張安楽は1996年に指名手配されて中国へ逃亡し,2013年の帰国後は「中華統一促進党」を名乗り,2014年のひまわり学生運動など本土派の活動を妨害してきた。中国公安部から資金援助を受けたとの疑惑もある。2017年には香港の黄之鋒(学生活動家)や羅冠聡立法会議員の一行を桃園空港で襲撃し(1月7日),10月1日(中国の国慶節)に五星旗(中国国旗)を掲げてデモ行進した。4月16日にはその構成員が台南市で八田與一(日本統治時代のダム設計者)像を損壊していた。

経 済

経済の概況

経済成長率は年率で2.8%となった。年前半は第1四半期が2.64%,第2四半期が2.28%と若干下がったものの,年後半は第2四半期が3.18%,第4四半期が3.28%と3%を超えた。2016年に引き続き,景気は拡大を継続したといえる。このため,失業率も1月の3.84%からおおむね緩やかな改善を続け,12月には3.70%まで低下し,年平均では3.76%の低水準となった。

その一方で,消費者物価指数(CPI)は年平均0.6%と緩やかな伸びにとどまった。CPIを項目別にみると,食品(マイナス0.37%)や衣類(マイナス0.24%)など多くで下降した一方,燃料(9.36%)と光熱費(9.92%)が石油価格の上昇の影響を受けたほか,「タバコおよび檳榔」(8.09%)がタバコ税率増のために高い伸び率を示した。なお,卸売物価指数は年平均で0.90%と,CPIよりやや高い伸びを示した。

中央銀行は物価上昇圧力の弱さのほか,景気拡大をけん引してきた外需つまり世界経済の先行きにも若干の懸念を示した。中央銀行の理監事会議は年内に4回開催されたが,いずれも利上げを見送り,金利を1.375%のまま据え置いた。これで2016年の第3回より6回連続で金利が据え置かれたことになる。

彭淮南中央銀行総裁の退任表明

中央銀行の彭淮南総裁は約20年にわたり在任してきたが,9月29日の理監事会議において,2018年2月25日の任期満了をもって退任すると表明した。後任候補としては林全・前行政院長や胡勝正中華経済研究院院長(中央研究院院士)の名前が挙がった。林全は財政学者で,蔡英文総統の信任も厚いが,本人は就任の可能性を否定した。胡勝正は民進党の陳水扁政権期に中央銀行理事や経済閣僚を歴任し,2016年12月から再び中央銀行理事を務めているが,体調不良を理由に総裁就任を固辞した。そのため,中央銀行の生え抜きである楊金龍副総裁の総裁就任が順当とみられた。しかし,胡勝正は「近い将来の景気後退に備えるため,彭淮南総裁に続投を要請するべき」と述べ,蔡英文総統も「中央銀行総裁の姓が彭でないのは,しっくりこない」と発言するなど,年内は決まらなかった。

「前瞻基礎(先進的なインフラ)建設計画」

蔡英文総統は2月5日,選挙公約で掲げた大型インフラ投資を「前瞻基礎建設計画」と命名し,従来型インフラ建設のほか,再生可能エネルギーや情報通信産業,水環境の保全を推進すると述べた。6日には政府与党幹部による「執政決策協調会議」で実施を指示した。3月23日には同計画の多年度予算案(8年間で総額8900億元)を含む「前瞻基礎建設特別條例」草案が行政院で閣議決定された。立法院は7月6日にこれを可決したが,予算は4年分4200億元のみ承認した。

当初の理念と異なり,同計画予算の大半は従来型のインフラ建設が占め,とくに鉄道分野が半分を占めた。水環境の保全にも,ダムなどの治水や灌漑施設が多く含まれた。この背景には各地方政府がその地域振興効果や工事発注による経済効果を期待し,誘致に奔走したという事情があった。

鉄道分野では,従来遅れていた国営の台湾鉄路(台鉄)が運営する在来線の設備更新や電化,複線化などの近代化,あるいは各地の都市交通(捷運,MRT)建設を急ぎたいとの事情もある。しかし,都市中心部の在来線地下化は完了済みの台北の例を見ると,その莫大な費用に見合う経済効果がないとの声もある。また,地方の観光路線の建設も蔡英文総統の一声で決定され,採算性の検討が不十分との批判も出た。2012年選挙で蔡英文総統の公約作成に関わった経済学者の陳博志総統府資政(上級顧問)も,自動運転技術の進歩で鉄道の重要性が低下する恐れを指摘し,計画の実施を緩めるべきだと主張した。

共有経済に関わる事業者と規制当局の摩擦

Uber社は2014年に「情報産業」の名目で台湾子会社(以下,ウーバー)を設立し,配車サービスを開始した。しかし,交通部公路(道路)総局は無許可の旅客運送,つまり白タクの斡旋とみなして取り締まると同時に,合法な形態への転換を求めた。ウーバーは訴訟で対抗したが,敗訴が相次いだ。李世光経済部長は訴訟の決着まで処分を保留すると発言したが,経済部投資審議委員会は2016年8月,虚偽申請を理由に同社に対する投資許可を取り消した。11月には財政部国税局が同社に法人税の過少申告を指摘し,約1億3500万元の追徴税を課した。そして,2016年12月の「公路法」(道路交通法)改正により,白タク事業への罰則強化(とくに罰金上限の15万元から2500万元への変更)と通報制度の導入が行われた。2017年1月6日の同法施行後,タクシー業者の通報が相次ぎ,ウーバーは合計11億元の罰金を科され,2月10日に営業を一時中止した。同社はレンタカー会社と提携した運転代行者の斡旋へ事業転換し,4月に営業を再開した。

白タクのほか,民泊も問題視された。宿泊予約大手のAirbnbは台湾国内に拠点を作らず,シンガポールなどからネットや電話で営業してきたが,台湾の民泊の大半は同社に登録する一方で,火災や家主による盗撮など,民泊に関連した事件が増えた。そこで,交通部など関係当局は消防などの安全基準やトラブル対応など消費者保護上の不備を問題視した。2016年12月には「発展観光条例」(観光促進法)が改正され,無許可の旅行・宿泊業務や仲介に1件3万元,累計の上限が30万元の罰金が設けられた。2017年7月には「発展観光條例裁罰標準」(交通部の政令)が施行され,民泊の物件所有者も広告掲載だけで処罰対象になった。

旧世代の移動体通信サービス中止をめぐる動き

第2世代に当たるGSM方式に割り当てられた電波帯域の使用期限切れに伴い,携帯電話通信事業者大手である中華電信,台湾大哥大,遠伝電信の3社が同方式の通信サービスを終了した。中止する3社は優遇措置を講じ,第3,4世代のSIMカードへの変更と端末の買い替えを促した。その結果,3社のGSM方式の契約件数は2016年末の40万件から,サービス中止時には7万6000件に急減した。未解約の番号は2017年末まで保存され,例外的にGSM方式のサービスを継続する亜太電信への契約移行が可能とされた。第2世代のサービス中止は日本(独自方式)やシンガポール(2017年3月末)でしか事例がない。台湾の場合は1社がサービスを継続する不完全な形だが,大きな混乱なしにこれを実施した。

台湾では次世代通信規格の導入と関連産業の育成を目論む政府の方針もあり,第3世代方式のサービスも2018年末で原則中止される予定である。しかし,台湾での第4世代のLTE方式のサービスは2014年半ばに始まったばかりで,第3世代の契約者は2017年末で600万件(大手3社と台湾之星の合計)と,2016年末時点のGSM方式の10倍以上もある。また,LTE方式の実用化はデータ通信が先行したため,LTE回線上の音声通話規格VoLTEに対応せず,音声通話を第3世代方式で行う端末も多い。そのため,第3世代は名目上のサービス「終了」後も,実際は音声通話向けに継続される。

大潭発電所の緊急停止による大規模停電

8月15日の午後4時51分,台湾の総発電量の約1割を占める台湾電力大潭発電所(桃園市)ですべてのガスタービン発電機が緊急停止した。原因は台湾中油の設備更新中に作業ミスで天然ガスの供給が遮断されたことであった。同日は猛暑で,元々3%の電力供給予備力しかなったため,事故は全国規模の停電を引き起こした。鉄道は影響を免れたが,各地で交通信号が機能停止して渋滞が起き,エレベーターでの閉じ込め,工場の操業中止などが発生した。また,発電機の再起動に時間を要したため,午後6時から9時40分まで輪番停電が行われた。

台湾電力と台湾中油はいずれも経済部が管轄する国営企業であるため,同日晩に李世光経済部長が引責辞任した。蔡英文総統も15日夜のツイッターへの投稿や16日の記者会見で陳謝した。一方,台湾中油は作業を請け負った巨路国際と責任の所在を争ったが,与野党双方から批判を受け,18日に陳金徳董事長(会長)も引責辞任した。

台湾では7月29日にも台風で鉄塔が倒壊し,和平発電所(台湾セメント系新電力)からの送電線が切れて,電力需給が逼迫し,公的機関の空調運転を中止して乗り切ったばかりであった。識者からは大停電の原因を偶発事故に帰せず,冗長性に欠く送発電体制の改善を求める声が出た。また,野党国民党は脱原発政策の見直しや封印中の第4原発の稼働を求めた。林全行政院長は8月16日の記者会見で電力供給や送電網の検討を行う意向を示したが,再生可能エネルギーで原発を代替する方針は堅持した。経済部は10月25日,民間住宅での太陽光発電に設備費用の4割を補助する方針を発表した。

宏達国際電子によるスマートフォン事業の一部売却

宏達国際電子(以下,HTC)は9月21日,Google社が発売するスマートフォン開発部門を11億ドルで同社に売却すると発表した。HTCはかつてAndroid OS搭載スマートフォンの世界シェア2位であったが,近年は販売が低迷し,上位10位から脱落したうえ,経営状態も悪化していた。Googleは今回の買収で,自社に必要な技術者2000人をHTCから移籍させた。また,詳細は不明であるが,Googleは関連するHTCの知的財産の使用権を確保したという。なお,HTCは自社ブランドのスマートフォン開発,製造部門を残しており,今後も事業を継続する。

遠東国際商業銀行に対するサイバー攻撃

遠東国際商業銀行は10月3日から4日にかけてサイバー攻撃を受け,6000万ドルがスリランカやカンボジア,アメリカなどへ不正に送金された。同行は5日午前中に事態に気づいて通報し,台湾の警察は国際刑事機構をとおして各国当局に協力を要請した。その結果,流出した資金の大半が回収され,被害の実額は50万ドルにとどまった。また,スリランカでは犯人グループが摘発された。

攻撃にはマルウェアを添付した電子メールを同行内のアドレスに一斉送信する手口が使われたと見られる。しかし,マルウェアは痕跡を残さないタイプと思われ,その発見には至ってない。これは2016年のバングラデシュ中央銀行の被害と類似しており,北朝鮮軍のサイバー部隊の関与が疑われた。

対外関係

アメリカとの関係

アメリカのトランプ大統領は就任前,蔡英文総統との電話会談に対する中国の批判に反発して,「『一つの中国』にこだわらない」と発言した。就任後も1月13日付Wall Street Journal紙掲載のインタビュー記事で,「一つの中国」を経済問題と並ぶ中国との交渉課題と位置づけた。しかし,トランプ大統領は中国の習近平国家主席との電話会談(2月9日)で一転し,「『一つの中国』政策を堅持する」と発言した。このため,台湾ではトランプ政権に対する不安の声も出た。

ただし,実際のところ,トランプ政権は末期のオバマ政権同様,中国を警戒し,台湾との関係を重視した。ティラーソン国務長官は就任直前の議会公聴会(1月13日)で,アメリカの「一つの中国」政策は台湾に対する差別の禁止や武器供与の継続をうたう台湾関係法やレーガン政権による「6つの保証」に依拠すると述べた。また,ティラーソン国務長官はトランプ・習近平電話会談の前日も同様の見解を再表明し,台湾側にも事前に説明した。このため,台湾の総統府は「米台関係に想定外はない」と強調した。3月のティラーソン国務長官の訪中前にはソーントン国務次官補が同じ内容を繰り返した。4月の米中首脳会談では台湾への言及がなかったが,台湾の李澄然外交部次長の立法院答弁(同12日)によれば,「事前協議で中国の王毅外相が台湾問題を提起したが,アメリカは台湾関係法の立場を繰り返し,短時間で議論を終えた」という。

パナマが台湾と断交し,中国と国交樹立した後には,ノーアート国務省報道官(6月14日)やソーントン国務次官補(同20日)が「一方的な現状変更に反対する」と中国を批判した。アメリカは従来パナマに強い影響力を持ち,同国と台湾の関係の維持にも一役買っていた。しかし,アメリカは今回の断交を阻止できず,中国の影響力増大に危機感を抱いたと思われる。

また,ティラーソン国務長官は6月14日,台湾に対する中国の脅威を訴えたシャボット下院議員に対して「過去50年間の『一つの中国』政策を評価するが,今後50年間も有効なのか検討を要する」と答弁した。台湾では政策転換への期待と懸念の両方が出たが,薛美瑜外交部北美(北米)司長は同長官が「台湾への約束は守る」と述べた点を「非常にポジティブ」と評価するにとどまった。

このほか,6月2日にはマティス国防長官が就任後初めて「台湾に必要な防衛装備を供与する」方針を確認した。同29日には各種ミサイルや魚雷,レーダー関連技術など総額約14億ドルの武器供与が国務省から議会に通告された。さらに,蔡英文総統は4月にF-35戦闘機の導入に言及した。台湾では中国の先制攻撃で滑走路が破壊される事態を想定し,空軍向けのF-35Aでなく,垂直着陸短・距離離陸が可能なF-35Bを欲している。台湾は8月のモントレー会談(米台両軍高官会議)でF-35Bの売却を求めたが,アメリカは応じる姿勢を見せなかった。

日本との関係

日台関係は良好に推移した。とくに双方の窓口機関の名称変更は,実務関係へ移行して以来の一大事と言える(後述)。また,3月24日には赤間二郎総務副大臣が地方の特産品や観光に関する催事の開会式に出席するため来訪した。断交後に来訪した現役公職者としては,最高位となった。

台湾からは8月1日に鄭麗君文化部長が訪日し,鉄道博物館(埼玉県大宮市)を訪れ,JR東日本の583系寝台特急電車の譲渡記念式に出席した。同電車は11月に台湾に到着し,日本時代から2012年まで稼働した台北機廠(鉄道整備場)跡地の「鉄道博物館園区」に設置された。台湾側は同園区の運営にも,産業遺産の展示経験を持つJR東日本やトヨタ自動車の協力を求めている。

9月18日には,2001年の狂牛病発生を受けた日本産牛肉の輸入禁止の解除が発表され,10月に輸入が再開された。しかし,福島第一原発事故による放射能汚染を名目に継続中である5県産食品に対する輸入規制は解除されなかった。

海洋問題については,3月1日に日台漁業協定に基づく日台漁業委員会の第6回会合が行われたが,尖閣諸島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)操業方法について大きな変更は合意されないまま,現状維持とされた。また,4月9日には日台海洋協力対話の一環として漁業協力ワーキンググループが開催され,台湾側は沖ノ鳥島沖の日本EEZにおける台湾漁船の操業許可を求めたが,日本側は認めなかった。12月19日から20日には,日台海洋協力対話の第2回会合が開催され,20日には海難捜索救助分野の協力に関する覚書が締結された。

11月21日から22日には恒例の日台貿易経済会議の第42回が開催された。22日には税関相互支援のための取り決めと文化交流協力に関する覚書が締結された。

日台双方の窓口機関の名称変更

日台双方の窓口機関は日本側の「交流協会」,台湾側の「亜東関係協会」とも,その役割を反映しない曖昧な名称であった。これはアメリカ在台湾協会(アメリカの対台湾窓口機関)などと比べると特異であった。日本側は国交断絶時に「日台交流協会」を名乗ろうとしたが,当時は国民党独裁下の台湾側が「日台」に反対し,「日華」とするよう主張したため,断念した。しかし,交流協会は2016年12月28日,「日本台湾交流協会」への名称変更(2017年1月1日に実施)を発表した。1月3日にはその台北事務所で新しい銘板の除幕式が行われ,沼田代表や邱義仁亜東関係協会会長らが出席した。

台湾の与党民進党や許世楷・元駐日代表ら本土派はこれを「断交以来の快挙」と評価し,亜東関係協会の名称変更も求め,謝長廷駐日代表は「駐外機構の名称にも見直すべき点が多い」と指摘した。外交部は当初「慎重に検討する」と述べたが,李大維外交部長は3月6日の立法院答弁で同協会を「台湾日本関係協会」へ名称変更する方針を明かし,3月20日には徐国勇行政院発言人(報道官)も「林全行政院長が裁可した」と述べた。台湾側の名称変更は5月17日に実施され,同日の記念式には日本側の沼田代表も出席した。ただし,台北駐日経済文化代表処の名称変更は見送られた。

民進党内では北米事務協調委員会(台湾の対米窓口機関)や台北駐米経済文化代表処の名称変更を求める声も出たが,李大維外交部長は5月17日に立法会で「トランプ政権の陣容が固まらないとアメリカ側と交渉できない」と答弁した。

中国との関係

中国は蔡英文・トランプ電話会談(2016年12月)に反発した。しかし,2月9日にはトランプ・習近平電話会談を行い,トランプ大統領から「一つの中国」政策の継続に関する発言を引き出し,関係改善の動きを見せた。また,2016年11月にはシンガポール軍の装甲車が台湾での演習後に寄港した香港で押収され,中国政府は同軍と台湾の関係を批判したが,装甲車は2017年1月に返還された。

このように中国はアメリカやシンガポールへの反発を収めたが,台湾への圧力は強化し続けた。世界保健機関(WHO)事務局はWHO総会(5月)への台湾の招聘を取り止めたため,蔡英文総統は「WHOの理念に反する」と反発した。中国国務院台湾事務弁公室は「民進党が『92年コンセンサス』(「一つの中国」原則をめぐる国民党と中国の合意)を拒否したからだ」と述べ,WHOの措置が中国の指示によることを示唆した。また,中国は6月にパナマに台湾との国交を断絶させ,複数の第三国と台湾の実務関係にも介入した(後述)。

さらに,中国は軍事的な圧力も強めた。1月11日に空母「遼寧」,7月20日には轟6(H-6)爆撃機の編隊が台湾を周回した。また,H-6爆撃機は7月24日と25日にも台湾の防空識別圏に迫った。11月,12月にもH-6のほか,Su-30戦闘機やIl-78空中給油機,運8電子偵察機がたびたび迫り,とくに12月7日にはH6爆撃機が「直ちに離脱しなければ,その結果の責任を背負ってもらう」と台湾のF-16戦闘機を脅した。台湾側はこれを台湾世論の動揺をねらった心理戦と考え,黄重諺総統府報道官は同日に「国防部は中国軍の行動を把握している。国民は安心して欲しい」と述べた。21日には馮世寬国防部長が「今後は心理戦に付き合うのを止め,中国軍の動向を逐一公表することをやめる」と述べたが,28日には「国民の知る権利に配慮し,特別な事例は公表する」と修正した。

中国による李明哲の拘束

3月19日,台湾の人権NGO職員,李明哲がマカオからの入境後,中国当局に拘束された。李明哲は外省人だが,民進党内で中国に融和的な許信良・元党主席を通じて同党に参加し,近年は中国の民主化・人権活動家と交流していた。

海峡交流基金会(台湾側窓口機関)は直後に李明哲の消息を照会したが,海峡関係協会(中国側窓口機関,以下,海協会)は事実確認できず,29日に国務院台湾事務弁公室(以下,国台弁)が「国家安全の理由で拘束した」と認めるにとどまった。その一方で李凈瑜(李明哲の妻)には,李俊敏(国民党の賴士葆立法委員のスタッフ)が「両岸人民服務協会」(海協会と関係を持つ,台湾の統一派団体)執行長を名乗って接触し,「海外NGOの活動を規制する法律の施行で功を焦った国家安全部門が李明哲を誤認逮捕した」と語った。

李凈瑜は李明哲と面会するため,4月10日に中国への渡航を試みたが,中国が彼女の渡航証を無効としたため,果たせなかった。蔡英文総統は11日にこうした事態への「重大な関心」を表明し,張小月大陸委員会主任委員も中国側を批判するとともに,真相説明と李明哲の早期釈放を求めた。中国側は9月11日に湖南省岳陽市中級人民法院で公判を開き,李明哲に「国家政権転覆罪」を認める陳述をさせた。公判を傍聴した李凈瑜は事件を政治的迫害と述べ,台湾の大陸委員会も再度中国側を批判した。11月28日に国家政権転覆罪で懲役5年の判決が下されると,台湾側は改めて中国を批判し,李明哲の釈放を求めた。

パナマとの断交

6月13日(現地時間では12日),パナマのバレラ大統領が中国との外交関係樹立を発表した。同日,すでに北京入りしていたサイン・マロ副大統領兼外相と中国の王毅外相が会見し,共同声明に署名した。この中でパナマは「台湾を中国の一部」とし,「台湾と如何なる公式な関係も持たない」と表明した。ただし,パナマは台湾に商務弁事処を設置する意向を示し,経済関係の維持を呼び掛けた。

同13日,台湾の李大維外交部長は緊急記者会見を行い,パナマとの外交関係を終了すると発表し,同国と中国を非難した。呉釗燮総統府秘書長も会見を行い,両国を批判するとともに,断交直前にアメリカがパナマに再考を求めたが,奏功しなかったと明かした。また,蔡英文総統は13日の日中,危機対応に追われたが,同日夜にツイッターで「中国の恐喝には屈しない」と憤りを吐露し,14日の記者会見でも改めて中国を非難した。

パナマは台湾と外交関係を持つ国が多い中米において経済規模が最も大きく,また清朝との関係樹立(1910年)から数えて107年間と最も長く「中華民国」と国交を継続した国であった。しかし,近年は中国が多額の投資を行い,パナマへの影響力を強めていた。今回の断交は大きな痛手として受け止められ,野党の国民党は「92年コンセンサス」を認めない蔡英文総統の責任だと批判し,与党内でも呂秀連・元副総統が「亡国の危機」と述べた。

台湾と第三国の実務関係に対する中国の圧力

台湾はナイジェリアに大使館に相当する「中華民国商務代表団」(以下,代表団)を設置してきた。しかし,1月11日,中国の王毅外相はナイジェリアを訪問,同国のオンエアマ外相と会談し,「一つの中国原則に関する共同声明」に署名した。また,王毅外相は台湾の「代表団」が「身分不相応な活動をした」と非難し,その名称変更と首都からの移転,人員削減を要求した。ナイジェリアは3月31日,1週間以内に「代表団」を移転し,趙家宝代表が出国しなければ,「安全を保障しない」と脅した。台湾は移転の猶予を求めつつ,4月6日に「代表団」の業務を取り止め,趙家宝代表を帰国させた。しかし,ナイジェリアは6月30日に「代表団」を武装した警官で包囲し,残る職員を追い出した。このため台湾は7月4日に「代表団」の移転決定を余儀なくされ,12月5日に移転を完了した。台湾も6月14日にナイジェリアの駐在機関「駐華商務弁事処」に台北市外への転出を求めたが,ナイジェリア側は予算不足もあり,年内の移転を見送った。

このほか,6月14日に「中華民国駐アラブ首長国連邦ドバイ商務弁事処」が「駐ドバイ台北商務弁事処」,同27日に「中華民国駐エクアドル商務処」が「台北駐エクアドル商務処」,7月12日に「台湾駐バーレーン商務代表団」が「駐バーレーン台北貿易弁事処」への名称変更を余儀なくされた。いずれも中国の圧力を受けたとみられる受入国が要求してきたものであった。

2018年の課題

内政面では労働基準法再修正による週休二日制の緩和(1月)が蔡英文政権への不満を高止まりさせる要因になりうる。12月に予定されている統一地方選挙は,事実上の中間選挙と位置付けられる。もし同選挙で民進党が敗北すれば,蔡英文総統は民進党主席の辞任を迫られ,党を通じた政権と立法院の調整が難しくなる。

経済については,主計処が外需主導での成長が継続するものの,2017年と比較して若干減速し,2018年の経済成長率を2.42%と予測している。2月には彭淮南中央銀行総裁が退任し,楊金龍副総裁が新総裁に就いた。

対外関係では花蓮地震(2月)後に日台首脳がメッセージ交換を行った。アメリカでは要人の台湾渡航を促す台湾旅行法が成立し,親台派のボルトン元国連大使が大統領補佐官に就任する見通しである。中国はこうした日本やアメリカの台湾を重視する姿勢に反発しており,台湾への圧力をさらに高めるとみられる。

(地域研究センター)

重要日誌 台湾 2017年
   1月
1日日本側の窓口機関である交流協会,日本台湾交流協会に名称変更。3日,除幕式開催。
7日蔡英文総統,中米訪問(~15日)。途中,アメリカのヒューストン寄航(7日),ホンジュラスでエルナンデス同大統領,ニカラグアでオルテガ同大統領と会談(9日),グアテマラでモラレス同大統領と会談(11日),同国国会で演説(12日),エルサルバドルでセレン大統領と会談(13日)。
7日詹賢国民党副主席,辞任。
9日翁啓惠・前中央研究院院長,台湾浩鼎生技をめぐる汚職容疑で士林地検に起訴される。
11日立法院,電力自由化などを盛り込んだ電業法改正案を可決。
11日中国軍の空母「遼寧」,台湾海峡を通過(~12日)。
19日陳建仁副総統,国家年金改革委員会がまとめた年金改革案を発表。
24日シンガポール外務省,台湾での演習からの帰路,香港で押収された同国軍装甲車の返還に香港の梁振英行政長官が同意と発表。装甲車は28日に同国到着。
   2月
2日交通部,Uber台湾子会社(以下,Uber)の事業を白タクと認定し,罰金処分を科す。Uber,同10日以降の営業停止を発表。
3日徐国勇行政院報道官,内閣改造を発表。
5日国防部中山科学研究院,漢翔航空工業と高等練習機の開発・製造に関する覚書を締結。蔡英文総統も出席。
9日アメリカのトランプ大統領,中国の習近平国家主席と電話会談,「一つの中国」政策を堅持すると発言。
10日最高法院,中国青年救国団(以下,救国団)に対し,「志清大楼(ビル)」(同本部が入居)使用権の国への返還を命じる判決。救国団は9月8日に同ビル退去。
24日立法院,李逸洋考試院副院長,陳慈陽考試委員の人事案を承認。3月1日に就任。
   3月
1日総統府,監察委員11人の人事案を発表。年内は立法院の審議行われず。候補者のうち,劉文雄(親民党所属)が死去,11月に楊芳玲(元台北市政府法務局長)が追加される。
1日日台漁業委員会第6回会合,開催(~3日)。
2日桃園機場捷運(空港鉄道),正式開業(試験営業は2月2日開始)。
8日李元簇・元副総統,死去。31日に追悼式。
9日徐国勇行政院報道官,彭勝竹国家安全局長,金韓松(マレーシアで暗殺された金正男の長男)を支援した「匿名希望の政府」を台湾とする報道の真偽について「回答できない」と発言。何栄村移民署長,「金韓松は台湾に入国していないが,トランジットについては不明」と発言。
9日法務部調査局,外交部に対するスパイ未遂で中国人元留学生の周泓旭を逮捕。
13日アメリカ国務省,トランプ政権の「一つの中国」政策は米中間の3つの共同宣言と台湾関係法に基づくと発言。
14日馬英九・前総統,2013年9月の検察盗聴記録の閲覧につき,秘密漏洩教唆容疑で台北地検に起訴される。
19日元民進党職員でNGOメンバーの李明哲,マカオから中国本土へ渡航後,行方不明に。中国側が29日に拘束を認める。
21日国防部中山科学研究院と台湾国際造船,潜水艦設計に関する契約締結式典。蔡英文総統も出席。
23日行政院,今後8年間で8900億元規模の「前瞻基礎建設計画」(先進的インフラ建設計画)を閣議決定。
24日赤間総務副大臣,来訪(~25日)。
28日監察院,司法院大法官会議に対して不当党産条例の合憲性を問うことを決定。
28日台北地方法院,柯建銘立法委員が提訴した馬英九・前総統の秘密漏洩容疑に関する刑事訴訟につき,無罪判決を出す。
31日台北地方法院,ひまわり学生運動関係者の公務執行妨害容疑を市民的不服従と認め,無罪とする判決。
   4月
9日日台海洋協力対話の漁業協力ワーキンググループを東京で開催。
13日Uber,レンタカー業者と提携し,営業再開。
16日烏山頭ダム(台南市)の八田與一の銅像,頭部切断される。統一派の李承龍前台北市議,18日に犯行を認める。
21日衛生福利部食品薬物管理署,食用の鶏卵から基準を超えるダイオキシンが検出されたと発表。
23日ジェームズ・モリアーティ・アメリカ在台湾協会(AIT)理事長,来訪(~29日)。
25日立法院,公職人員年資併社団専職人員年資計発退離給與処理條例(公務員年金資格に合算された社団職員歴の扱いに関する条例)を可決。
29日日本政府,許世楷・元台北駐日経済文化代表処代表と黄茂雄工商協進会栄誉理事長に旭日重光章,黄天麟台日文化経済協会会長に旭日中綬章を授与。
   5月
8日八田與一追悼記念式に頼清徳市長らが出席。2月に破壊された銅像の修復は前日までに完了。
9日世界保健機関(WHO),年次総会への参加を締め切る。台湾には招待状が届かず。
17日対日窓口機関である亜東関係協会,台湾日本関係協会に名称変更。記念式典実施。
17日外交部,相互承認関係にあるフィジーが駐中華民国代表処を廃止したと認める。
20日国民党主席選挙で,呉敦義・前副総統が当選。
24日司法院大法官会議(憲法法廷),民法が同性婚を認めないことを違憲とする判断を下す。
24日呉釗燮総統府秘書長および厳徳発国家安全会議秘書長,就任。
   6月
12日パナマ,台湾との断交を発表。
12日台湾議会関注香港民主連線(香港の民主化に関心を持つ立法委員のグループ),発足。民進党,時代力量の立法委員が参加。
14日アメリカのティラーソン国務長官,米中間で「一つの中国」の含意は異なり,アメリカの政策は台湾関係法に準拠すると発言。
21日アメリカ国務省,中台関係の一方的な現状変更に反対すると表明。
27日立法院,公務人員退休資遣撫卹(退職金・年金)法を可決。
29日立法院,公立学校教職員退休資遣撫卹條例(退職金・年金法)を可決。
29日邱垂正大陸委員会副主任委員兼報道官,中国の劉曉波氏の病状悪化を受け,台湾に受け入れる用意があると表明。
29日アメリカ国務省,台湾に約14億ドル分の武器を売却すると議会に通告。
   7月
1日柯文哲台北市長,上海市を訪問。双城論壇(都市フォーラム)に出席。
4日監察院,翁啓惠・前中央研究院院長を弾劾。8日,中央研究院院士ら61人,本決定を不当とする声明発表(当初は70人が声明に署名したとされたが,10日に訂正)。
6日立法院,大型インフラ投資計画を盛り込んだ「前瞻基礎建設特別條例」を可決。
12日パラグアイのカルテス大統領が来訪。蔡英文総統と会見,経済協力協定に調印。
12日蔡英文総統,劉暁波氏の釈放を中国政府に要求。
13日中国軍のH-6爆撃機,台湾を一周。さらに,20,24,25日にも台湾周辺を飛行。20日には8機が飛行。
14日蔡英文総統,劉暁波氏の死去を受け,追悼の意を表明。
29日台風の影響で和平火力発電所の送電線が切断,電力需給が逼迫。
30日本土派団体が合同で,台北市内で劉曉波氏の追悼会を開催。
   8月
1日鄭麗君文化部長,訪日(~3日)。
6日アメリカのディック・チェイニー元副大統領,来訪(~9日)。蔡英文総統と面会(7日),アジア太平洋安全対話フォーラムに出席(8日)。
8日アメリカのティラーソン国務長官,レーガン政権による「6つの保証」は対中,対台湾政策の基礎と発言。
10日アメリカ・台湾間の安全保障対話「モントレー会談」開催。台湾側はF-35B戦闘機の売却を要請か。
15日大潭発電所,台湾中油のミスによる燃料供給の中止で緊急停止。全国規模の停電が発生。
15日李世光経済部長,大規模停電につき引責辞任。沈栄津政務次長が職務を代行。
19日2017年夏季ユニバーシアード,台北市で開催(~30日)。蔡英文総統,開会を宣言。中国は開会式を欠席。
20日呉敦義国民党主席,就任。
25日台北地裁,馬英九・前総統の機密漏洩教唆容疑につき,無罪判決(検察による起訴)。
30日アメリカ国際貿易委員会,台湾製の鉄筋に対するアンチダンピング課税を決定。
30日エド・ロイス下院外交委員長らアメリカ議員団,来訪(~9月2日)。蔡英文総統,ロイス委員長に「特種大綬景星勳章」授与(9月1日)。
31日立法院,前瞻基礎建設予算案を可決。
   9月
7日林全内閣総辞職(林行政院長の辞意表明は4日),後任は台南市長の頼清徳。
15日蒙蔵委員会,事実上廃止され,文化部へ編入。文化部蒙蔵文化中心が発足。
18日衛生福利部食品薬物管理署,30カ月未満の日本産牛肉の輸入を解禁すると発表。
21日宏達国際電子(HTC),Google向けスマホ開発部門を同社に売却。
24日蔡英文総統,民進党全国党員代表大会で憲法改正を提起。投票年齢を18歳に引き下げ,人権,一票の格差是正など。
24日台湾大学陸上競技場で中国テレビ局がコンサート開催。同大の学生による抗議に,張安楽率いる統一派団体が乱入し,流血事件に。
28日蔡英文総統,来訪したバチカンのピーター・タークソン人間開発省長官と会談。
29日頼清徳行政院長,慰安婦問題で日本に謝罪を求める意向を示す。
29日彭淮南中央銀行総裁,2018年2月の任期満了をもって退任すると表明。
  10月
3日遠東国際商業銀行,サイバー攻撃で6000万ドルの被害を受ける。後日,被害額の大半を回収。
5日盧麗安復旦大学教授,中国共産党同代表に当選。戦後生まれの台湾出身者で初。台湾政府,彼女の戸籍を抹消。
6日傅崐萁花蓮県長,脱税および偽証罪で起訴される。
10日蔡英文総統,国慶節記念式典で演説,中国に関係改善を呼び掛け。
11日台湾高等法院,柯建銘が起こした馬英九の秘密漏洩容疑に関する刑事訴訟につき,一審同様,無罪判決を出す。
25日経済部,住宅での太陽光発電設備に最大4割の補助金を出す方針を発表。
28日蔡英文総統,マーシャル諸島,ツバル,ソロモン諸島訪問(~11月4日)。往路でハワイ,帰路でグアムに立ち寄り。
31日李述徳・元財政部長,遠雄建設の趙藤雄董事長ら,台北ドーム建設をめぐる不正容疑で台北地検に起訴される。
  11月
7日立法院,陳英鈐主任委員,陳朝建副主任委員ら中央選挙委員会人事案を承認。
7日空軍のミラージュ2000戦闘機,基隆北東の海上で訓練中,消息不明になる。
14日国防部,軍人年金制度の改革案を発表。
15日JR東日本が譲渡した583系寝台特急電車,鉄道博物館予定地である台湾鉄路台北機廠(整備工場)跡に到着。
19日廖蕙芳労働部政務次長,辞意表明。蘇麗瓊・元台北市秘書長が後任に(26日)。
20日中国軍のIl-78空中給油機とSu-30戦闘機3機等,台湾の防空識別圏に接近。
21日日本台湾交流協会と台湾日本関係協会,第42回日台貿易経済会議を開催(~22日)。
22日日本台湾交流協会と台湾日本関係協会,税関相互支援のための取決めと文化交流協力に関する覚書を締結。
22日蔡英文総統,経営破綻が確実視される慶富造船が請負った新型掃海艦の建造について談話発表。軍艦の国産化を継続すると表明。
28日中国湖南省岳陽市中級人民法院,李明哲に国家政権転覆罪で懲役5年の有罪判決。総統府や大陸委員会,言論活動への転覆罪適用を非難,李明哲の即時釈放を要求。
  12月
5日立法院,移行期正義促進条例を可決。
7日中国軍H-6爆撃機,台湾の防空識別圏に接近,台湾のF-16戦闘機を無線通信で威嚇。
10日ジェームズ・モリアーティAIT理事長,来訪(~16日)。蔡英文総統と会談。
10日立法院,政党法を可決,成立。
12日立法院,公民投票(レファレンダム)法を改正。レファレンダムの実施,通過の基準を引き下げ。
13日総統府,新南向弁公室を解散し,南向政策の立案は国家安全会議,執行は行政院経貿談判弁公室へ移管すると発表。
16日黄国昌立法委員の罷免の是非を問う住民投票,実施されるも不成立。
16日法務部,スペインによる台湾人詐欺容疑者の中国へ引き渡しを非難。同国全国管区裁判所が許可したのを受け。
17日中国軍のY8電子偵察機,台湾周辺の上空を一周。馮世寬国防部長,危機対応のため国軍連合作戦指揮中心に詰める。
19日日台海洋協力対話第2回会合(~20日)。海難捜索救助分野の協力に関する覚書を締結(20日)。
21日馮世寬国防部長,台湾周辺での中国軍機の動向について随時公表を見直すと発言。
29日中華民国婦女聯合会(婦聯会)と内政部および不当党産処理委員会,婦聯会が資産の9割にあたる343億元を国庫へ寄付し,組織改組を行うことを条件に,その実質存続を容認するとの行政契約の内容に合意,覚書を締結。

参考資料 台湾 2017年
①  国家機構図(2017年12月末現在)

(注) 1)「山地原住民区」のみ例外として,「地方自治団体」とされ,また「区民代表会」が設置される。

(出所)行政院(http://www.ey.gov.tw/),監察院(http://www.cy.gov.tw/)および司法院(http://www.judicial.gov.tw/)ウェブサイトを参照。

②  国家機関要人名簿(2017年12月末現在)

(注)1)は女性。

   2)下線は行政院会議での議決権を持つ。

   3)点下線ほか,6直轄市の市長が閣議に列席可能。

③  主要政党要職名簿(2017年12月末現在)

(注)は女性。

④  台湾と外交関係のある国(2017年12月末現在)

(注)1)パプアニューギニア,フィジー共和国とは相互承認関係にある。

   2)1)を除き,台湾と正式に国交を締結している国は20カ国。

   3)2017年6月にパナマと断交した。

主要統計 台湾 2017年
1 基礎統計

(出所)内政部統計処ウェブサイト(http://www.moi.gov.tw/stat),行政院主計総処ウェブサイト(http://www.dgbas.gov.tw/),中央銀行ウェブサイト(http://www.cbc.gov.tw/)。

2 支出別国内総生産および国民総所得(名目価格)

(注)2015年,2016年は修正値。2017年は暫定値。

(出所)行政院主計総処ウェブサイト(http://www.dgbas.gov.tw/)。

3 産業別国内総生産(実質:2011年価格)

(注)表2に同じ。

(出所)表2に同じ。

4 国・地域別財貿易

(注)2014年から2016年は修正値。2017年は暫定値。

(出所)財政部ウェブサイト(http://www.mof.gov.tw/)。

5 国際収支

(注)2011年から2016年は修正値。2017年は暫定値。

(出所)中央銀行ウェブサイト(http://www.cbc.gov.tw/)。

6 中央政府財政(決算ベース)

(注)2017年と2018年は予算。歳入および歳出には中央政府債発行に伴う収入と償却費が含まれないため,歳入と歳出は一致しない。債務費は中央政府債の利子支払いである。

(出所)表2に同じ。

7 政府財政

(注)承認ベース。

(出所)経済部投資審議委員会ウェブサイト(http://www.moeaic.gov.tw/)。

 
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