2018 年 2018 巻 p. 265-282
近年,急速な経済開発の陰で,様々な弊害が顕在化している。2017年は,そうした開発の弊害の是正に,政権がこれまで以上に積極的に取り組んだ1年だった。しかし,その試みによって,かえって問題の根深さが明らかになりつつある。
内政面では,全党規模の反汚職キャンペーンが実施され,汚職に関する情報の公開も進んだ。そうしたなか,アッタプー県知事の親族が木材密輸に関与しているとの疑惑が報じられ,知事は解任された。土地問題に関しては,土地配分計画の策定に進展があった。一方,土地法の改正は遅れており,ラオス・中国高速鉄道に関する住民への補償も進んでいない。
経済面では,歳入不足が深刻であり,第2四半期初頭より緊縮財政が実施された。歳入増加策としては,関税収入の増加を目指して密輸自動車の取り締まりが強化され,一定の成果を上げた。一方,付加価値税の徴収強化に関しては,有効な方策が登場していない。また,農業と観光業の不振が続いており,GDP成長率は目標としていた7%台に届かなかった。他方,貿易は好調で黒字を記録した。
外交面では,南シナ海をめぐり不安定な情勢が続くなか,対中関係の深化が目立った。習近平が国家主席として11年ぶりに来訪し,外交と軍事に関する協力が強化された。一方,ベトナムとの間では,国交樹立55周年等に関する祝賀事業が大規模に行われて「特別な関係」が確認されるとともに,不法移民対策が進められた。
近年,汚職に関する情報の公開が進み,その深刻な実態が明らかになりつつある。2017年も1月の政府検査機構の会議において,2016年の1年間だけで中央および地方の公務員71人が捜査対象となり,総損失額は1400万ドルを超えたことが公表された。また,10月の第8期第4回国会では,公共事業による脱税の実態が明らかにされた。それによれば,免税措置を受けて輸入した車両や燃料を私的に流用する事例が多く,たとえば2013年のカーシー(ビエンチャン県)=ムアンナーン(ルアンパバーン県)道路建設事業では燃料関連の脱税額が928万ドルに及んだという。また,同国会においてトーンルン首相は,適切な入札を実施せずに法外な予算を計上する道路事業が多く,1キロ当たり140億キープ(約169万ドル)が支出されることもあったと指摘し,35億キープ(約42万ドル)という予算の目安を提示した。
こうした深刻な事態を背景として,人民革命党と政府は2017年を通じて汚職対策を進めた。まず,党は1月,「汚職の防止・撲滅と権威主義の解消に関する党中央委員会決議第22号」を採択した。その全文は非公表だが,党機関紙によれば,思想訓練の強化,業務体系の見直し,民主集中原則の徹底,検査業務の強化などを重視する対策の基本方針が示されたという(Pasason, 2017年3月9日)。
この方針に沿って,党は思想訓練を組織的に実施した。政治局が2月に「2017年全党政治活動改造」という挙党体制での反汚職キャンペーンの実施を決定すると,翌3月に政治局,書記局,中央委員会の委員,省庁および県の党書記が一堂に会し,その実施方針が共有された。そして,5月以降数カ月にわたり省庁と県以下の各級で同様の会議が開催されていき,「清廉・強力・堅固」のスローガンの下,全国で党紀粛正の徹底が図られた。
業務の見直しは,とくに財務部門で進められた。4月,財務省は決議第1124号を全国の財務部門に向けて公布し,10項目の禁止事項を示した。その内容は,入札の際の談合や税金に関する書類の改ざんなどを禁止する一般的なものだったが,役人の意識を喚起するねらいがあったと推察される。また,財務省は4月にホットラインを開設した。住民からは高額な税への不満や公債への不安などの声が寄せられ,その一部は各種メディアを通じて財務省の回答とともに公表された。
末端の引き締めとともに,最高指導者層が国民の信頼回復に率先して取り組む姿勢も示された。1月,政府は「高級幹部専用車両の支給と管理に関する首相令第15号」を採択し,党書記長から副大臣に至る最高幹部の公用車の車種や台数などを制限して,基準外の車両を競売にかけることを発表した。しかし,2月末にトーンルン首相のBMWなど14台を売却して以降,年内に競売は実施されなかった。
森林伐採の規制強化とアッタプー県知事の更迭2016年5月の首相命令第15号の公布以降,政府は木材の伐採と輸出の規制を強化している。その背景には,高価な木材が大量に密輸されて関税収入の抑制に繋がり,また税関職員などの汚職の温床にもなっているという問題がある。
具体的には,保護林周辺の製材所と無許可の家族経営家具工場の閉鎖が進められた。政府は当初,製材所28軒と家具工場1157軒の前年末までの閉鎖を計画していたが,期限の時点でも約半数の製材所とすべての家具工場が営業を続けた。その後,製材所の閉鎖は2017年3月までに完了したが,家具工場は6月時点でも約半数が営業を続けた。しかし,下半期に対策は強化され,12月現在までに製材所349軒(閉鎖対象は1500軒に拡大),家具工場1000軒余り(同じく1178軒に拡大)が閉鎖された。地方レベルで認可を受けていた家具工場が,首相命令第15号の基準に合致せずに閉鎖される例もあったという(Vientiane Times, 2017年3月7日)。
一方,木材の密輸規制では,政治家の不祥事が発覚した。6月,未加工木材の密輸を図り県当局に接収された27台のトラックの一部に,ナーム・ウィニャケート・アッタプー県知事の夫人の所有する車両が含まれていることが報道された(Radio Free Asia, 2017年6月29日)。ナーム知事は自身の責任を否定したが,結局,報道から5カ月後の11月21日に解任が発表された。
ナーム知事の解任によって,木材問題対策に対する政権の強い意志がより鮮明になった。ナーム知事は,前年に死去したサマーン・ウィニャケート元政治局員の実子で,工業・商業相の経験を持ち,党中央委員会では序列22位に位置する有望な人物だった。政府は,9月の拡大閣僚会議でも首相命令第15号の徹底を指示したが,閉会後の記者発表では,「天然資源保護に関する人民の信頼を確保」するため「違反する者に対しては例外なく」処罰を与える必要があると強調した。
土地問題への取り組みとラオス・中国高速鉄道地価の高騰が著しいなかで,土地収用に関する補償金をめぐるトラブルが頻発している。政府は1月,ソムマート天然資源・環境相らに問題の総点検を指示し,その成果の一部は8月の拡大閣議で報告された。そのなかでソムマート大臣は,とくに都市部では補償額が市場価格から乖離する例が多く,たとえば2010年の首都における450年道路建設事業では,市場価格が1平方メートル当たり119~149ドルの土地に対して,同じく1.8~60ドル程度の補償金しか支払われない場合もあったと指摘した。そして,前年の首相令第84号に従い,住民の生活水準の維持を最優先に補償を実施する必要性を強調した。
建設が進むラオス・中国高速鉄道は,移住対象世帯が4411に及ぶ国内最大規模の開発事業であり,補償金の算出は難航している。4月,先送りされていたトンネル掘削とウドムサイ県での工事が開始され,関連する1都4県のすべてで建設が本格化した。しかし,補償額の調整は,12月末現在も各県・都議会で続けられており,たとえばビエンチャン都では,支払い完了までに2年を要すると試算している。また,移住先の確保も難航しており,ルアンナムター県では住民を暫定的な居住先に移したうえで,工事を進めつつ,最終的な移住先を調整するという方法も採られている(Pasason, 2017年4月5日)。
土地問題への具体的な対策としては,関連する法律の整備が急がれており,2017年は土地配分計画の策定が進展した。党は,3月の第4回中央委員会総会での協議に基づき,8月に「新時代における土地の管理と開発に関する党中央委員会決議第26号」を採択した。すると,その直後から天然資源・環境省を中心に「国家土地配分マスタープラン」の検討が本格化した。これは,農地,工業用地,森林,道路用地などの土地法の8分類に基づき国土の配分計画を国家レベルで定めるもので,その制定後,県から村のレベルでも同様の計画が策定される予定となっている。12月の全国土地会議では,「適切・迅速・大量・合法的な処理」のスローガンが共有され,遅れている土地法の早期再改正の必要性も強調された。
12月末時点の政府推計によれば,GDP成長率は,目標値7.0%を下回る6.83%となる見込みである。名目GDPは140兆1020億キープ(約169億ドル),1人当たりGDPは2472ドルと予測されている。
農業分野の成長率は,目標値3.1%を下回る2.73%となり,2012年から4年間続いた成長率3%台には前年に続き到達しない見込みである。前年末以来の木材伐採規制の強化や,7月に中・南部で発生した洪水が影響したと考えられる。
政府は農業の多角化を模索しているが,まだ成果は出ていない。バナナ農園の農薬被害が深刻化し,前年末に政府が生産停止を勧告したため,同産業の成長をけん引した中国企業の撤退が進んだ。政府は有機農業の振興を進め,中国への有機米年間2万トンの輸出が政府間で合意されていたが,品質の低さが問題となり,実際の輸出量は4000トン余りにとどまる見込みである。改正投資促進法が4月に施行され,有機農業を営む中小企業への税優遇措置が導入されたが,後述する電気料金の高さは,中小規模の農場が灌漑設備を導入する際の障害になっている。
工業は,目標値8.9%を上回る9.53%の成長率を達成するとみられるが,課題もある。電力部門は,1年間で新たに6基の水力発電所(出力約400MW)が稼働したが,前年末のセーカマーン3ダムの水圧鉄管損壊事故も影響し,年間発電電力量は計画の96.84%(2万9052GWh)となる見込みだ。また,9月にはシェンクアン県で建設中のナムアオダムが決壊し,政府は11月に小規模ダム建設の一時停止と安全性の再点検を指示した。鉱業は,年間の産出額が計画の72.1%となる見込みである。要因としては,鉱物資源の価格下落のほか,セーポーンなどの主要鉱山の産出低迷や産出技術の問題が指摘されている。一方,製造業は好調で,生産額は計画を33%上回る9兆2170億キープ(約11億ドル)を記録する見通しだ。
サービス業の成長率は,目標値7.8%を下回る6.15%となる見込みで,4.65%を記録した前年に続き伸び悩んだ。その不振の主な要因は観光業にある。年間観光客数は,前年比8.73%減の386万人となり,目標の480万人を大きく下回った。政府は1月,翌2018年を観光促進年間「ビジット・ラオス・イヤー」とすることを発表し,年間観光客数500万人,観光収入9億ドルの達成を目指している。
貿易の拡大と物価の高止まり工業・商業省の2018年2月の発表によれば,2017年の貿易総額は,前年比11%増の93億4500万ドルとなった。その内訳は,輸出48億300万ドル(前年比13.4%増),輸入45億4200万ドル(同7.6%増)で,2億6100万ドルの出超となった。計画では2300万ドルの赤字が見込まれていたが,一転して黒字を記録した。主な品目の輸出額は,電力や金だけでなく,コーヒー,ゴム,穀物類,縫製品などが増加した。輸入は,高速鉄道建設の進展も影響し,燃料や機械類が増加した。
農産物や電力の輸出が好調だが,それらの国内価格は高止まりしている。国内の食品の需要は輸入によって賄われており,その価格は周辺諸国より2割近く高いともいわれる。電気料金の高さの背景にも,送電設備の不足などから,国内需要の一部を高価な輸入電力で補塡している事情がある。電力の輸入額は前年に42.3%,2017年も18.8%減少したが,電力公社(EDL)の抱える負債と利用者の未納金は,合計10億ドルを超える。EDLは前年に一般家庭向け料金を値下げしたが,1月に企業と公的機関向け料金を値上げした。2017年のインフレ率は1.45%となり,目標の5%以下を達成する見込みだが,国民生活は決して楽ではない。
慢性的な財政赤字の解消の試み11月末時点での政府推計によれば,年間の歳入額は22兆7000億キープ,歳出額は30兆8000億キープ,赤字額は8兆1000億キープ(対GDP比6.18%,約9767万ドル)となった。この赤字額は,計画より3000億キープ少ない。
しかし,赤字額が計画を下回ったのは,赤字体質の改善の結果ではない。政府は4月,第1四半期の歳入が目標の77.8%となったとして,緊縮財政の実施を発表した。翌5月,「国家予算の倹約に関する首相命令第9号」が公布され,翌年までの公用車の購入,2020年までの公的機関の建設見合せ等が指示された。
また,公債の発行が続けられ,公債の対GDP比は前年の68.1%から70.5%にまで増加したとみられている(Vientiane Times, 2017年10月10日)。ただし,その売却方法等の見直しも進みつつある。5月,公債発行過程の透明性の向上を目的とする首相令が公布された。10月の国会では公債法が提出され,採択は見送られたが検討が続けられている。また,短期国債を抑制するため,10月には総額140億バーツ(約4億2000万ドル)の国債が,3~15年の期限で売却された。
歳入増加策としては,付加価値税の徴収強化が目指され,国会でも議論が続けられている。現状の問題点としては,レジの導入が進まず帳簿の管理が杜撰であり売上額の自己申告による納税が横行していることや,伝統的な市場では店舗の移動が比較的容易なため営業の事実すら申告しない業者がいることなどが指摘されている。財務省は,全国で地道な店舗データの収集を進め,1月には統一的なデータベースの構築とデータセンターの建設を開始した。これには韓国が2850万ドルの資金と技術を提供し,2018年末の運用開始を予定している。
あわせて脱税の取り締まりと増税も進められたが,反発も大きい。1月,密輸自動車の取り締まりの強化が発表され,年末までに,約1万台の密輸自動車・オートバイから合計2000万ドル余りが関税等として追徴された。一方,3月に予定されていた道路税の増税には反発が大きく,例年3割程度にとどまる納入率の向上を優先すべきとの批判もあった。それでも,9月には増税が決定され,一部の車種では倍以上も増額された。地方レベルでは,都議会は6月,ビエンチャン人民道路基金を設立し,都独自の道路税を導入することを決定した。しかし,その資金が道路建設関連の負債の返済にも充当されることや,都心と郊外が同率に課税されることなどには批判があり,中央政府と国会で再検討されることになった。
歳出抑制策としては,公務員の縮小が検討されはじめた。公務員給与の支払いには,例年,予算の約3分の1が充当されているが,それでも各地で遅配が生じている。8月,翌年の公務員採用の縮小を閣議決定したが,無償で職務に従事し正規採用を待っている教員が全国で1万人を超えることなどが問題となっている。また,国有企業の合理化が急がれ,8月には電気通信公社(ETL)の株式の51%が中国企業に売却された。国営航空とEDLの合弁化も検討されている。
11月,中国の国家主席として11年ぶりに,習近平国家主席がラオスを訪問した。2日間にわたった今回の来訪には,大きく4つの意義があったと考えられる。
第1に,南シナ海問題が注視されるなか,外交および軍事面での協力が強化された。外交面では「新たな状況下での外務省間協力に関する協定」が調印された。軍事面では,その2カ月前の9月に常万全中国国防相が来訪し,両国国防省の協力に関する覚書を締結しており,それを踏まえた協議が進められた。ただし,南シナ海問題に関して,最終日に調印された共同声明では「平和・友好・協力」などの原則を確認するにとどまった。
第2に,「一帯一路」構想に関する協力が強化された。ビエンチャン=バンビエン高速道路の建設を正式に合意して,総額12億ドルの95%を中国が援助し,2018年着工,2021年完成を目指すことになった。将来的に,中国国境のボーテンまで延伸する計画である。一方,ラオス・中国高速鉄道事業に伴う住民の移住の問題については,共同声明では直接的な言及はされなかった。
第3に,17件もの多岐にわたる協定が締結され,中国のラオスへの支援が強化された。中国は,外交,経済回廊,インフラ開発,電力,電子商取引,科学技術,水資源管理,農業開発区,人的資源開発,ICT,中小企業振興の各分野に関して協力協定(覚書を含む)を締結し,それらの分野に3年間で総額40億元(約6億ドル)を無償で支援することを約束した。また,関連する5件の個別事業への有償資金協力も合意された。40億元の資金について,ラオス政府はそれを貧困解決と地方開発に活用する方針を12月初頭の閣議で決定し,具体的な調整を進めている。
第4に,両国独自の関係性を確立し,友好関係の深化を図る試みが,習主席個人の人脈を活用して行われた。習主席は2日間という限られた日程のなか,キニム・ポンセナーの遺児を訪問した。キニムは,1960年代に活動した中立派として知られる政治家の1人で,人民革命党あるいはそれを支援するベトナム民主共和国と連携しながらも平和中立党の党首として独自の活動を展開した人物で,中国との国交樹立(1961年)の際の外相でもあった。キニムが1963年に暗殺されると,その子供の一部は中国へ亡命し,北京の小学校で幼少の習近平と出会った。習主席は,2010年と2012年にもこの遺児に面会しているが,今回が国家主席就任後初の面会となった。習主席は今回の訪問に先立ちラオス国民へのメッセージを新聞上で公表し,そのなかで1960年代から続く両国の「伝統的友好を継承し,発展させる者」として,キニムの遺児の存在に言及した。そのなかには,ケムマニー工業・商業相兼ラオス・中国協力委員会委員長,土地問題対策の中心人物であるソムマート天然資源・環境相らが含まれ,この両名は党中央委員でもある。依然としてベトナムとの繋がりの強いラオスの政権のなかで,中国との独自の友好関係を象徴する存在として,ポンセナー一族が重視されていく可能性は高い。
ベトナムとの「特別な関係」の確認と不法移民対策の進展ベトナムとの間では,国交樹立55周年と友好協力条約締結40周年を記念して「ラオス・ベトナム団結・友好年」が祝賀され,首脳級の往来が重ねられた。その中では既に合意されたブンアン港開発などのインフラ事業の調整が進められ,不安定な国際情勢の下でも「特別な関係」を堅持することの重要性が強調された。
また,不法移民問題への対策も進められた。1月,ラオスの外相とベトナムの副外相が出席した国境代表者会議で「国境地域での無許可の移住,非合法な婚姻の取り締まりに関する政府間合意」が締結された。近年ベトナム人のラオス側国境地域での不法定住が大規模化し,治安上の懸念も度々指摘されてきたが,中央政府間で対策の枠組みが合意されたのはこれが初めてである。ただし,ラオス側国境地域に住むベトナム人の中には,インドシナ戦争期にラオスの革命運動を支援してそのまま定住した者なども含まれており,画一的な対策には問題がある。4月のグエン・スアン・フック首相来訪時の共同声明では,上記の政府間合意の意義が強調されるとともに,「ラオスの国の建設と発展への越僑の貢献に対するラオス側の尊重」へのベトナム側の謝意が記されていた。また,11月に改正された国籍法では「ラオスの革命闘争や社会経済開発に重要な貢献をした人物」かつ現国籍の保持を望む者に「名誉国民」の資格を付与する条項が新設されている。
カンボジアとの国境の不安定化カンボジアとの間では,国境の緊張状態が一時高まった。両国の国境画定作業は2000年に本格化されたが,約13%が今も未確定である。その未画定地域の一部でカンボジア側が道路建設を進めているとされる問題で,ラオス側の軍隊は2月頃から建設現場付近に駐留して工事を中断させていた。これに対してカンボジアのフン・セン首相は8月11日,6日以内の撤退を要求し,プノンペンから大規模な軍隊を派遣した。しかし,その翌日には自らラオスを訪問し,その後事態は収束へ向かった。両政府は委員会を新たに設置し,国境画定作業を進めている。
労働者の問題をめぐるタイを含む諸外国との関係タイとの間では,不法移民労働者対策が進められている。言語的な障壁の低さなどから,タイ国内のラオス人労働者は15万人を超え,その約半数は不法就労者だといわれる。両国政府は7月と9月に協定を締結し,就労許可の失効したラオス人労働者への許可書の再交付などを進めた。
また,政府はタイ以外の国々の協力も得て雇用創出を試みているが,課題もある。4月,韓国に派遣する労働者500人の選抜試験が実施され800人余りが受験したが,9割が韓国語の試験で不合格になった。7月,中国・ラオス高速鉄道事業で7112人のラオス人を雇用することが発表されたが,技能不足等が問題となり実際の雇用は進んでいない。12月,パクセー・ジャパン経済特区(SEZ)で,近隣のチャンパーサック大学の学生の優先的な雇用を進める方針が発表された。12月現在,全国12カ所のSEZで14699人が働くが,ラオス人はその約半数にとどまる。政府は,翌年だけで新たにラオス人4150人をSEZで雇用する計画である。
政治面では,2021年開催予定の第11回党大会に向けた準備が各地で開始され,中央レベルでの人事異動も行われると考えられる。また,国家土地配分計画の完成が期待される。経済面では,財政赤字の軽減が急務である。とくに,これまでに進められた木材や自動車の密輸対策が,実際の関税収入の増加にどれだけ繋がるかが注目される。対外関係では,ベトナムとの間で,複数の大規模な協力協定の締結と,ビエンチャン=ブンアン高速鉄道の着工が予定されている。また,中国の支援によるビエンチャン=バンビエン高速道路の着工も予定される。政権には,これらの大型事業によって汚職や土地問題が悪化することを防ぎつつ,雇用創出などにも繋げていくことが求められるだろう。
(地域研究センター)
1月 | |
5日 | 「高級幹部専用車両の支給・管理に関する首相令第15号」,公布。 |
5日 | 財務省,徴税管理データシステム建設計画を開始。韓国が資金と技術を支援。 |
5日 | 第26回老越国境代表者会議,開催。不法移民対策の枠組みを合意。 |
10日 | ノーンノックキアン(ラオス)=トロペアンクリアル(カンボジア)国際国境ゲート,開通。両国首相は式典に参列後,ドーンサホーンダム建設予定地を視察。 |
11日 | シンガポールのトニー・タン大統領,来訪(~14日)。 |
13日 | 「汚職の防止・撲滅と権威主義の解消に関する党中央委員会決議第22号」,採択。 |
17日 | 政府検査機構年次会議,開催(~18日)。2016年の汚職に関する情報を公開。 |
19日 | ラオスの巨大麻薬密売グループの中心人物サイサナ・ケオピムパー,バンコクでタイ警察により拘束される。 |
24日 | 月例閣議,開催(~25日)。土地問題担当委員会を設置。 |
24日 | サルームサイ外相,カンボジア訪問(~25日)。国境関連会議に出席。 |
25日 | 「密輸自動車問題解決に関する首相府公示第142号」,公布。 |
30日 | 党政治局,土地問題を協議(~31日)。 |
2月 | |
1日 | 「2017年全党政治活動改造に関する党中央政治局指示第1号」,公布。 |
7日 | トーンルン首相,訪越。第39回両国政府協力会議に出席(~8日)。 |
12日 | 中国系バナナ農園に隣接するボケオ県ガオ川で魚が大量死。 |
21日 | モン族出身の革命指導者ファイダーン・ロービアヤーオの銅像をシェンクアン県に設置し,除幕式を開催。総工費130億キープ。 |
22日 | ブンニャン国家主席兼党書記長,カンボジア訪問(~23日)。 |
23日 | 月例閣議,開催(~25日)。木材違法伐採の取り締まり強化を指示。 |
28日 | 高級幹部専用車14台の競売を実施。 |
3月 | |
5日 | パニー国会議長,訪越(~10日)。5カ年の国会間協力協定を締結。 |
6日 | ソーンサイ副首相,訪日(~10日)。 |
6日 | 人民軍創設メンバー27人の石像を,創設の地フアパン県シェンコー郡に設置。 |
9日 | 2017年全党政治活動改造に関する周知・実施指導会議,開催。書記長ら出席。 |
9日 | ラオス・タイ鉄道建設計画第2フェーズ完了。路線を延伸し,コンテナヤードを整備。 |
20日 | 第10期第4回党中央委員会総会,開催(~24日)。土地問題等を協議。 |
22日 | 農林省,中国国家林業局と森林管理分野の協力に関する覚書を締結。 |
30日 | 第13回ラオス・ベトナム財相会談。5カ年の協力協定を締結。 |
31日 | 国家社会科学評議会,ベトナムの党中央理論評議会とホー・チ・ミン思想研究に関するセミナーを開催。カイソーン・ポムウィハーン思想研究の担当者らが出席。 |
4月 | |
6日 | ウドムサイ県で老中鉄道のトンネル掘削,着工。式典に県知事らが出席。 |
7日 | 財務省,ホットラインを開設。 |
10日 | 「財務部門幹部・役人の禁止事項・規律に関する財務省決議第1124号」,公布。 |
11日 | 人民革命青年同盟,第4回党員大会にてソーンタヌー中央委員を党書記に選出。 |
25日 | 第8期第3回通常国会,開催(~5月18日)。第1四半期の経済統計を公表。 |
26日 | ベトナムのフック首相,来訪(~27日)。9つの文書と共同声明に調印。 |
5月 | |
2日 | 首相,シンガポール訪問。 |
9日 | 首相,マレーシア訪問(~10日)。 |
10日 | 首相,カンボジア訪問(~12日)。 |
13日 | 国家主席,中国訪問(~17日)。「一帯一路」国際フォーラムに出席。習主席と会談。 |
18日 | 国立銀行,2019年2月まで金融機関の新設を認めない方針を発表。 |
19日 | 首相令第9号公布。緊縮財政を指示。 |
23日 | ラオス・タイ戦略的パートナーシップフォーラム,開催(~25日)。 |
6月 | |
4日 | 首相訪日(~7日)。安倍首相と会談。 |
7日 | 全国3カ所の中国人烈士墓地の改修・拡張工事が完了し,竣工式を開催(~8日)。 |
14日 | 中国,地方開発に約500万ドルを支援。 |
20日 | キケーオ党中央宣伝訓練委員会委員長,訪中。第6回両党理論セミナーに出席。 |
21日 | カンボジアのヘン・サムリン国会議長,来訪(~23日)。 |
22日 | 日本,人材開発に約3億円を支援。 |
22日 | 月例閣議,開催(~23日)。自動車と木材の密輸,土地問題,国有企業効率化等を協議。 |
25日 | 建国戦線,ベトナム祖国戦線,カンボジア祖国発展連帯戦線のトップ会談,開催。 |
29日 | ラジオ・フリー・アジア,アッタプー県知事の不祥事を報道。 |
30日 | ビエンチャン都人民議会,ビエンチャン人民道路基金の設立を承認。反発相次ぐ。 |
7月 | |
4日 | 国会議長,訪越(~7日)。ソンラ省での友好・団結年記念式典に出席。 |
6日 | ラオス・中国協力委員会年次会議,開催。ケムマニー工業・商業相が出席。 |
7日 | サイソンポーン建国戦線主席,在ラオス・ベトナム人協会を訪問。 |
12日 | タイと移民労働者に関する協定を締結。9月10日にも同様の協定を締結。 |
13日 | 首相決議第53号,公布。ボーテン国際国境での木材密輸取り締まりを強化するため,チャルーン首相府大臣を現地に派遣。 |
17日 | ラオス・ベトナム友好協力条約締結40周年祝賀式典,開催。国家主席ら出席。 |
17日 | 労働組合連盟,ホットライン開設。 |
19日 | 老中鉄道計画指導委員会,会合。公共事業・運輸相,関係5県の副知事ら出席。 |
25日 | アメリカの国際共和研究所と全米民主国際研究所の代表団,来訪(~27日)。 |
25日 | 大型台風により中・南部で洪水が発生。 |
8月 | |
1日 | ラオス,カンボジア,ベトナムの国会対外関係委員会の会合,開催(~4日)。 |
3日 | 「新時代における土地の管理と開発の促進に関する党中央委員会決議第26号」,採択。 |
4日 | 労働・社会福祉省,ベトナムと3カ年の協力協定を締結。 |
8日 | 電気通信公社(ETL),株式の51%を中国企業に売却。 |
8日 | SDGs達成指導国家委員会,会合を開催。 |
12日 | カンボジアのフン・セン首相,来訪。国境問題について首相と協議。 |
15日 | 内閣と第8期国会常務委員会の第1回合同会議,開催。土地問題等を協議。 |
15日 | 「国家土地配分マスタープラン草案に関する学術会議」,開催(~16日)。 |
16日 | カムペーン労働・社会福祉相,王中国大使に面会。老中鉄道の労働者問題に関する懸念を表明。 |
24日 | 月例閣議,開催(~25日)。翌年の公務員採用縮小を決定。 |
29日 | 国会の諸民族委員会,ベトナムからのモン族不法移民の問題について協議。 |
30日 | 天然資源・環境省,土地紛争に関する年次会議を開催(~31日)。 |
31日 | アメリカ企業コンバルト・エナジー,太陽光発電所(300MW,4億ドル)に関する実施可能性調査の実施を政府と合意。 |
9月 | |
1日 | 首相,カンボジア訪問。 |
5日 | 外相,カンボジア訪問。 |
5日 | 農林省,ベトナムと2カ年の協力協定を締結。 |
7日 | 第1回拡大閣議開催(~8日)。全県・都の知事が参加。木材伐採規制の強化を指示。 |
11日 | 第10期第5回党中央委員会総会,開催(~21日)。 |
11日 | シェンクアン県で建設中のナムアオダム,決壊。サイソムブーン県の8カ村で洪水発生。 |
12日 | 株式会社PSラオの経営者,逮捕。高額な配当を約束して資金を騙し取った疑い。約3万人に被害。 |
13日 | 常万全中国国防相,来訪(~14日)。国防省間協力に関する覚書を締結。 |
18日 | 日本,3.5億円の食糧支援を合意。 |
20日 | 首相令第1号,公布。道路税を増額。 |
22日 | アメリカ,不発弾処理に450万ドルを支援。6月にも302万ドルを支援。 |
22日 | 中央投資促進・管理委員会,総会を開催。 |
26日 | 首相,ロシア訪問(~27日)。軍事技術協力協定などを締結。 |
26日 | 第8回ラオス北部・雲南省協力会議,開催(~28日)。工・商業相ら出席。 |
26日 | マレーシアへの電力(100MWh)の輸出を合意。2018年から2年間の契約。 |
26日 | カムマン内務相,訪越(~30日)。国家記録アーカイブス局などを訪問。 |
29日 | ロス米国商務長官,来訪。首相と会談し,太陽光発電計画などについて協議。 |
29日 | 北部8県の農林局長,バナナ農園の農薬問題について生産者と協議。 |
10月 | |
2日 | 首相,訪越(~6日)。グエン・フー・チョン党総書記と会談。 |
2日 | 政府令第315号,公布。ナイトクラブ等の娯楽施設の教育機関周辺での営業を規制。 |
4日 | 都議会,老中鉄道の補償金問題を協議。支払い完了は2年後と試算。 |
11日 | 首相,インドネシア訪問(~12日)。 |
16日 | 第8期第4回国会,開催(~11月17日)。改正国籍法など法律15件を採択。 |
23日 | ソーンサイ副首相,訪越(~29日)。 |
24日 | 月例閣議にて,国家土地配分マスタープラン草案を原則承認(~25日)。 |
28日 | ビジット・ラオス・イヤー2018,開幕。 |
30日 | スーントーン党中央対外関係委員会委員長訪中。党大会に出席し習主席と面会。 |
11月 | |
3日 | アメリカ国籍ラオス人代表団,来訪(~11日)。建国戦線主席に面会。 |
3日 | 首相,老中鉄道建設現場を視察(~6日)。 |
3日 | 財務省,ボーテンSEZのロジスティックスを担う合弁企業の設立を中国企業と合意。 |
7日 | 国家監査委員会,人材育成に関する協力協定を中国と締結。 |
10日 | 17の中国企業の代表団,来訪。総額2.6億ドルの貿易協定を締結。 |
13日 | 習近平中国国家主席,来訪(~14日)。 |
20日 | 日本の自衛隊,人民軍に対して人道支援に関するセミナーを実施(~24日)。 |
21日 | アッタプー県のナーム知事,解任。 |
21日 | カムマニーエネルギー・鉱業相,小規模のダム開発を一時見合わせる方針を発表。 |
22日 | 第5回国際社会主義会議,開催。ベトナム,中国,北朝鮮,キューバの代表が出席(~23日)。 |
30日 | ビエンチャン=ブンアン鉄道の実施可能性調査が完了。韓国が出資(300万ドル)。 |
12月 | |
9日 | 第27回老越国境代表者会議開催。 |
19日 | 国家主席,訪越(~21日)。 |
20日 | 第2回全国土地会議,開催(~22日)。 |
23日 | ベトナムの元志願兵・軍事顧問代表団,来訪(~28日)。 |
23日 | 湖南省に総領事館を開設。中国国内で6カ所目。 |
28日 | セーラノーンダムのコンセッション契約(25年間1.5億ドル)を中国企業と締結。 |
(注)*は女性。
(注)*は女性。
(注)*は女性。
(注)1)推計値。
(出所)人口については,Lao Statistics Bureau, Statistical 40 Years 1975-2015, 2015; ADB, Key Indicators for Asia the Pacific 2017; Pasason, 2017年10月26日。為替レートについては,Bank of the Lao PDR, Annualu Report 2013; 同2014; 同2015; 同2016; Pasason, 2017年10月26日。
(注)1)推計値。2014年の統計より価格基準年を2012年に変更。
(出所)Lao Statistics Bureau, Statistical Yearbook 2013; 同2014; 同2015; Pasason, 2017 年12 月26 日; Vientiane Times, 2017年9月7日; 2017年12月30日; 国家統計局ウェブサイト(http://www.nsc.gov.la/)(2017年3月26日最終閲覧)。
(注)1)2013年まではホテル・レストラン。2)2013年までは金融サービス。3)2013年までは不動産・ビジネスサービス。
(出所)Lao Statistics Bureau, Statistical Yearbook 2013; 同2014; 同2015;
国家統計局ウェブサイト(http://www.nsc.gov.la/)(2017年3月26日最終閲覧)。
(出所)表3に同じ。
(注)1)推計値。2)資料ママ。
(出所)表3に同じ。
(注)1)推計値。
(出所)IMF, IMF Country Report, No.18/84.
(注)1)推計値。
(出所)表6に同じ。