アジア動向年報
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各国・地域の動向
2017年のパキスタン 司法判断による首相の交代ふたたび
井上 あえか牧野 百恵
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2018 年 2018 巻 p. 563-588

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2017年のパキスタン

概 況

7月下旬にナワーズ・シャリーフ首相が議員資格なしとの最高裁判決を受けて辞任した。発端は2016年に報じられたパナマ文書の流出による政治家の資産隠し,課税逃れの問題であったが,シャリーフ首相追及の急先鋒であったパキスタン正義運動党(PTI)のイムラン・ハーン党首自身にも,同様の海外資産問題が出ている。2018年に選挙を控え,シャリーフの復活は難しいとの見方もあるなか,与党パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)も,野党第一党のパキスタン人民党(PPP)も,有力な指導者を見い出しかねている。またパキスタン全土で19年ぶりとなる国勢調査が実施され,人口が2億人を超えたことが明らかになった。

2016/17年度の実質国内総生産(GDP)成長率は5.3%で,ここ10年で最高の伸びを記録した。中パ経済回廊(CPEC)傘下で電力や道路などのインフラ建設が着々と進み,好況ムードを押し上げた。これらのインフラ建設に関連して機械類や燃料の輸入が激増した一方で,これまで外貨の稼ぎ手であった海外労働者送金が13年ぶりにマイナス成長に転じ,経常収支赤字が膨らんだ。また,IMFの縛りがなくなった2016/17年度は財政赤字も悪化した。シャリーフ政権の公約であった電力不足解消は依然として実現されないままである。

中パ関係はCPEC,上海協力機構(SCO)など,一層連携を強めつつある。対米関係ではトランプ政権がインドとの連携を強化する一方,対テロをめぐってパキスタンへの批判を強めたことにパキスタン政府が反発している。アフガニスタンとは,信頼関係構築の努力が続けられているが,アフガニスタンで勢力を維持するダーイシュ(IS[「イスラーム国」])について,パキスタン軍は警戒を強めている。印パ両国の相互不信は依然として続いており,両国それぞれのアメリカ,中国との関係も絡みながら,好転の兆しは見えない。

国内政治

首相の失職

年初には,シャリーフ政権は経済,治安を改善させ司法の独立も確立したという評価があった。また5月以降にはCPECによるサヒワール発電所が稼働を始めたことや,さらに道路,港湾,空港整備などが合意されたことなど,経済の好調が喧伝されていた。

2016年4月にパナマの法律事務所から流失した文書が,国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって公開され,租税回避地に設けた会社に資産を移すことで自国の課税を逃れている実態が明らかになった事件が,2017年パキスタンで大きな進展を見た。このなかに名前があった300人から400人に上るパキスタン人のなかに,ナワーズ・シャリーフ首相の長男,次男,長女がいた。首相自身の名はなかったとはいえ,首相とその一族の海外会社,資産についての調査が必要として,PTIのイムラン・ハーンをはじめ,大衆ムスリム連盟,イスラーム党(JI)などが最高裁にシャリーフ首相の議員失格を求める訴えを起こしていた。

その審理が2017年1月4日から始まり,4月20日に下された判決では,最高裁が特別法廷を設置し,その特別法廷が証拠調べの合同調査チーム(JIT)を設置することが命じられた。この時点で,シャリーフ首相が潔白かどうかや議員資格があるかどうかについての判断は示されなかったが,JIT設置とともに,手順を追って調査を貫徹させようとする最高裁の意思を読み取ることができる。JITは連邦調査局(FIA),汚職取締局(NAB),証券取引委員会,パキスタン中央銀行,軍統合情報局(ISI),軍情報局(MI)からの6人で構成され,5月5日に発足した。

JITは7月10日に最高裁へ報告書を提出した。これをふまえ,7月17日から21日まで行われた審理の結果,7月28日に,最高裁は全会一致でシャリーフ首相が憲法第62条1項(f)に反しているとの判断に至り,議員資格なしとの判決を出した。第62条1項(f)とは,議員は「聡明で,高潔で,規律を守り,誠実でなければならず,そうでないことが法廷によって宣言されてはならない」とする条文である(1985年にジアーウル・ハク大統領が,対立議員排除のため付加した条文で,恣意的な運用が可能)。この判決を受けてナワーズ・シャリーフは議員を辞職した。

シャリーフ首相辞任を受けて,シャーヒド・ハーカーン・アバーシーが,8月1日,新首相に就任した。アバーシーはカラチ生まれで,パンジャーブ州北部マリーのセントローレンスカレッジを経てアメリカのUCLAで法律の学位を取得し,ジョージ・ワシントン大学でMAを取得した。1988年にラーワルピンディ選挙区から下院初当選し,2008年ギーラーニ内閣で商業相,2013年ナワーズ・シャリーフ内閣で商業相を歴任している。首相の交代に伴い,新内閣も発足した。ダール財務相は留任とし,イクバール前計画・開発相は内相,アーシフ前水利・電力相兼国防相は外相に就任させるなど,新政権は多くの閣僚を再任させることで,政策の継続性を重視する姿勢を示している。

選挙に向けた展望

2018年に選挙を控え,ナワーズ・シャリーフの復活があるか否かは不透明である。議員資格なしとは現任期中なのか終生なのか,憲法に規定はない。9月の補欠選挙では夫人のクルスーム・シャリーフが当選したが,ナワーズの政党という性格の強いPML-Nを彼に代わって率いるのが誰かは未知数である。はっきりしているのはアバーシーが任期中は首相を務め,党首の座を守るということだけである。一時,兄シャハバーズ(現パンジャーブ州首相)が下院議員となって首相職を引き継ぐという方針が出たが,批判が集中しシャハバーズは補選への出馬を見送った。シャハバーズが党の基盤であるパンジャーブ州政治の中心を離れることは今のところ考えにくい。長女マリアムの名も出ているが,彼女は議員経験もなく,また不正蓄財の疑いで事情聴取を受けたばかりである。将来はともかく,すぐにPML-Nを率いる指導力を発揮することは難しいように思われる。

10月26日にペシャーワルの選挙区で行われた補欠選挙で,PTIの候補アルバブ・アミール・アユーブが当選した。得票数は,PTI:4万4799,PML-N:2万4493,アワーミー民族党(ANP):2万4108,PPP:1万3018であった。宗教政党パキスタン・ラバイク運動とJIは5位,6位に終わった。2013年に1200票余り獲得したイスラーム・ウラマー党(JUI-F)は候補者を出せず,PML-N支持に回った。投票率は男性41.3%,女性13.8%,平均約30%にとどまった。PTIは,歴史ある地域政党であるANPを大きく引き離しており,ハイバル・パフトゥーンハー(KP)州での地盤を固めていることをうかがわせる。

とはいえ,PTIに国政レベルの指導力と支持基盤があるかといえば疑問である。イムラン・ハーン党首は路上での反政府運動では一定の動員力を示すものの,議会での政治活動には取り組みかねている。彼らがPML-NとPPPを凌ぐ力をもつためには,この二大政党が繰り返す批判合戦に参入するのではなく,政策を掲げて与野党との建設的な議論を展開し共闘する指導力と政治姿勢が求められよう。

2008年以来,司法の動向が大統領の辞任,首相の失職などにつながる政変が起きてきた。これを一時的,例外的現象とする見方もあろう。また逆に今後も起こりうると考えるにしても,それが即パキスタン軍が体現する権威主義政治が変化したとまでいうことはできない。司法の動きの背景には軍の承認があると強く推定される。しかしこれを,司法を使った一種のクーデタとまで考えることもまた妥当ではないだろう。これがあくまでも憲法に則った司法判断であることは重要だからである。

首相の失職にまで発展した事態の発端はパナマ文書の流出による政治家の資産隠し,課税逃れの問題であったが,シャリーフ首相追及の急先鋒であったイムラン・ハーン自身にも,同様の海外資産問題が出ている。2013年の選挙立候補に際して,ロンドンとイスラマバードに所有する不動産について選挙管理委員会に,資金の出所など必要な申告をしなかったとして,議員資格を問う訴訟が起こされている。今後,イムラン・ハーンに対してもシャリーフ同様に議員資格なしとの判決が下る可能性もある。政治家や軍人は誰もが海外に巨額の蓄財をし,いつでも簡単に国外へ逃げ出すことができるという事実は,この国の政治が内包する問題を象徴している。その根の深さと広がりは一朝一夕にはどうにもできない範囲に及んでおり,今後,パキスタンの政治や市民社会がこうした問題とどう向き合っていくのか,中長期的な注目点となろう。

国勢調査の実施

3月15日から,19年ぶり第6回となる国勢調査(人口と世帯数)が開始された(前回は1998年)。第1段階は4月25日まで,4州と首都圏合わせて11地域で実施され,第2段階は4月25日から5月25日まで,4州の残りの地域とアーザード・ジャンムー・カシミール(AJK)とギルギット・バルティスタン,連邦直轄部族地域(FATA)で実施された。9言語で,約10万人の調査員が動員され,20万人の陸軍部隊が治安出動した。また,初めて第3の性としてトランスジェンダーがカウントされたことが特筆される。これは前年11月にトランスジェンダーの一市民が訴えを起こしたことを受けて,1月8日にラホール高裁が,連邦政府と国立データベース登録局と内務省に対して,トランスジェンダー・コミュニティをセンサスに加えるよう指示したことによっている。結果は8月25日に,人口約2億780万人(男性1億645万人,女性1億131万人,トランスジェンダー1万418人)と発表された。

バロチスタンの反政府運動

バロチスタン共和党の指導者ブラハムダグ・ブグティがヨーロッパで亡命を求めている問題で,3月1日にパキスタン内務省はFIAにブグティへの逮捕状発行を指示した。またシェール・ムハンマド・アリアス・シェラに対しても,テロに加担した疑いで逮捕状を出すよう指示した。またFIAは2人の逮捕のため12月にインターポール本部に対して協力要請を行うと報じられた。ブグティについては前年インドが市民権を与え支援することを公言しているが,2017年11月にはスイス政府が暴力的な行為に加担したことを理由に亡命を拒否する決定をした。また,バロチスタンでは,12月9日に70人を超える反政府活動家が投降し,州首相と陸軍司令官が出席して式典が行われるなど,反政府運動が弱体化していることが強調されている。しかし,一方でバロチスタンの状況に大きな変化があるわけではなく,また中国の経済進出の舞台であるにもかかわらず地元への裨益効果が十分ではないことへの住民レベルの反発もある。5月にはクエッタで中国人留学生男女2人が誘拐され殺害される事件が起こり,ISが2人を殺害したというビデオがネット上に公開されるなどしたが,6月13日のニサール内相の発表によれば,2人は留学と称して,キリスト教の布教活動を行なっていたという。いずれにしても誘拐犯が誰なのか,真相は不明のままである。今後ブグティの問題がどのような決着を見るのか,またバロチスタンの反政府勢力の動向は場合によっては国内の混乱要因となる可能性があり,注視する必要があろう。

治安

独立系のNPOであるパキスタン平和研究所(PIPS)の報告書(Pakistan Security Report 2017)によれば,パキスタン国内のテロ件数は2015年以降減少してきている。2017年のテロの件数は前年より16%減の370件,死者数は815人,負傷者は1736人であった。テロ事件の58%はいわゆるイスラーム武装組織によるもので,そのなかに含まれる勢力としては,パキスタン・ターリバーン運動(TTP)およびその分派ジャマーアトゥル・アフラールを中心に,FATAやKP州の親ターリバーン派,ISに影響を受けた者らがいる。その一方で,特定の大集団に属さず,少人数もしくは単独で過激思想に傾斜する人々(self-radicalized individuals)が現れはじめていると報告されている。とくにISについては,パキスタン国内に彼らの拠点はないと政府は述べているが,国内のテロ事件で犯行声明が出た例も散見され,アフガニスタンのパキスタン国境近くにISの勢力が集結しているという報道もあり,軍にとってもっとも高度に警戒すべき対象となっている。

憲法第21次修正(2015年1月)によって2年の期限付きで設置された軍事法廷が,1月7日に期限を迎え,期限延長はされず終了した。政府は1月9日になってこの軍事法廷の復活を検討するための会合を呼び掛け,関係閣僚,ISI局長,政府アドバイザーらが会合をもった。野党は基本的に軍事法廷の存続には反対の立場をとっていた。軍事法廷はテロリストを迅速に裁き処罰することを目的として設置され,いわばテロ対策の主導権を軍に委託したものである。この間,軍は効果的なテロ掃討作戦を展開し,テロ件数を大幅に減少させる実績を上げてきたことから,軍事法廷の期限延長があるのではないかとの憶測もあったが,結局,軍事法廷の復活には至らなかった。

ところがその後全国の都市でテロが相次いだ。1月21日FATA最大の都市パラチナールでの爆弾爆発(死者27人,負傷者87人,TTPが犯行声明),2月16日シンド州セへワン・シャリーフの聖者廟ラール・シャハバーズ・カランダールで爆弾爆発(死者88人,負傷者250人以上,ISが犯行声明),2月21日KP州チャールサッダの裁判所襲撃(7人死亡,ジャマーアトゥル・アフラールが犯行声明),2月23日ラホールの市場で爆弾爆発(8人死亡,35人負傷。犯行声明なし)など,テロ事件の死者数は2月だけで100人を超えた。このうちラール・シャハバーズ・カランダールは国内でも有数の参拝者を集めるシーア派聖者廟として知られている。この事件の翌17日,軍は全国でテロリストの一斉検挙を行い,24時間で100人を超えるテロリストを殺害し,さらに2月22日には,全土で新たに対テロ作戦を実施すると発表した。軍広報部(ISPR)によると,これは都市の反テロリズム作戦と位置づけられ,「ラッダル・ファサード」と呼ばれる。都市部を標的にしたテロが相次いだことを受け,軍が主導して警察,司法,情報機関を含めあらゆる治安関連機関とともに実施された。

その後も,4月下旬にパラチナールなどでシーア派マスジッドなどをねらった爆弾テロが2件相次ぎ,合わせて30人余りが犠牲となった。うち1件はTTP系のジャマーアトゥル・アフラールが犯行声明を出した。またラマダン最後の金曜日の6月23日にはパラチナールとペシャーワルで相次いで爆弾が爆発し,計77人が死亡したほか,カラチでは警官4人がバイクの男に銃撃されて死亡した。7月16日,パキスタン軍はハイバル渓谷で,アフガニスタン側からのIS戦闘員の侵入を阻止するため,新たな作戦を開始した。作戦の対象は,ラシュカレ・イスラーム,ジャマーアトゥル・アフラール,TTPなどとされる。

一方,10月21日,ジャマーアトゥル・アフラールを率いるオマル・ハーリド・ホラーサーニーが10月19日までにアフガニスタンで米軍の無人機攻撃を受け死亡したとの報道があった。

その他,イスラーム軍事同盟(Islamic Military Alliance)の司令官にパキスタンのラーヒール・シャリーフ前陸軍参謀長が就任した。同同盟はサウジアラビア主導で39カ国が参加,イスラーム過激主義やテロリズムとの戦いを標榜している。

(井上)

経 済

2016/17年度の経済概況

パキスタンの2016/17年度(2016年7月~2017年6月)のGDP成長率は5.3%で,ここ10年で最高の伸びであった(Economic Survey[経済白書],2017年5月25日)。農業部門の復調,CPECと関連した建設業の活況によるところが大きい。セクター別では,農業部門が3.5%増,工業部門が5%増,サービス業部門が6%増(いずれも対前年度比)であり,工業部門以外はほぼ目標を達成できた。農業がGDPの約20%を,労働人口の約40%を占める農業国であるパキスタンにとって,また食料価格の安定を維持するためにも,農業部門の復調は喜ばしいことである。しかし,その要因は天候に恵まれたことが大きく,裏返してみるならば,いまだに天候条件に大幅に左右されるパキスタン農業の脆弱さを浮き彫りにした。安定した経済成長を維持していくためにも,天候条件に左右されない灌漑設備などのインフラ整備が課題である。

工業部門の伸び悩み(目標値は対前年度比7.7%増)は,鉱業・採石業(対前年度比1.3%増)および発電・送配電・ガス供給部門(同3.4%増)の伸び悩みによるところが大きい。前者は鉱業の3分の2を占める国内天然ガスの減少が背景にある。後者は,CPEC関連のプロジェクトのうち,後述するとおり迅速に進んだものもあれば,予定どおりに進んでいないものもあり,目標値がすべて予定どおりに達成できることを楽観視して設定されていたことが大きい。製造業部門(同5.2%増)は復調の兆しにあるものの,主要農産物である綿花とサトウキビに依存した繊維と食品が製造業の4割を占めるなど,多様性に欠くパキスタン製造業の構造的な問題がある。これは,後述する輸出の伸び悩みの根本的な要因でもあり,製造業の多様化を促すような政策,とりわけ輸入関税自由化への努力が必要だろう。

経常収支赤字は124億ドル(対GDP比4%)と,前年度(同1.7%)よりさらに悪化した。輸出が対前年度比0%増であるところ,輸入が同16.4%増と急激に増加し,309億ドルという記録的な貿易収支赤字となったためである。輸入の激増はCPECに関連した機械類および燃料の輸入が増したことが大きい。一方でパキスタンの輸出は,約60%が繊維製品で占められているが,この輸出が伸び悩んでいる。1月10日,シャリーフ首相はこれらの輸出製造業者向けに輸入関税免除や払い戻しを含む1800億ルピー規模の救済パッケージを発表したが,こうした優遇措置はその場しのぎの対策にすぎず,実際の輸出パフォーマンスをみても短期的な効果すら疑問である。今後の趨勢として,繊維製品の国際価格が上昇することは考えにくいため,輸出産業の多様化をにらんだ構造改革が喫緊の課題である。10年以上にわたりパキスタンの外貨獲得に最大に貢献してきた海外労働者送金は,主要出稼ぎ先である湾岸諸国の景気停滞により,対前年度比3.1%減と2003/04年度以来初のマイナス成長を記録した。輸入の激増と海外労働者送金の減少を受けて,外貨準備残高は214億ドルとピークの前年度から7.3%減少した。

消費者物価指数(CPI)はここ3年ほど目標値を達成しており,2016/17年度も前年度より上昇傾向にあったものの4.2%にとどまった。為替相場の安定と全般的なエネルギー関連価格の下落によるところが大きい。

財政赤字は対GDP比5.8%と,目標値(同3.8%)を大幅に上回ったばかりでなく,ここ4年でもっとも膨らんだ。2013年から始まったIMFによる拡大信用供与措置(EFF)は条件付き融資プログラムであり,財政赤字の削減が最重要の条件であった。EFFは2016年9月に終了しており,その途端にIMFの縛りから解放されて財政赤字が悪化したようである。とりわけ南アジア地域でももっとも低いとされる対GDP比税収(12.5%)が下がっていることは懸念すべきである。

中パ経済回廊(CPEC)

4月12日中パ共催の会議において,ムハンマド・ズベイル・シンド州知事が,中国政府がCPECの一環として新しく道路建設プロジェクトに合意し,総規模は620億ドルとなったことを発表した。もともと2015年4月に融資プロジェクトとして発表されたCPECの規模は460億ドルで,これが2016年12月に550億ドルに増額されていた。CPECは,エネルギー部門と道路や港湾などのインフラ建設部門が中心であり,これらの設備が脆弱なパキスタンにとってバラ色のプロジェクトのように喧伝されている。とりわけエネルギー部門のプロジェクトによって恒常的な電力不足が解消され,経済成長につながることが期待されている。また,プロジェクト遂行の迅速さを強調するように,2018年末までに完成される予定の17プロジェクトは「早期収穫」プロジェクトと呼ばれている。

CPEC事業のうち,最初の大型案件であるパンジャーブ州サヒワール石炭火力発電所が完成し,1号機は5月25日,2号機は7月3日と大々的な竣工式を行い,即日発電を開始した。同発電所は,中国電建集団核電工程が建設を受注し2015年7月に着工していた。シャリーフ首相は竣工式で,「22カ月(の建設)は歴史的な偉業である」(『トリビューン』,2017年5月25日)と予定より1カ月ほど早い完成を褒め称えた。両機合わせて1320MWの発電容量をもち,約1000万人の電力需要に応じるという。また11月29日,カラチのカースィム港石炭火力発電所の1号機竣工式が行われた。2号機は2018年2月に完成予定で,こちらも合わせて1320MWの発電容量をもつ。同発電所には,中国電力建設集団が51%,カタールの王室系ファンドが49%を出資した。インフラ建設部門では,カラコルムハイウェイやペシャーワル=カラチ間高速道路の建設が順調に進められている。

CPECについては,資金繰りが曖昧であるにもかかわらず,今後も予定どおりプロジェクトが進められていくのかという点は不明である。現在のところ,150億ドル規模のインフラ建設プロジェクトが中国政府からの低金利融資によって着手されており,この返済スケジュールは実現可能と目されている。しかし,残りのより大規模なエネルギー部門のプロジェクトについては資金繰りの見通しが甘い。インフラ建設部門と違い,エネルギー部門は国家開発銀行をはじめとする中国の銀行から融資を受けた中国の独立系発電会社(IPPs)が担っているため,表向きはパキスタン政府の債務はない。しかし,これらのIPPsへの融資の一部はパキスタンの銀行による低金利融資であり,低金利分は政府の補助金によって賄わなければならない。さらに,割高な電力料金を保証することで,これらのIPPsのROE(自己資本利益率)を27~35%と通常の2倍近くに保証しているが,電力料金の引き上げは政治的に難しい問題であり続けてきたため,政府がこれらの保証を実行できるかは定かでない。仮に電力料金の引き上げを消費者に負担させることができなければ,差額を政府の補助金によって埋め合わせることになろう。

資金繰りに関連して,国際収支上も大きな懸念事項がある。前述したように2016/17年度は貿易収支赤字および経常収支赤字が大幅に拡大した。これは,輸出産業が伸び悩んでいることが一因ではあるが,最大の要因は,CPECのもとエネルギー部門およびインフラ建設部門において,機械輸入―それもほぼ中国からの―が激増したからである。政府は,経常収支赤字は外国直接投資(FDI)で埋め合わせることを期待していたようだが,中国からの純FDIの規模は輸入に比べて小さいほか(図1),エネルギー部門への純FDIは減っている(対前年度比31.4%減)。前述のIPPsの自己資本比率は25%にとどまっており,FDIではなく,中国の銀行からこれらのIPPsへの融資というかたちで間接的に資金は流入しているはずだが,これらは中国国内のやりとりでパキスタンの統計に上がらないため不明なままである。

図1  パキスタン経済における中国の位置づけ

(出所) State Bank of Pakistan, Statistical Supplement, 各号。

CPECが国益に果たす役割が不透明ななか,国内主要英字新聞『ドーン』紙が5月15日,「CPECに関する長期的な計画」と題して,エネルギーやインフラ建設プロジェクトの陰で中国は農業部門も重視している旨を報じた。記事によると,中国政府は,中国人がパキスタンの農地をリース契約し,農産物加工などサプライチェーンの一部に投資することを促進していく計画だという。また記事の内容については,中国の国家発展改革委員会や国家開発銀行の裏付けをとったという。この報道内容に対し,CPECを管轄するアフサン・イクバール計画・開発相が即座に否定した。連邦議会政治家の多くが地元では大地主を兼ねており,選挙では農民からの支持が重要な意味をもち,かつ2018年に総選挙を控えるパキスタンにおいて,農業とりわけ農地取引は政治的に非常にセンシティブな事柄であり,即座の否定は驚きには値しない。確かにリースのみならず外国人による農地取得ということになれば,大きな問題となるだろうが,製造業とりわけ輸出産業の多様化やFDIの誘致が必要とされるパキスタンにとっては,CPECがエネルギーやインフラ建設以外のプロジェクトに投資することは,むしろ歓迎すべきだろう。

電力不足問題

電力不足の解消を公約に大々的に掲げ,それに対する有権者の期待を受けて2013年の総選挙に大勝利し,3度目の返り咲きを果たしたシャリーフ首相だったが,2017年になっても電力不足の解消には至っていない。2013年以前と比べれば,人々の間に電力事情は改善しているとの生活実感があるようだが,電力不足の解消とは程遠く,経済成長の足かせになっていることは否めない。ADBの試算によると,電力不足がパキスタンのGDP成長率を2ポイント下げているという。

気温が上昇する4月の中旬から電力事情は悪化しはじめ,電力は35%の超過需要になった。都市部では1日に8~10時間,農村部では1日に16時間の停電が常態化した。5月27日と29日,カラチで大規模な停電が起こり,抗議デモに発展した。カラチは,パキスタンの他地域に比べ,これまで電力供給は比較的安定していた。これは,発電と送・配電が民営のKエレクトリック社(前身はカラチ電力供給公社)へ移管され,経営が効率化されたからだといわれてきた。しかし,5月の熱波による気温の上昇とエアコン需要に供給が追い付かなかったのだろう。31日,パキスタン電力規制庁(NEPRA)はKエレクトリック社に対して調査を開始した。

電力不足解消に期待されているのがCPEC傘下のエネルギー部門のプロジェクトである。合わせて300億ドル以上の融資規模をもつ20以上のプロジェクトにより,2018年の総選挙までには,8000~1万MWの追加電力を供給できると試算され喧伝されている。しかし,電気供給量を増やすだけでは,根本的な解決にはならないだろう。とりわけ非効率な国営の送・配電会社の財政とガバナンス面における改革を実行しないかぎり,電力不足は続くと思われる。

2013年から始まったIMFによるEFFの融資条件を満たすため,エネルギー部門でもさまざまな改革がなされてきた。送・配電ロスの削減,補助金の削減,適正な電力料金の維持などである。しかし2016年9月にEFFが終了したと同時に,電力料金は低く設定され,サーキュラーデット(循環債務)は膨らみはじめた。8月3日,パキスタン随一の経済紙である『ビジネスリコーダー』紙は,サーキュラーデットが8500億ルピーに上ったことを報道した。サーキュラーデットの原因は,IMFによれば,電力料金が適正価格でないことにある。電力料金が低く設定され,発電コストと電力料金との間の差額は政府が補助することになっているが,その補助金の支払いが遅延している。サーキュラーデットが積み重なると,送・配電会社が発電会社から電力を購入することができず,電力供給不足となる,というロジックである。しかし,パキスタンの電力料金が南アジア地域で一番高いことを考慮すると,発電が効率的でないことが根本的な原因とも考えられる。

他方で環境の悪化も懸念される。石炭火力発電がCPEC傘下のエネルギー部門プロジェクトの75%を占めるからである。前述したサヒワール石炭火力発電所やカースィム港石炭火力発電所が発電を開始したほか,3月21日に着工式が行われたバロチスタン州のハブ石炭火力発電所も,完成すれば前2者と同程度の発電容量をもつ予定である。パキスタンにとって石炭のメリットは,単独では世界最大規模の石炭埋蔵量を誇るタール砂漠に頼ることで,現在のところ輸入の20%を占め経常収支赤字の元凶である石油輸入に頼らなくてよいことである。環境へ配慮して,水力や風力発電プロジェクトへの期待も高まっている。

(牧野)

対外関係

対中国関係

5月14日,シャリーフ首相は,北京で開催された一帯一路国際フォーラムに出席し,CPECイニシアティブはどんな国にも開かれており,政治化されるべきではない,相互の違いは避け,平和的で,相互に結びつき関心をもち合う隣国関係を構築したい,などと演説し,13日には習近平国家首席とも会談した。

また,6月8~9日,アスタナで開催されたSCO首脳会議で,パキスタンはインドとともに,正式な加盟国として承認された。これに際してシャリーフ首相は,パキスタンが平和的な近隣国関係を構築すべく政策を進める,そしてSCOは拡大することで真の大陸横断的な組織になったと述べた。パキスタンと中国,あるいはロシアとの関係は安定的に強化されている。

その一方で,国内政治の項で述べたようなバロチスタンの状況ばかりでなく,都市部において中国人が飲酒などパキスタンの社会習慣に反する行為を公然と行う姿への市民の反発もある。今後,中国の存在感が市民レベルでも増していくに従って,中国人との間に摩擦が起こる可能性は否定できない。政府の親中国政策が国民感情と齟齬をきたさないように実行されていくのか,注目する必要がある。

対インド関係

インドとの関係は改善の兆しがなく不安定な状態が続いている。1月に,パキスタンは核弾頭搭載可能な地対地弾道ミサイル実験に成功したが,いつものように抑止力としての開発であることを強調している。2月10日,ナーフィス・ザカリヤ外務省報道官は,2016年7月以来のインド側カシミールにおけるインド治安当局の残虐行為を批判するとともに,インドのいわゆる「コールド・スタート・ドクトリン」について懸念を表明し,国際社会に対して,インドの通常兵器,核兵器の増強を監視することを求めた。コールド・スタートとは,仮にパキスタンが支援していると思われるテロ組織がインドでテロを行った場合,直ちに限定的にパキスタンへの攻撃を開始するのに十分な戦力を国境に配置する,という戦略である。この戦略はパキスタンに核使用を決意させる可能性が低く,テロ組織支援のリスクを認識させる効果があるとインドは考えている。

南アジア地域協力連合(SAARC)にも,印パの関係悪化の影響が出ている。2月に次期SAARC事務総長候補者のパキスタン人アムジャド・フセイン・シアルについて,インドが難色を示した。結局シアルは3月1日に同事務総長に就任したものの,事務総長任命について加盟国間で意見が対立するのは設立以来初であるという。さらに5月5日,インドが主導してSAARCとして人工衛星を打ち上げる計画から,パキスタンは離脱を表明した。ザカリヤ外務省報道官によると,2014年の第18回SAARC首脳会議において,インドは加盟国に衛星を贈呈すると提案したが,実はSAARCの名で登録しながら建設も打ち上げも運営もインドだけで行おうとしており,そのような計画にパキスタンは関与できないとしている。

9月5日にBRICS首脳会議で習近平国家主席とモディ印首相が会談し,その後出された共同宣言には,パキスタンを拠点とするテロ組織がインドでテロを行なっている,との批判が盛り込まれた。中国との共同宣言で,間接的にパキスタンを批判する内容を入れたことは,インドにとってはパキスタンを強くけん制する意味があったと考えられる。しかし,王毅外相は8月22日にパキスタンの外務次官にたいし「テロとの戦いでのパキスタンの努力を国際社会は認めるべきだ」と述べている。中国から見れば,単にテロ組織を批判しているのであって,パキスタン政府を批判する意図はないということで,中印の認識の食い違いが見える。

一方,6月にインド,パキスタンが揃ってSCOの正式メンバーとして認められた。12月にはロシア,インド,中国の外相が会談し,ロシアはインドに一帯一路へ入るよう勧めたという。こうした南アジアを越えた多国間関係が活発化,緊密化するなかで,印パの緊張緩和の契機が見い出されるか注目される。

対アフガニスタン関係

アフガニスタンにおけるIS勢力拡大は,パキスタン国内にも脅威となった。年明けから相次いだ国内のテロに加え,アフガニスタン国内のテロリストたちがパキスタンへの攻撃のための勢力再編に動いているとの判断に基づいて,パキスタン軍は2月17日,アフガニスタンとの国境を封鎖すると発表した。これはセへワンの聖者廟でのテロの翌日にあたる。この国境封鎖は軍の判断で急遽実行されたが,その結果パキスタンからアフガニスタンへの物資の輸送が途絶え,アフガニスタンでは物資が不足し価格が高騰するとともに強い反パキスタン世論が高まったという。これを受けて,パキスタンのサルタージ・アジーズ外交問題首相顧問と,アフガニスタンのハニーフ・アトマル国家安全保障顧問がロンドンで会談し,国境封鎖は経済にも市民生活にも不利益が大きいとの判断で合意し,3月20日に封鎖は解除された。パキスタン政府は,国境再開に際してアフガニスタン政府に,国境付近を聖域化しつつあるテロリストに対して,強く対処することを求めた由である。

6月10日,カザフスタンのアスタナで開催されたSCOの首脳会談の機会に,シャリーフ首相とアフガニスタンのアシュラフ・ガニー大統領が会談し,テロ防止活動検証メカニズム構築で合意した。これは,一方からある過激派グループについての何らかの指摘があれば,他方はこれを検証しなければならないというもので,長年アフガニスタンがパキスタンのテロ防止活動に疑念をもち,要求してきたメカニズムである。実効性のある合意になれば,信頼醸成の一助となろう。

2016年1月から始まった和平・和解プロセスにかかわる4者調整協議(アフガニスタン,パキスタン,米,中)は,同5月21日にターリバーンのマンスール師がアメリカの無人機攻撃によりバロチスタンで死亡したことをきっかけに停滞している。2017年10月,1年半ぶりにマスカットで開催されたものの共同宣言発表には至らず,アフガニスタンとの信頼関係構築は困難を含みつつ模索が続いている。

対アメリカ関係

パキスタンのテロ対策は,アメリカからのプレッシャーが高まることへの反発から変化を遂げつつある。アメリカはたびたびパキスタンのテロ対策を不十分と指弾しているが,8月にトランプ大統領がアフガニスタンへの新戦略を発表する演説のなかで,「テロリストを国内に隠している」などと改めてパキスタンを非難したことに対して,「パキスタンは何年もアメリカやアフガニスタンと平和実現に向けて協力してきた」と強く反発した。アーシフ外相は8月28日に,アメリカに抗議の意思を示すため,要人のアメリカ訪問を一時停止すると表明し,下旬に予定されていたアメリカ国務省高官のパキスタン訪問も延期された。

10月23~26日,アメリカのティラーソン国務長官がアフガニスタン,パキスタン,インドを歴訪した。ティラーソンがアフガニスタンで,「パキスタンは,自国内で安全に隠れている多数のテログループの存在を直視し,実情に向き合うべきだ」などと発言したが,パキスタン上院のラーザ・ラッバーニー議長は,これに強く反発した。また25日には上院でハージャー・アーシフ外相が,75人の指名手配者のリストをティラーソンから手交されたことを明らかにし,リストに挙げられた多くはすでに死亡しており,生きている人物もアフガニスタン諸州に残るターリバーン政権の亡霊である,その筆頭はハッカーニーであり,パキスタン人はリストに含まれていないなどと述べた。パキスタンはアメリカに屈服することはないし,主権にかかわる妥協はしない,アメリカがアフガンで(テロ撲滅に)失敗していることをパキスタンのせいにされるいわれはない,とも主張した。

アメリカとの批判合戦が続く一方で,中国やロシアとの地域的な結びつきの強化やCPECの進展に伴って,パキスタンの治安政策に,アメリカを度外視した新しい原則や優先順位という考えが生まれてくる可能性も否定できない。

(井上)

2018年の課題

内政では,下院選挙に向けた与野党の動きが注目される。海外蓄財をめぐる疑惑のある政治家は多く,選挙でどの程度この問題が影響するかは不透明である。ナワーズ・シャリーフが立候補するのか,後継者を立てるのか。PPPのビラーワル・ブットーは総裁として自立できるのか。イムラン・ハーンは野党全体を引っ張るリーダーシップを発揮できるのか。有力な政治家の姿は見えにくいが,いずれにしても軍との摩擦を避ける必要があるということが,与野党の政治家に自己規制を促し,逆説的ながら,民主化へのステップを担保しているようにも見える。

2018年もCPEC事業がパキスタン経済の注目を集め続け,その楽観的ムードのなかで経済は全体的に活況だろう。相変わらず輸入増が見込まれるなか,経常収支赤字の改善に向けた具体策(「アーサーン送金口座」など)に効果が見られるだろうか。エネルギー部門のプロジェクトが予定どおり進み,2018年総選挙までとされる電力不足解消が達成されるのだろうか。一方で,2017/18年度予算案で発表された財政赤字目標の対GDP比4.1%は,総選挙に絡んで達成が難しいと思われる。

対外関係では,対中国関係の一層の深化とともに国内世論の動向も注視したい。一方,対米関係がこのまま冷え込んで,パキスタンの安全保障政策の考え方が変化するまでに至るのか,重要な論点となろう。またインドやアフガニスタンとの関係は,2国間では困難に直面しているが,SCOなどの多国間の結びつきのなかで改善の機運が出てくるか注目される。

(井上:就実大学教授)(牧野:地域研究センター)

重要日誌 パキスタン 2017年
   1月
2日統計局はアーザード・ジャンムー・カシミール(AJK),ギルギット・バルティスタン,連邦直轄部族地域(FATA)を含む全国で,国勢調査の実施を発表。
4日イムラン・ハーンらによりナワーズ・シャリーフ首相に対して起こされていた裁判の審理開始。
7日2015年の憲法第21次修正に基づいて設置されていた軍事法廷が期限を迎えたが,延長せず。
8日ラホール高裁,国勢調査でトランスジェンダーを選択肢に加える判決。
9日軍,潜水艦発射巡航ミサイル「バーブル3」発射実験に初成功と発表。
10日シャリーフ首相,1800億ルピーの輸出業者救済パッケージを発表。主に繊維製造業者向けの輸入関税免除や払い戻しなど。
21日FATAパラチナールの野菜市場で爆弾が爆発。27人死亡,87人負傷。パキスタン・ターリバーン運動(TTP)が犯行声明。
24日軍,核弾頭搭載可能な地対地弾道ミサイル「アバビール」発射実験に初成功と発表。
30日不正取締裁判所(National Accountability Court),イスハク・ダール財務相に逮捕状発行。汚職と不正蓄財が理由。
   2月
2日南アジア地域協力連合(SAARC)の新事務局長候補,パキスタン人アムジャド・フセイン・シアルについて,インドが手続き上の問題を理由に難色を示す。
3日バジュワ陸軍参謀長,インドがカシミール人に対して残虐な行為を行っていると批判。
8日中国からの鉄製品(亜鉛メッキ鉄板とコイル)の輸入に関し,アンチダンピング税6~41%を課税。
10日ザカリヤ外務報道官,インドの「コールド・スタート・ドクトリン」を批判。
16日シンド州セへワン・シャリーフの聖者廟ラール・シャハバーズ・カランダールで爆弾が爆発。死者88人,負傷者250人以上。IS(「イスラーム国」)が犯行声明。
17日軍,全国でテロリストの一斉検挙を行い,24時間で100人を超えるテロリストを殺害したと発表。
17日軍,アフガニスタン国境の封鎖を実施。
21日ハイバル・パフトゥーンハー(KP)州チャールサッダで裁判所が武装集団に襲撃され7人死亡。
22日軍,全土で新たに対テロ作戦「ラッダル・ファサード」を実施すると発表。
23日ラホールの市場で爆弾爆発,少なくとも8人死亡,35人負傷。犯行声明なし。
   3月
1日内務省,連邦捜査局にバロチスタン共和党のブラハムダグ・ブグティへの逮捕状発行を指示。
1日第13回経済協力機構(ECO)首脳会議開催(イスラマバード)。パキスタンが議長国に。
2日シャハバーズ・シャリーフ・パンジャーブ州首相,「キッサーン・プログラム」によって,小農60万人が総額1000億ルピーの無利子貸し付けの受益者となることを発表。
3日トルクメニスタン=アフガニスタン=パキスタン=インド(TAPI)ガスパイプライン敷設工事着工式。
9日アメリカ,同盟支援資金(CSF)としてパキスタンに5.5億ドルを供与。
15日第6回国勢調査が始まる。19年ぶりの実施。5月25日,完了。
16日バジュワ陸軍参謀長,中国訪問(~18日)。
20日シャリーフ首相,アフガニスタン国境の封鎖を解除。
21日中パ経済回廊(CPEC)事業バロチスタン州ハブ石炭火力発電所の着工式。中国電力国際が出資。
31日FATAパラチナールの市場で自動車に仕掛けられた爆弾が爆発,死者23人,負傷者100人以上。
   4月
12日ムハンマド・ズベイル・シンド州知事,中国政府がCPECの一環で新しく道路建設プロジェクトに合意し,総規模は620億ドルになったと発表。
14日モスクワでアフガニスタンの安定化を話し合うロシア主催の政府高官会議開催。アフガニスタン,中国,インド,パキスタン,イラン,中央アジア5カ国の計11カ国の外務次官や政府代表が参加。
17日マクマスター米大統領補佐官,来訪。トランプ政権下初の高官来訪。
20日最高裁,「パナマ文書」に関し,シャリーフ首相とその親族の課税逃れの疑惑に対し,特別法廷および合同調査チームを設置して徹底的な捜査を行うよう命じる。
22日ラーヒル・シャリーフ元陸軍参謀長,イスラーム軍事同盟司令官に就任するためリヤドへ出発。
25日FATAクッラムで仕掛け爆弾が爆発,ミニバスの乗客10人が死亡。TTP系ジャマーアトゥル・アフラールがシーア派をねらったと犯行声明。
27日アフサン・イクバール開発・計画相,カラチ=ペシャーワル間鉄道敷設(80億ドル規模)向けのADBからの融資35億ドルを断ることを発表。中国が単独での融資を要望したため。
30日FATAパラチナールのシーア派モスク付近で自動車爆弾とみられる爆発があり死者22人以上。
   5月
5日バロチスタンのアフガン国境で両国の治安部隊が銃撃戦になり,市民(パキスタン側9人,アフガニスタン側6人)が犠牲。
7日電力の不足が5000~7000MWに上った。
12日シャリーフ首相,訪中。一帯一路国際フォーラム(14~15日,北京)出席のため。13日,習近平国家主席と会談し,CPECの一環でグワーダル港関連の新たな覚書に調印。
14日中央銀行(SBP),中国銀行に営業許可。CPEC事業に関し,中国企業の資金需要に対応するもの。
15日『ドーン』紙「CPECに関する長期的な計画」記事を掲載。イクバール計画・開発相,即座に否定。
16日モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社(MSCI),パキスタン指数の新興国指数への格上げを確定(6月1日発効)。
24日クエッタで中国人留学生2人が誘拐され殺害される。
25日ダール財務相,経済白書発表。2016/17年度のGDP成長率は5.3%。
25日CPEC事業のうち最初の大型案件である,パンジャーブ州サヒワール石炭火力発電所1号機の竣工式。7月3日,2号機の竣工式。
26日ダール財務相,2017/18年度予算案発表。財政赤字目標は対GDP比4.1%。
27日カラチで大規模な停電。29日にも同様の停電が起こり,抗議デモへ発展。31日,パキスタン電力規制庁(NEPRA),Kエレクトリック社に対する調査を開始。
   6月
8日シャリーフ首相,カザフスタン訪問。上海協力機構(SCO)首脳会議(~9日,アスタナ)出席のため。9日,パキスタンはインドとともにSCOの正式加盟国として承認される。
10日シャリーフ首相とアフガニスタンのガニー大統領がアスタナで会談し,テロ防止活動検証のためのメカニズム構築で合意。
15日シャリーフ首相,合同調査チームの聴取に出頭。
22日中国からの鉄製品(連続鋳造鋼片)の輸入に関し,アンチダンピング税24%を課税。
22日ADB,国営企業改革のため3億ドルの融資を承認。
23日パラチナールで64人,ペシャーワルで13人が,爆弾の爆発で死亡。カラチでは警官4人がバイクの男に銃撃されて死亡。
25日パンジャーブ州バハワルプルでタンクローリーが横転,炎上。少なくとも218人が巻き添え死亡。7月7日,英蘭系石油大手ロイヤルダッチ・シェルの現地子会社に240万ドルの賠償命令。
30日ADB,ペシャーワルのバス交通網整備に対し3.35億ドル融資を承認。
   7月
2日アメリカの議員団(代表マケイン上院議員)がパキスタン訪問。対話を通じてカシミール問題を解決するよう印パに要請。
5日軍,核弾頭搭載可能なナスルミサイル改良型の発射実験成功と発表。
6日パキスタン有価証券印刷会社が,SBPに1000億ルピーで売却されていたことを,『ドーン』紙などが報じる。
10日特別法廷,シャリーフ首相の議員資格をめぐって,合同調査チームが調査報告書を最高裁に提出。
12日最高裁,イムラン・ハーンにロンドンのアパート購入資金の出所について証明を求める。
16日軍,アフガニスタンから国境を越えてパキスタンに入ろうとするISを阻止すべく,ハイバル渓谷で作戦を開始。
21日アメリカ,CSF5000億ドルの支払停止を決定。
27日ムシャッラフ元大統領が毎日新聞とのインタビューで,2002年に核兵器使用を検討したなどと述べる。
28日最高裁,シャリーフ首相に対して議員失格との判決。与党報道官が「首相は失職した」と発表。
   8月
1日下院,シャーヒド・ハーカーン・アバーシー前石油・天然資源相を新首相に選出。
3日『ビジネスリコーダー』紙,サーキュラーデットが8500億ルピーに上ったと報道。
4日アバーシー首相の内閣が発足。
11日アバーシー首相,ダール財務相をすべての経済委員会の委員長から外す。首相府の権限強化がねらい。
25日国勢調査の結果発表。人口約2億780万人。
26日アバーシー首相,アメリカのブルームバーグ通信のインタビューで「アフガン戦争をパキスタンで戦うことは許さない」,トランプ大統領のアフガンに関する新戦略は「うまくいかないだろう」と述べる。
28日アーシフ外相,アメリカのパキスタン批判への抗議のため,パキスタン要人のアメリカ訪問を一時停止すると発表。
   9月
8日チャシュマに原子力発電所が開所。国内5基目。
18日シャリーフ首相辞任による補欠選挙で,夫人クルスーム・シャリーフが当選。
19日ADB,パンジャーブ州中核都市支援のため,2億ドル融資を承認。
22日アバーシー首相,国連総会に出席。トランプ米大統領との間で両国の協力継続の必要を確認。
24日ラホールで自爆テロ。少なくとも26人死亡。TTPが犯行声明。
28日ADB,交通網整備のため1.8億ドル融資を承認。
29日ADB,送電システム改善のため2.6億ドル融資を承認。
  10月
1日政府,ブラハムダグ・ブグティの逮捕状請求。インターポールへの協力要請を決定。
2日ドイツのシーメンス社,国内最大級の発電容量をもつガス電力島(パンジャーブ州ジャング発電所)の建設を受注。同電力島では,中国機械工程がEPC(設計・調達・建設)を請け負う。
5日アワイス・レガーリー,水利・電力相に就任。
5日バロチスタン州ファテープルでスーフィー寺院をねらった自爆テロ。少なくとも20人死亡。ISが犯行声明。
8日シャーバーズ・シャリーフ・パンジャーブ州首相,オレンジライン・メトロトレイン・プロジェクトの1号電車完成を発表。
16日マスカットで,アフガニスタンについての4者調整協議再開。共同声明出せず。
21日ジャマーアトゥル・アフラールの指導者オマル・ハーリド・ホラーサーニーが10月19日までにアフガニスタンで米軍の無人機攻撃により死亡したと報じられる。
23日中国からの鉄製品(棒鋼)の輸入に関し,アンチダンピング税19%を課税。
24日ティラーソン米国務長官,来訪。テロとの戦い強化を求める。
26日不正取締裁判所,ナワーズ・シャリーフに対し,息子たちがイギリスとサウジアラビアに所有する会社に関する調査に応じないことについて逮捕状を出した。
  11月
6日バジュワ陸軍参謀長,イランを訪問し,ロウハニ大統領と会談,軍事,経済など関係強化への期待を表明。
16日アメリカ下院,アフガニスタンにおける対テロ作戦支援の2018年度補償(CSF)として,パキスタンに上限7億ドルまで支出することを決める。
22日スイス,ブラハムダグ・ブグティの亡命申請を却下。
22日ラホール高裁,活動禁止組織ラシュカレ・トイバ創始者で派生したジャマーアトゥッ・ダーワ(JuD)最高指導者であり,2008年ムンバイテロの黒幕とされるハーフィズ・ムハンマド・サイードの自宅軟禁解除を決定。
29日CPEC事業であるカラチのカースィム港石炭火力発電所1号機の竣工式。
  12月
1日ペシャーワルで農業訓練校が襲撃される。少なくとも9人死亡。
4日マティス米国防長官,初来訪。「アフガンの平和と安定」に関連し利害一致を確認。
6日SBP,パキスタン労働者送金(PRI)と共同で海外労働者送金の簡易化のため,「アーサーン送金口座」を開設。
8日FATAをKP州に併合する改革法案が下院に提出される旨発表される。
9日バロチスタンで反政府活動家70人が政府に投降した。
15日世銀,パンジャーブ州農業支援のため,3億ドル融資を承認。
18日アメリカのトランプ政権,外交政策を発表。パキスタンに核兵器の「信頼できる管理」を証明せよと求める。
19日バジュワ陸軍参謀長,上院の委員会で,軍が文民政府を不安定化させることは絶対ないとした。
19日世銀,送電システム改善と財政管理改革のため,合わせて8.25億ドル融資を承認。
26日中国,パキスタン,アフガニスタン初の3国外相会議(北京)。CPECをアフガニスタンに拡大することを示唆。

参考資料 パキスタン 2017年
①  国家機構図(2017年12月末現在)
②  政府等主要人物(2017年12月末現在)
②  政府等主要人物(2017年12月末現在)(続き)

(注) 1) PML-N (Pakistan Muslim League Nawaz):パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派

2)JUI-F (Jamiat Ulama-e-Islam Fazl):イスラーム聖職者党ファズル派

3)NPP (National People’s Party):国家人民党

4)PML-F (Pakistan Muslim League Functional):パキスタン・ムスリム連盟機能派

5)PPP(Pakistan People’s Party):パキスタン人民党

6)PTI (Pakistan Tehreek-e-Insaf):パキスタン正義運動党

7)PkMAP (Pakhtunkhwa Milli Awami Party):パフトゥーンハー国家人民党

主要統計 パキスタン 2017年
1  基礎統計1)

(注)1)会計年度は7月1日~翌年6月30日。以下,同。人口,労働力人口は毎年6月30日現在の数値,その他は各年度平均値。2)2017年国勢調査(Population and Housing Census)による暫定値。

(出所)Government of Pakistan, Finance Division, Economic Survey 2016-17; Pakistan Bureau of Statistics, Population and Housing Census 2017; State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号; ILO estimate。

2  支出別国民総生産(名目価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)Government of Pakistan, Finance Division, Economic Survey 2016-17.

3  産業別国内総生産(要素費用表示2005/06年度価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)表2に同じ。

4  国・地域別貿易1)

(注)1)再輸出/輸入を除く。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。関税統計ベース。

5  国際収支

(注)1)暫定値。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。銀行統計ベース。

6  国家財政

(注)1)暫定値。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。

 
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