アジア動向年報
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各国・地域の動向
2017年の朝鮮民主主義人民共和国 国家核武力の完成宣言
文 浩一
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2018 年 2018 巻 p. 73-98

詳細

2017年の朝鮮民主主義人民共和国

概 況

2017年の朝鮮民主主義人民共和国(以下,「朝鮮」。ただし,南北関係においては「北側」とする一方,韓国については「南側」とする)では,大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射と ICBM搭載用の水爆実験が成功し,「国家核武力が完成した」と総括された。

南北関係については,対話がまったく進展しなかった朴槿恵大統領に代わって文在寅政権が発足し,文大統領は何度か対話を呼び掛けたが北側は応じなかった。

経済については,核・ミサイル開発に対する国際的な制裁が強まるなか,「革命的対応戦略」と称される政策が登場し,制裁に対処できる経済システムの構築を進めようとしている。

対外関係については,朝中関係が冷却化する一方で,朝ロ関係の親善が強調された。また,金正男殺害事件をめぐってマレーシアとの外交関係が悪化した。

国内政治

大陸間弾道ミサイルの試射発射と完成宣言

朝鮮においては,金正恩が党と軍と国家の最高の地位にある。現在の彼の肩書は,党では朝鮮労働党(以下,党)の中央委員会委員長であり,国家では国務委員長であり,軍においては朝鮮人民軍最高司令官である。党と国家と軍の最高指導者として,金正恩は,2013年以来毎年行っている「新年の辞」を2017年にも行った。

2017年「新年の辞」では,「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射が最終段階に至った」と指摘した。この言葉どおり,2月から5月にかけて9回にわたるミサイルの発射実験が行われ,「われわれが最近行った戦略兵器の試験は,主体朝鮮がICBMを試験発射する時期が決して遠くないことをはっきり証明した」(『労働新聞』論説,2017年6月10日)と,上半期の段階ですでに表明していた。

そして,7月4日に初のICBM発射実験が行われた。同日の朝鮮中央放送は「特別重大放送」を行い,「金正恩の戦略的決断」によって「国防科学院の科学者と技術者は,新たに研究開発したICBM『火星14』型の試験発射を成功裏に行った」と伝えたうえで,「ICBM『火星14』型は7月4日午前9時に朝鮮の西北部地帯から発射され,予定された飛行軌道に沿って39分間飛行し,朝鮮東海の公海上に設定された目標水域を正確に打撃した」と報じた。また「試験発射は,……周辺国家の安全にいかなる否定的影響も与えなかった」と安全性を誇示するとともに,アメリカの独立記念日に行ったことの意義については「アメリカにとっては大いに不快であろう」と揶揄した。この試射実験の成功に際しては,関係者を激励し称賛するための公演会(7月9日)と宴会(7月10日)と党および国家表彰の授与式と記念撮影(7月13日)が行われ,大々的に祝賀行事が繰り広げられた(「火星14」型については,7月28日に2回目の発射実験が行われたが,記念セレモニーとしては宴会のみが報道された)。

ICBM試射成功の次には,ICBM搭載用の核弾頭としての水爆実験が行われた。9月3日に党政治局常務委員会が開催され,ここには金正恩のほかに金永南,黄炳瑞,朴鳳柱,崔龍海の常務委員が全員参加した。同委員会では「ICBM搭載用水爆実験の実施に関する決定書」が採択され,金正恩は実験の断行に関する命令書に署名し,核実験が行われた。核実験としては通算6回目である。

核兵器研究所は同日の声明で「今回の水爆実験は,ICBMの先頭部に装着できる水爆製作において,新たに研究導入した威力調整技術と内部構造設計方案の正確性と信頼性を検討して確証するために行われた」と指摘し,「試験の測定結果,総爆発威力と分裂対融合威力をはじめとする……あらゆる物理的指標が設計値に十分に到達し,今回の試験が前例なく大きな威力で行われたが,地表面の噴出や放射性物質の流出現象がまったくなく,周囲の生態環境にいかなる否定的影響も与えなかったことが確証された」と結論づけた。そして,「ICBM搭載用水爆実験の完成と成功は,……国家核武力完成の完結段階の目標を達成するうえで意義あるきっかけとなる」と結論づけた。

金正恩は9月10日に,今回の水爆実験に貢献した科学者と技術者を称える公演会と宴会と記念撮影に参加した。また,核実験の成功を祝う軍民慶祝大会が全道と主要都市・郡で開催された(9月7~11日)。

水爆実験を機にアメリカとの緊張が高まった。トランプ大統領は第72回国連総会での演説(9月19日)で,朝鮮の核・ミサイル開発問題が「思いもよらぬ人命の損失を招き,全世界を脅威にさらす」とし,「自国や同盟国を防衛することを余儀なくされた場合,われわれには北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はない」と述べた。そのうえで金正恩を「ロケットマン」と揶揄し,「ロケットマンは,自身とその政権にとって自殺行為となる任務に就いている」と非難した。

トランプ大統領の国連演説に対して9月21日,金正恩は党中央庁舎で「国務委員会委員長声明」を発表した。朝鮮で国家の最高職責の名で声明が発表されるのは,これが初めてである。声明では,「トランプが世界の面前で私と国家の存在自体を否定して侮辱し,わが国をなくすという,歴代でもっとも暴悪な宣戦布告をしてきた以上,われわれも見合った史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するであろう」と警告した。国連総会に参加していた李容浩外相は「これは宣戦布告だ」(9月25日)と発言し,「超強硬対応措置」の内容が「太平洋上での水爆実験」であることを示唆したが,ホワイトハウスの報道官は同日の会見で「宣戦布告などしていない」と反論するなど朝米間の「言葉の応酬」が続いた。

太平洋上での水爆実験は行われなかったが,11月29日には「火星15」型と称される新たなICBMの試射が行われた。同日正午の「重大放送」を通じて発表された政府声明では,「今回の発射は,党と政府の委任に基づき金正恩委員長の指導の下11月29日午前2時48分(平壌時間)に平壌郊外で行われ,予定の軌道に沿って53分間飛行して朝鮮東海の公海上に設定された目標水域に正確に着弾し,頂点高度は4475キロメートルまで上昇し,水平距離で950キロメートルを飛行した」と指摘した。そして,この「火星15型の兵器体系は,米国本土全域を打撃することのできる超大型重量級核弾頭の装着が可能なICBMであり,7月に試験発射を行った火星14型よりも戦術・技術的諸元と技術的特性がはるかに優れた兵器体系であり,われわれが目標としているロケット兵器体系開発の完結段階に到達したもっとも威力あるICBMである」と位置づけた。政府声明はまた,金正恩が「本日ついに,国家核武力完成という歴史的大業,ロケット強国偉業が実現された」と「誇り高く宣布」したとも伝えた。朝鮮が公式メディアを通じて国家核武力の完成を主張したのは,今回が初めてである。

12月11日と12日の両日には,金正恩の参加の下,第8回軍需工業大会が開かれた。大会では,報告を行った党政治局の太鍾守委員が「今日の大成功を,さらに大きな勝利のための跳躍台として引き続き拍車をかけ,国家核武力を質・量的にさらに強化しなければならない」とし,「完成」後も核とミサイルの実験を続けていくことを示唆している。

党の人事

党第7期第2回全体会議が10月7日に開催された。全体会議では,第一議題として「現在の情勢に対処した当面のいくつかの課題について」,第二議題として「組織」(人事)が上程された(第一議題については「経済」で記述する)。

第二議題の人事では,党中央委員会政治局員および政治局員候補,党中央軍事委員会委員,党中央委員および委員候補の召喚と補選,党中央委員会副委員長の解任と選挙,党中央委員会の一部の部署の部長および労働新聞社責任主筆の任命などが行われた。

今回の人事では,金正恩の妹である金与正が党政治局候補委員に選出された。金与正は2014年3月に最高人民会議代議員に選出され,同年11月に党中央委員会副部長であることが確認されている。2016年5月の第7回党大会直後の党中央委員会第7期第1回全員会議では,党中央委員に選出されていた。また,党副委員長である崔龍海が党中央軍事委員となり,これにより崔龍海は,党中央委員会政治局と党中央委員会と党中央軍事委員会のすべてで,金正恩以外では唯一,要職に就くことになった。

以下は,今回の人事の内容である。

政治局員には,朴光浩(前職は不明),朴泰成(前党平安南道委委員長,政治局員候補からの昇格),太鍾守(元党咸鏡南道委員会責任書記),安正洙(党中央委員会部長),李容浩(国務委員会委員,外相,政治局員候補からの昇格)の5人が補選された。

政治局員候補には,崔輝(党咸鏡北道副委員長),朴泰徳(前党黄海北道委員会委員長),金与正(党中央委員会副部長),鄭京沢(不明)の4人が補選された。

党中央副委員長には,政治局員に補選された朴光浩,朴泰成,太鍾守,安正洙と,政治局員候補に補選された朴泰徳,崔輝の計6人が新たに選出された。

党中央軍事委員会委員には,崔龍海(党政治局常務委員・副委員長,国務委員会副委員長),李炳鉄(党政治局員候補・軍需工業部第一副部長,陸軍大将),鄭京沢,張吉成(陸軍上将)の4人が補選された。

党中央委員会部長には,崔龍海,朴光浩,太鍾守,金勇秀(党中央委員会部長),梁元浩(党中央委員会党歴史研究所副所長),李英植(前内閣政治局長,元党慈江道委員会責任書記),申竜満(不明)の7人が任命された。

党中央委員会委員には,16人が補選された。このうち,委員候補から委員に昇格したのは,金兵浩(党中央委員会副部長),金明植(海軍司令官,海軍上将),金正植(党中央委員会副部長),崔斗容(人民軍第526大連合部隊部隊長・陸軍中将)の4人であり,残りの12人には,李周午(副首相),金光浩(副首相),高仁浩(副首相兼農業相),金匡赫(航空・半航空軍司令官,航空軍上将),洪英七(党中央委員会副部長),許鉄勇(不明)らが含まれている。

党中央委員候補には,兪鎮(党中央委員会副部長),張竜植(功勲国家合唱団団長),玄松月(牡丹峰楽団団長),馬遠春(国務委員会設計局長),宋春燮(水産相),張俊尚(保健相),金英在(対外経済相),金昌光(党中央委員会副部長,朝鮮中央通信社社長),金昌燁(朝鮮農業勤労者同盟中央委員会委員長),張春実(朝鮮社会主義女性同盟中央委員会委員長)らの28人が補選された。

労働新聞社責任主筆には,金兵浩(朝鮮中央通信社長)が任命された。党中央委員会検閲委員会委員長には,趙延俊(党中央組織指導部第一副部長)が任命された。

一方,政治局員,政治局員候補,中央軍事委員,中央委員,中央委員候補らの召還および党中央委員会副委員長らの解任人事の具体的内容は報道されなかった。

政府の人事

最高人民会議第13期第5回会議(4月11日)では最高人民会議外交委員会の選出が行われ,委員長に李秀勇党中央委員会副委員長(党政治局員・部長,国務委員会委員),委員に李竜男副首相,李善権祖国平和統一委員会委員長,金貞淑対外文化連絡委員会委員長,金桂寛第一外務次官,金同善朝鮮職業総同盟中央委員会副委員長,鄭英源・金日成金正日主義青年同盟中央委員会書記の6人が選出された。

また,今回の最高人民会議では,化学工業相に張吉竜(前国家科学院咸興分院院長)が任命された。これまで化学工業相は,副首相の李務栄が兼務していた。

このほかに会議では,金完洙(前祖国統一民主主義戦線中央委員会書記局局長)と李明吉(前朝鮮農業勤労者同盟中央委員会委員長)の両代議員が最高人民会議常任委員会委員から解任され,朝鮮社会主義女性同盟中央委員会委員長の張春実と祖国統一民主主義中央委員会書記局兼議長の朴昭哲が常任委員に選出された。

また,張炳奎が中央検察所所長および最高人民会議法制委員会委員から解任され,中央検察所所長の後任は金銘吉(前職は不明)が任命された。

全般的12年制義務教育の実施

2017年度から,全般的12年制義務教育(以下,12年制義務教育)が全面的に施行されることになった。

12年制義務教育は,旧来の11年制義務教育(就学前教育1年,小学校4年,中学校6年,年齢5~16歳)において4年制であった小学校を1年伸ばすとともに,6年制であった中学校を3年制の初級中学校と3年制の高等中学校に分けたものである。これにより義務教育の構成は,就学前教育の1年,小学校5年,初級中学校3年,高等中学校3年(年齢5~17歳)となった。2017年に限っては,現在の小学校4年生のうち,1月から6月生まれが12年制義務教育の対象となり,5年生に上がる。7月以降生まれはそのまま中学に上がる。2018年以降は生年月日に関係なく全小学生が12年制義務教育の対象となる。

最高人民会議第13期第5回会議では,12年制義務教育の執行状況の総括が議題として取り上げられた。同議題に対する金昇斗教育委員会委員長の報告によると,12年制義務教育は2012年9月の最高人民会議における法制定を受け,2013年度から2014年度に,まず6年制の中学校が初等中学校(3年)と高等中学校(3年)に分けられた。そして,2017年から小学校教育が4年制から5年制に変更された。さらに,校種別のカリキュラムと授業要領が2013年度までに作成され,教科書と参考書も新たに出版された。師範大学と教員大学が地域別総合大学の所属になるなどして,教員も増やされた。財政省では,毎年教育事業費を平均7.1%増加させ,全国で1500余りの学校が建設または増築されたという。

南北関係

金正恩は,2017年の「新年の辞」で,「われわれは,民族の根本利益を重視して北南関係の改善を望む者なら,誰とでも喜んで手を取り合って進むであろう」としながらも,「南朝鮮当局は,われわれの愛国・民族愛的呼び掛けと誠意ある提議から顔を背け,反共和国制裁・圧迫と北侵戦争騒動にしがみつき,北南関係を最悪の局面に追い込んだ」と指摘し,「北南関係を改善し,北と南の間の先鋭化した軍事的衝突と戦争の危険を解消するための,積極的な対策を講じるべきである」と非難した。結局,2017年には南北間の対話は行われなかった。

3月1日から米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」が始まると,「戦争演習騒動を繰り広げ,侵略野望を捨てないかぎり,核武力を中枢とする自衛的国防力と先制攻撃能力を引き続き強化していくというわれわれの立場にはわずかの変わりもない」(アジア太平洋平和委員会スポークスマンの談話,3月1日)と非難した。また,朴槿恵大統領の弾劾の動きに対しては,「南朝鮮の各階層は朴槿恵を遅延なく青瓦台から追放し,人民が主人となった新たな世界をもたらすための戦いに総決起すべき」と主張した(祖国平和統一委員会政策局スポークスマン談話,3月3日)。南側の憲法裁判所で朴槿恵大統領の罷免が決定されると,朝鮮中央通信社は詳報(3月21日)を通じて,「事大売国と同族対決……を事としてきた罪悪がもたらした当然の結末だ」と指摘した。

5月の文在寅新政権の発足に際しては,その事実のみを伝えるだけで(朝鮮中央放送,5月11日など),特別な論評はしなかった。

南側は,5月26日に民間人道支援団体の北側との接触を承認したが,北側は民間団体の訪北を拒否した。北側赤十字中央委員会報道官(6月6日)は,2016年4月に中国から南側に集団亡命したレストラン従業員12人の送還を要求し,「わが女性公民の無条件の送還が行われないうちは,北南間では離散家族・親戚対面をはじめいかなる人道協力事業もありえない」と表明した。

民族和解協議会は,6月23日付で9項目からなる公開質問状を発表し,米韓合同軍事演習の中止,誹謗・中傷の無条件の中止,軍事的衝突の危険を解消する実践的措置の実施,「北朝鮮の核問題」抜きの南北対話,「制裁・圧力と対話の並行」方針の撤回,亡命したレストラン従業員らの送還などについて南側の意志を問い,「当方の問いに明確な回答をすべきである」と要求した。

一方,文在寅大統領は7月6日にドイツ・ベルリンで朝鮮半島の平和構想について演説し,10.4宣言(2007年10月の「南北共同宣言」)発表10周年と秋夕(旧暦のお盆)に当たる10月4日の南北離散家族再会行事の開催,平昌冬季五輪への北側の参加,朝鮮戦争休戦協定締結64周年の7月27日に合わせた軍事境界線一帯での敵対行為の相互停止,南北対話の再開の4項目を提案し,条件が整えば「金正恩委員長と会う用意がある」と述べ,南北対話への意欲を示した。

文在寅大統領のベルリン演説に対して,『労働新聞』(7月15日)は論評で,「先任者とは異なる一連の立場が盛り込まれていることはそれなりに幸いなことである」としながらも,「朝鮮半島の平和と北南関係改善の助けになるどころか,障害ばかりをさらに積み重ねる寝言のような詭弁」が列挙されていると非難した。

7月17日に南側は,北側に対して軍事境界線付近での敵対行為の相互停止に向けた軍事当局者会談と離散家族再会行事の実現に向けた赤十字会談の開催を提案したものの,北側は期限までに回答せず,両会談は見送られた。離散家族の再会に関しては,北側の強制拉致被害者救出非常対策委員会報道官が8月10日付の談話で,亡命したレストラン従業員が送還されるまでは「離散家族・親戚対面をはじめ,いかなる人道協力事業もありえない」と,従来の主張を繰り返した。

文政権は,7月19日に「国政運営5カ年計画」を発表し,対北政策では「2020年の核放棄合意」を目標に包括的な非核化交渉案を年内に策定するとの方針を掲げた。これに対して,民族和解協議会報道官は談話(7月29日)で,「李明博・朴槿恵保守政権が『北の核放棄』や『吸収統一』をわめきたてて持ち出していた『非核・開放3000』『韓半島信頼プロセス』と本質上何の違いもない」と指摘した。そして,「2020年という期限まで定めて『北の核廃棄合意』を云々するのは事実上,北南関係を解決する考えがないことを公言したのも同然である」と非難した。

北側の ICBM試射と第6回核実験に対抗して,南側は9月4日に終末高高度防衛ミサイル(THAAD)発射台4基の追加配備を決定し,トランプ大統領との電話会談で「国防力を強化するため韓国軍のミサイル弾頭重量の制限撤廃」で合意した。これに対して,北側の民族和解協議会報道官は談話(9月8日)で,「当てにならない対決狂乱によって収拾不可能になりつつある北南関係の現事態の責任は全面的に南側にある」と反発した。

南側は,9月21日に,国連を通じて北側に合計800万ドル(WFPの栄養強化事業450万ドルとユニセフのワクチン医療品支援事業350万ドル)相当の人道支援を実施すると決定したが,北側は内外ともに報道していない。

経 済

経済制裁

9月3日に行われた第6回核実験に対して,国連安全保障理事会は,制裁決議第2375号(9月12日)を採択した。この決議では,初めて石油の供給に上限(200万バレル相当)が設けられた。また,繊維製品の輸入禁止と国連加盟国への北朝鮮籍の海外労働者に対する労働許可の発給禁止などが盛り込まれた。12月22日には,ICBM試射を受けて制裁決議第2397号が採択され,前回の制裁で200万バレル相当に設定されていた石油供給量の上限が50万バレルまで引き下げられた。2016年9月に行われた第5回核実験に対して発動された国連安保理制裁決議第2321号(2016年11月30日)では,2015年の輸出の38%を超える石炭を北朝鮮が輸出できないように定めており,これまで無制限に北朝鮮から石炭を輸入していた中国もこの決議に賛成した。

朝鮮の貿易額に占める繊維製品と石炭・石油関連製品の割合は,(表1)のとおりである。2016年現在,繊維輸出と石炭関連の輸出は輸出全体の7割ほどを占めている。石炭輸出については,最大の取引相手は中国であるが,中国は3月以降無煙炭の輸入を行っていない。石油に関しては,朝鮮の年間消費量は450万バレル相当と推定されているので,9割が減ることになる。

表1  貿易額に占める繊維製品と石炭・石油関連製品の割合(%)

(出所) KOTRA『北朝鮮対外貿易動向2016』。

経済制裁の影響について,朝鮮側は,表面上は影響はないとしているが,実際には警戒している。たとえば,6回目の核実験に対する国連制裁決議第2375号に対して,朝鮮外務省スポークスマン(9月18日)は,「半世紀以上にわたる制裁のなかでも名実ともに核強国の地位を堂々と築き,経済強国建設で飛躍的な発展を成し遂げているわれわれが制裁ごときで揺らぐと考えるのは,愚か極まりない妄想である」としながらも,同日の『労働新聞』(9月18日)は社説「自力更生の大進軍で社会主義強国建設の勝利の活路を切り開こう」を掲載し,「制裁圧殺攻勢は,その規模と内容,強度と持続性において類例のないもっとも破廉恥かつ野蛮的であり,危険極まりない民族抹殺策動である。醸成された事態は,……社会主義原動力である自力更生の威力をさらに高く発揮することを要求している」と訴えている。

10月7日には,党第7期第2回全体会議が開催され,金正恩は「現在の情勢に対処した当面のいくつかの課題について」を報告した(報告内容は非公開)。報道によると,金正恩は「アメリカの核の恐喝と威嚇を終息させ,自立的民族経済の威力をさらに強化し,社会主義経済強国建設の活路を切り開くためのわが党の原則的立場と革命的対応戦略」を明らかにしたとされている。そのうえで,「革命的対応戦略を実現するための人民経済の部門別諸課題を具体的に明示」すると同時に,「内閣とすべての経済指導機関が革命的対応戦略を徹底的に貫徹するための作戦と指揮を巧みに行うこと」を指示した。

これにしたがって,11月7日には内閣全体会議拡大会議が開催され,党中央委員会第7期第2回全体会議の決定を貫徹するための対策が討議された。会議では,「人民経済の全部門で動力と食糧,原料と資材の自給自足を人民経済主体化の重要課題として堅持し,科学技術に基づいて最短期間に実現せねばならないとし,このための委員会と省と当該機関に提起される課題を提示した」とされている。

電力問題

「革命的対応戦略」の中身と,それを実行する内閣の作戦・課題の詳細については不明であるが,電力問題については火力発電にシフトしはじめた模様である。

4月の最高人民会議第13期第5回会議では,朴奉珠総理が「国家経済発展5カ年戦略遂行のための内閣の2016年の事業状況と2017年の課題」を報告した。ここで朴総理は,2017年の目標について,「国の緊張した電力問題を解決して……人民経済全般を活性化させて人民生活向上において決定的転換をもたらすこと」を「中心課題」に掲げた。電力問題については,前年の朝鮮労働党第7回大会で「5カ年戦略(2016~2020年)遂行の先決条件である」と指摘されている。

朴総理は,その具体策として,「発電所の技術改善を促して,不備のある生産工程と構造物を整備して補強し,各種先進技術を積極的に導入して,党が提示した電力生産目標を何としてでも遂行するように努める」とし,「瑞川発電所(咸鏡南道)や漁郎川5号発電所(咸鏡北道)をはじめとする水力発電所の建設を推し進め,すでに建設した中小型水力発電所を現状復旧させて正常運営し,地域的特性に即して中小型水力発電所と自然エネルギー発電所を大々的に建設して,緊張した電力問題を解決するようにする」と指摘した。

朴総理の演説に見るかぎり,4月の段階では火力発電は重視されていない。しかし,9月に行われた党第7期第2回全員会議では,経済制裁に対応した「革命的対応戦略」が提示され,火力発電に重点をおくことが示された模様である。

社会科学院・経済研究所の金哲所長は,『朝鮮新報』(ウェブ版,2018年1月5日)のインタビューで,「火力発電所では,新しい発電能力を造成している。従来は,火力発電所でボイラーの着火に重油を用いていた。わが国の重油消費の多くを占めていたのはこの着火であったが,北倉火力発電所で稼働することになるボイラーは重油をまったく使わない。国家科学院の熱工学研究所で開発した,酸素着火技術が導入される。敵対国の制裁策動に突破口を開く科学技術である。今後,他の火力発電所にも導入することになる」と指摘している。

2017年末の時点で,経済制裁により中国への石炭輸出はストップしている。この状況の下,石炭部門の在庫と生産能力を電力部門に投入しようとするのが,革命的対応戦略の内容のひとつのようである。革命的対応戦略の具体策を討議した内閣全体会議(『民主朝鮮』11月7日報道)では,「石炭工業省では,石炭生産を決定的に立て直し,電力問題を解決することを,敵の圧殺策動に風穴を開けるためのカギであることを認識し,埋蔵量が多く採掘条件の有利な炭鉱に投資を集中」するとしている。石炭採掘企業から石炭を買い上げる予算を捻出するために,電気料金を引き上げたことも訪朝者によって伝えられている。

ちなみに,2018年の「新年の辞」では,前年には言及されていなかった「火力による電力生産を決定的に増やすこと」が課題として提示されている。

農業

最高人民会議第13期第5回会議では,「党の農業革命方針の要求どおり,科学的な営農方法と優良品種を積極的に導入して,営農物資を適期に保障することをはじめ,農業生産を増やすことに力を集中したことによって,穀物生産で最高生産年度水準を突破する誇りに満ちた成果を収めた」と報告された。社会科学院を通じて伝えられた2015年1月から12月の穀物生産高は589万1000トンであり,この年(2015年)に「最高生産年度を突破した」とする報告はなかったので,少なくとも589万トン以上であるということになる。国連食糧農業機関(FAO)の推計(2016/17年度[11~10月]の“Prolonged dry weather threatens the 2017 main season food crop production”,7月20日,以下,FAO報告)では,2016年11月から2017年10月までの国内需要量は560万8000トンとされているので,公式発表どおりなら国内生産だけで食糧は賄うことができる計算になる。また,2017年の新年の辞では,金正恩政権になってからの2013,2015,2016年にはあった,食糧問題に関する言及はなかった。2016年に行われた「200日戦闘」を総括した党中央委員会報道文(2016年12月18日)では,「例年にない穀物生産成果が収められ,類まれな果物の大豊作,『異彩魚景』が広がった」とされており,穀物に限らず食糧問題全般は好転しているようである。

一方,FAO報告では,2016/17年度の穀物生産高は596万トンで,過去5年の平均を上回ると推計した。6月までに裏作として収穫される小麦・大麦およびジャガイモを除いた表作の穀物の生産高は544万トンであり,干ばつにより低下した2015年より14%回復すると推計された。前年比で増加を記録した主な要因は,コメの生産高が254万トンと約30%回復したことにある。コメと同様に,ほかの作物も増加した。大豆の生産高は,28%増の28万2000トンとされ,表作のジャガイモは,前年比60%余り増加して27万4000トンと推計されている。トウモロコシの生産高は,4%減の220万トンであり,これは咸鏡北道での洪水被害を主因として,作付面積と収穫量が減少したことに由来する。

なお,FAO報告では,2017年4~6月の干ばつによって2017/18年度の穀物生産が大幅に減少する恐れを指摘している。報告では,4~6月の降水量は,穀物生産高が200万トン水準に落ち込んだ2001年の同時期よりも少なかったと指摘した。このことから,2017年の穀物生産高は前年よりも落ち込む可能性がある。

対外関係

中国・ロシアとの関係

中国商務省は,国連制裁決議を受け,2月19日から朝鮮からの石炭輸入を停止するなど,朝鮮との貿易取引を規制している。これにより,朝中貿易は3月以降減少傾向にある。朝鮮の貿易総額の9割以上を中国が占めているので,ただちに朝鮮の貿易取引の激減に直結する。

朝鮮は,当初は名指しを避けて,「国連制裁決議を口実に非人道的な措置を講じている」(『朝鮮中央通信』2月23日)と,間接的に中国を非難していたが,『労働新聞』(5月4日)では,「反共和国敵対勢力と結託してわれわれを犯罪者に仕立て上げて残酷な制裁芝居にしがみつくことは,朝中関係の根本を否定し,親善と崇高な伝統を抹殺しようとする許しがたい妄動である」と指摘し,「朝中関係のレッドラインを超えたのは当方ではなく,中国が乱暴に踏みにじり,ためらいなく超えている」と,名指しで非難した。

ただし,中国との外交関係は事務的なレベルでは継続している。

2月28日から3月4日にかけて,李吉成外務次官率いる外務省代表団が訪中し,中国側の王毅外相,劉振民外務次官,孔絃祐外務次官補と個別に会見と会談を行った。3月3日の朝鮮中央放送は,「双方は,朝中親善関係を強化し発展させることに関する諸問題について,突っ込んだ討議を行った」と伝えた。

また,11月17日から20日までは,習近平総書記の特使として中国共産党中央対外連絡部の宋濤部長が訪朝した。宋氏は,10月18~24日に開催された中国共産党第19回大会に関する報告のために訪朝したもので,滞在中,党副委員長の崔龍海と李秀勇に会った。朝鮮中央通信は,11月17日の会見について宋氏が「中朝両党・両国間の伝統的な親善関係を引き続き発展させる中国の党の立場について強調した」と伝え,同18日の会談については「双方は朝鮮半島と地域情勢と両国関係をはじめ共通の関心事となる諸問題について意見を交換した」と簡単に報じた。

ただ,朝中関係が従来に比して冷えている側面は否めない。党大会の報告のための特使派遣は,ベトナムとラオス(10月31日~11月3日)に続く順番であった。朝鮮労働党中央委員会は,10月18日付で中国共産党大会宛に祝電を送ったが,中国共産党大会では祝電を「ベトナム,ラオス,キューバ,朝鮮」の順で紹介した。前回の党大会では朝鮮からの祝電は最初に紹介されていた。また,前回の党大会の際には李建中国共産党中央委員会政治局員が訪朝し,その時は金正恩総書記と会見を行い,胡錦濤総書記からの「口頭親書」を伝達していたが,今回は宋濤部長と金正恩との会談もなかった。

その一方で朝鮮は,ロシアとの友好関係を強調している。朝ロ共同宣言17周年を迎えた7月19日に,『労働新聞』は,「朝ロ共同宣言は21世紀の朝ロ親善協力関係の発展を積極的に推し進める歴史的な文献である」とし,「朝ロの親善関係を大事に扱って発展させていくことは,二国間はもちろん東北アジア地域,ひいては世界の平和と安定を保障するうえで有益である」と指摘した。また,金正恩は,ロシアの建国記念日である6月12日にプーチン大統領宛に祝電を送っている。朝中間では,2016年に続き,2017年も9月9日の建国記念日および10月1日の中国建国68周年に際し,両国間で祝電が送られたとの報道はなかった。

マレーシアとの関係

2月13日,マレーシアのクアラルンプールで,金正恩の異母兄である金正男が殺害された。この事件は,マレーシアとの外交関係にまで発展した。

事件をめぐっては,まず実行犯とされるベトナム国籍とインドネシア国籍の女性2人が,2月15日と16日にマレーシア警察に逮捕された。その後,女性の関係者として朝鮮国籍の男性も逮捕されたが,3月3日に証拠不十分で釈放された。このほかにマレーシア警察は,朝鮮国籍の男4人を容疑者として特定したと発表したが,この4人はすでに帰国していたとみられている。マレーシア警察はさらに,重要参考人として同国駐在の朝鮮大使館の二等書記官の取り調べを要求するとともに,高麗航空の職員の逮捕状を取ったが,この2人は大使館にかくまわれ,関係者への捜査は膠着状態となった。

朝鮮法律家委員会スポークスマンは,2月22日に談話を発表して,「わが公民がマレーシアの地で死亡したのだから,これに対するもっとも大きな責任はマレーシア政府にある」と主張し,「マレーシア側はわれわれの正当な要求と国際法を無視し,われわれといかなる合意も立ち合いもないまま遺体の解剖を強行した」のであり,これは「わが共和国の自主権に対する露骨な侵害であり,人権に対する乱暴な蹂躙である」と批判した。談話はまた,「マレーシア側の不当な行為は,南朝鮮当局による反共和国謀略騒動と時を同じくして繰り広げられている」とし,「南朝鮮当局が,今回の事件を久しい以前から予見しており,そのシナリオまであらかじめ仕立て上げていた」と韓国を非難した。なお,事件で殺害された人物を,朝鮮中央通信(3月1日)では「外交旅券所持者であるわが共和国の公民キム・チョル」と表現している。

3月4日にマレーシア政府は,康哲駐マレーシア大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」とする外交文書を朝鮮大使館に送付し,これを受け康大使は6日にマレーシアを出国した。これに対して,朝鮮外務省は3月6日にマレーシア大使をペルソナ・ノン・グラータに指定し国外追放とした。3月7日には,外務省儀礼局が,マレーシアで発生した事件が公正に解決されてマレーシアにいる朝鮮外交官と公民の安全が確保されるまで,朝鮮領域内にいるマレーシア国民を出国禁止にすると朝鮮のマレーシア大使館に通報した。これを受けてマレーシアの国家安全保障会議は,同日に同国に在住する朝鮮籍大使館職員の出国禁止を発表した。

その後は,水面下での交渉があった模様で,朝鮮とマレーシアの両国代表団は3月30日に共同声明を発表し,問題の解決に向けた会談を行ったとしたうえで,①マレーシアが遺体を朝鮮にいる死亡者の家族に送還すること,②双方が両国民の出国禁止措置を解除することで合意した。

日本との関係

日本政府は,朝鮮の核・ミサイル発射実験に対して独自制裁も行っている。11月7日の閣議了解では,「新たに9団体・26個人に対して,外為法に基づく資産凍結等の措置を講じる」とし,12月15日の閣議了解では「新たに19団体に対する,外為法に基づく資産凍結等の措置を講じる」とした。

また,北朝鮮に日用品を不正に輸出したとして,12月14日に京都府警などは,在日本朝鮮人総連合ほか傘下の朝鮮商工会館などを外為法違反容疑で捜査した。12月15日には,京都,神奈川,新潟,島根,山口の5府県合同捜査本部が,食品を不正に輸出した疑いで環境設備関連会社を捜査し,関係者を逮捕した。これに対して,『労働新聞』(12月21日)は論評で,「われわれは,総連と在日朝鮮人に対するいかなる些細な迫害や弾圧も,わが共和国の尊厳と自主権に対する重大な侵害と認め,それに断固対応していく」と警告した。

一方,拉致被害者を含む日本人行方不明者の調査を約束したストックホルム合意(2014年5月)は,「日本側の対応によって破棄された」と主張しながらも,宋日昊・朝日国交正常化担当大使は,「日本から要望があれば残留日本人の問題に取り組む用意がある」と,日本の記者団に伝えた(『産経新聞』4月18日)。そして,『朝鮮新報』(6月28日)は,ストックホルム合意で設置された特別調査委員会が残留日本人8人の生存を確認したものの,その後7人が死亡し,生存者は1人だけになったと報道した。これに対して菅官房長官は,「政府としては残留日本人にかかる問題は,人道的観点から取り組むべき問題と認識しており,ストックホルム合意に基づき,日本人に関するすべての問題を解決すべく,引き続き最大限の努力をしていきたい」(6月29日の会見)と語り,改めてストックホルム合意の履行を求めたが,現段階で朝鮮側は履行に応じる意向はないようである。

2017年の政治家の往来は,参議院議員の猪木寛至氏(元プロレスラー,アントニオ猪木)による9月7~11日の訪朝,李秀勇党副部長兼朝日友好親善協会顧問との会見のみである。

一方,海上保安庁は,「北朝鮮籍」とみられる船の漂流・漂着が83件に上り,海保がデータの集計を始めた2013年以降で最多になったと発表した(12月13日)。このうち,11月15日には,海上保安庁の巡視船が,大和堆の排他的経済水域外側で転覆した小型木造船を発見して,船底上にいた北朝鮮人3人を救助し,海上でほかの北朝鮮漁船に引き渡した。また,11月23日には,秋田県由利本荘市の海岸に北朝鮮の小型木造船が漂着し,8人が上陸して保護された。乗組員らは,いったん長崎県の大村入国管理センターへ移送されたのち,12月26日,関西国際空港から中国へ向け出国した。

2018年の課題

金正恩は,2018年の「新年の辞」で,「米国本土全域が朝鮮の核ミサイルの射程圏内」にあり,「核のボタンが私の事務室の机の上に置かれている」として,アメリカに向けて「国家核武力の完成」を誇示した。同時に,国家核武力が「強力で頼もしい戦争抑止力」であるとし,先制攻撃をしない意思も強調している。しかしながら,「核弾頭とICBMを量産して実践配備に拍車をかける」と言明しているので,2018年以降も,核とミサイルの実験は続く可能性はある。

その一方で,緊張緩和に向けて動き出している。2018年「新年の辞」では,「われわれは,民族的大事を盛大に執り行い民族の尊厳と気概を内外にとどろかせるためにも,凍結状態にある北南関係を改善し,意義深い今年を民族史に特記すべき画期的な年として輝かせなければならない」とし,南北関係の改善を呼び掛けた。そして,韓国で開催される平昌冬季五輪については,「われわれは,代表団の派遣を含めて必要な措置を講じる用意があり,そのために北南当局が緊急に会うこともできる」と具体的な提案を示した。

すでに南北双方は,朝鮮半島の緊張緩和のために南北対話が必要であることについては認識を共にしており,そのための会談も開かれている。しかし,北側は,南北関係はあくまでも民族内部の問題としているのに対し,南側は,南北関係を核・ミサイル問題を含む朝米問題にまで結び付けたいと考えている。したがって,たとえ南北対話が始まったとしても,南北双方がこの認識の相違をいかに解消していくのかが今後の焦点となる。南北対話の行方と,それに関連するアメリカの出方によっては,北側は今後,核・ミサイル実験を行わないこともありうる。

経済については,引き続き制裁に対応できる経済運営体制の構築を推進していくものといえる。2018年の「新年の辞」では,「自立経済発展の近道は,科学技術を優先」させることであると強調し,技術開発に基づく原料と資材と設備の国産化を促している。今年初めて報道された現地指導も,国家科学院に対してであった(2018年1月12日)。

制裁により経済が困窮しているのなら,目先の利益に集中しがちになるので,先行投資としての科学投資の余裕はなくなる。また,海外からの制裁に対する国内の対応は一般に「経済統制」であるが,朝鮮経済は引き続き,社会主義企業責任管理制を促して,生産単位の自律性を強化する方向に進もうとしている。このことは,制裁に対する朝鮮経済の強さの一端を示しているのかもしれない。

(大阪大学)

重要日誌 朝鮮民主主義人民共和国 2017年
   1月
1日金正恩,新年の辞を発表。
1日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍第4回水産部門熱誠者会議参加者と記念撮影。
5日『労働新聞』によれば,金正恩が平壌鞄工場を現地指導。
8日『労働新聞』によれば,金正恩が金正淑平壌製糸工場を現地指導。
12日『労働新聞』によれば,金正恩が柳京キムチ工場を現地指導。
15日『労働新聞』によれば,金正恩が金山浦塩辛加工工場と金山浦水産事業所(黄海南道殷栗郡)を現地指導。
19日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍第233軍部隊直属区分隊を視察。
22日金正恩,康基燮民用航空総局長の死去を受け,故人の霊前を弔問。
26日『労働新聞』によれば,金正恩が黎明通り建設現場を現地指導。
28日『労働新聞』によれば,金正恩が戦車・装甲歩兵連隊の冬季渡河攻撃戦術演習を指導。
   2月
2日『労働新聞』によれば,金正恩が平壌初等学院を現地指導。
7日『労働新聞』によれば,金正恩が江東精密機械工場(平壌市)を現地指導。
8日マレーシアとの間で政府間文化・芸術・遺産分野における協力に関する了解覚書。
12日金正恩,地対地中長距離戦略弾道弾「北極星2型」の試験発射を現地で指導。
13日キューバとの間で2017年経済および科学技術協力発展のための会議議定書と2017年商品交流に関する議定書。
13日金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害される。
15日故金正日総書記の生誕75周年慶祝中央報告大会。金正恩が出席。
16日金正恩,光明星節にあたり,錦繍山太陽宮殿を訪問。
21日金正恩,三泉ナマズ加工工場(黄海南道)を現地指導。
22日『労働新聞』によれば,金正恩が功勲国家合唱団創立70周年記念公演を観覧。
25日北朝鮮外務省軍縮・平和研究所代表団が訪中(~3月1日)。
28日北朝鮮外務省代表団(団長は李吉成次官)が訪中(~3月4日)。
   3月
1日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍第966大連合部隊指揮部を視察。
2日金正恩,万景台革命学院を訪問。
7日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の弾道ロケット発射訓練を指導。
7日外務省儀礼局,朝鮮領域内にいるマレーシア国民の出国禁止を在朝マレーシア大使館に通報。
11日『労働新聞』によれば,金正恩が白頭山建築研究院(平壌市)を現地指導。
17日ロシアとの間で,一方の国家の領土内での他方の国家の公民の臨時労働活動に関する協定の履行に関する問題を解決するための共同実務グループ第7回会議議定書。
24日コンゴとの間で政府間保健分野における協力に関する議定書。
28日『労働新聞』によれば,金正恩委員長が朝鮮革命博物館(平壌市)を現地指導。
30日マレーシアとの間で共同声明。金正男氏の遺体の本国への送還,両国国民の出国禁止措置解除などで合意。
   4月
1日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍戦車兵競技大会2017を指導。
8日『労働新聞』によれば,金正恩が平壌キノコ工場を現地指導。
11日最高人民会議第13期第5回会議。金正恩が参加。
13日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍特殊作戦部隊降下・対象物打撃競技大会2017を指導。
13日金正恩,黎明通りの完工式に参加。
14日金日成主席生誕105周年慶祝中央報告大会および閲兵式。金正恩が参加。
15日金正恩,太陽節に際して錦繍山太陽宮殿を訪問。
16日朝鮮労働党とモルドバ社会主義党との間の協力に関する協定。
16日金正恩,金日成主席生誕105周年慶祝閲兵式参加者らのための功勲国家合唱団祝賀公演を観覧。
17日朝鮮労働党とメキシコ労働党との間の交流と協力に関する合意書。
23日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍航空・反航空軍4月22日泰川ブタ工場(平安北道)を現地指導。
24日朝鮮人民軍創建85周年慶祝中央報告大会。
26日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍創建85周年慶祝朝鮮人民軍軍種合同打撃大会を参観。
   5月
3日朝鮮中央通信,平壌科学技術大学教授の米国人・金相徳氏を「敵対的犯罪行為を犯した」として4月22日に平壌国際空港で拘束したと発表。
5日『労働新聞』によれば,金正恩が長在島防御隊と茂島英雄防御隊(黄海南道)を視察。
7日朝鮮中央通信,平壌科学技術大学運営関係者の米国人・金学松氏を「反共和国敵対行為」の疑いで6日に抑留したと発表。
7日朝鮮体育省とシリア総同盟の体育分野における交流と協力に関する合意書。
10日『労働新聞』によれば,金正恩が楽浪栄誉軍人樹脂日用品工場(平壌市)を現地指導。
13日『労働新聞』によれば,金正恩が人民武力省機具・工具・仕上げ建材品および科学技術成果展示会場の参観。
13日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍建設部門熱誠者との記念撮影。
22日『労働新聞』によれば,金正恩が地対地中長距離戦略弾道弾「北極星2」型の試験発射の参観。
28日『労働新聞』によれば,金正恩が新型反航空迎撃誘導武器体系の試射を視察。
30日『労働新聞』によれば,金正恩が精密操縦誘導体系を導入した弾道ロケットの試射を指導。
   6月
2日国連安保理,繰り返されるミサイル試射にたいして国連制裁決議第2356号を採択。
3日『労働新聞』によれば,金正恩が江西薬水工場(南浦市)を現地指導。
5日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍航空・反航空軍(空軍)飛行指揮員の戦闘飛行競技大会2017を指導。
5日ロシアと外務省間の2017~2018年交流計画書。
6日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮少年団第8回大会参加者と記念撮影。
9日『労働新聞』によれば,金正恩が国家科学院の開発した新型地上対海上巡行ロケット試射を視察。
12日ジョセフ・ユン米国務省朝鮮担当特別代表が訪朝(~13日)。13日に労働教化刑を科されていた米国人学生オットー・ワームビアーが釈放され,ユン氏と共に平壌を出発。
20日『労働新聞』によれば,金正恩が歯科衛生用品工場を現地指導。
   7月
3日金正恩,大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」型の試射命令を下達。
4日金正恩,ICBM「火星14」型の試射を現地で指導。
8日金正恩,金日成主席逝去23年に際して錦繍山太陽宮殿を訪問。
9日金正恩,「火星14」型の試射成功記念音楽舞踊総合公演を観覧。
10日金正恩,「火星14」型試射成功を祝賀して党中央委員会と党中央軍事委員会が催した宴会に参加。
13日『労働新聞』によれば,金正恩が「火星14」型の試射成功に貢献したメンバーと記念撮影。
13日『労働新聞』によれば,金正恩が「火星14」型試射成功に貢献したメンバーへの党・国家表彰授与式に出席。
27日金正恩,「祖国解放戦争勝利」64周年に際して祖国解放戦争参戦烈士墓を訪問。
27日金正恩,ICBM「火星14」型の第2回試射命令を下達。
28日金正恩,ICBM「火星14」型の試射を現地で指導。
30日金正恩,「火星14」型の第2回試射の成功を慶祝して党中央委員会と党中央軍事委員会が催した宴会に出席。
   8月
5日国連安保理,ICBM「火星14」型の試射を受けて,石炭の全面禁輸を盛り込んだ「対北朝鮮制裁決議」を全会一致で採択。
5日ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議に参加する政府代表団(団長は李容浩外相)が平壌を出発(~10日)。
14日金正恩,朝鮮人民軍戦略軍司令部を視察。
23日『労働新聞』によれば,金正恩が国防科学院化学材料研究所を現地指導。
26日『労働新聞』によれば,金正恩が「島嶼占領のための朝鮮人民軍特殊作戦部隊対象物打撃競技」を指導。
30日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍戦略軍中長距離戦略弾道ロケット試射を現地で指導。
   9月
2日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍第4回青年同盟初級団体書記熱誠者大会参加者と記念撮影。
3日党中央政治局常務委員会,開催。金正恩がICBM搭載用水爆実験を断行する命令書に署名。
7日猪木寛至参議院議員が来訪(~11日)。朝日友好親善協会の李秀勇顧問と会見。
10日『労働新聞』によれば,金正恩が水爆実験の成功に貢献した核科学者と技術者を称える祝賀公演を観覧。
10日『労働新聞』によれば,金正恩が水爆実験成功に貢献したメンバーと記念撮影。
11日国連安保理,北朝鮮への原油輸出制限など盛り込んだ制裁決議第2375号を採択。
12日『労働新聞』によれば,金正恩が島の分校や最前線地帯,山奥の学校に自ら赴任を願い出た教員らと接見し記念撮影。
12日国連安保理,第6回核実験に対して制裁決議第2375号を採択。
16日『労働新聞』によれば,金正恩が中長距離戦略弾道ミサイル「火星12」型の試射を現地で指導。
19日第72回国連総会に出席する代表団(団長は李容浩外相)が平壌を出発(~28日)。23日に国連総会で演説。
21日金正恩,トランプ米大統領の国連演説に対し国務委員会委員長声明を発表。
30日『労働新聞』によれば,金正恩が朝鮮人民軍第810軍部隊傘下1116号農場を現地指導。
  10月
7日朝鮮労働党中央委員会第7期第回全体会議,開催。金正恩が参加。
8日金正日の党総書記就任20周年中央慶祝大会。
9日ロシア・タス通信代表団が来訪(~12日)。
13日『労働新聞』によれば,金正恩が創立70周年を迎えた万景台革命学院を祝賀訪問。
19日『労働新聞』によれば,金正恩が柳園履物工場(平壌市)を現地指導。
29日『労働新聞』によれば,金正恩が平壌化粧品工場を現地指導。
  11月
4日『労働新聞』によれば,金正恩が3月16日工場を現地指導。
7日『民主朝鮮』によれば,内閣全体会議拡大会議が開催。
7日金日成・金正日主義青年同盟中央委第9期第5回総会拡大会議,開催。
7日日本政府,共和国の9団体と9団体の関係者26人を資産凍結の対象に追加指定。
15日『労働新聞』によれば,金正恩が金星トラクター工場(南浦市)を現地指導。
17日中国の宋濤対外連絡部部長が来訪(~20日)。
21日『労働新聞』によれば,金正恩が勝利自動車連合企業所(平安南道)を現地指導。
24日政府代表団(団長は李容浩外相),キューバを訪問し,カストロ国家評議会議長と会見。
28日『労働新聞』によれば,金正恩が順川ナマズ加工工場(平安南道)を現地指導。
28日金正恩,ICBM「火星15」型の試射命令を下達。29日に同ICBMの試射を現地で指導。
  12月
3日『労働新聞』によれば,金正恩が鴨緑江タイヤ工場(慈江道)を現地指導。
5日サッカー東アジア選手権に出場する男女代表チームが訪日(~15日)。
5日フェルトマン国連事務次長一行が来訪(~9日)。7日に李容浩外相と会見。
5日ロシアとの間で自由剥奪刑の判決を受けた者の身柄引き渡しに関する条約。
6日『労働新聞』によれば,金正恩が三池淵ジャガイモ粉末生産工場(両江道)を現地指導。
9日『労働新聞』によれば,金正恩が白頭山に登頂。
9日『労働新聞』によれば,金正恩が両江道三池淵郡の各単位を現地指導。
11日第8回軍需工業大会(~12日)。金正恩が出席し,「歴史的な結論」を発言。
12日金正恩,ICBM「火星15」型試射の成功に貢献したメンバーへの国家表彰授与式に出席。
12日金正恩,第8回軍需工業大会参加者らと記念撮影。
17日金正恩,金正日総書記逝去6年に際して錦繍山太陽宮殿を訪問。
21日最高人民会議常任委,政令で平壌市江南郡に「江南経済開発区」の設置を決定。
22日国連安保理,ICBM試射実験を受けて制裁決議(第2397号)を採択。
23日朝鮮労働党第5回細胞委員長大会(~24日)。金正恩が参加し,開会の辞と演説と閉会の辞。
24日金正恩,党第5回細胞委員長大会参加者らと記念撮影。
28日党・国家・経済・武力機関の幹部廉関委会議。国家経済発展5カ年戦略の2017年事業状況を総括。
29日金正恩,党第5回細胞委員長大会参加者のための功勲国家合唱団・牡丹峰楽団祝賀公演を観覧。

参考資料 朝鮮民主主義人民共和国 2017年
①  国家機構図(2017年12月末現在)
②  朝鮮労働党中央機構図
③  党および国家機関の指導メンバー
③  党および国家機関の指導メンバー(続き)

(注)*は就任そのものの日付が発表されていないため,その職にすでにあることが判明した報道の日付を記載。

主要統計 朝鮮民主主義人民共和国 2017年
1  国家予算収入総額(2009~2017年)

(注)1)は『アジア動向年報2017』での中川雅彦による計算値。中川は,2009年実績以降は物価調整の状況が不明であるため金額を計算していない。

(出所)各年度国家予算報告による。2015年の実績金額は,筆者訪朝時(2016年11月)社会科学院からの聞き取り。

2  国家予算支出総額および収支(2009~2017年)

(注)1)は『アジア動向年報2017』での中川雅彦による計算値。中川は,2009年実績以降は物価調整の状況が不明であるため金額を計算していない。

(出所)各年度国家予算報告による。2015年の実績金額は,筆者訪朝時(2016年11月)社会科学院からの聞き取り。

3  国防費(2009~2017年)

(注)1)は『アジア動向年報2017』での中川雅彦による計算値。中川は,2009年実績以降は物価調整の状況が不明であるため金額を計算していない。

(出所)各年度国家予算報告による。

4  公表されたGDP(2007年以降)

(注)数値は,「名目」と思われる。

(出所)2013年の数値は,『朝鮮民主主義人民共和国投資案内』(朝鮮対外経済投資協力委員会,2014年)より。それ以外は『週刊東洋経済』第6490号(2013年10月12日)および社会科学院の李基成教授が2016年8月に在日朝鮮人研究者に伝えたもの。

5  公表人口統計

(出所)2008年はセンサス(DPRK 2008 Population Census National Report, Central Bureau of Statistics of DPRK, 2009)から。2000年は北朝鮮の国連提出資料(Core Document Forming Part of the Reports of State Parities. United Nations Human Rights Instruments. May.15, 2002)。2014 年はDPRK Socio-Economic, Demographic and Health Survey 2014(中央統計局,2015年12月)。2015年は,李基成・金哲『朝鮮民主主義人民共和国の経済概括』(出版物輸出入商社,2017年)。

 
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