アジア動向年報
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各国・地域の動向
2019年の台湾 総統選挙候補の選出と強まる中国の圧力
竹内 孝之(たけうち たかゆき)池上 寬(いけがみ ひろし)
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2020 年 2020 巻 p. 151-178

詳細

2019年の台湾

概 況

2019年は2020年1月に予定されている総統選挙や立法委員選挙に向けた動きが活発化した。与党の民進党は6月に蔡英文総統を,野党の国民党は7月に2018年の統一地方選挙で高雄市長に当選した韓国瑜を総統候補として擁立した。立候補届け出の受付は11月18日から22日に行われた。当初,蔡英文総統の支持率は低迷していたが,統一を迫る中国の圧力や香港情勢の深刻化が追い風となり,大きく改善した。

経済では,内需が堅調に成長したこともあり,2019年の実質経済成長率は速報値で2.71%となった。また,米中貿易摩擦によって,台湾企業は生産拠点の分散を進めるようになり,一部企業では台湾に回帰する動きが生じた。政府はこの動きを支援するため,投資促進プログラムを策定した。製造業など一部業種では人手不足が生じた一方,事業不振などで従業員の解雇が相次いだ1年でもあった。

対外関係では中国が香港同様の「一国二制度」を台湾に迫る姿勢を強め,また太平洋地域2カ国と台湾の外交関係を断絶させた。蔡英文政権はこうした中国の圧力に反発した。香港の逃亡犯条例改正案反対運動と警官隊の衝突は台湾世論にも衝撃を与えた。また,台湾は香港の同条例改正案やその発端となった台湾での殺人事件の処理方針をめぐり,香港側と対立した。一方,アメリカは大規模な武器売却や,太平洋諸国に台湾との国交を維持するよう求めるなど台湾を支援する姿勢を強めた。日本なども台湾外交を支援するアメリカの動きに同調した。

国内政治

頼清徳行政院長の辞任と蘇貞昌内閣の発足

統一地方選挙での与党敗北後に辞意表明した頼清徳行政院長は蔡英文総統による慰留を固辞し,1月11日に改めて辞意を表明した。1月14日,後任の行政院長に蘇貞昌・元民進党主席が就任した。蘇貞昌は陳水扁政権でも行政院長を務め,この第1次蘇貞昌内閣(2006年1月~2007年5月)で蔡英文総統は行政院副院長を務めた。第2次蘇貞昌内閣では前内閣からの留任者が大半を占めたが,蘇貞昌院長や陳其邁副院長,林佳龍交通部長は2018年の統一地方選挙での落選者であった(それぞれ新北市,高雄市,台中市)。野党国民党はこれを「敗者連盟」と揶揄したが,蔡英文総統には党内有力者を政権に組み入れて,政権や党運営を安定させるねらいがあったと考えられる。

立法委員補欠選挙

2018年の統一地方選挙の際,それぞれ台北市長と台中市長に立候補した民進党の姚文智(台北2区)と国民党の盧秀燕(台中5区)が自発的に立法委員を辞任した。これに伴う立法委員補欠選挙(1月27日)では台北2区で民進党の何志偉候補が,台中5区は国民党の沈智慧候補が当選した。

また,台南市長に就任した民進党の黄偉哲(台南2区),彰化市長に就任した国民党の王惠美(彰化1区),金門県長に就任した国民党の楊鎮浯(金門県区)のほか,汚職容疑で有罪が確定した民進党の高志鵬(新北3区)が立法委員を失職した。これに伴う補欠選挙(3月16日)では新北3区で民進党の余天候補,台南2区で民進党の郭国文候補,彰化1区で国民党の柯呈枋候補,金門県区で国民党を離党した陳玉珍候補が当選した。陳玉珍は8月に国民党に復帰し,結果的に政党の勢力図は変化しなかった。

民進党の党主席選挙と総統選挙での公認候補の選出

統一地方選挙での敗北後,蔡英文総統は民進党主席を引責辞任した。これに伴う民進党主席補欠選挙が1月6日に行われ,蔡英文寄りの卓栄泰・前行政院秘書長が得票率72.6%で当選した。対立候補で台湾独立派の游盈隆東呉大学教授は,得票率が27.4%にとどまり,敗れた。

1月9日に就任した卓栄泰民進党主席は,2020年総統選挙の公認候補の選出に取り掛かった。3月6日の同党中央常務委員会は4月10日から12日に世論調査の実施,17日に結果発表との日程を決めた。3月22日の締切日までに蔡英文総統と,台湾独立派の支持をうけた頼清徳・前行政院長が立候補を届け出た。蔡英文寄りの党執行部は蔡英文総統の敗退を懸念し,4回にわたって選出日程を延期した。最終的には5月29日の中央党執行委員会で世論調査を6月10~12日に行うことが決められた。その間,高まる中国の圧力に対する世論の反発を背景に,蔡英文総統への支持は回復しつつあったが,5月末の時点では五分五分の勝負とみられていた。

党が委託した世論調査の直前,6月9日に香港では逃亡犯条例改正案に反対する大規模なデモが起き,デモ隊と警察が衝突した。台湾は中国から香港に近い形での統一を迫られているため,台湾の世論は香港情勢の悪化に衝撃を受けた。また,蔡英文総統は9日中のうちに香港の反対運動への支持を表明し,香港や中国政府を批判した。こうした香港情勢の急変や対応が蔡英文総統の支持を押し上げた。

6月13日に発表された調査結果では対立候補と目された韓国瑜や台北市長の柯文哲のいずれに対しても蔡英文総統が大差で勝った(表1)。一方,頼清徳は柯文哲との差が僅かであった。そのため,蔡英文総統が民進党公認の総統候補となった。結果発表後,頼清徳・元行政院長は蔡英文総統への支持を表明し,蔡英文総統も頼清徳に協力を求めた。11月17日には蔡英文総統が頼清徳を副総統候補に指名し,民進党では挙党一致で総統選挙に臨む態勢ができた。なお,1期限りでの退任が確定した陳建仁副総統は,蔡英文陣営の選挙本部長に就いた。

表1  民進党の総統選挙公認候補選出のための世論調査結果(模擬選挙方式での得票率%,5機関平均)

(注)民進党内の各候補者と国民党の公認を獲得とみられていた韓国瑜,無所属で出馬するとみられていた柯文哲台北市長が総統選挙に出馬した場合,いずれの候補者を支持するのか問うた。

(出所)民進党ウェブサイト(http://www.dpp.org.tw/media/contents/8698)。

国民党の総統選挙公認候補の選出

国民党では呉敦義・同党主席や王金平・前立法院長,朱立倫・前新北市長が出馬を模索した。しかし,国民党の支持基盤である保守的な外省人には統一派に近い高齢の退役軍人が多く,この3人が台湾と中国がともに「一つの中国」に属するとの考え方が希薄もしくは不十分であることに不満を持っていたと言われる。

国民党内で世論からの支持が最も高いのは高雄市長の韓国瑜であった。しかし,市長就任直後の出馬は体裁が悪いため,韓国瑜自身は当初,出馬表明を控えた。韓国瑜は統一地方選挙で奇抜な選挙戦術を用いて支持を広げたが,その行政や政治,外交上の手腕は未知数であった。

馬英九・前総統は鴻海精密工業(以下,鴻海)の創業者,郭台銘を推したと言われる。郭台銘の強みは,鴻海が多くの事業所を置く中国とアメリカのトランプ大統領の双方に繋がりを持つことであった。しかし,郭台銘は2000年に国民党が活動実態のない党員を除籍した際,手続きを怠り,党員資格を失ったため,公認選出に必要な党員歴(4カ月)を満たせない可能性もあった。そこで,呉敦義党主席は4月17日,国民党が財政難に陥った際に郭台銘が無利子で融資したことへの感謝状を送り,その中に郭台銘の党員歴50年を祝う一文を加えることで,郭台銘に公認候補選出への参加資格を認めた。

これに対して,韓国瑜は4月23日に声明文を発表して「密室で候補者を決めるべきでない」と党執行部を批判した。また,「私には中華民国の発展と防衛に責任を負う用意がある」と述べ,自らへの出馬要請を党執行部に促した。

5月15日,国民党中央常務委員会は5機関に世論調査(7月8~14日に実施)を委託し,総統選挙を想定した模擬選挙方式と,党内から最も支持する候補者を選ぶ方式の結果を総合して公認者を決定するとした。ただし,調査対象は高齢者の利用が多い固定電話のみとし,携帯電話を除外した。立候補を届け出た5人は全員が外省人で,朱立倫以外は保守,親中派とみられる。党執行部に出馬要請を催促していた韓国瑜も自ら立候補を届け出た。

世論調査の結果は7月15日に公表された。韓国瑜は模擬選挙において蔡英文総統や柯文哲ら想定される対立候補に大差をつけた。また,公認選出の基準となる模擬選挙と党内候補者から選択した場合の平均値でも首位に立ち,国民党公認の総統候補となった(表2)。

表2  国民党の総統選挙公認候補選出のための世論調査結果(5機関平均)

(注)1)国民党内の各候補者と民進党の公認を獲得した蔡英文総統,また,柯文哲台北市長が総統選挙に出馬した場合,いずれの候補者を支持するのか問うた。2)最も支持する党内の候補者を問う調査が行われたが,公表資料では,その結果の5機関平均値が掲載されていない。3)国民党の公認を選出するうえでの基準。

(出所)自由時報ウェブサイト(https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/2852954, https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/2853401)。

8月には韓国瑜の支持が低下し,国民党が公認を撤回するとの噂が流れたが,呉敦義同党主席は9月3日に否定した。11月11日には,副総統候補に理系の大学教授出身の張善政・元行政院長が指名された。党内では郭台銘(9月に離党)や朱立倫とのペアを望む声もあったが,いずれも実現しなかった。

2大政党以外からの総統選挙出馬を模索する動き

将来の総統候補と目されてきた柯文哲台北市長は8月6日に台湾民衆党を結成し,同党主席に就いたが,総統選挙への出馬を見送った。柯文哲は上海市との都市フォーラムを継続し,中国との経済関係を重視する有権者が多い台北市で票固めをしてきた。しかし,2019年の対中関係や香港情勢の悪化が柯文哲への逆風になる恐れがあった。また,2018年の統一地方選挙で国民党候補に猛追されて辛勝にとどまったため,柯文哲は将来の総統選挙への出馬を見据え,全国組織の構築を優先したと考えられる。

一方,郭台銘は国民党内での敗退後も出馬を諦めず,柯文哲台北市長に接近した。これを警戒した呉敦義国民党主席は7月17日に郭台銘に国民党にとどまるよう呼びかけた。9月12日には呉敦義や馬英九ら歴代国民党主席などが連名で,郭台銘と韓国瑜に協力を求める新聞広告を掲載した。これは郭台銘に副総統候補になるよう求めたものと考えられる。反発した郭台銘は同日のうちに国民党から離脱すると表明したが,16日に出馬の断念を表明した。その後,郭台銘は親民党に接近し,2020年1月に宋楚瑜同党主席への支持を表明した。

王金平・前立法院長は国民党の公認選出過程が不透明であると批判し,同党からの出馬を断念した。その後も郭台銘や柯文哲のほか,親民党にも協力を打診したが叶わず,王金平は11月12日に出馬を断念すると表明した。

最終的に2大政党以外では親民党の宋楚瑜主席のみが正式に立候補した(11月13日に出馬表明)。同党は前回総統選挙での得票率が12.8%であったため,直近の国政選挙で得票率5%以上という候補者擁立の条件を満たしており,署名を集めずに,正副総統候補を擁立できた。副総統候補には民視(民進党や独立派寄りのテレビ局)元副社長である余湘を指名した。2016年選挙の副総統候補であった徐欣瑩と同様,余湘は本省人,女性で,宋楚瑜は自身(外省人,男性)とのバランスを取った。ただし,宋楚瑜の立候補は,同日実施予定の立法委員選挙で親民党が幅広い層から得票することがねらいであった。

総統選挙本選をめぐる情勢

総統選挙には3組が正式に立候補したが,実際は民進党の蔡英文・頼清徳ペアと国民党の韓国瑜・張善政ペアの一騎打ちであった。選挙戦の焦点は台湾への強硬さを増す中国との距離感であった。

蔡英文総統は従来,中国への刺激を避けてきたが,2019年に入ると中国への対抗策(後述)を打ち出した。香港の反対運動が長引き,本格的な反政府運動に発展したことや,その参加者や支持者らが「今日の香港は明日の台湾」とのスローガンを唱えて台湾側に中国との統一を拒否するよう呼びかけたことも,台湾世論の危機感と蔡英文総統への支持を高めた。

一方,韓国瑜は国民党と中国が中台間の対話の前提とする「1992年コンセンサス」の堅持を一貫して主張した。3月の香港,マカオ,中国訪問では,香港の林鄭月娥行政長官やマカオの崔世安行政長官,中央政府駐香港連絡弁公室(中国政府の出先機関)の王志民主任,劉結一国務院台湾事務弁公室主任らと会談し,中国との親密な関係を見せた。9月に太平洋2カ国が中国と関係を樹立し,台湾と断交したことを指して「中華民国が消滅の危機にあるのは『1992年コンセンサス』を認めない蔡英文総統の責任だ」と述べ,中国の圧力を選挙戦に利用した。

こうした韓国瑜の親中的な姿勢は選挙戦の足かせになった。3月に中央政府駐香港連絡弁公室を訪問したことは「一国二制度」を支持したことになると批判された。また,6月に香港情勢が深刻化した後,韓国瑜は「一国二制度は台湾に適用できない」と述べるにとどまり,香港および中国政府への批判を避けた。なお,11月には中国の工作員が,2018年の地方統一選挙の際,韓国瑜に資金提供したと告白した。しかし韓国瑜は「1元でも受け取ったのなら高雄市長を辞任し,総統選挙から撤退する」と疑惑を否定した。

韓国瑜は自治体首長の顔を強調するため,選挙本部を高雄に置き,当選後も高雄から台北に通勤すると公約し,また侯友宜新北市長や盧秀燕台中市長とトリオで選挙戦を行った。しかし,高雄市長としての実績不足や不手際を指摘されると,韓国瑜は「中央政府が私の邪魔をするからだ」という発言を繰り返し,有権者の心証を害した。

このほか,中国との覇権争いを意識したアメリカは蔡英文総統に好意的と思われた。その一方で,韓国瑜は多忙を理由に総統候補の慣例である訪米を見送ったが,本当の理由は対中政策をめぐるアメリカ側との立場の違いにあったと考えられる。

立法委員選挙をめぐる動き

2020年の立法委員選挙は当初,国民党が優勢か,民進党と拮抗すると見られた。また,総統選挙と異なり,6月以降も香港情勢の影響を受けなかった。しかし,11月に国民党の比例代表名簿の上位に統一派が入ると,世論の反発を受けた。第2位の葉毓蘭は元警察官で統一派の新党の党員であり,2014年のひまわり学生運動や香港の「雨傘革命」,逃亡犯条例改正反対デモにおける台湾や香港の警察による鎮圧を擁護した。また,第4位の呉斯懐は元陸軍副司令官で,2016年に中国で孫文生誕150周年記念式典に参加し,習近平国家主席の祝辞や中国の国歌を起立して聴いたため,やはり統一派と目された。

台湾民衆党は比例代表を中心に候補者を擁立し,第三勢力として2大政党の間でキャスティングボートを握ろうとした。郭台銘は同党のほか,親民党にも接近し,両方に自らの選挙陣営の要員だった人物を立法委員候補として送り込んだ。

ひまわり学生運動関係者が組織した時代力量は国民党だけでなく,民進党にも対決姿勢をとる黄国昌(3月まで党主席)の路線に,林昶佐,洪慈庸の立法委員2人が反対し,8月に離党した。この2人は立法委員選挙に無所属で立候補した。

民進党は小選挙区において時代力量を離党した林昶佐(台北5区)および洪慈庸(台中3区)や台湾基進党の陳柏惟(台中2区),無所属の趙正宇(桃園6区)のほか,民進党の公認を得ずに出馬した蘇震清(屏東2区)を支持した。7月にはひまわり学生運動の中心人物であった林飛帆が民進党副秘書長に就任した。時代力量に立場が近い社会民主党の初代主席,范雲台湾大学副教授も民進党から立法委員選挙(比例代表)に出馬した。

中国の浸透工作への対応

蔡英文総統は3月11日に国家安全会議を招集して,「一国二制度台湾実施案への対応,対抗ガイドライン」(因應及反制「一国両制臺灣方案」指導綱領)を示した。行政院(政府)はこれに関する法令を整備するため「国安5法」と命名された法改正案を提出,5月から7月の間に立法院で可決された。さらに蔡英文総統は中国を念頭に敵対する国や勢力による国内への浸透工作を取り締まる法令整備を指示した。これは反浸透法として12月31日に立法院で可決された(表3)。

表3  国安5法と反浸透法の概要

(出所)筆者作成。

これらの法案は,国民党が陳水扁政権期に行ったような,政府の委託を受けずに中国側と交渉することや,その工作機関と接触することを処罰の対象とした。そのため,国民党は自らや中国に進出した企業関係者が今後,処罰される可能性が出てくるとして,反対した。

また11月には中国の工作員を名乗ってオーストラリア当局に投降した王立強が2018年11月の統一地方選挙で国民党候補に資金提供するなど,台湾での統一工作にも関与したと告白した。法務部調査局は王立強が工作員と指摘した人物を桃園空港から出国する間際に拘束した。12月には台北地検が,違法に中国の公務員への台湾旅行を手配した旅行会社6社を家宅捜索した。その中には外省人系の暴力団,竹聯幇の元幹部で,中華統一促進党の張安楽主席の関係会社も含まれた。

(竹内)

経 済

マクロ経済の概況

2019年の実質経済成長率は2.71%(速報値)であった。四半期ごとの成長率(前年同期比)をみると,第1四半期1.84%,第2四半期2.60%,第3四半期3.03%,第4四半期3.31%であった。経済成長の要因には,財・サービス輸出の実質成長率が前年比で1.24%であった一方,民間消費の成長率が前年比2.13%,また総資本形成の成長率が前年比5.36%と内需が堅調に推移したことがあげられる。総資本形成のなかでも,固定資本形成が民間投資9.61%,政府投資9.38%といずれも高い成長であった。民間投資では,半導体企業による機械設備への投資が高い成長の主因となった。また,政府投資では蔡英文政権が実施しているインフラ整備の前瞻基礎建設計画への投資が堅調に進んだ。その結果,固定資本形成全体では9.13%と大きく成長し,経済成長に貢献した。

税関統計に基づく財貿易については,輸出総額が前年比1.4%減の3292億ドル,輸入総額が同0.3%増の2857億ドルであった。輸出先上位3カ国・地域は中国,アメリカ,香港であり,主要輸出品は電子部品1125億ドル,情報機器426億ドル,機械類235億ドルであった。中国への輸出は前年比で4.9%減の918億1734万ドルであった一方,アメリカへの輸出は前年比で17.1%増加し,過去最高額の462億4285万ドルであった。一方,輸入元上位3カ国は中国,日本,アメリカであり,主要輸入品は電子部品595億ドル,機械類343億ドル,原油213億ドルであった。

米中貿易摩擦の影響と投資促進プログラム

米中貿易摩擦は台湾企業に影響を与えた。この背景には,アメリカ側の貿易収支の不均衡に対する不満,また急速に技術力を有するようになった中国への警戒心がある。アメリカ政府は2019年5月に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を事実上の禁輸リスト(エンティティー・リスト:EL)に加えた。また,アメリカ政府はファーウェイの通信機器に対する懸念から,半導体を供給している台湾積体電路製造(TSMC)に対してファーウェイへの出荷を停止するように求めたことが報道された(Financial Times,2019年11月4日付)。TSMC側はこの報道に対して明確に否定した(『中國時報』2019年11月5日付)。

台湾企業は電子機器産業を中心に顧客から部品や製品の受託生産を請け負い,生産自体は中国で行っていることが多い。中国で生産された製品がアメリカの対中制裁関税の対象になった場合,企業側は関税の負担をしなければならず,中国からアメリカへの輸出環境が大きく変化する。そのため,一部企業では自主判断だけではなく,顧客からの要請もあって生産拠点を中国だけに依存せず,東南アジアなど他地域への分散化を進めた。電子機器分野で世界第2位の受託製造企業であり,Apple製品の組み立てを行うペガトロン社(和碩聯合科技)がインドネシアに工場を建設,生産を開始したのはその代表例である。

こうした動きは2019年の対外投資からも明らかである。対中国投資(申告・承認ベース)は610件,41億7000万ドルであり,前年比で件数は116件(マイナス16.0%),金額は43億2464万ドル(マイナス50.9%)減少した。一方で,ASEAN(シンガポール,インドネシア,マレーシア,フィリピン,タイ,ベトナム)への投資(申告・承認ベース)は223件,22億4000万ドルであり,前年比で58件(35.2%),金額は6億8359万ドル(44.0%)増加した。

また,中国に投資をしてきた一部の台湾企業には生産拠点の分散化の一環として,台湾に回帰する形で生産拠点を設けるために投資をする動きが出た。この動きを受けて,行政院では2018年10月から11月にかけて,国家発展委員会を中心にこのような投資に対する促進策を議論し,11月29日に「Uターン投資促進プログラム」(歡迎台商回台投資行動方案)を策定した。このプログラムは2019年1月1日から2021年末の3年間限定で実施し,対象は米中貿易摩擦で影響を受けた台湾企業で,かつ中国への投資を2年以上実施している製造業企業である。また,投資を実施する場合,クラウドやAI(人工知能),IoT(モノのインターネット接続)といったスマート技術の要素や機能を備えることも必須条件とした。

この投資促進プログラムは中国への投資をしていない企業は対象外であったため,対象外の企業からは不満や要望が出た。そのため,政府は2つの投資促進プログラムを新たに作成した。ひとつは,中国への投資をしていない台湾企業を対象とした「台湾企業投資促進プログラム」(根留台湾企業加速投資行動方案)であり,もうひとつは中小企業を対象とした「中小企業向け投資促進プログラム」(中小企業加速投資行動方案)である。これらの投資促進プログラムは6月26日に行政院で決定し,2019年7月1日~2021年12月31日の2年半の期間で実施されている。なお,これらの投資促進プログラムではサービス業企業も対象となっている。

以上3つの投資促進プログラムを申請する場合,製造業では蔡英文政権が進めるスマート機械など5プラス2イノベーション政策の対象になっていることなどの条件を満たす必要がある。また,サービス業でも投資内容が台湾の重要産業政策と関連し,スマート技術を備えることを条件とした。これら3つの投資促進プログラムの支援内容は,用地の確保,迅速な融資実施,税金の優遇や支援,安定した水および電気の供給の4分野であり,基本的に共通している。Uターン投資促進プログラムの場合には,これら4分野に人材の確保が加わる。

2019年に認可された企業数などは表4のとおりである。表から明らかなように,Uターン投資促進プログラムの認可企業数,投資金額,就業機会数はほかの2投資促進プログラムを大きく上回った。政府の目標は,3投資促進プログラム合計で投資額1兆1750億元,産出額3兆1600億元,就業機会10万4000件となっている。初年度に300社を超える企業がこれらの投資促進プログラムに申請した結果,2019年の1年間で認可を受けた投資総額は8424億元,就業機会は7万件近くとなった。今後は認可を受けた投資が実際に行われる段階に入り,台湾経済をけん引する役割を担うことになろう。

表4  投資促進プログラムの認可状況(2019年12月末現在)

(出所)投資臺灣事務所ウェブサイト(https://investtaiwan.nat.gov.tw/)より筆者作成。

人手不足と相次いだ大規模解雇

経済が堅調に成長し,また先述の投資促進プログラムが実施されたこともあり,製造業を中心に一部業種では人手不足が生じた。半年ごとに公表されている業種別欠員者数を見ると,2019年下半期における欠員者数は22万1441人,上位3業種の内訳は製造業7万9482人,小売・卸売業3万8155人,宿泊・飲食業1万8641人であり,これら業種で全体の61.5%を占めた。

しかし,人手不足の動きが見られた一方,2019年は事業不振などの理由で従業員の解雇が相次いだ年でもあった。1971年に設立された中華映管は元々テレビのブラウン管,その後液晶パネルを製造していたが,中国メーカーとの価格競争に敗れ債務超過に陥り,2019年5月に上場廃止となり,2500人を解雇した。その後も操業は続けたが,受注がなく8月30日に操業停止を発表した。董事会(取締役会)は9月19日に破産申し立てを裁判所に行うことを決議した。この破産によって,残った従業員1900人も11月に解雇された。

また,太陽電池関連では,中国政府が2018年6月に太陽光発電への補助金削減を実施したこと,中国のメーカーの増産によって供給過剰になったこともあり,中国市場向け価格が大幅に下落した。その結果,事業の縮小や撤退を余儀なくされ,人員の整理が行われた。さらに,サービス業に関しても中国政府が2019年8月1日から台湾への個人旅行許可証の発給停止,団体旅行客の1日あたりの上限を下げたことによって,観光業などが打撃を受け,ホテルの閉鎖などの動きがあった。

統計が公表されている2013年以降,労働部に通報があった2019年の解雇件数は209件で最少であった一方,解雇者数は2015年の1万6670人に次ぐ1万5630人であった。工場閉鎖・移転,損失計上,業務縮小などが解雇のおもな理由である。業種別では製造業61社,卸売・小売業51社,ホテル・飲食業32社であった。また,1件の解雇人数が500人を超えるものが10件あり,計7849人が解雇され,このような大規模な解雇は過去最多となった。このうち,2件は中華映管による解雇であった。

組合運動と2大航空会社でのストライキ

2019年には台湾の2大航空会社で労働組合が待遇改善を求めてストライキを起こした。このストライキは,旅行業界だけではなく,今後の組合運動にも影響を与えることとなった。ストライキが決行された背景には,2016年6月にチャイナエアライン(中華航空)のキャビンアテンダントが加入する職能別組合(CA組合)が航空業界初のストライキを決行し,最終的には組合側が有利な形で待遇改善を獲得したことがあげられる。これを受けて,チャイナエアラインのパイロットが加入する職能別組合(パイロット組合)では2019年2月に長距離飛行における人員増強などを求め,またCA組合に加盟するエバー航空(長榮航空)のキャビンアテンダント部会も2019年6月に旅行手当の増額などを求め,それぞれストライキを決行した。

ストライキの決行で問題になったのは,ストライキの事前通告の時期であった。チャイナエアラインのストライキは繁忙期にあたる春節休暇の終盤に,またエバー航空のストライキは労使交渉の決裂からわずか2時間後に決行されたこともあり,乗客は予定していた航空機に搭乗できないなど混乱した。そのため,これらのストライキの対応に追われた業界団体である中華民国旅行商業同業公会全国連合会は組合側を批判し,ほかの経済団体も航空業の公共性に鑑みて少なくとも事前に30日間のスト予告期間を置くべきと主張した。ストライキ終結後の7月29日には,労働部は航空業界の労使代表者や関係団体,交通部などと民間航空業の労働争議に関するフォーラムを開催した。労働部や交通部は航空業界におけるストライキの事前予告制度の導入を支持しており,今後ストライキの事前通告制度が導入される可能性がある。

もうひとつの問題は,将来におけるストライキの制限である。労使双方による合意の際に,経営側が不当労働行為を行わないかぎり,パイロット組合はチャイナエアラインと今後3年間,CA組合はエバー航空と今後3年半,それぞれストライキを実施しないことでも合意した。この合意はストライキ行使権への制限でもあり,今後の組合活動や労使交渉に何らかの影響を及ぼすと考えられる。

(池上)

対外関係

緊張高まる中国との関係

蔡英文総統は就任以来,中国を刺激することを避けてきた。しかし,1月1日の新年談話では台湾を「中華民国という主権国家」と考える立場から,中国に「4つの必須」事項を要求し,また「3つの防御網」を構築する方針を表明した(表5)。

表5  蔡英文総統の「4つの必須」と「3つの防御網」の内容

(注)各項目の番号は,言及された順に筆者が付加。

(出所)筆者作成。

一方,中国では1月2日に習近平国家主席が「台湾同胞に告げる書40周年講話」のなかで,「一国二制度台湾実施案」を検討すると述べた。3月1日には中国の政策に影響力を持つ王英津中国人民大学教授がその1案として,台湾から軍事力や一切の外交権限,南シナ海にある離島の統治権を剥奪するという,従来の方針よりもさらに強硬な案を提言した。これらの発言に対して,蔡英文総統は1月2日に改めて「一国二制度」を受け入れないと表明し,また,3月11日には国家安全会議を招集し,「一国二制度台湾実施案」への対応策(「国内政治」参照)を発表した。

6月2日には中国の魏鳳和国防相が台湾に対して「独立するなら,中国軍は武力行使を辞さない」と発言した。これに対し,台湾の大陸委員会は「平和や国際秩序の破壊は容認できない」と反発した。

9月には中国がソロモン諸島,キリバスとの外交関係を相次いで樹立し,両国に台湾との関係を断絶させ,台湾ではすべての外交関係を中国に奪われるとの懸念が広がった。蔡英文総統は9月25日に国家安全会議を招集し,中国の動きを予想した機密報告書の要約を公表した。この報告書は中国の動きを軍事と情報戦を併用して総統選挙への介入を試みる「ハイブリッドの脅威」であると指摘した。これはロシアがクリミア併合時に行った「ハイブリッド戦争」に類する用語である。

11月4日には中国の国務院台湾事務弁公室と国務院発展改革委員会が「両岸経済文化交流協力を促進する若干の措置」(台湾優遇26カ条の措置)を発表した。2018年の「31カ条の措置」に続き,台湾企業や中国で就業,起業する台湾人への内国待遇のほか,第三国での中国の在外公館による台湾人への領事保護をうたった。台湾の外交部や大陸委員会はとくに後者を主権侵害であると非難した。

軍事面では,3月31日に中国の殲11(J-11)戦闘機2機が台湾海峡中間線を越え,台湾の戦闘機が緊急発進した。この中間線は台湾側が主張するものに過ぎないが,中国側がこれを越えることは2011年以来7年間なかった。11月17日には中国海軍2隻目の空母が台湾海峡を南下,海南島に向かい,12月17日に就役して「山東」と名付けられた。同空母は帰路26日に台湾海峡を北上した。

台湾への関与を強めるアメリカ

アメリカは増大する中国の脅威から台湾を守るため,台湾への軍事的関与を強めた。アメリカ海軍艦艇は2019年中,6月,10月,12月を除き,月1回の頻度で計9回台湾海峡を通過した。アメリカ空軍のMC-130J特殊作戦機(8月と9月),フランス(4月)やイギリス(12月)の海軍艦艇も台湾海峡を通過した。7月にはM1A2戦車108輌(約20億ドル),8月にはF-16V戦闘機66機(約80億ドル)を台湾に売却することも決定された。

政治面でも,アメリカは台湾を重視する姿勢を見せた。2月13日には,インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が「習近平主席の『一国二制度』は台湾海峡両岸の意向を反映していない」と1月の習近平講話を批判した。3月には蔡英文総統が外訪途中でハワイ州緊急事態管理局(HI-EMA)を訪問し,HI-EMA長官とハワイ州兵長官を兼務するアーサー・ローガン少将が出迎えた。

中国軍機の台湾海峡中間線越え(3月31日)に対してアメリカの国務省や国防総省は「現状維持に対する一方的な挑発」と批判し,ジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官も「台湾人民は挑発に屈しない」と中国をけん制した(4月1日)。4月3日にはアメリカ在台湾協会(AIT)台北事務所が,2005年以降,駐在武官にあたる現役軍人が駐在していることを認めた。5月には訪米した李大維国家安全会議秘書長がボルトン大統領補佐官と会談し,1979年の断交以来,最高レベルの米台政府高官の接触となった。

2019年はアメリカの台湾政策を規定する台湾関係法の制定40周年であった。5月9日にアメリカ議会議事堂で駐米台北経済文化代表処が主催する「台湾関係法40周年祝賀会」が行われ,親台派の議員だけでなく,ナンシー・ペロシ下院議長も出席した。25日には台湾側の窓口機関,北米事務委員会の名称が,台湾米国事務委員会に変更された。

太平洋諸国,バチカンとの関係

中国は台湾と国交を持つ太平洋諸国に外交攻勢を仕掛けたが,アメリカは中国が太平洋上に軍港やミサイル追跡施設を設置することを恐れ,台湾側を支援した。

2月21日に台湾と国交を持つパラオ,マーシャル諸島,ナウル,キリバスの4カ国とミクロネシア連邦の首脳らが「ミクロネシア大統領サミット」(MPS)を開催し,親中的な姿勢が目立った太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局(『アジア動向年報2019』を参照)に台湾への公平な扱いを求める声明を採択した。マイク・ポンペオ米国務長官はMPS参加国と台湾の関係を評価するメッセージを寄せた。

5月のボルトン・李会談ではパラオ,マーシャル諸島関係者を交えた会合も開かれた。しかし,ソロモン諸島では4月に就任したソガバレ首相が中国に接近していた。アメリカのペンス副大統領は9月に訪米した同首相と会談し,台湾との関係維持を求める予定であったが,その直前の9月16日に中国と関係を樹立し,会談も中止された。4日後(20日)にはキリバスもこれに続いた。これに伴い,両国と台湾の外交関係は断絶した。

バチカンは中国国内のカトリック教会の扱いをめぐる中国との合意(2018年)後,台湾との断交が懸念されている。カトリック教徒である陳建仁副総統は2018年に続き,同国を訪問(10月10~15日)してカトリック教会の列聖式に出席し,ローマ教皇フランシスコに来訪を要請した(13日)。教皇は来訪を見送ったが,11月の訪日直前に台湾上空の搭乗機から蔡英文総統と電報で挨拶を交わした(23日)。

香港の逃亡犯条例問題

香港の逃亡犯条例改正の発端は,2018年2月に台湾を旅行中に香港人男性(以下,「容疑者」)が交際相手の香港人女性を殺害した事件であった。香港政府は2019年2月12日に台湾を含む「中国国内の他地方」を対象外とする逃亡犯条例を改正し,「容疑者」を台湾に引き渡す方針を示した。

香港の運動家,黄之鋒は「同改正案が成立すれば,香港を訪れた台湾人も中国に移送される恐れがある」と台湾側の関心を喚起し(2月15日),台湾では黄国昌立法委員がこの問題を立法院で取り上げた。大陸委員会の邱垂正副主任委員は同条例を改正せず,政府間の司法協力による事件の処理を提案したが,香港政府に無視されたと答弁した(同月21日)。

6月9日に香港で大規模な同改正案反対運動が起きると,蔡英文総統は同日中に支持を表明した。13日には蔡英文総統が談話を発表し,12日の香港警察による反対デモへの鎮圧を「暴力」と非難し,同改正案については中華民国の主権や人権の侵害にあたると批判した。同日,邱垂正大陸委員会副主任委員は同改正案が成立した場合,香港人の亡命を個別に検討すると述べた。なお,4月25日には香港で中国に批判的な出版物を扱っていた銅鑼湾書店の林栄基・元店長が事実上台湾に亡命した。

10月18日,香港政府は「容疑者」を釈放し,台湾での「自首」を勧める意向を示した。しかし,台湾の大陸委員会は香港政府が台湾の捜査員による香港での身柄引き取りを拒否したことや,容疑者を拘束せずに飛行機に搭乗させるとの考えを「無責任」と非難した(20日)。23日に「容疑者」が釈放されると,蔡英文総統や蘇貞昌行政長は「容疑者」が台湾に来る場合,通常の入国や「自首」を認めず,到着直後に逮捕する方針を示した。

日本との関係

日本もアメリカに歩調を合わせ,台湾への関与を強めた。日本側の対台湾窓口機関である日本台湾交流協会(以下,日台交流協会)は台湾とソロモン諸島やキリバスの断交に「遺憾の意」を示した。日米が台湾の国際的地位を擁護したのは2007年に国連事務局が陳水扁政権による国連加盟申請を却下した際の「台湾問題は解決済み」との見解に反論して以来である(『アジア動向年報2008』を参照)。

また,アメリカの窓口機関AITが台湾外交を支援するために立ち上げた「グローバル協力・訓練枠組み」(GCTF)に,3月の「官民汚職撲滅研修会」より日台交流協会が参加しはじめた。これはGCTFとしても初の第三国の参加となった。10月7日にAITが台湾と太平洋諸国の関係維持を促すために開催した「太平洋対話」にも,日台交流協会はオーストラリア,ニュージーランドの窓口機関と並んで参加した。なお,同月24日には沼田幹夫日台交流協会台北事務所代表が退任し,後任には泉裕泰・前駐バングラデシュ大使が就いた。

(竹内)

2020年の課題

1月11日は総統選挙,立法委員選挙の投開票日であった。蔡英文総統が圧勝したほか,立法委員選挙でも与党民進党が立法院の過半数を占めた。国民党側では呉敦義・同党主席が引責辞任したほか,落選した韓国瑜高雄市長の罷免要求運動も展開されている。

行政院主計総処は2020年2月12日,2020年の経済成長率を2.37%,消費者物価指数の上昇率を0.62%とする予測を公表した。半導体事業における投資の継続,台湾企業による回帰投資の事業開始,第5世代移動通信システム(5G)の整備などによって民間投資が堅調に成長すると予測している。

中国で発生した新型コロナウイルス感染症の流行により,台湾政府は2月5日に中国本土への渡航を4段階で最も高いレベルに引き上げて,渡航中止勧告措置をとった。この背景には2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験や,すでに中国との関係が冷え切り,人の往来が減少していたという事情もある。新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延によって,経済の状況は行政院主計総処の予測公表後に大きく変化した。中央銀行は3月19日に経済成長率1.92%の予測値を公表した。また,3月26日には陳美伶国家発展委員会主任委員(大臣)が立法院経済委員会での質疑で,新型コロナウイルス感染症の状況が6月まで続けば台湾の経済成長率は0.66ポイントから1.40ポイント引き下がると発言した。IMFが4月14日に公表したWorld Economic Outlookでは,台湾の経済成長率はマイナス4.0%の予測値となった。台湾経済が大きな影響を受けることは間違いなく,経済成長率も2月予測値よりも大きく下がることが考えられる。

新型コロナウイルス感染症への対策として,行政院は2月13日にこの感染症の防止策を強化する特別法案を策定することを決定した。立法院は同月25日にこの法案を通過させ,蔡英文総統は同日にこの特別法に署名して公布した。この法律には観光業など影響が大きい産業を下支えするために600億元を上限とした予算編成も含まれ,この予算案は3月13日に立法院を通過した。

対外関係については,蔡英文総統の再選に伴い,アメリカとは今後も関係強化が進むとみられる。そのため,台湾と中国の緊張度は今後,さらに高まる可能性が高い。また新型コロナウイルス感染症の流行が米中の覇権争いに与える影響も台湾にとっては大きな関心事項である。

(竹内:地域研究センター)(池上:開発研究センター)

重要日誌 台湾 2019年
   1月
1日蔡英文総統,新年談話を発表。
1日U ターン投資促進プログラム運用開始。
2日中国の習近平国家主席,「台湾同胞に告げる書40周年記念講和」で「一国二制度」の台湾実施案の検討に言及。蔡英文総統,台湾世論は受け入れないと批判。
4日憲法訴訟法,施行。憲法訴訟を非公開の会議から,公開法廷方式へ変更。
6日民進党主席選挙で,卓栄泰・前行政院秘書長が当選。9日に就任。
11日頼清徳行政院長,辞意表明。
14日第2次蘇貞昌内閣発足。蘇貞昌行政院長,陳其邁同副院長ら就任。
24日米海軍イージス駆逐艦マッキャンベルと補給艦ウォルター・S・ディール,台湾海峡を通過。
24日経済部,消費喚起のためエアコンと冷蔵庫の省エネ機種への買い替えに補助金支給。
27日立法委員補欠選挙投開票。台北第2区は民進党,台中第5区は国民党候補が勝利。
31日経済部,脱原発政策の実質継続決定。
   2月
1日蔡政権,2025年脱原発達成目標の堅持決定。
6日高碩泰駐米代表,アメリカ国務省主催の対IS有志連合の閣僚級会合に出席。
8日チャイナエアラインのパイロットが加入する組合,スト発動(~14日)。
13日フィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官,習近平中国国家主席による「一国二制度台湾実施案」への言及を批判。
21日ポンペオ米国務長官,ミクロネシア大統領サミットにメッセージ参加。
21日労働部,育児休暇の夫婦同時取得を,3歳未満の子供2人以上で認める解釈発表。
21日邱垂正大陸委員会副主任委員,香港の逃亡犯条例改正を批判。
25日米海軍イージス駆逐艦ステザムと補給艦セザール・チャベス,台湾海峡を通過。
   3月
1日中国人民大学教授の王英津,台湾への香港型の「一国二制度」適用を提案。
11日蔡英文総統,中国の「一国二制度の台湾実施案」に関する国家安全会議を招集。
11日アメリカのサミュエル・ブラウンバック宗教の自由担当大使,蔡英文総統および陳建仁副総統と会談。
14日交通部民用航空局,ボーイング737MAXの飛行および領空通過禁止の通知。
16日立法委員補欠選挙投開票。新北第3区と台南第2区は民進党,彰化第1区は国民党,金門は無所属候補が勝利。
19日中央選挙委員会,総統選挙,立法院選挙の投開票日を2020年1月11日に決定。
21日蔡英文総統,外訪(~28日)。パラオのトミー・レメンゲサウ大統領(22日),ナウルのバロン・ワカ大統領(25日),マーシャル諸島のヒルダ・ハイネ大統領(26日)と会談。帰路,ハワイに立ち寄り。
21日日本台湾交流協会,日台ワーキングホリデー制度のビザ発給枠を1万人に拡大発表。
22日韓国瑜高雄市長,香港,マカオ,中国の深圳および厦門を訪問(~28日)。
24日米海軍イージス駆逐艦カーティス・ウィルバーと米沿岸警備隊カッター(警備艦)バーソルフ,台湾海峡を通過。
26日米国在台湾協会(AIT),米台「グローバル協力・訓練枠組み」(GCTF)官民汚職撲滅研修会を開催。日台交流協会台北事務所沼田代表も出席。日本のGCTF参加は初。
31日中国の殲11(J-11)戦闘機2機,台湾海峡中間線を越え,10分間飛行。
   4月
1日AIT,アメリカ国務省,国防総省,3月31日の中国軍機による挑発を非難。
3日AIT,事実上の駐在武官の存在を認める。4日,中国外交部が反発。
6日フランス海軍のフリゲート,ヴァンデミエールが6日に台湾海峡を通過。
10日第8回日台漁業委員会,東京で開催。
10日鴻海精密工業の郭台銘董事長(会長),総統選挙出馬を表明。国民党,郭台銘の財政貢献を表彰し,現役の党員と認める(17日)。
25日香港の銅鑼湾書店の林栄基・元店長,台湾へ政治亡命。
27日米海軍イージス艦ステザムとW・P・ローレンス,台湾海峡を通過(~28日)。
30日グアテマラのモラレス大統領,来訪(~5月3日)。蔡英文総統と会談。
30日米議会上院,台湾関係法再確認決議を採択。5月1日,台湾外交部,謝意を表明。
   5月
5日仮釈放中の陳水扁・元総統,回顧録の出版発表会に出席。
7日立法院,国家機密保護法修正案を可決。機密に触れた人物の外国渡航制限を厳格化。また,電業法改正案を可決。2025年脱原発の条文を前年の住民投票結果に基づき削除。
7日アメリカ議会下院,2019年台湾保証法を可決。
8日台湾の国際合作発展基金会,アメリカの海外民間投資公社,パラグアイのBanco Regionalの3機関,借款契約および協力覚書に調印。初の米台共同の援助案件。
8日頼清徳・前行政院長,訪日(~12日)。
9日駐米台北経済文化代表処,台湾関係法40周年祝賀会を米議会議事堂で開催。
10日蔡英文総統,国家安全高層会議を招集。米中貿易摩擦への対応を協議。
12日蔡英文総統,中国によるメディアへの圧力を批判。
13日李大維国家安全会議秘書長,訪米(~21日)。ボルトン国家安保担当大統領補佐官と会談(日程不明)。
17日立法院,同性婚特別法(司法院釋字第七四八號解釋施行法)を可決。24日に施行。
18日中国人民主活動団体「華人民主書院」と香港の民主派による「市民愛国民主運動支援連合会」,1989年の天安門事件に関するシンポジウムを台北で開催。
21日日本政府,春の叙勲で,新光呉火獅記念医院董事長の呉東進氏に旭日中綬章,翻訳家の李英茂氏に旭日双光章を授与。
22日米海軍イージス駆逐艦プレブルと補給艦W・S・ディール,台湾海峡を通過(~23日)。
23日柯文哲台北市長,訪日(~26日)。
25日北米事務協調委員会,台湾米国事務委員会に改名。
27日漢光35号演習実弾演習(~31日)。
27日蔡英文総統,司法院大法官候補4人を指名。
29日中国軍のY8電子戦機,台湾東部沖を飛行。漢光35号演習を偵察か。
31日立法院,両岸人民関係条例第5条3項修正案を可決。中国との政治協議に憲法改正より厳しい手続きを定める。
   6月
1日アメリカ国防総省のインド太平洋戦略報告,台湾など4カ「国」との関係強化に言及。
2日中国の魏鳳和国防相,台湾独立への武力行使に言及。大陸委員会,国防部,反発。
4日中正記念堂・自由広場で中国の1989年天安門事件追悼集会,開催。陳建仁副総統,頼清徳・前行政院長が参加。
6日台湾米国事務委員会の看板掲揚式,蔡英文総統,クリステンセンAIT台北事務処長らが出席。
9日蔡英文総統,逃亡犯条例改正案に反対するデモを支持。
13日民進党,総統選挙での公認を決める世論調査結果を発表。蔡英文総統が内定。
13日蔡英文総統,談話を発表。香港政府の逃亡犯条例改正案と香港警察の鎮圧を非難。
13日邱垂正大陸委員会副主任委員,香港から政治亡命の受け入れの可能性に言及。
19日立法院,国家安全法改正案を可決。サイバー攻撃,公務員の利敵行為への対策。
20日エバー航空客室乗務員が加入する組合,スト決行。7月6日に労使合意,同月10日終了。
21日郭台銘・鴻海精密工業董事長,退任。
26日行政院,台湾企業投資促進プログラムおよび中小企業向け投資促進プログラムを決定,7月1日から運用開始。
27日立法院,司法院大法官4人の人事案を承認。
   7月
1日立法院,所得税法改正案可決。家族介護に年12万元の特別控除可能に。
3日立法院,両岸人民関係条例第9条,第91条改正案を可決。公務員の中国渡航や中国の政治活動への参加に関する規制を強化。
4日蔡英文総統,中国の統一戦線工作への加担者を処罰する法律の制定に言及。
8日アメリカ国務省,M1A2戦車の台湾への売却を議会に通告。
11日蔡英文総統,外訪(~22日)。往路,ニューヨークに立ち寄り(12~14日)。ハイチ(14日),セントクリストファーネビス(14~16日),セントビンセント・グレナディーン(16~17日),セントシア(17~19日)を訪問。帰路,デンバーに立ち寄り(19~21日)。
12日時代力量の黄国昌立法委員,総統の外訪に随行した侍衛官(軍人)によるタバコ密輸入疑惑を法務部調査局に告発。
12日行政院原子能委員会,台電第1原発の廃炉許可。
15日国民党,総統選挙公認候補選出のための世論調査結果を公表。韓国瑜の公認が内定。28日の同党全国代表大会で正式決定。
22日法務部調査局,密輸容疑の侍衛官を逮捕。彭勝竹国家安全局長,引責辞任(23日)。
23日邱国正国軍退除役官兵輔導委員会主任委員,退任。国家安全局長に就任(24日)。
24日米海軍のイージス巡洋艦アンティターム,台湾海峡を通過(~25日)。
31日中国,台湾への個人観光旅行を禁止。
31日ネット専業銀行3行,設立認可。
   8月
6日柯文哲台北市長,台湾民衆党を結成。
15日台湾へのF-16V売却が承認されたとの報道。20日,アメリカ国務省が議会に通知。
17日1983年に鄧小平の「和平統一構想」を初めて聞いた在米の楊力宇シートンホール大学名誉教授,死去。中国の国務院台湾事務弁公室(中国国台弁)が追悼の意を表明。
23日米海軍のドッグ型揚陸艦グリーン・ベイ,台湾海峡を通過(~24日)。
29日米空軍MC-130J特殊作戦機,台湾海峡を通過。
29日中華映管,董事会で全従業員2100人の解雇を決定。
   9月
10日蘇貞昌行政院長,台高鉄(幹線)の屏東延伸を宣言。
12日郭台銘,国民党を離党すると表明。
16日ソロモン諸島,中国と関係樹立,台湾と断交。17日,アメリカ,日本が遺憾表明。
20日キリバス,中国と関係樹立,台湾と断交。アメリカ,日本が遺憾の意を表明。
20日米海軍イージス巡洋艦アンティターム,台湾海峡を通過。
20日左派独立運動家で,総統府資政(上級顧問)の史明,死去。蔡英文総統,追悼の意を表明(21日)。
25日蔡英文総統,国家安全会議を招集。中国側の動きを予想した機密報告を一部公開。
26日米空軍MC-130J特殊作戦機,台湾海峡を通過(同型機として2回目)。
  10月
3日第5世代移動通信システム(5G)入札締め切り,5社書類提出。
7日外交部とAIT,「太平洋対話」を開催。
7日チェコのプラハ市,「一つの中国」条項の是正を拒んだ北京市との姉妹都市協定を破棄。
10日陳建仁副総統,バチカン訪問(~15日)。ローマ教皇フランシスコと面会(13日)。
14日ジェームス・モリアーティAIT理事長,来訪(~19日)。蔡英文総統(16日),韓国瑜高雄市長(18日)と会談。
18日香港政府,逃亡犯条例改正の発端となった殺人犯に台湾で自首を促す意向を示す。
20日宜蘭の連絡橋崩壊,6人死亡,10人負傷。
24日日台交流協会の沼田幹夫台北事務所代表,退任。後任には泉裕泰・前駐バングラデシュ大使(11月1日着任)。
26日台北でLGBTQパレード,過去最多の20万人(主催者発表)参加。
29日第44回日台貿易経済会議,開催(~30日)。特許審査迅速化などの覚書を締結。
31日交通部台湾鉄路管理局,2018年10月のピュマ号脱線事故に関し,住友商事と台湾住友商事に6億元余りの損害賠償請求の提訴を発表。
  11月
3日日本政府,秋の叙勲で林伯豊台湾ガラス工業董事長に旭日重光章,彭誠浩アジア野球連盟会長に旭日小綬章,薛光豊台湾国際教育旅行連盟総会長に旭日双光章を授与。
4日中国国台弁,発展改革委員会,「両岸経済文化交流協力を促進する若干の措置」(台湾優遇26条の措置)を発表。呉釗燮外交部長や大陸委員会,これを主権侵害と批判。
5日米軍MC-130J特殊作戦機,台湾海峡上空を飛行(本年3回目)。
6日頂新集団による食用油偽装事件,元董事長の有罪確定。
11日国民党の韓国瑜候補,張善政・元行政院長を副総統候補に指名。
12日米海軍イージス巡洋艦チャンセラーズビル,台湾海峡を通過。
13日香港から台湾人留学生が一斉帰国。
13日宋楚瑜親民党主席,総統選挙へ出馬表明。
17日蔡英文総統,頼清徳・前行政院長を副総統候補に指名。
17日中国海軍2隻目の空母,台湾海峡を通過。
23日蔡英文総統,ローマ教皇フランシスコと電報でメッセージを交換。
24日法務部調査局,中国の「現地工作員」と指摘された人物の出国を阻止。
28日パナソニック,半導体部門を新唐科技に2.5億ドルで売却。
  12月
7日英海軍測量船エンタープライズ,台湾海峡を通過。
9日訪台日本人,初の200万人突破。
12日遠東航空,資金不足を理由に翌日から全線運航停止を決定。
17日台北地検,中国の公務員の台湾旅行を違法に手配した旅行会社6社を家宅捜索。
18日アメリカ議会上院,国防授権法を可決。中国による総統選挙介入への監視を要求。
18日ベトナムとの投資協定,改定。
25日台北市議会,プラハ市との姉妹協定を承認。
26日中国軍空母「山東」,台湾海峡を通過。
28日陳建仁副総統,パラオ訪問(~30日)。
31日立法院,反浸透法案を可決。

参考資料 台湾 2019年
①  国家機構図(2019年12月末現在)

(注)1)「山地原住民区」のみ例外として,「地方自治団体」とされ,また「区民代表会」が設置される。

(出所)行政院( http://www.ey.gov.tw/),監察院( http://www.cy.gov.tw/)および司法院( http://www.judicial.gov.tw/)ウェブサイトを参照。

②  国家機関要人名簿(2019年12月末現在)

(注)1)*は女性。

   2)下線は行政院会議での議決権を持つ。

   3)点下線ほか,6直轄市の市長が閣議に列席可能。

③  主要政党要職名簿(2019年12月末現在)
④  台湾と外交関係のある国(2019年12月末現在)

(注)1)パプアニューギニア,フィジー共和国とは相互承認関係にある。ただし,パプアニューギニアは2018年2月に台湾側駐在機関の外交特権を剥奪したことから,同国が現在もそう認識しているかは不明である。

   2)1)を除き,台湾と正式に国交を締結している国は15カ国。

   3)2019年9月にソロモン諸島およびキリバスと断交した。

主要統計 台湾 2019年
1  基礎統計

(出所)内政部戸政司全球資訊網(http://www.ris.gov.tw/app/portal/346),行政院主計総処ウェブサイト(http://www.dgbas.gov.tw/),中央銀行ウェブサイト(http://www.cbc.gov.tw/)。

2  支出別国内総生産および国民総所得(名目価格)

(注)2013年~2018年は修正値。2019年は暫定値。

(出所)行政院主計総処ウェブサイト( http://www.dgbas.gov.tw/)。

3  産業別国内総生産(実質:2016年価格)

(注)基準年変更のため,2013~2018年は修正値。2019年は暫定値。

(出所)表2に同じ。

4  国・地域別財貿易

(注)2016~2018年は修正値。2019年は暫定値。

(出所)財政部ウェブサイト( http://www.mof.gov.tw/)。

5  国際収支

(注)2013~2018年は修正値。2019年は暫定値。

(出所)中央銀行ウェブサイト( http://www.cbc.gov.tw/)。

6  中央政府財政(決算ベース)

(注)2019年と2020年は法定予算。歳入および歳出には中央政府債発行に伴う収入と償却費が含まれないため,歳入と歳出は一致しない。債務費は中央政府債の利子支払いである。

(出所)表2に同じ。

7  産業別対中投資

(注)承認ベース。

(出所)経済部投資審議委員会ウェブサイト( http://www.moeaic.gov.tw/)。

 
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