アジア動向年報
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
各国・地域の動向
2019年のインドネシア ジョコ・ウィドド大統領の再選
川村 晃一(かわむら こういち)濱田 美紀(はまだ みき)
著者情報
解説誌・一般情報誌 フリー HTML

2020 年 2020 巻 p. 369-398

詳細

2019年のインドネシア

概 況

2019年4月に行われた大統領選で現職大統領のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)が再選された。任期中に大きな失政もなく,支持率も高かったジョコウィが圧倒的に優位だというのが選挙前の大方の予想であったが,対抗馬のプラボウォ・スビアントが健闘し,5年前とほぼ同様の結果となった。その背景には,保守的なイスラーム教徒の有権者の票がプラボウォに流れたことがある。選挙後も政情は安定せず,選挙結果に対する反発,パプアに対する差別問題,国民を無視した国会での重要法案の可決など,理由は異なるもののデモや暴動が各地で相次いだ。政権の安定を最優先したジョコウィは,10月に発足した新内閣で,大統領選の対抗馬であるプラボウォを国防相として入閣させた。他の閣僚人事からも,ジョコウィの安定・治安重視と経済運営の継続性重視の姿勢が垣間見える。

2019年のインドネシア経済は実質国内総生産(GDP)成長率5%を辛うじて維持したが,輸出・輸入とも伸び悩み,5%を超えて浮上する力の乏しい1年であった。年前半は選挙と選挙結果を静観するため後半に伸びることが期待された投資も,前半の低調を巻き返すほどの勢いはなかった。米中貿易摩擦の影響も当初はインドネシアには恩恵があると期待されたが,実際にはプラスに働くことはなかった。一方,慢性的な経常収支の赤字の解消にむけて輸出促進の重要性がうたわれるなか,インドネシア企業の国際競争力を高めるため,国営持ち株会社の設立など国営企業の効率化が図られた。

対外関係では,海外市場獲得に向けた貿易協定の交渉が積極的に進められ,オーストラリア,チリと包括的経済連携協定(CEPA)が締結され,モザンビークとも特恵貿易協定(PTA)が締結された。またインドネシアが主導したインド太平洋に関するASEANアウトルックがASEAN首脳会議で採択された。

国内政治

大統領選挙と議会選挙の同日選挙

2019年4月に5年に1度の国政選挙が実施された。有権者数は1億9000万人以上,投票所の総数は81万カ所以上,選挙事務に従事する人員は約560万人と,インド,アメリカに次ぐ世界最大規模の選挙である。しかも今回は,議会選と大統領選が同じ日に実施された初めての選挙であった。これまでの国政選挙は,4月に議会選挙を実施し,その結果をうけて各政党が合従連衡を模索しながら大統領候補を擁立,7月に大統領選挙の第1回投票が行われていた。しかし,それを規定していた法律に対して憲法裁判所が憲法の趣旨に反していることや経済的損失などを理由に2014年1月に違憲判決を出したため,2019年は初めて議会選と大統領選が同日に実施されることになった。この同日選における投票の対象は,大統領選挙,国政レベルの下院にあたる国会(DPR)議員選挙,上院にあたる地方代表議会(DPD)議員選挙,そして地方レベルの州議会,州の1つ下の行政区分である県・市議会の各議員選挙の5つの選挙である。

4月17日に行われた投票は平穏のうちに終了した。有権者の関心も高く,投票率は79%だった。これは2014年大統領選の69.6%を10ポイント近く上回っただけでなく,最も投票率の高かった2004年大統領選第1回投票の78.2%をも上回る記録である。今回大統領選の投票率が高まったのは,投票が議会選と同日となったためだと思われる。

大統領選の結果

大統領選に立候補したのは現職のジョコウィ大統領と,元陸軍将校のプラボウォだった。これは,5年前の2014年大統領選と同じ顔合わせである。しかし,それぞれの大統領候補とペアを組む副大統領候補は,前回とは異なる人物が選ばれた。ジョコウィはイスラーム教指導者のマアルフ・アミンを,プラボウォは若手企業家で,2017年からはジャカルタ州副知事を務めていたサンディアガ・ウノをそれぞれのパートナーとして選んだ。

大統領選の公式結果が総選挙委員会(KPU)から発表されたのは,投票から1カ月以上経った2019年5月20日深夜のことであった。現職大統領のジョコウィが対抗馬のプラボウォに11ポイント,1600万票以上の差をつけ再選されたという結果であった。しかし,5年前の大統領選と比べると,ジョコウィはわずか2.4ポイントの得票率の上積みしかできなかった。任期後半には支持率が70%前後を維持し,選挙戦中もプラボウォの支持率を20ポイント以上リードしていたにもかかわらず,である。60%以上の得票率での勝利を目指していたジョコウィ陣営にとっては,決して満足のいく結果ではなかった。

プラボウォ善戦の要因は,前回大統領選における支持基盤でさらに得票が伸びたところにある。前回プラボウォが勝利した10州のうち,ゴロンタロ州を除く9州で今回もプラボウォの得票率がジョコウィを上回った。しかも,それらの多くの州でプラボウォは前回よりも得票率を伸ばしている。とくにプラボウォに対する支持が伸びたのがスマトラ島に位置する州で,島内10州のうち9州で前回より得票率が上回っただけでなく,その伸びが5ポイント以上だったところが6州にのぼった。これらプラボウォの支持基盤となった州に共通するのが,敬虔なイスラーム教徒が多く住み,保守的なイスラーム組織の影響力が強いとされる地域だという点である。ジャワ島でも,保守的なイスラーム教徒が多い西ジャワ州とバンテン州では,前回に続きプラボウォがジョコウィを得票率で上回った。

一方で,ジョコウィの勝利の鍵となったのは,まず,非イスラーム系有権者の間で大きく支持が伸びたことだった。東部インドネシア地域で非イスラーム教徒が多く住む7つの州では,ジョコウィの得票率が前回から5ポイント以上伸びた。少数派宗教や民族に属する有権者は,多宗教・多民族の共存を唱える世俗派の代表としてジョコウィに投票したとみられる。次にジョコウィ勝利の要因として挙げられるのは,中東部ジャワにある3つの州での勝利である。この地域は,住民の95%以上がイスラーム教徒であるが,どちらかというと世俗派に立場が近いイスラーム教徒が多く,前回の大統領選でもジョコウィは60%前後の得票率で勝利していた。今回ジョコウィは,これらの州でさらに10ポイント以上の得票率の上積みに成功した。3州の有権者総数は6100万人以上で,全有権者の約3分の1を占める。ジョコウィは,大票田の3州で大きく得票率を伸ばせたことで,他の地域での苦しい戦いを挽回できたのである。

それでは,なぜ2014年においても得票数でプラボウォを上回っていた東ジャワや中ジャワといった従来からの地盤でさらに票の上積みを獲得できたのであろうか。ここに,ジョコウィが副大統領候補にマアルフを選んだ効果が現れたと考えられる。この地域にはインドネシア最大のイスラーム組織ナフダトゥル・ウラマー(NU)に所属する宗教指導者が多く住んでいる。NUが自らと強いつながりのあるマアルフを当選させるために組織力を活かして票の動員を行ったことで,ジョコウィはジャワで大きく勝ち越せたとみられる。

こうしてみると,プラボウォの善戦にも,ジョコウィの勝利にも,宗教ファクターが効いていた様子がうかがえる。保守的なイスラーム教徒がプラボウォを支持するという傾向は,前回にも増して強まった。一方,イスラーム保守派の台頭を懸念する少数派宗教の有権者は,その防波堤としてジョコウィの勝利を望んだ。ただし,ジョコウィ再選の真の立役者は,やはりNUというイスラーム組織であったとみられる。

議会選の結果

議会選の公式結果も,大統領選の結果と同時に総選挙委員会から発表された。得票率でみると,ジョコウィが所属する闘争民主党が前回に続き第1位の立場を維持した。プラボウォが率いるグリンドラ党は前回より1つ順位を上げて第2位となり,第3位となったゴルカル党の得票率をわずかに上回った。前回第4位の民主主義者党は,ユドヨノ引退後の退潮を止められず,民族覚醒党,ナスデム党,福祉正義党に抜かれて第7位まで順位を下げた。国軍司令官や国防相などを歴任したウィラントが設立したハヌラ党は,党内分裂などの影響もあり,得票率が議席獲得のための最低得票率(阻止条項)である4%を大きく下回った。総選挙委員会に否定された選挙参加資格を訴訟で覆して選挙に臨んだ月星党と公正統一党も,結局は1%未満の得票率にとどまった。

議席数でみても,闘争民主党が議会第1党の地位を維持した。得票率ではグリンドラ党に抜かれたゴルカル党も,ジャワ島以外の定足数の少ない選挙区で確実に得票したことで議席数では7議席上回り,議会第2党の立場を維持した。得票率を2%あまり伸ばしたナスデム党は,前回の議会第8党から第4党に順位を大きく上げている。第5党以下は,民族覚醒党,福祉正義党,国民信託党,開発統一党とイスラーム系政党が並んだ。ここまでが今回議席を獲得できた政党である。ハヌラ党が議席を失ったことで,議会内の政党数は1つ減って9政党になった。ジョコウィを擁立した連立与党(闘争民主党,ゴルカル党,民族覚醒党,ナスデム党,開発統一党)は国会議席の6割を占めることに成功した。

今回の議会選の特徴の1つは,4ポイント近く得票率を落として議席を失ったハヌラ党を除き,既存政党の得票率が前回とほとんど変わらなかったことである。闘争民主党は,ジョコウィ政権の与党第1党として24%の得票率を目標にしていたが,前回の得票率並みの19%に終わった。他の政党も,得票率の増減はいずれも数ポイントにとどまっている。議席獲得政党の顔ぶれもほぼ同じである。

今回は新党の躍進もなかった。2019年の総選挙で初めて国政選挙に挑戦したのは4政党あったが,いずれの政党も得票率3%未満しか達成できず,阻止条項をクリアできなかったために国会への進出を果たすことはできなかった。ユドヨノを担いだ民主主義者党やプラボウォのグリンドラ党のように,これまでの選挙で新党の躍進を可能にしていたのは,有力な政治家が大統領選への立候補の足掛かりとして設立した個人政党に有権者の支持が集まったからであった。しかし,2019年の大統領選は2014年の大統領選と同じ候補者同士の戦いとなったため,新党が参入する余地がきわめて小さかったと言える。その結果,これまで選挙の度に大きく変動していた政党数が,今回はほとんど変化しなかった。

政権発足前の混乱

5月21日に総選挙委員会から「ジョコウィ当選」の公式結果が発表されると,野党支持者は投開票に多数の不正があったとしてこれを認めず,ジャカルタ中心部の街頭で大規模なデモを組織し,一部が暴徒化した。選挙結果を力で覆そうという動きが表面化したのは民主化後初めてのことである。

これに対して治安当局も,強制力を行使することを躊躇しなかった。この暴動に関連して200人近くが逮捕され,10人が死亡した。また,フェイクニュースの拡散を防止するためとして,ソーシャルメディアへのアクセスが数日間にわたって制限された。選挙の正統性を真っ向から否定した野党陣営も,それを強制力で抑えつけた政府も,民主的な手続きを軽視した。

8月から9月にかけては,パプア問題に関する暴動が頻発した。スラバヤ在住のパプア人学生に対する国軍兵士による差別的発言がきっかけとなり,パプア各地でデモや暴動が発生した。9月23日には,パプア州ジャヤウィジャヤ県とジャヤプラ市で33人が死亡する暴動に発展した。政府は,国軍・警察の部隊を大規模に投入し,分離独立や住民投票の実施を求める活動家らを次々と逮捕するなど,力でこの動きを抑えようとした。ジョコウィ大統領はパプア地域における経済開発を重視し,2019年の大統領選でもパプア州で91%,西パプア州で80%の得票率で圧勝していた。にもかかわらずパプアで大規模な暴動が発生したことは,経済格差だけに還元しえないパプア問題の根深さを示している。

9月下旬には,ジャカルタをはじめ全国各地で学生らによる大規模なデモが続いた。その発端は,汚職撲滅委員会(KPK)を弱体化するための法案がわずか4日の審議だけで可決成立してしまったことである。2003年に設立された汚職撲滅委員会は,高い独立性と強い権限を使って,現職の閣僚や政党のトップ,地方首長など,汚職に関与した多くの政治家を逮捕し,有罪に追い込んできた。国会は,目の上のこぶのような存在だった汚職撲滅委員会の独立性と権限を弱める法案を,5年の任期満了直前になって議員立法で上程したのである。これに対して政府も,わずかな修正提案をしただけで同意したため,法案は実質的な審議がほとんどされないまま成立してしまった。汚職撲滅は,1998年の民主化運動がスハルト独裁政権を倒す際に掲げた重要なテーマの1つだっただけに,全国の学生らは今回の法律改正を「民主化に逆行する」ものだとして強く反発したのである。

これに対して政府は,警察によって徹底的にデモ隊を制圧する方針をとった。9月23~24日にかけて全国で行われたデモでは,デモ隊と警察が衝突し,東南スラウェシ州で2人が死亡している。さらに政府は,これ以上学生デモが拡大することを防ぐため,各大学の学長を通じて学生らがデモに参加することを禁じるよう圧力をかけた。

5月の暴動においても,9月のデモにおいても,平和的な抗議行動がジョコウィ政権に反対する勢力やイスラーム過激派のテロリストに利用される可能性があることが指摘されていた。政府は,混乱に乗じて事態がコントロール不能になることを警戒し,政府転覆や要人暗殺の疑いがあるとして元軍人や政治家らを5~6月にかけて逮捕している。近年のインドネシアでのテロ事件を引き起こしている過激派組織ジュマー・アンシャルト・ダウラー(JAD)関係者の摘発も続けられた。しかし,治安維持を優先するあまり,正当な抗議活動さえも制限されるなど,治安当局による取り締りは過剰ともいえるものだった。

第2期ジョコウィ政権の発足

10月20日に行われた大統領就任式は,5年前の祝祭的な雰囲気はまったくなく,警察がデモを厳しく取り締まるなかで行われた。

ジョコウィは,就任演説のなかで「インドネシアが2045年の建国100周年に世界5大経済大国となることが夢である」と述べ,そのためには勤勉に,素早く,生産的に働くことを国民に呼びかけた。とくに,公務員に対して手続きではなく結果を優先するように求めたことには,第1期政権で官僚主義的手続きを打破しようとしながらなかなか結果の出なかったジョコウィの苛立ちが示されていた。

そのうえでジョコウィは,第2期政権が取り組む優先課題を5つあげた。第1に,科学技術に精通した人材を育成するため人的資源の開発を進める。第2に,インフラ開発を進めて生産・流通網を改善し,観光の振興や中小企業の育成につなげる。第3に,規制緩和を進めるため,雇用創出法と中小企業法をオムニパス法(一括法)として新たに制定する(経済の項参照)。第4に,行政職を削減し専門職を増やすことで行政手続きを簡素化する。第5に,経済改革を進めて資源依存体質から脱却し,産業の競争力を強化するとともに新サービス産業を育成する。

これらの課題は,「デジタル経済化の推進と,そのための人材育成」というジョコウィの選挙公約に基本的に沿うものだが,その多くは第1期政権の時からすでに取り組まれてきた。その意味で,この5年間で積み残された経済的な課題に引き続き取り組むという大統領の意志が表明されたものであった。一方でジョコウィは,就任演説のなかで政治的課題や外交的課題については一言も触れなかった。

大統領就任から3日後の10月23日に閣僚の発表が行われ,内閣が発足した。第1期政権の「働く内閣」に対して,第2期は就任演説の「2045年の5大経済大国入り」という目標にちなんで「先進インドネシア内閣」と名付けられた。

今回任命されたのは,閣僚34人と大臣級ポストの4人からなる38人である。このうち政党政治家には18ポスト(47%)が配分され,内閣における政党出身の閣僚は第1期とほぼ同じ割合となった。ただし,大臣級ポストを除く閣僚ポスト34だけでみると,政党政治家は17人で半数となる。これは,第1期政権で野党から与党に鞍替えした2政党に閣僚ポストを配分した後の数値と同じである。また,閣僚任命の2日後には12人の副大臣が任命された。副大臣の人数が第1期の3人から大幅に増えたのは,閣僚ポストの配分だけでは政党間のバランスが取れなかった部分を補うという意図があったと思われる。

今回の閣僚人事から見えるのは,ジョコウィの政情の安定・治安重視と経済運営の継続性重視の姿勢である。一方で,ジョコウィが重要政策と考えている分野には,自らと関係の近い若手実業家を多く任命した。

まず,政権の安定を確保するため,プラティクノ国家官房長官,プラモノ・アヌン内閣官房長官,ムルドコ大統領首席補佐官の3人の側近を留任させた。ジョコウィは,1期目に安定した政権運営を支えた彼らを引き続き政権の中枢に置くことにした。治安重視の姿勢は,内務相と宗教相人事に表れた。内務相に任命されたのはティト・カルナフィアンである。ティトは,内務相に任命されるまで国家警察長官を務めており,ジョコウィの信頼も厚い。以前は対テロ部隊を率いるなど,イスラーム過激派によるテロ事件の捜査で辣腕を振るってきた人物である。一方,宗教相には,退役軍人のファフルル・ラジが任命された。これもイスラーム過激派対策を目的とした人事である。

これに対して,経済関係の閣僚では留任や他のポストでの再任となった人物が多い。国際的にも経済運営の手腕を高く評価されているスリ・ムルヤニは,財務相として引き続きマクロ経済と財政運営を任されることになった。また,公共事業や運輸といったインフラ関連の省庁の閣僚は軒並み留任となっている。それらを束ねる海事担当調整相のポストは,今回の組閣から「海事・投資担当調整相」と名称が変更され,政権の要役であるルフット・パンジャイタンが留任した。

一方で,第2期政権の重点政策分野については,ジョコウィと近しい実業家が任命された。経済開発やインフラ開発における戦略的主体と見なされている国営企業を束ねる大臣には,メディア企業家のエリック・トヒルが任命された。さらには,その副大臣に国営銀行や国営企業を率いてきた経験のある2人の民間企業出身者を充て,国営企業改革を推し進める体制が整えられた。今後の経済発展の柱となる創造経済と観光開発を担当する省庁の大臣にも,メディア企業家のウィシュヌタマ・クスバンディオが登用されている。

ジョコウィが掲げるインドネシアのデジタル経済化に向けた人材育成を任されたのが,教育・文化相に任命されたナディム・マカリムである。ナディムは,オンライン配車・配送サービス会社「ゴジェック」を立ち上げ,同社をまたたく間にインドネシアのユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場企業)第1号に成長させた若手起業家である。彼自身は教育分野にこれまで関わりはなかったが,高校時代からシンガポールに暮らし,アメリカの大学に進学,さらにハーバード・ビジネススクールの大学院を卒業した経験を教育改革に活かし,デジタル時代に求められる人材を育成することが期待されている。

今回の組閣で最も衝撃だったのは,2014年と2019年の2回の大統領選を戦った相手であるプラボウォが率いる野党第1党のグリンドラ党を与党に引き入れ,2人を閣僚として迎え入れたことである。しかも,プラボウォに対しては国防相という重要ポストがあてがわれた。この人事の目的は,巨大与党体制を築くことで大統領の政治基盤を強化することである。グリンドラ党を加えたことで,連立与党の議席は国会の74%に達した。これによってジョコウィは,連立内から離反する政党や議員が多少出たとしても,連立与党が国会で過半数をおさえられる状況を作り出すことに成功した。

それでは,なぜ与党に取り込む相手が他の野党ではなく,最大のライバルが率いるグリンドラ党だったのだろうか。それは,プラボウォを政権に取り込むことで,治安攪乱の芽を摘んでしまいたいというジョコウィの思惑があったからである。2017年12月のイスラーム保守派による大規模デモや本年5月のジャカルタ暴動の際などに政権転覆や要人暗殺の動きがあったとされているが,プラボウォの周辺には元軍人やイスラーム急進派など危険分子の影が見え隠れする。ジョコウィは,プラボウォを政権に取り込むことで彼らの動きを抑えようとしたのである。また,反ジョコウィを旗印にプラボウォ陣営に結集していたイスラーム保守派の影響力を削ぐことも意図されたと考えられる。

首都移転計画の発表

ジョコウィ大統領は,大統領選直後の4月29日に突然,首都をジャカルタから移転するという考えを表明した。8月16日の独立記念日演説ではカリマンタンへの首都移転が宣言され,8月26日に移転先をカリマンタン島の南東部にある東カリマンタン州とすることが正式に発表された。

計画では,2024年のジョコウィ大統領の任期最終年に政府機関の一部の移転が始まり,まず行政・立法・司法の公務員18万人と国軍・警察2万5000人のあわせて20万5000人が移住する。それ以降,徐々に関係機関の建設と移転が進められ,建国100年となる2045年までに完全移転するという壮大な計画である。

首都の移転先は,東カリマンタン州の北プナジャム・パスル県とクタイ・カルタヌガラ県にまたがる地域とされた。オランダ時代から石油精製所が設置されるなど石油積出港にもなっているバリクパパン市(人口約70万)と,カリマンタン島内最大都市で州都でもあるサマリンダ市(人口約80万)にちょうどはさまれた地域である。ここに広さ約4.2万ヘクタールの土地を確保し,大統領官邸や中央省庁,国会,裁判所,国軍・警察の施設,中銀や金融機関,大使館,情報・通信機関,高等教育機関,研究機関などの政府機能を移転させることになっている。

さらに,将来的な拡張を見込んで約18万ヘクタールの土地が用意される。新首都は「森林都市」というコンセプトに基づいて設計され,50%以上の土地が緑地帯となる。また,単に「グリーンな」だけでなく,「スマートで,ビューティフルで,かつサステイナブルな首都」という目標が掲げられているように,IT技術を活用しながら環境に優しい都市を作っていくことが目指されている。

国家開発企画庁によると,移転総額は466兆ルピア(約3兆5000億円)にのぼる。ただし,国家予算からの支出は74兆4000億ルピア(16%)に抑えられる。移転費用の約半分にあたる265兆2000億ルピア(57%)は官民連携のプロジェクトとして実行され,残りの127兆3000億ルピア(27%)は民間のプロジェクトとして建設される。首都移転とともに不要となるジャカルタの国有地や施設は売却もしくは賃貸することで,国庫の負担を軽くする予定である。そのため,福祉予算などが削減され国民生活に影響が出るようなことにはならない,と同庁は説明している。

ジョコウィ大統領は,首都移転の目的として,①面積はわずか6%にすぎないが国内総生産(GDP)の58.5%が生み出されるジャワ島と外島(ジャワ島以外の地域)の間の経済格差を縮小すること,②周辺8県・市自治体をあわせた広域首都圏「ジャボデタベック」では3200万人が居住し,交通渋滞,大気・水質汚染,洪水などの問題によりジャカルタの都市機能が麻痺しつつあること,そして③首都をインドネシアの地理的中心に移すことで国土の均衡ある発展を実現すること,の3点を挙げている。突然の首都移転計画の発表ではあったが,世論調査では6割以上の国民が首都移転に賛成しており,強い反対は出されていない。

(川村)

経 済

マクロ経済:経常収支赤字と輸出入の縮小

2019年の実質GDP成長率は5.0%であった。第1四半期の成長率は5.07%,第2四半期は5.05%,第3四半期は5.02%と辛うじて5%を上回る水準が続いたが,ジョコウィ政権2期目が始まった第4四半期の伸び率は4.97%と5%を割った。名目GDPは1京5834兆ルピアであり,従来どおり家計消費が経済をけん引した。

家計消費が名目GDPに占める割合は56.6%と前年から微増し,伸び率は5.0%,寄与度は2.7%と過去数年間,ほぼ同じ水準で推移している。4月に議会選挙・大統領選挙が実施されたことから政党,財団,宗教団体などが含まれる「対家計民間非営利団体」(NPISH)の割合は1.3%,前年比10.6%増と高く,とくに選挙直前の第1四半期は17.0%増と非常に高かった。政府支出の割合は8.8%であり,前年同期比で第1四半期は5.2%増,第2四半期は8.2%増と高かったものの,年後半に失速した結果,通年では同3.2%増にとどまり,寄与度は0.3%に終わった。

投資(総固定資本形成)の割合は32.3%と前年と変わらず,前年比4.4%増,寄与度は1.5%であった。輸送機器,その他設備の低迷が目立ち,前年比それぞれ4.5%減,3%減であった。選挙を前に投資が控えられた前半期の低迷が大きかった。投資調整庁(BKPM)によると,インドネシアへの投資が最も多かったのはシンガポールで65億ドル,次いで中国が日本を抜いて47億ドルとなった。3位が日本の43億ドル,4位は香港の29億ドルであった。米中貿易摩擦の影響を受けて,アメリカへの輸出を迂回するために中国からインドネシアへの投資が増加したことから中国および香港からの投資が急拡大した。外国直接投資実施額全体では282億ドル(3万354案件)と前年の293億ドルから減少した。分野別では,電気・ガス・水道部門に59億ドル(21%),運輸・倉庫・通信部門に47億ドル(17%),金属部門に36億ドル(13%)が投資された。インドネシア国内直接投資実施額は386兆ルピア(3万451案件)と金額は前年より18%増加し,件数は約3倍となった。前年同様,運輸・倉庫・通信部門が最も多い68兆ルピア(18%)であり,建設部門が55兆ルピア(14%),食品部門が44兆ルピア(11%)であった。

財・サービス輸出がGDPに占める割合は18.4%であり,前年比0.9%減となった。その要因は輸出の9割以上を占める非石油・ガスの輸出は1.2%増,寄与度0.2%だったものの,石油・ガスの輸出が17.9%減,寄与度はマイナス0.4%と大幅に減少したためである。財・サービス輸入の割合は18.9%であり,前年比7.7%減となった。とくに軽油にパーム油由来のバイオディーゼルを混ぜたB20が普及したことを受けて,原油の輸入が同37%減(中銀貿易統計,本船渡し)と大幅に減少したことが大きく影響した。その結果,純輸出(輸出マイナス輸入)の成長への寄与度は1.4%と前年のマイナス0.9%からプラスに転じた。輸出の主要品目には大きな変化はなく,石炭,パーム油,卑金属製品,繊維・衣料,電子機器であった。輸出額全体で前年比6.8%減少した(中銀貿易統計)。減少が大きかったのは,石炭,パーム油,銅,天然ガス,原油であった。石炭は中国の需要の落ち込みを受けて9.5%減少した。パーム油はインドが輸入制限をしたこと,また,EUをはじめとして世界的にパーム油輸出への風当たりが強まっていることを反映して10.9%減少した。銅は69.4%減であり,天然ガスは22.7%減であった。原油は生産量の減少もあり66.2%減と過去最低の水準に落ち込こんだ。しかし,石油ガスは歴史的に主要輸出品目であったものの,現在の石油ガスが全輸出額に占める割合は5%程度でしかない。主要品目のうち卑金属製品は8%の伸びであったが,繊維・衣料は2.7%減となった。一方,2017年に条件付きで5年間の輸出が認められたニッケルやボーキサイトは,2019年9月に前倒しで2020年1月以降の輸出が禁止されることになったことに伴う駆け込み輸出がみられ,ニッケルは74.8%増,ボーキサイトは76.4%増となった。全輸出に占める鉱物資源の割合は,石炭,天然ガス,原油の減少をうけて前年の24.4%より縮小し20.3%となった。

州別のGDP成長率では,パプア州が前年比15.7%減という大幅なマイナスとなった。全34州でマイナス成長となったのはパプア州のみであった。豊富な鉱山資源に恵まれたパプア州の成長率は基本的に高く,同州の前年の成長率は全国で2番目に高い7.4%であった。2019年の急速な経済悪化の原因は,パプア州のGDPの約4割を占める鉱業部門が前年比43.2%減と激しく落ち込んだことにある。これはインドネシアの銅生産量の65%を占めるパプア州のグラスバーグ鉱山で採掘するフリーポート・インドネシア社が採掘方法を現在の露天掘りから地下の坑内掘りに移行しているため採掘量が減少していることに起因する。4年後の金と銅の鉱石採掘量は日量21万トンに拡大することが見込まれているが,2019年は移行期にあたるため,日量1万1200トンに縮小した。パプア州の1人当たりGDPは全国で6番目に高いが,貧困率は最も高く経済格差が激しい州である。一時的であるにせよ,急激な景気の落ち込みは格差の拡大に拍車をかけ,悪化している不安定な情勢に影を落とす可能性がある。

国際収支では,経常収支の赤字が続いた。赤字額は304億1500万ドルで,GDP比2.7%と前年の2.9%から若干改善したものの依然として大きい。財輸出は1684億6000万ドル,財輸入は1649億4700万ドルであった。貿易収支は前年の赤字から35億1300万ドルの黒字に転じた。非石油・ガスの輸出は1529億ドル,輸入は1410億ドルとどちらもほぼ前年と変わらず,120億ドルの黒字となった。石油・ガス輸出は120億ドル,輸入は223億ドルで103億ドルの赤字であった。

2019年の輸出先上位3カ国は中国,アメリカ,日本と前年と変わりなかったが,伸び率はそれぞれ3.7%増,3.5%減,19.4%減となり,日本への輸出が大幅に減少した。インド,韓国への輸出も14%減,22.4%減と減少が大きかった(アメリカへの輸出の詳細については後述)。日本,韓国向けの主要輸出品である原油などの燃料がそれぞれ24.3%,38.6%減少し,インド向け輸出では前年に続きパーム油の輸出が36.5%減少した。輸入先上位3カ国は前年と変わらず,中国,シンガポール,日本であったが,前年比1.2%減,15.8%減,12.1%減といずれも減少した。

金融収支は,前年より112億ドル多い363億ドルの純流入となった。対外直接投資の流入は前年より30%増加し244億ドルであった。ポートフォリオ投資は通年で流入が続きグロスで211億ドルの流入となった。とくに政府部門への流入が大きく,前年より56%増の149億ドルの流入となった。その他投資は54億ドルの純流出となった。

消費者物価指数は前年同期比2.48~3.49%の上昇幅で推移し引き続き安定していた。失業率は5.0%と前年の5.3%からさらに低下し,貧困率も引き続き低下した。9月の貧困率は都市部で6.56%,農村部で12.6%,都市・農村の合計では9.22%となった。

財政:社会保障支出の増加

2018年に1桁台となった貧困率は2014年9月の10.96%から低下を続けている。この背景には,ジョコウィ政権下での社会保障支出の増加があると考えられる。2019年の国家予算においても社会保障支出の増加に主眼が置かれ,前年比32.8%増の381兆ルピアが計上された。その内訳は貧困家庭向け非現金食糧援助プログラム(BPNT)や,庶民事業資金プログラム(KUR)の金利補助など,補助金を通じた支援が212兆9000億ルピア,貧困家庭の子供の健康や通学に関する条件付現金給付である希望の家族プログラム(PKH)が34兆3000億ルピア,貧困家庭を対象に教科書や制服などの費用が補助される教育支援プログラム(Indonesia Pintar)が11兆2000億ルピア,国民健康保険(JKN)が26兆7000億ルピア,食糧支援20兆8000億ルピア,経済的に苦しい優秀な学生に対する奨学金(Bidikmisi)が4兆9000億ルピア,村落資金(Dana Desa)が70兆ルピアであった。

この予算のもとで,国民健康保険の保険料が補助されるプログラム(PBI JKN)への貧困層の参加者の目標は9680万人へ引き上げられ,PKHの対象家庭1000万世帯への給付額も前年の2倍に増額された。またBPNTの対象家庭の目標も1560万世帯まで引き上げられ,KURの金利補助増額を含む資金アクセスの支援策が盛り込まれた。

2019年は選挙の年であるため,有権者に評判の良いポピュリスト的な政策が採用されたという指摘もあるものの,ジョコウィ政権になって社会保障費への支出は一貫して増加している。国家予算における補助金の内訳について2013年からみると,燃料・電気などのエネルギー関連の補助金はジョコウィ政権が予算を策定した2015年から減少し,非エネルギー関連の補助金が増えている(図1)。補助金の総額はエネルギー関連補助金の低下に比例して減少しているが,非エネルギー関連補助金の額はジョコウィ政権以前の2014年の53兆ルピアを毎年2~5割程度上まわっている。非エネルギー関連補助金には,健康保険プログラムや教育助成金は含まれないが,食糧,肥料,種子の補助金および交通や通信などの公共サービスへの補助金,KURなどの小企業金融金利補助,税補助などが含まれ,こうした補助金の増加が貧困率の低下を促進したといえる。

図1  補助金支出の推移(2013~2019年)

(出所)財務省,Nota Keuangan 各年。

国営持ち株会社の設立

2017年11月に国営鉱業持ち株会社のインドネシア・アサハン・アルミニウム(イナルム)が,2018年5月に国営石油ガス持ち株会社のプルタミナが設立されたのに続き,2019年も産業ごとの国営持ち株会社の設立計画案が相次いだ。インフラ開発の分野を中心に,財源の厳しい政府にかわりプロジェクトを実施する国営企業の役割は大きくなっている。ジョコウィ政権における国営企業改革は,民営化によるものではなく,国営企業を束ねる持ち株会社を設立して経済開発を促進する主体とすることにあった。それにともない国営企業の対外借り入れも拡大していった。銀行も含めた国営企業全体の対外借入は2013年には247億ドルであったが,2019年には528億ドルへと倍増した。このうちの約8割が国営事業会社の借入である。国営持ち株会社の設立の目的は複数の国営企業を束ねることで資金管理を含めた経営を効率化させ競争力を高めることにある。

さらに,ジョコウィ大統領は4月にシンガポールのテマセクやマレーシアのカザナなどの政府系投資会社を念頭に,国営企業の持ち株会社をひとつに束ねるスーパー持ち株会社を設立する構想を発表した。その計画は11月に撤回されたものの国営企業の再編は続いた。2017年にイナルムを中心に発足した国営鉱業持ち株会社(HIP)は,8月に社名をインドネシア鉱業会社(MIND ID)に変更し,鉱業国営会社5社の相乗効果をより高めるための経営戦略を新たにした。10月にはビオ・ファルマを主体として,キミア・ファルマ,インドファルマを束ねる国営製薬持ち株会社が設立された。一方,国営証券会社ダナレクサを中心に国営銀行4行と国営金融機関3社を束ねる予定だった金融持ち株会社の設立計画は,5月には最終段階まで進んだものの金融システム安定委員会での議論が続き,結果が出ていない状況が続いている。

このほかに保険,航空産業でも持ち株会社の設立が計画されている。保険業では,12月に入りオランダの植民地時代に設立されインドネシアで最も古い国営保険会社ジワスラヤの保険金未払いが発覚した。社長をはじめとする役員らが不動産会社や海運会社の持ち主と共謀して不正な投資を行った容疑がもたれている。その結果運用業績が悪化し,2018年10月と19年12月に満期を迎える8020億ルピアと12兆4000億ルピアの保険金が未払いとなった。これとは別に,軍人・警察官社会保険(ASABRI)も株式の運用に失敗して約10兆ルピアの損失を出すなど,保険業界の立て直しが急務となっている。

米中貿易摩擦の影響

米中貿易摩擦のインドネシアへの影響については,当初楽観的なものもあった。中国の対アメリカ輸出が減少すればインドネシアの対アメリカ輸出の余地が生じると期待されたが,その恩恵はインドネシアにはあまり及ばなかった。インドネシアと中国,ベトナムがアメリカに輸出する主要品目は類似していることから,この3カ国で比較してみると,ベトナムからの輸出が拡大していたことがわかる。3カ国からの対アメリカ輸出額は一律に比較できないため,アメリカが報告する3カ国からの輸入額を貿易統計で確認すると,アメリカの中国からの輸入は前年比16.2%減,インドネシアは同3.3%減,ベトナムは同35.6%増であった。統計品目番号(HSコード)による分類では,インドネシアからの輸入上位2品目は衣類(HSコード62),メリヤス編み衣類(HSコード61)で全体の2割を占める。HS62は前年比0.5%増であったが,HS61は4.6%減であった。衣類はアメリカが中国から輸入する主要品目でもある。中国からの輸入はHS61が7.7%減,HS62が9.0%減であった。一方,ベトナムからの輸入はHS61が7.9%増,HS62が14.3%増であった。アメリカが中国から輸入する全輸入品目の3割を占める電気機器(HS85)は17.5%減となり,インドネシアは7.3%増,ベトナムは95.4%増と拡大した。また中国からの家具(HS94)の輸入が23.8%減少したのに対して,インドネシアからの輸入は28.2%増,ベトナムからの輸入は41.3%増であった。

金融:拡大する電子マネー

GDP成長率の伸び悩みを受けて,中銀は年後半に4回の利下げを実施した。2018年11月から6%を維持していた政策金利は,7月から10月にかけて4カ月連続で0.25ポイントずつ引き下げられ5%になった。これを受けて不動産向け貸し出しが年後半に増加し,住宅向けは前年比8.6%増,アパート・マンションは13.7%増となった。商業銀行全体の貸出しは前年比6%増であったものの,自動車向けは年後半に低迷し,伸び率は0.2%増にとどまった。消費向け貸出は4.3%増で,産業向け貸出は7.4%増と堅調であった。

2018年は電子マネー元年ともいえる年だったが,2019年はさらに拡大した。2019年の電子マネー取引件数は前年の1.8倍,金額は3.1倍に伸びた。2017年と比較するとそれぞれ5.5倍,11.7倍に急拡大している。市中の現金残高に対する電子マネーの取引金額は,2013年は0.7%,2017年も2.1%でしかなかったが,2019年は22.2%まで拡大している。

インフラ投資と次世代自動車への投資

ジョコウィ政権第1期の締めくくりとなる2019年は,2015~2019年の国家中期開発計画で目標に掲げたインフラ整備の総仕上げの年であった。しかし,2016~2019年に計画された223プロジェクトと3プログラム(2015~2019年計画では245プロジェクトと2プログラム)のうち,2019年に完了したのは全体の41%に相当する92プロジェクトでしかなく,投資総額は467兆4000億ルピアであった。これは全投資予定額4202兆ルピアの1割強に過ぎなかった。数あるインフラプロジェクトのなかでジョコウィ政権による達成をアピールする象徴的なものが,ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の開通,3万5280キロメートルの海底光ファイバーケーブルと2万1708キロメートルの地上ネットワークによってインドネシア全土に高速通信網を敷設するパラパ・リング・プロジェクトの完了である。ジャカルタ都市高速鉄道は3月24日に南北線第1区間の開業式典が開催され,翌25日から営業運転が開始された。ジャカルタ南部のルバック・ブルス(Lebak Bulus)からスナヤン(Senayan)までの高架区間7駅と,スナヤンから中心部ブンダラン・ホテル・インドネシア(Bundaran Hotel Indonesia)までメインストリートのタムリン,スディルマン通りの地下に建設された区間6駅からなる全長15.7キロメートルを約30分で走る。費用総額16兆ルピア(約1250億円)には円借款が活用されるとともに,中央政府およびジャカルタ州の予算が充てられた。

パラパ・リング・プロジェクトは2005年のユドヨノ政権のインフラ・ロードマップで公表された後,建設は2009年11月から開始され,10年の年月をかけて10月14日に完了した。このプロジェクトはインドネシアを西部,中部,東部の3事業体に分けてそれぞれ異なるコンソーシアムによって開発された。電気通信部門としてはインドネシア初の官民連携方式(PPP)であり,プロジェクトが適切に管理された状態で利用可能であれば政府から民間事業者に対価が支払われるアベイラビリティ支払い方式が採用された。これにより第4世代のLTE方式による通信可能エリアは34州514県・市の97%,人口カバー率は9割に達した。

10月に第2期目に入ったジョコウィ大統領は,就任演説で2045年に世界の5大経済国になるという目標を掲げた。これは2011年にユドヨノ前大統領が2025年までに10大経済国,2050年までに6大経済国になると表明したことの焼き直しといえる。しかし,この10年間で世界経済を取り巻く環境は大きく変化し,産業やビジネスモデルが変革を始めている。経済規模第16位で2億6000万の人口のうち1980年代から90年代半ばまでに生まれたミレニアル世代が33.3%,その下の1990年代後半から2000年生まれのZ世代が29.2%を占める若い国であるインドネシアは意欲的に次のステージに進もうとしている。

そのひとつが電気自動車(EV)投資である。政府は8月8日,電気自動車促進に関する大統領令2019年第55号を公布し12日に施行した。これにより国内でEVの完成車や部品を生産する企業に対する現地調達率が定められた。10月には高級車についての奢侈税に関する政令2019年第73号が公布され,2021年10月からプラグインハイブリッド車(PHV)やバッテリー式電気自動車(BEV),燃料電池自動車(FCV)などの税率を0%としてEV拡大に向けて税制優遇することを定めた。これに先立つ6月27日にロイター通信は,トヨタ自動車がEVの開発に向けて2019年から2023年までの4年間でインドネシアに28兆3000億ルピア(約20億ドル,2100億円)を投資するとルフット海事担当調整相が明らかにしたと報道した。また11月には韓国の現代自動車がEV生産も見据えた自動車生産工場建設のための覚書をインドネシア政府と交わした。投資額は2030年までに15億5000万ドルが予定されている。さらに配車アプリ2強のひとつであるグラブは政府のEV促進政策を支持したうえで,インドネシアにおけるEVのエコシステムを促進するために現代自動車と提携し,2020年1月にはスカルノハッタ国際空港の第3ターミナルに空港EVタクシーを導入した。

このようなEV市場の拡大は,EVが搭載するリチウムイオンバッテリー部材に使用されるニッケルの需要の拡大につながり,インドネシアのニッケル生産者にとって好機となる。さらに政府は2023年のEV生産開始に合わせてインドネシアで中国企業とリチウムイオンバッテリーを生産するために準備を行っている。そこで国内でのニッケル精錬を促進するために,未加工ニッケル鉱石の輸出禁止を当初よりも2年前倒しして,2020年1月1日から実施すると9月に発表した。

海外からの投資を呼び込むための投資環境の整備を進めるなか,インフラ投資に主眼が置かれてきたが,複雑な投資手続きを簡素化し投資環境の改善を図るため,9月にルフット海事担当調整相は内容の重複した72本の法律を見直し,投資関連の法律をひとつにまとめた法律(オムニバス法)を制定する方針を明らかにした。税制もオムニバス法によって整備される予定である。投資関連のオムニバス法は,雇用創出法と呼ばれるが,労働者寄りといわれる2003年労働法の最低賃金や退職金,社会保障制度などの見直しも含むため,労組からの反発も強く,法案の成立は容易ではない。

(濱田)

対外関係

自由貿易協定の締結

2019年は,新たな海外市場の獲得を目指し,外国市場におけるインドネシア製品の競争力を高めるために貿易協定の交渉を通じた経済外交が積極的に繰り広げられた。政府は,3月4日に11番目に大きい貿易相手国であるオーストラリアとCEPAを締結した。同国への主要輸出品目は石油,木材,電気機器であり,輸入は石炭,(生きた)動物,肉などである。8月10日にはチリとCEPAが締結された。ラテンアメリカ諸国のなかで初めての貿易協定を結ぶ国となるチリへの輸出はまだ大きくはなく,インドネシアにとって54番目の輸出相手国であるが,同国への輸出は履物,ボイラー機器,鉄道用機器などアメリカへの輸出品目と重なる。輸入は銅,果物,鉱石・スラグなどである。また8月27日,政府はモザンビークとアフリカ諸国では初めてとなる貿易協定について合意し,PTAを締結した。アフリカ全土への輸出は全輸出の2%程度でしかないものの,モザンビークとのPTA合意によってアフリカ市場への道を開くことになると期待が寄せられた。モザンビークに続きチュニジアともPTA交渉が最終段階に入っており,モロッコとも交渉中である。11月25日には,貿易相手国第7位,インドネシアへの直接投資第7位の韓国がインドネシアとのCEPA最終妥結を公式に宣言した。

「インド太平洋協力」がASEANアウトルックに

6月にタイのバンコクで開催されたASEAN首脳会議は,前年4月にジョコウィ大統領が提唱した「インド太平洋協力」を基にした「インド太平洋に関するASEANアウトルック」(ASEAN Outlook on the Indo Pacific:AOIP)を採択した。この構想は,日米豪と中国が互いに自身の影響力を強めようとしつつあるインド太平洋地域において,地域の協力を促進することが平和と安定,繁栄をもたらすという観点から,海洋,経済回廊の建設といった連結性,持続可能な開発目標(SDGs)など重要な分野でASEANの協力を進めることを目標としている。この地域を競争と競合の場ではなく,協調の場とすることを目指している点が域外国の提唱するインド太平洋概念との違いである。

AOIP構想の下地を作ったインドネシアは,AOIPを具体的に実施するためのフォーラムを2020年にインドネシアで開催する計画を立てるなど,構想を実現するためのイニシアティブをとっている。AOIPは,インドネシアがこの地域でリーダーシップをとるための外交手段として活用されている。

自国民保護のための外交

インドネシアは多くの国民を労働者として外国に送り出しているが,不法就労や人身売買といった非公式のルートで外国に渡る者も少なくない。近年は,若い女性が人身売買で中国などに花嫁として強制的に送られる事件が増えており,彼女たちが嫁ぎ先で虐待を受ける事例も報告されている。そこで政府は,彼女たちのような海外に居住する自国民をどう保護するかという問題を重要な外交課題のひとつと認識し,その取り組みを強化している。外務省によると,2019年に在外公館が対処した自国民保護に関わる問題は2万7000件以上にのぼり,被害を受けた1万7000人以上の自国民を帰国させることに成功したという。人身売買による強制結婚の被害女性についても40人を保護している。

なかでも国民の耳目を集めた自国民保護の成果が,2017年2月にマレーシアのクアラルンプールで発生した北朝鮮・朝鮮労働党委員長金正恩の兄・金正男の殺害事件で,実行犯として逮捕されたインドネシア人女性シティ・アイシャの帰国である。シティは,逮捕後マレーシアの裁判所に起訴され,検察から死刑を求刑されていた。しかし,2019年3月にマレーシア検察庁が訴えを取り下げたことから釈放され,インドネシアへの帰国が実現した。外務省は,マレーシア政府に対して公正な裁判を求めながらも自国民の被告の早期釈放を訴えるなど外交努力を続けていた。シティの釈放は,その努力が実ったものである。ジョコウィ大統領は帰国したシティを大統領官邸に迎えて会談し,政府として今後も海外で法的問題に直面している自国民に寄り添っていくことを約束した。

(濱田・川村)

2020年の課題

最終任期となるジョコウィ大統領にとっては,実績づくりに専念できる5年間となる。連立与党は国会の約4分の3を占める巨大勢力となっており,政治基盤は整っている。ただし,連立各党から常に協力を得られるかどうかは自明ではない。次の選挙に立たないジョコウィに与党各党も最後まで協力し続ける動機はない。選挙が近づくほど政権がレームダック化する可能性は高くなるため,ジョコウィが政策を実行していくための時間的余裕は2年半ほどしかない。それを押しとどめられるのは政権に対する国民世論の支持である。しかし,汚職撲滅委員会法改正やプラボウォの入閣など,ジョコウィは自らの支持層の反発を買うような行動をとってきた。国民の支持をつなぎ止めながら政策を迅速に進めることができるか,ジョコウィの政治的手腕が問われる。

新型コロナウイルス感染症の拡大は,世界中に未曽有の危機をもたらし,インドネシアにおいても経済のみならず社会の不安定さが増している。2020年に入り国内感染が急速に拡大し事態の深刻さが増すなか,政府は電気料金無料化や中小企業支援など経済支援策を矢継ぎ早に打ち出している。しかし,感染拡大を防ぐための社会活動の制限は,インドネシアにおけるインフォーマルセクターの大きさを浮き彫りにし,社会的・経済的に脆弱な層の多様性に対処することの難しさも露呈しはじめている。引き続き貧困対策や社会保障を整備するとともに,投資環境を整えるためのオムニバス法の制定は重要な政策課題であるが,感染拡大により収入が不安定になる人や失業が増え社会が混乱するなかで強硬に法案の審議を進めることは,混乱をさらに増大させかねず慎重な対応が必要となる。

(川村:地域研究センター)

(濱田:開発研究センター)

重要日誌 インドネシア 2019年
   1月
8日国家警察,国家人権委員会の勧告を受け,汚職撲滅委員会捜査官ノフェル・バスウェダン襲撃事件を捜査するための合同チームを設置。
14日海軍の捜査本部,2018年10月29日にジャワ海に墜落したライオンエア機のボイスレコーダーを発見。
15日インドネシアとマレーシア両国政府,市場価格維持のためゴムの輸出量を30万トンに制限することで合意。
17日大統領選の立候補者による第1回公開討論会,開催。
18日政府,高齢と健康を理由に,2011年にテロ罪で禁錮15年の有罪判決を受けていたアブ・バカル・バアシルを釈放。
24日汚職撲滅委員会,ランプン州ムスジ県知事カマミを収賄容疑で逮捕。
24日宗教冒涜罪で収監されていた前ジャカルタ州知事のバスキ・プルナマが刑期を終えて出所。
   2月
5日政府,1月27日にフィリピンで発生した教会爆破事件にインドネシア人が関与していた疑惑の捜査のため,捜査陣を派遣。
17日大統領選の立候補者による第2回公開討論会,開催。
19日インドネシア海軍のパトロール船が違法操業のベトナム漁船を拿捕し曳航していたのを,ベトナム政府当局の船が妨害。
24日国際ゴム3カ国協議会,天然ゴムの国内消費強化と輸出削減で合意。
   3月
1日ジャカルタ汚職裁,エニ・マウラニ・サラギ元国会第7委員会副委員長に対して収賄罪で禁錮6年の実刑判決。
3日民主主義者党副幹事長アンディ・アリフが麻薬使用の容疑で逮捕。
4日政府,オーストラリアと包括的経済連携協定(CEPA)を締結。
7日パプアの分離独立を要求する武装グループが国軍駐屯所を襲撃,3人が死亡。
10日エチオピア航空機墜落事故の犠牲者にインドネシア人1人が含まれることが明らかに。
11日マレーシアにおける北朝鮮の金正男殺人容疑で死刑を求刑されていたシティ・アイシャに対して,マレーシア検察庁が訴えを取り下げたことを受け裁判所が釈放を許可したことから,インドネシアへの帰国が実現。
12日警察反テロ部隊,北スマトラ州シボルガ市でアブ・ハムザらテロ容疑者3人を逮捕。その妻子が自爆死した際,大量の爆弾が爆発し周囲に大きな被害。
12日国会,現職の憲法裁判事アスワントとワヒドゥディン・アダムスの再任を決定。
15日汚職撲滅委員会,開発統一党党首ロマフルムジを収賄容疑で逮捕。
15日ニュージーランド・クライストチャーチのモスクで発生したテロ事件で,インドネシア人2人がけが。
17日大統領選の副大統領候補者による第3回公開討論会,開催。
24日屋外での選挙キャンペーン,開始。
24日ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)が開業。
28日憲法裁,総選挙・大統領選の投票場所を変更する申請の期限を投票日7日前とするよう判決。
30日大統領選の立候補者による第4回公開討論会,開催。
   4月
3日警察反テロ部隊,イスラーム過激派グループのジュマア・アンシャルト・ダウラー(JAD)西ジャワ地域の指導者を逮捕。
7日正副大統領候補プラボウォとサンディアガ・ウノがジャカルタの国立競技場で大規模選挙集会を開催。
13日選挙運動の最終日。正副大統領候補ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)とマアルフ・アミンはジャカルタの国立競技場で大規模選挙集会を開催。
14日ジョコウィ夫妻が小巡礼のためサウジアラビアのメッカを訪問。
17日大統領選・議会選の同日選挙実施。
24日ジョコウィ,野党の国民信託党党首ズルキフリ・ハサンと会談。
26日副大統領,「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに出席し,習近平・中国主席と会談。
29日財務相,同日選挙による事務負担の増大により死亡または病気になった選挙運営担当者に補償金を支払うことを決定。
29日大統領,首都をジャカルタから移転する構想を発表。
30日汚職撲滅委員会,北スラウェシ州タラウド県知事スリ・ワフユミ・マリア・マナリプを収賄の現行犯で逮捕。
   5月
2日ジョコウィ,民主主義者党党首スシロ・バンバン・ユドヨノの長男アグス・ユドヨノと会談。
4日海洋漁業省,違法漁業容疑で拿捕したベトナム船籍13隻を爆破沈没させる措置。
20日総選挙委員会,深夜に大統領選と議会選の開票結果を予定より1日早く発表。
20日総選挙監視庁,プラボウォから提起されていた大統領選の選挙違反の訴えを却下。
21日選挙結果に抗議するデモが総選挙監視庁前などで行われるが,深夜から暴動に発展。ジャカルタとポンティアナックで10人が死亡。
22日政府,フェイクニュースの拡散を防止することを目的に一時的にソーシャルメディアへのアクセスを制限する措置を開始。
22日ジョコウィ,再び民主主義者党のアグス,国民信託党のズルキフリと会談。
24日プラボウォ陣営,大統領選の結果に対する異議申立を憲法裁に申請。
27日汚職撲滅委員会,国営電力会社社長ソフヤン・バシルを収賄容疑で逮捕。
   6月
2日ユドヨノ前大統領の妻アニが死去。
3日スタンダート・アンド・プアーズ,インドネシアの長期国債格付けをBBB(安定的な見通し)に引き上げ。
3日中ジャワ州スコハルジョで警察を標的とした自爆テロ事件が発生。実行犯が負傷。
10日ジャカルタ州警察,元ジャカルタ州警察本部長ソフヤン・ヤコブを5月22日の暴動に関する政府転覆の容疑者に指定。
10日警察,中カリマンタン州で軍事訓練基地建設を計画していた33人をテロ容疑で逮捕。
27日憲法裁,プラボウォ陣営による大統領選の結果に対する異議申立を却下。
29日大統領,大阪で開催されたG20サミットに参加。
29日警察対テロ部隊,ジュマー・イスラミヤに所属するテロ容疑者5人を逮捕。
30日総選挙委員会,大統領選におけるジョコウィ=マアルフ組の当選を公式に発表。
30日政府,国営企業による電子決済アプリ「リンクアジャ」のサービスを開始。
   7月
5日国家警察,5月22日の暴動取り締まりで暴力行為を働いたとして警察機動隊員10人に対する処分を発表。
9日最高裁,汚職罪で禁錮15年の有罪判決を受けていたシャフルディン・トゥムングン銀行再建庁元長官に対して逆転無罪の判決。
10日汚職撲滅委員会,リアウ群島州知事ヌルディン・バシルンを収賄容疑で逮捕。
14日ジョコウィとプラボウォ,ジャカルタMRTに乗車しながら選挙後初の会談。
18日中銀,政策金利を0.25ポイント引き下げて5.75%に。
30日国軍,テロ対策のため3軍の兵士からなる特別作戦部隊(Koopssus)を創設。
31日リアウ,ジャンビ,南スマトラ,西・中・南カリマンタンの6州で森林火災が拡大,非常事態警告が宣言される。
   8月
4日ジャカルタを含むジャワ島中部から西部で,過去20年で最大規模の停電が発生。
8日汚職撲滅委員会,ニンニク輸入割当許可をめぐる収賄容疑で闘争民主党の国会議員ニョマン・ダマントラを逮捕。
8日政府,電気自動車促進に関する大統領令2019年第55号を公布(施行は12日)。
9日憲法裁における国会議員選挙結果に対する異議申立審査が終了。
9日闘争民主党,全国大会を開催しメガワティ・スカルノプトゥリを党首に再選。
10日インドネシア・チリ包括的経済連携協定(CEPA)が発効。
12日ジャカルタ州政府,市内への自動車流入規制の試験運用を開始。
16日大統領,国会で独立記念日演説を行うとともに,2020年度国家予算案を提出。
17日インドネシア・アサハン・アルミニウム(イナルム)を中心とする国営鉱業持ち株会社HIP,社名をインドネシア鉱業会社(MIND ID)に変更。
19日パプア州,西パプア州各地でパプア人差別に抗議するデモが発生,一部が暴徒化。
20日インドネシア・アフリカ・インフラ対話2019がバリ島ヌサ・ドゥアで開幕。アフリカから53カ国が参加。
20日民族覚醒党が全国大会を開催し,ムハイミン・イスカンダールを党首に再選。
21日通信情報省,パプア,西パプア両州でのインターネット接続制限を実施。
22日中銀,政策金利を0.25ポイント引き下げて5.5%とする。
26日大統領,首都の移転先を東カリマンタン州北プナジャム・パスル県とクタイ・カルタヌガラ県にまたがる地域とすると発表。
27日政府,モザンビークとの特恵貿易協定(PTA)に調印。アフリカ諸国では初の二国間貿易協定。
   9月
11日ハビビ元大統領が死去。
16日国会で改正婚姻法案が可決成立。
17日改正汚職撲滅委員会法案が上程から2週間,わずか4日間の審議で可決成立。
18日汚職撲滅委員会,イマム・ナラウィ青年スポーツ相を贈収賄事件の容疑者に指定。
19日中銀,政策金利を0.25ポイント引き下げ5.25%に。
23日汚職撲滅委員会法の改正などに反対する大学生らのデモが全国で一斉に実施され,各地で警察との衝突が発生。東南スラウェシ州では2人が死亡。
23日パプア州ジャヤウィジャヤ県とジャヤプラ市でパプア人差別に抗議するデモが暴動に発展し33人が死亡。
23日ニューヨークで開催された第74回国連総会に副大統領が出席。
24日国会で持続可能な農業システム法案が可決成立。
24日インドネシアと日本の両国政府,ジャカルタとスラバヤを結ぶ在来線の準高速化事業での協力に合意。
29日『シナル・ハラパン』紙創業者でジャーナリストのアリスティデス・カトッポが死去。
30日改正汚職撲滅委員会法に反対する学生らのデモが各地で再び行われる。
   10月
1日2019~2024年議会期の国会が開会し,議員の就任式が行われる。国会議長には,メガワティ元大統領の長女プアン・マハラニが選出される。
3日国民協議会,議長にゴルカル党のバンバン・スサトヨを選出。
7日オランダ首相マーク・ルッテ,来訪。
8日大統領,シンガポールを訪問し,リー・シェンロン首相と会談。
10日ウィラント政治・法務・治安担当調整相がナイフを持った暴漢に襲撃され負傷。
11日ジョコウィ,プラボウォと会談してグリンドラ党の連立政権入りについて協議。
12日国軍,妻が不適切なソーシャルメディア投稿を行ったとして3人の将校を処分。
14日全土に高速通信網を敷設するパラパ・リング・プロジェクトが完了。
14日警察対テロ部隊,西ジャワ州などでイスラーム過激派グループを摘発。
15日汚職撲滅委員会,西ジャワ州インドラマユ県知事スペンディを収賄容疑で逮捕。
16日汚職撲滅委員会,メダン市長ズルミ・エルディンを収賄の現行犯で逮捕。
16日大統領,連立与党の各党首と会談し閣僚人事について協議。
17日会計検査院の5人の委員が就任。
20日国民協議会で正副大統領の就任式が行われ,ジョコウィが就任演説。2期目の任期が始まる。
22日副大統領,初の外遊先として日本を訪問し,天皇の「即位礼正殿の儀」に出席。
23日第2期ジョコウィ政権の「先進インドネシア内閣」が発足。
24日中銀,政策金利を0.25ポイント引き下げ5.0%に。
27日大統領,就任後初の地方視察で西パプア州とパプア州を訪問。
   11月
1日大統領,内相に就任したティト・カルナフィアン警察長官の後任に,イドゥハム・アジス国家警察庁刑事局長を任命。
4日東南スラウェシ州で,村落資金を中央政府から不正に受給するため,架空の村が登録されていることが明らかに。
11日ナスデム党,全国大会を開催し,スルヤ・パロを党首に再選。
13日北スマトラ州メダンで警察を標的にした自爆テロが発生。犯人が死亡。
14日カンボジアの救国党代表代行サム・ランシー,来訪。国家人権委員会委員長アフマッド・タウファン・ダマニクと会談。
23日大統領,前ジャカルタ州知事バスキ・プルナマを国営石油会社プルタミナの監査役会長に任命。
25日大統領,韓国・ASEAN30周年サミット出席のため釜山を訪問。
27日チプトラ財閥創業家のチプトラ,シンガポールで死去。
   12月
1日ジャカルタ・ライトレールトランジット(LRT)が営業開始。
5日ゴルカル党,全国大会を開催し,アイルランガ・ハルタルトを党首に再選。
11日憲法裁,地方首長選法の前科者の立候補要件に関する条文に対して違憲判決。
13日大統領,大統領諮問会議委員を任命。議長はウィラント前政治・法務・治安担当相。
16日汚職撲滅委員会,最高裁事務総長ヌルハディを贈収賄事件の容疑者に指定。
18日北スマトラ州で豚熱の感染が確認される。
19日リアウ州ナトゥナ海域に中国の漁船と沿岸警備船が領海侵犯。
20日大統領,新しい任期の汚職撲滅委員会委員と新設の監督会議委員を任命。
27日警察,汚職撲滅委員会捜査官ノフェル襲撃事件の実行犯2人を逮捕。

参考資料 インドネシア 2019年
①  国家機構図(2019年12月末現在)

(注)1)国家行政院(LAN),国家公文書館(ANRI),国家人事院(BKN),国立図書館,中央統計庁(BPS),国家標準化庁(BSN),原子力監視庁(Bapeten),国家原子力庁(Batan),国家情報庁(BIN),国家コード院,国家家族計画調整庁(BKKBN),国家宇宙航空庁(LAPAN),国土地理院,財政開発監督庁(BPKP),国家科学院(LIPI),技術評価応用庁(BPPT),食品・薬品監視庁(BPOM),国家情報院(LIN),国家防衛研修所(Lemhanas),文化観光振興庁(Budpar)などを含む。

2)第2期ジョコ・ウィドド政権の発足に伴い,省庁の再編が行われた。文化・初中等教育省が教育・文化省に,研究・技術・高等教育省が研究・技術省に,観光省が観光・創造経済省に再編された。また,所管する調整大臣府が変更された省庁もある。

②  「先進インドネシア内閣」(Kabinet Indonesia Maju)閣僚名簿(2019年12月末現在)

(注)1)出身組織の略称は以下のとおり。PDIP:闘争民主党,Golkar:ゴルカル党,PKB:民族覚醒党,NasDem:ナスデム党,PPP:開発統一党,Gerindra:クリンドラ党。

③  国家機構主要名簿
④  2019年大統領選・総選挙の結果

(注)登録番号15~18の政党は,アチェ州内の地方議会議員選挙のみに参加するアチェ地方政党のため省略。

主要統計 インドネシア 2019年
1  基礎統計

(注)1)人口は中央統計庁(BPS)による推計値。2)労働力人口は,15歳以上の労働可能人口を指す。労働力人口と失業率は8月時点の調査結果。3)消費者物価上昇率は12月時点での前年比。

(出所)BPSのウェブ資料,Bank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia, ウェブ版。

2  支出別国内総生産(名目価格)

(注)小数点以下を四捨五入したため,合計数値が合わないものがある。2010年から2008SNA適用。1)暫定値。2)速報値。

(出所)BPSのウェブ資料。

3  産業別国内総生産(実質:2010年価格)

(注)小数点以下を四捨五入したため,合計数値が合わないものがある。1)暫定値。2)速報値。

(出所)表2に同じ。

4  国際収支

(出所)Bank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia, Statistik Utang Luar Negri Indonesia, ウェブ版。

5  国・地域別貿易

(注)ASEANは10カ国の合計。輸出額・輸入額とも本船渡条件(FOB)価格での表示。

(出所)Bank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia, ウェブ版。

6  政府財政

(注)2016~2019年は執行分。2020年は予算。

(出所)2016~2018年はBank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia,2019~2020年は財務省,APBN KITA2020 Januari,Nota Keuangan Anggaran tahun 2020。

 
© 2020 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
feedback
Top