IMFの世界経済見通し(2020年4月)によれば,2019年の先進国・地域の経済成長率が1.7%だったのに対して,アジアの新興市場国・発展途上国は5.5%の成長を遂げました。2018年後半以降に多くの国で景気が低迷し,2019年も世界経済の不振が続くなかで,依然としてアジアは世界で最も高い経済成長を遂げた地域となっています。
しかし前年から続く米中貿易摩擦や一部の国における政治不安,また地政学的な緊張により,アジアを取り巻く環境は2019年に入り不確実性を増したといえます。とくに米中貿易摩擦は2019年末に両国間で一応の合意をみたものの,根本的な解決には至っていません。アメリカのトランプ政権は中国だけでなく,アジア各国に対しても経済的圧力を強めており,アメリカとアジア各国の貿易摩擦がさらに激化すれば,地域経済全体に負の影響を及ぼすことになります。さらに,2019年末には中国の武漢で新型コロナウイルスが発生し,2020年に入っても世界的な感染拡大傾向は止まらず,世界経済への影響は計り知れません。
このように不確実性が高まる時ほど,各国の動向を正確に把握し,分析することが求められるはずです。アジア経済研究所では,アジア各国の政治,経済,対外関係に関する動向を的確に伝えることを目的に,1970年以降毎年『アジア動向年報』を発行しています。本年報では現在,23のアジアの国・地域およびアメリカの対アジア関係をカバーし,各国・地域を長年観察してきた研究者が現地の一次資料や現地調査に基づいて動向を分析するだけでなく,その歴史的背景や意味についても明らかにし,アジア各国の「今」を理解するうえで有用な情報の提供に努めています。
なお,本年報は研究所ホームページや電子ジャーナル無料公開サイトJ-STAGE上でも閲覧可能となっています。本年報が,複雑化し不確実性が高まる世界におけるアジア地域・諸国の現状を理解するための一助となることを願っております。
2020年6月