アジア動向年報
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
各国・地域の動向
2020年のマレーシア 選挙なき政権交代を実現するも,前途多難な新政権
谷口 友季子(たにぐち ゆきこ)
著者情報
解説誌・一般情報誌 フリー HTML

2021 年 2021 巻 p. 315-340

詳細

2020年のマレーシア

概 況

2020年のマレーシアは,2018年総選挙以来の突然の政権交代に加え,新型コロナウイルス感染症の感染拡大という政治,経済,社会いずれの側面でも前例のない事態に直面し続けた。

2月末,希望連盟(Pakatan Harapan)政権が過半数の下院議員の支持を維持できなくなったことから政権交代に至り,国民同盟政権(Perikatan Nasional:PN)が成立した。ムヒディン・ヤシン首相率いる新政権は,新型コロナウイルス感染拡大の抑制という課題に早速直面することとなった。政府は3月に「活動制限令」(Movement Control Order:MCO)を全土に発し,必要不可欠なサービスを除く社会経済活動を停止させることで対応した。状況の改善に応じて段階的に制限は解除されたが,10月以降,新規感染者数が急増した。一方,与党内ではマレーシア統一プリブミ党(Bersatu)に対する統一マレー人国民組織(UMNO)の不満がしばしば湧き上がり,与野党が連立工作を繰り広げるなど,不安定な政治状況は継続している。

経済面では,2009年の世界金融危機以来のマイナス成長,かつ1998年のアジア通貨危機に次ぐ下落幅となり,実質国内総生産(GDP)成長率は前年の4.3%からマイナス5.6%へと大きく下降した。こうした新型コロナウイルス感染症拡大の経済への影響を軽減するため,政府は5回にわたって景気刺激策を発表した。

対外関係では,外国人労働者が多く居住する集合住宅などでクラスター感染(小規模な患者の集団)が頻発し,ロックダウン(都市封鎖)下での住民への対応において諸外国の大使館に積極的な関与を求めた。中国とは南シナ海をめぐる問題が継続している。またシンガポールとクアラルンプールを結ぶ高速鉄道(HSR)建設計画は撤回されることが決定した。

国内政治

希望連盟政権の崩壊と「選挙なき政権交代」

2019年は与党内での不和や補欠選挙での敗北が続き,希望連盟政権の不安定性が目立った1年であったが(『アジア動向年報2020』参照),2020年も年初から波乱含みの幕開けであった。1月2日,ジャウィ書写授業をめぐる混乱などの責任を取ってマズリー・マリク教育大臣が辞任し,18日にはサバ州の連邦議会下院補欠選挙で野党UMNOが勝利した。

そして,2月初めにザヒド・ハミディUMNO総裁が同党とマハティール首相が会長を務めるBersatuとの連携により,UMNOの政権復帰と新政権樹立を画策しているというUMNO幹部の告発を契機として,政界再編の可能性が表面化した。前年から続くマハティール首相の後継をめぐる問題や人民公正党(PKR)内でのアンワル・イブラヒム総裁とアズミン・アリ経済相との対立に乗じて,こうした連立組み換え工作が湧き起こったのである(『アジア動向年報2020』参照)。とはいえ,この時点では水面下での政治家のやり取りについて,マスコミが憶測を交わすのみであった。

政界再編が現実的となったのは,2月23日日曜日である。午前中からBersatu最高評議会とPKRのアズミン派,さらに午後にはUMNO最高評議会,と各党・派閥の臨時会合が続々と行われたことで,連立の組み換えが行われるという観測が強まった(アズミン派のこの会合がクアラルンプール郊外のシェラトンホテルで行われ,ここに他の政党の幹部が合流する展開となったため,一連の政界再編は「シェラトン・ムーブ」と呼ばれている)。同日夕方,与党であるBersatu,PKRアズミン派,サバ伝統党(Warisan)が野党のUMNO,汎マレーシア・イスラーム党(PAS),サラワク政党連合(GPS)とともに,すなわち6党・派の指導者で王宮へ赴き,国王に対しマハティールを首相とする新しい連立政権の結成を申し立てた。しかし,首相として担がれたマハティール自身は今回の連立組み換え,とくにUMNOのナジブ元首相らとの共闘を支持しておらず,同月24日に首相およびBersatu会長を辞任した。国王は,次の首相を任命するまでの暫定首相としてマハティールを任命した。

マレーシアでは,国王が下院議員の過半数の支持を得る議員を判断し,首相として任命すると連邦憲法で定められている。そこで,国王は誰が過半数の支持を得るのか把握するため,同月25日から26日にわたって全下院議員と面会した。ところが,この2日間で希望連盟,与党造反組,野党の各陣営が推す首相候補は変遷した。当初,いずれの陣営もマハティールを首相候補としていたが,希望連盟は26日にアンワルPKR総裁のもとにまとまる一方,27日には与党造反組と野党がムヒディンBersatu総裁を軸に動き始めた。国王は全下院議員との面会では過半数の支持を得る候補者を判断できなかったとして,同月29日に再び各政党の党首と面会すると発表した。そして,Bersatu,24日にPKR離党を発表していたアズミン率いるグループ,UMNO,PAS,GPSの幹部が29日午前に王宮を訪れ,ムヒディンBersatu総裁を首相候補として国王へ推薦した。これらの与党造反組と野党で,下院定数222のうち115人となり過半数となったため,同日国王はムヒディンを首相に任命したのである。マハティールと希望連盟は28日から29日にかけて,再びマハティールを首相として協力する方向へ合意し,Warisanも加わったが,先に過半数の獲得が確実であったのは与党造反組と野党であった。ムヒディンの首相任命が発表された後も,マハティールらは希望連盟こそが過半数の支持を得ているとして再度面会を求めたが,国王が決定を覆すことはなかった(一連の政界再編の詳しい経緯については,中村正志「ドキュメント『マレーシア2020年2月政変』」『IDEスクエア』2020年3月を参照)。

希望連盟政権の崩壊の背景には,有権者の急速な与党離れがあった。世論調査会社ムルデカ・センターの調査(2020年9月2日付)によれば,2019年10月以降,マハティール首相への支持率は不支持率を下回り,2020年2月の政権交代前には37%となっていた。とくにマレー系を中心とする支持の低下は,2019年11月の補欠選挙でのBersatuの敗北からも明らかであり,次回総選挙での後退が危惧されていた。そのためムヒディンは野党との合流を,マハティールは野党を取り込んだ統一政府を志向したとみられ,こうした動きは他の与党3党との亀裂をますます深めた。また一連の連立工作は,政治家個人および政党間の遺恨により複雑化した。2018年総選挙での政権交代後まもない時期から,首相後継に関してマハティールとアンワル,アンワルとアズミンの不和が表面化していた。さらに,Bersatu結成の原因となったマハティールとナジブ元首相らの深い対立や,UMNO,PASと民主行動党(DAP)というマレー・ムスリム政党と非マレー・非ムスリム政党間での積年の対立は,マハティールの統一政府構想の実現を阻んだ。

かくして,「選挙なき政権交代」で1年10カ月続いた希望連盟政権は崩壊し,PKR離党者を含むBersatu,UMNOを中心とする国民戦線(Barisan Nasional),PAS,サバおよびサラワク州の政党・グループで構成され,ムヒディンを首相とする国民同盟(PN)政権が誕生した。

しかし,必ずしもPN政権の成立によって,マレーシアの政情が安定したわけではなく,2020年を通じて与党内,与野党間での衝突が続いた。政権安定化の難しさは,組閣にも表れていた。ムヒディン首相は3月9日に新内閣の顔ぶれを発表したが,史上初めて副首相職を置かず,代わりに4人を上級大臣として登用した。潜在的な対抗者の出現や政権内でのUMNOやPASなどの影響力の増大を防ぐ目的とみられる。また,財相には民間から金融業CIMBグループのCEOであったザフルル・アジズを登用し,前政権の方針を引き継ぎ,財相を首相が兼任することを避ける一方,財相にマレー系を求めるUMNOの声にも応じるかたちとなった。同時に,非党派の民間人の登用は,前政権下で省へ改組された経済省を再び首相府直下の部局に戻した措置とともに,経済政策の決定において与党内の政党間関係による影響を排除し,首相の影響力を強める狙いがあるとみられる。

政権交代以降の与野党の攻防

2月の政権交代を経ても,2020年内を通じて与野党勢力ともに不安定な状況が続いた。図1には,2020年末時点での与野党主要政党間の関係を示している。与党は,ムヒディン首相率いるBersatuとUMNOの間での不和によってPNとして公式にまとまることが困難になっている。一方,野党側では,PKRのアンワルを中心とする希望連盟3党とマハティールらの新党は与党PNへの対抗という目的では一致しているものの,足並みの乱れが目立つ。マハティールとアンワルの長年の確執や後述するアンワルとUMNOの協力の模索が野党勢力の団結を阻んでいる。

図1 2020年末時点での政党間関係

(出所)筆者作成。実線は結社登録局に登録された政党連合,点線は未登録の政党連合。

政権交代以降のこうした政党間関係を順に確認していく。まず野党勢力では,2月の政変の終盤においてマハティールとアンワルら希望連盟は一旦結集したものの,政権交代が実現し巻き返しが不可能な状況となると,分裂していった。マハティールと彼を支持する議員5人は,UMNOとの共闘を拒否し,PNを支持しないとしたものの,PN政権成立後も,しばらくムヒディン首相が総裁を務めるBersatuに所属している状態であった。5月末になりBersatuは,彼らが5月18日に招集された下院で野党側の座席に座ったことをもって,党員資格が無効となったと発表した。その後,マハティールや息子のムクリズらは8月に新党・祖国戦士党(Pejuang)を結成した。新党はマレー人の政党であり,与野党どちらの政党連合とも連携せず,第三極として汚職や権力乱用と闘うとしている。マハティールらと同様にBersatuを離れ,Pejuangに参加するとみられていた前青年・スポーツ大臣のサイード・サディクは,合流せずに新党・マレーシア統一民主連盟(MUDA)を結成した。MUDAは若年層を中心とする多民族政党として結成され,設立者には若手の起業家や弁護士,市民活動家らが名を連ねた。

与党内では,PN政権の樹立に大きく貢献したUMNOが,政権発足後はBersatuと距離を置いた。与党PNは2月の政変で新たに結成された連合であるため,政権発足後にその公式な登録が目指された。5月の下院開会にあわせて,Bersatuを中心にUMNO率いる国民戦線やPASなど与党各党は,PN政権を支持し協力するという覚書を結んだ。8月の連合としての登録申請時にはPASとサバ州の地域政党2党がPNの構成政党として公式に加入したものの,UMNO率いる国民戦線は加入を拒否した。他方で,UMNOとPASが2019年に結成したマレー・ムスリム政党連合・国民合意(Muafakat Nasional)も別個に存続しており,UMNO幹部はしばしばこの連合を強化する意思を示した。同じく8月にBersatuが国民合意へ加入したと発表されたが,10月の結社登録局への国民合意の申請時にはBersatuは構成政党に含まれていなかった。UMNOがBersatuに対して遠心力を働かせるのは,BersatuがUMNOから分裂した政党であるために両党の支持基盤が重複しており,遠からず行われる次回総選挙での候補者調整が困難であることに起因している。

野党PKRのアンワル総裁は,こうした状況を利用し,PN政権を打ち崩そうとしばしば試みた。PKRは前与党の希望連盟として,DAPと国家信託党(Amanah)との協力を継続している一方で,アンワルはUMNOと共闘する方向性を模索していた。9月末,アンワルは会見を開き,自身が過半数以上の下院議員の支持を得ておりPN政権は崩壊すると発表した。さらに,ザヒドUMNO総裁も,アンワルによる新政権樹立を支持するという多くのUMNO議員の決定を尊重するという声明を出した。しかし,アンワルを支持するUMNO議員の数や名前が明らかにされることはなく,UMNO側からは反論の声が相次いだ。政治対立を諫める国王の声明もあり,一旦事態は収束した。11月から行われた下院での2021年度予算案の審議では,アンワルやマハティールなど野党勢力が否決を目指したものの,後述のとおり内容の修正を経て法案は可決されている。しかし,政権を支持する下院議員の総数は過半数を数人超える程度であり,ムヒディン首相は綱渡りの政権運営を強いられているといえる。

新型コロナウイルス感染症拡大への対応

3月に誕生したPN政権にとって最初の,そして喫緊の課題となったのが,新型コロナへの対応である。マレーシア国内では,2020年内におおむね3回の新型コロナ感染拡大の波があった。最初の流行は1月末から2月半ばにかけてであり,中国からの観光客を中心に感染者が発生した。第2波は2月末から6月にかけて生じ,市民間での感染が本格化した。感染拡大の発端となったのは,2月末から3月初めに首都郊外スリ・ペタリンで行われた大規模宗教集会でのクラスターであった。この集会はイスラム教団体「タブリーグ・ジャアマト」によるもので,海外からの参加者1500人を含む約1万6000人が参加していた。このクラスターでは,派生したサブクラスターを合わせて3375人の感染者が発生した。第2波では1日当たりの新規感染者数が100~200人前後であったが,9月末以降の第3波では1000~2000人以上と大幅に増加しており,2021年に入っても収束の兆しはみえていない。第3波では,不法移民を拘留した収容所内でのクラスターの発生を契機に,後述する州議会選挙に合わせた州内・州間移動の増加もあってサバ州での感染が急拡大した。さらにスランゴール州の手袋メーカー・トップグローブの従業員間やクダ州の刑務所内でのクラスター感染の発生などによって,全国的な新規感染者数の増加につながった。

こうした新型コロナ感染拡大に対し,政府は,ロックダウンの措置を段階的に講じることで対応してきた。第2波では,3月16日にムヒディン首相が「活動制限令」(MCO)を同月18日から全土へ発出することを発表した。1988年感染症予防管理法と1967年警察法に基づき,全国での移動および集会の制限,出入国の制限,全教育機関の閉鎖,医療,警察,インフラなどの必要不可欠なサービスと生活必需品の販売店舗を除く政府および民間の事業所の閉鎖などの措置がとられた。市民の外出や移動は,前述の仕事に従事する場合や,生活必需品の購入や飲食物の持ち帰り,医療を受ける場合を除いて禁止となった。生活必需品の販売店や飲食店の営業時間や同行者の制限なども実施され,警察が違反とみなした場合には,罰金刑か禁固刑あるいはその両方が科されることになった(罰金刑は違反の抑止に効果が無かったとして,4月半ばより反則金の徴収ではなく,逮捕・拘留の処置に変更された)。さらに,大規模なクラスターが発生し,感染拡大の制御が必要と判断された地区や建造物に対しては,少なくとも2週間の「強化された活動制限令」(EMCO)が下され,行政からの食料支給のもとで軍や警察を動員して全住民の外出禁止および住民以外の立ち入りの禁止措置がとられた。

こうした措置が奏功し,4月後半より1日当たりの全国新規感染者数が100人を切るようになったため,5月4日から段階的に経済活動の再開を許可する「条件付き活動制限令」(CMCO)が各州の状況に応じて適用された。大規模な集会の実施は依然として制限されるものの,保健省の定める標準運用手順を遵守することによって企業活動や外出を伴う市民の活動が許可された。6月には,「回復のための活動制限令」(RMCO)として制限をさらに緩和し,夜間市場や州間移動も再開された。その後新規感染者数が1桁の日が続くなど,9月まで小康状態が続き,新型コロナウイルスの蔓延を抑え込んだかと思われた。しかし,前述のとおり9月末頃より再び感染が広がり,第2波での流行を超える状況となった。

そこで,10月末,ムヒディン首相は全国での非常事態宣言の発令を国王に要請した。国内全土を対象とする非常事態宣言の発令は1969年の民族暴動以来であり,議会の招集停止や選挙の実施延期を伴いうる。同時期に前述のとおり政治対立が再燃していたことから,この要請には感染拡大の防止だけでなく,政権崩壊を食い止める政治的目的もあったとみられる。しかし,国王は,非常事態宣言の発令を必要とする状況にはないと判断して首相の要請を却下する一方,与野党の政治家に対し政府を脅かす政争を止め,2021年度予算案の審議に協力するよう呼びかけた。与野党の政治家はともに国王の意向を受け入れると表明し,政府は12月初めに予定されていたサバ州バトゥ・サピ選挙区での下院補欠選挙を,当該選挙区に限定した非常事態宣言を発令することによって延期した。

マレーシアでは,連邦憲法の規定上,国王が首相や閣僚の任命などの権限を有しているものの,従来国王個人の意向が政治過程に反映されることはほとんどなかった。しかし,2月の政争で調停役や首相の選任を担い,ムヒディン首相による非常事態宣言の要請を退けるなど,国王の判断が要所で決定的な影響を及ぼすようになった。こうした国王の影響力の拡大は,与野党の勢力が伯仲して多数派の形成が難しく,政治状況が不安定となっていることから生じているといえる。

地方政府での政権交代ドミノ

連邦政府での政権交代に合わせて,一部の州政府においても連立の組み換えが生じた。連邦政府の交代に先んじて2月にジョホール州で,3月にはマラッカ州とペラ州で,5月にクダ州でそれぞれPNによる新しい州政権が成立した。いずれもBersatuの連立離脱だけでなく,希望連盟3党からの離党者が相次いだために,州政権が崩壊した。

また2020年は,希望連盟政権下であった1月に1回(サバ州キマニス下院選挙区),政権交代後,新型コロナ感染が拡大した以降に2回(パハン州議会チニ選挙区,ペラ州議会スリム選挙区)の補欠選挙が実施された。

さらに,サバ州では9月末に州議会総選挙が実施された。UMNOのムサ・アマン元州首相が州議会議員の過半数の支持を得たと主張し,州知事に政権交代を直訴したことが発端であった。Warisanのシャフィ・アプダル州首相は州議会の解散を州知事に提案し,同意を得られたため,解散総選挙の実施が決定した。ムサは州知事による解散決定の無効を裁判所に申し立てたが,却下された。そこでムサ自身が州議会選に立候補するものとみられたが,結局立候補はしなかった。

サバ州では,2月の連邦政府レベルでの政権交代以降も,2018年総選挙で州議会の過半数を獲ったWarisanと希望連盟などが州政権を担っていたため,連邦与党であるBersatuやUMNOが野党勢力として挑む選挙となった。与党側では,Warisan,希望連盟所属政党,統一進歩キナバル組織(UPKO)が与党連合ワリサンプラスとして協力し,野党側ではBersatuらのPNとUMNO率いる国民戦線,サバ統一党(PBS)がサバ人民連合(GRS)を組んだ。その他にも複数の地域政党が第三極として加わり,新設の13選挙区を含め,全73議席を争った結果,GRSが38議席を獲得して勝利し,32議席のワリサンプラスは下野することとなった。両陣営は州全体の得票率ではGRSが43.42%,ワリサンプラスが43.21%と僅差であったが,9の新設選挙区でGRSが勝利し,先住民を支持基盤にもつUPKOが5議席中4議席を失ったことでこうした結果につながった(The Star,2020年9月28日)。州首相の選出にあたっては,UMNOとBersatuが衝突し,交渉を要した。UMNOが14議席と,11議席のBersatuよりも多く獲得していたものの,Bersatuのハジジ・ヌールが州首相に就任するに至った。

経 済

アジア通貨危機に次ぐ水準の大幅なマイナス成長

2020年の実質GDP成長率は,新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴うMCOの実施によって経済活動が制限された影響を受け,前年の4.3%から-5.6%に大きく縮小した。直近でマイナス成長を記録した世界金融危機の2009年(-1.5%)よりも下げ幅は大きく,アジア通貨危機が起きた1998年(-7.4%)に次ぐ経済の縮小となった。各四半期(前年同期比)では,第1四半期の0.7%から,MCOが実施された第2四半期には-17.1%と1998年第4四半期の-11.2%を超える史上最大の下落率となった。第3四半期以降も移動制限の緩和や再強化の影響を受け,-2.6%,-3.4%と低調に推移した。

従来経済成長を支えてきた民間消費支出は,大きく落ち込んだ。第1四半期こそ前年同期比で6.7%増であったが,移動制限の影響や雇用や所得状況の悪化により,第2四半期には18.5%減となった。第3四半期には2.1%減と下げ幅が縮小し,移動制限の段階的な解除や賃金助成の効果があったとみられるが,第4四半期は新型コロナ感染拡大の第3波で移動制限が強化された影響もあって,4.1%減となった。他方,政府消費は前年同期比で第1四半期から5.0%増,2.3%増,6.9%増,2.7%増で推移し,緩やかではあるが拡大している。粗固定資本形成は通年で縮小し,民間投資は第2四半期の前年同期比26.4%減を含め,通年で11.9%減と前年の1.6%増と比べ大きく落ち込んだ。政府投資は,支出削減の影響から前年も通年で10.8%減であったが,今年は通年で21.4%の減少とさらに落ち込んだ。財・サービス貿易では,輸出および輸入は通年でそれぞれ8.8%減,8.3%減となった。純輸出でみると,通年で12.3%減少したものの,製造業の輸出に支えられ,第3~4四半期では前年同期比で21.9%増,12.4%増となった。

産業別では,サービス業(5.5%減),製造業(2.6%減),農業(2.2%減),鉱業(10.0%減),建設業(19.4%減)のいずれのセクターでも通年で前年より減少した。しかし,製造業に関しては,半導体部品の需要増加に伴う世界的な品薄状態から受注が増加し,第3四半期以降は前年同期比でそれぞれ3.3%増,3.0%増と拡大した。サービス業では観光業の低迷,農業や建設業では外国人労働者の入国制限に伴う労働力不足と,新型コロナ蔓延による経済活動への影響が続いている。

通関ベースの輸出入額では,輸出が9809億8800万リンギと前年比1.4%減,輸入は7961億9410万リンギと前年比6.3%減となった。第3四半期以降,経済活動の再開と外需の回復により,輸出は増加に転じた。とくに,輸出先としては中国およびアメリカ,品目としては電子電機部品・製品や手袋などのゴム製品,パーム油や関連製品の輸出が拡大している。輸出入総額は減少したが,輸入の落ち込みによって貿易収支は1847億9390万リンギの黒字となった。

消費者物価指数(CPI)の変化率は,第1四半期の0.9%から第2四半期に-2.6%に下落し,その後も-1.4%,-1.5%と推移した。国際的な原油価格の大幅下落に伴う国内のガソリン価格下落の影響が大きかった。マレーシアリンギの為替レートについては,新型コロナの感染拡大と国際的な原油価格の下落による財政悪化の懸念から,3月に対ドル相場で一時1ドル4.4リンギ台まで下落したが,徐々に回復し,年末には1ドル4.0リンギ台まで推移した。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気悪化への政府の対応

政府は2020年2月以降,5回にわたり景気刺激策を発表した。中国での新型コロナウイルス感染拡大,国内での感染拡大に伴う全土でのMCOの実施,段階的解除といった状況に応じて,マハティール暫定首相のもとで1回,PN政権への交代後は4回の景気刺激パッケージが打ち出された。

第1弾は2月27日に発表された。中国を中心に新型コロナの感染が拡大していることを受け,2月に入り希望連盟政権下で景気刺激策が検討され始めた。2月中は国内では感染がそれほど広がっていなかったため,観光業への打撃と輸出鈍化への対応が中心となった。具体的には,(1)外国人観光客の減少に影響を受ける観光業への支援,(2)中国のサプライチェーンの混乱によって影響を受ける輸出産業を支えるための国内消費の喚起,(3)公共投資の継続と実施の迅速化や民間投資の促進に重点が置かれた。そして政府は,観光関連産業への低金利融資,観光関連の自営業者に対する給付金,被用者積立基金(EPF)への拠出金割合の引き下げなどの施策に約200億リンギを割り当てた。

その後,政権交代と並行して国内で新型コロナの感染が拡大し,3月16日からMCOを全国で実施したことを踏まえ,ムヒディン首相は27日に国民経済刺激策(Prihatin)を発表した。(1)国民の生活や福祉の維持として1280億リンギ,(2)中小企業を含む企業支援に1000億リンギ,(3)経済成長の強化に20億リンギをそれぞれ割り当て,上述の第1弾を含め,総額約2500億リンギに上る予算規模となった。ただし,直接の財政支出によって賄われたのは,250億リンギ分のみである。Prihatinでは,第1弾でも行われた医療関係者などへの特別手当の追加支給や個人および企業の金融機関からの借り入れに対する支払い猶予の拡大に加え,賃金補助金の給付,低・中所得者層などへの現金給付などを掲げた。また2020年度予算で割り当てられていた東海岸鉄道(ECRL)や首都圏鉄道事業(MRT2号線)の建設は,予定どおり継続されることが明記された。

さらに政府は,関連団体からの要望を受け,中小企業向けの追加措置として約100億リンギを割り当てる追加経済刺激策(Prihatin SME+)を4月6日に発表した。中小企業は国内の雇用の3分の2以上,GDPの約40%を占めている。ここでは賃金補助金の対象拡大や零細事業者への特別助成,外国人労働者を雇用する企業が支払う雇用税の引き下げなどが盛り込まれた。

5月以降,CMCOへと移行し,段階的に経済活動が再開されるなかで,政府は6月5日に短期での経済状況の改善を目指す国家経済再生計画(Penjana)を発表した。一連の景気刺激策に引き続き,(1)国民,(2)企業,(3)経済環境に向けて約350億リンギ(40施策)を充当し,うち100億リンギを政府からの直接の財政出動とした。賃金補助金の給付期間延長,失業者や新卒の新規雇用や研修プログラムに対する補助金,個人/法人向けのさまざまな税減免措置などの施策を講じた。9月23日には,総額100億リンギの国民経済刺激策補足イニシアティブパッケージ(Kita Prihatin)のもとで,中小零細企業や低・中所得者層への助成金および現金給付,賃金補助金プログラム第2弾の実施を発表した。

11月に下院へ提出された2021年度予算についても,これまでの景気刺激策を踏襲し,新型コロナの感染拡大に影響を受けた経済や国民生活への支援策が中心となった。GDPの約20%にあたる総額3225億リンギが充てられ,前年の当初予算2970億リンギを上回る過去最大規模の予算となった。

前述した与党内および野党との対立により,予算審議はこれまでになく紛糾した。政府は,与野党の激しい突き上げに応えるかたちで11月初旬にザフルル財相が演説した当初の予算案に修正を加え,改定した案をもって下院の採決を行うに至った。修正点は,(1)EPFの一部引き出し(i-Sinarプログラム)の対象拡大,(2)低所得者層および中小企業のローン返済猶予延長,(3)再設置される政府の宣伝部門への割当減額,(4)医療関係者など最前線の労働者に対する特別手当の追加支給,(5)新型コロナウイルスの感染がとりわけ拡大しているサバ州に対する5000万リンギの追加割当という5点であった。

こうした多方面への包括的な経済支援策によって,財政支出は拡大している。2009年の世界金融危機以降,マレーシアでは政府債務残高が急拡大してきたため,過去の政権は財政健全化を重要課題としてきた。しかし,新型コロナの蔓延による経済への影響軽減には景気刺激策に注力するほか手立てはなく,政府は「新型コロナウイルスに関連する2020年政府財政一時措置法」を制定し,財政規律として定めていた政府債務残高の上限値であるGDP比55%を2022年末まで60%に引き上げることを定めた。上限値引き上げは,2009年の世界金融危機時に10ポイント引き上げGDP比55%に変更して以来のことである。

さらに同法では,同様に2022年末までの時限措置として,政府支出内での新型コロナウイルス基金の新設を定めた。景気刺激策への割当やワクチン調達,供給の費用など,新型コロナに関連する支出をこの基金から賄う目的で,2021年度予算では650億リンギが割り当てられた。拡大する新型コロナ関連支出を通常の予算配分とは別建てで一元的に管理し,透明性を高めることを政府は意図していた。しかし,2020年12月には,財政状況の悪化と前述の政治的不安定を理由に,格付け会社大手のフィッチ・レーティングスがマレーシアの信用格付けを「A-」から「BBB+」へ格下げしており,PN政権は政局のみならず,経済や財政の運営においても難しいかじ取りを迫られている。

医療用手袋の需要増大と外国人労働者問題

産業界では,世界最大のゴム手袋生産メーカーである国内企業のトップグローブが注目を集めた。新型コロナウイルスの蔓延により合成ゴムやニトリル製の医療用手袋,医療用フェイスマスクなどの需要が世界中で急増し,2020年9~11月期の決算では,前年同期比で売上高が約4倍(約48億リンギ),純利益が約20倍(約24億リンギ)を記録した。この四半期のみで,過去最高益であった前年度の通年の純利益を上回り,今後も手袋需要の拡大は続くと予測されている。

しかし,そうした好況の一方で,生産に従事する外国人労働者への処遇に対し国際的に非難が高まった。7月15日,アメリカ税関・国境管理局は,強制労働の疑いからトップグローブの子会社2社が製造した製品の輸入差し止めを命じた。同社は,この差し止め命令は外国人労働者が雇用仲介業者へ支払う仲介料の問題に起因しているとみており,年初より同社が仲介料を負担し,現在は2019年1月以前に労働者が支払った仲介料の遡及支払いに取り組んでいるという。6月にも,イギリスの公共放送チャンネル4が,トップグローブの製造現場では外国人労働者が低賃金や過重労働といった劣悪な環境に置かれていると報じている。

さらに,かねてより諸外国から人権侵害にあたると指摘されていた不衛生で過密な外国人労働者の居住環境が原因となり,新型コロナの集団感染が起きた。スランゴール州クランにあるトップグローブの製造工場および従業員宿舎での感染を発端とする「テラタイ・クラスター」は約6200人の感染者を出し,国内最大規模の集団感染となった。同社は,国内にある41工場のうちクラン周辺に位置する28工場の操業を11月17日から段階的に停止し,全工場での稼働を再開できたのは翌年1月4日であった。

北米地域はトップグローブの売上高の3割近くを占める市場だが,アメリカへの輸入差し止め措置は2021年に入っても継続している。また同社の1.07%の株式を保有する資産運用大手ブラックロックが,2021年1月6日の株主総会において,外国人労働者の健康と安全に関する監督責任を怠ったとして,取締役6人の再任投票に反対票を投じた。取締役は全員再選したものの,外国人労働者の処遇改善は同社の生産や経営の安定性を向上させるうえで重要な課題となっている。

対外関係

新型コロナウイルスに関連する諸外国との関係

外国人労働者の住居や不法滞在者の収容先で新型コロナウイルスの感染クラスターが多数発生したことで,外国人労働者に対する劣悪な処遇があらためて明るみになり,国連や国際NGOからの非難が集まっている。3月から4月にかけて,クアラルンプール市内のマスジット・インディア付近の複数の集合住宅でクラスター感染が発生し,当該建物がEMCO下に置かれた。これらの住民数千人のうち7割以上が外国人労働者であった。国防相は,政府は食糧の調達などを支援すると述べる一方で,住民が必要な援助を受けられるように責任を負うのは各国大使館であるとの認識を示し,関連行政機関への協力を求めた。これを受けて,インド,パキスタン,ネパールなどの各国大使館が保健省や福祉局,市役所,NGOなどと連携し,支援に乗り出した。

新型コロナウイルスワクチンの調達については,政府は10月にカイリー・ジャマルディン科学・技術・イノベーション相とアダム・ババ保健相を共同委員長として,ワクチン供給アクセス保証特別委員会を設置した。委員会主導でワクチンの選択,交渉,登録認可,運輸,配布が実施される。12月末には,ワクチンを共同購入する国際的な枠組みであるCOVAXファシリティへの参加に加え,ファイザーおよびアストラゼネカと直接交渉しそれぞれ調達が決定しており,さらに中国のシノヴァクとカンシノ,ロシアのガマレヤと交渉中であることが明らかにされた。政府が目標とする人口の約80%(合計2650万人)をこれらのワクチンでカバーできる予定であり,2021年2月から無料接種プログラムを開始し2022年2月までの完了を目指している。

南シナ海問題が続く中国との関係

中国との間では,南シナ海海域をめぐる問題が継続している。4月,ボルネオ島沖の排他的経済水域内で資源探査を行っていた国営石油会社ペトロナスの掘削船が,海域へ渡航してきた中国政府の海警艇や測量船と対峙した。さらに,2019年末に政府が国連に要請したボルネオ島沿岸の大陸棚限界画定に対し,中国側が反論したことを受け,中国の主張する「九段線」には国際法上の根拠がなく,中国からの反論を全面的に拒否するという口上書を政府は7月に国連に提出した。ヒシャムディン・フセイン外相は,上記の事案の直後や以降の国会での質疑などで,南シナ海問題は外交交渉を通じて平和的に解決されなければならず,意図しない衝突を回避することが重要だという主張をマレーシア政府の姿勢として,一貫して強調している(The Star,2020年4月23日)。

シンガポールとの関係

シンガポールとの間では,両国のロックダウンに伴い,ジョホール州から国境を渡ってシンガポールに通勤していた約10万人のマレーシア人労働者に多大な影響が生じた。両国は8月に「相互グリーンレーン」および「定期的通勤アレンジメント」に合意した。前者により両国市民や永住者のビジネス目的の短期往来,後者により最短3カ月の労働従事後に一時帰国・再入国することが可能となった。

また,2018年の政権交代以降,計画実施が再検討されていたクアラルンプール=シンガポール間の高速鉄道(HSR)建設計画は撤回されることが決定した。両国は2020年5月までの計画中断に合意していたが,新型コロナの感染拡大により,その期限が12月末まで延長された。マレーシア政府は,新型コロナの影響を受けた政府財政の悪化から計画案の変更を提案したが,両国間で合意に至らず,12月31日の期限をもって,二国間協定が失効した。他方,ジョホール・バルとシンガポールを結ぶ高速輸送システム(RTS)については,2019年にマハティール首相が継続決定を表明しており,7月30日にムヒディン首相とシンガポールのリー・シェンロン首相の立ち会いのもと計画再開の記念式典が開催され,11月から建設が開始されている。

2021年の課題

2020年10月頃から続く新型コロナ新規感染者の増加は,2021年に入っても止まることはなく,1月12日,ムヒディン首相は8月1日あるいは感染収束までの全土への非常事態宣言の発令を国王に求め,承認された。これにより,連邦議会を一時停止し,6月に任期満了となるサラワク州議会などの選挙の実施を延期できることとなった。UMNO議員の離反により,与党PNを支持する下院議員は既に過半数を割っているという声もあり,非常事態終了後の与野党の動向,さらに解散総選挙の有無について注視する必要がある。

政府は,非常事態宣言と並行して1月13日から再度MCOを発出し,移動制限を課しており,2月からは順次ワクチン接種プログラムを実施する。感染拡大をどれほど抑制できるかが,上述の政治状況に加えて,経済,とりわけ成長をけん引してきた民間消費にも大きく影響を与えることとなる。電子電機製品・部品の輸出は今後も好調が見込まれるが,州間移動や国際的な人の移動の制限緩和が進めば,観光業を中心にサービス業も回復の可能性がみえてくるであろう。

対外関係では,国際的な非難が高まった外国人労働者や不法滞在者への処遇の改善が課題である。政府は2月に無料のワクチン接種プログラムの対象者に,外国人労働者や不法滞在者,難民申請者も含めることを決定した。一方で,2月末に入国管理局が不法滞在者として拘束していた約1000人のミャンマー人を本国へ送還した。送還者には少数民族や亡命希望者が含まれるとみられ,さらに軍が権力を掌握したミャンマーへの送還であるため,国連難民高等弁務官事務所や国際NGOからマレーシア政府に対する批判が再び強まっている。また中国との南シナ海問題については,ASEAN各国との協力が問題の進展に影響するとみられる。

(地域研究センター)

重要日誌 マレーシア 2020年
   1月
2日マズリー教育大臣,辞任。暫定の後任としてマハティール首相が兼任。
8日インド政府がマレーシアからの精製パーム油の輸入禁止を決定。カシミール問題や新たに成立した改正国籍法をマハティール首相が非難したことへの報復措置。政権交代後,政府間関係は改善し5月頃に再開。
13日バドミントン選手の桃田賢斗を乗せた車がクアラルンプール国際空港へ移動中に衝突事故。運転手が死亡,桃田らも入院。
15日キャッシュレス決済の使用を促進する「e-Tunai」プログラム開始。3社を通じて,前年の年収10万リンギ以下の利用者を対象に30リンギを付与。
18日サバ州キマニス下院選挙区補欠選挙で国民戦線UMNOのモハマド・アラミンが勝利。2018年総選挙時,選挙委員会の当該選挙区での開票作業に過失があり結果に影響を与えたと裁判所が認め,再選挙。約1万票を獲得した州与党サバ伝統党候補に対し,UMNOが約1万2000票を獲得。
22日中央銀行,政策金利(OPR)を0.25%引き下げ,2.75%へ。2011年以来の低水準。
   2月
4日パキスタンのイムラン・ハーン首相,来訪。マハティール首相と会談。
4日政府,今後35年を見据えた国内自動車産業の展開に関する計画「国家自動車政策」を発表。
23日ムヒディンBersatu総裁,ザヒドUMNO総裁,アズミンPKR副総裁,ジョハリGPS会長,シャフィWarisan総裁,ハディ・アワンPAS総裁が国王と面会後,シェラトンホテルで会合。
24日マハティール首相,辞任。併せてBersatu会長も辞任。
24日Bersatuが与党連合希望連盟を離脱。
24日アズミン副総裁とズライダ副総裁補がPKRから追放。下院議員9人がともにPKRを離党。
24日国王がマハティールを暫定首相に任命。
25日国王が下院の全議員と面会,誰を首相として指名するか聞き取り(~26日)。
26日マハティール暫定首相,テレビ演説。BersatuはPASとUMNOとの連合を組むために希望連盟を離脱したが,UMNOとの連合は受け入れられないため辞任した,どの政党にも偏らない統一政府を組みたいと発言。
27日ジョホール州スルタンが州議会議員との面談を終え,BersatuとPAS,BNによる新しい連立州政府の樹立を発表。
27日新型コロナウイルス感染症拡大による経済への影響を軽減するため,暫定首相が経済刺激策を発表。
28日トミー・トーマス司法長官,辞任。
29日国王はBN,PAS,Bersatuら国家同盟(PN)が支持するムヒディン・ヤシンBersatu総裁を第8代首相に任命。
   3月
1日ムヒディン首相,王宮で就任宣誓。
3日中央銀行,OPRを2.5%へ引き下げ。
6日イドルス・ハルン元連邦裁判事,司法長官に任命。
6日ラティーファ・コヤ汚職防止委員会(MACC)委員長,辞任。
9日ムヒディン首相,新内閣を発表。閣僚のうち4人を上席大臣としたものの,副首相を選任せず。
9日マラッカ州でUMNOのスライマン・アリが新州首相に就任。連邦での政権交代により州政権が崩壊し,Amanahのエイドリー・ザハリ州首相が同月3日に解任されていた。
9日Bersatuのファイザル・アズムペラ州首相がBersatu,UMNO,PASによる新州政権の樹立を発表。DAPから2人,PKR,Amanahから各1人離党しPN支持に回ったため。
9日アザム・バキ元MACC副委員長,新委員長に任命。
10日新内閣31人が国王に就任宣誓。
10日ペラ州首相のファイザル・アズム,辞任。UMNOとPASがそれぞれ異なる候補を首相指名したため。13日に再度就任宣誓。
16日政府,新型コロナ感染拡大抑止のため活動制限令(MCO)を同月18日から施行すると発表。同日時点で国内の総感染者数が553人となり,東南アジアで最多。
24日中央銀行,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,個人および中小企業向けのローンや融資の返済について6カ月の猶予期間を設けると発表。4月1日から適用。
25日政府,MCOを4月14日まで2週間延長すると発表。
27日ムヒディン首相,新型コロナウイルスの流行拡大に伴い,追加の経済刺激策「Prihatin」を発表。前月末にマハティール暫定首相が発表していた200億リンギの経済刺激策を含む,総額2500億リンギ相当。
27日政府,感染者数がとくに多い地区で強化された活動制限令(EMCO)を適用すると発表。期間中住民は外出不可,住民以外は地域に立入禁止,当局が住民に食料提供を行う。
   4月
1日政府,PAS総裁アブドゥル・ハディ・アワンを大臣級の中東地域特使に任命。
6日首相,賃金保障の拡大や中小零細企業向けの助成など100億リンギ規模の追加の経済政策を発表。
10日政府,活動制限令をさらに4月28日まで2週間延長すると発表。
14日首相,新型コロナ対策に関するASEAN特別サミット(オンライン)に出席。
15日教育省,9~10月に実施予定だった国内統一試験のUPSR(初等教育到達度試験),PT3(中等教育3年次評価)の中止を発表。SPM(中等教育修了試験)などは2021年第1四半期に,STPM(大学入学資格試験)も5月から8月へ実施を延期。
23日政府,活動制限令をさらに5月12日まで延長すると発表。3回目の延長。
28日政府,活動制限令下での操業が許可された一部産業の企業に対し,29日からの稼働を許可。政府が定めた標準運用手順を遵守しない場合,操業許可は取り消される。
   5月
1日首相,大規模な集まりを伴わない経済活動の再開を許可する条件付き活動制限令(CMCO)を発表。4日より適用。ただし州政府は状況に応じて規制の強化を選択できる。サラワク,サバ,ペナン,パハン,クランタン,クダ各州では,従来の活動制限令を12日までは維持することを決定。
5日中央銀行,OPRを0.5%引き下げ,2.00%へ。
8日首相,アメリカのトランプ大統領と電話会談。
10日首相,5月12日から6月9日までのCMCO延長を発表。断食明けの訪問は初日のみ同一州内で最大20人まで許可。
14日クアラルンプールのセッションズ裁判所は,ナジブ元首相の継子であるリザ・アジズに対する1MDBに関連する2億4800万ドルのマネー・ローンダリングの容疑について,連邦政府への数百万リンギの返還の合意を条件に起訴取り下げを認める。
17日12日にPKRの州議会議員2人が離党,PN支持を表明し,PHが州議会の過半数を維持できなくなったため,クダ州のムクリズ州首相が辞任。PASのムハンマド・サヌシが新州首相に就任。
18日下院招集。国王が演説し,前政権による国家汚職防止計画の継続遂行と新型コロナウイルスに影響を受けた企業やビジネスへの支援策の策定を求める。
28日18日の下院開会時に野党席に座ったことを理由に,Bersatuはマハティール元首相ら5人の党員資格の無効を発表。
31日マレーシア,シンガポール両政府は,クアラルンプール=シンガポール間高速鉄道(HSR)計画の一時停止を2020年12月31日まで延長することに合意したと発表。
   6月
5日首相,短期経済刺激策「Penjana」を発表。
7日首相,5月4日から適用されていたCMCOを6月10日から緩和し,回復(Recovery)段階に入ると発表。夜間市場などは6月15日から再開,州間移動なども緩和される。RMCOは8月31日までを予定。
9日高裁,サバ州前州首相のムサ・アマンによる州内の木材伐採権に関連した汚職など46件の罪状について無罪を認定。検察が起訴の取り下げを申請していた。
24日中学高校のSPM,STPM等受験学年を対象に授業を再開。約2440校,50万人の生徒が対象。7月1日には幼稚園,保育園,15日から中高他学年,小学校5・6年生,22日から小学校他学年が順次再開。
   7月
4日UMNO現職議員の死去により,パハン州議会チニ選挙区補欠選挙実施。UMNOのモハマド・シャリムが勝利。野党は新型コロナウイルスの影響により選挙キャンペーンが制約されるため候補者を擁立せず。無所属候補者2人のうち,1人はBersatuの元副支部長だったが,選挙に候補者を擁立しない党の方針に背いたため除名された後,マハティール元首相が支持を表明していた。
7日中央銀行,OPRを1.75%へ引き下げ。
13日下院招集。希望連盟政権下で任命された議長の解任動議を賛成票111,反対票109で可決。前選挙管理委員会委員長が新議長に。
28日クアラルンプール高等裁判所,SRCインターナショナルに関連した汚職,マネー・ローンダリング,権力濫用など7件の容疑について,ナジブ元首相を有罪とし,禁錮12年,罰金2億1000万リンギを科す判決を下す。ナジブ元首相は控訴。
30日サバ州議会が解散。
30日ジョホール州とシンガポールを結ぶ高速輸送システム(RTS)計画再開記念式典が両国首相臨席のもと開催。
   8月
1日公共の場におけるフェイスマスクの着用を義務付ける規則が施行。違反者には最大1000リンギの罰金。
6日MACC,元財務相でDAP書記長のリム・ガンエンを逮捕。ペナン州首相時代の海底トンネル計画における汚職容疑。
7日マハティール前首相,新党結成を発表。総裁はムクリズ。12日に党名を「Pejuang」(祖国戦士党)とすると発表,19日に結社登録局へ登録申請。
17日補正予算案が下院で可決。
21日コタキナバル高等裁判所,ムサ・アマン元州首相と州議会議員32人が行った,サバ州知事による州議会の解散決定の無効を求める申請を却下。9月8日には,控訴裁がムサらの上訴を棄却。
22日2月にPKRを離党したアズミン・アリ国際貿易産業大臣ら下院議員10人がBersatuに正式に加入したと発表。アズミンとズライダ住宅・地方政府相はBersatu最高評議会委員に任命(9月7日)。
24日新型コロナウイルス対策に関わる政府財政の一時措置法案が下院で可決。財政の公的債務上限を対GDP比55%から60%に引き上げ。25日には首相が発表した各種経済刺激策に対応する一時措置法案も下院で可決。
28日12月末までのRMCO延長を発表。
29日現職議員の死去により,ペラ州議会スリム選挙区補欠選挙実施。UMNOのモハド・ザイディ・アジズ,約85%の得票率で勝利。他の2人の無所属候補のうち1人をマハティールらの新党が支援していた。
31日元Bersatu青年部部長のサイード・サディク,新党「マレーシア統一民主同盟」(MUDA)の結成を宣言。9月17日に結社登録局へ政党登録を申請。
   9月
22日道路交通法改正案が上院で可決。飲酒運転の基準や危険運転への罰則が厳格化。
23日PKRのアンワル総裁が,政権の樹立に必要である下院議員の過半数の支持を得たと記者会見で表明。
26日サバ州議会選挙が実施され,UMNO,PN,サバ統一党(PBS)によるサバ人民連合(GRS)が,Warisanら州与党連合を破り勝利。Bersatuのハジジ・ヌールが新州首相に。
30日政府,国連の核兵器禁止条約を批准する文書に署名したと発表。マレーシアは46番目の批准国に。
30日アメリカ税関・国境管理局,労働者に対する暴力や虐待を理由にパーム油生産大手FGVからのパーム油の輸入禁止を決定。12月30日に同業Sime Darbyへも同様の措置。
  10月
13日サバ州全土にCMCOを適用。クアラルンプールおよびプトラジャヤ連邦直轄領,スランゴール州でも14日から適用。
13日中国の王毅外相が来訪。ヒシャムディン外相,首相(自宅隔離中のためオンライン参加)と会談。
14日内閣は,新型コロナウイルスワクチン供給アクセス保証特別委員会の設置に合意。
25日ムヒディン首相が前日に要請した非常事態宣言の発令を,国王が却下。
  11月
9日9州3直轄領を対象に,12月6日までCMCOの施行を拡大・延長。
15日政府,地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名。
18日現職議員の死去により12月5日に予定されていた下院補欠選挙を延期するため,サバ州バトゥ・サピ地区に非常事態宣言を発令。
19日APEC首脳会談(~20日)。オンライン形式で開催。マレーシアが議長国を担当。
19日パハン州議会,最大5人の州議会議員について,選挙による選出ではなく,議会による任命を可能とする州憲法の改正案を可決。議員7人が支持する任命動議が議会の過半数によって可決されることが要件。
21日ジョホール,トレンガヌ,クダ,マラッカ各州のCMCOを一部地域を除き解除し,RMCOへ移行。一方,クランタン州でCMCOが施行。
  12月
4日ファイザル・アズム州首相(Bersatu)に対する信任投票がペラ州議会で否決。同月10日にUMNOのサーラニ・モハマドが新州首相として就任。
6日クアラルンプール直轄領およびサバ州の全域,スランゴール,ジョホール,ヌグリスンビラン,ペナン,ペラ,クランタン各州の一部地域でのCMCOが延長,これらを除く地域ではRMCOへ移行。同月20日,29日も一部州・地域でCMCOが再延長。
15日2021年度予算案が下院で可決。
21日クアラルンプール高等裁判所,不動産会社からの200万リンギの収賄容疑に関して,アドナン・マンソール元連邦直轄領大臣を有罪とし,禁錮12年と罰金200万リンギを求刑。同氏は同月7日に別の収賄容疑に関して起訴が取り下げられている。

参考資料 マレーシア 2020年
①  国家機構図(2020年12月末現在)

(注)*連邦元首,州元首に関わる訴訟を取り扱う。

②  ムヒディン内閣名簿(2020年12月末現在)
②  ムヒディン内閣名簿(続き)

(注)[ ]内は所属政党。略称は以下のとおり。Bersatu(Parti Pribumi Bersatu Malaysia):マレーシア統一プリブミ党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,MCA(Malaysian Chinese Association):マレーシア華人協会,MIC(Malaysian Indian Congress):マレーシア・インド人会議,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党,PBS(Parti Bersatu Sabah):サバ統一党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,UMNO(United Malays National Organization):統一マレー人国民組織,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党。

③  州首相名簿

(注)[ ]内は所属政党。略称は以下のとおり。Bersatu(Parti Pribumi Bersatu Malaysia):マレーシア統一プリブミ党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,MCA(Malaysian Chinese Association):マレーシア華人協会,MIC(Malaysian Indian Congress):マレーシア・インド人会議,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党,PBS(Parti Bersatu Sabah):サバ統一党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,UMNO(United Malays National Organization):統一マレー人国民組織,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党。

主要統計 マレーシア 2020年
1  基礎統計

(注)1)推計値。2)2020年12月時点。3)年平均値。

(出所)人口:Department of Statistics Malaysia, Current Population Estimates, Malaysia, 2020。労働力人口,失業率,消費者物価上昇率,為替レート:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2021年1月号。

2  連邦政府財政

(注)1)修正推計値。2)新型コロナウイルス基金(38,000リンギ)への支出を含む。3)+は資産の取り崩しを意味する。

(出所)2020年:Ministry of Finance, Fiscal Outlook and Federal Government Revenue Estimates 2021。2019年以前:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2020年12月号。

3  支出別国民総所得(名目価格)

(注)1)推計値。

(出所)2020年:Ministry of Finance, Fiscal Outlook and Federal Government Revenue Estimates 2021。2019年以前:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2020年12月号。

4  産業別国内総生産(実質:2015年価格)

(注)1)購入者価格表示。

(出所)Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2021年1月号。

5  国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号については(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。1)特別引出権,IMFポジション,金および外貨。

(出所)Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2021年1月号。

6  国・地域別貿易

(注)1)EUという項目に含まれている国は,イギリス,ドイツ,オランダ,フランス,イタリア,ベルギー,ルクセンブルグ,デンマーク,アイルランド,ギリシャ,スペイン,ポルトガル,オーストリア,フィンランド,スウェーデン,その他(詳細なし)。

(出所)Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2021年1月号。

 
© 2021 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
feedback
Top