アジア動向年報
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各国・地域の動向
2020年のティモール・レステ 新内閣形成と新型コロナウイルス対応
亀山 恵理子(かめやま えりこ)
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2021 年 2021 巻 p. 395-410

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2020年のティモール・レステ

概 況

2020年のティモール・レステでは,2017年以降議会と大統領の対立として現出していた政治的混乱がひとまず落ち着きをみせた。政権交代は起きなかったものの,ティモール再建国民会議(CNRT)からティモール・レステ独立革命戦線(FRETILIN)主導のルアク政権となり,6月には新閣僚が就任した。新型コロナウイルス危機に対しては,政府は迅速かつ適切に対処し,2020年12月末の時点で死者は出ていない。2019年にそれまでの低迷から回復した経済は,政府予算の不成立による公的支出の減少と新型コロナ危機の影響により,大幅なマイナス成長が見込まれている。対外関係では,新型コロナ危機への緊急対応や中期的な経済回復のため国際機関との連携と二国間関係の強化に力が入れられた。

国内政治

与党連合の解散と新内閣の形成

ティモール・レステの国会では,独立後初めて行われた2007年の議会選挙以降どの政党も単独過半数を占めたことはない。2大政党のひとつFRETILINは堅実な国家運営を方針とし,有権者のほぼ3割という固い支持基盤をもっているため,選挙ごとに議席数が大きく変わることはない。一方,2007年から台頭したCNRTは急速な開発計画を掲げ,国家予算の膨張によって生まれる利権を期待する支持者を増やした。前回選挙が行われた2018年には,CNRT,人民解放党(PLP),ティモール国民統一党(KHUNTO)の3党からなる「変化と発展のための連合」(AMP)が勝利し,タウル・マタン・ルアクを首班とする第8次憲政内閣が発足した。ルアク首相はPLP所属だが,実質はCNRT主導の内閣となった。だが,FRETILIN所属のフランシスコ・グテレス・‘ルオロ’大統領は汚職の疑いを理由に閣僚候補を承認せず,9ポストが空席のまま1年半が過ぎた。また,大統領は議会が可決した2019年度予算を承認せず,2019年2月にようやく修正予算を承認した。このように近年は政党間対立が議会と大統領の対立として現出していた。

2020年の国会は,1月17日に2020年度修正予算案が否決される事態から始まった。与党連合で最多議席をもつCNRTが,ルアク首相とルオロ大統領に対する不満を背景に投票を棄権する行動に出たのである。この事態を受けて1月20日にルアク首相はルオロ大統領と会談した。会談後に首相は近年の政治的混乱を収束させる必要があると述べた。だが,2月22日には,CNRT党首シャナナ・グスマンがPLPとFRETILINを除く6党で新しく与党連合を形成すると発表した。大統領に十分に抵抗できないルアク首相に見切りをつけ自らが主導権をもつ政府を作ろうとしたのである。その動きを受けて首相は2月24日に辞表を提出した。ただし新政権が発足するまでは首相としての仕事を続けると述べた。3月6日にはグスマンが新与党連合の指導者を連れて大統領に面会し,その4日後に同連合はグスマンを首相とすることで合意した。

このように政権交代を意図する動きがみられるなか,政府は新型コロナウイルス感染症対策でにわかに忙しくなりはじめた。隣国インドネシアでは3月2日に最初の感染者が出ており,政府は3月初旬から世界保健機関(WHO)やオーストラリアなどの協力を得ながら対策に乗り出した。国内の医療体制が脆弱であることから,政府は危機に陥る前に緊急事態宣言の発令を大統領に要請した。そのようななか,3月13日に大雨が降り,首都ディリを流れる3つの川が氾濫して洪水が発生する。住宅地を中心に広範囲が浸水し,国際機関などによる洪水被災者支援事務局が収集した情報によると1664世帯,9126人が被災した。国防軍や消防,内務省が泥のかき出し作業を担い,公共事業省衛生局が給水車を出して被災住民への給水支援を行った。この洪水発生から約1週間後の3月21日には最初の新型コロナウイルス感染者が確認された。すでに要請を受けていた大統領は,3月28日に議会の承認を経て緊急事態宣言を発令した。

4月に入ると,新型コロナウイルス対応で政府を代表して記者会見に臨んできたエリア・アントニオ・デ・アラウジョ・ドス・レイス・アマラル保健副大臣(CNRT所属)と,新たに設置された統合危機管理センターのルイ・アラウジョ(FRETILIN所属)の発表が食い違うという出来事があった。ルアク首相はアマラル保健副大臣への信頼を失ったという理由で4月3日に副大臣を解任した。洪水や新型コロナウイルス対応に加えてこのような混乱が起こるなか,4月6日には新型コロナウイルス基金の設立が決定された。

コロナ対応のなか,4月8日にルアク首相は辞表を取り下げると発表し,ルオロ大統領はそれを了承した。首相の辞表取り下げから2週間後の4月22日,FRETILINがマリ・アルカティリ書記長名で「ルアク政権の2023年任期満了までの継続を支持する」という立場を表明した。前回選挙でFRETILINは単独政党として最多票数を得たものの,3党から構成されるAMPが過半数を獲得し,グスマン率いるCNRTが中心となり組閣した。FRETILINはそのような状態は民意を反映しておらず,最多票を得た政党が主導となり組閣を行い,政治の安定を確保するべきだと考えルアクを支持したのである。国会の65議席のうち,FRETILINが23議席,ルアク率いるPLPが8議席を有し,あと2議席あれば国会の過半数をおさえて連立与党を組むことができる。FRETILINの立場表明は,実質的には民主党(PD)やKHUNTOなど少数政党へ向けた連立の呼びかけだった。

グスマンはその翌日4月23日,2月に形成した新与党連合の参加政党に対して緊急事態宣言延長に反対するように指示を出した。経済活動への影響が反対の理由として挙げられたが,実際には同宣言の延長が政権交代の時期を遅らせることになるのを恐れたためだと考えられる。だが,周辺諸国における感染症の拡大を鑑みれば,政府が緊急事態宣言を延長するのは当然の流れであった。4月28日の国会では宣言延長について採決が行われ,賛成37,反対23,棄権4で可決された。この時KHUNTOは賛成票を投じた。翌日4月29日にKHUNTOは,グスマンが構想する新政権から離脱し,ルアク政権を引き続き支持する意向を書面でグスマンに伝えた。この時点でグスマンの新政権構想は崩れた。

ルアク首相は空席となっていた5つの大臣ポストにFRETILIN所属の閣僚を置いた。また,5月13日には国会で多数派となったFRETILIN,PLP,KHUNTOの与党連合がCNRT所属のアラン・ノエ議長を解任し,FRETILIN所属のアニセト・グテレス・ロペスを新議長に据えた。CNRTは新議長の選出をボイコットしたが,最終的には強行採決がなされた。CNRTの閣僚は内閣を去り,6月24日には新内閣が形成された。与党から野党への政権交代は起きなかったが,実際にはCNRT主導のルアク政権からFRETILIN主導のルアク政権へと大きく変化した。このように2017年から続いていた政治的混乱は,新型コロナウイルス問題が始まったことを契機に一時的に落ち着いた。結局のところ2017年から続いた混乱は,FRETILINの実質的リーダーであるアルカティリとCNRTを率いるグスマンの対立だったといえる。

今回はFRETILINの勝利で終わったものの,これで政治が安定するとは言えないだろう。FRETILINと連立を組むことになったKHUNTOは,2017年選挙後にFRETILINとの連立を約束しておきながら政権発足直前に離脱したことがある。指導者間に存在する長年の軋轢が解消されたわけではないため,新型コロナウイルスが収束した後,政治的対立が再び表面化する可能性がある。

新型コロナウイルス問題への対応

ティモール・レステでは,3月21日に新型コロナウイルスの最初の感染者が確認された。5月15日に統合危機管理センターが発表した内容によると,その時点での感染者数は24人であり,感染者の大部分はインドネシアに留学していた帰国学生であった。それ以降新規感染者はしばらくみられなかったが,8月4日に1人の感染が確認され国内の累計感染者数は25人となった。2020年12月30日時点で累計感染者数は44人,感染による死者は0人である。感染はいずれも輸入症例であり,国内での感染は確認されていない。政府は国民に対して,手洗い励行,マスク着用,10人以上の集会の禁止という方針を示し,また民間飛行機の発着を停止するほか,入国者には14日間の隔離義務を課している。

最初の感染者が確認される前から,政府は予防策の周知や医療関係者への研修,隔離施設の建設など,感染予防や封じ込めのための準備をWHOやオーストラリアなどと連携して始めていた。3月11日には外国籍保有者の中国,韓国,イタリア,イランからの入国が禁止され,13日にはすべての外国籍保有者の入国が停止された。21日に最初の感染者が確認されると,翌22日には全公立・私立学校の休校が決定され,28日には緊急事態宣言が発令された。5月28日以降は緊急事態宣言下であっても学校は再開され,公共交通機関も平常時のように動きはじめ,外国籍保有者の入国も限定的に認められた。緊急事態宣言は6月26日に解除されたが,新たな感染が確認された2日後の8月6日に再び発令された。

新型コロナウイルス問題が人々の生活に及ぼす経済的影響を抑えるために,4月20日に内閣は新型コロナ対応の経済対策を承認した。19の施策からなる経済対策の主なものは,世帯給付金の支給,登記された会社への給与補助,電気料金の一部免除,事業者の借入金返済猶予および利払いへの補助,3カ月分の政府によるコメの備蓄,国外で学ぶ大学生への給付金の支給である。これらのほかに,物流を途絶えさえないために,ダーウィン=ディリ間の週3便のフライトとディリ,オエクシ,アタウロ間の海運を確保するための補助金支出などが盛り込まれた。世帯給付金は月額100ドルであり,月500ドル以上の稼ぎ手がいない世帯が対象とされた。給付は6月9日に始まり,4月,5月の2カ月分に当たる合計200ドルが30万世帯に支払われた。電気料金の一部免除では,使用者16万人以上に月15ドルの無料引換券が携帯電話を通じて配布された。

新型コロナウイルスへの対応策は,政府が4月に設置した新型コロナ基金によって可能となった。新型コロナ基金の資金は石油基金からの特別引き出しによって賄われた。2020年度修正予算が成立していなかった時期に,政府が医薬品や医療機器の購入,隔離・治療施設の建設,世帯給付金の支給など医療と経済面からの施策を行えたのは,石油基金から総額2億1950万ドルを引き出せたからである。国会は4月2日に新型コロナウイルス対応予算として1億5000万ドル,6月30日に6950万ドルの特別引き出しを承認した。10月に国会で成立した2020年度予算14億9710万ドルには新型コロナ基金が組み込まれ,基金には先の特別引き出しに加えて1億1300万ドルが計上された。このほかに困窮世帯への現金給付の運営経費として5月に国際労働機関(ILO)から受けた74万8000ドルの資金を含めると,2020年の新型コロナ基金の総額は3億3324万ドルとなる。これは2020年度予算の約23%に相当する。

4月に設置された統合危機管理センターが想定した「最悪のシナリオ」では,当初人口の30%に当たる39万人が感染すると予想され,そのうち5万8000人が重症化し,死者は1万人を超えると見込まれていた。だが,2020年を通じて死者は出ず,感染者も全員が回復した。政府は早い段階からWHOなどと連携し,国民への注意喚起や水際対策,対策予算の拠出などといった対応を行なった。感染予防という点では,人々は緊急事態宣言が発令される前から自発的に外出を控えるようになり,首都ディリでは公的機関や民間の商店のみならず,市場にも手洗い用の水が置かれた。政府による早期からの適切な対処に加えて,危機を前にした人々の行動変容が功を奏し,感染拡大を防ぐことができたといえよう。

経 済

政治的不安定と新型コロナウイルス危機は,ティモール・レステの経済に大きく影響した。2020年度の実質国内総生産(GDP)成長率は財務省が-6%,ADBが-6.3%,世銀とIMFが-6.8%と予測しており,いずれにおいてもマイナス成長が見込まれている。2020年6月に新内閣が形成され政治的混乱が落ち着いたことから,実質GDP成長率は2021年には3.9%まで回復すると財務省は予測している。2020年度上半期の公的支出は前年度に比べると7%減少しており,新型コロナ基金の執行分を含めなければこの割合は27%にまで下がる。10月まで予算が成立しなかったことによる公的支出の減少と政府の水際対策は,国内消費に直接的に影響し,上半期の新規車輌登録数は34%,セメント輸入が25%,車輌関係輸入が25%,空港到着者数はそれぞれ62%減少した。第2四半期だけに限ると,車輌登録数45%,セメントの輸入50%,車輌関係の輸入50%,空港到着者数98%と,減少の割合はさらに拡大した。なお年次インフレ率は,2018年は2.3%,2019年は0.9%だったが,2020年は0.7%(財務省予測)と見込まれている。

政府予算の約80%は石油基金からの引き出しによって賄われている。石油基金の状況は,新型コロナウイルス危機がもたらした世界的な経済の低迷に大きく影響された。3月18日にアブラアン中央銀行総裁は,石油基金の運用で18億ドルの損失が出たと発表した。石油基金には,本来の収益であるロイヤルティ(石油会社の鉱区使用料)と税金(石油会社の収益に対する税金)のほかに運用益がある。2016年以降はロイヤルティと税金よりも運用益の比率が高くなっており,運用先であるアメリカ国債や先進国株式市場の下落により大幅な損失が生じた。第1四半期の終わりには損失額が8億4400万ドルとなった。しかし,国際的な国債や株式の市場が回復したことにより,第2四半期には12億2971万ドルの収益が出た。最終的には12月末の時点で石油基金の積立は189億9100万ドルとなり,前年度より12億9900万ドル増加した。

一方,政府予算に占める割合は小さいものの,国内の税収は2019年度に比べて10.1%減少する見込みである(財務省予測)。物・サービスに課される税が新型コロナウイルス危機によってもっとも影響を受けた。2020年度の第1四半期は,前年度の経済活動が反映され法人税が増えたことなどから,税収は増加傾向にあった。だが,第2四半期に入ると税収は約30%落ち込み,とくに輸入税,売上税を含む「物品税」が44%,所得税が15%減少した。企業活動については,登記確認事務所の発表によると,8月にはオーストラリア,インドネシア,中国,マレーシアなど外国からの事業体20社がティモール・レステでの操業を閉鎖した。

なお,政府は8月に3年間の経済回復計画を発表した。計画は2段階に分かれている。第1フェーズ(2020年)は短期的対応を通じて新型コロナ危機の影響を抑えることを目的とし,消費レベルと生活水準が維持されるように雇用確保,家計支援,事業体の廃業防止に焦点がおかれる。主な施策として25ドル分の食糧もしくは食糧購入券の配布,企業や個人事業主への操業再開補助金支給,社会保障費の免除がある。10月27日には国内産農産物を籠に入れた「食糧バスケット」の配布がディリ県メティナロ郡で試験的に開始され,12月4日には首都ディリで食糧購入券の配布が始まった。一方,第2フェーズ(2021~2023年)は中期的な経済回復を目指す。新型コロナ危機への対応とともに生活基盤を強化する方向性をもち,農業,観光,居住,教育,保健,社会的保護の各分野で施策が行われる。

大規模なインフラ事業のうち,石油関連事業は見直される可能性が出てきた。9月9日,ビトール・ダ・コンセイサン・ソアレス石油鉱物大臣は,これまで政治的な思惑が先行し技術面や実行可能性という観点からの調査が置き去りにされてきた事業を継続させるには,適切なフィージビリティ・スタディが必要であると発言した。国営ティモール・ギャップ社は,2019年4月にグレーター・サンライズ液化天然ガスプロジェクトの開発権利を米コノコフィリップス社,ロイヤル・ダッチ・シェル社から買い取った。以来プロジェクトの出資比率はティモール・ギャップ社56.6%,豪ウッドサイド社33.4%,大阪ガス10%のシェアとなっている。ただしウッドサイド社は,オーストラリア側へパイプラインを敷設する方が安価であるため,深い海溝があるティモール・レステ側へのパイプライン建設案を支持していない。仮にティモール・ギャップ社が独自開発する場合の資金は56億ドルと試算されている。これは石油基金残高の約30%に相当する。

対外関係

政府は新型コロナウイルス危機への対応のために,6月には集中的に国際機関や各国政府との会見を行った。2日に首相自らが国務大臣と財務大臣同席のもと,国連常駐コーディネーター,世界銀行現地代表,国連開発計画(UNDP)現地代表と会談し,新型コロナ危機で影響を受けた社会経済の回復と国家的開発について意見を交わした。また,国務大臣は6月4日にオーストラリア大使,15日に世界食糧計画(WFP)代表ら,16日にアメリカ大使およびユニセフ,そして18日に赤十字社などと相次いで会見した。会見では,新型コロナウイルス問題への対策やそのほかの二国間協力,また新たな分野での協力事業について話し合われた。

隣国オーストラリアは,新型コロナウイルス問題への対応では,当初からティモール・レステ国内での検査体制の確立などを支援した。さらに,5月26日に締結された545万ドルの援助資金によって全国の村落の3分の1にあたる地域で雇用創出やインフラ設備が行われることになっている。また,新型コロナウイルス危機で4月以降停止されていたオーストラリア政府との海外労働派遣プログラムが再開し,12月2日にはティモール・レステから162人が農業季節労働に従事するためにオーストラリアへ渡航した。

その一方で,オーストラリア国内では,ティモール・レステとの海洋境界策定に関するスパイ行為を内部告発した元情報機関職員とその弁護士に対する裁判に動きがみられた。元職員が告発したのは,2003年にダウナー外務大臣が情報機関に命じてティモール・レステの閣議室に盗聴器を仕掛けた諜報作戦だった。2006年に両国間で結ばれた特定海洋アレンジメント協定はオーストラリアに益するものとなり,外務大臣は退任後にウッドサイド社の顧問となった。2020年6月に,オーストラリア首都特別地域の最高裁は,この国家機密の漏洩を裁く裁判の一部を非公開にしたいという政府の要求を受け入れた。これに関してティモール・レステの首相と大統領を務めたことのあるラモス・ホルタは,オーストラリアの検察は起訴を取り下げる政治的決断をすべきだと発言した。

2021年の課題

2020年の課題は,行き詰まった政治状況を打開し,1年半放置されていた空席の閣僚ポストを埋めて政府活動を正常化することだった。そのために民族解放運動をともに闘った古くからの指導者らの間に存在する対立を乗り越えることが必要とされていた。2020年に議会ではFRETILINが主導する新しい与党連合が形成され,閣僚もすべて揃ったものの,CNRT党首のグスマンとFRETILIN書記長のアルカティリの間にある対立が解消されたわけではない。また,FRETILINと連立を組んだ議席数5の少数政党KHUNTOの動きに懸念が残る。今後の政治的安定は,FRETILINが他政党と協調できるかどうかにかかっている。それによっては連立政権が崩壊する可能性がある。

予算の成立が遅れたことに加えて,新型コロナウイルス危機の影響を受けた経済は,政治が安定したことにより回復が見込まれる。だが,実質的に政権が変わったことで石油関連インフラ事業の見直しに時間が要することになれば,「グレーター・サンライズ」の開発が遅れ,政府予算の基盤となっている石油基金の運営にも影響が出てくる。政治的な安定に加えて,長期的な開発の方向性を定めることがティモール・レステの持続的な経済成長に必要とされている。

(奈良県立大学地域創造学部准教授)

重要日誌 ティモール・レステ 2020年
   1月
6日2019年度の予算執行状況と2020年度修正予算案の公聴会を開始(~10日)。
15日国会,2020年度修正予算案の審議を開始(~17日)。
17日国会,2020年度修正予算案を否決。
   2月
4日政府,新型コロナウイルス感染症拡大への緊急時対応計画を国会で報告。
14日国家石油鉱物機構,エレガント・マーブル・グループと大理石探査協定に署名。
20日首相,大統領との会談後に与党連合「変化と発展のための連合」(AMP)はもはや存在しないと発言。
22日ティモール再建国民会議(CNRT)党首,6党から成る新与党連合で新連立政権をつくると発表。
24日首相,辞表を大統領に提出。
27日ASEAN地域フォーラムワークショップ「海洋に関する紛争解決と法」開催(~28日)。
   3月
3日抵抗運動功労者の日記念式典開催。
4日中国から新型コロナウイルス問題対応として熱画像カメラが到着。
6日CNRT党首,大統領に新連立政権の閣僚候補を提示。
10日新与党連合,CNRT党首グスマンを首相とすることで合意。
13日ディリで河川氾濫による洪水発生。
17日政府,新型コロナウイルス感染症拡大予防のための緊急事態宣言発令の趣旨を国民に向けて説明。
21日国内最初の新型コロナウイルス感染者確認。
23日首相,世界保健機関(WHO)関係者など専門家から構成される新型コロナウイルス予防対応戦略に関する監視評価委員会会合を招集。
23日閣議,インフラ基金からの災害復旧資金拠出を承認。
28日大統領,緊急事態宣言発令。
28日中国から新型コロナウイルス対策の援助物資第2陣が到着。
30日港湾局長,緊急事態宣言下でのディリ港の操業継続を指示。
   4月
6日政府,新型コロナウイルス基金設立を決定。
7日政府,必需品輸送のためディリ=ダーウィン間の週3回就航にエアノースと合意。
8日首相,辞表を取り下げると発表。
10日首相,新型コロナウイルス予防対応措置実施のための省庁間委員会を開催。
14日長年医療に貢献したダン・マーフィー医師が心不全のため死去。
20日閣議,新型コロナウイルス問題への経済対策を承認。
22日ティモール・レステ独立革命戦線(FRETILIN)書記長,ルアク政権継続の支持を表明。
23日保健副大臣,新型コロナウイルスの感染状況を説明。感染者数23人。
28日緊急事態宣言1カ月延長。
   5月
13日国会,アニセト新議長を選出。
15日統合危機管理センター,新型コロナウイルス感染者累計24人と発表。
28日緊急事態宣言1カ月延長。
29日第8次憲政内閣の新閣僚宣誓式開催。
   6月
1日政府,新型コロナウイルス基金の執行状況について国会で説明。
2日首相,社会経済的回復と国家的開発について開発パートナーと会談。
4日国務大臣,オーストラリア大使と会談。
9日政府,新型コロナウイルス問題対応として世帯給付金の支給を開始。
9日国務大臣,EU現地代表と会談。
10日首相,新型コロナウイルス予防対応措置実施のための省庁間委員会を開催。
12日オエクシ・アンベノ特別行政区にアルセニョ新総裁が就任。
15日国務大臣,世界食糧計画現地代表らと会談。
16日国務大臣,アメリカ大使と会談。
16日国会で石油基金から一般予算への緊急引き出しに関する政府法案の聴聞会開催。
16日国務大臣と保健大臣,ユニセフ代表と個別に会談。
18日国務大臣,ティモール・レステ赤十字社と会談。
18日経済回復計画準備委員会の就任式開催。
22日洪水対応分析の省庁間会合開催。
23日大統領,国内政治状況,新型コロナウイルス感染症予防措置,社会経済対応など説明のため各国大使と会見。
24日第8次憲政内閣の新閣僚就任式開催。新内閣形成。
26日緊急事態宣言解除。
   7月
9日首相,内務大臣としてティモール・レステ国家警察と初会合。
9日国務大臣,中国大使と会談。
27日首相,公共事業大臣らと2021年度インフラ分野の優先事項について会談。
28日政府,緊急事態宣言下での新型コロナウイルス対策について国会で報告。
29日閣議,新型コロナウイルス禍での経済回復計画を承認。
   8月
4日政府,「予算の日」セミナーを開催し,2021年度予算編成作業を開始。
4日5月以来の新型コロナウイルス新規感染確認。感染者数累計25人。
6日大統領,緊急事態宣言発令。
26日閣議,2020年度修正予算案を承認。
   9月
5日緊急事態宣言1カ月延長。
8日閣僚ら,ASEAN社会文化共同体の高官らとオンライン会合(~10日)。
10日首相,閣僚らとともに新型コロナウイルス感染症拡大予防のための国境管理について大統領と会談。
15日政府,2020年度修正予算案を国会に提出。
23日2020年度修正予算案公聴会,開始(~25日)。
28日国務大臣,EU現地代表と会談。
  10月
1日国会,2020年度修正予算案の審議を開始(~2日)。
5日緊急事態宣言1カ月延長
8日国会,2020年度修正予算案を可決。
15日政府,2021年度国家予算案を国会に提出。
20日政府,新型コロナウイルス問題への経済対策の実施と経済回復計画について国会で説明。
26日国務大臣,オーストラリア大使と会談。
  11月
4日緊急事態宣言1カ月延長。
10日国務大臣,アメリカ大使と会談。
10日政府,初の農業国勢調査報告書を発表。
13日政府,ティモール・レステ司教協議会の教育・社会および教会組織活動への補助金に関する協定に署名。
19日国務大臣,ブラジル大使と会談。
19日政府,世帯給付金の第2次支給開始。
28日政府,独立宣言から45周年の祝賀行事をリキサ県で開催。
  12月
4日緊急事態宣言1カ月延長。
4日国会,2021年度国家予算案を大枠で承認。
12日国会,2021年度国家予算案を可決。

参考資料 ティモール・レステ 2020年
①  国家機構図(2020年12月末現在)
②  第8次憲政内閣 閣僚名簿(2018年6月22日発足,2020年6月24日改造,カッコ内は所属政党)

(注)2020年6月24日以降新閣僚で構成される第8次憲政内閣では,Taur Matan Ruak(PLP)が首相と内務大臣を,Armanda Berta dos Santos(KHUNTO)が副首相と社会連帯インクルージョン大臣を,José Maria dos Reis(FRETILIN)が副首相と開発計画・領土大臣を兼務している。

カッコ内は政党名略称。FRETILIN=ティモール・レステ独立革命戦線,PLP=民衆解放党,KHUNTO=ティモール国民統一党,PD=民主党。

③  その他要人名簿

(注)カッコ内は政党名略称。FRETILIN=ティモール・レステ独立革命戦線,PLP=民衆解放党,KHUNTO=ティモール国民統一党,PD=民主党。

主要統計 ティモール・レステ 2020年
1  基礎統計(2015~2019年)

(注)求職登録者数については各年第1から第4四半期の延べ人数。

(出所)2015~2018年は,General Directorate of Statistics, Timor-Leste in Figures 2018(数値はすべて出所のママ)。2019年は世銀 (https://databank.worldbank.org/reports.aspx?source=2&country=TLS)。

2  支出別国民総所得(名目価格)

(注)統計誤差を除く。

(出所)General Directorate of Statistics, Timor-Leste National Accounts 2000-2019.

3  産業別国内総生産(実質価格)

(注)製造業には電気・ガス・水道・廃棄物処理業を含む。生産・輸入品に課される税や統計誤差を除く。なお,海洋境界画定に関する条約の締結後,2019年度は石油部門の2億6460万ドルが国民経済計算に計上された。

(出所)表2に同じ。

4  国・地域別貿易

(出所)General Directorate of Statistics, External Trade Statistics: Annual Report 2019 および General Directorate of Statistics, External Trade Statistics: Monthly Report 2020January-December) より作成。

5  石油基金運営状況(2016~2020年)

(出所)2016年から2019年については Ministry of Finance, Petroleum Fund Annual Report 2019。2020年についてはPetroleum Fund Quarterly Report(March, June, September, December 2020)より計算。なお,2018年には上記のほか税還付のため6330万ドルの引き出しが行われている。

6  政府予算活動(2016~2020年)

(注)ESIとは基金持続収益(Estimated Sustainable Income)のこと。石油基金の積立金と将来的な石油収入の現在価値を合計した石油資産の3%をESIと呼び,石油基金を長期で維持するために目標とすべき引出し上限としている。

(出所)2016年から2018年についてはRepública Democrática de Timor-Leste, State Budget 2020: Budget Overview Book 1。2019年以降についてはRepública Democrática de Timor-Leste, State Budget 2021: Budget Overview Book 1

7  国際収支(2016~2020年)

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。金融収支の符号は(+)は資本流出,(-)は資本流入。

(出所)2016年度は, Central Bank of Timor Leste, BALANÇA DE PAGAMENTO-TIMOR LESTE(https://www.bancocentral.tl/en/go/quarterly-bop-and-iip-statistics)。2017年度以降はIMF (https://data.imf.org/regular.aspx?key=62805740)。

 
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