アジア動向年報
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
はしがき
深尾 京司(ふかお きょうじ)
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2021 年 2021 巻 p. i

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はしがき

IMFの世界経済見通し(2021年4月)によれば,2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により,先進国・地域の経済成長率がマイナス4.7%と大きく低迷しました。一方,アジアの新興市場国・発展途上国はマイナス1.0%と,他地域に比べ落ち込みを低く抑えることができましたが,大きな打撃を受けたことに変わりありません。

またアジア地域では,国内政治や対外関係においても前年に高まった不確実性がさらに深刻化しました。国内政治では,タイ,香港,マレーシアなどで政情が不安定化し,ミャンマーでは総選挙後の2021年2月に国軍によるクーデターが起きています。南シナ海では中国と東南アジア諸国の衝突,南アジアでは二国間の領土問題もありました。そして米中両国は貿易面だけでなく,情報セキュリティーや人権問題でも衝突を繰り返しました。

人類が経験したことのない未知のウイルスの急速な蔓延や,それに起因する経済低迷に目を奪われがちですが,各国の政治や対外関係は常に動いており,重要な変化も起きています。そして,このように不確実性が増す時ほど,各国の動向を多面的に把握し,冷静かつ正確な分析を行うことが求められるはずです。それは,経済回復を目指すアジア諸国の2021年を占ううえでも欠かせないでしょう。なぜなら,経済回復には国内政治や対外関係が大きく影響するからです。

アジア経済研究所では,アジア各国の政治,経済,対外関係に関する動向を的確に伝えることを目的に,1970年以降毎年『アジア動向年報』を発行してきました。本年報では現在,23のアジアの国・地域およびアメリカの対アジア関係をカバーしており,各国・地域を長年観察してきた研究者が現地の一次資料や現地調査に基づいて動向を分析するだけでなく,その歴史的背景や意味についても明らかにし,アジア各国の「今」を理解するうえで有用な情報の提供に努めています。

なお,本年報は過去分を含めて研究所ホームページや電子ジャーナル無料公開サイトJ-STAGE上でも閲覧可能となっています。本年報が未曾有の事態に直面したアジア地域・諸国の現状を理解するための一助となることを願っています。

2021年5月

 
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