アジア動向年報
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各国・地域の動向
2021年のタイ 「政治改革」の後退と連立政権の内紛
青木 まき(あおき まき)高橋 尚子(たかはし なおこ)
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2022 年 2022 巻 p. 259-286

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2021年のタイ

概 況

2021年,前年をはるかに上回る新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大で苦境に陥った人々の不満は,プラユット・チャンオーチャー政権の防疫対策,特にワクチン対策の遅延に集中した。その批判を吸収し反政府運動は再び活発となったが,要求はプラユット退陣に収斂し,前年盛り上がった政治改革要求は陰に隠れた。国会では2017年憲法の選挙関連条項改正案をめぐり,与野党双方の陣営で政党間の利害対立が先鋭化した。また与党パラン・プラチャーラット党(Phalang Pracharat Party: PPRP)では,以前からあった派閥対立が表面化した。不信任投票では閣僚メンバーがプラユット首相への造反を企て更迭されたほか,元党幹部が離党して新党を結成するなど,党の求心力の低下が問題となった。

経済面では,感染症拡大防止のための行動制限により,経済成長率は1.6%にとどまった。財輸出の回復に伴い,農業,製造業は復調傾向にあるが,サービス部門は停滞が続いた。政府は,外国人観光客の検疫隔離を撤廃する門戸開放計画を進めると同時に,経済停滞の影響を受けた国民に対し幅広い経済支援を行った。財政面では,度重なる財政出動で枯渇する財源を確保するため,新たに国家の借入権限を拡大する緊急勅令が施行された。また,債務増加を見越して,上限に接近していた公的債務残高の対国内総生産(GDP)比率規制を引き上げた。東部経済回廊(EEC)開発計画では,大規模なインフラ開発を進め新規次世代産業の誘致を狙う一方,「BCG経済モデル」と呼ばれる国内産業強化戦略を推進している。

対外関係では,ミャンマーにおける軍事クーデタや,アメリカの「アジア重視外交」,中国とのワクチン問題をめぐる軋轢への対応を迫られたものの,プラユット政権は内政問題を優先し対外的には現状維持に終始した。

国内政治

新型コロナウイルス対策の政治問題化

タイは2020年に新型コロナウイルス感染症拡大第1波を抑え込み,同年12月に発生した第2波も他国に比べ小規模にとどまった。政府はリスクに応じて各都県を5つのゾーンに分類し感染症拡大防止措置を定め,最もリスクの高い「最高度・厳戒管理地域」(ダークレッドゾーン)を中心に行動制限を敷いた。

しかし,2021年3月末から首都とその近郊を中心に感染拡大が始まり,首相直属の「新型コロナウイルス感染症問題解決センター」(Center for COVID-19 Situation Administration: CCSA)は,4月10日に第3波の発生を公式に認めた。6月後半には首都を中心に爆発拡大局面に入り,CCSAは7月10日に10都県での夜間外出禁止,県境移動自粛要請,大型小売店舗の営業時間短縮を発令した。これは2020年4月以来の厳しい措置である。以後バンコクでは10月末まで,ダークレッドゾーンに指定された他の7県では11月末までロックダウン(都市封鎖)が続き,市民の活動は大きく制限された(図1)。

図1 2021年の1日当たり新型コロナウイルス感染者数の推移

(出所)CCSA(https://ddc.moph.go.th/viralpneumonia/eng/situation.php)資料より,青木作成。

コロナ禍をめぐる国民の不満は,プラユット政権のワクチン政策に集中した。国立開発行政研究院(NIDA)の世論調査機関NIDA pollが全国15歳以上,1314人を対象に8月16~18日に行った世論調査によれば,37.8%の回答者が感染拡大の原因として「ワクチン不足」を,36%が「ワクチン接種の遅延」を挙げた。

問題となったのは,ワクチン調達経路を政府や大企業,王室関連組織が独占した点,そして調達先が中国に偏重した点である(対中関係は「対外関係」を参照)。当初の計画では,アストラゼネカ社が開発したワクチンを王室所有の製薬企業サイアム・バイオサイエンス社に受託生産させる予定だった。感染第2波が発生すると,内閣は1月5日にワクチンの追加注文をアストラゼネカ社とタイの大企業チャローン・ポッカパン(CP)が出資する中国科興控股生物技術(シノバック)社に行った。民間病院や地方自治体は,品質保持を理由に個別のワクチン調達を禁じられた。5月下旬には,王室と関連の深い医療研究機関チュラーポン・ロイヤル・アカデミーが中国国家医薬集団(シノファーム)と契約しワクチン販売を開始した。

プラユット政権に批判的な勢力は,ワクチン対策を糾弾した。元新未来党(Future Forward Party)党首のタナートン・ジュンルンルアンキットは,1月18日のオンライン講演で,王室系企業がアストラゼネカ社製ワクチンの生産を独占している点に疑義を呈した。政府はこの発言についてタナートンを不敬罪で警察に告発した。5月10日には,政府が当時世界保健機関(WHO)未承認だったシノバック製ワクチンを購入したことに関する批判意見が国内有力紙『マティチョン』紙に掲載された(Matichon online,2021年5月10日)。8月31日から国会で行われた不信任審議(後述)では,野党タイ貢献党のソムポン・アモンウィワット幹事長が,5回にわたる政府のシノバック製ワクチン追加購入で発生した使途不明金の存在を指摘し,シノバックの出資者であるCP社と政府の利益相反関係を批判した。ワクチン問題は,軍・王室・大企業による支配を改めて浮き彫りにしたといえる。

「コロナ・デモ」の拡大と政治改革要求の後退

2021年,政府は前年から続く反政府運動に対し,法的取り締まりを強化した。人権団体「人権のためのタイ弁護士団」(Thai Lawyers for Human Rights)の2021年12月28日付の報告によれば,2021年に反政府運動に関連して起訴された市民は,前年の約7倍にあたる1513人(835件)に上った。取り締まりに加え,防疫のための大規模集会禁止で反政府運動は4月頃に一時期縮小した。しかし感染拡大につれコロナ禍で苦境に陥った人々が反政府運動に合流し,活動は6月以降再び活発化した。8月には,バンコク都内でプラユット退陣要求集会参加者と警察とが3日間にわたり衝突し,双方に負傷者が出る事態となった。

2021年の反政府運動は,王制を含む政治制度改革を要求した前年と異なり,コロナ禍で経済・社会的損失を受けた人々が合流したことで,争点が「プラユット退陣」「政府の新型コロナウイルス対策批判」の2点に収斂した。

2021年の反政府グループは,3種類に大別できる(表1)。第1は,2020年に反政府運動をけん引した学生や若年層を中心とするグループとその分派である。政府は2020年8月に反政府集会「人民党2020」(khana ratsadon 2020,2020年末に「人民」に改称)の主な活動家9人を逮捕し,うち4人が2021年2月9日に刑法第112条(不敬罪)違反の容疑で起訴された。さらに11月10日,憲法裁判所は収監中の反政府運動活動家ら3人に対し,2020年の反政府運動で提示した不敬罪廃止や王室予算の削減などの「10項目要求」(『アジア動向年報2021』を参照)が,「王室を元首とする民主主義体制」の破壊を禁じた憲法第49条違反にあたるとの判断を下した。憲法裁判所が王室改革要求を「国家の破壊」と解釈したことで,今後は反政府活動家や野党議員が国家反逆罪を定めた刑法違反の容疑で刑事訴追され,最高刑として死刑判決を受ける可能性も出た。11月15日,反政府デモ隊約1000人は「王室改革は犯罪ではない」として憲法裁判所を批判した。

表1 2021年に活動した主な反政府運動団体とその要求

(注)①2020年に反政府運動を主導したグループとその分派,②2020年以前から存在した政治運動団体の関係者によるグループ,③現状への不満を訴える若年層のグループ。1)は2021年12月31日時点で収監中の活動家。2)民主主義のための人民連合。

(出所)新聞報道などより青木作成。

第2のグループは,2020年以前から存在した政治運動団体である。そのなかでも注目を集めたのが,2000年代にタクシン・チンナワット首相を支持し,選挙による政権交代を主張してクーデタ支持派と衝突した「赤シャツ」派であった。2020年の反政府運動では,赤シャツ支持者が個人として集会に参加する例はあったものの,組織的な関与はなかった。しかし2021年7月,赤シャツ派政治団体である反独裁民主主義戦線(United Front of Democracy Against Dictatorship: UDD)の幹部だったナタウット・サイクア元下院議員が,反政府運動への参加を表明した。ナタウットは,他の赤シャツ活動家たちと連携して,2021年8月以降数回にわたり自動車で道路を埋め尽くす「自動車デモ」を開催し,プラユット政権に対し防疫対策失敗の引責辞任を求めた。こうした赤シャツの活動再開に合わせ,海外に逃亡中のタクシンもまた音声SNSを通じて警察当局によるデモの強制排除を批判するなど呼応する動きをみせた。赤シャツ派やタクシンの活動再開は,選挙制度改正(後述)を踏まえ,次期下院選挙を視野に入れた運動と目される。

第3のグループが,現状への不満を訴える若年層である。2020年の反政府運動は,大学生を中心に,暴力や街頭占拠など当局の強制排除の口実となる行為を回避しながら政治改革を訴えた。対照的に2021年に現れた第3のグループは,10代の労働者を中心とし,政府の防疫対策批判やプラユット政権退陣を訴え,警官隊と衝突した。グループのひとつである反政府集会「タルガス」の参加者は,BBCタイランドの取材に対し,デモ参加の理由として,警官隊による暴力的強制排除への怒りやコロナ禍への不満を挙げた(BBC News,2021年9月19日)。政治改革という理念ではなく,コロナ禍で経済・社会的苦境に陥った人々が,不満をプラユット政権に向けて反政府運動に参加した様子をうかがわせる。

憲法改正案の否決

現行の2017年憲法は,クーデタ政権であった国家平和秩序維持評議会(National Council for Peace and Order: NCPO)が民政復帰後も影響力を維持するための仕組みを多く定める。ことに,複雑な改憲手続きや,NCPOに有利に設計された首相や上院議員(250人)選出方法,下院議員(500人)選挙制度は,起草時から反軍政勢力や各政党の批判を受けてきた。プラユットは2019年の内閣発足時に改憲を重要課題に掲げたものの消極的態度にとどまった。それでも与野党は「上院議員3分の1(82人)以上が賛成しない憲法改正案は不成立とする」と定めた第256条(憲法改正手続き)の改正と,新憲法制定議会の設置について合意し,2020年には与党PPRPと野党タイ貢献党の提出した2つの改正案が,国会上下院合同の憲法改正審議会第1読会を通過した(『アジア動向年報2021』参照)。

審議会では,与野党の2案を踏まえ新たな修正案が作成された。同案には,新憲法草案は国民投票にかけるが,その投票率が50%に満たなかった場合には国民投票自体を無効とし,国民投票での草案支持率が50%を割った場合には廃案とする文言が盛り込まれた。また,憲法制定議会議員200人の選出方法については直接選挙とする野党案を基本とすることで合意した。他方で国家体制を定めた現行憲法の第1条(総則),第2条(国王)については踏襲とし,王室権限は維持された。

第3読会直前の2021年2月,ソムチャーイ・サウェンガーン上院議員とPPRPのパイブーン・ニティタワン下院議員の2人が,現行憲法第256条は条項ごとの逐次改正のみを認めていると主張し,全条文の一括改正を目指す修正案について憲法裁判所に判断を求めるよう提案した。提案は2月9日に国会上下両院で承認され,チュアン・リークパイ国会議長兼下院議長により憲法裁判所に提出された。

憲法裁判所は,3月11日に憲法の一括改正は合憲との判断を下した。ただし改憲に際し,第256条改正および新憲法草案のそれぞれについて国民投票の実施を条件とした。憲法裁判所の判断を受け,17日から開催された憲法改正審議第3読会での修正案審議は,国民投票のタイミングをめぐり紛糾した。修正案審議前に改正自体の是非を問うのか,審議後に修正案の是非について行うべきかという対立である。18日,与党議員や上院議員らの退出が続き,定足数確認が繰り返されたすえに採決が行われた。結果は修正案賛成が208票(上院2票,下院206票),反対が4票(上院4票,下院0票),棄権94票(上院84票,下院10票),「No票」(どちらでもない意思表示)が136票(上院127票,下院9票)となった。現行憲法下では,改憲には上下院議員の過半数の賛成に加え,上院議員3分の1以上の賛成が必要である。今回の賛成票は既定の票数に及ばず,修正案は否決された。チュアン議長は次期国会に逐条改正の動議を提出することができるとし,タイ貢献党のソムポン党首もこれを容認した。

憲法改正阻止を狙うPPRP議員と上院議員の働きかけで憲法一括改正の道が閉ざされたことに対し,反政府グループは強く反発した。3月20日に王宮前広場で行われた反政府集会では,参加者と警察が衝突した。新未来党の後継党である野党前進党(Kaoklai Party)は,法律NGO「iLaw」やタナートン率いる政治改革推進派の政治団体「進歩派運動」(Khana kaona)と連名で政治団体「Re-Solution」を結成し,6月に独自の憲法改正案を提出した。PPRPの影響下にある上院や憲法裁判所の廃止,NCPO時代に策定された「国家20年戦略」の破棄など,NCPOの影響力排除を謳った改正案は,11月17日の憲法改正審議会で賛成206,反対473,棄権6で否決された。これにより憲法改正による「政治改革」の実現はさらに遠のく形となった。

選挙制度改革をめぐる政党間の利害対立

憲法逐条改正の過程で新たな争点となったのが,選挙制度改革である。6月23日,連立政権の一部である民主党(Democrat Party)は,下院の議席配分を定めた憲法第83条,小選挙区の議員数の配分を定めた第86条,比例代表選出議員の得票数を定めた第91条の改正案を国会に提出した。これは,有権者が小選挙区候補者のみに投票する現行の制度から,小選挙区と比例区でそれぞれ1票ずつ投票する以前の制度に戻し,さらに下院定数を現行の小選挙区議員350人比例区議員150人から,小選挙区議員400人比例区議員100人へと変更する提案だった。

2017年憲法下の選挙制度は,単独で過半数票を獲得できる大政党,より具体的にはタクシン派タイ貢献党の躍進を阻止し,新党であったPPRPを利するために導入されたといわれる(『アジア動向年報2019』を参照)。今回の提案は,これを2大政党制の成立を目指し策定された1997年憲法下の制度に戻すものであった。承認された場合,次期選挙は再び大政党にとって有利になるとの公算が高まったことで,与野党両陣営で選挙制度改革案をめぐる政党間の利害対立が先鋭化した。民主党は王室支持派であり,南部を地盤とする大政党だったが,2019年の下院選挙ではPPRPや中堅政党であるタイ矜持党(Phumjai thai Party)に票を奪われる形で議席を失った。このことから今回の民主党提案は,中規模政党であるタイ矜持党から票の奪還を企図したものと思われた。また,野党タイ貢献党も2019年の選挙では新党だった新未来党(現在の前進党)に反軍政票を奪われ苦戦を強いられたことから,自党に有利な民主党案を支持した。前回選挙で大政党となったPPRPもまた,民主党案を自党に有利と判断し支持に回った。民主党の憲法改正案は,9月10日の国会上下院合同会議第3読会にて賛成多数(賛成472,反対33,棄権187)で可決された(11月21日官報告示)。採決では,PPRPや野党タイ貢献党といった大政党が賛成に回る一方,連立政権内のタイ矜持党や他の小政党,野党前進党といった中小政党から多数の棄権者が出た。2020年までの政治改革の是非をめぐる対立は後退し,次期選挙での勝敗が新たな政治の争点となったことを印象付けた(表2)。

表2 政治課題をめぐる各政党の立場

(注)政党名が網掛けとなっている党は連立政権参加政党。

(出所)新聞報道などをもとに青木作成。

連立政権内の内紛と内閣不信任審議

連立政権内の対立と連動して,PPRP党内でも亀裂が生じた。プラユット連立政権は与党PPRPを中核としつつも,プラユットを含む主要閣僚は任命で就任した非議員でありPPRP党員ではない。この構造に起因する政権内の非議員派と民選議員派の閣僚ポストをめぐる対立が,内閣不信任投票を契機に表面化した。

2021年8月,野党タイ貢献党のユッタポン・ジャラサティアン副党首がプラユット首相を含む閣僚6人に対し,新型コロナウイルス対策をめぐる不手際などを理由に不信任案動議を提出した。過去の2度にわたるプラユット政権への不信任審議と同様に今回の不信任案も否決されたが,連立政権内,それもPPRP党内から造反者が出たことが注目を集めた。造反派の中心であるタマナット・プロムパオ農業・協同組合副大臣は,2000年代初頭にタクシン派タイ愛国党に属したのち,2019年にPPRP党員となり下院議員に当選した。その後PPRP内で党内派閥を形成し,2021年7月には幹事長に選出されている。報道によれば,タマナットはPPRPおよび連立政権内の民選議員を糾合し,タイ貢献党と連携してプラユットに不信任票を投じることを企図した(Bangkok Post,2021年9月3日)。当初,連立政権内では40人近い議員が造反派に回ったとされ,そのなかにはPPRP幹部であるタマナット,ナルモン・ピンヨーシンワット労働副大臣,ウィラット・ラッタナーセット院内幹事長も含まれていた。2日にはタイ貢献党の下院議員がプラユット首相による造反派への買収工作疑惑を指摘し,審議中に首相が抗弁する事態となった。最終的に9月4日の採決で,プラユットは信任264票,不信任208票,棄権3票で信任されたものの,他の5閣僚の信任票に比べその少なさが目立った。

造反の中心であったタマナットとナルモンの2人は,9月8日付で大臣職から解任された。しかし10月28日のPPRP年次党大会でタマナットは幹事長続投が決定し,党内に残留した。先述のように9月10日に選挙制度改革案が承認され次回選挙におけるタイ貢献党とPPRPの対決が予想されるなか,タイ貢献党と通じるタマナット派の離反を回避するための措置とみられるが,和解には程遠かった。さらに12月末には,2020年に閣僚を更迭されたウッタマ・サーワナーヨン元PPRP党首(元財務相)やソムキット・ジャトゥシーピタック元経済担当副首相ら元幹部が新党結成計画を公表した。政権内の不和に加え党の分裂が決定的となったことで,プラユットの支持基盤弱体化は覆うべくもない状況となった。

地方自治体選挙と各政党の動き

2020年12月の県自治体(Provincial Administrative Organization)首長・議会議員同時選挙は2014年のクーデタ以後初の地方選挙であり,民政復帰の試金石として注目された。従来タイの地方自治体選挙は地元有力一族の影響が強く,政党の影響は弱いといわれてきた。しかし,近年は元国会議員や政党幹部の縁者が地方自治体首長や議会議員を務める例もある。今回の自治体選挙も政党の影響に関心が集まり,タイ貢献党や民主党など国政レベルの政党が公認候補を立て,積極的に支援する動きが目立った。

特に注目を集めたのが,進歩派運動である。2020年の憲法裁判所による新未来党解党処分の後,同党党首だったタナートンは新たに政治団体「進歩派運動」を結成した。新未来党は2019年の下院選挙で都市部の若年層を中心に支持を集め,新党ながら第3党に躍り出た。この経験を踏まえ,進歩派運動は42県で首長選挙候補を,52県で1000人以上の県自治体議会議員候補を立て選挙に臨んだ。政治改革よりも政策本位・課題解決型の手法を強調し,SNSを駆使して公認候補を支援した進歩派運動だったが,結果は首長選挙で当選者ゼロ,県自治体議会議員選挙は18県で55議席と惨敗であった。今回の県自治体選挙では期日前投票が行われず,都市部に住む若者の多くが住民票のある地方に戻って投票できなかったことが,進歩派運動の大敗に影響したと思われる。

他方でタイ貢献党も,首長選挙候補を立てた25県のうち当選者は9県にとどまるなど伸び悩んだ。また地盤の北部でもタイ貢献党の支援候補が現職候補に敗北したり,勝利するも僅差にとどまるなど苦戦を強いられた。結果として県自治体選挙の当選者は,首長・議会議員ともに地元有力一族出身候補者が多く,政党公認議員が地方自治体を席巻する事態には至らなかった。

進歩派運動は2021年にも3月のテーサバーン自治体(2472カ所)選挙で100人以上の首長候補を,11月のタムボン自治体(5300カ所)選挙では196人の首長候補者を立てて臨み,テーサバーン自治体首長選では12人の当選者を,タムボン自治体首長選では38人の当選者を出した。躍進とは言い難い結果だが,タナートンはこれらの「成果」を踏まえて2022年に予定されるパッタヤー特別市の市長選挙に進歩派運動公認候補を立てることを表明した。新未来党は2019年の下院選挙の際にパッタヤーを含むチョンブリー第7区で地元有力一族出身候補を下し,自党候補を当選させた「実績」を持つ。一連の自治体選挙での経験を踏まえて,進歩派運動は今後も地方政治における勢力拡大を目指すものと思われる。

一方タイ貢献党は,2020年末に党の首相候補だったスダーラット・ゲーユラーパンが離党して新党を設立し,党の求心力回復が課題となっていた。2021年10月にタイ貢献党は党大会で指導部を刷新し,支持層の拡大を目指した。なかでも注目を集めたのは,35歳のペートーンターン・チンナワットの党顧問就任である。ペートーンターンはタイ貢献党の事実上の首領であるタクシン元首相の娘であり,党顧問就任は将来の政界進出への布石と目される。赤シャツ派による街頭活動再開と合わせ,タイ貢献党は選挙に向け党内外で態勢を整えつつある。

(青木)

経 済

回復が遅れる経済

2021年のタイの実質GDP成長率は1.6%にとどまり,他のASEAN主要国に比べ回復ペースの遅れが目立った。政府は新型コロナウイルス感染症拡大防止措置によりダークレッドゾーンを中心に厳しい行動制限を敷いたことから,経済活動は停滞が続いた。

四半期別でみると,第1四半期は対前年同期比-2.4%となり,感染第2波に影響され,低調な滑り出しとなった。第2四半期は,世界経済の回復に伴う財輸出の増加,そして民間支出のもち直しにより,6四半期ぶりにプラス成長(7.7%)に転換した。ただし,比較対象となる前年同期の数値が低く,見かけ上の伸び率は高く表れている。実際,季節調整済み対前期比成長率は0.0%と横ばい状態であった。第3波のピークを迎えた第3四半期は対前年同期比-0.2%のマイナス成長へと逆戻りしたが,第4四半期には1.9%の成長率に落ち着いた。

実質GDPの生産面では,農業生産が主要作物の生産量増加を受けてプラス成長を記録した(1.4%)。同様に非農業部門も1.6%の成長率となった。製造業は4.9%と大幅な改善をみせ,タイ工業連盟の数値によれば,年間自動車生産台数は前年比18.1%の168万台,輸出台数が同34.9%の95万台と回復している。一方,サービス部門の運輸・保管,宿泊・飲食はそれぞれ-2.9%,-14.4%と縮小が続く。

次に,支出面では民間設備投資が4.2%と向上したほか,2020年度予算執行遅延による反動とインフラ支出増加で公的建設投資が第1四半期に24.2%と拡大したことが要因となり,総固定資本形成は3.4%と回復した。民間最終消費は,消費者の購買意欲低下を政府の消費刺激策で下支えした結果,0.3%の微増となった。輸出入では,サービス輸出が大きく変動した。2020年3月中旬まで自由な観光客の往来があったため,第1四半期は前年同期と比べ激減しているが(-62.3%),以降は段階的な観光客受け入れ政策により回復傾向となった。しかしながら,サービス収支における旅行収入は2019年水準から10分の1以下に縮小しており,観光業への打撃の大きさがうかがえる。他方,財輸出は外需の回復とバーツ安により,農産品,自動車,コンピュータといった主要品目を筆頭に拡大し14.9%の大幅な伸びをみせた。しかし同時に原油価格の高騰と原材料・中間財輸入の増加により財輸入も18.3%となり,貿易黒字拡大は頭打ちとなった。全体としては,家計消費を政府の経済支援策で下支えしつつ,財輸出の回復が国内製造業を中心として生産と民間投資を刺激する構造であった。

政策金利は通年で0.5%に据え置かれた。サービス収支悪化を要因に経常収支は8年ぶりに赤字を記録し,為替市場は7月以降バーツ安傾向が続いた。失業率は1.9%と低水準を維持しているが,不完全就業者(週当たりの労働時間が35時間未満で,追加的な労働を希望するもの),および失業または営業停止・縮小命令による一時解雇を事由とする社会保険受給者は2020年以降急増しており,収入に不安を抱く労働者は多いと考えられる。また,家計債務残高は対GDP比90%前後を推移し,中期的な家計消費抑圧による経済活動再開への悪影響が懸念される。

観光セクターの復興を狙う門戸開放計画

世界の新型コロナワクチン接種拡大に合わせ,政府は外国人観光客の検疫隔離を撤廃する門戸開放計画を積極的に推進した。観光はタイ経済をけん引する基幹産業であるが,海外からの観光客入国に多くの制限がかかる状況が経済復興の障害となっていた。

3月26日,新型コロナウイルス経済対策センター(Center for Economic Situation Administration due to the Impact of the Communicable Disease Corona Virus: CESA)は指定地域内における試験的な観光客受け入れ計画の実施を承認した。第1段階である「プーケット・サンドボックス」は,国内のワクチン接種の遅れが非難されるなか,プーケット県内の接種を急ピッチで進め,予定通り7月1日より開始された。このプログラムでは,県内の空港から入国後,3日間はホテル敷地内で,その後14日目まで県内で滞在したのちに,タイ国内の自由移動が許可される。続いて実施された「サムイプラス」や「7+7」も指定地域内で隔離を行うものである。いずれも入国後14日間は自由に移動できないため,長期滞在を希望する観光客向けであった。第2段階は,10月1日からバンコク,チョンブリー,ペッチャブリー,プラチュワプキーリーカン,チェンマイの5都県における開放計画であったが,各都県内のワクチン接種率が不十分であったため,延期を余儀なくされた。その後,11月1日には上記5県に限らず全国での開放となった。感染リスクの低い国から渡航したワクチン接種者は,空港到着の際にウイルス検査を受け,陰性を確認後に自由に移動できるため,「テスト&ゴー」と呼ばれた。

このような門戸開放計画の結果,2021年は42万人の観光客がタイを訪れた。年間4000万人近くが来訪した2019年水準に回復するには少なくとも数年かかると予想されるが,門戸開放計画が今後の経済復興の要となることは確実である。その間,関連産業は収入源に乏しく,長期的な政府の支援が不可欠であり,困窮度の高い中小規模の事業者に不利とならない制度が求められている。

政府の経済支援策と国家予算規律の緩和

感染拡大防止措置が断続的に行われ,長期にわたり経済が停滞するなか,政府は継続して経済対策を打ち出す必要に追われた。政府の主な経済支援は,困窮者への現金給付,下向きの家計消費を支える消費刺激策,そして中小企業・個人債務者を救済する金融緩和策の3つに大別される。

まず,現金給付は,対象が被雇用者にも拡大された。1月12日に閣議決定された「ラオ・チャナ」は,社会保険未加入者および農家,自営業者向けに毎週1000バーツを最大7回まで給付するもので,対象者は約3100万人が見込まれた。一方,社会保障法第33条により社会保険加入が義務化されている被雇用者は給付対象外であったが,2月15日,政府は被雇用者のうち貯蓄が一定額以下である約900万人を対象とし,毎週1000バーツを最大4回まで給付する「ラオ・ラック・カン」を決定した。続いて5月5日,これらプログラムへの追加給付や,国民福祉カード所持者への給付金増額などが決定され,半年間で合計3800億バーツほどが現金給付にあてがわれた。7月以降は,国民福祉カード所持者に給付増額が継続されたほか,ダークレッドゾーンにて解雇された被社会保険者,または営業制限を受けた業種に従事する労働者,そして同地域における小中規模事業所を対象に,ゾーンや業種・規模を限定のうえ所得補償,雇用維持助成が行われた。国家経済社会開発評議会事務所(National Economic and Social Development Council: NESDC)は,政府の現金給付が貧困率の急増を食い止めたと評価している(Social Outlook Report,2021年11月22日)。しかし,これは,低所得者層の多くは貧困ラインに近い生活を強いられている実態の裏返しともいえる。

消費刺激策は主に2種類あった。「コン・ラ・クルン」は,1人1日150バーツ,期間中一定の合計金額まで,登録店舗における食料や日用品購入支出の半額を補助する枠組みである。第1弾は2020年に実施され,2021年は対象人数を拡大し,1~3月に合計金額上限が3500バーツの第2弾,7月~12月に上限3000バーツの第3弾が実施された。「インチャイ・インダイ」は,国内での製品・サービス購入代金の10~15%を電子クーポンで還元する中高所得者層向けの刺激策として導入された。このほか,国内旅行の助成,電気・水道代の割引も行われた。

最後に金融緩和策である。2020年の5000億バーツ規模の低金利融資は条件が厳しく,認可額が総額の半分に満たないまま申込期限が満了する結果に終わった。そのため,中央銀行は2021年4月1日より,与信枠をもたない新規顧客も融資対象に含めるなど条件を一新し,2500億バーツの原資を各商業銀行に貸し付けた。さらに,1000億バーツをアセット・ウェアハウジング向けに提供した。これは,返済に困窮した債務者が,担保となる不動産を債権者へ差し出し一時的に返済を停止する措置で,担保不動産は期限内であれば買い戻すことができる。ホテル,レストランなどの建物をもつ企業向け支援策である。また,個人債務者には,元本返済の延期,債務の一本化など包括的支援が提供された。

これらの経済支援策の財源の大半は,緊急借入金により調達された。2020年の借入金1兆バーツはほぼ全額が支出予定となったため,政府は5月25日に追加借入権限を財務省に付与する緊急勅令を施行し,5000億バーツの追加借入枠を設けた。一方,対GDP比60%を上限とする公的債務残高は8月時点で57%にまで接近していた。翌年度以降の経済支援・復興予算膨張による債務残高増大を見越して,9月20日の国家金融財政政策委員会は公的債務残高の上限規定を70%に引き上げる旨を決定し,保守的な運営を維持してきたタイの国家予算規律が緩和された。アジア通貨危機以降,タイ政府の財政基盤は健全性を堅持しており,この引き上げにより政府の支払い能力が急落することはないとされる。しかしながら,急増する財政出動に加え,少子高齢化による将来的な財政収支悪化が危惧され,税制改革などによる持続可能な財政基盤確立の必要性が高まった。

タイらしさを生かす戦略「BCG経済」

プラユット政権は,タイをイノベーション主導の高付加価値経済に転換し,高所得国へと成長させる「タイランド4.0」構想を掲げている。この構想の主軸である東部経済回廊(EEC)開発計画では,大規模インフラ開発と外国投資誘致によってタイに技術を移転し,既存産業の高度化と新規次世代産業の育成を目指している。中核的既存産業である自動車製造では,政府が推進する電気自動車(EV)の国内製造に関して,CP社やタイ石油公社(PTT)といった国内大企業と中国,台湾などの外資企業が連携を強めた。また,主要なインフラ整備計画のひとつであるレームチャバーン港拡張計画第3フェーズでは,11月25日にタイ民間電力大手ガルフ・エナジー,PTT,そして中国港湾工程の3社が出資する合弁会社とタイ港湾公社間の契約署名がなされた。同様に当初の計画から遅れをとった3空港連結高速鉄道やウタパオ空港拡張工事などとともに,建設段階へと移行した。

一方,国内産業強化のためタイが新たに注目しているのが「BCG経済モデル」である。BCG経済は,バイオ(Bio)経済,循環(Circular)経済,グリーン(Green)経済を組み合わせた造語である。自然資源に恵まれ,農業人口を多く抱えるタイの特徴を生かし,食品と農業,健康と医療,バイオエネルギー・バイオケミカル・バイオマテリアル,観光と創造経済という4分野に焦点を当て,生産性とエネルギー効率の向上,高付加価値化により,持続可能な経済発展,および所得格差,気候変動といった課題解決を目指すモデルである。「タイランド4.0」を土台に,プーミポン・アドゥンヤデート前国王が提唱した「足るを知る経済」,国連による「持続可能な開発目標」(SDGs)の概念に合致する国家開発戦略として,同モデルは,1月13日のBCG経済委員会で国家アジェンダとして指定され,7月12日に2027年までの実行計画が策定された。同時に,投資委員会(BOI)はBCG経済対象分野への投資に法人税免除などの恩典を付与している。

BOIの発表によれば,2021年の投資奨励への新規申請額は6427億バーツ,うちBCG分野への投資は1524億バーツを占め,その存在感を高めている。保護産業化しつつあるタイの農業セクターや,コロナ禍で疲弊する観光セクターにBCG経済モデルが変革をもたらせばよいが,世界的なトレンドに追従して投資誘致の材料としたい政府の意図も透けてみえる。現状の戦略下では投資奨励が大きな役割を持つが,国内で産業を支えていく高度人材の育成,自律的な研究開発環境の整備は発展途上であり,政府が長期的視点によりこれらを改善する必要がある。

(高橋)

対外関係

2021年10月,タイは地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の批准手続きを完了した。また欧州連合(EU)やカナダとそれぞれ自由貿易協定交渉推進を確認し,オーストラリアとの戦略的経済連携協定締結で合意するなど,経済統合に向けた進捗が見られた。他方で政治面では,米中間での外交バランスの維持や,ミャンマーのクーデタへの対応などで難しい舵取りを迫られた。

対米関係:頭越しの「アジア外交」と高級実務レベルの関係維持

2021年に発足したバイデン政権は,中国との対立を視野に入れて他のアジア諸国との同盟関係強化を目指し,東南アジアについてもインド太平洋戦略の要と位置付けた。この方針を踏まえて7月にはロイド・オースティン米国防長官が,8月にはカマラ・ハリス副大統領がそれぞれ東南アジア諸国を歴訪したが,いずれもタイは訪問先に入らなかった。バイデン大統領の提唱により12月に開催された「民主主義サミット」にもタイは招待されなかった。同月後半にはアンソニー・ブリンケン米国務長官が訪タイを予定していたが,同行者の新型コロナウイルス感染を理由として直前に中止された。

一連のバイデン政権のアジア外交がタイの頭越しに行われることに対し,プラユット首相やドーン・プラマットウィナイ外相は静観の構えを崩さなかった。しかしタイ外務省内では,アジアの非NATO同盟国5カ国のうちタイのみがその地位を保持できていないと危惧する声が聞かれた。

他方で,外務省や国軍における高級実務レベルの関係は維持されている。12月11日にはチャルームポン・シーサワット国軍最高司令官が訪米してマーク・ミリー米統合参謀本部長と会談した。またアメリカ政府はファイザー社製ワクチンをはじめ総額3000万ドル相当のコロナ関連援助を提供したことに加え,米国疾病対策センター(CDC)によるタイ保健省への総額1300万ドル相当の物的・人的支援を供与して,タイ米間の友好関係を強調した。外交団の状況をみても,2020年に始まった在チェンマイ・アメリカ総領事館の改修工事は継続され,2021年8月には在バンコク・アメリカ大使館が大規模な拡張工事を開始している。タイにおけるアメリカの外交機能は拡張されていることから,タイ米両国は中国との関係を視野に入れつつ実務面で関係を補強している様子がうかがわれる。

対中関係:外交バランス維持に苦慮

中国とは,駐タイ大使が1年以上不在という微妙な関係が続いていた。そのようななかでタイ政府は,アメリカとのバランスを維持するだけでなく,対中批判を強める自国民に配慮しながら中国との関係を調整する必要があった。

8月,駐タイ大使に韓志強が着任した。2019年末に駐タイ大使を召喚して以来,中国政府は大使を帰任させず事実上の空席となっていた。一説には2019年に決定したチェンマイのアメリカ総領事館拡張をめぐるタイ政府へのけん制ともいわれる。2021年6月にタイ米間でタイへの医療支援を合意した直後,タイ外務省は米中間での「バランス外交」を強調する談話を発表して,中国への配慮を示した。9月には中国の多国間軍事演習「共同命運」にタイ国軍の一部が初参加するなど,タイ中政府間の協力関係は基本的に維持されたといえる。

両国関係が「正常化」に向かうかに見えるなか,国民からは対中批判が起きた。タイ国防省は7月に2020年に延期した中国からの潜水艦購入計画の再延期を発表した。「コロナ対策を優先せよ」という国民の批判を受け,国内の政治対立を考慮したものとみられる。またタイ政府のシノバック社製ワクチン購入に対する野党や反政府グループの批判(「国内政治」の項参照)に対し,中国大使館は9月3日にFacebookへ「中国製ワクチンに対する理不尽な批判への反論」と題する文書を投稿した。同文書は,タイの批判勢力に「断固として異議を申し立て」「過ちを繰り返さないよう要求する」と非常に強い文言で反論し,かえってタイ国民の強い反発を惹起した。同月4日の『マティチョン』紙は,中国政府の直接的な国内問題「介入」に強い不快感を示す読者の意見記事を掲載している(Matichon online,2021年9月4日)。このような駐タイ中国大使館とタイ国民との間で直接的な応酬は,注目を集めた。ドーン外相は同日中に「中国製ワクチン批判は中タイ関係を悪化させかねない」との懸念を表明し,タイ国内の対中批判をけん制した(Krunthep Trakit,2021年9月4日)。

ミャンマー軍事クーデタへの対応

2月1日に発生したミャンマー国軍によるクーデタとそれをめぐる同国の混乱は,タイにとって自国に波及しかねない安全保障上の脅威であった。タイは国内に数百万といわれるミャンマー人移民を抱え,国境付近には1980年代以来ミャンマーからタイへ逃れた人々のための避難民キャンプを擁する。クーデタ直後には,タイ在住ミャンマー人がバンコクのミャンマー大使館前で軍事クーデタへの抗議集会を開催した。3月3日に開かれた反プラユット政権集会には,在タイミャンマー人も参加して両国における民主主義の実現を訴えた。さらに3月にはミャンマー北部カチン州,東部カイン州などでミャンマー国軍による少数民族への攻撃が続き,同月末から4月にかけ延べ5100人前後の少数民族が越境してタイ・メーホーンソーン県へ流入した。タイ外務省はこれらの避難民が自主的にミャンマーへ帰還したと発表したが,国境付近ではタイ国軍が避難民の入国を妨害し,ミャンマー側へ追い返したことが報道で明らかになった(Khaosod English,2021年3月30日)。12月には同県のミャンマー少数民族避難民キャンプで,待遇改善を訴える避難民の暴動が起きた。

タイ政府は,ミャンマーのクーデタを「内政問題」(2月1日のプラウィット・ウォンスワン副首相の発言)とする姿勢に徹した。2月24日にインドネシアのレトノ外相がタイを訪問し,ミャンマー国軍が任命したワナマウンルィン「外相」,タイのドーン外相と非公式3者会談を行った。2000年代初頭にミャンマーの内政問題が国際問題化した際,タイが仲介役となりミャンマーにASEAN議長国辞退を促した経緯を想起させる動きであったが,ASEAN非公式外相会議(3月2日)や臨時首脳会議(4月24日)で,タイは具体的行動を取らなかった。10月,ASEANは「ミャンマー政府」代表の首脳会議参加を認めないことで合意したが,翌月14日にはドーン外相がミャンマーでミンアウンフライン国軍最高司令官と非公式に会見したと報じられた。両者はタイ国内の反ミャンマー政府活動家に関する情報交換を行ったとみられ,国内治安をめぐる両国の関係の深さを印象付けた。

(青木)

2022年の課題

2022年のタイ政治は,下院選挙の実施時期とプラユット首相続投の行方が焦点となるだろう。与党PPRPは,2022年1月に行われた下院議員補欠選挙での大敗を理由にタマナット派を除名した。同月にはウッタマ元財務相がプラユット首相の続投阻止を宣言して新党「タイ未来建設党」(Sang Anakhod Thai Party)を設立した。これら分裂した元PPRP勢力がタイ貢献党と連携してPPRPに対抗する可能性もありうる。またタイ貢献党とスダーラットによる新党との競合も続いており,政党間の駆け引きが活発化するものと思われる。選挙前には,憲法改正の過程で後退した「政治改革」が争点として再燃する可能性もある。

経済面では,新型コロナウイルス変異株や原油高に起因するインフレなど国内のリスクに柔軟に対応しつつ,外国人観光客受け入れを軌道に乗せることが経済活性化への大きな課題となる。2022年に下院選挙が行われる場合,結果次第では政策方針の転換や混乱が起こり,経済支援策や各種開発計画に影響を及ぼす可能性がある。EECをはじめとする長期計画が滞り,回復基調にある民間の投資意欲を失うことのないよう留意すべきである。

対外関係では,引き続きミャンマー内政問題への対応が課題である。ASEANの対ミャンマー方針と自国のミャンマー外交との整合性をどうとるのか,さらには米中対立が続くなかで,ミャンマー軍政に批判的な欧米との関係をどうするのか。2022年はアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国を務めることと合わせて,「バランス外交」で知られるタイの手腕が問われる1年となるだろう。

(青木:地域研究センター)

(高橋:地域研究センター)

重要日誌 タイ 2021年

1月
5日 内閣,新型コロナウイルスワクチンについて中国科興控股生物技術(シノバック)社に200万回分を,アストラゼネカ社に3500万回分を発注決定。
12日 2100億バーツの現金給付や電気・水道代割引を含む経済対策を閣議決定。
13日 BCG経済委員会,BCG経済モデルを国家アジェンダに指定。
14日 内閣,中央選挙委員会(EC)提案のテーサバーン自治体首長・議員選挙の実施要綱を承認。
16日 バンコク都内での不敬罪反対集会で爆破事件。警官2人と記者1人が負傷。
18日 タナートン元新未来党党首,アストラゼネカ社のタイ国内ワクチン生産を王室出資のサイアム・バイオサイエンス社が独占契約した経緯に疑義を表明。
19日 刑事裁判所,2015年に不敬罪で起訴された元公務員の女性に禁錮43年6カ月の判決。
20日 デジタル経済社会省,タナートンを不敬罪およびコンピュータ犯罪法違反の容疑で警察庁テクノロジー犯罪課に告発。 
2月
1日 ミャンマーでのクーデタ発生を受け,在タイミャンマー人らがミャンマー大使館前で抗議デモ開催(~2日)。
2日 プラユット首相,ミャンマー情勢を注視するとの談話を発表。
5日 ドーン副首相兼外相,環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の批准見送りを発表。
9日 中央検察局,アーノン弁護士ら反政府活動家ら4人を不敬罪で起訴。
9日 国会上下院会議,パイブーン下院議員とソムチャーイ上院議員による憲法改正案の憲法裁判所付託提案を承認。
15日 927万人を対象に,社会保険加入者向けの現金給付策を閣議承認。
16日 野党による閣僚10人の不信任案審議開始。21日の採決で否決。
18日 憲法裁判所,憲法修正案の違憲審査提案を受理。
24日 刑事裁判所,旧人民民主改革委員会(PDRC)幹部39人に反逆罪などで有罪判決。
24日 ミャンマー国軍任命のワナマウンルウィン「外相」,非公式訪問。プラユット首相と会談後,ドーン副首相兼外相,レトノ・インドネシア外相と会談。
25日 国会両院合同会議,憲法改正案を第2読会で賛成521,反対42,棄権17で可決。
28日 反政府集会「民主主義再起動」で参加者と警官隊が衝突,30人以上が負傷。
3月
11日 憲法裁判所,国民投票の実施を条件に,国会での憲法起草議会設置を認定。
16日 内閣,歳出総額3.1兆バーツの2022年度予算案を承認。
18日 国会両院合同会議,憲法改正条項の改正案を否決。
20日 王宮前広場における反政府集会で参加者と警察が衝突。警官を含む50人が負傷,20人が逮捕。
23日 PDRC幹部有罪判決に伴い失職した4閣僚に代わり,トリヌット教育相など新閣僚の任命が官報告示。
26日 新型コロナウイルス経済対策センター(CESA),「プーケット・サンドボックス」を承認。
28日 テーサバーン自治体首長・議員選挙投票日。
28日 反政府集会「民主主義再起動」で参加者と機動隊が衝突。負傷者30人以上。
30日 内閣,非常事態宣言期間の2カ月延長を承認(~5月31日)。
30日 外務省,ミャンマーからの避難民4000人を強制退去させたとの報道を否定。
4月
2日 バンコク都庁,都内の遊興施設におけるクラスター発生を公表。
9日 プラユット首相,菅首相とタイのTPP加盟協力について電話会談。
10日 新型コロナウイルス問題解決センター(CCSA),感染拡大第3波発生を公式確認(発生日4月1日)。
23日 不敬罪で収監中だった反政府運動指導者2人が保釈される。
24日 ASEAN臨時首脳会議開催(ジャカルタ)。ドーン外相が参加。
27日 内閣,非常事態緊急勅令第7条に基づき「法律に基づく権限義務を総理大臣の権限義務に定める布告(第3版)」を決定(同日官報告示)。
28日 野党6党党首,記者会見で新型コロナウイルス対策の失政をめぐりプラユット首相の引責辞任を要求。
5月
1日 官製アプリ「Mor Prom」による一般国民向けワクチン接種予約を開始。
5日 内閣,感染拡大第3波に対する追加現金給付,消費刺激策など2250億バーツの経済対策を大枠承認。
7日 国家ワクチン調達委員会,タイ製薬事業団を介したワクチン調達を民間病院に許可。
11日 バンコク刑事裁判所,「人民党」活動家パリット・チワラックの保釈決定。
11日 商務省,欧州連合(EU)との関税割当新協定に署名。
12日 中国政府,タイへのシノバック社製ワクチン50万回分寄贈を発表。
18日 内閣,5000億バーツの追加借入権限を財務省に与える緊急勅令を承認(官報告示25日,下院承認6月10日)。
21日 内閣,非常事態宣言を再度2カ月延長(~7月末)。
25日 チュラーポン・ロイヤル・アカデミーによるシノファーム製ワクチン輸入計画が官報告示。
29日 商務省貿易振興局,中国中糧集団有限公司(COFCO)と6~7月に精米2万トン(総額1040万ドル)の輸入で合意。
29日 米国務省「2021年人身取引報告書」で,タイは「第2段階」から「第2段階要注視」に降格。
31日 タイ石油公社(PTT)と台湾の精密機器製造大手鴻海科技集団(Foxconn)が電気自動車(EV)生産提携を発表。
6月
7日 全国で一般国民および外国人向けワクチン接種開始。
14日 ジュリン副首相兼商業相,タピオラ駐タイEU大使とタイ・EU自由貿易協定(FTA)の交渉開始を協議。
14日 プラユット首相,120日以内の外国人観光客受け入れ再開を目指す「ロードマップ計画」発表。
15日 タイ中央破産裁判所,タイ国際航空の事業再生計画を承認。
19日 パラン・プラチャーラット党(PPRP)年次大会で,タマナット氏を新幹事長に選出。プラウィット党首は再選。
23日 民主党,選挙制度改正にかかわる憲法改正案を国会提出。
29日 日タイ両国政府,アストラゼネカ社製ワクチン105万回分の寄贈を合意。
7月
1日 「プーケット・サンドボックス」開始。
3日 チャルームポン国軍最高司令官,次回の多国間軍事演習「コブラ・ゴールド」の規模縮小しつつ実施と談話。
6日 内閣,保健省疾病管理局によるワクチン調達計画としてファイザー社製2000万回分を新規調達,シノバック社製1090万回分の追加調達,モデルナ社製ワクチン輸入を承認。
10日 CCSA,夜間外出禁止令を発令(~11月30日)。
13日 内閣,最高度・厳格管理地域指定10都県を対象とする420億バーツの経済支援策を承認。
17日 CCSA,最高度・厳格管理地域指定を13都県に拡大。
18日 国防省,中国からの海軍潜水艦購入計画延期を表明。
18日 バンコク都内の反政府集会でデモ隊と警官隊が衝突。逮捕者6人。
21日 タイ・トヨタ自動車,部品供給不足により国内3工場の生産を一時停止(~8月8日)。
29日 イギリス政府,アストラゼネカ社製ワクチン41万5040回分のタイへの寄贈を発表。
8月
1日 CCSA,最高度・厳格管理地域指定を29都県に拡大。
3日 第40回多国間軍事演習「コブラ・ゴールド」,実施(~13日)。
5日 タイ・オーストラリア戦略的経済連携協定締結合意。
8日 国家警察,召喚に応じて出頭した反政府活動家パリットを再逮捕。
10日 韓志強・駐タイ中国大使着任。
15日 ナタウット元反独裁民主主義戦線(UDD)代表,反政府集会「自動車デモ」を開催(8月29日にも開催)。
16日 タイ貢献党ユッタポン副党首,閣僚6人に対する不信任案動議を提出。
16日 反政府集会「タルガス」で参加者が実弾で撃たれ重傷。翌日警官隊とデモ隊が衝突し数人が身柄拘束。
18日 タンヤブリー地方裁判所,反政府活動家8人の保釈請求却下。
28日 ナラティワート県で貨車を狙った爆弾テロにより,鉄道一時運航停止。
29日 豪雨によりサムットプラカーン県バーンプー工業団地で洪水発生。
31日 国会下院で内閣不信任案審議開始。4日の採決で不信任案否決。
9月
2日 反政府集会「自動車デモ」,バンコク市内で開催。3日にはタマサート学生グループ,「民主主義再起動」グループが反政府集会開催。
6日 「タルガス」,反政府集会(~13日)。一部の参加者が警官隊と衝突。
6日 タイ米第27回年次海上即応訓練協力(CARAT)実施(~10日)。
6日 タイ国軍,中国による多国間平和維持演習「共同命運」(~15日)に一部参加。
10日 国会上下院合同会議第3議会,民主党提案の憲法改正案を賛成472,反対33,棄権187で可決(11月21日官報記載)。
20日 国家金融財政政策委員会,公的債務残高の対GDP比上限を70%に引き上げ決定。
29日 陸軍治安維持部隊,ナラティワート県で反政府組織と銃撃戦。4人の容疑者を射殺。
30日 CESA,雇用を一定水準以上維持する中小企業を対象に469億バーツの雇用維持支援策を決定。
10月
5日 内閣,東部経済回廊(EEC)開発計画でデジタル,ロボット工学など6つの特区新設を承認。
11日 EC,全国のタムボン自治体選挙を告示。11日から立候補受付開始。
13日 CCSA,規制緩和。最高度・厳格管理地域を23都県へ縮小。
18日 コレット米国務省参事官,来訪。ドーン外相およびスポット国家安全保障評議(NSC)議長らと会談。
26日 プラユット首相,ASEAN首脳会議(オンライン)に参加(~28日)。
27日 プラユット首相,日・ASEAN首脳会議(オンライン)に参加。
28日 タイ商務省,地域的な包括的経済連携(RCEP)協定批准書をASEAN事務局に寄託。
28日 タイ貢献党年次大会,チョンナーン氏を新党首に,タクシン元首相の娘ペートーンターン氏を党顧問に指名。
31日 CCSA,規制緩和。最高度・厳格管理地域を7県に縮小。
11月
1日 63カ国からの観光客を検疫免除で受け入れる「テスト&ゴー」,全国で開始。
1日 プラユット首相,スコットランドで開催の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で登壇。
3日 最高裁判所政治職者刑事法廷,PPRPのウィラット国会対策委員長ら議員4人,およびタイ矜持党のサムリー議員に資格停止決定。
8日 バンコクのチャオプラヤー川河岸,サムットプラカーン,ノンタブリーの各県で洪水発生。
9日 内閣,第13次国家経済社会開発計画を大枠承認。
9日 アメリカ政府,モデルナ社製ワクチン100万回分の寄贈を提案(22日到着)。
9日 内閣,ASEAN・カナダFTAの交渉枠組を承認。
10日 憲法裁判所,2020年8月10日のタマサート大学における反政府集会で王室改革を主張した3人の活動家に対し,違憲判決。
22日 プラユット首相,中国・ASEAN特別首脳会議出席(オンライン)ののち,岸田首相と電話会談。
24日 国家金融財政政策委員会,農家所得補償制度予算確保のため,年度予算の借入枠上限を35%未満へ一時的な引き上げ決定。
25日 タイ民間電力大手ガルフおよびPTT,中国港湾工程の合弁会社GPCとタイ港湾公社,レームチャバーン港拡張開発第3フェーズを契約締結。
28日 タムボン自治体選挙,投票日。
30日 CCSA,規制緩和。最高度・厳格管理地域指定は全都県で解除。
12月
3日 クリテンブリンク米国務次官補,来訪。スポットNSC議長らと会談。
7日 運輸省,チュムポーンとラノーンを結ぶ南部陸橋構想公表。
8日 憲法裁判所,元PDRC指導者の民主党議員5人に対し議員資格はく奪の判決。
11日 チャルームポン国軍最高司令官訪米(~20日)。ミリー統合参謀本部長らと会談。
14日 東南アジア歴訪中のブリンケン米国務長官,タイ訪問中止を発表。
14日 ターク県メーラーのミャンマー人避難民キャンプで暴動発生。
20日 コーンケーンからノーンカーイまでの鉄道複線化工事を決定。
22日 内閣,オミクロン株感染拡大防止のため「テスト&ゴー」による入国申請の一時中止を決定。
23日 タイ国鉄,バンコクのターミナル駅機能をフアランポーン駅からバーンスー中央駅へ移管。
25日 PPRPウッタマ・サーワナーヨン元党首(元財務相),ソムキット・ジャトゥシーピタック元副首相らが新党結成計画を発表。

参考資料 タイ 2021年

① 国家機構図(2021年12月末現在)
① 国家機構図(2021年12月末現在)(続き)

(注)各省の大臣官房は省略。

(出所)官報など。

② 閣僚名簿
② 閣僚名簿(続き)

(注)カッコ内は軍・警察における階級。政党名は,PPRP(パラン・プラチャーラット党),PJT(タイ矜持党),DP(民主党),CTP(タイ国民開発党),PRPC(タイ国民合力党)。1)兼務。2)2021年9月9日付けで解任。3)2021年2月24日憲法裁判所で失職判決。4)2021年3月23日任命。

(出所)官報を参照。

③ 国軍人事

(注)カッコ内は任命日。

(出所)官報および警察ウェブサイト。

④ 警察人事

(注)カッコ内は任命日。

(出所)官報および警察ウェブサイト。

主要統計 タイ 2021年

1 基礎統計

(出所)人口:内務省地方行政局(https://dopa.go.th/)。労働人口,消費者物価上昇率,失業率,為替レート:タイ中央銀行(http://www.bot.or.th/)。

2 支出別国内総生産(名目価格)

(注)2020年と2021年は暫定値。2016~2019年は修正値。国内総生産(生産側)-国内総生産(支出側)は統計上の誤差。

(出所)国家経済社会開発評議会事務所(http://www.nesdc.go.th/)。

3 産業別国内総生産(実質 基準年=2002)

(注)2020年と2021年は暫定値。2016~2019年は修正値。

(出所)表2に同じ。

4 国・地域別貿易

(注)EUはイギリスを含む28カ国の合計値。CLMVはカンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナムの合計値。中東は15カ国の合計値。

(出所)タイ中央銀行(http://www.bot.or.th/)。

5 国際収支

(注)2020年と2021年は暫定値。IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号は(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。

(出所)表4に同じ。

 
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