アジア動向年報
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各国・地域の動向
2021年のフィリピン 任期終了を迎える強権的な政権
渡辺 綾(わたなべ あや)
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2022 年 2022 巻 p. 287-314

詳細

2021年のフィリピン

概 況

2021年のフィリピンは2020年に続き,新型コロナウイルスの感染抑制に追われたが,経済は好転した。国内政治は,政府による活動家への強権的取り締まりが続くなかで,2022年大統領選挙に向けた動きが活発化した。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の娘,サラ・ドゥテルテ=カルピオは次期大統領候補として国民からの期待が高かったが,彼女が副大統領への立候補を決めたことから,フェルディナンド・ロムアルデス・マルコスJr.が大統領候補の支持率で首位を走っている。また,ドゥテルテ大統領に近い人物が関与する,新型コロナウイルス感染症対策の予算支出をめぐる不正疑惑が明らかとなった。

経済面では,実質国内総生産(GDP)成長率が前年の史上最低の落ち込みからプラスに転じたものの,政府債務は増加し,失業率はコロナ禍以前に比べるといまだに高い。包括税制改革第2弾である「CREATE法」と外資による国内市場への参入規制を緩和する「改正小売自由化法」が成立し,ビジネス界からは好意的に受け止められている。一方で,ナショナル・フラッグキャリアであるフィリピン航空は破産申請をした。

外交面では,3月初めに発生した,中国船舶による排他的経済水域(EEZ)での長期間停泊への対応に苦慮した。南シナ海での緊張が続くなかで,政府は「訪問米軍に関する地位協定」の破棄撤回を決めた。

国内政治

新型コロナウイルスの感染状況,隔離措置実施の推移

2021年のフィリピンは,マニラ首都圏や一部地域に一般的隔離措置(GCQ)が適用されるなかでの年明けとなった。年初は感染状況が落ち着き1日当たりの感染者数が1000~3000人程度で推移したが,3月初旬から感染者数が増加傾向に転じ,下旬には1日当たりの感染者数が連日8000人を超えた。マニラ首都圏を中心に多くの病院の病床使用率がひっ迫したため,29日に政府はマニラ首都圏とその近隣州(カビテ州,ラグナ州,リサール州,ブラカン州)を対象に,隔離措置の段階を広域隔離措置(ECQ)へと2段階引き上げた。当初1週間の予定であったが,適用期間が延長され4月12日に一般的な広域隔離措置(MECQ)へと段階が引き下げられた。その後,1日の感染者数が5000~7000人程度で推移したが7月下旬から感染数が増加傾向に転じ,政府はマニラ首都圏とその近隣州に約2週間ECQを適用して感染抑制を図った。その後,MECQに引き下げた。

9月中旬,政府は新しい隔離措置基準である「アラートレベルシステム」を導入した。先行してマニラ首都圏で同システムの試験的適用が開始され,段階的に全国へと適用拡大された。これは新型コロナウイルスの感染状況の水準と病床使用率,集中治療室(ICU)の使用率に応じて隔離措置の段階が5つに分かれていて,数字が大きいほど感染状況が悪化している状態を表す。政府の機関である地域・省庁間タスクフォース(RIATF)と協議のうえで,自治体首長が世帯・区画単位での局所的なロックダウンの実施権限をもつ。

「アラートレベルシステム」が導入された9月中旬には,1日の感染者数が2万人を超え,マニラ首都圏では隔離措置の段階が2番目に厳しいレベル4が適用された。10月中旬には日毎感染者数が5000人程度に落ち着き,レベル3に引き下げられた。11月には1日の感染者数が2000人程度に減少したため,多くの地域でレベル2の適用となり,そのまま年末を迎えた。

ワクチン接種状況

フィリピン政府は,新型コロナウイルスの感染抑制を目指して3月1日からワクチン接種を開始した。職種や年齢・基礎疾患の有無によって,ワクチン接種の優先度合を5つのグループに分類した。ワクチン接種を感染抑制の切り札と考えていた政府は当初,2021年中に国民の7割に少なくとも1回目接種を完了させるという目標を掲げていた。しかし接種の進捗が思わしくないことから,その後,全国民の5割にあたる5400万人に目標が引き下げられた。進捗が遅れた要因としては,世界的な需要の高まりによるワクチン到着の遅れ,行政の対応能力の欠如,人々によるワクチンへの不信感が挙げられる。

接種開始からしばらく,ワクチン接種の進捗状況は芳しくなかった。優先度の高いグループでも接種がなかなか進まず,3カ月経った6月初旬において,高齢者や基礎疾患を有する人々への1回目ワクチンの接種率がそれぞれ10%程度であった。11月下旬には全人口35%程度の人々への接種が完了しているのみであった。そのようななか,政府は「新型コロナワクチン接種キャンペーン」を実施し,合計5日間で約1000万人への接種を行った。12月中旬にも2回目の「ワクチン接種キャンペーン」を行った。年末までに1回目の接種を終えた人々は全人口の5割を超えた。そのうち,2回目の接種を終えた人々が全人口の4割以上となる。

続く活動家への圧力

2020年7月に「反テロ法」(共和国法11479号)が成立して以降,国家警察や国軍による左派系グループや活動家への強権的な捜査が一段と強まった。「反テロ法」では反政府武力活動が取り締まりの対象となるが,国家警察は武装勢力か活動家かの区別なく,左派系グループや社会改革を訴える人々に対する強権的な取り締まりを強めている。3月には,国軍と国家警察の合同捜査により9人が殺害,6人が逮捕される事件が起きた。国家警察は,フィリピン共産党やその軍事部門である新人民軍のメンバーを対象とした捜査であり,被疑者が抵抗したために銃撃戦となり死亡したと釈明した。しかし,犠牲者は急進的な労働組合「キルサン・マヤ・ウノ」や左派系グループ「バヤン」のメンバーだったとみられている。国家警察は,捜査令状を取った正当な捜査だったと主張するが,一部の法律家は,マニラ地裁やケソン地裁の判事により発行された捜査令状が管轄区域外の捜査に使用されたことを問題視している。

また,弁護士を狙った事件も相次いでいる。1月にはブキドノン州で,3月にはイロイロ州で襲撃事件が発生し弁護士が犠牲となった。弁護士を狙った事件が増えるなかで,市民のための全国弁護士連盟は,ドゥテルテ政権下で56人の弁護士が犠牲となっており,これはマルコス独裁政権を含む歴代の政権と比較しても突出した数字だとして,強い危機感を示した。

政府機関による強権的な取り締まりは,市民による食料援助活動もその対象とした。段階を変えながらも隔離措置が長期化するなか,人々に食料や日用品を無償で配布するコミュニティ・パントリーが地域住民により各地で立ち上げられた。国家警察や「共産党系反政府勢力の反乱を鎮圧するための国家タスクフォース」(NTF-Elcac)は,これらの活動が共産主義系武装勢力から支援を受けており,同勢力が反政府イデオロギーを流布したりメンバーをリクルートするために使われていると示唆した。このような状況のなか,活動停止に追い込まれるコミュニティ・パントリーも出始めた。その一例が,ケソン市で食料配布活動を先駆けて始めたアナ・パトリシア・ノンによる活動である。彼女は警察官の聴取の対象となったことでマークされたと感じ,自身やボランティアの人々の安全確保のために,活動の一時休止を余儀なくされた。こうした国家警察やNTF-Elcacの対応には批判の声が上がったため,大統領府は,コミュニティ・パントリーは政府が推進する「バヤニハン」(市民間の協力,協調)の精神に合致し,食料配布活動を不必要に警戒する必要はないとの声明を出した。また,エドゥアルド・アニョ内務自治長官は,これが市民の間で発生した自発的な活動であり,政治的動機がなく感染症対策が適切に講じられているのならば,取り締まりの対象とするべきではないとの見解を示した。

さらに,政府機関による活動家グループへのサイバー攻撃も報告されている。これはスイスのサイバーセキュリティーグループによる報告で,独立系メディアであるアルターミディアやブラトラット,人権啓発・活動団体によるネットワーク「カラパタン」への政府機関によるサイバー攻撃が行われたというものである。5月と6月にそれぞれ数日間,これら3つのグループのウェブサイトに分散型DoS攻撃が仕掛けられ,サーバーが一時ダウンした。分散型DoS攻撃とは,標的となるサーバーなどに大量の処理負荷をかけることで,ウェブサービスを機能停止させるサイバー攻撃である。この攻撃に使われたIPアドレスが科学技術省の管轄する政府機関や国軍が管理するドメインだと指摘されている。5月のサイバー攻撃は,ミンダナオの活動家2人の逮捕に関する記事を載せた後に仕掛けられた。6月のサイバー攻撃も,国際刑事裁判所の主任検察官がドゥテルテ政権による「麻薬撲滅戦争」の捜査開始を求めたニュース(詳細は「対外関係」の項を参照)を掲載した直後に発生した。アルターミディアとブラトラットは,サイバー攻撃が政府にとって好ましくない記事へのアクセスを妨害する意図があったのではないかとの共同声明を出した。対象となった3つのグループは共産党系武装勢力の関連グループとして,政府から「テロリスト」指定されている。大統領府は本件を調査せずに政府機関による攻撃とするのは不当な決めつけだとの見解を示し,科学技術省もその関与を否定した。国軍は,表現の自由を尊重しそれを侵害する行為は行わないとして関与を否定した。

このような状況のなか,最高裁は市民団体や活動家から提訴された反テロ法の修正や失効を求める申立37件の審理を開始し,12月に2つの条項に関して違憲判決を下した。これらの条項が過度に広範で合法な行為まで規制対象としており,憲法に定められた表現の自由に抵触するとの判断を示した。具体的には,テロ行為の定義に関する条項,および外国政府や国際機関(国際連合など)が制裁対象のテロ組織を認定する基準などをそのまま適用してテロリスト指定を行うこと,の2点が違憲と判断された。しかし,反テロ法の骨格は維持された。反テロ法がドゥテルテ政権に都合の悪い人物を「テロリスト」として攻撃する「法的手段」を政府に与え,人権や市民的自由は依然脅かされているとして,野党からは最高裁の判決を形式的だと批判する声が上がっている。

ラップラーCEOマリア・レッサのノーベル平和賞受賞

10月にインターネットメディア「ラップラー」の共同創設者でCEOであるレッサがノーベル平和賞を受賞することが発表された。「麻薬撲滅戦争」の実態を報道してきたラップラーやレッサはドゥテルテ政権による非難の的となってきた。メディアへの圧力が増すなかで,国家権力に屈することなく政府による横暴や人権侵害に関する事実を伝えてきた,ジャーナリストとしての姿勢が評価された。国内の個人として初めてのノーベル賞の受賞である。

フィリピン国内の反応は冷ややかだった。国民的作家であるフランシスコ・シオニル・ホセは「レッサはノーベル賞受賞に値しない」という旨の文章をFacebookに載せ,メディアの活動は活発で大統領により閉鎖に追い込まれたメディアは存在しないと記した。受賞発表から3日後に声明を出した大統領府は,レッサを祝福したものの,ホセによるFacebookの投稿に触れ,フィリピンで検閲はなく報道の自由は守られており,レッサがノーベル賞を受賞したことがその何よりの証拠だとの見解を示した。

メディア,ジャーナリストを取り巻く環境は悪化している。フィリピン・ジャーナリスト全国連盟によると,2021年7月においてドゥテルテ政権期に殺害されたジャーナリストは20人を数え,230人が活動に支障をきたしている。彼らのうちの一部はすでに逮捕・勾留されており,また,その他は迫害や警察による監視の対象となっている。「国境なき記者団」は,ドゥテルテ大統領を「報道の自由への抑圧者」37人のうちの1人としている。

2022年正副大統領選挙をめぐる動き

2022年5月に国政選挙と市町村レベルまでを含む地方選挙が実施される。そのなかで,最も注目を集めるのが正副大統領選挙である。次期選挙を見据えて,各陣営は動きを活発化させた。ドゥテルテ陣営は大統領候補の擁立をめぐり紆余曲折した。自陣営から娘のサラが出馬することを期待していた大統領陣営は,サラに振り回された形となった。立候補届け出期限の10月8日には,国家警察長官時代にドゥテルテ大統領の「麻薬撲滅戦争」を指揮したロナルド・デラロサ上院議員が大統領候補として立候補を届け出た。その後,ドゥテルテ大統領の一存で,彼の長年の側近で,副大統領候補に立候補していたクリストファー・ローレンス・ゴー上院議員に大統領候補を入れ替えた。しかし,大統領選挙への出馬に前向きでなかったゴーは11月30日に一身上の都合を理由に立候補を取り下げた。大統領陣営は,後述するように他陣営から副大統領選に立候補したサラを支援することを表明したが,自陣営からの大統領候補と副大統領候補を欠く形で次期選挙を迎えることになる。2021年末に世論調査機関パルス・アジアが行った調査によると72%の支持率を得ているドゥテルテ大統領であるが,後継候補不在のため次期選挙への影響力は限定的といえる。

国民から人気の高いサラは,政党による候補者の入れ替え期限直前に副大統領候補として出馬することを表明した。大統領選挙に立候補しているマルコスJr.(通称ボンボン・マルコス)と組んで,グロリア・マカパガル・アロヨ元大統領が率いるラカス(Lakas-CMD)から副大統領選挙に出馬する。ラカスやその周辺の人物との緊密な関係は以前からメディアで伝えられている。2018年に下院議長がパンタレオン・アルバレスからアロヨに交代した際,サラとマルコスJr.の姉のアイミーがそれぞれの地盤であるミンダナオ地域とルソン島北部の下院議員の支持獲得に尽力したといわれている。さらに,2019年の中間選挙では,サラはドゥテルテ大統領と連携して与党陣営の上院議員候補を支持し,彼らのために選挙運動を行った。そのなかにアイミーが含まれ,サラがアイミーの選挙キャンペーンビデオに出演するなど,彼女らの繋がりの深さがうかがわれる。7月にはサラとマルティン・ロムアルデスがラカスとサラが率いる地域政党「変革のための同盟」(HNP)との連携強化に向けて協議したと報道されている。ロムアルデスは,マルコスJr.の母方のいとこである。

サラが副大統領候補としての出馬を決めたことから,次期大統領候補に関する世論調査で最も支持を集めるのが,1970年代に独裁政権を築いた故フェルディナンド・マルコス元大統領の息子,マルコスJr.である。しかし,彼は独裁政権時に弾圧された人々や市民団体などから,立候補の資格要件に疑義が呈されている。1982~1985年にかけて所得税の申告が適切に行われておらず脱税行為があったとして,控訴裁判所は1997年に追徴課税の判決とともに,罰金の支払いをマルコスJr.に命じた。市民団体は,マルコスJr.はこの支払いをしておらず,内国歳入法に抵触し被選挙権の要件を満たしていないと指摘した。そして,立候補届け出書類に法律に背く行為がないとの虚偽記載をしたとして,選挙委員会にマルコスJr.の候補者としての資格剥奪を求めた。選挙委員会は,2022年初頭にマルコスJr.の立候補資格の取り消しを求める申し立てに関する審理を行い,それらを棄却した。

反ドゥテルテ陣営からは,レニ・ロブレド副大統領が大統領選挙へ立候補した。ロブレドは,自由党の幹部であるが今回は自由党からの立候補ではなく,独立候補として出馬を決めた。ドゥテルテ陣営に打ち勝つためには,野党陣営が足並みを揃えて統一候補を支持する必要があると以前から語っており,自由党と距離を置くことで「反ドゥテルテ」を標榜するその他の勢力からの支持も取り付けやすいと考えたとみられる。また,ロブレドは新型コロナウイルス感染症の流行で打撃を受けた社会の再生のために,政府への信頼回復,国内産業の回復や中小企業への支援,雇用創出や貧困対策,対面授業の再開といった経済や人々の生活に密着する問題を主要な課題として掲げている。自由民主主義的な理念を前面に押し出すよりも,ドゥテルテ政権による統治や新型コロナウイルス感染症の流行で打撃を受けた経済や社会活動を回復させることを訴えて,人々からの支持や共鳴を得ようとしていると考えられる。自由民主主義の擁護という目的の下で各勢力の結集を目指す政治連合「イサンバヤン」(1Sambayan)がロブレド副大統領を支持している。同連合は,ドゥテルテ大統領の外交政策を批判するアントニオ・カルピオ元最高裁判事が主要な創設メンバーである。左派系グループや政府に不満をもつ国軍出身者から成るマグダロ・グループなど幅広い勢力が参加する。

その他に,パンフィロ・ラクソン上院議員,エマヌエル・パッキャオ上院議員,フランシスコ・モレノ・ドマゴソ・マニラ市長,左派系のレオディ・デ・グズマンが主要な候補となっている。

ドゥテルテ大統領関係者の不正疑惑発覚

会計検査院の調査により,保健省に配分された予算が適切に支出されていない可能性が指摘された。同院の報告では,新型コロナウイルス対策のために保健省に配分された2020年度予算2009億ペソのうち約30%にあたる673億ペソが適切に支出されていないとされた。さらに,9500万ペソに相当する,期限切れの,もしくは使用期限の迫った医薬品の余剰があることが発覚し,保健省が新型コロナウイルス感染症抑制のためにその資源を有効に活用していない可能性が指摘された。

会計検査院の報告を受けて,上院は調査を開始した。その結果,保健省に配分された予算を予算行政管理省下の「調達サービス」部門に移管させて不適切な支出が行われていることが明らかとなった。保健省は420億ペソを「調達サービス」部門に移し,同部門を通してマスクやフェイス・シールド,医療用防護服,検査キットを購入していたが,購入金額が市場価格に比べて高値であったことが問題視された。会計検査院の報告によると,保健省は医療用品輸入・販売業者ファーマリー・ファーマスーティカル(以下ファーマリー)を通じて物品を調達し,その総額は2020年と2021年合わせて115億ペソとされる。この不透明な取引・予算の支出の隠蔽のため「調達サービス」部門への予算の移管が行われていた可能性が指摘された。

さらに,ここにドゥテルテ大統領と緊密な関係にある人物が関わっていることが発覚した。1人目は「調達サービス」部門の責任者であったロイド・クリストファー・ラオである。彼はダバオ出身で2016年の大統領選挙でドゥテルテの法律顧問を務めた。現在の役職に就く前は,ゴー上院議員が上院に選出される前に責任者を務めた「大統領特別補佐局」(Office of the Special Assistant to the President)で働いていた。その後,予算行政管理省次官に就いた。ファーマリーの適正評価を行わずに,同企業と納入契約を締結したことが問題視されている。

2人目が中国籍のマイケル・ヤンである。ドゥテルテ大統領がダバオ市長時代から交友関係があり,ドゥテルテ大統領の経済顧問を2018年に務めた人物である。ファーマリーの関連会社を2017年に大統領に紹介したとされる。ファーマリーは2019年9月に設立された資本金62万5000ペソ程度の小規模事業者であったが,ヤンが財政的な後ろ盾となって中国の医療用製造業者との仲介を行い,保健省との供給契約の締結を橋渡ししたとみられている。

予算行政管理省とファーマリーの関係者の証言から,ラオとヤン,そしてファーマリーが共謀して不正取引を行っていた可能性が浮上した。「調達サービス」部門の担当者は,ファーマリーから製品が納入される前に検品報告書を作成して同社に渡すよう上司から指示があったと証言した。さらに,ファーマリーの幹部は,政府側の発注書なしで製品が納入されていたと証言し,適正な手続きを経ずに取引が行われていた疑惑が明るみとなった。

上院のブルーリボン委員会が政府の活動を不当に妨害しているとして憤慨してきたドゥテルテ大統領は,10月4日に閣僚や官僚に上院の証人喚問に応じないよう命令を出した。大統領は新型コロナウイルスとの闘いの渦中に政府関係者が上院に長時間にわたり拘束されるのは,政府の活動に悪影響を及ぼすとの見解を示した。上院は,証人喚問に応じないラオや宣誓後の偽証罪でヤンに逮捕命令を出し,ファーマリーの幹部数人を勾留して,不正の実態を明らかにするために調査を継続する方針である。

ドゥテルテ大統領は,2016年の選挙キャンペーン時に汚職問題を6カ月で解決すると訴えて,大統領に当選した。しかし,政権5年目となる2021年においても汚職問題が改善したとは言い難い。世界180カ国の汚職の度合を図る腐敗認識指数によると,2021年のフィリピンのスコアは33である。このスコアは0から100の値をとり,0に近いほど汚職の度合が深刻であることを示す。アキノ政権時の2014年には38であったが,2016年には35となり,ドゥテルテ政権期にはスコアの下落傾向が続いた。つまり,汚職の度合が改善されてない,もしくは深刻化していることを示している。財閥や伝統的政治エリートなどの既得権益者層に厳しい態度をとるドゥテルテ大統領であるが,彼の周辺人物が政府の資源や権力を利用して私腹を肥やすようであれば,これまでと変わらず少数の有力者が富を独占する収奪的構造が維持されることとなる。

経 済

回復の兆しをみせる経済

2021年の実質GDP成長率は5.6%であった。感染症対策のために経済活動が制限されるなかで,フィリピン開発予算調整委員会は年間の経済成長率の予測値を数回修正したが,12月に発表した予測値5.0~5.5%を上回る結果となった。2020年の影響を引きずっていた2021年第1四半期の実質GDP成長率はマイナス3.9%であったが,それ以降はプラスに転じた。第2四半期は12.0%,第3四半期は6.9%,第4四半期は7.7%となり,最終的に目標値を上回る成長率となった。カール・ケンドリック・チュア国家経済開発庁長官は,新型コロナウイルスの感染拡大がみられる地域に絞って隔離措置を実施したことで多くの企業が事業活動を再開させ,さらに人々の消費行動を後押ししたことが経済成長につながったとの見解を示した。海外就労者の送金が反映される海外純要素所得はマイナス50.2%と大きく落ち込み,実質国民総所得(GNI)成長率は1.6%でわずかにプラスに転じた。

産業別では,ほぼすべての分野で前年と比べてプラス成長に転じたが,農林水産業が0.3%減となった。この主要因について,前年から続いたアフリカ豚熱の流行により畜産物の生産量が落ち込んだこと,12月に直撃した大型台風オデットによりビサヤ,ミンダナオ地方を中心に農業が打撃を受けたことが指摘されている。その他の産業については,鉱工業は8.2%増,サービス業が5.3%増で,経済が回復基調にあることを示している。とりわけ,すべての業種で2020年にはマイナス成長であった鉱工業は,全業種がプラスに転じ生産活動が本格的に再開した。

財貿易額は輸出入ともに前年度を上回った。輸入額が前年比31.1%増の1178億ドルで,輸出額が同14.5%増の746億ドルであった。輸入額の増加幅が大きいことから貿易赤字が拡大し,前年より76%増えて432億ドルとなった。これは3年ぶりの高い水準である。輸入額の増加は,経済活動が厳しく制限された前年に比して,企業による生産活動の再開を反映しているといえる。貿易赤字の拡大は,経常収支にも影響し69億2197万ドルの赤字となった。

海外直接投資(FDI)の流入額は前年比54.2%増の105億ドルであった。これは中央銀行が目標値とした80億ドルを大きく上回り,2017年と同水準である。内訳は,親会社などからの資金流入である負債性資本が75億ドルで前年比80%増となり,再投資収益は13億ドルで前年比35%増,新規株式資本流入額が17億ドルで同0.7%増であった。FDI流入額の増加は新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にあり経済が回復基調にあることから,投資家心理が上向いたことを表しているとの見解をベンハミン・ジョクノ中央銀行総裁は示した。

失業率は1~9月はおおむね7%台後半から8%台で推移したが,10月に7.4%,11月に6.5%,12月に6.6%と低下傾向となった。10月以降に感染状況が落ち着いたとともに,「アラートレベルシステム」の下で,局所的な隔離措置を行い経済活動への影響に配慮した効果が表れたと考えられる。失業率が統計史上最悪となった2020年4月の17.6%から大きく改善したものの,コロナ禍以前の水準には戻っていない。

消費者物価指数の上昇率(インフレ率)は,ほとんどの月において4%以上で推移し年平均で4.5%となり,政府目標の2~4%を上回った。この主要因として,食品価格の値上がり,世界的なエネルギー価格の高騰とそれに伴う輸送費の上昇がある。食品価格については,食肉価格,とくにアフリカ豚熱流行の打撃を受けて豚肉の生産量が減少し,インフレ率を押し上げた。豚肉価格の抑制のために,チュア国家経済開発庁長官は5月に発出された行政命令(EO133)を2022年12月末まで延長することが望ましいとの見解を示した。これには,通常よりも低い関税で輸入される豚肉の上限を5万4210トンから25万4210トンに引き上げて,供給量を安定させる目的があった。ジョクノ中央銀行総裁は,大型台風オデットの影響で短期的には食品価格の上昇があるかもしれないが,2022,2023年は政府目標の2~4%の範囲に収まるとの見解を示した。

拡大する財政赤字,膨張する国家予算

2021年度予算の中央政府財政収支(現金ベース)は,収入が3兆55億ペソ,支出が4兆6756億ペソで,1兆6701億ペソの赤字であった。財政赤字の対GDP比は8.6%となった。この結果,政府の債務残高は11兆7285億ペソとなり,2020年度末比で20%増加した。そのうち,対内債務は8兆1704億ペソで同じく前年度末比で22%増となり,対外債務が3兆5581億ペソで同15%増した。対GDP比債務残高は61%となり,2020年末の54%から7ポイント増加した。これは2005年以来の高い水準となる。政府は2025年頃に対GDP比債務残高が60%を下回ると見込んでおり,カルロス・ドミンゲス財務長官は同残高が40%を切るためには毎年6%以上の経済成長率を維持する必要があるとの見解を示した。

財政が膨張するなかで,2020年に続き中央銀行と国際開発金融機関は政府への財政支援を行った。中央銀行は1月と7月にそれぞれ5400億ペソの3カ月短期国債をゼロ金利で買い入れた。これは1回限りで3カ月間の繰り延べが可能で,政府は1月に借りた分を3月に繰り延べて7月に返済したうえで,7月に新たに融資を受けた。7月分は12月に返済された。国際開発金融機関については,世界銀行,アジア開発銀行,アジアインフラ投資銀行などから,新型コロナウイルス対策のために少なくとも5840億ペソの融資を受けた。

12月末,5兆240億ペソの2022年一般歳出法が成立した。予算の15%程度がそれぞれ教育省と公共事業道路省に割り当てられる。教育省の予算の一部は,対面授業の制限が続くなかで,児童の学習継続のための支援に充てられる。具体的にはオンライン授業対策,インターネットへのアクセスが乏しい家庭向けに行われている自宅での「オフライン授業」や「プリント学習」への対策・支援に配分される。また,インフラ整備を旗艦政策としてきたドゥテルテ大統領は,公共事業道路省に重点的に予算を配分することで,インフラ整備の推進を図り,政権の主要な成果としたいようである。その他には,保健省に予算の5%程度が割り当てられ,そのうちの500億ペソが新型コロナウイルスの3回目ワクチンの調達費用に充てられる。

投資環境整備の進展

投資環境整備に関わる法制化が進展した。法人所得税の引き下げと対象事業者への優遇措置の見直しを主眼とする「CREATE法」(共和国法11534号)が3月に成立した。法人所得税が現行の30%から引き下げられるが,その引き下げ率は企業の規模と内国法人/外国法人の別により異なる。内国法人かつ中小・零細企業に分類される事業者は20%に,それ以外の内国法人と居住外国法人は25%に引き下げられる。新税率は,2020年7月1日から遡及して適用される。今回の法人税引き下げにより,東南アジアで最も高かった法人税率を地域の平均(23%)に近づけ,さらなる外国企業の誘致や投資の呼び込みにより課税ベースの拡大が見込まれる。

優遇税制措置については,新たに設置される財政インセンティブ審査委員会(FIRB)が,現在検討中の「戦略的投資優先計画」(SIPP)に基づき,優遇措置の対象となる事業者・プロジェクトを選定する。従来は,フィリピン経済区庁や投資委員会といった複数の投資誘致機関が分野や事業ごとに優遇措置を付与してきたため,投資インセンティブ制度が複雑であった。これをCREATE法のもとで整理・合理化するとともに,都市部以外への投資誘致を促すことで都市部と地方間の所得格差や雇用機会の是正が目指される。具体的には,都市部以外,もしくは輸出向け事業の方がより長く優遇措置を受けられるようにし,大都市圏以外での投資に対してより高い投資インセンティブを付与する。これまで,投資の認可を受ける事業がマニラ首都圏近隣などのルソン島に偏在しており,地域間格差が問題視されていた。CREATE法の下で優遇措置の対象となる業種は,今後策定されるSIPPにより定められる。

フィリピン開発予算調整委員会は,CREATE法施行による2021年の税収の減少額を1382億ペソと試算している。新型コロナウイルスの感染拡大により企業活動が抑制されるなかで経済の活性化を後押しすることが期待されるが,2022年には選挙を控え大統領の交代があるため,投資拡大の効果が現れるまでにはしばらく時間がかかるとみる専門家もいる。

12月,小売業への外資系企業の参入要件を緩和する「改正小売業自由化法」(共和国法11595号)が成立した。2000年に小売業を自由化したが,国内の中小・零細事業者保護を目的とした払込資本金の要件などが依然参入障壁となっていた。今回の改正法でこれを大幅に緩和し,払込資本金の要件を250万ドル以上から2500万ペソ(約50万ドル,2021年の年平均為替レートで計算)以下に引き下げた。フィリピンの国内市場に進出していたのは,世界各国に店舗を展開する約20の大企業にとどまっていたが,中小規模の外資系小売企業による国内進出が可能となったことで,投資誘致・経済活動のさらなる活性化が期待される。なお,2022年初頭に「改正公共サービス法」(共和国法11659号)と「改正外国投資法」(共和国法11647号)が成立し,ドゥテルテ政権が政策課題とした経済自由化,投資環境の整備に関する法的基盤が整った。

フィリピン航空の経営再建

コロナ禍により経営難に見舞われた比航空業界の最大手フィリピン航空が米連邦破産法第11章(チャプター11)の適用を申請した。これは日本の民事再生法に相当し,チャプター11を申請した事業者は債務者との負債整理や契約の見直しを折衝するとともに,経営の継続・再建を目指す。以前から厳しい経営状況にあったフィリピン航空であったが,世界的なコロナ・パンデミックの拡大が経営の悪化に追い打ちをかけた。2020年度の売上高は前年比64%減の553億ペソにとどまり,最終赤字が718億ペソとなった。厳しい経営状況が続くなかで,全従業員の30%にあたる約2000人の人員整理を行い,大株主であるルシオ・タンによる資本注入を受けたが,経営状況の悪化は食い止められなかった。

経営の立て直しはフィリピン航空が策定し,12月に米国破産裁判所から承認を受けた再建計画に基づき進められる。同航空会社は債務総額の約3分の1にあたる20億ドルの債務削減に債務者と合意した。また,既存取引のある金融機関などから約5億ドルの融資を受け,投資家などから1億5000万ドルを新たに借り入れ,タン一族が中心となり財政基盤の立て直しを図る。経営再建については,航空機材を91機から70機に削減するとともに,採算性が低い長距離フライトを削減し,国内・アジア近隣地域のフライトを拡充する。フィリピン航空の経営陣は,航空需要がコロナ禍以前のレベルに戻るのは2025年頃になるとの見通しをもっており,元の売上高を取り戻すには少なくとも5年はかかると見込んでいる。

対外関係

南シナ海をめぐる対応

南シナ海での中国の示威活動は引き続き活発であった。3月初頭には,フィリピンが領有権を主張するフリアン・フェリペ礁付近で武装漁船を含む中国船舶220隻の停泊が確認され,同海域での停泊は2カ月以上続いた。これを受けて外務省と国防省は,同海域から退去するよう中国に繰り返し抗議した。3月下旬,ドゥテルテ大統領と会談した黄渓連・駐比中国大使は該当の船舶は漁業のために周辺海域にいたが,荒天から逃れるためにフリアン・フェリペ礁付近に停泊していると説明した。デルフィン・ロレンザーナ国防長官はこれに反発し,「周辺海域の天候は良好で中国船が留まる理由はひとつもない。今すぐ出ていけ」とメディアに語った。黄大使は,同海域が長年の間,中国漁業者の漁場であり,中国領海なので,侮蔑的な言動を避けるようにと警告した。

このような状況のなか,テオドロ・ロクシン外務長官とロレンザーナ国防長官は,それぞれアンソニー・ブリンケン米国務長官とロイド・オースティン米国防長官と相次いで電話会談を行い,中国船停泊への対応を協議した。アメリカ政府は,南シナ海での中国の行動に懸念を示すとともに,フィリピンへの攻撃があった場合,米比相互防衛条約に基づいて行動するとの見解を示した。4月中旬には米比合同軍事演習「バリカタン」が2週間行われ,さらに,フィリピン沿岸警備隊は南沙(スプラトリー)諸島海域で訓練を行い,フィリピン海軍・漁業水産資源局とともに同海域での監視を強化した。

対抗措置をとる外務省・国防省とは異なり,ドゥテルテ大統領は事態を静観する構えをみせたが,大統領の消極的な姿勢には各所から批判の声が上がった。大統領の対応は新型コロナウイルスのワクチン確保を中国に依存しているからだとの指摘がある。実際に,3月1日の接種開始に先立って届けられたのは中国のシノバック・バイオテック製のワクチンのみである。また政府によると,6月末時点で調達していた約1400万回分のワクチンのうち,6割超が中国製で占められていた。世界各国がワクチン獲得を進めるなかで,国際的なワクチン調達・供給枠組みCOVAXファシリティを通じて確保したワクチンの到着がたびたび遅れ,中国への依存度が高まった。このようななか,大統領は定例のテレビ会見で「中国は良き友であり,我々はワクチン提供を含む多大な温情を受けている。彼らと揉めるべきではない」という見解を述べた。

外務省や国防省によるたびたびの抗議や南沙諸島海域の監視強化により,中国船舶は周辺海域に移動するなどしてその数を減らしたようにみえた。しかし,5月の中旬に再び300隻近い船舶が同海域で確認された。中国船舶による停泊が長引くなか,中国と「二国間対話メカニズム」がオンラインで実施された。同メカニズムは,2016年にドゥテルテ大統領が訪中した際に設置されることが決まった二国間協議の仕組みである。両国は南シナ海での緊張緩和のために対話の重要性を確認するとともに,フィリピンは2016年の常設仲裁裁判所の判決を尊重するよう呼びかけた。また,2019年に発生した中国のトロール船によるフィリピン漁船への当て逃げ事件への対応に言及した。中国は二国間の緊密な連携の下で南シナ海の平和と安定を維持することを強調した。

11月中旬,アユンギン礁付近でフィリピン海軍の拠点(座礁船)に物資輸送中だった民間の船舶2隻が中国海警船3隻により放水を含む妨害を受けた。外務省は即時に外交ルートを通じて抗議した。妨害発生の約1週間後に行われたASEAN・中国特別首脳会議に出席したドゥテルテ大統領は,先の出来事を批判し,中国の対応に重大な懸念を示すとともに,許されることではないと語った。さらに,国連海洋法条約と常設仲裁裁判所の判決は南シナ海問題の解決への明確な法的根拠を示しており,これらに倣って南シナ海の平和と安定が守られるべきだとの見解を示した。

ドゥテルテ大統領による踏み込んだ発言の背景には,中国製ワクチンへの依存度合の低下があったとみられる。8月中旬,「COVID-19対策のための国家タスクフォース」は,政府が調達したファイザー製ワクチン4000万回分のほとんどが9月以降に順次到着するため,国内で使用されるワクチンの大半がファイザー製とモデルナ製になるとの声明を出した。

「訪問米軍に関する地位協定」の破棄撤回

南シナ海での中国の示威活動への対応に苦慮するなか,ドゥテルテ大統領は「訪問米軍に関する地位協定」の破棄撤回を決めた。7月末にオースティン米国防長官がフィリピンを訪問し,同協定が両国の軍事戦略にとって極めて重要なものだとの共通認識のうえで破棄撤回に合意した。さらに,両政府は「海洋・航空分野における捜索・救助協力に向けた米比合意」(AMSAR)を締結した。これは自国の領土・領海内で遭難者,行方不明者が出た場合に両国が協力して捜索・救助活動を行うことを定めており,担当省庁への支援を通して捜索・救助能力の強化を図るものである。2021年は両国の外交関係樹立75周年,そして相互防衛条約の締結70周年にあたる。「訪問米軍に関する地位協定」を保持したことで,強硬な手法を通して国際秩序の現状変更を図る中国に対して,フィリピン政府は西欧中心に確立された既存の国際秩序の枠組みで安全保障政策を推進していくと考えられる。

国際刑事裁判所の捜査

国際刑事裁判所(ICC)は,ドゥテルテ大統領が推進した「麻薬撲滅戦争」に関して「人道に対する罪」の疑いで捜査の開始を決定した。ICCのファトゥ・ベンスダ主任検察官は2018年から予備調査を行っており,一般市民に対して政府による組織的かつ広範な暴力行使があったと判断する合理的な証拠があるとして,彼女の退官直前に捜査の開始を承認するように予備裁判部に求めた。それが承認されて捜査の開始となった。ICCは捜査対象期間を2011年11月1日~2019年3月16日とした。これは,ドゥテルテが大統領就任後に始まった「麻薬撲滅戦争」と彼が市長・副市長時代にダバオで行われていた「超法規的殺人」の手法が似通っており,これらを関連付ける十分な証拠があると判断した結果である。フィリピン政府の公式発表で「麻薬撲滅戦争」による死者は約7000人であるのに対し,ベンスダ主任検察官の報告によると,2016年7月から2019年3月の間に1万2000~3万人が犠牲になったとされる。加えて,ドゥテルテが市長・副市長時代であった頃のダバオでの犠牲者は385人と算出された。

フィリピン政府は,この報告のなかで引用されている報道の多くが「ラップラー」やABS-CBNなどドゥテルテ政権に批判的なメディアのものであることに異を唱えた。これらは,偏重した報道で政治的意図に基づくため法的証拠として適切でないとして,捜査に協力しないという態度を示した。また,ICCの法的地位や権限を定めるローマ規程から2019年に脱退しているため,ICCはその管轄権をフィリピン政府に行使できないとの見解も示した。これに対しICCは,フィリピンが加盟した2011年から脱退するまでの2019年3月までその管轄権が及ぶと判断した。

11月10日にフィリピン政府は,駐オランダ大使を通じてICCに捜査を一時中断するよう要請した。政府は,「麻薬撲滅戦争」に関連する事件は司法省の専門チームが調査しており国家の司法制度が機能しているため,ICCの捜査対象には該当しないとの見解を示した。これを受けて,ベンスダの後任となったカリム・カーン主任検察官は捜査の一時中断を決めた。その間,フィリピン政府の要請・主張の妥当性を検討するとした。さらに,すでに収集した,また新たに追加される証拠を精査するとした。しかし,人権活動家などからは,ICCによる捜査の継続・再開を求める声が上がっている。「超法規的殺人」が横行している現状では,司法制度が市民的自由や人権を守るために機能しているとは言い難く,「麻薬撲滅戦争」の実態を明らかにするためには第三者による捜査が必要だと考えられる。

2022年の課題

2022年2月に公式に選挙運動が開始された。選挙運動の展開を左右すると考えられるのが,各陣営によるソーシャル・メディアの利用である。選挙とソーシャル・メディアをめぐっては,2016年の大統領選挙からそれを利用した偽情報の流布が指摘されており問題となっている。マルコス支持者の一部からは,マルコス独裁政権を打破した1986年のエドサ革命が「フェイク・ニュース」であるとして,独裁政権時のノスタルジアを喧伝するアカウントや物語が作られている。

一方,新大統領には就任早々からコロナ・パンデミックに打撃を受けた人々への対応・支援が求められる。2020年3月以来,学校での対面授業が制限されるなかで,学校教育の本格的な再開のためには子供達へのワクチン接種実施が鍵となる。政府は2022年2月から5~11歳の子供を対象に接種を開始した。さらに,ドゥテルテ政権下で悪化した人権状況の改善が求められる。ただし,これは誰が大統領に当選するかによってその対応が異なるだろう。マルコスJr.は「麻薬撲滅戦争」の踏襲を表明しており,彼が大統領に当選した場合,人権状況の改善は望めない。一方で,ロブレド副大統領が当選すれば,ICCに協力することで「麻薬撲滅戦争」の実態に関する捜査が進められると考えられる。

回復基調に入った経済であるが,コロナ禍以前に比べて失業率,貧困率は高い。マクロ経済の回復だけでなく,とりわけ低所得者層以下の人々の雇用状況の改善が必要とされる。また,新型コロナウイルス対策費用で膨らんだ債務削減のために,財務省は財政健全化計画の立案を進めている。そのためには経済の回復を妨げることなく,さらなる税制改革を通して税収ベースの拡大が求められる。

対外関係はアメリカと中国が引き続き軸となる。相互防衛条約を基礎とするアメリカとの関係性は維持されると考えられる。対中関係については,誰が大統領に当選するかによって中国への距離感が異なるだろう。明確な外交方針を打ち出していないマルコスJr.であるが,彼が当選すれば中国への宥和的姿勢が維持される可能性が高い。一方で,ロブレド副大統領が当選すれば,アメリカや国際社会と協調して中国に対峙するアキノ政権時の外交路線に回帰するものと思われる。

(地域研究センター)

重要日誌 フィリピン 2021年

1月
15日 中国の王毅外相,来訪(~16日)。ロクシン外務長官とドゥテルテ大統領と会談。
21日 日産自動車,3月でフィリピンでの自動車生産の停止を発表。
25日 大統領,最高裁判所判事にジョーセップ・ロペス控訴裁判所判事を任命。
26日 カビテ州政府,サングレーポイント空港の拡張工事についてマクロアジアと中国交通建設の合弁会社への落札通知を撤回。
27日 ロクシン外務長官,「海警法」の成立に外交ルートを通じて中国に抗議したと公表。
28日 ロクシン外務長官,ブリンケン米国務長官と電話会談。
2月
1日 大統領,マニラ首都圏で60日間,豚肉と鶏肉の小売価格の上限を定める行政命令(EO124)に署名(8日に施行)。
1日 上院,核兵器禁止条約を批准。
4日 大統領,新国軍統合参謀本部議長にシリリト・ソベハナ陸軍総司令官を任命。
4日 国家経済開発庁,中期国家開発計画(2017~2022年)の改訂版を発表。
5日 サンディガンバヤン,2014年に「優先開発支援資金」の不正流用の容疑で逮捕・起訴されたジャネット・リム・ナポレスとその他4人にそれぞれ12~18年の懲役刑と2800万ペソの罰金刑。
5日 大統領,反政府武装勢力のメンバーへの恩赦を検討する国家恩赦委員会を設立する行政命令(EO125)に署名。
9日 ロクシン外務長官,ブリンケン米国務長官と電話会談。
10日 ロレンザーナ国防長官,オースティン米国防長官と電話会談。
16日 大統領,資産管理会社などを通して金融機関の不良債権の処理を促進する法律(RA11523)に署名。
16日 大統領選挙法廷,2016年の副大統領選挙に関するマルコスJr.の訴えを全員一致で棄却。
17日 モンテンルパ地裁,レイラ・デ・リマ被告の違法麻薬取引に関わる容疑のひとつについて,無罪判決。
18日 国軍,軍事的要衝で北部に位置するフガ島にフィリピンの主権を示す旗を設置。
24日 国家警察とフィリピン麻薬取締庁の間で発生したケソン市での銃撃戦により,警察官2人が死亡。
26日 大統領,ワクチン調達やその手続きや財源に法的根拠を付与する「COVID-19ワクチン接種計画法」(RA11525)に署名。
26日 大統領,ココナッツ農家への支援,産業振興を目的とする「ココナッツ農家・産業信託基金法」(RA11524)に署名(3月13日に施行)。
3月
1日 控訴裁判所,アントニオ・トリリャネスが関与したクーデター未遂事件の審理再開に関するマカティ地裁第150支部の判決を取り消し。ただし,大統領が発出した同氏の恩赦無効(宣言572号)は保持。
2日 ロクシン外務長官,ASEAN非公式外相会議にオンライン参加。
7日 国防省,中国の船舶(武装漁船)約220隻がフリアン・フェリペ礁付近に停泊していることを確認。外務省は即時に外交ルートを通じて抗議。
7日 国軍と警察の合同作戦により,カラバルソン地方で9人が殺害,6人が逮捕される。
13日 パラワン州の分割を問う住民投票実施。反対多数で否決。
18日 国軍,バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)と戦闘。国軍兵士数人とBIFFメンバー20人以上が犠牲になったとみられる。
21日 国防省,中国政府にフリアン・フェリペ礁付近での船舶停泊について抗議。
25日 政府,大統領が黄渓連・駐比中国大使と中国船停泊について協議と発表。
26日 大統領,税制改革の第2弾「CREATE法」(RA11534)に署名(4月11日に発効)。
27日 最高裁のディオスダド・ペラルタ判事,任期1年を残して退官。
31日 ロクシン外務長官,マレーシア・シンガポール・インドネシアの外相とともに訪中(~4月2日)。王毅外相と会談。
4月
4日 駐比中国大使館,フリアン・フェリペ礁付近での停泊は悪天候により避難しているからだと発表。
5日 外務省,中国政府にフリアン・フェリペ礁付近での船舶停泊を再度抗議。
5日 大統領,最高裁長官にアレクサンダー・ヘスムンド判事を任命。
9日 ロクシン外務長官,ブリンケン米国務長官と電話会談。中国による船舶停泊について協議。
9日 農業省,価格高騰を受けて,輸入豚肉の希望小売価格の上限を設定。バラ肉を1キロ当たり350ペソ,肩肉を270ペソとする。
11日 ロレンザーナ国防長官,オースティン米国防長官と電話会談。
12日 規模を縮小して米比共同軍事演習「バリカタン」を実施(~23日)。
13日 大統領,ロシアのプーチン大統領と電話会談。
14日 政府と事業者との鉱業協定の新規契約停止を解除する行政命令(EO130)発出。
22日 大統領,国家経済開発庁長官に現代行のカール・ケンドリック・チュアを任命。
22日 外務省,中国による船舶停泊に対して,2つの抗議を提出。
24日 フィリピン沿岸警備隊,訓練実施。
28日 ロクシン外務長官,1カ月以上にわたる船舶停泊について外交ルートを通じて中国に抗議。
5月
8日 大統領,国家警察長官にギレルモ・エレーザー副長官を任命。
10日 大統領,国内でのアフリカ豚熱の拡大を受けて全土に「災害事態宣言」を発出(宣言1143号)。
10日 大統領,通常より低関税率で輸入できる豚肉のミニマム・アクセス量を2021年末まで約5倍に引き上げる行政命令(EO133)発出。
18日 大統領,ディト・テレコミュニティに通信事業者としての営業許可を25年間付与する法律(RA11537)に署名。
19日 モロ・イスラム解放戦線(MILF)元兵士の武装解除,社会復帰を支援するバンサモロ正常化基金の設立。
19日 大統領,菅義偉首相と電話会談。
21日 政府,中国と「二国間対話メカニズム」をオンラインで開催。
27日 大統領,マギンダナオ州を2つに分割する法律(RA11550)に署名。
31日 国家送電会社(NGCP),電力需給のひっ迫により,深刻な電力不足を表す警報「レッドアラート」をルソン地方に発令。
6月
2日 ロレンザーナ国防長官,岸信夫防衛大臣とオンラインで会談。
7日 ロクシン外務長官,AESAN・中国特別外相会議に出席。
14日 政府,「訪問米軍に関する地位協定」の破棄を6カ月間再度保留すると発表。
23日 反テロ評議会,フィリピン共産党の政治組織である民族民主戦線(NDF)をテロリスト組織として指定。
24日 ベニグノ・アキノ3世前大統領が死去。
25日 大統領,ランドバンクとココナッツ栽培者連合銀行(UCPB)を合併させる行政命令(EO142)に署名。
25日 10代での妊娠への対策を講じることを定めた行政命令(EO141)に署名(7月10日に施行)。
25日 大統領,新型コロナウイルスの流行で落ち込んだ労働市場の回復を推進する「労働市場回復戦略」に関する行政命令(EO140)に署名。
30日 エガルド・デロス・サントス最高裁判事,健康上の理由で任期1年を残して退官。
7月
2日 大統領,最高裁判事にジャパール・ババイ・ディマンパオ控訴裁判所判事を任命。
4日 国軍輸送機がスルー州で墜落し,市民3人を含む52人が死亡,市民4人を含む51人が負傷。
5日 大統領,国境なき記者団により「報道の自由への抑圧者」と認定される。
7日 バタンガス州のタール火山が小規模噴火(~9日)。
12日 フィッチ・レーティングス,フィリピンの格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げたものの,長期格付けは投資適格級の「BBB」に据え置く。
14日 ロクシン外務長官,ASEAN米特別外相会議(オンライン)に出席。
22日 政府,国連と「人権保護・強化のための能力開発・連携」に関する共同プログラムの開始のための合意を締結。
26日 第18議会第3会期開会。上院議長にソト議員,下院議長にヴェラスコ議員がそれぞれ留任。
26日 大統領による施政方針演説。
26日 夏季オリンピックで重量挙げ女子55kg級のヒディリン・ディアスが比史上初の金メダルを獲得。
28日 比日両政府,国交正常化65周年に関するビデオメッセージを公開。
29日 オースティン米国防長官,来訪(~30日)。ドゥテルテ大統領とロレンザーナ国防長官と個別に会談。
31日 大統領,新国軍統合参謀本部議長にホセ・ファウスティノJr.ミンダナオ統合部隊司令官を任命。
8月
2日 ロクシン外務長官,ASEAN外相会議(オンライン)に出席(~6日)。
13日 ウェンデル・アビサド予算行政管理長官,健康上の理由で長官職を退く。ティナ・ローズ・マリー・カンダ次官を長官代理に任命。
27日 政府,6月に発生した,空軍機への中国による閃光弾5発の発射に外交ルートを通じて抗議。
9月
4日 フィリピン航空,米国破産裁判所に連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請。
6日 台風ジョリーナ(13号)が上陸。少なくとも19人が死亡。
9日 ロクシン外務長官,訪米(~11日)。ブリンケン米国務長官と会談。
15日 国際刑事裁判所(ICC),ドゥテルテ政権の「麻薬撲滅戦争」の捜査を決定。
16日 新型コロナウイルス感染症対策の隔離措置「アラートレベルシステム」を導入。
22日 大統領,海外向けオンライン賭博事業(POGOs)に従事する外国籍就労者の収入に25%の源泉収入税を課す法律(RA11590)に署名。
27日 大統領,最高裁判事に最高裁事務局のホセ・ミダス・マルケスを任命。
10月
6日 マーク・ビリャール公共事業道路長官,上院選出馬のため同職を辞任。代行にロジャー・メルカド下院議員を任命。
8日 「ラップラー」のマリア・レッサCEO,ノーベル平和賞の受賞が決まる。
8日 グレゴリオ・ホナサンII情報通信技術長官,上院選出馬のため同職を辞任。代行にホセ・アルトゥロ・デ・カストロ次官を任命。
8日 ジョン・カストリシオネス農地改革長官,上院選出馬のため同職を辞任。代行にバーニー・クルス次官を任命。
9日 人権委員会のホセ・ルイス・マルティン・ガスコン委員長,新型コロナウイルスに罹患し,死去。
11日 台風マリン(18号)が上陸。ルソン島北部を中心に,少なくとも9人が死亡。
26日 大統領,第38回,39回ASEAN首脳会議(オンライン)に出席(~28日)。
28日 大統領,バンサモロ自治地域での自治政府設立のための選挙実施を2022年から2025年に延長する法律(RA11593)に署名。
11月
10日 国家警察長官に部門間調整・監督責任者(Chief of the Directorial Staff)のディオナルド・カルロスを任命。
12日 大統領,新国軍統合参謀本部議長にアンドレス・センティノ陸軍総司令官を任命。
15日 ヘルミニオ・ロペス・ロケ大統領スポークスパーソン,上院選出馬のため同職を辞任。代行にカルロ・ノグラレス内閣担当長官を任命。
17日 大統領,岸田文雄首相と電話会談。「外務・防衛担当閣僚会合」の設置を協議。
17日 政府,アラートレベル2の地域を対象に学校での対面授業再開を発表。1年8カ月ぶりとなる。
18日 ロクシン外務長官,海軍に物資輸送中だった民間船舶2隻への中国海警船による妨害に対して外交ルートを通じて「最も強い言葉で」抗議。
18日 米司法省,ドゥテルテと親交があり,宗教団体「イエス・キリストの王国」の代表を務めるアポロ・カレオン・クイボロイらを人身売買(不法渡航)の容疑で起訴。
19日 ロレンザーナ国防長官,オースティン米国防長官と電話会談。
22日 大統領,ASEAN・中国特別首脳会議にオンラインで出席。
29日 第1回「新型コロナワクチン接種キャンペーン」開始(~12月3日)。
12月
8日 ロクシン外務長官,林芳正外務大臣と電話会談。
8日 大統領,外資系企業の参入要件を緩和する改正小売業自由化法(RA11595)に署名。
9日 最高裁,反テロ法の2つの条項に関して違憲判決を下す。
12日 ロクシン外務長官,ASEAN・G7外相会議に出席。
15日 第2回「新型コロナワクチン接種キャンペーン」開始(~23日)。
16日 台風オデット(22号)上陸。ビサヤ,ミンダナオ地方を中心に少なくとも375人死亡。
17日 米国破産裁判所,フィリピン航空の再建計画を承認。
21日 情報通信技術長官(代行),エマヌエル・レイ・カインティク次官に交代。
27日 大統領,大統領和平プロセス顧問室(OPAPP)の組織改編と改名に関する行政命令(EO158)に署名。
30日 大統領,2022年度一般歳出法(RA11639)に署名。予算規模5兆240億ペソ。
30日 大統領,2021年度予算の執行を2022年度末まで延長する修正法(RA11640)に署名。
30日 大統領,「海外就労者省」設置法(RA11641)に署名。

参考資料 フィリピン 2021年

① 国家機構図(2021年12月末現在)

(注)各省には主要部局のみを記す。

② 国家機関要人名簿(2021年12月末現在)
③ 地方政府制度(2021年12月末日現在)

(注)フィリピンは全部で81州,146市,1488町,4万2046バランガイにより構成される。

1) マニラ首都圏の各市町は独立しており,マニラ首都圏開発庁は各地方政府首長が参加する中央政府の機関。

2) ムスリム・ミンダナオ自治地域は,2019年1月と2月の住民投票によってバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)となり,5州・3市・116町で構成されることになった。ただし,2021年12月末時点においてまだバンサモロ組織法の実施規則・細則が制定されておらず,同地域の管轄区域が明確に定められていないため,内務自治省の公式発表に従いこのままとする。

主要統計 フィリピン 2021年

1 基礎統計

(注)1)同年人口センサスを基にした年央の推計値。 2)2021年は暫定値。 3)基準年は2012年。 4)年平均。

(出所)Philippine Statistics Authority(PSA),Bangko Sentral ng Pilipinas(BSP).

2 支出別国民総所得(名目価格)

(注)統計誤差を除く。

(出所)PSA.

3 産業別国内総生産(実質:2018年価格)

(出所)PSA.

4 国際収支

(出所)BSP.

5 国・地域別貿易

(注)2019,2020年は修正値,2021年は暫定値。ASEANは4カ国以外にブルネイ,ラオス,ミャンマー,ベトナム,カンボジアを含む。

(出所)BSP.

 
© 2022 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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