アジア動向年報
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各国・地域の動向
2021年のインド 独立75周年を前に停滞するモディ政権
近藤 則夫(こんどう のりお)湊 一樹(みなと かずき)
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2022 年 2022 巻 p. 465-496

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2021年のインド

概 況

インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ首相率いる国民民主連合(NDA)政権は行き詰まりが目立った。新型コロナウイルス感染症拡大の第2波では多大の犠牲者を出した。また3~5月の州議会選挙でBJPは,アッサム州で政権を維持したが他州では政権奪取はならなかった。一方,フランスのラファール戦闘機購入をめぐる疑惑,イスラエル製のスパイウェアのペガサスを使った盗聴疑惑,ウッタル・プラデーシュ(UP)州ラキームプル・キーリー県で国務大臣の息子の車が農民を死亡させた事件などスキャンダルにも揺れた。加えて,前年立法された農業改革3法は農民の根強い反対運動で結局12月1日に廃止に追い込まれた。これに対して,野党第1党の国民会議派(会議派)は問題を抱え追求の手は弱い。

経済に関しては,新型コロナウイルスの感染拡大と全土封鎖の影響により,41年ぶりのマイナス成長となった前年度から一転して,2021/22年度は実質国内総生産(GDP)がパンデミック前の2019/20年度の水準にまで回復するとの見通しをインド政府は示している。しかし,感染拡大の前後を通して悪化し続けている雇用状況が改善する兆しはみえず,需要が急速に伸びていくとは考えにくい。また,主要な経済指標はいち早く「V字回復」をみせているものの,それはインド経済の全体像を正確には捉えておらず,実際は格差の拡大を伴った「K字回復」なのではないかという指摘が絶えない。以上の点から,インド経済が成長軌道に戻ったと考えるのは明らかに早計であろう。

対外関係ではアメリカとの関係は良好に推移したが,アメリカ,オーストラリア,インド,日本の対話枠組みであるQUADへの参加と,ロシア,中国との関係をどう調整するかを問われた。中国については東ラダックの領土紛争は現状維持が続いたが経済関係は拡大した。パキスタン関係には大きな進展はなかった。

国内政治

政策の行き詰まりとスキャンダルに苦慮するモディ政権

新型コロナウイルス感染症の拡大は2020年末に一旦は下火になったものの,2021年の4月から8月にかけてデルタ株による第2波が広がり大きなダメージを被った。政府は感染拡大防止のため国内最終治験完了前の1月3日に「コビシールド」と「コバクシン」ワクチンの緊急使用を承認し,16日から医療従事者への接種を開始した。前者はオックスフォード・アストラゼネカ社が開発しインドでライセンス生産されたワクチンであり,後者はインドが開発したものである。ワクチン接種の対象は3月1日には,60歳以上および特定の基礎疾患を持つ45歳以上,4月1日には45歳以上,5月1日には18歳以上に拡大された。

犠牲者が集中したのはデルタ株が主流になった第2波で,急速な流行でワクチンの接種は間に合わず,各地で集会禁止,ロックダウンが実施されたが医療体制は破綻状態となり,治療用の酸素と病床不足が深刻な問題となった。政府の対応は混迷した。例えば政府はワクチン調達の円滑化のためとして,製造会社は5月1日から州政府および一般市場に50%を販売できるとする政策を発表したが,高い価格,州政府の財源不足,市場に任せることの不安などから批判を浴び,6月21日から中央政府の集中買い上げ体制に復帰せざるを得なかった。政府は6月14日に新型コロナ関連の医療機材などへの物品・サービス税(GST)税率の引き下げ,10月から12月までの3カ月間のワクチンの輸入関税免除などを決定したが調達,接種の体制は整わず,出稼ぎ労働者への支援の問題も十分に対処できなかった。

モディ政権の姿勢にも批判が集まった。モディ政権はヒンドゥー教の大祭であるクンブ・メーラを取りやめにせず,また,3月から4月の州議会選挙戦でBJPは首相や主要閣僚も参加する大集会を開催した。インド医師会副会長は4月27日にモディ政権を新型コロナウイルスの「スーパースプレッダー」と非難した。政府は事態に適切に対応できず,多くの人は自力で対処するほかなかった。農村部では遺体を空き地に埋葬したり河に流す例が多く,社会問題となった。UP州のヨギ・アディティヤナート州首相は5月14日には新型コロナで死亡した遺体を河に流させないように,監視強化を指示したほどであった。

累積の犠牲者数は,2021年12月末までに公式統計では約48万人とされるが,コロナ前の死亡率と比較して推定された超過死亡率から実際には公式統計の数倍になるとの推計もある。ワクチン2回の接種率は2021年12月末の時点で全人口の約44%にとどまった。

モディ政権周辺でのスキャンダルも政権へのダメージとなった。4月5日にフランスの報道サイト「メディアポート」はフランス反汚職機関の調査として,2016年にインドがダッソー航空からラファール戦闘機36機を購入する際に,同社がインド側の仲介者などに多額の金銭を支払っていたと報道した。同戦闘機の購入取引は前統一進歩連盟政権時代の2012年に進められたものであったが,2014年に政権交代で停止した。ところがモディ首相は2015年4月のフランス訪問で同戦闘機の購入を発表し,2016年1月に36機の売買が政府間で取り決められた。しかし購入金額は大幅に値上がりし,取引には不透明さが指摘された。最高裁が2019年11月に明らかにした審査で,不審点はないとされたが,今回の暴露で会議派など野党からの追及が再燃した。ラファール戦闘機は2020年7月末から最初の5機が到着し,2021年も引き渡しが続いた。

インドの独立系報道ウェブサイト「ワイヤー」は,7月18日にイスラエル企業が開発したスパイウェアのペガサスが,インドの政治家,ジャーナリスト,活動家などを標的に使用されていると報じた。翌日,報道に対してエレクトロニクス・情報技術大臣ヴァイシュナウは不法な盗聴はあり得ないと否定したが,野党は政府の関与を疑い,国会は紛糾した。10月27日に最高裁はペガサスによって不法な情報収集が行われていたとの訴えに対して独立調査委員会を任命したが,疑惑は晴れていない。

10月3日にはUP州ラキームプル・キーリー県で,モディ内閣のアジャイ・クマール・ミシュラ国務大臣の息子の車が農業改革3法の反対運動を行っていた農民をはね,4人を死亡させる事件が起こった。憤慨した農民はBJP運動員など4人を殺害した。同大臣は息子は現場にいなかったと釈明したが,9日に息子は逮捕された。事件に農民は強く反発し18日にはミシュラ大臣の辞任を求め「鉄道をとめろ運動」を展開し列車運行が混乱した。事態を重くみた最高裁はUP州政府に事件の調査委員会を設置する提案を行った。UP州政府は同意し,委員長として11月17日に元高裁裁判官が任命された。しかし同大臣は辞任していない。

モディ政権が成立してから強まっているヒンドゥー民族主義も社会対立を助長し,市民の政府に対する不満を高めている。ウッタラーカンド州ハリドワールで12月17日から19日にかけて開かれたヒンドゥー主義諸組織による大集会で,ムスリムなどに対するヘイト・スピーチが公然と行われた。州警察は宗教で対立を扇動したとしてスピーチを行った数人を告発した。問題は事件に対するモディ政権の姿勢であった。12月31日には200人を超える著名人が,モディ首相やコーヴィンド大統領に明確な非難声明をだすように求める公開質問状を出した。しかし,モディ首相からは明確な返答はなかった。同日,全インド・ウラマー協会は最高裁にムスリムに対するヘイト・スピーチを防止するための司法介入を訴えた。

農業改革関連法に対する反対運動

モディ政権は農業改革のため,農産物の自由取引や契約農業を促進する「農産物商取引(促進・助成)法,2020年」,「価格保証および農業事業に関する農民の合意(権利と保護)法,2020年」,「1955年基本物資(改正)法」の農業改革3法を2020年9月27日に成立させた(『アジア動向年報2021』参照)。

しかしこれら3法に対して穀倉地帯の北部を中心に強い反発が起こった。農民が恐れたのは,最低支持価格(MSP)での政府買い取りにより利益が保証された制度が実際上骨抜きになること,契約農業への大企業の参入により自営農民の地位が低下し,不利益を被ることなどであった。運動には広範な農民組合が参加した。農民組合はデリー近郊へ結集し示威運動を行うなど政府に撤回を迫り,また,労働組合センターもゼネストなどで運動を支援し,野党も協調したことでモディ政権にとって大きな圧力となった。統一農民戦線(SKM)など農民代表は政府を直接交渉の場に引き込み,3法の廃止,MSP制度の法制化などを求めたが,政府は受け入れず膠着状態が続いた。

2021年に入っても運動は続いた。混乱の広がりをみて,1月12日に最高裁は3法の実施を当分の間停止する措置を政府に命じた。しかし,農民の運動はやまなかった。運動は非暴力を指針としたが,1月26日の共和国記念日にデリーで行われたトラクターでの抗議デモでは,一部が暴徒化し,重要史跡のラール・キラー(「赤い城」)内に侵入し多数の負傷者をだした。運動はデリー高速道路での座り込みなど道路や鉄道の実力封鎖,全国ストなどによって,大きな社会的混乱を引き起こした。最高裁は,農民は抗議する権利をもっているが,道路封鎖などで交通を妨げるべきではないと述べた。

政府は硬軟両面で農民との妥協を模索した。SKMなど農民代表と11回の交渉をもち対話姿勢を続け,その一方ではデリー近郊の農民集結地でインターネットを停止するなど圧力をかけた。政府が農民運動に神経をとがらせていたのは2月15日に起こった,いわゆる「ツールキット」事件でも明らかであった。デリー警察が「ツールキット」と呼ばれる農民の抗議運動を支援する文書の作成に関わったとして,環境活動家ディシャ・ラビの身柄を拘束した事件である。同文書作成にパンジャーブの分離主義者が関わったのではないかとの嫌疑からであった。しかし,デリー地方裁判所は同文書は無害であるとして23日に同氏の保釈を認めた。ラビはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリが主導する運動をインドで展開した人物であったため,事件は国際的にも注目を集めた。

運動は1年を過ぎても弱まる気配を見せず,結局11月19日にモディ首相が3法の廃止を表明し政府の譲歩により終結した。29日には3法の廃止法案が実質的審議は行われないまま両院を通過し,12月1日に廃止が公布された。SKMはモディ首相の決断を歓迎するも,MSP制度の法制化など他の要求への対応も求めた。しかし運動は一応の成功を収めたことで12月9日には解散が表明され,デリー近郊の農民拠点も撤収された。

会議派の混乱

最大野党である会議派のモディ政権に対する追及体制は整わなかった。会議派は農業改革3法反対運動で積極的に農民と連帯する姿勢を示し,またモディ政権のスキャンダルを追求した。しかし,3月と4月の州議会選挙では,アッサム州でBJPの政権維持を許し,他州では存在感を示せなかった。

会議派の存在感が目立たない理由は会議派組織の混乱,弱体化である。2019年の連邦下院選挙の大敗後,責任をとってラーフール・ガンディーが総裁を辞任し,代わりに母親のソニア・ガンディーが暫定総裁につく状態が続いていることはその象徴である。

特に州組織の混乱は大きなダメージとなった。パンジャーブ州会議派政権では6月に州首相アマリンデル・シンと,前州閣僚N・S・シドゥとの派閥対立が露わになった。対立を和らげるため会議派中央は7月18日にシドゥをパンジャーブ州会議派総裁に据えたが対立は収まらず,結局,9月18日にアマリンデル・シン州首相を辞任させることで事態を収拾した。19日には全インド会議派委員会でチランジート・シン・チャンニーが州会議派議会党リーダーに指名され,翌日,州首相に就任した。チャンニーはシク教徒の指定カースト(SC)出身であり,SC層が人口の3割を占める同州において選挙でSC票にアピールすることが大きな狙いである。混乱をみて党内改革を訴えるグループを代表するカピル・サイバルは,29日に,正式な総裁が不在で誰が決定を行っているのか不明である,と苦言を呈した。アマリンデル・シンは11月2日に会議派を脱退して「パンジャーブ民衆会議派」を結成し,翌年の州議会選挙ではBJPと共闘することを決めた。

チャッティースガル州会議派政権でも権力争いが露わになった。州首相B・バゲールとシン・デーオ保健大臣の対立が混乱を引き起こした。争いの背景には2018年の州議会選挙で勝利したとき州首相を2年半で交代する約束があったとされ,後者が約束の履行を求めたことがある。交代を拒むバゲール州首相は8月28日に同首相を支持する州議会議員多数をデリーに集め,会議派中央にアピールした。同州ではスクマー県で4月3日に左翼武装勢力のインド共産党(マオイスト)との遭遇戦で双方併せて22人の死者を出し,また新型コロナ禍などにより社会不安が続いている。州首相の交代はなかったが,このような状況での権力闘争は人々に冷ややかにみられた。

ラージャスターン州会議派政権では2020年に州首相アショク・ゲーロートとサチン・パイロット州副首相の派閥抗争があったが,会議派中央の調停で緊張は収まった。しかし,2021年にも緊張は続いた。内閣改造をめぐって対立が再び表面化し,7月に入っても会議派中央の仲介にもかかわらず,妥協はならなかった。結局,内閣改造は11月21日に行われ,大衆社会党から会議派に鞍替えした議員も含めて30人の新内閣が成立した。内閣は,派閥,地域,カーストでバランスがとられたものとなった。

メガラヤ州の会議派では元州首相ムクル・サングマと同州の連邦下院議員で州会議派総裁のV・P・パラとの派閥対立が10月初めに露わになった。11月24日にサングマ派は会議派所属州議会議員17中12人を引き連れ会議派から脱退し,全インド草の根会議派に転向した。

州議会選挙とBJP

3月末から5月にかけて4州と1連邦直轄領で議会選挙が行われ,5月2日に一斉開票された(表1)。

表1 州議会および連邦直轄領議会選挙開票結果(5月2日)

(注)AGP:アソム人民会議,UPPL:統一人民党自由主義,AIUDF:全インド統一民主戦線,BPF:ボードーランド人民戦線,CPI(M):インド共産党(マルクス主義)。

表1 州議会および連邦直轄領議会選挙開票結果(5月2日)(続き)

(注)AITC:全インド草の根会議派,CPI(M):インド共産党(マルクス主義)。

*2選挙区で候補者死亡のため選挙は行われなかった。

表1 州議会および連邦直轄領議会選挙開票結果(5月2日)(続き)

(注)UDF:統一民主戦線,LDF:左翼民主戦線,IUML:インド連邦ムスリム連盟,KC:ケーララ会議派,CPI(M):インド共産党(マルクス主義),CPI:インド共産党,KC(M):ケーララ会議派(マニ派),JD(S):ジャナター・ダル(世俗主義),NCP:ナショナリスト会議派党。

表1 州議会および連邦直轄領議会選挙開票結果(5月2日)(続き)

(注)SPA:世俗主義進歩連盟,DMK:ドラヴィダ進歩連盟,CPI:インド共産党,VCK:解放パンサー党,CPI(M):インド共産党(マルクス主義),AIADMK:全インドアンナドラヴィダ進歩連盟,PMK:労働者党。

表1 州議会および連邦直轄領議会選挙開票結果(5月2日)(続き)

(注)AINRC:全インドNR会議派,DMK:ドラヴィダ進歩連盟。

(出所)Election Commission of India [2021年2月26日] Press Note: No. ECI/PN/16/2021, p.3,および,https://statisticstimes.com/politics/india-statistics.php(オリジナルはElection Commission of India)より作成。

アッサム州では市民権を確認するために行われた「国民市民登録」(NRC)や,迫害にあって難民となった人々に市民権を与える上でムスリムを除外した市民権改正法(CAA)をめぐる混乱で,BJPとアソム人民会議などの連合与党は不利とみられていた。そのため,政府は露骨な選挙対策を行った。2月5日に2万9701人の教師を採用し,3月23日には茶園労働者の賃金引き上げを行った。CAAは選挙後に施行するとの声明も出された。それに対して会議派は,3月2日にCAAの無効化,50万の政府雇用,茶園労働者の賃金引き上げ,一定量以下の電気料金の無料化,主婦への月2000ルピーの給付という「5つの保証」を掲げ,選挙綱領では債務帳消し,不法移民の最高裁判決に沿った扱いなどを唱えた。会議派は,ムスリムを主な支持基盤とする全インド統一民主戦線などと大連合をくみ選挙を戦った。

結果は得票率ではBJP率いるNDAが44.5%,大連合は43.7%と僅差であった。しかし,議席数ではNDAが126議席中75議席を確保し勝利した。州首相には6年前に会議派から鞍替えしたBJPのH・B・サルマが5月10日に就任した。

西ベンガル州ではママター・バネルジー州首相に率いられた全インド草の根会議派(AITC)とBJPが激しい選挙戦を繰り広げた。今回の選挙ではBJPが有利とみられ,選挙前にはAITCからBJPに鞍替えする政治家が多くでた。BJPはJ・P・ナッダ総裁,そしてモディ首相などがキャンペーンに積極的に参加し新型コロナ禍のなかで大規模な選挙戦を繰り広げ,そのなかでBJPとAITC党員の衝突が発生し多くの暴力事件が起きた。3月17日に発表されたAITCの選挙綱領ではベーシック・インカム,女性世帯主への直接給付などさまざまな福祉政策が示された。3月24日に発表されたBJPの選挙綱領では女性,指定カースト(SC)/指定部族(ST),若者,零細農などへの対策に加えて難民対策,新型コロナ対策,ベンガル語の重視などが謳われた。また反BJPの運動を続けるSKMや市民運動がAITCなどへの支持を人々に訴えた。

開票ではBJPは得票率を大きく伸ばしたものの,AITCには及ばず,213議席を得たAITCに敗退した。会議派とインド共産党(マルクス主義)(CPI[M])など左派は選挙協力を行ったが大敗した。ママター・バネルジー州首相は落選したが,5月5日に州首相に就任した。バネルジー州首相は10月3日に行われた補欠選挙で勝利し,続投が可能となった(憲法上,大臣は6カ月以上州議会議員でない場合,大臣を辞任しなければならない)。

ケーララ州ではCPI(M),インド共産党(CPI),ケーララ会議派(マニ派)などからなる左翼民主戦線(LDF)と,会議派,インド連邦ムスリム連盟,ケーララ会議派などからなる与党の統一民主戦線(UDF)が接戦を演じた。LDFは3月19日の選挙綱領で社会福祉,保健,教育,インフラの拡充,雇用の拡大などを唱えた。それに対して同日発表されたUDFの選挙綱領では最低所得保障,主婦への月2000ルピーの給付,州への投資促進などを重点施策として提示した。選挙戦でLDFは福祉政策,新型コロナ対策での実績,そしてBJPのヒンドゥー民族主義に対してムスリムやキリスト教徒など少数派の側に立っていることをアピールした。会議派はラーフール・ガンディーとプリヤンカ・ガンディー・ヴァドラが前面に立って支持を訴えた。

選挙結果は,得票率ではLDFが40.1%に対してUDFが37.7%と僅差であったが前者が90議席,後者が40議席を獲得しLDF政権の続投となった。BJPは大敗した。州首相は続投でCPI(M)のP・ヴィジャヤンが5月20日に就任した。

タミル・ナードゥ(TN)州では与党の全インドアンナドラヴィダ進歩連盟(AIADMK)と労働者党,BJPがまとまるNDAに対して,ドラヴィダ進歩連盟(DMK)を中心として会議派,CPI,解放パンサー党(VCK),CPI(M)でまとまった世俗主義進歩連盟(SPA)が対峙した。TN州の選挙では人気取りのばらまき政策が有名であり,今回も露骨に行われた。例えば,AIADMK政権は3月14日に発表された選挙綱領で洗濯機の配布,教育ローンの未払い金の帳消し,女性世帯主への現金補助,女性や児童への支援政策,農民への補助金などさまざまな支援政策を掲げた。一方,DMKが中心のSPAは社会的公正,コミュニティ間の調和を訴え,NDAに対抗することを宣言した。3月13日に発表された選挙綱領では学生への無料のコンピュータ・タブレット配布,ヒンドゥー寺院巡礼への補助金,出産休暇の延長など女性への支援,州内の産業で雇用の75%を地元民に留保することなど多種多様な支援策が盛り込まれた。

選挙結果はSPAの大勝となった。得票率ではAIADMKとDMKは拮抗したが,議席数ではDMKが単独で過半数を超える133議席を獲得した。世論調査では経済的には貧困層,社会的にはダリト(被抑圧民[実際上はSC]),宗教的少数派,上位カーストなどがSPAを支持した。5月7日にDMK総裁のM・K・スターリンが州首相に就任した。

プドゥチェリ連邦直轄領議会選挙では2月22日に会議派・DMKの連立政権が議会の信任を失い中央政府の統治(大統領統治)下に置かれた。選挙ではNDAに参加する全インドNR会議派が第1党となりBJPの支持を得て政権を奪取した。同党のN・ランガスワミが5月7日に連邦直轄領首相に就任した。

(近藤)

経 済

マクロ経済の概況

2022年2月28日にインド統計・事業実施省国家統計局(NSO)が行った発表によると,2021/22年度(2021年4月~2022年3月)のインドの実質GDP成長率は8.9%と予想されている。新型コロナウイルスの感染拡大と数カ月に及んだ全土封鎖の影響により,前年度(2020/21年度)は-6.6%と41年ぶりのマイナス成長を記録した。2021/22年度はそれから一転して,実質GDPがパンデミック前の2019/20年度の水準にまで回復するとの見通しを政府は示している(表2)。

表2 実質GDP成長率の推移(%)

(注)2011/12年度を基準年としている。

(出所)統計・事業実施省国家統計局(NSO)のプレスノート(2022年2月28日付)に基づき作成。

生産部門別にみると,農林水産業と金融・不動産・専門サービスは過去3年間にわたってプラス成長を維持しており,特に前者は感染拡大と全土封鎖の影響を比較的受けることなく,3%以上の成長率を保っている。その他の生産部門は前年度にマイナス成長に陥っていたが,2021/22年度には急回復をみせており,とりわけ大きな打撃を受けた商業・ホテル・運輸・通信・放送を除くすべての部門で感染拡大前の水準を上回ると予想されている。

一方,実質GDPを支出別にみてみると,その5割以上を占める民間最終消費支出は2019/20年度の値をわずかに上回り,パンデミック前の水準を回復した。ただし,後述するように,感染拡大の前後を通して雇用状況が著しく悪化していることを踏まえると,需要が急速に伸びていくとは考えにくい。また,総資本形成はパンデミック前の水準を2.6%ほど上回っているにすぎず,需要が伸び悩んでいる現状を受けて,投資の低迷が今後も続く可能性がある。

物価に関しては,前年に引き続き上昇傾向がみられた。一般市民の生活との関連性がより強い消費者物価指数(CPI)の上昇率は,前年からはやや低下したものの,ほぼ1年を通して5~6%という高い水準で推移した。全土封鎖によって供給網が寸断された影響などで食料品の価格が大きく上昇した前年と比較すると,2021年は農作物の生産が好調だったことも手伝って,食料品価格が安定していた。これとは対照的に,価格上昇が著しかったのが燃料・電力であり,CPIに占める割合は食料品ほど高くはないものの,家計を圧迫する要因となっている(図1)。

図1 CPIと主要構成項目の変化率(%)

(注)前年同月比。各項目が消費者物価指数全体に占めるウェイトは,食品・飲料が45.86,燃料・電力が6.84である。

(出所)統計・事業実施省国家統計局(NSO)のデータに基づき作成。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初,世界経済の急減速を背景に石油需要は大きく落ち込んだが,経済活動の正常化に伴って原油価格は一気に上昇へと転じた。その結果,インドでは燃料の小売価格が過去最高を更新し続け,2021年中頃には多くの都市で1リットルあたりの小売価格が,ガソリンで100ルピー超,ディーゼルで100ルピー前後まで急上昇した。その一方で,ガソリンとディーゼルの小売価格の約半分は税金(中央政府による物品税と各州政府による売上税または付加価値税)によって占められており,政府に大きな税収をもたらしているという側面もある。なお,インドでは2017年7月に物品・サービス税(GST)が導入されたが,ガソリンやディーゼルなどの一部燃料は対象外となっている。

燃料価格の高騰を受けて,中央政府は2021年11月に,ガソリンとディーゼルの物品税を1リットルあたりそれぞれ5ルピーと10ルピー削減することを決定した。さらに,BJP政権下の州はこれに歩調を合わせて,州が独自に燃料に課している税金を軽減した。ただし,ガソリンとディーゼルの小売価格が依然として高い水準にあることに変わりはなく,輸送費や原材料費の上昇を通して,全般的な価格水準を今後さらに押し上げていくことが懸念される。2021年前半から,卸売物価指数(WPI)がCPIよりも高い上昇率を示しているため,諸コストの増大が小売価格に転嫁されるような事態になれば,こうした可能性はさらに高まるだろう。一方,インド準備銀行(RBI)は,2020年に2度にわたって引き下げを行って以降,政策金利(レポレート)を4.00%に据え置いている。

国際収支については,2021/22年度上半期(2021年4~9月)の経常収支が31億ドルの赤字となった。これは,輸入の伸びが輸出の伸びを大きく上回り,貿易赤字が拡大したためである。前年度は,貿易赤字の大幅な縮小により経常収支が239億ドルの黒字であった。金融収支では,前年度上半期に比べて資本流入が3倍以上も増えた。そのため,2021/22年度上半期の外貨準備増減は631億ドルの増加となった。

為替レートは,インド国内での新型コロナウイルスの感染拡大に左右されながらも,1ドル=72~76ルピーで比較的安定して推移した。ただし,全般的には1年を通してルピー安の方向へと進んでおり,2022年に入ってもその傾向は続いている。米連邦準備理事会(FRB)が量的金融緩和の縮小を前倒しし,ゼロ金利政策の解除に伴う利上げの可能性が高まっており,インド経済がより大きな影響を受けることも予想される。

政策面での目立った動きとしては,国内製造業の振興を目的とした生産連動型優遇策(PLI)があげられる。2020/21年度に導入されたこの政策は,製造業の重点分野から対象企業を選定し,条件を満たした場合に売上高増加分の一定割合を補助金として支給する制度である。PLIが実施されているのは,繊維,医薬品,自動車・ドローン,白物家電(エアコンとLED照明),特殊鋼など13分野であり,実施ガイドラインの発表や対象企業の決定などが進んでいる。

「V字回復」か「K字回復」か

感染拡大と全土封鎖の影響による大きな落ち込みを経て,パンデミック前の水準へと回復しているのは,実質GDPだけではない。このような傾向は,鉱工業生産指数(IIP)などのその他の経済指標についても同様にみられる。そのため,インド経済はいち早く「V字回復」を果たし,以前の成長軌道に戻ることに成功したという楽観的な見方が,政府・与党の関係者によって盛んに述べられている。また,2022/23年度予算案の発表に併せて公表された経済白書も,2022/23年度の実質GDP成長率を8~8.5%と予想している。

しかし,主要な経済指標の「V字回復」をどのように評価すべきかについては,より慎重に判断する必要がある。その理由として,いくつかの点を指摘することができる。まず,新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前から,すでにインドは危機的な経済状況に陥っていたため,主要な経済指標がパンデミック前の水準に回復したとしても,それは経済が極度の不振から脱したことを意味しない。さらに,急回復を経て再び停滞する恐れがあることを考えれば,インド経済が成長軌道に戻ったと考えるのは明らかに早計であろう。

そして,より重要かつ根本的な問題として,GDPやIIPをはじめとする主要な経済指標はインド経済の全体像を正確には捉えておらず,実際の経済状況ははるかに深刻であるという可能性があげられる。インド経済全体に占めるインフォーマル部門(正式には「非組織部門」と呼ばれる)の割合はGDPで約5割に達しているが,その一方で,インドの主要な経済指標はフォーマル部門(正式には「組織部門」と呼ばれる)の動向をより色濃く反映したものになっている。そのため,感染拡大と全土封鎖によってはるかに大きな打撃を受けたと考えられる,経済的に脆弱なインフォーマル部門の動向は経済指標には十分に反映されておらず,パンデミックが経済全体に与えた影響の深刻さを過少に評価している恐れがある。

インドでは,フォーマル部門とは異なりインフォーマル部門に関する統計は,数年に一度実施されるサーベイ調査でしか収集されておらず,サーベイ調査が行われなかった年の数値は,さまざまな仮定(例えば,非組織部門の製造業の場合,IIPと同じ成長率であるといった仮定)に基づいて推計される。したがって,巨大な経済的ショックが突然起こり,その打撃の大きさがフォーマル部門とインフォーマル部門では著しく異なる場合,主要な経済指標の正確性に大きな疑問符が付くことになる。多くの経済指標が「V字回復」の傾向を示すなか,比較的規模の大きい企業と零細・小規模企業との間でさらに格差が拡大していることを指して,「K字回復」という言葉が頻繁に用いられるのには,このような背景がある。

データ上の制約があるため,「V字回復」と「K字回復」のどちらがより経済の実態に近いのかを直接示すことは難しい。しかし,「V字回復」という見方がかなり楽観的であることは,インド準備銀行が行っている「消費者信頼感調査」の結果からも明らかである。この調査は,インドの主要13都市の約5000人を対象に定期的に実施されており,経済状況に関する調査対象者の主観的評価をたずねるものである。図2は,モディ政権の成立直後の2014年6月から2021年11月までの間に,「経済状況」「雇用」「所得」という3項目についての評価がどのように推移したかを示している(詳しくは,図2の注を参照)。

図2 消費者信頼感指数(2014年6月~2021年11月)

(注)1年前と比較して,現在の状況は「改善した」「変化なし」「悪化した」のいずれであるかを回答者に質問し,「改善した」と答えた人の割合から「悪化した」と答えた人の割合を引いた値を各項目について示している。したがって,「改善した」と回答した人よりも「悪化した」と回答した人の方が多かった場合,指数の値はマイナスになる。

(出所)インド準備銀行(RBI)のデータに基づき作成。

まず,いずれの項目も全体的に下落傾向を示しており,モディ政権下で経済状況が悪化しているという認識が人々の間で強まってきたことがわかる。さらに重要なのは,経済状況に関する主観的評価は,パンデミックが始まる1年ほど前の2019年3月からすでに急速に悪化していたという点である。2021年7月以降の調査では,消費者信頼感指数がやや改善してきているものの,いずれの項目も大きなマイナスの値であり,パンデミック前の水準を依然として下回っている。

雇用状況の悪化と公的雇用プログラム

主要な経済指標の「V字回復」がインド経済の実態を反映していないのではないかという指摘がなされる理由のひとつとして,感染拡大の前後を通して雇用状況が悪化し続けているという点があげられる。

国家統計局が毎年実施している,雇用状況に関する調査(PLFS)の結果によると,2017/18年度に失業率が過去最悪の水準を記録し,特に若年層の雇用状況が厳しさを増していることが明らかになった。その後のPLFSでは失業率がやや改善したものの,それは雇用が増えたからではなく,不完全就業の増大(つまり,経済的な必要に迫られて,本来であれば望まないような条件の悪い仕事に就く労働者が増えていること)によるものであり,全般的な雇用状況は一段と悪化しているといわれている。それを裏付けするように,失業率の低下に貢献しているのは,家族が営む自営業で賃金を受け取らずに働く労働者などの増加であり,実質賃金は下落している。

そして,危機的ともいえる雇用状況にさらなる追い打ちをかけたのが,新型コロナウイルスの感染拡大である。この点は,図2の「雇用」の項目の推移によっても示唆される。2020年3月25日に全土封鎖が始まった直後から,出稼ぎ労働者とその家族が数千万人という単位で都市から農村に「逆流」したことに象徴されるように,零細な自営業や日雇い労働に従事していた貧困層はとりわけ大きな打撃を受けた。

新型コロナ禍での貧困層の経済的困窮は,「マハトマ・ガンディー全国農村雇用保証法」(MGNREGA)のもとで行われる公的雇用プログラムへの申請が急増したことからもうかがえる。2005年に成立したMGNREGAは,1年につき最低100日間,成人の世帯員が定められた賃金で単純労働に従事できる権利を農村部の各世帯に保証し,すべての希望者が申請から15日以内に雇用機会を得られるようにするという,貧困世帯の生活保障を目的とした法律である。

MGNREGAによる公的雇用プログラムは,2020年4月末に封鎖措置が一部緩和されるまでは低調だったが,2020/21年度には過去最高となる38億9090万人日の雇用を創出した。これは,それまでの最高記録だった2018/19年度の26億7960万人日をはるかに上回る水準である。また,2021/22年度にもMGNREGAのもとで約36億3580万人日の雇用が生み出されており,公的雇用プログラムへの需要の高さを考えると,農村部において雇用状況が改善する兆しは今のところみられないようである。

このような現状にもかかわらず,セーフティネットとして重要な役割を果たしているMGNREGAに対して,モディ政権は後ろ向きの姿勢を示しているようにみえる。それは,公的雇用プログラムが抱えている課題を解決しようとする姿勢に欠けていることによく表れている。

例えば,MGNREGAは労働する権利をすべての農村世帯に法的に保証しているが,実際には予算不足のために公的雇用プログラムが十分に実施されておらず,100日間働きたくても働けない世帯が多いことが以前から指摘されてきた。そのため,新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた2020/21年度と2021/22年度に,政府はMGNREGAの経費を年度途中に大幅に増額した。しかし,雇用状況の悪化に伴う申請の急増に対応するには十分な額ではなく,公的雇用プログラムに申請しても雇用が得られない世帯,さらには,それを見越してはじめから申請しない世帯があるという状況が続いていることがいくつかの調査から明らかになっている。こうした状況にもかかわらず,2022/23年度予算では,MGNREGAの経費は前年度を25%下回る7300億ルピーにとどまり,政府の姿勢を疑問視する意見が相次いだ。

公的雇用プログラムの労働者に対する賃金支払いの遅れも,以前から指摘されてきた問題である。さらに,経済的に困窮する世帯への迅速な賃金支払いは,コロナ禍でますます重要になっていることはいうまでもない。ところが,連邦議会上院で政府が行った答弁によると,2022年1月末時点で336億ルピーもの賃金が未払いのままになっている。

保健医療体制の未整備とワクチン接種

インドで感染拡大の第1波がようやく収束した2021年1月下旬,世界経済フォーラム(WEF)が主催するオンライン会合で演説を行ったモディ首相は,人口規模の大きいインドが「新型コロナウイルスを効果的に封じ込めたことで人類を大惨事から救った」と大見得を切った。さらに,国内でワクチン接種が順調な滑り出しをみせていることに加えて,各国への国産ワクチンの輸出を通して,インドが新型コロナ対策において世界に多大な貢献をしていることを強調した。ところが,モディ首相が国際社会に向けて自信に満ちたメッセージを発してからわずか数カ月のうちに,インドは急激な感染拡大に再び見舞われ,状況は一気に暗転することになる。

第2波に際しては,前年の第1波の時のような厳しい全土封鎖は実施されなかったものの,各州政府が軒並みロックダウンを行ったことによりインド全土で経済活動が止まり,人々の雇用と所得は深刻な打撃を受けた。このような事態を招いた要因として,大規模な選挙集会や宗教行事が警告を無視して続けられたという点に加えて,保健医療体制の未整備というより根本的な問題があげられる。

インドでは,保健医療関連の政府支出が対GDP比で1%台という低い水準に留まっている。その結果,医療費全体に占める患者の自己負担の割合は60%を上回り,大きな経済的負担が多くの世帯にのしかかっている。こうした課題に取り組むべく,モディ政権が打ち出したのが「健康なインド」(Ayushman Bharat)と呼ばれるプログラムである。これは,公的医療施設の整備・拡充によるプライマリー・ヘルスケアの提供体制の強化,そして,年間50万ルピーまでの入院医療費を無料とする,貧困世帯向けの医療保険制度(PMJAY)の整備という二本柱からなっている。

ただし,これらの取り組みに関してはさまざまな問題点が指摘されている。例えば,前者については,2022年12月までに「保健ウェルネス・センター」(HWC)という名称の施設を全国15万カ所に設置すると政府は表明しているが,プライマリー・ヘルスケアを提供する公的医療施設としての実体を伴っているのか疑問視する声が根強い。また後者については,保険対象が原則として特定の病気で入院した場合に限られ,外来診療や医薬品の費用は対象とはならないこと,医療機関が少ない農村部では,制度を利用することがそもそも難しいこと,民間医療機関が不必要な手術を行って過大請求をするといった不正行為が後を絶たないことなど,制度面で多くの課題を抱えている。以上の点からも明らかなように,新型コロナウイルスによる感染拡大が甚大な被害をインドにもたらした背景として,保健医療体制の整備が進んでいない現状を無視することはできない。

その一方で,保健医療体制の整備は一朝一夕には進まないことを考えれば,新型コロナ対策として,ワクチン接種を迅速に進めることはそれだけ重要なはずである。ところが,今回のパンデミックで対応能力のなさを露呈したモディ政権は,ワクチン接種をめぐっても,専門知の軽視,明確な方針の欠如,準備不足と場当たり的対応を繰り返している。

実際,インドは他国に先駆けてワクチン接種を開始したにもかかわらず,ワクチンの供給不足や接種計画をめぐる混乱などにより,ワクチン接種は政府が思い描いていたようには進まなかった(「国内政治」の項目を参照)。さらに,2022/23年度予算では,新型コロナウイルスのワクチン接種の経費が前年度の3900億ルピー(当初予算では3500億ルピー)から500億ルピーへと大幅に削減され,政府が無料接種の対象を制限するのではないかという見方まで出ている。

(湊)

対外関係

アメリカとの関係:ロシア,中国との関係を維持しつつも深化

インドは,ロシアや中国との関係でバランスをとる必要から一方的なアメリカ寄りの姿勢は慎重に避けているものの,両国の関係深化は着実に進んでいるといえよう。それはインドと中国の間の実効支配線(LAC)をめぐる対立でインドに協力したことを,アメリカが1月5日に認めたことからも明らかである。また,アメリカ,オーストラリア,インド,日本というアジア太平洋地域の民主主義4カ国の戦略的対話枠組みであるQUADを通じての協議も頻繁に行われ,多国間対話を通じての両国の関係も進展している。2月18日にはQUAD外相会議,9月25日には同首脳会議が開催されている。

2国間の戦略的関係については,3月20日に来訪したアメリカのオースティン国防長官との協議を踏まえてラージナート・シン国防大臣は両国間の防衛協力のさらなる強化を明らかにした。9月3日に両国は国防技術・貿易イニシアティブの下,空中発射型無人機開発の共同開発強化に署名し,11月10日には同イニシアティブの下で協力強化を確認した。

ただし,インドは戦略的にはアメリカ一辺倒ではない。例えば9月15日にアメリカ,イギリス,オーストラリア首脳は3カ国の安全保障および防衛技術協力の新たな枠組みとなる「AUKUS」(3国の頭文字をとって命名)を発表したが,インドはこの枠組みには懐疑的である。インドの主たる関心はインド洋地域にあり,実際上,太平洋地域で中国を牽制する防衛,軍事技術的枠組みとみられているAUKUSを支持することは,いたずらに中国を刺激しインドの国益に必ずしもそぐわないからである。また,インドがロシアから最先端の地対空ミサイル防衛システムS-400の導入を決めたのもその例である。その引き渡しが開始されたことが11月14日に明らかになったが,それはプーチン大統領が首脳会議のために12月6日に来訪する日程に合わせたものであった。アメリカはS-400の配備について神経をとがらせているものの,両国の関係で大きな障害とはなっていない。モディ首相はアメリカのバイデン大統領が主催した「民主主義サミット」(オンライン)に参加し,12月10日の演説で,民主主義強化を訴えた。

経済関係については,3月1日に発表されたアメリカの「2021年貿易政策アジェンダ・2020年年次報告書」でモディ政権の「メイク・イン・インディア」政策を貿易制限的であると批判しているように問題はあるが,関係は進展している。10月1日にはインド・アメリカ産業安全保障合同ワーキンググループの設立が合意され,11月23日に両国は4年ぶりに貿易政策フォーラムを開催した。

中国との関係:国境紛争における対立と経済関係の深化

中国との関係は2020年6月の東ラダックの両国間のLACをめぐって起こった両軍の衝突で一気に冷え込んだが,2021年は関係修復の方向に向かった。

領土をめぐる両国の関係は,2021年1月20日にシッキム北部の国境での両国部隊間の小競り合いで怪我人がでるなど紛争は起こっているものの,全般的には安定している。東ラダック紛争については,両国の将校レベルの第9ラウンド会談が1月24日に行われ部隊の撤退が話し合われた。2月10日にはパンゴン湖地域に関しては対立前の位置へ段階的に退却することが合意され,双方の撤退が実現した。20日には第10ラウンドの会合がもたれ,25日にはジャイシャンカル外務大臣は他の係争地域での部隊の撤退を検討するため中国の王毅外相と会話し,紛争防止のため新しいホットラインを確立することに同意した。他地域からの撤退に関しては,第11ラウンド(4月9日),第12ラウンド(7月31日),第13ラウンド(10月10日)の協議と交渉が継続されている。

インドと中国は,グローバルな国際秩序の形成について協力しつつも,牽制する関係である。協力の面では,例えば9月9日には第13回BRICS首脳会議(オンライン)がインドをホスト国として開催され,ターリバーンが政権を握ったアフガニスタンの問題が話し合われたことがあげられる。同会議ではアフガニスタンがテロの聖域となることを防止し,女性や児童,少数民族の人権が保障されるよう求めたデリー宣言が出された。一方,両国は牽制する関係でもある。11月26日に開かれたロシア,インド,中国の第18回外相会議の合同コミュニケで3カ国は新型コロナウイルスやテロ問題で協調を謳った。しかし,議論ではロシアと中国が「インド太平洋地域」概念を排外的枠組みとみなし,アメリカのバイデン政権が進める「民主主義サミット」に対しても警戒を表したのに対して,インドは必ずしも同調せず立場の違いが露わになった。

一方,経済関係は,インフラ関連プロジェクトからの中国企業の締め出しや中国製アプリの使用禁止などにもかかわらず,再び急速に拡大しつつある。中国で輸出入管理と税関事務を所管する海関総署のデータによると,両国間の輸出入を合わせた貿易額は,新型コロナの影響もあり2019年の928億ドルから2020年には876億ドルに落ち込んだが,2021年には1256億ドルと43%の大幅増となった。インドの中国への輸出額は281億ドル,中国からの輸入額は975億ドルであり,赤字は拡大しているが,経済における相互依存関係はむしろ進んだ。

パキスタンとの関係:関係改善の模索

パキスタンとの関係は,2019年2月にインド側ジャンムー・カシミール(JK)州で起きたパキスタンのテロ組織によるテロ,インドによる報復の空爆,同年8月のインド政府によるJK州の特別な自治権の無効化などによって冷え込んだ。しかし,2021年に入って関係改善が模索されている。

関係改善への期待を抱かせたのは,「実効支配線(LoC)周辺での停戦の厳密な遵守」を謳った2月25日の両国の共同声明であった。背景には,2003年にLoCでの停戦が合意されたものの,近年,停戦違反が激増していたことがある。インド軍の発表では2020年には銃撃など5133件の停戦違反があったとされる。しかしこの停戦声明の後もパキスタンの戦闘グループやインド側JKの分離主義グループによるインド側JK連邦直轄領でのテロ事件は起こっており,パキスタン政府との停戦遵守とJKの治安改善が直結しない現実も明らかになった。しかし,少なくともこの声明以降,両国の停戦違反は減少し関係改善へ期待を抱かせた。

例えば3月31日にはパキスタンはインドとの貿易を停止するという2019年の決定をゆるめ,価格が高騰する綿花と砂糖の輸入を許可すると発表した。しかし,同決定は翌日に突然延期が発表された。これはパキスタン政府内で経済分野から関係改善を模索する考えと,そもそも関係改善は時期尚早とする考えの相違があることを露呈するものであった。パキスタンにとって関係改善の原則はインドがJK連邦直轄領の特別な自治権を復活させることである。6月5日にパキスタンのイムラン・ハーン首相は,もしインドがカシミールの地位を元に戻す工程表を提供するなら協議を再開する準備があると表明した。それは,モディ政権にとって受け入れられるものではなかった。

関係改善の糸口を探る動きはその後もみられた。パキスタンが11月9日にシク教徒の巡礼のためインド国境近くにあるシク教徒の聖地カルタルプルとインドを結ぶ回廊を再び開放するよう提案したことに対して,インド政府はシク教徒の要求もあり17日に回廊の扉を開放した。またインド政府はアフガニスタンへの人道支援のための小麦輸送でパキスタンに陸路通過を許可するように求め,22日にハーン首相はインドの要求に応じることを明らかにした。

ただし,両国間の関係はアフガニスタンでターリバーンが8月15日に首都カーブルを制圧し政権を掌握したことで不確実性を増している。パキスタンは,アフガニスタンでのインドのプレゼンス拡大は望むところではない。インドは11月10日にアフガニスタン問題を議論するデリー地域安全保障対話を開催したが,インドの影響拡大を警戒するパキスタンが中国とともにインドの招待を断ったのは,その表れである。

(近藤)

2022年の課題

モディ政権と与党BJPにとっては2022年2~3月の州議会選挙,特に中央政治とも緊密なUP州で勝利を収め,失点が続く政局を変えることが課題である。そのためには新型コロナ対策の改善は急務である。また,宗教的少数派に対するヘイト事件防止のため,積極的な対策,姿勢をとる必要があろう。野党にとっては2024年の連邦下院選挙をにらんで共闘関係を整え,モディ政権を追いつめる態勢を整えることが大きな課題である。

経済については,人目を引く派手なスローガンや選挙目当ての場当たり的政策を超えて,実効性のある政策を着実に行っていけるかどうかがこれまで以上に厳しく問われることになるだろう。深刻な経済の落ち込みがパンデミック前から続くなか,需要の回復と雇用状況の改善はモディ政権にとって喫緊の課題であるはずだが,2022/23年度予算案ではその方向性を明確に示すことができなかった。

対外関係ではアメリカと中国,ロシアの関係が緊張するなか,これら大国との関係をバランスを取りつつ深化させること,パキスタン,中国との緊張緩和の流れを強化することが求められる。

(近藤:地域研究センター)

(湊:地域研究センター)

重要日誌 インド 2021年

1月
3日 政府,国内での最終治験の完了前に,新型コロナウイルスの国産ワクチン「コビシールド」「コバクシン」の緊急使用を承認。
12日 最高裁,2020年9月に成立した農業改革3法の一時停止を命令。
16日 新型コロナウイルスのワクチン接種開始。医療従事者などが優先的な接種対象。
20日 シッキム州北部でインドと中国の部隊間の小競り合いで怪我人がでる。
26日 共和国記念日に合わせて,デリーで農業改革3法に反対する農民の抗議デモ。一部の農民がラール・キラー内に侵入し,暴徒化。参加者1人が死亡,負傷者多数。
29日 国会の予算会期が始まり,2021/22年度経済白書が発表される。
2月
1日 2021/22年度連邦予算案発表。国営企業の民営化についての方針が示される。
4日 スリランカ政府がコロンボ東岸ターミナルをインドと日本が合同運営する合意を破棄したことに対し,インドが合意遵守を求める。日本政府も非難(3日)。
5日 ジャンムー・カシミール(JK)連邦直轄領で2019年8月5日以来停止されていた高速インターネット4Gが回復。
8日 インド人民党(BJP)州政府,野党の会議派とジャナター・ダル(S)が議会過半数を占めるにもかかわらず,「カルナータカ牛屠殺防止法2020年」を発声投票で強引に通過させる(15日に公布)。
10日 インドと中国,東ラダックの両国間の実効支配線(LAC)をめぐる対立を2020年4月の状況に戻すことで合意。両国は新ホットライン確立で同意(26日)。
15日 デリー警察は農業改革法に反対する農民の抗議運動を支援する「ツールキット」と呼ばれる文書の作成に関わったとして環境活動家ディシャ・ラビの身柄を拘束。しかし,デリー地方裁判所は同文書を無害として同氏の保釈を認める(23日)。
25日 政府はSNSやストリーミング関連企業に厳しい新規制を発表。
25日 インドとパキスタン,共同声明で「実効支配線(LoC)近辺の停戦の厳密な遵守」を発表。
3月
1日 新型コロナウイルスのワクチン接種の対象が,60歳以上および特定の基礎疾患をもつ45歳以上に拡大。
2日 政府,マハトマ・ガンディー全国農村雇用保証事業(MGNREGA)の賃金支払いについて,「指定カースト(SC)」「指定部族(ST)」「その他」という3つのグループに分けて手続きを行うよう州政府に通知。
4日 内務省,海外インド市民権(OCI)カード保有者が有する権利について,追加的な届出や政府の許可などを求めるよう規定を変更。
7日 ミャンマー政府による抗議運動の取り締まり強化に対して,ミゾラム州に続きマニプル州とナガランド州の諸組織,軍事政権に対する市民の抵抗運動を支持。
12日 アメリカ,オーストラリア,日本,インド(QUAD)首脳サミット開催。新型コロナウイルスとの戦い,自由で開かれたインド・太平洋の必要性を強調。
23日 インド,国際連合人権理事会の「スリランカの和解,説明責任と人権を促進する」決議で投票を辞退。
25日 保険改正法が成立し,国内の保険会社に対する外資出資比率の上限が49%から74%に引き上げられる。
27日 モディ首相,バングラデシュ訪問。
30日 マニプル州政府,ミャンマーからの避難民のためにキャンプを設営しないとの行政機関への指示を撤回し,人道的措置をとるように新たに指示。
31日 財務省,少額貯蓄制度の下での預金金利を4月から引き下げることを発表。翌日,シーターラーマン財務相がこの決定を撤回。
4月
1日 新型コロナウイルスのワクチン接種の対象が45歳以上に拡大。
3日 チャッティースガル州スクマー県で中央警察予備隊と警察がインド共産党(マオイスト)と遭遇戦。双方の死者,22人。
7日 インド準備銀行(RBI),流動性供給策の延長および拡充を発表。
8日 連邦政府と州政府の間で,新型コロナウイルスの感染状況についてテレビ会議が行われ,多くの州がワクチン不足を訴える。
10日 農業改革3法反対運動を行う農民,デリーの高速道路で座り込み。
19日 新型コロナウイルス蔓延防止のためデリー連邦直轄領政府,6日間のロックダウン。デリー首相ケジュリワル,酸素不足の窮状を連邦政府に訴える(20日)。
22日 ツイッター社に対して政府が要請を行い,50以上のツイートが国内で閲覧できなくなる。その大半が,感染拡大の第2波に対するモディ政権の対応を非難する内容。
23日 政府,国家食糧安全保障法のもとで実施されている食糧配給について,対象世帯に追加的な配給を無料で行うと発表(その後,6月と11月に実施期間の延長を発表)。
27日 インド医師会副会長,選挙戦で政治集会を行い,大祭クンブ・メーラを許可したとしてモディ政権を新型コロナウイルスの「スーパースプレッダー」と批難。
5月
1日 新型コロナウイルスのワクチン接種の対象が18歳以上に拡大。ただし,連邦政府による費用負担は45歳以上に限られるなど,年齢層によって差が生じる。
2日 州議会選挙の開票。アッサム州ではBJP,西ベンガル州では草の根会議派,ケーララ州では左翼戦線が政権維持。タミル・ナードゥ州議会選挙はドラヴィダ進歩連盟の連合が勝利。プドゥチェリ連邦直轄領では全インドNR会議派とBJPのNDA連合が勝利。
14日 ウッタル・プラデーシュ(UP)州首相ヨギ・アディティヤナート,新型コロナウイルスで死亡した遺体を河に流さないように監視強化。
17日 中央捜査局,知事の裁可を得て,7年前に暴露された汚職疑惑で草の根会議派西ベンガル州政権の大臣2人を含む4人を逮捕。
21日 BJPの広報担当者のツイートに「操作されたメディア」との注意書きが付されたのを受け,政府がツイッター社に削除を要求。同社は要求を拒否。
25日 大型サイクロン,西ベンガル州,オディシャ州へ襲来。住民多数が避難。
26日 農業改革3法に反対して,パンジャーブ州を中心に全インドで抗議運動。
6月
14日 政府,新型コロナウイルスの検査キット,手指消毒剤,人工呼吸器などを対象に,物品・サービス税(GST)の税率を引き下げ。
15日 デリー高等裁判所,2020年の市民権改正法反対運動で起こった北東デリー暴動で逮捕された学生に保釈を決定。「抗議する権利」は「テロ活動」と同じではないと警察を批判。17日に釈放令状を発給。
18日 インド海軍とEU海軍の合同演習がエデン湾で始まる。
21日 連邦政府がワクチンを集中的に調達する体制に復帰し,18~44歳もワクチンの無料接種の対象にすると発表。
28日 政府,新型コロナウイルスの感染拡大を受け,6.3兆ルピー規模の経済対策を発表。
7月
1日 連邦法務省は重要防衛産業でストライキを禁止する法令を公布。
7日 モディ政権,大規模な内閣改造。
18日 ニュースサイト「ワイヤー」は,閣僚や野党指導者らの携帯電話などが,イスラエルのスパイウエア,ペガサスの標的になっていると報じる。
26日 カルナータカ州でBJP政権のイェディユラッパ州首相,辞任。
26日 州境の確定をめぐってアッサム警察とミゾラム警察が衝突。アッサム警察5人,民間人1人死亡。
28日 保健・家族福祉省,医学・歯学系学科の入学選抜における受験者の居住地に制限のない入学枠のなかに,「その他後進諸階級(OBC)」(27%),「経済的弱者(EWS)」(10%)の留保枠を設けることを決定。
8月
1日 信頼醸成のため北シッキムのインド軍と,チベット自治区のカンバ・ゾングの人民解放軍の間でホットラインが確立。
3日 破産倒産改正法が成立。中小零細企業のための倒産処理の枠組みを新たに導入。
5日 外務大臣S・ジャイシャンカル,イランのエブラーヒーム・ライースィー大統領就任式出席のためテヘランを訪問。
17日 アフガニスタンでターリバーンがカーブルを占領(15日)。140人のインド人が軍の飛行機で退避。
17日 アッサム州政府,1946年外国人法に基づきグルカ人を外国人裁判所に送らないよう通知。
23日 政策委員会,連邦政府と国有企業が所有する資産の収益化に関する計画を発表。
24日 オンラインのBRICS国家安全保障アドバイザー会議でモディ首相とロシアのプーチン大統領,アフガニスタンに対して協調戦略の必要性を強調。
26日 インド,オーストラリア,日本,アメリカ4カ国海軍合同軍事演習マラバール・I,フィリピン海で実施(~29日)。
9月
9日 第13回BRICS首脳会議がインドを議長国としてオンラインで開催。
11日 グジャラート州BJP州首相ビジャイ・ルーパーニー辞任発表。ブーペンドラ・パテールが次の州首相に(12日)。
11日 インドとオーストラリアの第1回2プラス2大臣会合開催。
18日 パンジャーブ州で会議派州首相アマリンデル・シン辞任。後任に同党のチランジート・シン・チャンニーが就任(20日)
25日 QUADの首脳会議。自由で開かれたインド太平洋を主張。
27日 農業改革3法に反対する農民による全国ストライキ。パンジャーブ州,ハリヤーナー州などで大きな影響。
29日 財務省,10月から12月までの3カ月間,新型コロナワクチンの輸入関税を免除することを決定。
10月
3日 UP州ラキームプル・キーリー県でアジャイ・クマール・ミシュラ連邦大臣の息子が乗車した車が引き起こした事故で4人の農民が死亡。反発した農民がBJP関係者4人を殺害。
7日 内務省,2020年3月から停止していた,外国人向け観光ビザの新規発行を再開すると発表。
8日 政府,国営航空会社エア・インディアの全株式を大手財閥タタ・グループに1800億ルピーで売却すると発表。
8日 デリー連邦直轄領政府,ワクチン接種を終えていない公務員を16日から出勤禁止。
8日 モディ首相,岸田新首相と電話会談。
12日 インド,アメリカ,オーストラリア,日本4カ国海軍合同軍事演習マラバール・II,ベンガル湾で実施(~15日)。
14日 外務省,新型コロナ感染拡大の第2波を受けて停止していた,国産ワクチンの輸出を再開したと発表。
18日 UP州ラキームプル・キーリー事件で統一農民組合,連邦大臣の辞任を求め全国的な「鉄道をとめろ」運動。
22日 RBI,ノンバンクに対する規制の枠組みを発表(実施は2022年10月1日から)。
11月
1日 政府,2021/22年度から導入された,MGNREGAにおける社会集団(ST,SC,その他)ごとの賃金支払いの廃止を決定。
1日 モディ首相,イギリスで開かれた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の首脳級会合で,2070年までに温暖化ガス排出の実質ゼロをめざすと表明。
3日 連邦政府,ガソリンとディーゼルの物品税を1リットルあたりそれぞれ5ルピーと10ルピー削減することを決定。
13日 マハーラーシュトラ州警察,遭遇戦で26人のマオイストをガドチロリー県で殺害と発表。
14日 ロシアから地対空ミサイル防衛システムS-400の引き渡しが開始。
19日 モディ首相,農業改革3法の廃止を表明。
22日 インドによるアフガニスタン人道支援のための小麦輸送でパキスタン首相は陸路通過を原則承認と表明。
26日 政府,2020年3月から停止が続いていた国際定期旅客便の運航を12月15日に再開すると発表。しかし,12月1日に運航再開の方針を撤回。
29日 農業改革3法の廃止法案が両院を通過。野党の要求にもかかわらず,関連する審議は一切行われず。12月1日廃止法が公布。
29日 連邦上院の野党議員12人が8月11日に「前例がない暴力的行為」を行ったとして冬期会期の間,活動停止を命じられる。
12月
2日 国内で最初のオミクロン株による感染例がカルナータカ州で確認される。
3日 州に交付するMGNREGAの資金が枯渇したため,連邦政府は補正予算として2500億ルピーを追加。
5日 ナガランド州モン県で軍の銃撃により村人14人死亡。同県住民,殺害に抗議してゼネスト(7日)。
6日 第21回インド・ロシア首脳会議のためプーチン大統領来訪。
9日 農業改革3法の廃止を受けて,統一農民戦線,抗議運動を中止。
10日 アメリカのバイデン大統領主催のオンライン「民主主義サミット」でモディ首相演説。
17日 11月に首相府とインド選挙委員会の会合が行われたとの報道に対して,野党は選挙委員会の信頼性をゆるがすとして反発。
19日 ウッタラーカンド州ハリドワールで17日から開かれたヒンドゥー主義諸組織による集会にてムスリムを絶滅せよなど,ヘイト・スピーチが公然となされ,問題に。
25日 内務省,マザー・テレサがコルカタに設立した「神の愛の宣教者会」を含む多数のNGOに対して,海外からの寄付金の受け入れに必要な許可を更新しないと決定(その後,「神の愛の宣教者会」については許可が更新される)。
27日 JK連邦直轄領で州外の市民が農地以外の不動産を購入することが可能に。
29日 有権者登録の際に個人識別番号(アーダール)の提供を新たに求める選挙法改正法が成立。

参考資料 インド 2021年

① 国家機構図(2021年12月末現在)

(出所)政府発表の閣僚名簿(https://www.india.gov.in/my-government/whos-who/council-ministers)およびその他各省庁のウェブサイトなどから筆者作成。

② 連邦政府主要人名簿(2021年12月末現在)

(出所)政府発表の閣僚名簿(https://www.india.gov.in/my-government/whos-who/council-ministers)およびその他各省庁のウェブサイトなどから筆者作成。

③ 国民民主連合閣僚名簿(2021年12月末現在)
③ 国民民主連合閣僚名簿(2021年12月末現在)(続き)

(注)カッコ内政党名略号。BJP:インド人民党,RPI(A):インド共和党(アトヴァレ派),JD(U):ジャナター・ダル(統一派),AD(S):我が党(ソネーラール),RLJP:ラーシュトリア人民の力党。

(出所)政府発表の閣僚名簿(https://www.india.gov.in/my-government/whos-who/council-ministers)およびその他各省庁のウェブサイトなどから筆者作成。

主要統計 インド 2021年

1 基礎統計

(注)1)暦年。2)年度平均値。2021/22は4~12月の平均値。3)第2次予測値。4)4~12月の平均に対する値。なお12月は暫定値。

(出所)人口はMinistry of Statistics and Programme Implementation(MOSPI), National Accounts Statistics 2021, およびPress Note on Second Advance Estimates of National Income 2021-22, 出生率はMinistry of Finance, Economic Survey 2019-20, 2020-21, 2021-22, 食糧穀物生産はMinistry of Agriculture and Farmers Welfare, Second Advance Estimates of Production of Foodgrains for 2021-22,消費者物価上昇率はMinistry of Finance, Economic Survey 2021-22,為替はMinistry of Finance, Economic Survey 2021-22,およびRBIのウェブサイト・データより作成。

2 生産・物価指数

(注)1)都市部と農村部の統合指数。2)4~12月。12月は暫定値。3)暫定値。4)4~12月。11月,12月は暫定値。5)4~12月。12月は暫定値。

(出所)鉱工業生産指数はMinistry of Finance, Economic Survey 2021-22およびMOSPI, Press Note on Quick Estimates of Index of Industrial Production and Usebased Index for the Month of December, 2021, 農業生産指数, 卸売物価指数,消費者物価指数はMinistry of Finance, Economic Survey 2021-22より作成。

3 支出別国民総所得(名目価格)

(注)1)3次改定値。2)2次改定値。3)1次改定値。4)2次予測値。

(出所)MOSPI, Press Note on First Revised Estimates of National Income, Consumption Expenditure, Saving and Capital Formation for 2020-21, およびPress Note on Second Advance Estimates of National Income 2021-22より作成。

4 産業別国内総生産(実質:2011/12年度価格)5)

(注)1)3次改定値。2)2次改定値。3)1次改定値。4)2次予測値。5)基本価格表示の粗付加価値(GVA)。

(出所)MOSPI, Press Note on First Revised Estimates of National Income, Consumption Expenditure, Saving and Capital Formation for 2020-21, およびPress Note on Second Advance Estimates of National Income 2021-22より作成。

5 国際収支

(注)1)暫定値。2)4~9月の予測値。

(出所)RBI, Handbook of Statistics on Indian Economy 2020-21,およびRBI, Press Release(Development of India's Balance of Payments during the Second Quarter of 2021-22, 31/Dec/2021)より作成。

6 国・地域別貿易

(注)1)アイスランド,ノルウェー,スイス,リヒテンシュタイン。2)非特定地域(unspecified region)を含む。3)暫定値。

(出所)Ministry of Commerce and Industryのウェブサイト・データより作成。

7 中央政府財政

(出所)Ministry of Finance, Union Budget 2020-21, 2021-22, および2022-23より作成。

 
© 2022 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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