アジア動向年報
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各国・地域の動向
2022年のマレーシア 好調な経済のもとで新たな連立政権が発足
中村 正志(なかむら まさし)熊谷 聡(くまがい さとる)
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2023 年 2023 巻 p. 321-352

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2022年のマレーシア

概 況

2022年はマレーシアにとって政治面で節目の年になった。2020年3月以降,国民戦線(BN)と国民同盟(PN)の2つの政党連合を中心とする連立政権が続いていたが,2022年11月の第15回総選挙を経てこの連立が瓦解し,希望連盟(PH)を主軸とする新たな連立政権が発足したのである。新首相には,PHを率いるアンワル・イブラヒム人民公正党(PKR)総裁が就任した。新たな連立与党は,PHとBN,サバ人民連合(GRS),サラワク政党連合(GPS)の4つの政党連合などから構成されている。PHを除く3つの政党連合は旧連立与党にも属しており,新旧の政権は連続性が高い。しかし,選挙前は野党だったPHの代表が首相に就任したことから,選挙後の連立組み替えは実質的な政権交代だといえる。また今回の選挙では,マハティール・モハマド元首相が率いた祖国運動(GTA)が惨敗を喫し,マハティール元首相自身も落選した。

経済面では,2022年のマレーシアは一言でいえば「脱・コロナ禍」を果たしたということになる。内外需ともに大きく伸び,通年の経済成長率は8.7%に達した。内需も引き続き好調であったが,前年比25.0%の伸びを示した輸出も経済を牽引した。また,マレーシアの消費者物価上昇率は通年では3.3%と世界の主要国と比較すると低いものにとどまっている。マレーシア経済は世界的な物価高騰の影響にうまく対応しながら,コロナ禍からの回復フェイズを終えて新しい成長軌道に乗ったといえる。

国内政治

ジョホール州議会選挙

冒頭で述べた政権交代の原動力となったのは,新たに首相に就任したアンワルPKR総裁ではなく,BN議長のアフマド・ザヒド・ハミディ統一マレー人国民組織(UMNO)総裁である。そもそもアンワルは,早期の解散総選挙には反対していた。首相を務めていたイスマイル・サブリ・ヤアコブUMNO副総裁補も同様である。2021年8月のイスマイル・サブリ政権発足後まもなく,政府と野党のPHは覚書を締結し,政府が政治制度改革を進めることを条件にPHは予算成立に協力する,2022年7月31日までは連邦議会を解散しないなどの点に合意していた(『アジア動向年報2022』参照)。

しかし,政府・与党側は一枚岩ではなかった。UMNO内部には,イスマイル・サブリ首相やヒシャムディン・フセイン国防相,カイリー・ジャマルディン保健相ら「閣僚クラスター」と呼ばれるグループと,汚職容疑で刑事裁判の被告となっているザヒド総裁,ナジブ・ラザク元首相らに近い党幹部のグループ,通称「法廷クラスター」との対立があった。総選挙の早期実施に積極的だったのは後者である。UMNO州組織の権力闘争が発端となって2021年11月に実施されたマラッカ州議会選挙でBNが大勝したことから,総選挙の前倒しが党勢拡大に有利とみたザヒドらは首相に圧力をかけはじめた。

早期解散総選挙を求める動きに拍車をかけたのが,2022年3月に実施されたジョホール州議会選挙である。1月に州議会解散を決めたUMNOのハスニ・モハマド州首相は,12月に与党議員が死去したために与野党の議席数の差が1議席となり,政権が不安定になったことを解散の理由にあげた。しかし,事前に党中央から解散の指示があったと報じられており,ザヒドらの意向が決め手となったとみられる。

マレーシアでは,連邦議会下院選挙と州議会選挙のどちらも小選挙区制のもとで行われている。ジョホール州議会選挙は前年11月のマラッカ州議会選挙と同じく,解散時まで連立与党を形成していたBNとPNの相打ちとなり,そこにPHが絡む三つ巴の戦いとなった。計56議席をめぐって争われたこの選挙では,BNが解散時議席数の2.5倍にあたる40議席を獲得し,かつての覇権政党の復活を印象づけた(表1)。

表1 2022年ジョホール州議会選挙 政党別獲得議席数・議席占有率・得票率

(出所)マレーシア政府官報P. U. (B) 166/2022および各種報道にもとづき作成。

総選挙の時期をめぐるUMNO内の闘争

ジョホール州議会選挙での圧勝は,総選挙の早期実施を求めるUMNO内の機運を高めた。選挙の翌週に行われた党年次総会では,モハマド・ハッサン副総裁が総選挙を遅らせるべきではないと主張した。

一方,首相でありながら党内ではナンバー3のイスマイル・サブリは,「国王の議会解散権を侵害すべきでない」と述べ,国王を盾に党からの圧力をかわそうとするなど,早期解散に難色を示した。イスマイル・サブリ首相の立場はPNとの連立に依存していたからである。総選挙でPNと争うことになれば,選挙後も首相を続けられる保障はない。イスマイル・サブリが連邦レベルでのPNとの協調関係を維持し首相の座を守るには,まず党の主導権を確保する必要があった。

その機会になり得たのが,2022年中の実施が予定されていたUMNOの役員選挙である。UMNO役員の任期は3年で,18カ月の延長が認められている。前回の役員選挙は2018年6月に実施されていたため,2022年12月に任期切れとなるはずだった。イスマイル・サブリ首相が役員選挙に勝って党総裁になれば,PNとの関係を自らコントロールし得た。

しかし,首相にその機会は訪れなかった。ザヒドが主導する党執行部が5月に特別総会を開催し,役員選挙を総選挙の6カ月後まで延期することを可能にする党規約改定を行ったのである。党最高評議会のメンバーはザヒド総裁に近い人物が多いうえ,党総裁は総選挙の公認候補選定に強い影響力をもつため,党総会に出席する地方組織の幹部を掌握できる。ザヒドはその権限を利用して,自らに有利な党規約改定を実現したのだった。

こうしてザヒドは党総裁の座を守ったが,自身が次期首相候補として「選挙の顔」となることはできなかった。刑事裁判の被告だったからである。ザヒドは2018年から2019年にかけて,慈善事業を目的とする財団の資金の私的流用や,内相在任時の海外ビザ・システムの発注に関わる収賄の容疑で起訴された。慈善団体資金の横領疑惑にかかわる裁判では,2022年1月に検察側立証の一応の妥当性が認められ,被告側に反証が命じられた。もし有罪判決が出れば,被告は控訴しても憲法の規定により下院選挙に立候補する資格を失う。ザヒドがこのような危うい立場にあったため,少なくとも表向きには,「選挙に勝てばイスマイル・サブリ首相続投」がUMNOの方針となった。

ナジブ元首相収監を経て連邦議会解散へ

次いで8月下旬,UMNOからの選挙実施要求を一段と高める出来事があった。ナジブ元首相の収監である。8月23日に連邦裁判所は,ワン・マレーシア開発公社(1MDB)の子会社SRCインターナショナルに関わる背任,収賄,資金洗浄の容疑で一審,二審で有罪判決を受けたナジブ元首相に対し,上告棄却の判断を下した。これにより,禁錮12年,罰金2億1000万リンギの刑が確定し,ナジブ元首相は即日収監された。

UMNO内には,ナジブ元首相に対する根強い支持がある。ザヒド総裁,モハマド副総裁らは,裁判の手続きに問題があったと唱え,公然と司法を批判した。とりわけ,自身も刑事裁判の被告であるザヒドは,ナジブ収監の直後に党本部で緊急集会を開催し,元首相に対する判決は政治的報復だと述べて恩赦を求めるとともに,速やかな解散総選挙の実施を訴えた。イスマイル・サブリ首相に対しては,ザヒドに有罪判決が出るのを待つために総選挙を遅らせているのではないかとの嫌疑がかけられ,党幹部のなかには「解散か除名か」と首相に迫った者もいたと報じられた。

首相に対するUMNOからの解散圧力が高まると,連立与党の一角を占めるPNの幹部からも選挙を意識した発言が相次いだ。汎マレーシア・イスラーム党(PAS)などとともにPNを構成するマレーシア統一プリブミ党(Bersatu)のムヒディン・ヤシン総裁は,PNにとって総選挙の主要な敵はBNだと述べて対決姿勢を鮮明にした。また,10月5日にPN所属閣僚12人が,大雨による洪水のリスクがある11月から3月の間の解散総選挙を認めないよう求める請願書を国王に送った。

こうしたPN側の行為は,かえってイスマイル・サブリに解散を決断させる要因となった。10月10日に首相は国王に議会解散を進言し,同日中に解散が宣言された。翌日首相は,「PN所属12閣僚の国王請願やムヒディンのBN敵視発言により内閣の一体性が損なわれたため解散総選挙に踏み切らざるを得なくなった」と述べた。PN側は自分たちのせいにするなと首相を非難したが,早期の解散総選挙を望んでいなかったのは首相も同じであり,内閣を制御できなくなったために解散せざるを得なかったというのは彼の本音であろう。

第15回総選挙

第15回総選挙は11月5日に立候補受付,同19日に投開票という日程で行われた。これまでの総選挙では,連邦議会が解散するとマレー半島部11州の州議会がまもなく解散し,同日選挙となるのが慣例であった。しかし今回は,早期の選挙実施に消極的だったPNとPHが政権を握る6州は,洪水のリスクを理由に解散を見送った。マラッカとジョホールは先行して選挙を済ませていたため,下院と同時選挙となったのはプルリス,ペラ,パハンの3州だけだった。

有権者総数は2117万3638人で,2018年に行われた前回選挙の1494万624人から41.7%も増えた。これは,有権者年齢が21歳から18歳に引き下げられたことと,有権者登録の方式がこれまでの任意登録制から自動登録制に切り替えられたことによる。今回の下院選挙の投票率は73.9%で,2018年選挙の82.3%を大きく下回った。しかし,自動登録制への変更によってこれまで選挙人登録をしていなかった人々が分母に含まれるようになったことを鑑みれば,今回も比較的高い投票率が維持されたといえる。

議会解散まで連立与党を構成していたBNとPNは,ジョホール州議会選挙に続き,総選挙でも相争うことになった。PN側ではBersatuがBNを主要敵と宣言していたのに対し,「ウンマ(ムスリム共同体)団結」というスローガンを掲げるPASは,解散の直前までUMNOとの共闘を諦めていなかった。しかし,UMNO側から共闘を望むならBersatuと断交せよとの最後通牒を突きつけられ,PASはBersatuを選んだ。その結果,マレー半島部の各選挙区ではBNとPN,PHの候補の三つ巴の戦いとなった。

今回の総選挙では,とくに目立った政策争点はなかった。2018年の前回総選挙の際には,PHが物品サービス税(GST)の廃止やクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道など大型インフラ開発事業の見直しを公約に掲げ,選挙後にこれらを断行して政権交代による新時代の到来を有権者に印象づけた。今回はこれらに匹敵する目玉公約はなく,野党のPHと与党のBN,PNのいずれも物価対策と低所得層への支援をマニフェストの筆頭項目に位置づけた。ウクライナ戦争などの影響による物価高が続くなか,3つの政党連合がいずれも低所得層支援を最重要視することになり,党派間の政策志向の差異は薄れた。

そうしたなか,選挙運動ではライバルに対するネガティブキャンペーンが関心を集めた。とくにPHとPNは,「BNへの投票はザヒドを首相にするための投票だ」というキャッチフレーズを用いて,BNに投票すれば汚職の疑いが濃厚な政治家の復権を許すことになると有権者に警告した。

このキャッチフレーズが広く知られるようになると,イスマイル・サブリ首相はそうした物言いは虚偽であり,自身がBNの首相候補だと改めて訴えた。ところが肝心のザヒドUMNO総裁は,首相に同調するどころか,投票日の4日前に「BNが選挙に勝ったら国王が適切な者を首相に任命するだろう」と述べ,首相就任への野心を見せた。

それだけでなく,ザヒドは総選挙を党内の批判者の力を削ぐ機会として活用した。アヌアル・ムサ通信相やシャヒダン・カシム連邦領相など「閣僚クラスター」の一部と,歯に衣着せぬ発言で知られるタジュディン・アブドゥル・ラーマンらを公認候補から外したのである。また2018年の党役員選挙でザヒドと争い,将来の総裁候補と目されていたカイリー保健相は,自らの地盤である選挙区をモハマド副総裁に奪われ,勝ち目の薄い選挙区からの出馬を余儀なくされた。

党の議席を増やすことが目的であれば,閣僚など有力幹部を公認候補から外すのは得策ではない。速やかな選挙実施を求めていたザヒドら党執行部の主流派は,UMNOの集票力を過信していたのだろう。結果的に,現職議員が公認を外された9選挙区でUMNOが勝てたのは2選挙区だけだった。

選挙運動期間に入ると各種団体による世論調査結果が発表され,BNの苦戦が明らかになった。自ら調査機関の代表を務めるPKRのラフィジ・ラムリ副総裁は,選挙戦終盤にPHの議席数の見通しを示し,下院の222議席のうち90議席を得るのは確実,100議席超えも狙えると語った。PHの顔であるアンワルとPN代表のムヒディンがそれぞれ応援演説で各州を行脚したのに対し,BN議長のザヒドは自身の当選すら危ぶまれたため地元を離れることができなかった。

選挙運動期間中に洪水の被害を受けた選挙区もあったが,11月19日の投開票はおおむね円滑に実施された。下院選挙では,最大党派だったPHがその座を維持したものの,獲得議席数は改選前の9議席減となる82議席にとどまった(表2)。BNはUMNOが大敗を喫し,改選前の42議席から30議席に後退した。この両者から議席を奪って躍進したのがPNである。とくにPASの躍進が顕著で,改選前の17議席から44議席に伸ばして議会内第1党となった。PASが下院の第1党となるのは史上初である。PASの党旗が緑色を基調としたものであることから,PNの躍進は「緑の波」と呼ばれている。

表2 2022年連邦議会下院選挙 政党別獲得議席数・議席占有率・得票率

(注)12月7日に投票が行われたパダンスライ選挙区の結果を含む。クランタン州とトレンガヌ州においてPAS候補として登録されたBersatu党員5人は,Bersatu側にカウントした。MUDAはPHに未加盟だが,選挙協力を行うなど加盟政党と同様の行動をとっているためPHに算入した。選挙後にGRS直接公認候補として立候補していたと主張しはじめた4議員は,ここではサバBersatuの党員としてカウントした。

(出所)マレーシア政府官報 P.U. (B) 605/2022~P.U. (B) 620/2022,ならびに各種報道をもとに作成。

PH-BN連立に至る過程

今回の総選挙では,単独で過半数を制する政党連合は現れないと事前に予想されており,そのとおりの結果となった。よって選挙後には,各党派間で連立交渉が始まった。マレーシアでは,総選挙後に国王が「下院議員の過半数の信任を得そうな議員」を自らの判断で首相に任命する。今回は単独で下院の過半数を制した党派が存在しなかったため,投票日翌日の11月20日にアブドラ・アフマド・シャー国王が下院議長に対して政党指導者に連立交渉を促すよう求めた。また国王は,政党指導者に対して,翌21日午後2時までに誰を首相に推薦するか報告するよう命じた。

連立交渉のキーパーソンとなったのは,BNのザヒド議長である。BNは選挙で惨敗したために新たな連立政権の軸にはなれなかったが,3番手に沈んだ結果,PNとPHによる主導権争いのキャスティングボートを握ることになったのである。20日の国王声明の後,サラワク政党連合(GPS)代表のアバン・ジョハリが,GPSはPN,BNならびにサバ人民連合(GRS)と連立政権を組むことに合意したと発言すると,ザヒドは即座にこれを否定した。解散前の連立与党が元の鞘に収まるのがもっとも実現可能性の高いシナリオと見込まれていたが,ザヒドはそれを拒否したのである。

この時点でBN議員30人のうち10人は,水面下でPN代表のムヒディンを首相に推薦すると約束していた。PNとGPS,GRSにBNから10人が加われば112人で,定数222の過半数に達する。一方,もしBNが一致してPHと組むことになれば,両党派合わせて112人となる。そこでザヒドは,BN議長,UMNO総裁の立場を利用して,PHとの連立に向けて動き出した。

11月21日にはBNのザヒド,イスマイル・サブリ前首相らと,アンワルほかPHの幹部との会談が実現する。同時にBN議員30人のうち26人が集まり,首相推薦の期限延長を国王に求めた。これを受けて国王は期限を24時間延長する。一方PNは,ムヒディンを首相に推す議員112人の宣誓供述書を国王に提出した。この日の午後,BNは幹部会を開いて連立相手について協議するが結論が出ず,夜になってモハマド・ハッサンUMNO副総裁がSNSを通じて「BNは野党として残るべき」との考えを表明するに至った。

翌22日午前,BNは再び幹部会を開催してPNとPHのどちらも支持しないことを決定し,ムヒディンを首相に推薦したBN議員10人の宣誓供述書の取り下げを国王に伝達した。すると国王は,同日午後にPHのアンワル,PNのムヒディンと会談し,PHとPNが連立するかたちでの挙国一致政府の形成を提案する。国王の提案に対し,ムヒディンは自身が過半数議員の支持を得ていると主張してPHとの連立を拒んだ。国王は同日中に再び声明を出し,翌23日にBN議員30人から個別に意見を聴取すると発表した。

国王の声明を受けて,BNは同日中に改めて幹部会を開いた。その席上で,この日の午後にザヒドが「BN議員はアンワルを首相に推薦する」との内容の書簡を独断で国王に送っていたことが発覚し,会議は紛糾する。結局この場では,議員からの意見聴取の延期を国王に要請することしか決まらず,連立形成の動きは停滞した。

続く11月23日,国王はBN幹部とGPS幹部を王宮に呼び,挙国一致政府に加わるよう求めた。また国王は,翌24日に各州スルタンを集めた特別会議を開催し,首相任命について協議すると発表した。首相が決まらない政治的空白を早急に解消しようとする国王の動きは,膠着した事態を動かすことになる。ザヒドBN議長は,「国王はBN議員に挙国一致政府に参加せよと命じた」と述べ,野党にとどまるとした前日の決議は「国王の命に反する」と主張した。UMNOは同日夜から翌24日未明にかけて最高評議会会合を開催し,「BN議員に挙国一致政府への参加を求めた国王の命を支持する」ことで合意した。

11月24日午後,国王は他のスルタンとの会合の後,PH代表のアンワルを新首相に任命し,その日のうちに首相就任式が行われた。首相がアンワルに決まるとGPS,GRSなどが挙国一致政府への参加を次々に表明し,表立ってアンワル支持を拒否するのはPN議員のみとなった。

このように選挙後の連立形成に向けた動きが二転三転した後,問題の早期解決を求める国王の要請によって「挙国一致政府への参加」が正当性を得たために,BNとPHの連立が実現した。しかし,もし投票日の翌日にBN議長のザヒドがPNと再び連立政権を組むことに同意していたら,その時点であっさり決着がついたはずである。PHとの連立に向けて粘り強く党最高評議会での合意形成を図ったザヒドこそ,アンワル政権誕生の最大の「功労者」といえる。

下院の連立協議と平行して,同じく単独の過半数勢力が現れなかったペラ州議会,パハン州議会でも連立協議が行われた。その結果,ペラでは11月21日,パハンでは同27日にBNとPHの連立政権が成立した。一方,プルリスではPNが単独で過半数を制し,初めて州政権を握った。

新内閣の顔ぶれ

新内閣の大臣は12月2日,副大臣は同9日に発表された。アンワルは首相を務めるのに加えて財務相を兼任する(『参考資料』参照)。PH-BN連立実現の立役者であるザヒドBN議長は第1副首相,GPSのファディラ・ユソフが第2副首相に任命された。副首相が2人任命されるのは,今回が初めてである。

政党間のポスト配分を見ると,正大臣28人のうち連立与党内最大党派であるDAPからの登用はわずか4人と目立って少ない。これは,DAPがPH主軸の連立の実現と安定政権の樹立を優先し,閣僚人事をアンワルに一任した結果である。前回選挙後に発足したPH政権ではリム・グアンエン書記長が財務相を務めるなど,閣内におけるDAPのプレゼンスが目立った。そのことがマレー人有権者の離反を招き,補欠選挙での連敗につながったため,同じ轍を踏まないよう配慮したと見られる。一方UMNOからは,モハマド副総裁が国防相に抜擢されるなど,大臣6人,副大臣5人が登用され,閣内でPKRに次ぐ勢力となった。

下院議員に対する党籍変更規制の導入

BNとPHの加盟政党は長らく対立してきた歴史があることから,新政権が安定政権になり得るかはまだ不透明である。しかし,いずれも短命に終わった2018年選挙後のマハティール,ムヒディン,イスマイル・サブリの政権に比べ,アンワル政権にはあきらかに有利な点がある。それは,2022年7月の憲法改正によって導入された下院議員に対する党籍変更規制である。

党籍変更規制の導入は,前述したイスマイル・サブリ政権とPHとの合意事項のひとつであり,超党派の技術委員会を通じて法案が検討されていた。憲法第10条で保障された結社の自由との兼ね合いが問題視されたことなどから,4月には下院に法案を検討する特別委員会が設置され,与野党議員による審査が行われた。その成果である憲法改正案が7月28日に採決され,与野党双方の支持により可決された。

その内容は,(1)当選時に所属していた政党を離党する,ないし党員であることをやめた場合,あるいは(2)(無所属を含めて)当選時に所属していた政党とは異なる政党に入党した場合,に議員は失職するというものである。党から除名処分を受けた場合には,議員は失職しない。ただし,党議拘束に違反した場合には党籍を剥奪すると党規約で定められており,あえて違反して除名された場合には失職する。

UMNOは2023年1月の年次総会で党規約を改定し,党が参加していない政治協定に加わった議員は自動的に党籍を失うというルールを設けた。この党規約改定により,ザヒドが決めたPHとの連立に不満をもつUMNO議員がPN側に寝返った場合には失職することになった。新政権の発足前に党籍変更規制が導入されたことは,アンワルとザヒドにとって僥倖だったといえる。

(中村)

経 済

マクロ経済の状況

2022年のマレーシアの経済成長率は通年で8.7%に達した。経済成長率が8%台に乗ったのは,アジア通貨危機からの回復過程にあった2000年の8.9%以来,実に22年ぶりとなる。2021年のGDP水準はコロナ禍前の2019年の水準を回復できていなかったが,2022年のGDPは2019年の水準を5.8%上回っており,マレーシア経済はコロナ禍からの回復過程を終えて新しい成長軌道に乗ったということができる。

経済成長率を四半期別に見ると,第1四半期から順に前年同期比で5.0%,8.9%,14.2%,7.0%となっている。第3四半期の2桁成長は,前年の夏に新型コロナウイルスの流行にともなう行動制限の影響があったため,その反動分でかさ上げされているが,それを除いても経済成長率は2010年代の常態であった4〜5%を上回っており,1年を通じてマレーシア経済は好調であったといえる。

マレーシア経済好調の第1の要因は,輸出が大幅に伸びたことである。輸出額は1月から23.9%増と20%台の伸びを示し,8月には48.2%増というマレーシアのような中規模国としては「異常」ともいえる大幅な伸びを示した。結局,輸出額は通年で25.0%の伸びとなった。マレーシアの輸出額は,コロナ禍がはじまった2020年もマイナス1%に踏みとどまり,昨年は26.0%増と早々にコロナ禍前の水準を上回っていたが,2022年もほぼ同様の伸びを示した。

輸出先としては,シンガポール向けの輸出が通年で33.7%増と著しく伸び,中国を上回って前年の第2位から第1位の輸出先に浮上した。これには,コロナ禍が落ち着いたことで,シンガポールとの国境が4月1日からほぼ通常どおりの運用に戻ったことが影響していると考えられる。2018年からの米中貿易戦争,2020年からのコロナ禍にもかかわらず伸び続けていた中国向け・アメリカ向け輸出については,2022年も中国向けは9.4%増,アメリカ向けは17.5%増と通年ではまずまずの伸び率を維持した。ただ,第4四半期には伸び悩み傾向がみられ,とくに中国向けは12月には12.1%減と17カ月ぶりの減少となった。中国向けの輸出は,中国のゼロコロナ政策とその解除に伴う経済の下振れが,アメリカ向けについては米連邦準備制度理事会による金利の引き上げが景気を抑制しているためと考えられる。

品目別にみると,全輸出の約45%を占める電子・電機製品が30.2%増と大きく伸び,石油製品も価格高騰を反映して69.4%増となった。パーム油関連製品も26.5%増と好調で,製造業全体では22.3%の伸びを示した。世界経済がコロナ禍から回復するなかで需要が伸び,ロシアのウクライナ侵攻などもあって一次産品を中心に価格高騰が続いたこと,さらにはリンギ安が重なって輸出額は大きく増加した。

需要項目別に2022年のGDPをみると,民間消費が大きく伸び11.3%増となった。加えて,コロナ禍以降ずっと弱かった民間投資が7.2%伸びて回復基調になったことが大きい。産業別にみると,製造業や鉱業もそれぞれ8.1%,3.4%伸びたが,年後半からは,やはりコロナ禍以降不調だった建設部門に回復の兆しがみえはじめ,第3四半期は15.3%増,第4四半期は10.1%増となり,通年で5.0%の伸びを示した。

このような好景気は,バンク・ネガラ(マレーシア中央銀行)の金融政策にも影響を与えている。バンク・ネガラは,年初は1.75%であった政策金利を,5月から11月まで4回連続で0.25ポイント引き上げて2.75%とした。9月の引き上げで政策金利が2.50%になった時点で,バンク・ネガラはコロナ禍への緊急対応としての歴史的な低金利を正常な水準に戻したことを示唆した。一方,11月の利上げでは,金融政策の説明において「需要主導型の(インフレ)圧力」の存在に言及,「過剰な需要のリスクを先取りして管理する」と述べており,景気の過熱を警戒しはじめたことが読み取れる。

マレーシア・リンギについては,年初の1ドル=4.1リンギ台から11月4日の4.7465リンギまで急速にリンギ安が進んだ。10月下旬から11月上旬にかけて,新聞紙上では「アジア通貨危機時の安値更新」の文字が連日踊ることになった。しかしこれは,マレーシア経済に原因があるというよりも,アメリカの利上げが進み,マレーシアとの金利差が拡大したことを反映している。実際,アメリカの利上げ期待が落ち着いた11月中旬以降はリンギ高の方向に動き,年末には1ドル=4.4リンギ台にまで戻している。11月上旬の段階でリンギでは対米ドルでは11%程度下落していたものの,主要貿易相手の通貨を加重した名目実効為替レートではわずか2%の下落にとどまっており,2022年の対米ドルでのリンギの下落は,リンギ安というよりもドル高によるものであったことが分かる。

消費者物価上昇率は,通年では3.3%の上昇となった。1月の前年同月比2.3%からじりじり上昇し,8月には4.7%に達した。その後,消費者物価上昇率は下落に転じ,12月には3.8%と3%台に戻った。通年での消費者物価上昇率を項目別に見ると,平均を上回っているのは食品・飲料(5.8%),レストラン・ホテル(5.0%),運輸(4.7%)で,食品のなかでは肉類(8.6%),乳製品(7.6%),外食(6.6%)の伸びが目立っている。これらの項目からは,マレーシアの物価上昇は主に輸入物価の上昇と国境開放などコロナ禍で止まっていた経済活動の再開に伴うものであると推測できる。それでもマレーシアの物価上昇が世界の主要国と比較して低い率にとどまった一因には,政府による価格統制や積極的な補助金の支出が奏功したことがある(後述)。

労働者を巡る問題

2022年のマレーシアでは景気が順調に回復するにしたがって,コロナ禍で移入が止まっていた外国人労働者の不足が顕在化しはじめた。1月15日,サラバナン人的資源相は1月28日よりプランテーション部門の外国人労働者雇用の受付を再開すると発表し,1月24日にはインドネシアとの間で家政婦の派遣について2月上旬に覚書(MoU)が結ばれることが発表された。ところが,このMoUの締結は直前になって延期され,5月31日にはインドネシアがマレーシアへの農園労働者の派遣をキャンセルすると発表,7月13日には二国間合意への違反があるとしてマレーシアへの労働者派遣を凍結するなど相次いで問題が生じた。結局,インドネシアがマレーシアへの労働者派遣凍結を解除したのは8月1日であった。

こうした状況に対し,業界団体からは外国人労働者不足が生産に与える影響を懸念する声が次々と上がった。6月には,マレーシア農園主連盟が12万人の労働力不足によって業界は昨今のパーム油価格高騰の好機を逃すと主張した。9月には,マレーシアパーム油協会も2022年は歴史上最悪の労働力不足で生産量が頭打ちになるとの見通しを示した。

7月には国際貿易産業省が,2016年に政府が決定した2022年末までに製造業労働者の80%をマレーシア人とする規則の施行を2年延期する方針を示した。10月3日,サラバナン人的資源相は,現在130万人の外国人労働者が雇用されているが,外国人労働者の需要は180万人分あり,追加で54万1315人の移入を認可したところであると発言した。コロナ禍で減少していた外国人労働者は短期的には再び増加する見込みで,マレーシアの産業界が脱外国人労働者に向かうのは,まだまだ先になりそうである。

労働者に関しては,5月1日から従業員5人以上の企業の雇用者を対象に最低賃金が1200リンギ/月(都市部のみ,その他の地域は1100リンギ/月)から1500リンギ/月へと大幅に引き上げられた。先立つ3月にはマレーシア経営者連盟が,最低賃金の引き上げはコロナ禍からの回復過程にある中小企業に打撃を与えるため延期するべきだ,と主張した。4月にはマレーシア半導体協会が最低賃金引き上げで,最低賃金で働く労働者のみならず,全体の40%の労働者が賃上げの影響を受けるとして政府への強い不満を表明した。こうした産業界の反発にもかかわらず,政府は大幅な最低賃金の引き上げを当初の予定どおり実施した。

一方で,同様に産業界から反対の声が上がっていた,2022年改正雇用法の施行時期に対しては,政府は柔軟な姿勢を示した。同法の改正により,対象となる労働者には一定の条件があるものの,週の労働時間が48時間から45時間に短縮されるとともに,出産休暇の増加やハラスメント・差別に対する労働者保護の強化などが実現された。今回の雇用法の改正は,環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への批准を念頭においたものであった。労働に関するより高い水準のルールへの準拠を目指すものであり,高所得国を目指すマレーシアにとって長期的にはメリットをもたらす。一方で,短期的にはビジネス界にとって負担となり得る。8月17日にはマレーシア経営者連盟が,雇用法改正は事業者にとって負担が重すぎるとして9月1日に予定されていた施行の延期を求めた。8月19日にはマレーシア建設業者協会も企業活動が回復するまで施行を遅らせるべきだと主張した。こうした産業界の不満を受けて,8月26日,サラバナン人的資源相は,景気の回復と当面の労働者不足に配慮して,施行を2023年1月1日に延期することを発表した。

2023年予算

10月7日,通常より3週間早く2023年予算が下院に上程された。イスマイル・サブリ首相はこの予算を「マレーシアの家族」のための予算と呼び,全世帯のうち所得が下位40%の家計(B40)に加えて所得中位40%(M40)の家計にもベネフィットがあるとアピールした。近年のマレーシア政府の経済政策の方針は明確に分配重視で,2023年予算もそれを踏襲している。例年のように,所得各階層の家庭に現金給付や減税措置が与えられるほか,老人,障害者,一人親家庭など,社会的弱者にも特別な配慮がされていた。

2023年予算の総額は3723億リンギで,当初予算としては過去最大の規模となった。ただ,2022年予算の改定後の規模,3853億リンギと比較すると3%程度下回っている。2022年予算は当初3321億リンギであったが,主に物価高騰への対応として補助金が増加したため,当初予算から約16%増加していた。2023年予算は基本的には改訂後の2022年予算を踏襲した方向性であるが,物価高がやや落ち着くこと,歳入面でも原油価格がピークを越えてペトロナスからの配当金・納税が減少することを見込んで,総額を抑えたかたちになった。財政赤字のGDP比も2022年の5.8%から2023年は5.5%に改善する見通しとなっている。

前述のように,2022年予算額が膨らんだ理由は物価上昇に対応するための補助金の増加である。2022年の補助金・社会扶助は589億リンギとなる見通しで,2021年の230億リンギから約360億リンギも増加している。マレーシア政府は2023年予算の説明のなかで,もし補助金がなかった場合,2022年の消費者物価の上昇率は11%になっていたと述べている。

このような大幅な補助金の増額が可能だったのは,ひとえに石油関連収入の増加によるものである。2022年の石油関連収入は前年から80.5%伸びて778億リンギとなる見込みである。主に,ペトロナスからの配当が前年比で250億リンギ増加するためで,金額的にはペトロナスからの配当の増加分をそのまま補助金の拡大に充てたかっこうになる。

このように,2023年予算は近年の傾向を踏襲した分配重視型の予算であったが,上程からわずか3日後の10月10日に議会が解散されたことで一旦白紙に戻ることになった。解散前,ザフルル財務相は選挙後に当初予算を再度上程することもありうると述べていたが,総選挙を経て政権の枠組みが大幅に変わったため,2023年予算は宙に浮いたかたちとなった。

アンワル新首相は組閣を行うかたわら,11月27日に国家行動委員会・生活費特別会議を主催し,各省庁に2週間で早急に物価高騰対策を提案するように指示を出した。12月13日に開催された第2回会議でアンワル首相は補助金の対象を困窮者に絞るべきだと発言し,その後発表された電気料金の引き上げでは,一般家庭や中小企業用の低電圧契約者の料金は据え置き,中・高電圧契約者の料金のみの引き上げとなった。これは,物価対策を最優先としながらも財政規律にも配慮するアンワル政権の姿勢を示している。

アンワル新政権で注目された財務相人事では,アンワル首相が財務相を兼務することになった。これは,連立政権において,経済政策の主導権を握るためにはやむを得ない選択であったといえる。これまで首相府傘下にあった経済計画局(EPU)などの経済担当部署を経済省として独立させ,腹心であるPKRのラフィジ副総裁を大臣として起用したことからも,経済政策で主導権を握りたいアンワル首相の意向がうかがえる。一方で,国際貿易産業相については前政権で財務相を務めたUMNOのザフルル氏を総選挙で落選したにもかかわらず起用するなど,経済政策の継続性にも一定の配慮をしていることもうかがえる。

12月20日,当面の公務員給与,政府機関の光熱費,奨学金,福祉費,教育サービス,医療費などを支払うための暫定予算が議会を通過し,新しい予算は2023年2月24日に上程されることになった。

先進国入りに向けたESG意識の高まり

2022年のマレーシアでは,世界的なESG(環境,社会,ガバナンス)重視の流れを受けて,政府や民間企業が環境やガバナンスへの配慮を強める動きが相次いだ。4月には,ザフルル財務相が「政府系投資会社(GLIC)のためのグッドガバナンスに関する原則」を発表し,GLICの取締役会には経験のある経営者のみを任命すること,取締役会に占める女性の比率を最低でも30%とすること,ESGに対する市場の需要に対応できるようにするため,GLICの投資戦略にESGモニタリングを含めることなどを提言した。

12月にアンワル新政権でも入閣し国際貿易産業相に就任したザフルル氏は,就任早々,「産業界のESGに関する国家フレームワーク」を策定することを表明している。ザフルル国際貿易産業相は「(同省は)ESGを重要なテーマと位置づけ,ESG慣行の非遵守によるダウンサイドリスクを最小化する一方で,ESG関連の機会を最大限に取り込むことを目標とする」と,マレーシア政府がESGを重視する理由を端的に述べている。

ESG慣行を遵守しないリスクは,すでに顕在化している。ゴム手袋大手のスーパーマックス社は,外国人労働者の強制労働を理由として2021年10月にはアメリカ政府に,2022年1月にはカナダ政府に契約を打ち切られていた。同社はこれと前後して,自主的な最低賃金の引き上げを行い,退職した外国人労働者も含めて解決金を支払っている。

2月には,穀物メジャーの一角である米カーギル社が,やはり強制労働を理由としてサイムダービー・プランテーション社からのパーム油の調達を停止した。サイムダービー社は持続可能性に関する基準を満たしたパーム油の生産者としては世界最大であると報じられているが,それでもこうした措置をとられたことになる。マレーシア政府は3月に,マレーシア独自の持続可能なパーム油認証制度である「マレーシア持続可能なパーム油」(MSPO)基準を2013年以来9年ぶりに改訂し,「MSPO 2022」を発表した。2024年1月以降は,旧MSPOの認証を受けている企業も,より厳しいMSPO 2022の認証を再度取得する必要がある。

国有石油会社ペトロナスも,脱炭素への動きを加速させている。その背景には,世界的なESG重視の流れのなかで,石油会社への風当たりが急速に強まっていることがある。ペトロナスは2020年10月に,2050年までに同社の炭素排出量をゼロにする目標を発表していたが,2022年には具体的な2つの動きがあった。ひとつは,11月1日に2050年に炭素排出量ゼロを目指すための具体的なタイムスケジュールを発表したことである。短期的には,2024年のマレーシア国内での同社の温暖化ガス排出について上限を4950万トンに設定,2025年までに同社の天然ガス生産においてメタンガスの排出量を50%削減することとした。続いて,温暖化ガス排出量を2030年までに2019年の水準から25%削減することを掲げている。また,2022〜2026年にかけて設備投資の20%を脱炭素のために充てることを発表した。

もうひとつは,同社の天然ガス・新エネルギー部門をGENTARI社として独立させたことである。GENTARIはgeneration(発電)とマレー語のlestari(持続可能な)を結びつけた造語で,9月16日に正式に独立した企業として発足した。同社は,2030年までに30〜40GWの再生可能エネルギーによる発電能力,120万トンのグリーン水素生産,2万5000基のEV充電設備を設置してアジア太平洋地域で10%のシェアを獲得することを目指すと発表した。

これまで,マレーシア政府は次世代の自動車を「エネルギー効率的自動車」(Energy Efficient Vehicle: EEV)と呼び,ハイブリッド車や高燃費ガソリン車も含めて特定の方式に固執せずに補助を行ってきた。しかし,2022年,EEVのなかでもEVを特に優遇する姿勢を明確にした。2022年予算ではEVの完成車は2023年まで,CKD(Complete Knock Down,部品にまで完全に分解された状態の自動車)については2025年まで関税なしで輸入できるなどの措置が講じられた。8月に政府は公用車を順次EVに切り替えると発表し,12月には国際貿易産業省が2030年に国内自動車販売台数の15%,40年までに38%をEVにすること,2025年までに1万基の充電設備を設置することなどEVについての普及目標を発表した。

前述のペトロナスだけでなく,国営電力会社テナガ・ナショナル社も8月にはEVの普及に向けて国民車メーカーと協議中であると明かし,10月にはテナガ子会社とマレーシア・グリーンテックコープが,150万リンギを投じてショッピングモールや高級ホテルにEV充電設備100カ所を整備すると発表した。また,国民車メーカーのプロトンは,独スマート社とマレーシア・タイでのスマート社のEVを販売する覚書を1月に結んだ。さらに,11月には2027年までにEVの生産を開始することを表明するなど,自動車メーカーの側でもEVシフトが始まっている。

(熊谷)

対外関係

RCEP,CPTPPへの批准,IPEFへの参加

10月5日,マレーシアはCPTPPに批准した(11月29日発効)。マレーシアは環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の参加国として2018年3月にアメリカを除く11カ国によるCPTPPに署名していた。しかし,2018年5月に政権交代が起こり,TPPに批判的であったマハティール首相が就任すると,その後,CPTPPについては「たなざらし」にされるかっこうとなった。一方で,地域的な包括的経済連携(RCEP)については,CPTPPより2年半遅れて2020年11月に署名されたが,2022年3月18日にCPTPPより早く発効した。

マレーシアがRCEPにより積極的であった理由としては,マレーシアにとって大きな輸出市場である中国が加盟国に含まれていることが大きい。一方のCPTPPについては,同じくマレーシアにとって大きな輸出市場であるアメリカ市場へのアクセス改善をあてにして,ブミプトラ政策や国営企業についていくつかの譲歩を行ったにもかかわらず,アメリカが脱退したことでメリットとデメリットのバランスが崩れたことが「たなざらし」につながったと思われる。

マレーシア政府のCPTPPへの後ろ向きの態度が急変したのは,2021年9月に中国がCPTPPへの加盟申請をしたためである。それまでほとんど動きがなかったマレーシア政府も,中国の加盟申請後は,国際貿易産業省を通じてCPTPPのメリットを訴えるキャンペーンを始めるなど,批准に向けて一気に動き出した。前述の雇用法改正も,CPTPPに批准するために必要な労働関連ルール整備の一環であった。

マレーシアはまた,5月23日に発表されたアメリカが主導するインド太平洋経済枠組み(IPEF)立ち上げの13カ国共同声明にも参加するなど,自国にとってメリットになりそうな枠組みには積極的に参加していく姿勢を示している。

スールー国王の子孫との争い

2月28日に,8人の「スールー国王の子孫」からの申立を受けて仲裁手続にあたっていたスペイン人の仲裁人が,マレーシア政府に対して149億2000万米ドルの支払いを命じた。この仲裁判断を受け,スールー国王子孫の代理人がペトロナスの海外子会社の接収を試みたことから,マレーシア政府は仲裁地であるフランスの裁判所に仲裁判断の差し止め請求をするなど対応に追われた。

スールー王国は,15世紀から20世紀初頭にかけてボルネオ島の東に位置するスールー諸島に存在したイスラーム王国である。現在のサバ州の一部は,かつてはスールー王国の支配下にあった。だが1878年にオーストリアの香港駐在領事だったオーヴァーベックとイギリス商人のデントがスールーのスルタンと条約を結び,年5000ドルでボルネオ島の領地に関わるすべての権利・権限を譲り受けた。これがイギリスの北ボルネオ進出の始まりとなる。デントはオーヴァーベックから事業を買い受けた後,1881年に北ボルネオ特許会社を設立し,同社が北ボルネオの統治権を保有した。北ボルネオは1887年にイギリスの保護領となり,第二次世界大戦後に直轄植民地となった後,1963年にマレーシアのサバ州になる。

こうした歴史的経緯があったことから,1963年以降マレーシア政府はフィリピン政府を通じて,スールーのスルタンの子孫に対し年間5300リンギを支払ってきた。ところが,2013年2月に「スールー王国軍」を自称する200人あまりの武装集団がフィリピンからサバ東岸部に侵入し立てこもる事件が発生したため,当時のナジブ政権がスールーのスルタンの子孫に対する支払いを一方的に打ち切った。「スールー王国軍」とマレーシア側の治安部隊との衝突ではマレーシア側にも犠牲者が出ており,国軍が大規模な軍事作戦を行って侵入者を掃討する展開になった(『アジア動向年報2014』参照)。

支払い打ち切りを不服とするスルタンの子孫たちは,2018年にスペインで仲裁を申し立てた。要求額が巨額になったのは,スルタンの子孫側が1878年の条約で合意したのは割譲ではなく賃貸であったと主張し,マレーシア側の不履行による条約破棄に伴い,領地の所有権を譲渡する見返りとして現時点での価値に見合った額を求めたためである。

仲裁とは,当事者が合意のうえで紛争についての判断を中立的第三者である仲裁人に委ねる紛争解決制度である。マレーシア政府は,当然のことながら本件を仲裁人の判断に委ねることに合意していない。しかしスルタンの子孫側は,1878年条約に含まれている,「スルタンおよびその子孫とオーヴァーベックらとの間で紛争が生じた際は,当該案件を駐ブルネイ英領事に委ねることに合意する」という文言が事前の仲裁合意に相当すると主張している。2月28日の仲裁判断は,スルタン子孫側の主張を認めて下されたものである。

仲裁判断がマレーシア側の主張を顧みず一方的に下されたからといって,政府はこれを放置するわけにはいかない。「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」の加盟国では,仲裁判断にもとづく強制執行が可能であり,マレーシアも同条約の加盟国だからである。この制度にもとづき,スルタン子孫の代理人はルクセンブルクで登記されているペトロナスの子会社を接収したと発表した。その直後に,フランスの控訴裁判所が仲裁判断の差し止めを求めたマレーシア側の訴えを認め,2023年1月にはルクセンブルクの裁判所がスルタン子孫側による接収を認めない判決を下したことから,まだ大きな損害は出ていない。しかし,マレーシア側には1878年条約にもとづく支払いを一方的に打ち切ったという過失があるため,何らかの代替策を用意しない限りスールーのスルタンの子孫たちとの争いはしばらく続くものと見込まれる。

(熊谷・中村)

2023年の課題

2022年11月の総選挙を経て発足したアンワル政権にとって,政治面で何より重要なのは安定性を確保することである。そのためには,(1)連立与党の結束を確立する,(2)有権者の支持を得る,という2つの課題をクリアする必要がある。2018年選挙後に発足したマハティール政権,ムヒディン政権,イスマイル・サブリ政権は,いずれもひとつ目の課題を達成できずに瓦解した。アンワル政権の場合,2022年に下院議員の党籍変更規制が導入されたため,以前よりひとつ目の課題をクリアしやすい環境にある。2023年により重要性をもつのは2つ目の課題であろう。年内中に,クランタン,トレンガヌ,クダ,ペナン,スランゴール,ヌグリスンビランの6州で州議会選挙が実施されるからである。もしスランゴールやヌグリスンビランでPNの躍進を許すことになれば,中央の政権も揺らぎかねない。

一方,経済面で2023年に注目されるのは,新政権が2023年予算を政権交代前のものからどの程度変更し,独自色を出してくるかである。アンワル首相が就任直後から物価高騰対策を最優先にする姿勢をみせたことからも,近年のマレーシア政府の所得分配重視のスタンスは,アンワル政権でも継承されると考えられる。

マレーシア経済は近年になく好調であった2022年から,2023年には減速することが予想される。ひとつの要因はコロナ禍の影響から完全に回復し,経済成長率算出の比較対象となる2022年のGDPが上昇したことであり,もうひとつは好調な輸出に陰りが見られることである。資源価格も落ち着きを見せており,国内の物価上昇を抑制させるメリットがある一方で,2022年のようにペトロナスの記録的な収益を財政面のサポートとして期待することはできない。

ただ,マクロ経済的には景気は一旦ピークを越えるものの大きく悪化する兆候はなく,新政権は当面,経済面では特段難しい舵取りが必要とされる状況にはない。財政基盤を安定させるために,第2次マハティール政権下で廃止された物品サービス税(GST)の再導入を行うかが議論になる可能性もあるが,アンワル首相もGST廃止を進めた当事者であり,低所得層に配慮する姿勢とあわせても,早急にGSTを再導入する流れにはならないだろう。

対外関係では,2022年11月に就任したばかりのアンワル首相がどのような方針を示すかが注目される。欧米諸国やイスラーム世界に知己が多いといわれるアンワル首相だが,東アジア諸国,とりわけ中国に対してどのようなスタンスをとるのかが関心を集めることになろう。

(中村:地域研究センター)

(熊谷:開発研究センター)

重要日誌 マレーシア 2022年
   1月
3日新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの国家回復計画,サラワク,クランタン両州がフェーズ3から移行し,すべての州が最終段階のフェーズ4に。
13日1MDBスキャンダルに関連し,マレーシア政府はKPMG社から3億4092万リンギの和解金を受領したと財務省が発表。
20日マハティール元首相が入院。1カ月間で3度目。一時は集中治療室に入ったが,2月5日に退院。
22日首相,教育省傘下の学校教員の政治活動を認めると発表。即日発効。
23日ジョホール州議会が解散。
24日バンク・ネガラ,金融セクターブループリント(2022〜2026年)を発表。金融のデジタル化などを目指す。
24日ザヒドUMNO総裁がアカルブディ財団に対する背任や収賄,資金洗浄の被告となっている裁判で,検察側立証の妥当性が認められ被告側に反証が命じられる。
25日ジョホール州議会選挙の選挙区配分に関するUMNOとPASの交渉が決裂。
   2月
4日中東特使のハディ・アワンPAS総裁がカタールでアフガニスタンのターリバーン政権代表と会談。ハディはアフガニスタンに対する支援を約束。
9日クアラルンプール高裁,1MDBと関連会社の申請を受け,ナジブ元首相に資産凍結命令を下す。ナジブによる銀行からの現金引き出しを月額10万リンギまでに制限。
14日統計局,2020年人口・住宅センサスの結果を公表。マレーシアの人口は3244.7万人で2010年の2748.5万人から平均年率1.7%で増加。
16日サラワク州議会,執政長官の肩書をChief MinisterからPremierに変更する州憲法改正案を可決。
23日COVID-19の新規陽性者数が3万1199人となり過去最高を更新。3月3日にはピークとなる3万2467人を記録。
26日首相,ロシアとウクライナの紛争激化に懸念を表明するも,ロシアを非難せず。
26日首相,国際会議に出席する政府代表に対し,マレー語を優先的に用いるよう指示。
28日パリの仲裁裁判所で,マレーシア政府に対しスールー王国国王の子孫に149.2億米ドルの支払いを命じる裁定が下ったとスペインのメディアが報じる(本文参照)。
   3月
2日外務省と司法長官府が共同声明を発表し,マレーシア政府にスールー国王子孫への支払いを命じた裁定は無効と主張。
10日ルックイースト政策40周年で安倍晋三元首相が特使として来訪(~13日)。
12日ジョホール州議会選挙投開票実施。国民戦線(BN)が56議席中40議席を獲得。
15日UMNO初代総裁オン・ジャファルの孫のオン・ハフィズ・ガジがジョホール州首相に就任。
18日マレーシアで地域的な包括的経済連携(RCEP)が発効(本文参照)。
19日首相,5月1日より最低賃金を現在の月額1200リンギから1500リンギに引き上げると発表。4月27日には,従業員5人未満の企業は翌年1月1日からの実施と発表。
19日UMNO年次総会開催。会場では議会解散を求め首相を非難する怪文書が出回る。
20日DAPの書記長がリム・グアンエンからアントニー・ロークに交代。
21日マレーシア,強制労働の防止などを定めた国際労働機関(ILO)の「1930年の強制労働条約の2014年議定書」に批准。世界で58カ国目,ASEANではシンガポールに次いで2カ国目。
22日マレーシア・パーム油委員会(MPOB),持続可能なパーム油の新しい認証基準となるMSPO 2022を発表。2024年1月1日以降は現在の認証保有企業も再認証が必要となる。
22日総額84億リンギの補正予算が下院を通過。主に2021年分の補助金増加にともなう資金不足を穴埋めするため。
   4月
1日マレーシア,COVID-19との共存を目指す「エンデミック期」への移行を開始。陽性者・濃厚接触者の隔離期間短縮やマスク着用義務の一部緩和など。
1日マレーシア=シンガポール間の陸路国境再開。必要回数のワクチン接種者や12歳以下の子どもは検査や隔離無しで通行が可能に。
1日首相,インドネシア訪問。ジョコ大統領と会談し,家政婦の採用と保護に関する覚書に調印。
3日ラマダン入り(~5月1日)。
12日アンワルPKR総裁が無投票で再選されることが決定。
14日UMNO最高評議会,イスマイル・サブリ現首相(党副総裁補)を次期総選挙後の首相候補とすることを決定。
20日クダ州の入国管理局で拘束されていた不法滞在者(ロヒンギャ難民)528人が脱走。357人は再勾留されたが,6人は交通事故で死亡。
24日穀物メジャーの米カーギル社,外国人労働者の強制労働問題を理由にサイムダービー社からのパーム油の購入を2月25日以降停止したと報道される。
30日ムスタパ首相府相,「マレーシアの家族の極度貧困解消プログラム」(BMTKM)を通じて2025年末までに極度の貧困を解消すると発表。
   5月
1日外相,ASEANに対し,ミャンマーの国民統一政府に非公式に関与するよう提案すると発言。3日にミャンマーの軍事政権がこの発言を非難する声明を発表。
1日従業員5人以上の企業を対象に最低賃金を1500リンギ/月に引き上げ(本文参照)。
8日ザヒドUMNO総裁,次期総選挙でPASとは共闘しないと発言。
11日バンク・ネガラ,政策金利(OPR)を1.75%から2.0%に0.25ポイント引き上げ。コロナ禍からの経済回復を理由に。
15日UMNO特別総会開催。役員選挙規定を改定(本文参照)。
17日ウィー運輸相,マレーシアとタイがクアラルンプール=バンコク間の高速鉄道(HSR)について検討する特別委員会の設置に合意したと発表。
23日首相,6月1日より鶏肉とニワトリの輸出を一時的に禁止すると発表。国内の鶏肉不足への対応として(10月11日に解除)。
23日首相訪日(~5月28日)。
23日マレーシア,アメリカが主導するインド太平洋経済枠組み(IPEF)立ち上げの13カ国共同声明に参加。
25日マレーシア・リンギ,史上初めて対シンガポール・ドルで3.2台に下落。
29日PKR役員選挙結果発表。副総裁選ではラフィジ・ラムリ前副総裁補が初選出。
   6月
7日ナジブ元首相,クアラルンプール高裁が下したSRC Internationalに関わる汚職容疑での有罪判決の棄却を連邦裁判所に求める。担当判事に利益相反があったと主張。
7日宗教問題担当首相府相,ムスリムに対してクアラルンプール日本人会主催の盆踊り大会に参加しないよう求め物議を醸す。
16日ジョホールで,州議会選挙の被選挙権を21歳から18歳に引き下げる法案にスルタンが拒否権を発動。
20日財務相,乗用車の売上サービス税(SST)免除は6月末で終了するが,予約済みの車については2023年3月末迄に登録すれば免除を受けられると発表。
29日政府の物価対策チームが発足。インフレに関する問題に対処するための戦略を立案し,省庁間の調整を行う。
   7月
2日ムヒディンBersatu総裁,数日前に首相と会談し,同党から副首相を任命するよう求めたことを明らかにする。
5日首相,マルチメディア・スーパーコリドー(MSC)の後継となるMalaysia Digitalを発表。
12日スールー王国国王の子孫がルクセンブルクの執行人を通じてアゼルバイジャンと南コーカサスのペトロナス子会社を接収したと報じられる(本文参照)。
13日インドネシア,二国間合意への違反があるとしてマレーシアへの労働者派遣を凍結(28日に8月1日より凍結解除で合意)。
18日人的資源省と内務省,15カ国からの外国人労働者を製造業,建設,サービスの3部門で許可することで合意。
22日国際貿易産業省,製造業企業でマレーシア人と外国人労働者の雇用比率を最低限80:20にするガイドラインの遵守期限を2022年末から2024年末に延期することを通知。
28日下院議員の党籍変更を規制する憲法改正案が下院で可決(本文参照)。
   8月
2日アメリカのペロシ下院議長来訪。米下院議長の来訪は史上初。
5日PNが首相支持の撤回を検討中との報道。翌日首相は,支持撤回の党があれば解散総選挙を実施すると発言。
5日控訴裁,海外で生まれた外国人の父とマレーシア人の母の子への国籍付与を認めた一審判決を覆す判断を下す。
10日政府は2023年より公用車を電気自動車(EV)に順次切り替えることを発表。
14日モハマドUMNO副総裁,次期総選挙でBNが勝てなければ退任すると言明。
16日連邦裁,判事の利益相反を指摘し裁判のやり直しを求めたナジブの訴えを棄却。
16日ブーステッド海軍造船の元社長が背任容疑で起訴される。同社は2014年に沿海域戦闘艦(LCS)6艦の建造を海軍から請け負ったが,まだ1艦も完成していない。
23日連邦裁がナジブ元首相の上告を棄却し,禁錮12年,罰金2.1億リンギの刑が確定。元首相は即日収監された。
26日人的資源相,産業界の反発を受けて改正雇用法の適用を9月1日から2023年1月1日に延期することを発表。
27日UMNOが緊急集会開催。ザヒド総裁は早期解散総選挙とナジブ恩赦を要求。
   9月
1日政府,富裕層を対象にしたプレミアム・ビザ・プログラム(PVIP)を発表。年収48万リンギ以上などの条件で,最長20年まで,5年毎に更新。
5日国王,懲戒と恩赦の権限は恣意的に用いてはいけないと発言。
16日国有石油会社ペトロナスのクリーンエネルギー子会社GENTARI社が正式発足。
19日政府,国家エネルギー政策(2022~2040年)を発表。脱炭素に向けた2040年までの数値目標を設定。
23日シャーアラム高裁,海外ビザシステムに関わる収賄容疑で起訴されたザヒドUMNO総裁に無罪判決を下す。
24日ムヒディンPN議長,総選挙の主要敵はBNと言明。PASから異論が出る。
  10月
2日ザヒドUMNO総裁,PASに対しUMNOとBersatuのどちらと選挙協力するか選ぶよう迫る。
5日マレーシア,包括的・先進的TPP協定(CPTPP)に批准。2018年3月の署名から4年半(本文参照)。
5日アンワルPKR総裁,年内解散ならPH政権の3州は同時選挙にはしないと発言。8日にはハディPAS総裁が同様の発言。
5日PN所属閣僚12人が洪水リスクのあるなかでの選挙を認めぬよう国王に書簡で請願。
5日下院議員の党籍変更規制が発効。
7日政府,2023年予算を上程(本文参照)。
7日政府,2022年の経済成長率見通しを6.5〜7.0%に上方修正。従来は5.4〜6.3%。
7日国連人権委員会のウイグル問題に関する決議をマレーシアは棄権。
10日連邦議会解散。
13日PAS,総選挙でBersatuと連携することを決定。これを受けてザヒドUMNO総裁は,BNは単独で選挙に挑むと言明。
14日サバ人民連合(GRS),総選挙でBNとの協力を継続することを確認。
20日マレーシア・リンギがアジア通貨危機時を超えて史上最安値を記録。1ドル=4.728リンギ(本文参照)。
24日首相,国連総会で演説。常任理事国の拒否権の廃止などを主張。
  11月
1日ザヒドUMNO総裁,BN公認候補に対し総選挙に勝ったらザヒドを首相に推すとの宣誓書を書かせたとの噂を否定。
3日バンク・ネガラ,OPRを0.25ポイント引き上げて2.75%に。5月11日以降4回目の利上げ(本文参照)。
7日マハティール元首相,アンワルはザヒドと組んで首相になろうとしていると主張。アンワルはこれを否定。
14日クアラルンプール高裁,政府が1MDB関連資金として差し押さえた8000万リンギ相当の現金・宝石類の没収の申立を棄却。不法行為で取得した資産と立証できなかったとの判断。司法長官府は12月1日に控訴しない方針を表明。
19日第15回総選挙投票日(本文参照)。
20日ジョホール州首相,ザヒドUMNO総裁は退任すべきと主張。
21日ペラ州でBNとPHの連立が成立。
22日国王,PHのアンワル,PNのムヒディンと会談し挙国一致政府の形成を提案。
24日国王,各州スルタンとの協議の後,PH代表のアンワルPKR総裁を首相に任命。
27日アンワル首相,国家行動委員会・生活費特別会議を主催。物価対策最優先と発言。
27日パハン州でBNとPHの連立政権成立。
  12月
2日アンワル内閣発表。ザヒドUMNO総裁が副首相に任命される。各省副大臣は9日に発表。
7日候補者死去で延期された下院パダンスライ選挙区とパハン州議会ティオマン選挙区の投票実施。
8日政府,EV普及目標を発表。2030年に販売数の15%,40年までに38%。2025年までに1万基の充電装置の設置を目指す。
10日サバPPBM代表のハジジ州首相,自身と党員の離党と新党結成の意向を表明。
13日BN政権のマラッカ州でPHが与党に加わる。
16日連立与党の5党派がアンワル首相支持に関する合意文書に調印。
19日下院,首相信任案を可決。
20日2023年予算までのつなぎとして,1077億リンギの支出を可能にする「ミニ予算」が可決。
27日従業員5人未満の企業への最低賃金の適用,2023年1月1日から同年7月1日に延期。

参考資料 マレーシア 2022年
① 国家機構図(2022年12月末現在)

(注)*連邦元首,州元首に関わる訴訟を取り扱う。

② アンワル・イブラヒム内閣名簿(2022年12月末現在)
② アンワル・イブラヒム内閣名簿(2022年12月末現在)(続き)
③ 州首相名簿

(注)②と③の名簿の[ ]内は所属政党連合-所属政党。略称は以下のとおり。

≪政党連合≫ BN(Barisan Nasional):国民戦線,GRS(Gabungan Rakyat Sabah):サバ人民連合,GPS(Gabungan Parti Sarawak):サラワク政党連合,PH(Pakatan Harapan):希望連盟,PN(Perikatan Nasional)国民同盟。

≪政党≫ Amanah(Parti Amanah Negara):国家信託党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,MCA(Malaysian Chinese Association):マレーシア華人協会,MIC(Malaysian Indian Congress):マレーシア・インド人会議,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党,PBS(Parti Bersatu Sabah):サバ統一党,PDP(Progressive Democratic Party):進歩民主党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党,SUPP(Sarawak United People’s Party):サラワク統一人民党,UMNO(United Malays National Organisation):統一マレー人国民組織,UPKO(United Progressive Kinabalu Organisation):統一進歩キナバル組織,Warisan(Parti Warisan):伝統党。

主要統計 マレーシア 2022年
1 基礎統計

(注)1)2019年以前は2010年センサスに基づく推計値。2020年以降は2020年センサスに基づく改定値。2)暫定値。3)2022年第4四半期の値。4)年平均値。

(出所)人口:Department of Statistics Malaysia, Current Population Estimates, Malaysia, 2021および2022。労働力人口,失業率,消費者物価上昇率,為替レート:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2023年1月号。

2 連邦政府財政

(注)1)暫定値。2)+は資産の取り崩しを意味する。

(出所)2022,2021年:Ministry of Finance, Fiscal Outlook and Federal Government Revenue Estimates 2023。2020年以前:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2022年12月号。

3 支出別国民総所得(名目価格)

(出所)Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2023年1月号。

4 産業別国内総生産(実質:2015年価格)

(注)1)購入者価格表示。

(出所)表3に同じ。

5 国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号については(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。1)特別引出権,IMFポジション,金および外貨。

(出所)表3に同じ。

6 国・地域別貿易

(注)輸出は本船渡し条件(FOB)価格,輸入は運賃保険料込み条件(CIF)価格での表示。1)2019年まではEU28カ国。2020年以降はEU27カ国+イギリス。

(出所)表3に同じ。

 
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