アジア動向年報
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各国・地域の動向
2022年のインドネシア G20首脳会議の成功と堅調な経済回復
川村 晃一(かわむら こういち)水野 祐地(みずの ゆうじ)
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2023 年 2023 巻 p. 377-406

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2022年のインドネシア

概 況

2022年には国会で多くの重要法案が可決された。とくに植民地期に制定された刑法典の改正は政府や法曹関係者の悲願が成就したものだったが,市民的自由を制限する条項が多く含まれていたため,市民社会からは強い批判が出された。パプア州と西パプア州を分割して4つの州を新設する法案もわずかな審議で可決された。前年の特別自治法の改正に続き,分離独立運動を抱えるパプアの問題を中央政府主導で解決しようとする動きに対しては,地元から強い反発も出ている。1年を通じて国民の耳目を集めたのが,相次いだ警察の不祥事であった。サッカースタジアムで135人が死亡した事故は,警察による不適切な対応が原因だったと強く批判された。2024年の総選挙・大統領選挙に向けた動きも活発化した。大統領の任期延長や選挙延期の動きが表面化したが,主要政党間では大統領候補擁立に向けた駆け引きが続いた。

新型コロナウイルス対策としての活動制限の緩和による内需回復や,国際商品価格の高騰による資源輸出額の増大により,国内総生産(GDP)成長率は5.31%を記録し,世界各国が景気減速に直面するなかで高いパフォーマンスを示した。好調な経済による税収増加で,コロナ禍の財政出動以前の水準であるGDP比3%以内の財政赤字を早くも達成したが,補助金付き燃料価格引き上げによる痛みを伴った。金融政策では,インフレ率の上昇に対応し,8月以降あわせて5回の利上げが行われた。また,金融部門発展強化法案が可決され,投資促進に向けた取り組みが前進した。貿易政策では,内外価格差の拡大に伴う輸出増が国内供給減を招き,石炭とパーム油の一時的な輸出禁止措置を迫られたほか,未加工ニッケルの輸出禁止をめぐる世界貿易機関(WTO)訴訟で敗訴したことが課題となった。

ロシアによるウクライナ侵攻によって先進国間の対立が深まるなか,政府は主要20カ国・地域(G20)首脳会議議長国として難しい立場に立たされた。そのなかでも政府は中立外交を貫き,外交当局による奔走の甲斐もあって首脳宣言の採択を成し遂げた。同時に,過去最大規模の気候変動対策融資プログラムを取りつけるしたたかさもみせつけた。

国内政治

刑法典の全面的な改正が実現するも市民社会は強く反発

12月6日,国会は刑法典(KUHP)の改正案を全会一致で可決した。現行の刑法典は,1915年にオランダ植民地政府が制定したものを,独立直後の1946年に最低限の修正を加えただけでそのまま適用してきたものであった。そのため,植民地遺制でもある現行の刑法典を改正し,インドネシア人自身の手による新しい刑法典を制定することは,政府や法曹関係者にとって悲願であった。新しい刑法典制定の動きは1960年代からみられたが,なかなか進展することがなかった。

ところが,ジョコ・ウィドド(通称,ジョコウィ)政権下で刑法典改正に向けた議論が急速に進んだ。2019年9月には国会と政府が改正案の内容に合意し,本会議での採決直前にまで至ったが,改正案のなかに市民的自由を制限する内容が多く含まれていたため市民社会組織などから強い懸念の声があがり,学生団体などが大規模なデモを組織して国会での採決に反対した。世論の強い反発を前にジョコウィ大統領が審議延長を国会に要請したことで,審議はいったん見送られた。

2020年以降,政府は批判が寄せられた条文の修正を行うとともに,法案の内容を広く国民に周知するために国会内だけでなく各地で公聴会を開くなど,法案成立に向けた環境を整備してきた。それでも改正案の内容に市民社会組織や報道機関などが反対したが,政府と国会は批判に十分応えたとして採決を強行した。

この刑法典改正は,海外メディアでも大きく取り上げられた。海外で関心を呼んだのは,婚姻関係にないカップルの性交渉や未婚のままの同居が禁止された点であった(411条,412条)。バリ島などの有名リゾート地には毎年多くの外国人観光客が訪れるだけに,彼らが刑事罰の対象となるのではないかと懸念されたからである。実際のところは,これらの容疑を通報できるのは配偶者や子供など近親者に限られるため,滞在や観光で訪れる外国人に大きな影響が出ることはないとみられる。一方,国内では,慣習法に則って生活している少数民族の人々や貧困層のカップルで公的な婚姻届を出さないまま夫婦として生活している人々の存在を無視していることが問題点として認識されている。また,この条項によって性犯罪の被害者が犯罪者とされてしまう恐れも指摘されている。

この条項以上に国内で批判の声があがったのは,市民的自由の制限につながりかねない条文が依然として残された点であった。国家イデオロギーに対する罪を定めた188〜189条では,スハルト体制下の1966年から禁止されている共産主義だけでなく,建国5原則パンチャシラに反する「その他の思想」についても広めることが禁止された。ここでは「その他の思想」が何かは明示されておらず,権力者による恣意的な運用により思想の自由が侵害される恐れがある。218〜220条で規定された正副大統領に対する名誉毀損罪や,240〜241条に規定された政府・国家機構に対する侮辱罪,263〜264条に規定された偽情報の拡散に対する罪についても,政府批判が取締りの対象になりうるという点で表現の自由や報道の自由を侵害する恐れがある。256条で示威行為やデモの実施に事前の届け出を義務づけた規定も,政府を批判する市民の行動を抑えつけることにつながりうる。ジェンダー平等の面でも,堕胎や避妊具の推奨行為が禁止された条項(408〜410条)や中絶(性暴力の被害者を除く)が禁止された条項(463〜465条)の問題が指摘されている。このほか,「社会に生きる法にもとづく罪」に関する条項(597条)が設けられ,慣習法において禁止される行為が刑罰の対象となることが定められた。この条項についても,慣習法という名の下で女性や弱者に対する差別的な地方条例などが制定されることにつながりかねないとの懸念が示されている。

改正された刑法典は,2年以内に実施規定が制定された後,制定日(大統領が署名した2023年1月2日)から3年後に施行されることになっている。政府はこの間に国民への周知を図るとともに,法執行部門など関係諸機関の間での調整を進める予定である。刑法というきわめて専門的事柄であり,一般国民の間で問題の所在が十分に理解されていないため,強い反発の声はあがっていない。一方,同法成立に反対していた国内の市民社会組織などは違憲審査請求の意向を表明しており,施行までの間に憲法裁判所がどのような法的判断を下すのか注目される。

パプア州・西パプア州が分割され4州が誕生

1960年代から分離独立運動が続いていたパプアに対して,1998年の民主化後の中央政府は州に特別自治の権限を付与することで国家統合を維持しようとしてきた。しかし,2019年頃から分離独立運動が再び活発化して治安情勢が悪化したこともあり,中央政府は2021年に政策を転換し,パプア州特別自治法を改正した。同改正法では,州の権限が縮小され,かわって中央の権限が強化されたが,自治体の新設についても州政府およびパプア先住民の代表者からなるパプア人民評議会(MRP)の許可なく中央政府と国会の同意のみで実施できるようになった。

この改正をうけ,パプア州と西パプア州を分割する動きが加速した。2021年12月頃から国会と政府の間で新州設置に関する議論が始まり,翌年の4月12日にパプア州を分割して3州を新設する法案が議員立法で国会に上程された。同法案は6月30日に可決成立し,パプア州から中パプア州,山岳パプア州,南パプア州が分割されて新設されることが決まった。さらに,7月7日には西パプア州を分割して1州を新設する法案が議員立法で国会に上程され,11月17日に可決成立した。その結果,西パプア州から南西パプア州が分割されて新設されることになった。州分割を政府・国会が急いだ背景には,2024年の総選挙・大統領選挙までに州を設置し,新自治体にもとづく選挙区を設置したいという思惑があった。

中パプア州,山岳パプア州,南パプア州は11月11日に,南西パプア州は12月9日に正式に発足し,内相によって知事代行が任命された。通常,新しい自治体を設置する場合は,地方行政法の規定に従って3年間の準備期間が設けられるが,このパプア4新州については特別自治法にもとづいて即時に設置された。正式な州知事は2024年11月に行われる統一地方首長選で選出されるが,2026年までは中央政府が自治体行政への支援を行うことになっている。

州の境界は,パプアの主要なエスニック集団の分布に沿って引かれた。中央政府は,州分割の目的として,国内の他地域に比べて大きく立ち遅れた開発の促進,パプア沿岸部と山岳部の格差の解消,行政サービスの改善,そして独立運動の沈静化と治安の回復をあげている。しかし,法案の審議プロセスに参加できなかったパプア人民評議会が州分割に反対したほか,現地の代表者や有識者からは,教育レベルが相対的に低いパプア出身者が自治体の政治職や行政職につけず経済的格差がさらに広がる可能性や,軍のプレゼンスがますます大きくなる危険性を指摘する声があがった。これに対して政府は,新州設置はパプア代表者が要望したものであり,ほとんどの住民は分割に賛成しているとして反対の声を無視した。

こうした中央政府による強引な州分割は,これが初めてではない。2003年,当時のメガワティ・スカルノプトゥリ大統領が,パプア州を3つに分割し西イリアン・ジャヤ州(のちに西パプア州に改称)と中イリアン・ジャヤ州を新設する政策を強行した。経済利権の獲得を目論む現地エリートの支持を得た西イリアン・ジャヤ州は設置にこぎ着けたが,中イリアン・ジャヤ州では賛成派と反対派の間で武力衝突が発生し,州設置が延期されたままとなっていた。今回はそうした大きな混乱は発生していないが,独立運動を担ってきた自由パプア運動(OPM)の軍事部門である西パプア民族解放軍(TPN-PB)と治安当局との間では武力衝突が続いており,民間人にも多数の犠牲者が出ている。

野党不在の国会で重要法案が次々と可決される

2022年には重要法案が多く可決された。年内に国会で成立した法案の数は32(大統領の署名を経て年内に公布されたのは28)で,例年と比べてとくに多いわけではなかったが,上述の刑法典をはじめ審議が長期に及んでいた法案が可決されたり,政府・国会が重視していた法案が短期間で成立したりした。

長い審議期間を経てようやく制定されたのが,性暴力犯罪法(法律2022年第12号)と個人情報保護法(法律2022年第27号)である。この2法は,社会からの要請が強かったにもかかわらず,なかなか審議がまとまらなかった。性暴力犯罪法案は,2016年に国の独立機関である「女性への暴力に反対する国家委員会」とフェミニズム運動団体,イスラーム系女性宗教活動家らが草案を作成し,国会での成立が目指されてきたものである(当初の法案名は「性暴力排除法案」)。しかし,2019年総選挙・大統領選挙を前にイスラーム保守派の勢いが増すなか,各政党は法案審議に慎重になった。イスラーム保守派はこの法案を「家族の秩序を破壊する」「ジェンダー公正は西洋的思想でありイスラームの思想に反する」などと反対していたため,法案に賛成すれば「反イスラームである」と批判されると各政党が危惧したのである。選挙後も審議は滞ったままだったが,2021年後半に大学やイスラーム寄宿学校(プサントレン)内で多数の女生徒が教師から性暴力の被害にあっていたことが明らかになったことで,法案を店ざらしにしてきた政府・国会への非難が強まった。世論への対応を迫られたジョコウィ大統領が1月に早期の法案成立を目指すよう関係閣僚に指示して,ようやく審議がまとまった。

個人情報保護法は,草案に関する検討が2006年の段階ですでに政府内で始められており,2020年に法案が国会に上程されて審議が始まった。しかし,監督機関を管轄官庁の下に置くか独立とするかなど法案の内容をめぐって国会と政府の間で意見の対立が続き,審議がまとまらなかった。2022年に政府諸機関から大量の個人情報がハッキング攻撃によって漏洩した事実が発覚したことで,政府と国会が法案成立の緊急性を認識し,成立にこぎ着けたものである。議論となった監督機関は大統領直属とされたが,詳細は大統領令による規定に委ねられた。

他方,政府・国会が早期成立を図ったのが,首都法(法律2022年第3号),改正法令制定法(法律2022年第13号),パプア新設州の設置法(法律2022年第14〜16号,第29号),金融部門発展強化法(法律2023年第4号)である。首都法は,ジョコウィ大統領が最も力を入れている首都移転の根拠となる法律であるが,上程からわずか42日後に国会を通過した。この法律により,新首都の名前がインドネシア群島を表す古語からとった「ヌサンタラ」となることが正式に決まった。同時に,移転事業を管轄し,移転後は州政府としての機能を果たすことになるヌサンタラ首都庁が設置されることも規定された。

上程後3カ月で改正された法令制定法では,複数の法令を一括して改正する「オムニバス法」という形式が新たに規定された。法改正のきっかけは,2020年に制定された雇用創出法に対して2021年に憲法裁判所が違憲との判断を示したことであった。憲法裁判所の違憲判断の理由のひとつが,「オムニバス法」という形式がどこにも規定されていないという点だったことから,ジョコウィ政権の最重要法である雇用創出法の違憲状態を修正することが急がれたのである。

金融部門発展強化法は,金融に関する17本の法律を一括して改正した「オムニバス法」である。同法は全341条からなる大規模な法改正にもかかわらず,法案上程からわずか3カ月間の審議で国会を通過した(詳細は「経済」の項を参照)。

これまでインドネシアの国会では,法案の審議に長い時間をかけるのが通例であった。議会過半数を占める政党がなく多数の政党による連立政権が樹立されるなかで,与党内でも法案をめぐる意見対立が多いうえ,採決にあたって多数決ではなく全会一致が志向されるため,政党間での意見調整や法案の修正に多くの時間が費やされたのである。しかし,第2期ジョコウィ政権では,国会の82%を連立与党が占めていて野党の存在感はほとんどない。しかも,ジョコウィに対する支持率の高さを反映して,連立与党内からも大統領への異論がほとんど出されない状況にある。そのため,可決の見通しが立っていなかった法案が大統領の一声で成立するようになったり,政権と国会の思惑が一致している法案については実質的審議がほとんどされないまま可決されたりすることが増えている。

警察の不祥事が続く

これまでも警察官の関与した汚職事件がたびたび発覚するなど,警察は不祥事と無縁だったわけではないが,2022年は国民の耳目を集める不祥事や市民への不適切な対応が警察で相次いだ。

警察内部のスキャンダルとして現地メディアで連日報道されたのが,警察高官の自宅で発生した殺人事件であった。7月8日,フェルディ・サンボ国家警察職務治安局長の自宅で,部下のヨシュア・フタバラットが拳銃で撃たれて殺害されるという事件が発生した。当初は,サンボの妻に乱暴しようとしたヨシュアが別の部下との間で銃撃戦となり死亡したとされ,警察当局も早々に事件の幕引きを図ろうとした。しかし,事件の経過について多くの不審な点が指摘され,国民の間で警察に対する批判が高まった。ジョコウィ大統領はこうした世論の動向を無視することはできず,警察に捜査のやり直しを命じた。

再捜査の結果,この事件は実際にはサンボが主導し,部下である多くの警察官が関与した計画的な殺人だったことが明らかになった。しかも,事件の背景としてサンボの愛人問題や警察内部でのオンライン賭博への関与疑惑が浮上するなど,一大スキャンダルとして国民の高い関心を集め続けた。その後,事件の関係者は逮捕され,サンボも懲戒免職となった。

警察に対する批判が高まったもうひとつのきっかけが,10月1日に東ジャワ州マラン県のサッカースタジアムで観客135人が死亡した事故である。この日に行われていたプロサッカーリーグ1部のマラン対スラバヤの試合終了直後,地元のチームが敗北したことに興奮した多くのサポーターがフィールドになだれ込んだのに対して,警備にあたっていた警察が催涙弾を使用して混乱を鎮めようとした。しかし,催涙弾が観客席に向けて発射されたため,パニックとなった約4万2000人の観客が一斉にスタジアムの外に出ようとした。多くの観客が狭い出口に集中したために将棋倒しとなったり,鍵のかかった出口で押しつぶされたりするなどして多くの死傷者を出すことになったのである。

スタジアムでの催涙弾の使用は国際サッカー連盟(FIFA)の規定で禁止されており,現場での映像からも警察の対応が適切でなかったと,事故直後から強い批判がわき起こった。政府は,事故原因を調査するため独立の事実調査チームを設置した。その調査の結果,現場にいた3人の警察官が催涙弾の使用を指示したとして責任を問われるとともに,東ジャワ州警察本部長が更迭された。

これらの事件で警察に対する批判が高まったことをうけて,ジョコウィ大統領は,10月14日に全国の警察幹部約600人を大統領官邸に集め,警察のイメージを回復するため不正防止と事件の捜査に集中するよう訓示するとともに,派手な生活を控えるように求めた。ところが,その同じ日に,サッカースタジアムでの事件で更迭された東ジャワ州警察本部長の後任に任命されたばかりのテディ・ミナハサが麻薬の違法取引で逮捕されるという事件が発生した。テディが前職の西スマトラ州警察本部長の地位にあった時に,麻薬取引事件の捜査で押収した覚醒剤の一部を横領し,転売していたことが発覚したのである。その後も12月に東カリマンタン州で違法石炭採掘に警察が組織的に関与していた疑惑が発覚するなど,警察の信頼回復への道のりは遠い。

総選挙・大統領選挙へ向けた動きが活発化

次の議会選挙と大統領選挙は2024年2月14日に同時に行われる。投票日まで2年を切り,選挙の実施に向けた手続きが始まるとともに,大統領選に向けた政党間の駆け引きが激しくなった。

選挙の準備は,4月12日に中央選管にあたる総選挙委員会(KPU)の新委員7人と選挙監視を担当する国家機関である総選挙監視庁(Bawaslu)の新委員5人が就任して始まった。8月1日からは総選挙に参加する政党の登録と審査が行われた。総選挙委員会による審査を経て総選挙への参加が認められた政党は,登録申請をした40政党のうち18政党である(「参考資料」参照)。12月14日に発表された時点では17政党だったが,総選挙監視庁の裁定で信徒党の参加が認められて1政党が追加された。参加政党の数は,2019年総選挙時より2政党増えた。この審査プロセスでは,特定の政党の審査に手心を加えるよう中央選管から地方選管に対して圧力がかかっていたと報道されたが,真相は不明のままである。

選挙実施に向けた準備が進められた一方で,ジョコウィ大統領周辺や支持団体から3選の実現や選挙延期を求める動きがたびたび表面化した。2〜3月にかけては,民族覚醒党(PKB),ゴルカル党,国民信託党(PAN)といった連立与党の党首からも賛同する声があがった。国権の最高機関である国民協議会(MPR)が8月に開催されるのにあわせて,大統領任期を延長するために憲法を改正しようとする動きもあった。そうした動きを主導するグループは,長引いたコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によって遅れている経済回復を優先すべきだと主張して選挙延期を正当化しようとしたが,次の大統領を狙える候補者を抱える政党は同調しなかったし,国民世論の支持も得られなかった。

選挙が予定どおり実施される見込みが強まると,大統領候補擁立に向けた政党間の駆け引きが激しくなった。最初に動いたのは,国会第2党のゴルカル党であった。6月4日,同党は,イスラーム系の国民信託党,開発統一党(PPP)との協力を決め,「統一インドネシア連合(KIB)」を結成した。それに続いて8月13日,国会第3党のグリンドラ党とイスラーム系の民族覚醒党が大統領選での協力を約束し,「大インドネシア覚醒連合」の結成を発表した。ただし,両陣営ともこの時点では,誰を連合の正副大統領候補とするかは発表しなかった。一方,ナスデム党は10月3日,ジャカルタ首都特別州知事のアニス・バスウェダンを大統領候補として擁立することを宣言した。この動きには,野党の民主主義者党とイスラーム系の福祉正義党(PKS)が加わる意向を表明している。

こうした動きに唯一加わっていないのが,国会第1党の闘争民主党(PDIP)である。同党は,「20%以上の議席占有率または25%以上の得票率を有すること」という大統領候補擁立の要件を唯一単独で満たしている政党である。しかも,各種世論調査では常に人気トップを走るガンジャル・プラノウォ中ジャワ州知事を党員に抱えている。ただし,同党の動きが遅いのは,そうした有利な状況にあるからではない。同党の方針を決定するのは,メガワティ党首である。独立の父スカルノの長女であるメガワティは,自分の娘のプアン・マハラニ国会議長を擁立したいと考えているといわれる。しかし,世論調査でのプアンの人気は他の有力候補たちには遠く及ばず,立候補してもほとんど勝ち目がない。そのため,党内でも誰を擁立するかで意見が割れており,メガワティ自身も決定を先送りしている状況なのである。人気の高いガンジャルの擁立はゴルカル党を中心とした統一インドネシア連合が狙っているとも言われており,同党が誰を大統領候補に擁立するのかは大統領選の行方を大きく左右することになる。

(川村)

経 済

好調な資源輸出と内需回復で5.31%成長を達成

2022年のGDPの実質成長率は5.31%であった。ウクライナ危機により国際商品価格が前年に続いて高騰したことが,資源輸出国であるインドネシア経済には追い風となった。同時に,新型コロナ活動制限の緩和を受けた内需の回復が景気を下支えした。四半期ベースでみると,第1四半期は5.02%,第2四半期は5.46%,第3四半期は5.72%と上り調子であったが,第4四半期は民間消費と輸出の鈍化などの影響で5.01%に低下した。名目GDPは1京9588兆ルピアであった。家計消費が名目GDPに占める割合は51.87%で,伸び率は前年比4.93%増,寄与度は2.61%であった。投資(総固定資本形成)の割合は29.08%で,伸び率は前年比3.87%増,寄与度は1.24%であった。政府支出の割合は7.66%で,新型コロナ感染の落ち着きとともにコロナ対策支出が縮小したために伸び率は前年比4.51%減,寄与度はマイナス0.37%であった。財・サービスの輸出と輸入の割合はそれぞれ24.49%と20.90%であり,伸び率は前年比16.28%増,14.75%増となり,前年に続き高い伸び率を維持した。純輸出のGDP寄与度は0.81%となった。

国際収支では,経常収支が132億1617万ドルとなり,黒字幅はGDP比1%と前年の0.28%からさらに拡大した。財輸出は2925億ドル,財輸入は2298億ドルであり,貿易黒字は過去最高額となる626億8218万ドル(前年438億ドル)に達し,前年比43.09%増であった。非石油・ガスの輸出は2772億ドル,輸入は1979億ドルとどちらも過去最高額となった。品目別でみると,最も伸び率が大きい石炭(財輸出に占める割合18.6%)は前年比73.2%増,卑金属製品(同14.3%)は前年比で37.7%増加したが,パーム油(精製油を含む,同9.4%)は,後述する一時的な輸出禁止政策の影響もあって輸出額は前年比4.5%増にとどまり,輸出量は8.5%減少した。また,石油・ガスの輸出は153億ドル,輸入は439億ドルで赤字は286億ドルと前年の130億ドルから倍以上に膨れ上がった。このことが,後述する補助金付き燃料価格の引き上げにつながった。金融収支は89億1644万ドルの純流出であった。

投資調整庁(BKPM)によると投資実施額は1207兆2000億ルピアに達し,前年比で34%増加した。海外直接投資(FDI)実施総額は前年から44.2%と大幅に増加して456億ドルとなり,投資額全体の54.2%を占めた。上位投資国はシンガポール,中国,香港であった。分野別では,金属製品・非機械・設備産業(110億ドル,24%),鉱業(51億ドル,11%),化学・医薬品産業(45億ドル,10%)が上位を占めた。また,国内投資は552兆8000億ルピアと前年から23.6%の増加となった。上位の投資分野は,運輸・倉庫・通信(75兆ルピア,17%),住宅・工業団地・オフィスビル(66兆ルピア,12%),鉱業(63兆ルピア,11%)である。

消費者物価上昇率は,1月の2.18%から上昇を続け9月にはピークの5.95%に達し,通年では5.5%となった。失業率は5.9%と前年の6.5%から低下した。労働市場は回復基調にあるが,コロナ禍以前の5.0%までは戻っていない。貧困人口比率は9月時点で9.57%と前年の9.7%からわずかに改善したが,やはりコロナ禍以前の9.22%までは回復していない。

なお,新型コロナウイルスの感染状況は,前年ほど深刻化することはなかった。オミクロン変異株による短期的な感染の波が3回発生し,1〜2月のピーク時には1日あたりの感染者数が過去最多の約6万1000人まで増加した。しかし,その後は,ワクチン接種率の高まりやブースターワクチンの運用開始,感染拡大を通じた集団免疫の獲得により感染者数・死者数は抑えられた。政府は経済活動再開に向けて移動制限措置の解除を徐々に行い,2021年1月に始まった社会活動制限措置(PPKM)は最終的に2022年12月30日をもって完全に解除された。

財政規律の維持と補助金削減

2022年度の財政赤字は464兆ルピアとなりGDP比の2.38%にとどまった。財政赤字をGDP比3%以内とする2003年国家財政法の規定が,コロナ対策である国家経済復興プログラム(PEN)を支出するために,2020年より3年間撤廃されていた。その最終年度である2022年度の当初予算では財政赤字は4.85%とされていたため,3%上限内での財政運営を計画よりも早く達成したことになる。政府歳入は2626兆ルピア(暫定値,以下の決算関連の数値も同じ)となり,前年度比30.6%増で補正予算の目標額を16%上回って2008年度以来の最高水準に達した。それを可能にしたのは予想を上回る租税収入であり,税収は前年度比31.4%増,とくに法人税は経済回復を受けて71.7%増となった。国際商品価格上昇により鉱業部門の税収が2倍近くに増大したことに加えて,前年に施行された租税規則調和法に則って導入された付加価値税率の10%から11%への引き上げや租税特赦も税収の増加を後押しした。また,歳出は3090兆ルピアとなり,前年度比10.9%増で補正予算の99.5%を執行した。最終年度となるPENの投入実績は前年度比40%減の396兆7000億ルピア(執行率87%)となった。

財政規律を維持するうえで課題となったのが補助金支出である。2022年度の補助金総額は551兆ルピアとなりジョコウィ政権下で最大規模となった。とくに,ウクライナ戦争勃発後の原油価格高騰により,内外価格差を補填する石油燃料補助金が前年度比3倍となるなど,当初予算を大幅に超過した。そこで,政府は9月3日,8年ぶりとなる石油燃料補助金の削減を実施し,ガソリンおよび軽油を30%値上げした。その結果,8月に4.69%だったインフレ率は9月には5.95%へと大幅に上昇し,年内最高値かつ7年ぶりの水準となった。石油燃料価格の引き上げは市民の大きな反発を買い,全国各地の学生組織や労働組合だけでなく,ガソリン代が自己負担となるバイクタクシー配車アプリの運転手も大規模な抗議運動を展開した。ジョコウィ政権の支持率も,この直後に10ポイント近く急落した。政府は,物価上昇の緩和策として9月から4カ月の間,低所得者層に対して月15万ルピアの現金給付(総額12兆4000億ルピア)と16万人に対する月6万ルピアの賃金補助を実施し,地方政府に対しても一般移転資金の2%を公共交通機関などへの補助に配分するよう指示した。

景気維持に向けた中央銀行の政策

他の新興国同様に,インドネシアは,アメリカの3月以降の利上げにより資本流出と通貨安の圧力にさらされ,輸入物価上昇によるインフレが大きな懸念となった。そのためインドネシア銀行(中央銀行,以下中銀)は,経済の安定化とインフレ抑制を両立させる難しい政策的舵取りを迫られた。中銀は,周辺諸国よりも遅い7月まで政策金利(7日物レポ金利)を3.5%のまま据え置いた。上述のように,燃料価格が多額の政府補助を受けて低く維持されていたため,上半期はインフレ率が比較的緩やかに推移した。6月以降,消費者物価指数の上昇率がインフレターゲットの2〜4%を上回ったが,コアインフレ率が目標の3%±1%内に収まっていたため金利が据え置かれた。ルピア安圧力に対しては,流通市場での国債の売却や外国為替市場への介入で対応が続けられた。これにより,7月時点でのルピアの対ドル減価率は周辺諸国より低率の4.90%にとどまった。これらの中銀の政策は,輸出の増加に伴い,外貨準備高が輸入額の6カ月分以上と余裕があったことにより可能となった。

7月に国営石油会社プルタミナが補助金なし燃料を値上げしたのに加え,食糧価格が高騰したことから,中銀は8月には政策金利を0.25ポイント引き上げた。9月には補助金付き燃料価格引き上げによるインフレ率の急上昇やコアインフレ率の3%突破を受けて,中銀はさらに0.5ポイントの利上げを実施した。これは,2023年上半期までにコアインフレ率を目標の3%±1%内に引き戻す目的での予防的かつ前向きの利上げと説明された。また,9月以降為替レートが「心理的節目」とされる1万5000ルピアを突破してルピア安が続いたこともあり,中銀の大幅利上げは11月まで継続された。年末にかけてコアインフレ率は3.3%台で安定的に推移し,年内最後の12月22日の利上げは0.25ポイントにとどまった。

金融部門発展強化法案が可決

投資促進を経済政策の柱として掲げる政府は,2020年の雇用創出法,2021年の租税調和法につづき,2022年には国内投資環境を改善し国際競争力を高める目的で金融部門の整備に着手した。国会は,9月20日に議員立法として「金融部門発展強化法案」を上程し,12月15日に同法案を可決した。同法は,複数の法令を一括して改正するオムニバス形式が取られ,審議期間が大幅に短縮された。その結果,同法は27の章と341の条文からなる大部となり,17の金融関連諸法令が改正され,1つが廃止された(表1)。同法のスコープは大きく分けて5つあり,中銀を核とする金融機構の改革および金融システムの安定性の強化,金融産業の発展,金融リテラシー・金融包摂・消費者保護の促進,中小零細企業の金融アクセスの改善,そして金融部門における法的執行能力の強化である。

表1 金融部門発展強化法の構成と改正の対象となった法律

(注) 1)本法の施行を受けて廃止。

(出所)金融部門発展強化に関する法律2023年第4号より筆者作成。

このうち最も広く議論を呼んだのが金融機構の独立性と金融システムの安定性をめぐる改正点である。金融システム危機予防・対策法(法律2016年第9号)の改正により,中銀は,金融システムが危機の状態にあると判断された場合に,発行市場から長期国債を購入することが認められた。これにより,コロナ禍が始まった2020年にPENの支出負担を政府と中銀で分担するために時限措置的に導入された財政フィナンスが制度化される形となった。これは危機時に限定されているとはいえ,財政規律と中銀の健全性を乱す可能性があるとして国際通貨基金(IMF)などが警鐘を鳴らしているものである。スリ・ムルヤニ財務大臣は,危機認定の濫用が起きないよう,今後条件などを規定していく予定だとしている。

その他の金融当局機関として,金融サービス監督庁(OJK)や預金保険機構(LPS)の機能が,金融産業の発展を促す形で強化されている。OJKは理事の人数がこれまでの9人から11人に拡大され,監督対象となる分野が拡張された。新しく追加された分野としては,これまで商品先物取引監視委員会(BAPPEBTI)が監督していた暗号資産や,協同組合・中小企業省の管轄であった金融サービスを事業とする協同組合,そして同法が新しく規制する炭素取引がある。また,LPSについては,保険業者が倒産または破産した場合に被保険者の保証を義務付ける「保険契約保証プログラム」が導入された。しかし,これまで政府から独立した機関として金融業界からの手数料で運営されていたOJKに国家予算が注入されるようになったことから,OJKの独立性の維持や汚職の可能性が懸念されている。

この他の改正点として,デジタル中央銀行通貨(CBDC)が,中銀が発行する公式通貨として認定された。また,金融機関が地金事業に参入することが可能となった。さらに,庶民信用銀行(Bank Perkreditan Rakyat)が庶民経済銀行(Bank Perekonomian Rakyat)に名称変更され,それまでの中小零細企業向けの融資のみならず,幅広い金融事業に参入できるようになった。

同法の9月時点での草案では,政党に所属している人物が中銀の理事に就任できるようにする条項や,OJKの理事の任命権を国会が設立する選考委員会に委ねる条項が含まれていた。しかしこれは,中銀やOJKの独立性を著しく阻害し,中銀の権限を政府が掌握していたスハルト時代の体制に逆戻りするとして批判され,社会的反発を生んだことから撤回された。最終的には,「任命時に政党に所属していないこと」という条件がつけられて,現役の政党員もしくは政党役員が中銀やOJK,LPSの理事になることは禁止された。

資源輸出の増大と国内供給に向けた輸出禁止措置

石炭とパーム油の国際価格高騰は,両産品のインドネシアからの輸出を増大させた一方で,国内の供給体制に混乱をもたらした。そのため,政府は,一時的な輸出禁止という苦肉の策をとらざるをえなくなった。石炭をめぐっては,国内の石炭火力発電所での石炭供給量が不足し,電力不足の懸念が生じた。採掘量の25%を国内市場に販売することを義務付ける国内市場優先義務(DMO)を輸出企業が遵守していなかったためとされる。DMOでは国内販売価格が70米ドル/トンに設定されていたが,国際市場では2021年12月の石炭指標価格が約160米ドル/トンと倍以上の額で推移していたため,企業がDMOを履行せず,石炭を輸出したのである。企業のDMO遵守を徹底させ,発電所における石炭備蓄を回復させる必要があるとして,政府は1月1日から1カ月間の石炭輸出禁止を実施した。この突然の措置には日本をはじめ輸出先各国が反発したため,政府はその11日後,DMOを履行した企業からという条件付きで輸出再開を認めた。

一方,パーム油をめぐっては,加工品である食用油の市場価格が2021年後半から値上りしていた。食用油は庶民にとって重要な生活必需品であることから,早急に価格を安定させることが求められていた。政府は,1月から食用油の上限価格を設定し,パーム油のDMO制定をあわせて実施した。しかし,これらの政策は事業者の売り惜しみによる市場での品不足を招いた。そこで政府は,3月に小売価格の上限とパーム油のDMOを撤廃し,パーム油輸出関税の引き上げという形で市場メカニズムに委ねる手段に政策を転換した。だが,断食月明け大祭が近づいて需要が増大したことで食用油の価格はさらに高騰し,価格を安定させることはできなかった。最終的に政府は,4月28日からパーム原油(CPO)と加工品であるパーム精製油・オレインと使用済み食用油の輸出禁止を実施し,それを5月22日まで3週間続けた。この措置はパーム油国際価格の指標となるマレーシア先物を過去最高値(7104.00リンギット/トン)に高騰させ,大豆油など代替植物油の国際価格にも上昇圧力をかけた。これらの政策は主要輸出先国であるインドをはじめ各国に打撃を与え,マレーシアへのCPO調達先の切り替えやパーム油自給政策を後押しした。ところが,禁輸解除後は,国際的な商品価格の下落も相まって,一転して国内の備蓄超過とアブラヤシ果房(FFB)の価格低迷が課題となった。輸出促進とFFB価格の引き上げを目的として,パーム原油および加工品の輸出税の撤廃が7月から2度の延長を経て年末まで続けられた。

鉱物資源の輸出禁止措置をめぐるWTO敗訴

インドネシア政府は,2009年鉱物・石炭鉱業法(2020年に改正)にもとづき2020年初めより未加工ニッケルの輸出禁止措置と国内での加工・精錬義務を導入している。これに対し,未加工ニッケルを輸入してきたステンレス鋼製造業を擁する欧州連合(EU)が,2019年11月にWTO紛争解決機関(DSB)に対して提訴を行なっていた。この訴訟をめぐり,10月17日にDSB小委員会の最終報告書でインドネシアのWTO規定違反が認定された。この報告書によると,インドネシアの輸出禁止措置は,関税などの手段を取らないあらゆる貿易制限措置を禁ずるGATT条項XI条1項に違反している。加えて,GATT条項XI条2a項で認められている危機的状況下での一時的な禁輸や,GATT条項XX条d項で認められている環境保護などの国内規制に則った政策のような例外事項にも当てはまらないとされた。政府は,ニッケルの埋蔵量に限りがある点や,持続可能なニッケル資源ガバナンスの必要性から来る輸出禁止であることを強調していたが,これらの主張は却下された。これに対して政府は,パネル判定の認識に齟齬があるとしてDSBの上級委員会に12月8日に上訴を行った。現在,上級委員会は委員の空席により機能不全に陥っており,この上訴はそうした事情を考慮した上での戦略的な行動だといえる。ジョコウィ大統領は,最終的な裁定まで十分な時間があるとみており,12月14日に開催されたEU-ASEANサミットでも「川下産業の整備を継続する」と一貫した姿勢を示している。

12月21日には,予定通り2023年6月からボーキサイトの輸出を禁止することが政府から発表された。ボーキサイトは2014年に一度禁輸がなされたが,2017年以降条件付きで禁輸措置が緩和され,主に中国向けに付加価値の低い洗浄工程済鉱石が輸出されてきた。しかし,この決定により,改正鉱物・石炭鉱業法(法律2020年第3号)の規定どおり,3年間の猶予の後に未加工鉱石の輸出が禁止されることになる。ただし,現在のボーキサイト生産量を吸収できる国内の体制がいまだ整備されていないことや,ニッケルとは異なりインドネシアがボーキサイトの国際的な市場支配力を持たないことなどが懸念されている。そのような状況にもかかわらず,政府は,ボーキサイトの他にも錫や銅精鉱,金の輸出禁止措置を導入するための検討を進めている。

(水野)

対外関係

ウクライナ侵攻をめぐる対立のなか,G20議長国として奔走

インドネシアは,G20首脳会議が始まった2008年当初からメンバー国である。2022年に初めて議長国を担当するインドネシア政府は,これまでの「東南アジアを代表する」という立場に加えて,「新興国・途上国全体を代表する」という意識で会議を主導する心積もりであった。さらには,各種会合を通じて同国経済に対する対外的イメージを向上させ,貿易・投資の呼び込みにつなげたい考えだった。外交が得意ではないジョコウィ大統領自身も,G20サミットの開催を政権のレガシー(遺産)にすることを目論んでいた。

しかし,そうした政府の意気込みに冷や水を浴びせたのが2月に発生したロシアによるウクライナへの軍事侵攻であった。アメリカ,欧州各国,日本など西側先進諸国はロシアを強く非難してG20からの排除を試みようとした。一方,ロシアや中国はそうした動きを批判し,米欧諸国をけん制した。G20の場に大国間対立が直接持ち込まれてしまったのである。首脳会議に先立って行われた各種の大臣会合では,ロシアの閣僚が発言しようとすると西側の代表が退席する事態が頻発した。また,ロシア非難の文言を盛り込むかどうかで合意できず,共同声明を一度も出すことができなかった。コロナ禍後の世界経済の立て直しに道筋をつけたいというインドネシア政府の思惑は大きな困難に直面した。

ここでインドネシアは独自の外交力を発揮した。政府は,西側諸国によるロシア排除の要求を一貫して拒否した。軍事侵攻に対しては交渉による平和的解決を呼び掛けつつ,G20は経済協力を話し合う場であって対立を持ち込むべきではないとの立場を貫いた。そのうえで外交当局は,ロシアが出席すれば会議をボイコットすると表明する西側諸国を含め,各国首脳のサミット参加を取りつけるべく奔走した。6月,ジョコウィ大統領はドイツで開かれたG7サミットに参加した後,自らウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談した。さらに,その足でモスクワに飛んでロシアのプーチン大統領とも会談し,両首脳にG20サミットへの出席を求めた。両国の首脳を直接訪問したのは,アジアの首脳としてはジョコウィが初めてであった。

ジョコウィ大統領が紛争当事国の両首脳と会談できたのは,インドネシアが西側にもロシア側にも与しない中立の立場を取り続けていたからである。2月25日に政府はウクライナにおける軍事侵攻を非難する声明を発表したが,ロシアを名指しすることはせず,外交を通じた平和的解決を促す内容にとどめた。国連総会で2022年内に採択された5つの決議においても,ロシア軍の即時撤退に関する決議(3月2日),人道状況の改善を求める決議(3月24日),ウクライナ4州の一方的併合を無効とする決議(10月12日)については賛成した一方,国連人権理事会でのロシアの理事国資格停止(4月7日)と侵攻に伴うロシアへの損害賠償請求(11月14日)に関する決議に対しては棄権するなど,ロシアとの対決を鮮明にした西側先進諸国とは一線を引く立場を貫いた。

11月にバリ島で開催されたG20首脳会議は,インドネシアの外交努力が結実したものとなった。プーチン大統領は出席を見送り,ラブロフ外相が代理出席したが,ロシア側の出席を理由にボイコットした国はなかった。ゼレンスキー大統領はオンラインで参加して,ビデオ演説を行った。また,外交当局によるぎりぎりの交渉により,実現は難しいと思われていた首脳宣言の採択にもこぎ着けた。

首脳宣言は冒頭部分で,「G20は安全保障問題を取り上げる場ではないが,世界経済に深刻な影響を及ぼしていることに鑑みて軍事侵攻について触れる」としたうえで,「ほとんどの国がウクライナの戦争を非難」し,「核兵器の使用や威嚇は許されない」と明記した。一方で,「情勢に関して他の見解や異なる評価もある」と併記することでバランスをとり,首脳宣言に対するロシアの同意を取り付けた。

そのうえで,本来の議題であった保健分野の国際協力,食料・エネルギー安全保障,気候変動対策,デジタル経済の促進といった経済協力に関する項目を宣言に盛り込んだ。ロシアのウクライナ侵攻後に開かれた主要な国際会議では,対立によって共同宣言の採択が見送られ続けており,首脳宣言の採択を成し遂げたインドネシア政府の努力に各国は賞賛を送った。

こうしたインドネシアの外交力は一朝一夕に作られたものではない。独立直後からインドネシアは,特定の国との同盟関係に依存することなく大国からの干渉を排除して外交の自主性を維持すると同時に,積極的な外交の展開を目指すという原則の下,中立外交を続けてきた。G20サミット終了後,レトノ外相は,「インドネシアは常に架け橋となってきた。その結果として各国から信頼を得ている。これは議長国として大きな利点であった」と振り返った。

電力部門の脱石炭化に向けた国際融資を獲得

2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において,石炭火力発電を段階的に廃止する共同声明に署名したインドネシアは,翌年には要となる国際融資の獲得に成功した。石炭火力発電がエネルギー生産に占める割合は2021年の段階で約65%である一方,再生可能エネルギーはわずか約13%である。政府試算によると,エネルギー移行を完了するためには約1兆2000億ドルの投資が必要である。そのため政府は,石炭火力発電からの脱却と再生可能エネルギーの普及に向けて,各国による投資が不可欠であることを度々訴えかけてきた。

国際資金の獲得への道筋をつけるべく,9月に政府は,電力供給のための再生可能エネルギー開発加速に関する大統領令2022年第112号を公布した。この大統領令では,国営電力会社PLNの電力供給事業計画(RUPTL)において計画されているものなど一部の例外を除いて,石炭火力発電所の新規建設を禁止することが定められた。その他にも,石炭火力発電所の廃止を加速するための関連省庁によるロードマップの策定や,再生可能エネルギー発電所からの電力調達プロセスの簡素化に向けた新規制が定められた。

11月15日には,G20首脳会議にあわせて,脱石炭化に必要な資金を調達するためのファイナンススキームである「公正なエネルギー移行パートナーシップ」(JETP)が,日米が主導する複数カ国とインドネシアとの間で合意された。JETPは,「気候変動対策に向けた過去最大の金融取引かつパートナーシップ」(米財務省高官)ともいわれる内容となっており,各国政府と民間金融機関がそれぞれ100億ドルずつ貢献する形で200億ドルが3〜5年かけて拠出される。公的資金はG7諸国やEUをはじめとする11カ国・機関が融資し,民間資金はネットゼロに向けたグラスゴー金融同盟(GFANZ)に加盟する金融機関が融資する。JETPは,温室効果ガス削減のために国が決定する貢献(NDC)目標における電力部門のネットゼロ目標を2060年から2050年に前倒しすることや,排出量のピークをそれまでの目標である2037年から2030年に前倒しすること,2030年までに全発電量の最低34%を再生可能エネルギーが占めるようエネルギー移行を加速化することなどを定めている。

国際機関が融資するエネルギー移行メカニズム(ETM)においても前進がみられた。JETPと時を同じくして,アジア開発銀行(ADB)やイスラーム開発銀行,世界銀行などが支援する形で,ETM枠組みを通して5億ドルが拠出されることがG20の場で発表された。また,11月14日には,ADBが主導する形で,西ジャワ州にある660MWのチレボン第1火力発電所を早期運転停止させる計画が発表された。これは,ETM枠組みによる石炭火力発電所の廃止に向けた国内初のプロジェクトとなる。JETPでは,ADBや世界銀行グループの気候投資基金によるETMを支援することも示されており,多様な国際融資枠組みの連携によってインドネシアの脱石炭化を実現することが期待されている。

(川村・水野)

2023年の課題

2023年は,2024年2月14日に投票日を迎える総選挙・大統領選挙に向けて政党間の駆け引きがますます激しくなる。10月19日から11月25日にかけての大統領選の立候補届け出期間が山場となるだろう。それに続いて,11月28日からは選挙戦が始まる。過去2回の大統領選では宗教的な対立を煽るような選挙戦が展開され,社会の分断が深まった。今回もそういった分断が深まることにつながるのか,それとも冷静な論争が展開されるのかが注目である。一方,ジョコウィ3選・選挙延期を求める動きも根強く残っており,選挙自体が本当に実施されるのかも注視する必要がある。

中銀は2023年のGDP成長見通しを4.5〜5.3%としている。国際商品価格の安定化により前年のような輸出拡大は見込めないと予想される。そのため,インフレ圧力や海外での金融引き締めを注視しつつ,堅調な民間消費を維持することが成長への鍵となる。また,選挙を前にした2023年には投資リスクが高まるとの見方も存在する。そのため政府は,投資促進政策の安定性と一貫性を示すことで,そうした懸念を払拭し,投資呼び込みを一層推進することが求められる。

2022年に議長国としてG20を成功に導いたインドネシアは,2023年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国に就任する。ウクライナ侵攻をめぐる対立からは解放されるが,ミャンマーの軍事政権への対処方針をめぐる加盟国間の対立に今度は悩まされることになる。インドネシア政府は,2021年2月のクーデタ直後からASEANによる問題解決の取組みを主導してきたが,その後事態はまったく進展していない。その他にも,中国とASEAN加盟国の一部の間で領有権を争う南シナ海での紛争防止に向けた「行動規範」(COC)の策定交渉も進展がないままである。「ASEANの盟主」を自認するインドネシアの外交力が再び試される。

(川村:地域研究センター)

(水野:地域研究センター)

重要日誌 インドネシア 2022年
   1月
1日政府,1月末までの石炭の輸出禁止措置を開始。
4日ジャカルタ汚職裁,軍人・警察官社会保険(Asabri)をめぐる巨額汚職事件で4人の同保険金管理会社元幹部に禁錮15〜20年の実刑判決。
7日国営企業省,食品系国営企業5社を統合し,持株会社ラジャワリ・ヌサンタラ・インドネシア社を設立。後にID FOODへと社名を変更。
12日新型コロナウイルスワクチンの3回目接種開始。
19日食用油の価格高騰を受けて価格上限政策が始動。
19日政府,新型コロナ・オミクロン株による感染者の急増をうけ,ジャワ・バリ地域の公共の場での活動を制限する措置を導入。
21日首都移転の法的基盤となる首都法案が国会で可決成立。新首都の名称は「ヌサンタラ」に。
25日大統領,シンガポールのリー・シェンロン首相と会談。犯罪人引渡条約と防衛協力協定に調印。
27日政府,パーム油輸出に対する国内市場供給義務(DMO)の適用を開始。
   2月
10日フランスのバルリ国防相が来訪。仏製戦闘機の売却を決定。一方,米国務省は米製戦闘機のインドネシアへの売却を発表。
16日1日あたりの新型コロナ感染者数が6万4000人を超え,過去最高を記録。
17日ジャカルタ汚職裁,アジス・シャムスディン元国会副議長に禁錮3年半の判決。
18日オランダのルッテ首相,1945〜1949年の独立戦争時の蘭軍による民間人に対する組織的暴力の事実を認め,謝罪。
25日政府,ウクライナにおける軍事侵攻を非難する声明を発表。
   3月
2日インドネシア,国連総会緊急特別会合におけるロシア軍の即時撤退に関する決議案に賛成。
9日最高裁,エディ・プラボウォ元海洋・漁業相が関与した汚職事件裁判で,禁錮9年の2審の判決を禁錮5年に減刑する判決。
10日大統領,ヌサンタラ首都庁の正副長官を任命。
10日警察対テロ部隊,テロ組織ジャマア・イスラミヤ指導者を中ジャワ州スコハルジョで銃撃戦の末に射殺。
12日孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長が首都移転計画への出資を取りやめたことが明らかに。
14日首都移転計画地で起工式が開催。
16日食用油の価格上限が撤廃され,バルク食用油のみ補助金の助成が行われることに。
16日大統領,西ジャワ州チカランに建設された韓国現代自動車による国内初の電気自動車(EV)組立工場の竣工式に参加。
17日パーム油のDMOが撤廃される。
18日政府,パーム原油および関連製品の輸出税を引き上げ。
21日ジャカルタ州警察,人権活動家をルフット・パンジャイタン海事・投資調整相に対する名誉毀損の容疑者に指定。
26日バリで開催されていた第4回水俣条約締結国会議が閉幕。水銀の違法貿易に関するバリ宣言を採択。
31日外相,中国で開催されたアフガニスタン隣国フォーラムに参加。現地でロシアのラブロフ外相と会談,戦闘の即時停止を要請。
   4月
1日マレーシアのイスマイル・サブリ首相,来訪。移民労働者保護での協力で合意。
1日政府,付加価値税率を10%から11%に引上げ。
7日インドネシア,国連人権理事会でのロシアの理事国資格停止の決議を棄権。
11日2024年総選挙の延期・大統領任期延長の動きに反対する学生らの大規模デモが各地で開催される。
11日配車・電子商取引最大手GoToグループがインドネシア証券取引所に上場。
12日新しい総選挙委員会委員7人と総選挙監視庁委員5人が就任。
12日国会で性暴力犯罪法案が可決成立。
19日検察庁,パーム油輸出許可をめぐる収賄とDMO違反で商業省高官と3人の輸出会社役員を容疑者に指定。
20日政府,防衛産業関連の国営企業5社を統合し,持株会社Defend IDを設立。
28日政府,パーム原油および関連製品の輸出禁止措置を開始(5月22日まで)。
29日岸田文雄首相が来訪,大統領と会談。
   5月
12日大統領,米ASEAN特別首脳会議に参加するため,訪米。
13日内務相,2024年11月の統一地方首長選前に任期の切れる5州知事の代行を任命。2024年にかけて合計271自治体で首長代行が任命される予定。
14日大統領,テスラ社のEV工場誘致のため同社最高責任者イーロン・マスクと面会。
22日内務相,マルク州西部スラム県知事代行に陸軍の現役将校を任命。法律違反との批判があがる。
24日国会で法律制定法改正案が可決成立。オムニバス法の制定が可能に。
26日大統領の妹とアンワル・ウスマン憲法裁長官が結婚。三権分立を脅かすとの批判。
27日アフマド・シャフィイ・マアリフ元ムハマディヤ議長,死去。
31日パーム油のDMOが再導入されるとともに,食用油の補助金支給が停止。
   6月
4日ゴルカル党,国民信託党,開発統一党が2024年大統領選に向けた協力関係,「統一インドネシア連合」を結成。
6日オーストラリアのアルバニーズ新首相,来訪。大統領と会談。
7日警察,イスラーム団体キラファトゥル・ムスリミンが建国5原則に反する思想を流布しているとして代表のアブドゥル・カディル・バラジャを逮捕。
15日大統領,内閣改造を実施。
19日ジャカルタ地裁,ガルーダ・インドネシア航空の債務再編計画を承認。
26日大統領,G7出席のため訪独。
29日大統領,ウクライナを訪問しゼレンスキー大統領と会談。アジアの首脳の訪問としてはウクライナ侵攻後では初。翌30日にはロシアを訪問してプーチン大統領と会談。
30日国会,パプア州を分割し3つの州を新設する法案を可決。
   7月
8日警察高官宅で部下の警察官が銃殺される事件が発生。事件隠蔽の疑い。
15日政府,パーム原油および関連製品の輸出税を8月末までの予定で撤廃。同政策はその後10月末まで延長され,その後も政府の定めた基準価格を上回るまで適用が続けられる。
16日パプア州ンドゥガ県ノゴライト村で武装犯罪集団(KKB)による襲撃事件発生。村民11人が死亡。
19日ティモール・レステのラモス・ホルタ新大統領,来訪。
20日金融サービス監督庁の新理事9人が就任。
24日アメリカ軍のミリー統合参謀本部議長が来訪,国軍司令官と会談。米軍制服組トップの来訪は14年ぶり。
25日大統領,東アジア3カ国歴訪へ出発(〜28日)。26日に中国の習近平国家主席,27日に日本の岸田首相,28日に韓国の尹錫悦大統領と会談。
26日警察対テロ部隊,アチェ,北スマトラ,リアウで17人のテロ容疑者を逮捕。
28日外務省,カンボジアで62人のインドネシア人が拘束されていることを公表。人身売買の疑い。
   8月
3日国軍,アメリカ軍との共同軍事演習を実施。本年は陸海空軍を含めた多国間演習スーパー・ガルーダ・シールドに拡大され,史上最大規模に。日本の陸上自衛隊も初参加。
12日グリンドラ党,プラボウォ・スビアント党首の大統領選擁立を決定。
13日グリンドラ党と民族覚醒党が2024年大統領選での連合を発表。
16日大統領,国民協議会で独立記念日演説。国会に2023年度国家予算案を上程。
17日3年ぶりに招待客が参加した独立記念日式典が大統領官邸で開催される。新首都建設予定地でも300人が出席して式典を開催。
20日国内初のサル痘感染者が見つかる。
22日インドネシア銀行(中銀),政策レートを0.25ポイント引き上げ3.75%へ。
26日大統領,過去の重大人権侵害の司法外解決チームの設置を決定。
30日国会,地域的な包括的経済連携(RCEP)協定と韓国との包括的経済連携協定(CEPA)を批准。
   9月
3日政府,補助金付きガソリン・軽油価格を30%引き上げ。同時に現金支給などの影響緩和策を実施。各地で引き上げに反対する学生や労組,配車運転手によるデモが発生。
5日開発統一党最高評議会,スハルソ・モノアルファ党首を更迭。
5日フィリピンのマルコス新大統領,来訪。
6日法務・人権省,巨大汚職事件を含む汚職犯23人に対する条件付き釈放を実施。
7日7月1日に死去のチャフヨ・クモロ国家機構強化・官僚改革相の後任に闘争民主党のアブドゥラー・アズワル・アナスが就任。
8日中国海警局の艦艇が北ナトゥナ海域の排他的経済水域に侵入。
13日電力供給のための再生可能エネルギー開発の加速化に向けた大統領令が公布。
13日ジャカルタ総合指数(JCI)が過去最高値を更新(7318.01)。
14日8月末頃から,中央官庁に対するハッキングにより携帯電話SIMカード情報,有権者登録情報,閣僚の個人情報などが大量に漏洩したことをうけ,政府は対策班を設置。
14日汚職撲滅委員会,パプア州知事ルカス・エネンベを収賄などの容疑者に指定。
20日国会,個人情報保護法案を可決。
22日中銀,政策レートを0.5ポイント引き上げ4.25%へ。
23日汚職撲滅委員会,スドラジャッド・ディムヤティ最高裁判事を収賄容疑で逮捕。
29日国会,2023年度国家予算案を可決。
29日国会,アスワント憲法裁判事を解任し,後任に憲法裁事務総長グントゥール・ハムザを任命することを決定。
30日薬品・食品監督庁,国内製薬会社の新型コロナワクチン2種を緊急承認。
  10月
1日東ジャワ州マラン県のサッカースタジアムで暴動が発生し,135人が死亡。
3日ナスデム党,ジャカルタ州知事のアニス・バスウェダンの大統領候補擁立を決定。
12日インドネシア,ロシアによるウクライナ4地域の併合を無効とする国連総会の決議に賛成。
14日大統領,全国の警察幹部約600人を前に綱紀粛正を指示。しかし同じ日,麻薬密売容疑で東ジャワ州警察本部長が逮捕。
20日中銀,政策レートを0.5ポイント引き上げ4.75%へ。
20日薬品・食品監督庁,小児の急性腎障害が多発していることをうけ,原因とみられる3社の薬品5種の販売を停止する措置。
31日憲法裁,現役閣僚が大統領選に立候補できないとする総選挙法条文を違憲と判断。
  11月
10日大統領,プノンペンでのASEAN首脳会合に出席(〜13日)。
11日南パプア,中パプア,山岳パプアがパプア州から分離して新設。
15日主要20カ国・地域(G20)バリ・サミットが開幕。16日にバリ首脳宣言を採択。
15日公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)が,日米など複数カ国とインドネシアとの間で合意される。
16日ジャカルタ=バンドン高速鉄道の試験運転実施。大統領と中国の習近平国家主席がオンラインで視察。
17日中銀,政策レートを0.5ポイント引き上げ5.25%へ。
17日労働力省,2023年の最低賃金を最大10%引き上げるとともに,今回に限り最低賃金算出方法を改訂。
17日国会,西パプア州を分割する法案を可決。
21日西ジャワ州チアンジュール県でマグニチュード5.6の地震が発生,死者334人。
30日ニッケル鉱石の輸出禁止をめぐるWTO訴訟で敗訴。12月8日に政府は上級委員会に上訴。
30日憲法裁,総選挙法に関する違憲審査で,前科者が議会選に立候補できるのは刑期終了5年後とする判決。
  12月
6日国会で刑法典法案が可決成立。
6日国会,シンガポールとの防衛協力協定を批准。
7日バンドン市警察署で自爆テロ事件発生。犯人と警察官1人が死亡。一方,2002年バリ島爆弾テロ事件の実行犯の1人ウマール・パテックが釈放される。
8日南スラウェシ人権裁,2014年の中パプア州パニアイにおける重大人権侵害事件の裁判で,被告の国軍兵士を無罪とする判決。
9日南西パプア州が西パプア州から分離して新設。
14日総選挙委員会,2024年総選挙に参加する17政党を発表。
15日国会,金融部門発展強化法案を可決。
19日大統領,新国軍司令官にユド・マルゴノ海軍大将を任命。
20日憲法裁,選挙区の議席配分を定めた総選挙法の規定を違憲とする判断。
20日オランダのルッテ首相,東インド会社を含む過去の奴隷制を公式に謝罪。
20日スブロト元鉱業・エネルギー相,死去。
21日大統領,2023年6月よりボーキサイト鉱石の輸出を禁止する方針を発表。
22日中銀,政策レートを0.25ポイント引き上げ5.50%へ。
22日ベトナムのグエン・スアン・フック国家主席,来訪。南シナ海での排他的経済水域の境界線確定に合意。
22日ミャンマー軍事政権代表が参加したタイ政府主催の関係国会議に政府は代表を送らず。外務省は国連安保理事会のミャンマー非難決議採択を歓迎すると表明。
28日大統領,新海軍参謀長にムハマッド・アリを任命。
30日大統領,雇用創出法の法律代行政令を制定。
30日総選挙委員会,信徒党の2024年総選挙参加を追加承認。
30日政府,新型コロナの感染拡大防止に関する移動制限措置を全面的に解除。

参考資料 インドネシア 2022年
① 国家機構図(2022年12月末現在)

(注)1)国家行政院(LAN),国家公文書館(ANRI),国家人事院(BKN),国立図書館,中央統計庁(BPS),国家標準化庁(BSN),原子力監視庁(Bapeten),国家情報庁(BIN),国家コード院,国家家族計画調整庁(BKKBN),国土地理院,財政開発監督庁(BPKP),食品・薬品監視庁(BPOM),国家情報院(LIN),国家防衛研修所(Lemhannas),文化観光振興庁(Budpar),国家研究革新庁(BRIN)などを含む。

2)2019年の第2期ジョコ・ウィドド政権の発足に伴い,省庁の再編が行われた。文化・初中等教育省が教育・文化省に,研究・技術・高等教育省が研究・技術省に,観光省が観光・創造経済省に再編された。また,所管する調整大臣府が変更された省庁もある。2021年にも省庁の再編が行われた。投資省が新設され,教育・文化省と研究・技術省が統合し教育・文化・研究・技術省が設立された。

② 「先進インドネシア内閣」(Kabinet Indonesia Maju)閣僚名簿(2022年12月末現在)

(注)1)出身組織の略称は以下のとおり。PDIP:闘争民主党,Golkar:ゴルカル党,PKB:民族覚醒党,NasDem:ナスデム党,PPP:開発統一党,Gerindra:クリンドラ党,PAN:国民信託党,PKS:福祉正義党,PD:民主主義者党。2)2021年4月28日の省庁再編により新設された役職。3)2021年4月28日の省庁再編により新設された役職に任命された大臣。4)2022年6月15日の内閣改造で任命された大臣。5)前任者の死去に伴い2022年9月7日に任命された大臣。

③ 国家機構主要名簿
④ 2024年総選挙参加政党一覧

(注)1)これまではすべての政党の登録番号を抽選で決めていたが,今回は国会に議席を有する政党は前回の登録番号と同じものを選択できるようになった。開発統一党のみ,今回も抽選で登録番号を決めることを選択した。2)登録番号18〜23の政党は,アチェ州内の地方議会議員選挙のみに参加するアチェ地方政党。3)登録番号24の信徒党は,総選挙委員会の審査では選挙参加資格なしと判断されたが,総選挙監視庁が参加資格を認める決定を下したため,12月30日に総選挙参加政党に追加された。

主要統計 インドネシア 2022年
1 基礎統計

(注)1)人口は2020年は人口センサス結果。それ以外は中央統計庁(BPS)による推計値。2)労働力人口は,15歳以上の労働可能人口を指す。労働力人口と失業率は8月時点の調査結果。3)消費者物価上昇率は12月時点での前年比。

(出所)BPSのウェブ資料(https://www.bps.go.id/),Bank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia, ウェブ版(https://www.bi.go.id/id/statistik/ekonomi-keuangan/seki/Default.aspx)。

2 支出別国内総生産(名目価格)

(注)小数点以下を四捨五入したため,合計数値が合わないものがある。1)暫定値。2)速報値。

(出所)BPSのウェブ資料(https://www.bps.go.id/)。

3 産業別国内総生産(実質:2010年価格)

(注)小数点以下を四捨五入したため,合計数値が合わないものがある。1)暫定値。2)速報値。

(出所)表2に同じ。

4 国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号は(+)は資本流入,(-)は資本流出。

(出所)Bank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia, Statistik Utang Luar Negri Indonesia (https://www.bi.go.id/id/statistik/ekonomi-keuangan/sulni/Default.aspx), ウェブ版。

5 国・地域別貿易

(注)ASEANは9カ国の合計。EUはイギリスを含む28か国の合計。輸出額・輸入額とも本船渡条件(FOB)価格での表示。小数点以下を四捨五入したため,合計数値が合わないものがある。

(出所)Bank Indonesia, Statistik Ekonomi dan Keuangan Indonesia, ウェブ版。

6 政府財政

(注)2019~2022年は執行分。2023年は予算。

(出所)財務省,APBN KITA 2023 Januari,Nota Keuangan Anggaran tahun 2023(https://www.kemenkeu.go.id/apbnkita)。

 
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