アジア動向年報
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各国・地域の動向
2022年のネパール ダハール政権の劇的誕生で幕を下ろした選挙の年
佐野 麻由子(さの まゆこ)
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2023 年 2023 巻 p. 503-526

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2022年のネパール

概 況

2022年のネパール政治は,5月の統一地方選挙,11月の代表議会選挙での無所属候補者の躍進,マデシ系有力指導者の落選と変化に富んだ。ネパール会議派(NC)と与党同盟を結び11月の選挙を闘ったプスパ・カマール・ダハール・ネパール共産党毛沢東主義センター(CPN-MC)議長が,かつて袖を分かったKPシャルマ・オリ・ネパール共産党統一マルクスレーニン主義(CPN-UML)議長と一転して協定を締結し,12月25日に首相に就任して世間を驚かせた。

経済面については,2019/20年度にマイナス2.37%に落ち込んだ経済成長率は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の沈静化に伴う国内需要の力強い伸びを反映し,2021/22年度には4.25%に回復した。

対外関係については,2月に批准の期限が迫っていたアメリカの開発援助ミレニアム挑戦公社(MCC)の補助事業をめぐる米中の攻防が繰り広げられた。1月にインドとの国境問題が再燃したが,4月のシェール・バハドゥール・デウバ首相の訪印,5月のインドのナレンドラ・モディ首相の来訪で改善の兆しをみせた。

国内政治

政治不信と無所属候補者への期待があらわれた統一地方選挙

5月13日,2015年憲法が公布されて以来2度目になる統一地方選挙が実施された。投票は,6大都市,11準大都市,276市,460村で行われ,2週間後に選挙結果が発表された。NCが全体の39.2%に相当する議席を獲得して最大勢力となり,CPN-UML(34.0%),CPN-MC(14.4%)がそれに続いた。

表1  5月の地方選挙における各政党の議席数と全議席に占める割合

(出所)ネパール選挙管理委員会「プレスリリース2079 4/10(26 July 2022)」を基に筆者作成。

今回の選挙で注目を集めたのが,無所属候補者の躍進である。カトマンドゥ市では,ごみ・廃棄物管理の改善,交通渋滞緩和のための公共交通機関の整備,医療施設の充実を公約に掲げたバレン・シャハが6万1767票を獲得し,NCのスリジャナ・シン候補とCPN-UMLのケシャブ・スタピット候補に2万3000票以上の差をつけて,無所属候補として史上初めて市長に就任した。

シャハ第15代カトマンドゥ市長は1990年生まれの33歳で(選出時),構造工学の修士号をもつ人気ラッパーである。エンジニアとして,道路や工業地帯等の設計や建設に携わった経験をもつ。2019年から立候補を計画し,2021年12月17日,ソーシャルメディアを通じて無所属候補者として市長選挙に立候補すると発表した。当初,ソーシャルメディアを駆使し寄付等による資金なしで選挙運動を展開する戦術は「インターネット候補者」として揶揄され,開票速報で得票数が報じられるまで全国メディアで大々的に取り上げられることはなかった。

シャハの勝因として,ソーシャルメディアを通じて,若者を中心に無党派層の支持を獲得できたことに加え,ごみ問題や交通問題など市民の要望が強い課題に対し具体策を提示し有権者に評価されたことが挙げられる。

8月,シャハ市長は違法建築物の撤去に着手し,駐車場用地であったにもかかわらず,店舗を運営していた商業ビルの一部が取り壊された。9月には,イクシュマティ川(通称トゥクチャ川)を不法占拠して建てられた違法建築物が撤去された。イクシュマティ川の違法建築物については,2009年6月7日にカトマンドゥ市が同様の通告を行ったが,多数の商業ビルや住居が該当していたため執行が難航し,「市が黙認した代表例」となっていた。市民からは,「腐敗した古い秩序の根絶」の象徴として撤去を評価する声もあがっている(Online khabar,2022年8月12日)。また,シャハ市長は,2018/19会計年度以降,娯楽税を支払っていないカジノ経営者に対する徴税も行った。

地元メディアは,市民の政治に対する不満が非常に強いため,今回の政策が市民生活の質の向上に結び付かない場合には,シャハ市長自身が批判の的にされる可能性もあるとしている。一時的なヒーローに留まるのか,それとも,人気を利用して都市計画を戦略的に進めることができるのか,その手腕に注目が集まる。

代表議会選挙,州議会選挙:ダハール首相の誕生

11月20日,2015年憲法公布以来2回目となる代表議会(連邦議会下院)および州議会選挙が実施された。今回の選挙の投票率は61%で2017年の67%よりも低かった。投票率低下の理由について,政治アナリストのチャンドラ・デヴ・バッタは,停滞した政治に変化をもたらすような新しい候補者がいなかったこと,公約に生活に関連する争点が出されなかったことを挙げた(The Annapurna Express,2022年11月20日)。

有権者の注目を集めたのが,選挙同盟による勝利の行方である。2017年の選挙では,CPN-UMLとCPN-MCの左派連合が165議席中116議席を獲得し,選挙同盟の重要性を印象付けた。今回の選挙では,イデオロギーに基づくのではなく,政権奪取を目的とした新たな同盟が誕生した。NC,CPN-MC,CPN-UMLから分裂したネパール共産党(統一社会党)(CPN-US),タライに本拠地を置く民主社会主義党ネパール(Loktantrik Samajwadi Party, Nepal),統一人民戦線(Rastriya Janamorcha)で構成される与党同盟と,CPN-UMLとヒンドゥー民族主義の国民民主党(Rastriya Prajatantra Party: RPP),マデシ系の人民社会党ネパール(Janata Smajibadi Party, Nepal: JSPN)で構成される野党同盟である。また,著名なテレビ司会者のラビ・ラミチャネが無所属候補者を集めて結成した国民独立党(Rastriya Swatantra Party: RSP)も注目された。

ウペンドラ・ヤダブ率いるJSPNは,2020年12月と2021年5月に当時のオリ政権の議会解散に抗議し,NC,CPN-MC,CPN-UMLのマダブ・クマール・ネパール派閥とともにオリ政権打倒に加わった。しかし,与党同盟が提示する議席割り当て数に不満を抱き,10月8日,CPN-UMLと選挙同盟を結んだ。一方,2021年にJSPNから分裂し,かつてオリ政権に参加したマデシ系のマハンタ・タクール率いる民主社会主義党ネパールは,デウバNC党首主導の与党同盟に参加した。

選挙の結果,275議席中89議席を獲得したNC(前回より26議席増)が第1党,78議席を獲得したCPN-UML(43議席減)が第2党,32議席を獲得したCPN-MC(21議席減)が第3党になった。CPN-UMLは,大臣経験者が落選するなど,有権者の信頼失墜を反映させた結果となった。RSPは20議席を獲得した。マデシ系政党を牽引してきたヤダブは落選し,世論党(Janamat Party)を率いるCKラウトと,7月にJSPNを離脱しバブラム・バッタライとともに社会党(Samajwadi Party)を設立したマヒンドラ・ラヤ・ヤダブが新しいマデシ系のリーダーとして浮上した。ラウトは,かつてマデシの分離主義運動を主導していたが,2019年3月に当時のオリ政権と分離主義運動の停止に合意し,同年,世論党を設立した。なお女性議員の占める割合は,連邦議会で33.09%,州議会で36.36%であった。

表2  代表議会選挙の結果

(出所)ネパール選挙管理委員会「衆議院/州議会選挙結果2079年」を基に筆者作成。

第1党が単独過半数を占めることができない状況のなかで,転機を迎えたのが12月25日であった。ダハール議長は,自身への支持を表明したCPN-UML,CPN-MC,RSP,RPP,JSPN,世論党,人民自由党(Nagarik Unmukti Party),3人の無所属議員の計169人の署名を大統領に提出し,首相に就任した。ダハール首相誕生の仕掛け人となったのが,2年前にダハールと決裂したオリCPN-UML議長である。オリは,選挙直後の11月24日に連立政権形成のための話し合いをダハールにもちかけた。CPN-UMLは出口調査で第2党になるという予想を受け,ダハール,デウバ双方に接触をはかっていた。他方,CPN-MCはNCとの選挙同盟が機能せず2017年の議席数を下回ると予想された。12月24日,バルシャマン・プンCPN-MC副書記長が,12月21日にNC党首に再選されたばかりのデウバに,ダハールに首相を譲らなければ連立政権を去ると警告したが,NCの指導者たちは了解しなかった。これを受け,ダハールはオリと同盟関係を結び首相の座を獲得した。この同盟により,両党は7つの州議会すべてで過半数を占めることになった。ダハールの背信に対しNCからは「選挙同盟による選挙後に別の政党と同盟を結ぶことは,NCへの裏切り行為だ」と批判が噴出した。12月26日,ダハール首相は3人の副首相と4人の大臣を指名した。ラミチャネRSP党首は副首相兼内務大臣に指名された。

連立政権は7党と無所属議員で構成されるために,政権運営はこれまでと同様に安泰ではないと分析する政治アナリストもいる。ネパール経済は,8%を超えるインフレ率,輸入依存による外貨準備高の減少,連立政権下での不安定な政治による投資減等の不安要素を抱えており,新政権にはこれらの課題に対処することが求められる。

大統領による市民権法案の承認拒否がもたらした複数の論点

市民権法改正は,子孫による市民権の取得を規定する憲法第11条第3項を施行するための法律の不在を解消するために,2018年8月7日にオリ政権によって議会に登録された。しかし,「ネパール人と結婚した外国人は帰化するために7年間待たなければならない」という規定に対し,市民権の早期付与を望むマデシ系政党が懸念を示し,過半数の合意を得ることができなかった。インドと民族的,文化的,言語的,経済的,地理的な結びつきをもつマデシ系の人々は,2006年に市民権法が改正されるまで市民権証取得が制限され,長年ネパール政府に剥奪感を抱いてきたことに加え,インド人配偶者が帰化までの一定期間,無国籍状態におかれ,さまざまな権利が侵害される状況に不満を抱いていた。2021年5月,ビディア・デヴィ・バンダリ大統領は,政府の勧告に従い,市民権法改正令を発令し,憲法第11条第2項に従い,これまで認められてこなかった1990年4月12日以前にネパール市民権を取得した親の子に,政治的権利と市民権の取得を保障した。だが,最高裁判所は,議会の審議を経ずに改正令を発令することは権力濫用につながるおそれがあるとし,認めなかった。

そこで政府は,マデシ系政党と非居住者ネパール協会の懸念に対処することを目的とし,7月9日,2018年に登録された改正法案を撤回した。そして7年間の待機期間に係る条項を削除した新しい法案を登録したうえで,議会審議に回った。

2006年ネパール市民権法の第2次改正法案は,7月22日に代表議会,28日に国民議会において可決されたが,8月14日,憲法第113条第3項に基づきバンダリ大統領によって待機期間の削除や両性の不平等に係る「15項目の懸念と提案」とともに議会に差し戻された。憲法第113条第3項は「大統領が,財政以外の法案について意見を述べた場合,同意のために提出された法案が再検討を必要とする場合,大統領は法案の提出日から50日以内に,その法案が作成された議会に文書と共に差し戻すことができる」と定める。8月18日,代表議会は大統領の懸念と提案を議論することなく再び可決した。29日,バンダリ大統領はNCとCPN-UMLの事務局長を別々に招き,法案についての懸念を説明した。9月2日,市民権法案は国民議会で可決され,5日に再び大統領に送付された。大統領は署名をせず,15日以内の承認を定める憲法の条項により20日に失効した。

これに関して大きく3点が指摘されている。(1)IDカードを取得するために法案の可決を待っている少なくとも50万人と見積もられる無国籍者に影響を及ぼした点,(2)大統領の職務,義務および権限に係る憲法第66条第2項における大統領の儀礼的役割の範疇を逸脱した点,そして(3)法案が承認のために議会から大統領に再送された場合,大統領は15日以内に法案を承認しなければならないとする憲法第113条第4項に違反した点,である。憲法専門家ディネシュ・トリパティは,「私たちは憲法上の危機に直面している。大統領は議会に反対することはできない。議会で可決された法案を承認することは義務である」と述べた(Outlook,2022年9月21日)。

他方で,大統領の承認拒否は,法案がもつ差別性を明らかにしたと評価する声もある。法律専門家ジベシュ・ジャーは,問題点として,ネパール人男性と結婚した外国人女性の市民権の取得が容易であり,その柔軟性が悪用される可能性がある点,逆に,ネパール人女性と結婚した外国人男性の市民権取得には待機期間が設けられ,両性の不平等がある点を指摘した(Nepal Live Today,2022年10月11日)。

8月14日に大統領が法案とともに返送した「15項目の懸念と提案」では,ネパール人と結婚した外国人の市民権取得に7年の待機期間の設定を推奨する代表議会の国務・グッドガバナンス委員会の報告書が考慮されなかったことへの懸念が示され,主に平等権(憲法第18条)の観点からの法案の見直しが要望されていた。ネパール憲法第11条第2項(b)は,ネパールの市民権を持つ父親または母親から生まれた子に,憲法第11条第5項は,ネパール人の母親と身元不明の父親の間に生まれた子にも,市民権の取得を認めている。しかし,法案では母親に対してのみ「自己申告書」に父親の身元の記載を求め,父親が身元不明の場合は身元不明である旨を宣言するよう定めている。また,ネパール人男性と結婚した外国人女性は,出身国の市民権を放棄するプロセスを開始した直後に市民権を取得できる一方で,ネパール人女性と結婚した外国人男性は,15年間継続して住み,ネパールで話されている言語を習得し,経済的,社会的分野でネパールに貢献した場合にのみ帰化できるとし,両性の不平等を内包している。

上記に加え,一部のメディアでは,7月22日の採決が275人中45人の議員のみが出席するなかで実施された点,法案採決がダハールCPN-MC議長の訪印の5日後になされた点,採決翌日の23日にダハールが「法案の可決により,マデシの人々に市民権の約束を果たすことができた」と宣言した点に触れ,与党が,2007年のマデシの自治権要求への連帯表明や2015年の非公式の国境封鎖を通してマデシの活動を後押ししてきたインドをなだめるための戦術だったのではないかという憶測も流れた。

9月21日,与党NC,CPN-MC,CPN-USは,バンダリ大統領を非難する声明を発表した。翌22日,弁護士ら複数の主体が異議を唱える令状の請願を最高裁判所に提出した。同日,裁判所は大統領府に理由提示命令を出した。他方,最大野党のCPN-UMLはこの法案は国益を損ねると述べ,大統領を支持した。

経 済

マクロ経済の概況

政府がネパール暦2079年ジェト(2022年5月)に発表した『経済白書(2021/22)』によれば,COVID-19の流行以前は6%台だった経済成長率は,2019/20年度に30年ぶりのマイナス成長(マイナス2.37%)を記録したものの,2020/21年度に3.8%,2021/22年度には4.25%に回復した。第一次産業,第二次産業,第三次産業は,それぞれ2.4%,10.3%,5.9%の成長であった。各部門がGDPに占める割合は,前年度の25.5%,13.1%,61.4%に対し,24.5%,13.7%,61.8%で,第一次産業の割合が減少し,第二次・三次産業が微増している。

ネパール中央銀行によれば,COVID-19後の需要主導の回復により2021/22年度の輸入額は2019/20年度の約1.8倍の1733億4830万ルピーになった。伝統的な外貨収入源である送金については,コロナ禍で減少していたものの,7~10月の送金総額が前年同期間の16.8%増に相当する2810億5000万ルピーに増加した。主要産業である観光業では,10月時点での観光客の総数が前年度313%増の47万322人となり,改善を見せた。

ウクライナ紛争により米ドルが上昇した結果,3月に米ドルに対するネパール・ルピーの為替レートは122.25ルピーとなった。その後も下落を続け,10月には131.47ルピーになった。これにより,輸入に頼る石油,大豆・パーム油,鉄・鉄製品,穀物などの価格が高騰した。消費者物価上昇率(前年比)は,1~2月期の5.97%から9~10月期の8.50%になった。6月20日,ネパール石油公社が再びガソリンとディーゼル1リットルの価格をそれぞれ12%,16%引き上げたことを受け,カトマンドゥでは学生の抗議活動が行われ,警察が催涙ガスを発射し解散させる騒動に発展した。

2021/22年度の最初の10カ月間の輸入額は,前年度比で28%増の1兆6046億5250万ルピーに達し,外貨準備の取り崩しを余儀なくされた。ネパール中央銀行の統計によると,総外貨準備高は2021年7月中旬の1兆3990億ルピーから2022年3月中旬には16.3%減少して1兆1710億ルピーとなった。

外貨準備高減少への対応としての輸入禁止措置

政府は,スリランカの経済危機を目の当たりにし,貿易赤字の拡大,国際収支赤字の急増,外貨準備高の減少に対応するために,3月6日,金の輸入割当を引き下げた。また,4月26日から7月16日までの期間に高級品の輸入を禁止する措置をとった。禁止対象品は,自動車,酒類,たばこ製品,ダイヤモンド,250ccを超えるオートバイ,高価な携帯電話や大型のTVセット,スナック菓子,あらゆる種類の玩具,化粧品などである。8月下旬,政府は禁止を緩和し,自動車,高価な携帯電話,酒類のみを禁止対象とした。新たな措置の実施は当初10月13日までとされたが,後に12月15日まで延長された。これにより外貨準備高は改善し,中央銀行によると2022年12月中旬の総外貨準備高は,2022年7月中旬の1兆2150億ルピーから6.3%増加して1兆2920億ルピーに回復した。しかし,輸入禁止措置は持続可能ではなく,貿易赤字を縮小させるための抜本的な対策を求める声があがっている。

2022年9月のアジア開発銀行(ADB)Nepal: Macroeconomic Updateによれば,輸入の増加を抑制するための金融引き締め政策,外貨準備高の大幅な減少,インフレ圧力により,2023会計年度の経済成長率は2022年度の5.8%から4.7%に減少すると予測された。

対外関係

MCCの批准

2月末に議会の批准の期限が迫っていたアメリカの開発援助ミレニアム挑戦公社(MCC)の補助事業は,2月27日,議会の外で1500人ものデモ隊と警察が衝突するなかで批准をみた。

MCCの補助事業は,老朽化した道路網の整備や電線を建設することを目的とし,2017年9月にオリ政府とアメリカとの間で合意された。この合意は,2019年6月末までに議会で承認されるはずだったが,MCCを中国に対抗するアメリカのインド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy: IPS)の一部とみなすダハールCPN-MC議長らの反対にあい,批准に至らなかった。当時の連立政権下では,デウバ首相は批准を望んでいたが,連立パートナーであるCPN-MCとCPN-USが反対したため,与党同盟は分裂の危機に瀕していた。

2022年2月3日,2021年9月29日付のデウバ首相とダハールCPN-MC議長がアメリカに送付した共同書簡の内容が,首相官邸に近い情報源からそれを入手した現地メディアのNepal Live Todayによって公開された。ダハールは,「帝国主義」プロジェクトとしてMCCの補助事業を批判する一方で,書簡では批准を約束し,承認まで4〜5カ月の猶予を求めていたことが明らかになり,その二枚舌が露呈した。

2月16日,ダハールCPN-MC議長はデウバ首相に,MCCの補助事業がすべての連立パートナーの同意なしに議会に提出された場合,CPN-MCは連立政権を離脱すると伝えた。17日,両党は,MCCの補助事業への合意をはかるために全党会議を開催したが,合意は得られなかった。

2月25日,デウバ首相は,MCC補助事業の批准を確実にするために,オリCPN-UML議長宅を訪れた。CPN-UMLのプラディープ・クマール・ギャワリによれば,デウバ首相は,かつて民主主義のために共闘したNCとCPN-UMLが主要な政策課題について議論する必要性を示し,オリCPN-UML議長も「首相が早期に選挙に臨む決定をした場合,我々は支持する」と応じたという。

野党党首と手を組もうとするデウバ首相の動きは,MCCの補助事業の批准を実現するという決意の表れであり,批准に反対してきたCPN-MCやCPN-USに対し,与党同盟の分裂を警告するものとなった。

NCがMCCの補助事業の批准に向けてCPN-UMLに接近したことを受けて,2月26日,両共産党は,NCとの同盟を保持するために,MCCの補助事業に対するネパール側の理解を説明する12項目の「解釈宣言」を採択することを条件に,賛成票を投じることを決めた。同宣言は,(1)MCCの補助事業は開発援助であり,IPSを含むいかなる戦略的,軍事的,ないし安全保障上の同盟の一部ではない,(2)ネパール憲法がMCCとの合意文書やその他の関連協定に優先する,(3)MCCの補助事業が国益に反するものであれば,ネパールはそれを終了させることができる等を明記している。ダハールCPN-MC議長もネパールCPN-US議長も,12項目の「解釈宣言」は単なる政治的姿勢の表明にすぎないことを知っていたが,前年9月以来,MCCの補助事業への抗議を扇動してきた党幹部を落ち着かせるためにそれを必要とした。

アメリカは,「解釈宣言」は問題ではないとし,プロセスを前進させることに合意した。3月1日,アメリカはネパール連邦議会の決定を承認し,MCCの補助事業5億ドルに1億3000万ドルを追加支出することを表明した。

MCCの批准をめぐるアメリカ,中国の攻防

2月9日,アメリカ大使館は,ネパール国内の懸念を払拭するためMCCの補助事業は「アメリカ国民からの贈り物であり,ネパールに雇用とインフラをもたらし,生活を改善する両国間のパートナーシップである」と述べ,IPSとは無関係であることを強調した。10日,デウバ首相,ダハールCPN-MC議長,オリCPN-UML議長と個別に電話会談を行ったドナルド・ルー米国務省南・中央アジア局国務次官補は,MCCの補助事業が議会から承認されなければ,ネパールとの二国間関係が見直されると最後通告を出した。ルーは,ダハールに対しデウバ首相とともにMCC本部に送った共同書簡について触れ,2月28日までにMCCの補助事業を承認するよう促した。また,承認が拒否されることがあれば,アメリカは中国の圧力を疑うと伝えたともいわれる。

他方,中国はアメリカを公に批判し,MCCの補助事業の批准阻止に動いた。1月30日,宋濤中国共産党中央対外連絡部部長はダハールCPN-MC議長とのオンライン会談において「一帯一路」を推進する意思があると述べた。2月18日,中国外交部の汪文斌報道官は,ネパールの主権と利益に反する強制的な外交に反対すると述べ,アメリカを批判した。23日,中国外交部の華春瑩報道官は,アメリカの設定したMCCの補助事業の期限に触れ,中国は強制的な外交に反対し,ネパール国民が独自の発展経路を選択するのを支援すると述べた。同日,宋は,オリCPN-UML議長,ネパールCPN-US議長とオンラインで会談し,中国はCPN-UMLなどのネパールの主要政党との当事者間交流の強化を重視するとともに,従来どおりネパール国民の独立した開発経路を支援し,国家主権と安全保障上の利益を守り,経済社会開発のために最大限の支援を提供し続けると述べた。オリは,中国は良き隣人であり,良き兄弟であると応答したという。また,陳周中国共産党中央対外連絡部副部長もネパールCPN-US議長とオンライン会談を行った。陳は,「一帯一路」下で協力し,健全で安定した二国間関係の推進をはかるとし,ネパールは,「一つの中国」の原則に則りネパール国内での反中国分離主義活動を許さないと述べたという。

米中両国のはたらきかけが激化するなかで,噂や偽情報がオンライン,オフライン双方で広まり,混乱を引き起こした。YouTubeにはMCCの補助事業を「ネパールを罠にかけ,中国を包囲するためのアメリカの策略」と呼ぶものもあった。

MCCの補助事業は結果的に批准をみたが,米中双方との関係において禍根を残したという指摘がある。中国にとって,MCCの補助事業の批准は,2020年のネパール共産党(CPN)の分裂回避工作の失敗,「一帯一路」の遅れに加えてネパールに対する中国の影響力低下を認識させた。他方,MCCの補助事業の批准を求めたアメリカの威圧的な姿勢は,民主的なアメリカのイメージを損ねた。オリ元首相の外交政策顧問ゴパール・カナルは,長引くMCCの補助事業の議論はネパールのイメージも悪化させており,今後の他国からの援助獲得に悪影響を与えかねないとの懸念を示した(The Diplomat,2022年3月14日)。

MCC批准後の中国の動き

3月25~27日,王毅国務委員兼外相が南アジア4カ国歴訪の最終目的地として来訪した。王は滞在中,MCCの補助事業への言及を避けた。両国は,経済・技術協力,国境を越えた鉄道の実現可能性調査のための技術支援,電力網相互接続の実現可能性調査に関する協力,ネパールへのCOVID-19ワクチン支援等9つの協定に署名した。また,中国によるネパール国境侵犯疑惑について共同査察を実施することに合意した。しかし,「一帯一路」に関する協定に署名はなされず,補助金・融資条件等について交渉が続けられることになった。今回の来訪は,中国共産党第20回大会に先立ちアメリカの影響力の高まりに対する懸念を払拭するために両国関係を強化すること,5月の地方選挙を含めたネパール国内政治を見極めることが目的であったとみられる(The Diplomat,2022年3月30日)。

7月10日,劉建超中国共産党中央対外連絡部部長が来訪した。劉が6月の第1週に部長に就任して以来,最初の海外訪問先となった。代表団は,バンダリ大統領,デウバ首相,ナラヤン・カドカ外務大臣,オリCPN-UML議長,ダハールCPN-MC議長と面会した。今回の来訪は前任者と同様,中国がネパールを重視している姿勢を示し二国間関係の強化をはかるねらいがあったとされる。他方,8月9~11日,カドカ外相が王毅国務委員兼外相の招待で中国を訪問した。前年7月のデウバ政権発足以来初の中国へのハイレベルの公式訪問になった。8月10日,カドカ外相は,王毅国務委員兼外相と会談し,「一帯一路」の推進,「一つの中国」の支持について両国の変わらない姿勢を確認した。

9月12~15日,アグニ・プラサド・サプコタ代表議会議長の招待で中国共産党序列第3位の栗戦書全国人民代表大会常務委員会委員長が来訪した。両国は,国会議員によるハイレベルの相互訪問を促進する議会間協力に関する6項目の覚書に署名した。また,「一帯一路」下での事業推進というネパールの要望と引き換えに,中国は「一つの中国」への支持を求めた。

相次ぐ中国高官の来訪は,2021年にCPNが分裂したことへの中国側の動揺が続いていることの表れであり,11月の代表議会(連邦議会下院)および州議会選挙前にアメリカ,インドに対抗し,両国関係の強化をはかるねらいがあるとみられている。

MCC批准後のアメリカの攻勢

2022年はアメリカとの国交樹立75周年という記念の年であった。そのようななか,MCCの補助事業批准後の相次ぐ高官の来訪が,アメリカがネパールをIPSに参加させる思惑の表れであるとの憶測を呼んだ。

4月22日,カーステン・ギリブランド上院議員率いるアメリカ議会チームが3日間の予定で来訪した。代表団は,デウバ首相やオリCPN-UML議長と会談したが,サプコタ代表議会議長,ダハールCPN-MC議長,ネパールCPN-US議長とは会談しなかった。ワシントンDCに本拠地を置くシンクタンク,ネパール・マターズ・フォー・アメリカの創設者アニル・シグデルは,今回の訪問には,(1)MCCの補助事業の円滑な実施のための環境を作り出すこと,(2)中国,インド両国がロシアの侵略を明確に非難することを拒否するなかでネパールが両国に傾かない確証を得ることの2つの目的があったと分析する。前者についてアメリカは,連立政権を組む共産主義勢力によってMCCの補助事業に対する抗議行動が扇動された事実を重く受け止めたという(The Annapuruna Express,2022年4月27日)。

対中関係に影響を及ぼすとして物議を醸したのが,5月20日のアメリカのウズラ・ゼヤ米国務次官(民間安全保障・民主主義・人権担当)の来訪である。ネパールが「一つの中国」への支持を表明するなか,ゼヤが来訪前の滞在先インドでダライ・ラマらチベット指導者と会談し,デウバ首相との会談前日の21日にはジャワラケルのチベット難民キャンプを訪問したことから,波紋が広がった。ゼヤの到着に先立ち,中国の侯艶琪駐ネパール大使はバル・クリシュナ・カンド内務大臣と会談し,「一つの中国」を尊重するよう求めていた。ネパール側は,アメリカ側にチベットの難民問題に触れないように伝えたが,果たされなかった。党の会合の場でオリCPN-UML議長は,非同盟主義というネパールの価値観と規範は,ゼヤの訪問中に損なわれたと批判した。

注目を集めたのが国家パートナーシップ・プログラム(State Partnership Program: SPP)であった。SPPはアメリカ各州の州兵と協力パートナー国との間の交流プログラムである。その協力分野は人道支援と災害救援,テロ対策,平和維持活動,合同軍事訓練等を含み,パートナー国は80カ国以上にのぼる。2015年10月,オリ政権下でネパールは,同年4月の地震被害に対処するためにアメリカに人道支援を求めSPPへの参加を申請し,2019年に承認された。しかし正式な手続きはなされておらず,アメリカ側から草案への署名を求められていた。SPPは議会での承認の必要がなかったため,当時,話題となることはなかったが,MCCの補助事業批准後のアメリカの活発な外交活動を警戒する世論のなかで注目を集めた。非同盟主義の観点から離脱を求める声が与野党内から噴出し,2022年6月20日,政府はSPPからの離脱を決定した。23日,この決定に対し,中国外交部の汪文斌報道官は「戦略的協力パートナーとして中国はネパール政府の決定を称賛する」と述べた。ネパールの離脱決定は,アメリカへの接近を良しとしない中国を安堵させる結果となった。

インドとの関係

デウバ政権下でインドとの関係修復がはかられるなか,2019年以来解決をみていない領土問題が再燃したものの,両国関係は改善に向かった。

2021年12月30日にインドのモディ首相が,選挙集会でネパールとの係争地になっているリプレクを通る道路を拡張すると発言した。2022年1月11日にCPN-UMLが,14日にNCがそれぞれモディ首相の発言を非難する声明を発表した。15日,インド大使館は,国境問題に関するインドの立場は「よく知られており,一貫性があり,明確である。未解決の国境問題は確立されたメカニズムを通じて解決される」と応答した。インドとの関係を悪化させたくないデウバ首相は沈黙を保っていたが,抗議を求める与野党双方の声の高まりを受け,16日,インド政府に対し,係争地を経由する道路の一方的な建設拡張を停止するよう求めるプレスリリースを発表した。

4月1日から3日にかけて,デウバ首相は,国境問題による関係悪化の改善,経済関係の強化を探るため訪印した。デウバ首相とモディ首相は会談で国境問題について触れ,緊密で友好的な関係の精神で議論と対話を通じて責任ある方法でこれに対処し,問題の政治化を回避する必要があるという理解で一致した。また,ネパールにおける発電プロジェクトを共同で開発するとともに,国境を越えて送電線を配置し,双方向の電力輸出入を行うことに合意した。

5月16日,デウバ首相の招待によりモディ首相が仏陀生誕祭にあわせてルンビニを公式訪問した。到着後,両首相は仏陀の生誕地であるマヤデヴィ寺院を訪れた。両首相は会談を行い,4月2日の首脳会談の内容をフォローアップし,文化,経済,貿易,連結性,エネルギーおよび開発パートナーシップ等における協力を強化するための具体的なイニシアティブについて議論した。6月23日には,両国の文化的結びつきの深化を企図したニューデリーとジャナクプル間の巡礼地に停車するバーラト・ガウラブ観光列車の運行が開始された。

7月15日から17日に,ダハールCPN-MC議長が,インド人民党(BJP)の招待で訪印した。この訪問は,BJPと海外のさまざまな政党の指導者との交流を目的とした「BJPを知る」イニシアティブ下で実施されたが,デウバ首相のもとで改善された両国の親善,外交,貿易,文化の結びつきを維持することが狙いだったといわれている(Spotlight,2022年7月17日)。滞在中,ダハールCPN-MC議長は,インドのS・ジャイシャンカル外務大臣と会談した。

8月18日,4月,5月の両国首相の会談が実り,西セティ電力プロジェクトおよびセティ川プロジェクトの覚書きが締結された。このプロジェクトは,1981年から実施が検討され,直近では2018年に中国三峡集団の子会社である中国CWE投資公司が,移転と再定住に係るコストが高すぎ財政的に実行不可能であるとして撤退を決めた。同プロジェクトが,二国間の貿易と投資の拡大,強化につながることが期待されている。

2023年の課題

2023年のネパール政治の課題は,年末に劇的に発足したダハール政権のもとで国民の政治不信を払拭し,安定的な政治運営を実現させることにある。1月にはダハール首相の信任投票が控えている。事実上,選挙同盟を裏切られたことになるNCがどのような対応をとるのか,多数の政党で構成される連立政権をダハール首相がどのように束ね,合意形成をはかっていくのかに注目が集まる。また,2023年3月13日にバンダリ大統領が任期満了を迎える。2023年3月9日に実施予定の大統領選挙で誰が選出されるのかも注目に値するだろう。

経済においては,貿易赤字の増大,インフレの激化,外貨準備高の減少に効果的に対処し,安定的な経済成長を達成できるような政策の実施が期待される。

対外関係では,ネパールを舞台に攻防を続けてきたアメリカ,中国,そして,インドとどのような関係を構築するのかが注目される。2022年に積極的な外交を展開してきたアメリカの関与がダハール首相の任期中に減速する可能性があるという報道もある。また,中国は,ダハール政権の誕生を好機と捉える一方で,インドはダハール首相への信頼が薄く,デウバ政権下で改善した両国関係が後退することに懸念を抱いているとの見方もある。ダハール首相の外交手腕が問われる。

(福岡県立大学人間社会学部教授)

重要日誌 ネパール 2022年
   1月
6日 ビラトナガルのラニ税関近くの橋が崩壊。ネパール向けの商品を運ぶトラックがインド側で立ち往生。
16日 政府,12月30日のナレンドラ・モディ印首相の係争地リプレクを経由する道路拡張建設についての発言を受け,一方的な拡張の停止を求めるプレスリリースを発表。
24日 商業銀行運営者の組織であるネパール銀行協会,6000人以上のスタッフが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染し,100を超える支店が閉鎖されたと発表。
25日 国際協力機構(JICA)とネパール政府,経済成長と強靭化のための政策融資に最大100億円(103億9000万ルピー相当)の円借款を供与する契約を締結。
26日 国民議会(連邦議会上院)選挙,実施。
   2月
2日 ネパール石油公社(NOC),燃料価格を2021年11月に続き再び引き上げ,ガソリン,ディーゼル,灯油の価格が史上最高を記録。
7日 政府,選挙管理委員会の勧告に従って,5月13日に地方選挙を行うことを決定。
9日 駐ネパール米大使館,開発援助ミレニアム挑戦公社(MCC)の補助事業は純粋な補助事業であると発表。
10日 ドナルド・ルー米国務省南・中央アジア局国務次官補,シェール・バハドゥール・デウバ首相,プスパ・カマール・ダハール・ネパール共産党毛沢東主義センター(CPN-MC)議長,KPシャルマ・オリ・ネパール共産党統一マルクスレーニン主義(CPN-UML)議長と個別に電話で会談。MCCの補助事業が議会で承認されなければ,ネパールとの二国間関係が見直されると警告。
13日 与党同盟の議員,チョレンドラ・シャムシェール・ラナ最高裁長官の解任を要求する弾劾動議を連邦議会事務局に提出。
13日 ラナ最高裁長官,弾劾動議により停職処分を受ける。
16日 ダハールCPN-MC議長,デウバ首相に,すべての与党パートナーの同意なしにMCCの補助事業が議会に提出された場合,CPN-MCは政権を離脱すると伝える。
18日 中国外交部の汪文斌報道官,中国はネパールの主権と利益を犠牲にするアメリカの「強制外交」に反対すると発言。
19日 NOC,燃料価格を再び引き上げ,ガソリン,ディーゼル,灯油の価格が史上最高を更新。
23日 中国外交部の華春瑩報道官,中国は「強制外交」に反対し,ネパール国民が独自の発展経路を選択するのを支援すると発言。
23日 宋濤中国共産党中央対外連絡部部長,オリCPN-UML議長,マダブ・クマール・ネパール・ネパール共産党(統一社会党)(CPN-US)議長とオンラインで会談。
23日 陳周中国共産党中央委員会国際部副部長,ネパールCPN-US議長とオンライン会談。
25日 デウバ首相,MCCによる補助事業の批准を担保するためにオリCPN-UML議長宅を訪問。
27日 代表議会(連邦議会下院),MCCの補助事業を承認。
   3月
6日 政府,金の輸入割当を引き下げ。
6日 代表議会,ラナ最高裁長官の動議を検討するための弾劾勧告委員会を結成。
8日 ネパール・ルピーの為替レート,米ドルに対し過去最低を記録。
9日 金の価格,ネパールの宝飾品市場で記録的な高値を付ける。
15日 政府,連邦議会両院の進行中の会期を延期。これにより,ラナ最高裁長官に対する弾劾動議が行き詰まる。
25日 中国の王毅国務委員兼外相,パキスタン,アフガニスタン,インドを巡行後に来訪(~27日)。
26日 ナラヤン・カドカ外務大臣,中国の王国務委員兼外相と会談。さまざまなプロジェクトに関連する9つの協定に署名。
   4月
1日 デウバ首相,国境紛争による関係悪化の改善,経済関係の強化を探るため訪印(~3日)。
13日 世界銀行,南アジア地域の国々の経済成長に関する最新のアップデートで,2022年度のネパールの年間経済成長率を3.7%と予測。
22日 カーステン・ギリブランド上院議員率いる米議会チーム,来訪。
26日 政府,7月16日まで高級品の輸入を禁止。
   5月
13日 2015年憲法が公布されて以来2度目となる統一地方選挙,実施。
16日 インドのモディ首相,デウバ首相の招待により来訪。
20日 ウズラ・ゼヤ米国務次官(民間安全保障・民主主義・人権担当),来訪。
21日 ゼヤ国務次官,ジャワラケルのチベット難民キャンプを訪問。チベット問題を扱う複数の人権活動家とも会談。
29日 ジャナルダン・シャルマ財務相,2022/23年度の年間予算計画を発表。
   6月
1日 ネパール商工会議所(NCC),日本政府に対し,ネパールの水力発電,道路,観光部門への日本の投資を可能にする環境を作り出すよう要請。
9日 チャールズ・フリン米太平洋陸軍司令官(陸軍大将),4日間の予定で来訪。
10日 フリン陸軍大将,ビディヤ・デヴィ・バンダリ大統領,デウバ首相,プラブ・ラム・シャルマ陸軍参謀総長将軍と会談。
13日 アメリカ主導の国家パートナーシップ・プログラム(SPP)に関連し,州兵とネパール軍の合意文書とされる文書がリークされる。
14日 米大使館,メディアの報道に対し漏洩した文書は偽物である,アメリカはネパールに署名や参加の圧力をかけたことは一度もないとTwitterで反論。
15日 米大使館,SPPに関するファクトシートを発表。
16日 オリ政権下で当時のラジェンドラ・チェトリ陸軍参謀総長がアメリカに送った書簡がメディアでリークされる。
20日 政府,SPP離脱を決定。
23日 中国,ネパールのSPP離脱を称賛。
23日 新たに任命されたナヴィーン・スリバスタヴァ駐ネパール・インド大使,就任前にバンダリ大統領に信任状を贈呈。デウバ首相を表敬訪問。
   7月
1日 6月27日からアメリカを公式訪問しているプラブ・ラム・シャルマ陸軍参謀総長将軍,国連本部を訪問しビラメ・ディオプ軍事局軍事顧問らと会談。
1日 ネパール電力公社(NEA),1年以内にカトマンドゥからすべての電柱を撤去すると発表。
3日 ネパール政府がSPP離脱の決定を米政府に通知していないことが明らかになる。
5日 内閣会議,2018年に登録された市民権改正法案を撤回し,新法案を登録することを決定。9日に代表議会は旧法案を撤回し新法案を登録。
6日 汚職疑惑で野党の追及があったシャルマ財務相,辞任。31日に証拠不十分で再び大臣に任命される。
8日 ナワルパラシ地区を本拠地とするパルパセメント,インドへのセメントの輸出を開始したと発表。
10日 劉建超中国共産党中央対外連絡部部長,来訪。
12日 ウペンドラ・ヤダブとバブラム・バッタライ,別々に中央執行委員会を招集し,人民社会党ネパール(JSPN)は事実上の分裂。
14日 ネパールと中国,数カ月間停止されていたラスワガディ国境地点を経由した貿易活動を再開することで合意。
15日 ダハールCPN-MC議長,与党インド人民党(BJP)の招待でインドを訪問(~17日)。
15日 代表議会,プシュパ・ブサルNC議員を下院副議長に選出。
20日 外務省,ネパールがいまだSPPから離脱していないことを認める。
22日 代表議会,市民権法第2次改正案を可決。
28日 国民議会,市民権法第2次改正案を可決。
28日 ルー米国務省南・中央アジア局国務次官補,来訪。翌29日にデウバ首相を表敬訪問,カドカ外相と会談。
29日 カドカ外相,7月25日に外務省が外交ルートを通じて米政府にSPP離脱の書面を送付したことを代表議会に報告。
   8月
4日 政府,11月20日に代表議会選挙を実施することを決定。
7日 政府,観光都市ポカラに新たに建設された空港を3番目の国際空港として2023年1月1日から運用を開始することを決定。
9日 カドカ外相,中国の王国務委員兼外相の招待で中国を訪問(~11日)。
10日 王国務委員兼外相,ケルン=カトマンドゥの鉄道敷設の実現可能性調査を実施するための資金援助を発表。また,ネパールの主権,独立,領土保全に対する中国の継続的かつ無条件の支援と連帯について語り,ネパール政府の優先事項に従ってネパールの開発努力に支援を提供することを約束。
10日 中国,ネパールへの通知なしにCOVID-19患者数の増加を理由にタトパニとラスワガディの国境地点を再び閉鎖。
14日 バンダリ大統領,市民権法案を「15項目の懸念と提案」とともに議会に差し戻し。
18日 代表議会,大統領の懸念事項と提案を議論することなく市民権法案を再び可決。
18日 ネパール政府,インドと電力プロジェクの覚書きを締結。
22日 米大使館,世界的な食糧危機に対処するために米政府がネパールに1500万米ドルの援助を提供する旨の声明を発表。
22日 ネパールのエク・ナラヤン・アリヤル労働長官とニコラ・ポリット駐ネパール英国大使,看護師をイギリスに派遣する協定に署名。
24日 代表議会の弾劾勧告委員会,8月31日に,弾劾動議の尋問のために停職中のラナ最高裁長官を召喚することを決定。
30日 ネパールの大手送金会社IME Limitedとインドのパタンジャリアーユルヴェーダ,パートナーシップ契約を締結。
   9月
2日 国民議会,市民権法案を可決。
8日 選挙管理委員会,11月20日の代表議会選挙と地方選挙のスケジュールを承認。
12日 中国の栗戦書全国人民代表大会常務委員長,アグニ・プラサド・サプコタ代表議会議長の招待で来訪(~15日)。
19日 各政党,比例代表(PR)候補者のクローズドリストを選挙管理委員会に提出。
20日 市民権法案,大統領の署名を得られず失効。
21日 NC,CPN-MC,CPN-US,バンダリ大統領を非難する声明を発表。
21日 アジア開発銀行(ADB),2022/23会計年度のネパールの経済成長率を4.7%と予測。
22日 弁護士ら,大統領に異議を唱える令状の請願を最高裁判所に提出。
  10月
8日 JSPN,CPN-UMLと選挙同盟を締結。
9日 代表議会275議席のうち小選挙区の65議席に対する立候補受付け。
11日 選挙管理委員会,代表議会の小選挙区の候補者2526人を発表。57の政党が1583候補(うち女性150人)を擁立。また,無所属候補者は,全体の約37%にあたる943人(男性858人,女性85人)と発表。
20日 ネパール・ルピー,米ドルに対して前月比3.3%減の131.42ルピーとなり安値を更新。
30日 ネパール国税庁,貿易赤字が会計年度最初の7月中旬から10月中旬にかけて3591億7800万ルピー増加したと発表。
  11月
10日 全国の自動車ディーラーを傘下に収める自動車協会(NADA Automobiles Association of Nepal),高級品の輸入禁止措置により,58の事業所が閉鎖され,100の事業所が閉鎖の危機に瀕していると発表。
11日 中国文化・観光部の李群副部長,5日間の日程で来訪。2015年の地震で被害を受けた文化遺産を視察。
14日 ラビ・ラミチャネ国民独立党(RSP)党首の立候補の取り消しを求める訴状が,チトワンの地区選挙事務所に提出される。
20日 2015年憲法公布以来,2回目となる代表議会および州議会選挙,実施。
20日 武井俊輔外務副大臣率いる選挙監視団,代表議会・州議会選挙の選挙監視のため来訪(~21日)。
24日 オリCPN-UML議長,ダハールCPN-MC議長に電話し,政治協力を提案。
  12月
7日 連邦議会事務局,最高裁判所に書簡を送り,連邦議会に登録されている停職中のラナ最高裁長官に対する弾劾動議は,11月20日の代表議会選挙の完了とともに無効になったと伝える。
7日 ラナ最高裁長官,職務に戻ると述べたが,裁判所には現れず。
7日 最高裁判所弁護士会,最高裁判所に,ラナ最高裁長官に対する弾劾動議の無効と停職を取り消す連邦議会事務局の決定を見直す訴状を提出。
7日 選挙管理委員会,小選挙区の集計結果を発表。
15日 選挙管理委員会,バンダリ大統領に選挙報告書を提出。
20日 CPN-MCの党中央委員会,セクシャルハラスメントで告発されたバドリ・バジゲイン党中央委員会委員の職務を停止。
21日 デウバ,ガガン・タパNC書記長との党首選挙の結果,NC党首に選出される。
21日 デウバNC党首,首相の任期を半分ずつ務めるというダハールCPN-MC議長の提案を拒否。
21日 JICA,ドルマ・ファンド・マネジメントが運営するプライベート・エクイティ・ファンドであるドルマ・インパクト・ファンドと1000万米ドルの投資契約を締結。
22日 新たに選出された代表議会議員,就任の宣誓。
25日 バンダリ大統領,ダハールCPN-MC議長を首相に任命。
26日 ダハール首相,3人の副首相と他の4人の大臣を指名。
27日 中国のケルン=カトマンドゥ鉄道プロジェクトの実現可能性調査チーム,来訪。
28日 中国,ラスワガディ国境地点の開放を許可。

参考資料 ネパール 2022年
①  国家機構図(2022年12月末現在。一部は「ネパール憲法2015」の規定による)
②  政府要人および第3次ダハール内閣(2022年12月末)の閣僚

(注)*は女性。氏名の後のカッコ内は所属政党。

CPN-UML:ネパール共産党統一マルクスレーニン主義

CPN-MC:ネパール共産党毛沢東主義センター

RSP:国民独立党(Rastriya Swatantra Party)

(出所)ネパール政府ウェブサイト(2022年12月31日取得。https://www.opmcm.gov.np/en/cabinet/

ネパール議会上院ウェブサイト(2022年12月31日取得。https://na.parliament.gov.np/np

ネパール議会下院ウェブサイト(2022年12月31日取得。https://hr.parliament.gov.np/np

主要統計 ネパール 2022年
1  基礎統計

(注)1)2月中旬まで。

(出所)Government of Nepal, Ministry of Finance, Economic Survey 2078/79, Schedule 1.9: Composite Economic Indicators.

2  支出別国内総生産(名目価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)Government of Nepal, Central Breau of Statics, National Accounts Statistics of Nepal2021/22 Annual Estimates), Table 6: Gross Domestic product by Expenditure Approach(At Current Prices).

3  産業別国内総生産(2010/11年固定価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)Government of Nepal, Central Breau of Statics, National Accounts Statistics of Nepal2021/22 Annual Estimates), Table 5: Gross Value Added by Industrial Division (at constant 2010/11 prices).

4  対外貿易

(注)1)修正値。2)修正値。3)暫定値。4)最初の10カ月。

(出所)Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial SituationBased on Ten months’ Data Ending Mid-May, 2021/22), Table 8.Direction of Foreign Trade.

5  国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。したがって,金融収支の符号は(-)は資本流入,(+)は資本流出を意味する。1)修正値。2)暫定値。

(出所)Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial SituationBased on Ten months’ Data Ending Mid-May, 2021/22), Table 23(B) Summary of Balance of Payments as per BPM6 Ten Months.

6  国家財政

(注)1)修正値。2)推計値。

(出所)Government of Nepal, Ministry of Finance, 2022, Budget Speech of Fiscal Year 2022/23, Budget Summary Fiscal Year 2022/23 Annex-1.

 
© 2023 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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