アジア動向年報
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
はしがき
深尾 京司(ふかお きょうじ)
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2023 年 2023 巻 p. i

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はしがき

2022年は,2月にロシア軍がウクライナに侵攻したことでこれまでの国際秩序が大きく揺らぎ,緊張が高まった1年でした。軍事侵攻とそれに伴うロシアへの制裁は国際経済にも影響を与え,食料・資源価格の高騰をもたらし,多くの国でインフレが進行しました。米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の拡大など,2010年代後半に高まった不確実性はいっそう深刻化したといえます。

特に経済は,ロシア・ウクライナ戦争,世界的な金融引き締め,「ゼロコロナ」政策による中国経済の低迷などが響き,コロナ禍からの回復ペースが鈍化しました。IMFの世界経済見通し(2023年4月)によれば,アジアの新興市場国・発展途上国の経済成長率は前年の7.2%から2022年は4.4%に低下しています。

また,ロシア・ウクライナ戦争はアジア地域の安全保障にも影響を与え,台湾海峡では緊張が高まりました。中国の習近平政権は3期目に突入し,権威主義が強化されています。日米韓は同盟強化を図る一方で,多くのアジア諸国はアメリカと一定の距離を置き,インドのように独自外交路線を貫いた国もありました。

このように各国の政治,経済,対外関係では重要な変化が起きています。各国の動向を多面的に把握し,冷静かつ正確な分析を行うことが,アジア諸国・地域だけなく,混沌とする国際情勢を理解する上でも欠かせないでしょう。

アジア経済研究所では,アジア各国・地域の政治,経済,対外関係に関する動向を的確に伝えることを目的に,1970年以降毎年『アジア動向年報』を発行してきました。本年報では,各国・地域を長年観察してきた研究者が現地一次資料や現地調査に基づき現状分析を行うのみならず,その歴史的背景や意味についても明らかにし,アジアの「今」を理解するうえで有用な情報の提供に努めています。

なお,本年報は過去分を含めて研究所ウェブサイトでも閲覧可能となっています。また,既刊の年報から各章を抽出して10年ごとに1冊に束ね,各国の動向を10年単位で把握できる「各国別バンドル版」(2000~2009,2010~2019)も公開中です。本年報がアジア地域・諸国の現状を理解するための一助となることを願っています。

2023年5月

 
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