アジア動向年報
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各国・地域の動向
2023年のタイ タクシン派と保守勢力の連立政権成立
青木(岡部) まき(あおき(おかべ) まき)高橋 尚子(たかはし なおこ)
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2024 年 2024 巻 p. 261-290

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2023年のタイ

概 況

2023年8月,長年対立してきたタクシン・チンナワット元首相支持派と反タクシン派保守勢力が手を組み,連立政権を形成した。5月の下院総選挙で第1党となったのは,王制を含む現体制の改革を訴えた革新派の前進党(Move Forward Party)だった。しかし現体制の護持を使命とする連立与党,官僚・国軍,王室支持者などの保守勢力は,国会の内外から攻撃を加えて前進党を排除し,第2党となったタクシン派のタイ貢献党(Pheu Thai Party)と連携して政権にとどまった。タクシン派が保守勢力に取り込まれたことで,政治の争点はタクシン政治への賛否から現体制維持の是非に移り,保守派政権と革新派勢力の対立は先鋭化した。

経済は,長引く製造業の落ち込みから経済成長率が予想を下回る結果となった。新政権はタイ貢献党が公約で掲げた,国民に電子マネー1万バーツを配布する「デジタルウォレット」計画などポピュリスト的政策の実施に奔走する一方,中長期経済戦略の軸についてはいまだ明確にしていない。また,かねてより注視されてきた家計債務問題に中央銀行が本格的に切り込んだ。

対外関係では,1年を通じて経済外交が活発に行われた。特に9月に発足した新政権は「積極的経済外交」を掲げ,外交を通じ米中ロや日韓豪,ASEANといった国々に対してタイ向け外国投資の拡大や観光促進を訴えた。一方,安全保障分野では政権交代後も中立を保ち,ミャンマー軍事政権とも関係を維持するなど,「全方位友好」外交を継続した。

国内政治

下院選挙は政治体制改革の賛否が争点に

下院選挙では,パラン・プラチャーラット党(Palang Pracharat Party: PPRP)を核とする保守派連立政権が政権にとどまるかどうかが注目されていた。現行憲法の規定に基づき,各党は立候補登録時に最大3人の首相候補を指名し,選挙後に国会上下院合同の750人で首相指名投票を行う。軍事政権に任命された上院議員250人は,軍政の流れをくむ与党候補を支持することが確実だった。このため首相の座を獲得するには与党勢力が下院500議席のうち126議席を確保すれば良いのに対し,野党は下院の75%にあたる376議席以上が必要となる。事前の状況からはどの党も単独過半数は困難とみられており,連立をめぐる駆け引きが2022年から活発に行われた。

問題は対立軸をめぐる妥協の余地がどこにあるかであった。近年のタイ政治は,「タクシン政治をめぐる賛否」(タクシン派と反タクシン派),「選挙民主主義を支持するか否か」(民主派と軍政派)に加え,「王制を含む現体制への賛否」(革新派と保守派)という3つの対立軸が交差していた。近年は,革新派の野党・前進党が若年層を中心に支持を広げつつあった。これに危機感を抱いたPPRPなど反タクシンの保守派連立与党勢力が,2000年代を通じ対立してきたタクシン派タイ貢献党に働きかけ,「国民的和解」をうたって連携する可能性も指摘されていた。

年明けと同時に選挙戦が本格化すると,各党の公約は経済政策に集中した。タイ貢献党は2022年末に他党に先駆けて,1日当たり最低賃金の大幅引き上げ(現行300バーツ台から全国一律600バーツへ)や,「30バーツ医療制度」こと「ユニバーサル・ヘルスケア・カバレッジ」の拡充などの公約を提示した。近年の経済低迷を踏まえてタクシン政権時代を想起させる政策を掲げ,有権者に自党の政策運営能力を訴える戦略であった。これに対抗して,PPRPも2023年1月に政府が低所得者向けに発行する「福祉カード」支給金や,児童や高齢者向け手当の引き上げなどの公約を掲げた。この流れに乗るかたちで,与野党を問わず現金給付や福祉・公共政策を公約に掲げた結果,選挙戦は「バラマキ合戦」の様相を呈し,各党の経済政策は類似の内容に収斂した。なかでも話題となったのが,タイ貢献党が4月初旬に発表した,16歳以上のタイ国民全員へ電子マネー1万バーツを給付する計画である。過熱する「バラマキ」に対し,選挙管理委員会は,財源の明示を義務付けるなど警告を行った。

一方政治問題をめぐる立場は二分された。連立与党が政治問題に言及しなかったのに対し,前進党は「完全な民主主義の実現」をうたい政治体制改革を前面に打ち出した。具体的には徴兵制廃止,国軍・警察改革,刑法112条(不敬罪)や同116条(騒擾煽動教唆罪)およびコンピュータ犯罪法といった市民の政治的自由を制限する法律の改正,国民制憲会議による新憲法の制定,クーデタの違法化などである。対照的に,同じ野党でもタイ貢献党は従来から政治体制改革には慎重だった。今回の選挙公約でも,現在の対立の原因は不敬罪自体ではなくその運用にあるとし,「国王を元首とする民主主義体制」を維持したまま国民の手で憲法を改正することを主張した。現行の政治体制改革への賛否をめぐる各党の態度の違いがそのまま今回の選挙の争点となり,最終的に与野党間ではなく前進党とそれ以外の党との戦いとなることを示唆していた。

PPRPの分裂,野党の優勢

1月9日,プラユット・チャンオーチャー首相は小政党のタイ団結国家建国党(Thai Ruam Sang Chart, United Thai Nation Party: UTN)へ入党した。これまでプラユット首相は政党に属さないままPPRPの支持を受け,政権を担当してきた。しかし,PPRP党首であるプラウィット・ウォンスワン副首相との対立が決定的となり,次期選挙でPPRPの首相候補に推薦されない可能性が高まった。このためプラユットは,確実に指名を受けられる小政党からの出馬を決めたとみられる。プラユットの影響を排除したPPRPはプラウィット党首の下で党勢を整え,ウッタマー元党首,タマナット元幹事長など離党していた反プラユット派有力議員も相次いで復党した。しかし,両者の分裂による党勢の縮小は明らかだった。

プラユット首相はUTN内の支持を固めた後,任期満了日3日前の3月20日に下院を解散した。これを受け,選挙管理委員会は投票日を5月14日に決定した。4月3日から4日間の立候補受付期間に選挙管理委員会に提出された候補者数は,小選挙区が70政党4781人,比例代表が67政党1898人であった。また今回は前回選挙と異なり,小選挙区比例代表並立制が採用された(選挙制度については後述)。党の顔となる首相候補は,43政党から63人が登録された。UTNは任期満了後に暫定首相となったプラユットを,PPRPはプラウィット党首をそれぞれ首相候補として登録し,また野党陣営では前進党が党首のピター・リムジャルーンラットを,タイ貢献党は党の実質的首領であるタクシン元首相の次女・ペートーンターン・チンナワットに加え,大手不動産ディベロッパー・セーンシリの最高経営責任者であるセーター・タウィーシンら3人を候補とした。

選挙戦は野党勢力の優位が続いた。国立開発行政学院の世論調査機関「NIDAポール」の調査結果によれば,タイ貢献党は投票日直前まで支持率第1位を維持した(表1)。政権奪回を狙うタイ貢献党は,過去4年間に着々と党勢を整えてきた。2022年には対話型の政治運動「プアタイ・ファミリー」のリーダーにペートーンターンを任命し,積極的に彼女に遊説やソーシャルメディアでの発信を行わせた。露出を増やし次期首相候補としての立場を固めると同時に,タクシン元首相の党への支援継続を支持者にアピールする戦略とみられる。戦略は奏功し,ペートーンターンは首相候補として選挙直前まで支持率首位を維持した。

表1 NIDAポール「どの政党を支持するか」についての世論調査結果(%)

(出所)NIDA poll “kansamrwat khanaenniyom thang kanmueang raitraimat”(政治に関する四半期世論調査),2022年第3回から2023年第3回より筆者作成。

前進党も支持率を伸ばした。大規模な反政府集会はみられなくなったものの,2023年1月には収監中の反政府運動参加者の女性2人がハンガーストライキを開始するなど,抵抗は形を変え継続していた。変化を求める有権者は,政治体制改革路線を堅持する前進党支持に向かった。さらに,前進党はソーシャルメディア上で公約や政治集会の動画をシェアし,支持者もそれを積極的にインターネット上で拡散した。また対話型の集会や地道な選挙活動を通じて,若者から中高年,都市から地方へと広範な層へのアプローチを試みた。

野党とは対照的にPPRPは低迷が続き,プラウィット党首は首相候補ランキング外にとどまった。UTNとその首相候補であるプラユットはPPRPに比べ高い支持を受けたものの,やはり野党勢力には及ばないまま投票日を迎えた。

タイ貢献党の失速,前進党の躍進

5月14日に行われた下院総選挙の投票率は,憲政史上最高の75.71%を記録した。投票結果は,小選挙区と比例代表の双方で,前進党とタイ貢献党の野党2党が大勝し,UTN,PPRPなど連立与党はいずれも10%台以下の得票率にとどまった(表2)。有権者が政治に強く関心を寄せ,現状を拒否し政権交代を切望していることは明らかだった。さらに事前の予想を覆し,前進党が151議席を獲得して第1党となる一方,タイ貢献党が結党以降初めて首位を逃し,第2党となった。

表2 2023年5月14日下院選挙結果

(注)得票率は各党の得票数/有効投票数で筆者算出。党名の網掛けは野党。総投票数が有効投票数・無効票・白紙票の和と一致しないが,選挙管理委員会の公式発表のままとしている。

(出所)2023年5月25日選挙管理委員会発表の公式結果(https://ectreport66.ect.go.th/overview)から筆者作成。

タイ貢献党失速のきっかけを作ったのは,タクシン元首相自身だった。タクシンは2008年に家族の土地取引に関する刑事裁判で有罪判決を受けたものの,服役を拒否し,亡命先から同党に対し影響力を行使してきた。ところが2023年3月,タクシンは『日本経済新聞』の取材に対し,刑を受け入れて帰国する意思を初めて表明した(『日本経済新聞』2023年3月24日付)。タクシンは以前から不敬罪を肯定しており,2023年も同様の発言を繰り返して革新派の批判を惹起した(The Standard,2023年1月30日)。5月1日,タクシンは新聞の取材に対し「改めて帰国の許しを願う」と発言し(Prachachat thurakit,2023年5月9日),9日にはソーシャルメディア上で初めて具体的な帰国時期に言及した。これにより,かねてから噂されていた「PPRPなど保守派とタイ貢献党がタクシンの帰国と恩赦を条件に連立構想を進めている」という「取引」疑惑に批判が集中した。タイ貢献党関係者は保守派との連携を否定したものの,プラウィットやプラユットは連立を示唆する発言を繰り返した。改革志向の有権者は,民主派を標榜してきたタイ貢献党と保守派の妥協を嫌い,改革路線を堅持する前進党に票を投じた。

2022年に行われた選挙制度改正の影響も大きかった。2019年の選挙では,有権者は小選挙区比例代表併用制により小選挙区の1票しか投じることができなかった。そのため,必ずしも自らの政治志向に沿った政党を選ぶのではなく,地元有力家系が推す候補や自分と関係の深い地元候補に投票した。結果として,そうした有力候補を多く擁したPPRPやタイ矜持党,タイ貢献党が小選挙区議席を多数獲得した。一方,今回の選挙で有権者は小選挙区比例代表並立制のもと小選挙区と比例代表の2票を投じることができた。有権者は,小選挙区では前回と同様に,所属政党に関係なく地元有力候補に投票した一方,比例代表では自らの政治志向に合った政党に投票した。表2をみると,野党支持の有権者の票は小選挙区でタイ貢献党と前進党に分かれたものの,比例代表では後者が前者を大きく上回ったことがわかる。

連立をめぐる闘争で前進党を排除

前進党の躍進で終わった下院選挙だが,いずれの党も首相指名に必要な376議席には届かなかった。このため事前の予想どおり連立形成が焦点となった。2023年5月18日,前進党とタイ貢献党を核とする旧野党の民主派政党8党が,312議席を擁する連立形成を発表した。合意に至る過程では,前進党とタイ貢献党を中心に首相候補の選出,前進党の公約である不敬罪改正の是非,国会・内閣ポストの配分などをめぐり熾烈な折衝が行われたとみられる。最終的に,8党は首相候補をピター前進党党首で一本化することを決め,かわって下院議長候補はタイ貢献党と近いプラチャーチャート党党首のワンムーハマット・ノーマター(ワンノー)を立てることで合意した。また不敬罪改正について連立政党としての政策は掲げなかったものの,前進党は党公約としてこれを堅持することを宣言した。

PPRPら保守派勢力にとって王制を含む現体制の維持は使命であり,不敬罪改正を主張する前進党政権の成立は何としても阻止しなければならなかった。保守派は司法的措置を含め国会の内外から前進党を攻撃した。7月12日,選挙管理委員会はピターに対する違憲審査を憲法裁判所に請求することを決定した。これはピターが,2007年から活動休止中の放送局iTVの株式4万2000株を保有したまま,国家汚職防止委員会へ申告せずに立候補したことが,メディア企業株式保有者の立候補を禁じた憲法98条に違反するというものである(1)。さらに同日,憲法裁判所は前進党とピター党首に対する別件の違憲審査請求を受理した。これは不敬罪改正をうたった前進党の公約が,体制転覆行為を禁じた憲法49条違反にあたるというものだった(2)。憲法裁判所が(1)で違憲と判断すれば,ピターは議員資格はく奪となり,(2)で違憲となれば,前進党は解党のうえピターを含む党幹部は10年間の公民権停止の処分を受ける。

7月13日,国会上下院合同会議で第1回目の首相選出投票が行われた。ピターは唯一の首相候補だったが,賛成324票(うち上院13票),反対182票(同34票),棄権199票(同159票)で過半数には届かず,首相選出は第2回投票に持ち越された。7月19日,投票直前にUTN所属の議員が,一度否決された人物を首相候補として再提案するのは一事不再議を定める国会議事運営規則41条違反にあたるとの動議を提出した。動議は賛成395票,反対317票,棄権1,欠席44人で可決された。さらに同日,憲法裁判所がピター個人に対する違憲審査請求(上記1)を受理し,ピターの下院議員資格を一時停止する処分を下した。これにより,「ピター政権」実現への道は完全に断たれた。

タイ貢献党,民主派を離脱し保守派に合流

タイ貢献党と保守派の連立構想は7月末から初旬にかけて一気に話が進んだ。7月25日,下院議長となったワンノーが27日に予定されていた第2回首相選出投票を延期した。さらに同日,民主派8党連立の会合がタイ貢献党によって突如キャンセルされた。また政治活動家のチューウィット・カモンウィシット元下院議員が記者団に対し,タクシンと主要政党の代表者が香港で密談の末,連立組み替えで合意したと発言した。関係者は「密談」を否定したものの,タクシンと保守派の間で取引が成立したことは明らかだった。その翌日,ペートーンターンが自身のソーシャルメディアでタクシンが8月10日に帰国すると発表した。そして8月2日,タイ貢献党は8党連立から離脱しセーターを首相候補に立てるとし,8日には旧連立与党タイ矜持党(Phumjaithai Party)などの保守派5党との連立成立を発表した。後にPPRPやUTNもこれに加わり,21日には合計11党(314議席)による連立の成立が宣言された。8月22日,国会で第2回首相選出投票が行われ,賛成482票(うち上院152票),反対165票(同13票),棄権81(同68票),欠席19人で,セーターが第30代首相に選出された。

なお22日の早朝,タクシンがシンガポールから15年ぶりの帰国を果たした。タクシンはただちに刑務所に収監されたのち,体調を理由に警察病院へ移送された。タクシンは31日にワチラロンコーン国王へ恩赦を請願し,申請は同日中に承認され,タクシンに対する8年の刑期は1年に短縮された。また11月末にはプラユット元首相が枢密院顧問官に任命され,年末にはタクシンの妹で2011年の政府高官人事への不正介入容疑により裁判中だったインラック・チンナワット元首相に対し,最高裁判所政治職者刑事法廷が無罪判決を下した。一連の出来事は,保守派が権力の座に留まり,タクシン派を掌中に収めたことを改めて知らしめるものだった。

セーター内閣発足と革新派の動向

9月1日,国王が書類に署名し,新政権が正式に発足した。セーターはタイ名門家系の出身であり,国軍,官僚,大企業といった保守派ネットワークに連なる存在であることから保守勢力との関係における障壁は少ない。首相自身は個人的にタクシン一族と近い関係にあるものの,政治経験はなくタイ貢献党内の権力基盤も弱い。こうした事情から,セーターはタクシンの影響下にあり,まだ若いペートーンターンが次世代リーダーとして経験を積むまでの中継ぎとして,首相候補に推薦されたものとみられる。セーター政権の組閣は,各党の微妙な均衡のうえに成り立った事情を反映し,40ある閣僚ポストは連立11党のうち議席数の多い6党で分配された。タイ貢献党は大臣,副大臣あわせて20のポストを確保し,首相,財務相(首相が兼務),国防相などの政治的要職を押さえたものの,タイ矜持党(ポスト9)やPPRP(同4),UTN(同5)も多く入閣している(章末資料参照)。9月の施政方針演説で,セーター首相は電子マネー1万バーツ給付「デジタルウォレット」計画のほか,緊急課題として(1)農家・中小企業の債務対策,(2)電気代・燃料費の引き下げ,(3)観光収入増加,(4)憲法改正準備を掲げた。「デジタルウォレット」はタイ貢献党の目玉公約だが,莫大な財源を要することから財政への影響を懸念する財務官僚や専門家から反発の声が上がり,年内に具体的な進捗はみられなかった。もうひとつの目玉だった最低賃金の大幅引き上げも,政権と経済団体の間で意見が対立したすえ微増にとどまった(「経済」の項参照)。憲法改正や国軍改革といった政治改革に関する公約で具体的な動きはなく,むしろ施政方針演説で教育分野における「国家への忠誠」を強調するなど,保守派の影響がうかがわれた。他方でタイ貢献党の公約のうち,バンコク都市鉄道2路線の運賃上限引き下げは,9月中に実現した。このようにセーター政権の政策運営は連立各党や官僚,大企業といった勢力の利害を勘案し,合意できる範囲で政策を実施するものであり,従来のタイ貢献党の手法とは異なる。

なお施政方針演説と同日に行われた閣議では,首相を委員長とする「国家ソフトパワー戦略委員会」を設置し,副委員長にタイ貢献党のペートーンターンを任命した。同委員会はクリエイティブ産業や文化・観光産業の拡大をうたったタイ貢献党の公約を踏まえて設置されたものだが,ペートーンターンに国政の要職で経験を積ませ,指導者として存在感を高めることを狙った党の戦略を反映した人事とみられる。10月末にはタイ貢献党の党大会でペートーンターンが党首に選出され,早くも「ポスト・セーター」に向け体制固めが始まっている。

一方,新政権発足後も前進党は改革路線を堅持し,野党として2006年以降に訴追された政治犯に対する恩赦法案や,2006年から国内反体制派取り締まりを担ってきた国内安全保障維持本部(ISOC)廃止法案を国会に提出した。こうした革新派の動きに対し,司法や独立機関を押さえた保守派の攻撃は新政権発足後も続いた。9月には最高裁判所政治職者刑事法廷が,元新未来党幹部パンニカー・ワニット元下院議員に対し,13年前の行為を王室に対する名誉棄損と認め,政治家の倫理規定違反で被選挙権を終生はく奪する判決を下した。他にも前進党議員や反政府運動に参加した大学生らに対し,不敬罪による実刑判決が相次いだ。

こうした保守派の攻撃をよそに,前進党は高い支持率を維持した。NIDAポールが8月20日に発表した世論調査(回答者1310人)では,回答者の約67%がタイ貢献党と保守派との「大連立」に反対と回答した。さらに12月に2回に分けて行われた支持政党調査(回答者2000人)では,約44%が前進党支持と答え,2位のタイ貢献党(約24%)を引き離した。支持政党と同時に行った首相候補支持をめぐる調査では39.4%がピターを,22.35%がセーターの名を挙げ,ペートーンターンはわずか5.75%に急落した。多くの有権者がタクシン一族による政権の私物化や保守派との連携を拒否する一方,前進党への支持が一過性のブームではなく定着しつつある様子をうかがわせる。下院選挙とその後の連立形成過程を経て,政治の争点はタクシン支持の是非から現体制維持の問題に移り,保守派政権と革新派勢力の対立は先鋭化したといえる。

(青木)

経 済

予想を下回った経済成長率

2023年のタイの実質国内総生産(GDP)成長率は前年比1.9%と緩やかな成長にとどまった。年始の成長率予想は3.5%増であったが,期待に反して経済は低調なまま推移した。年間を通して旺盛な民間需要が経済を下支えした一方,財輸出が停滞した影響で製造業が減退を続けた。特に第4四半期には民間需要が横ばい傾向に陥ったうえ,予算編成の遅れから公共部門の投資が落ち込み,下半期の景気が下振れした。経済成長は力強さに欠け,新型コロナウイルス禍からの回復は緩慢としている。

国内総生産の生産面をみると,主力の製造業が前年比-3.2%,前年同四半期比は,2022年第4四半期から5四半期連続のマイナス成長を記録した。製造業生産指数(季節調節済み付加価値ベース,2016年=100)は年間平均で93.12(前年比-5.1%)と縮小し,四半期別にみると,特に第4四半期に大きく減退したことがわかる。製造業のなかでは自動車製造,プリント基板や記憶装置などを含めたコンピュータ・関連部品の生産が減少した。外需の悪化に加え,国内の設備投資,耐久財消費の停滞といった要因が複合的に影響した。農業は第1四半期に前年同期比6.2%の成長を遂げるが,以降は干ばつの影響で減速し,通年では1.9%成長となった。しかしながら,コメの輸出額は1781億バーツ,輸出量は876万トンと好調であった。コメの輸出先は,インド政府によるコメの一部禁輸措置から影響をうけた中東,アフリカ諸国に加えて,干ばつが発生したインドネシアのほか,マレーシア,フィリピンといった東南アジア向け輸出量が大幅に増加した。サービス業は,観光業の改善と好調な民間需要により前年比4.3%と大きく成長した。

支出面では,民間最終消費支出が前年比7.1%増と堅調であった。観光業の改善によってサービス輸出は38.3%と大きく成長したが,国際収支統計における旅行収支をみると,旅行受取は2019年の50%ほどにとどまっており,期待されていたほど観光業におけるサービス輸出の回復は進まなかった。また,主要貿易国の外需縮小の影響を受けて,財輸出は-2.8%の成長になった。総固定資本形成は1.2%増で経済の下支えをしたが,政府最終支出は新型コロナ感染症関連の事業縮小および予算編成の遅れにより-4.6%と縮小した。2024年度(2023年10月~2024年9月)予算法案は,総選挙実施と組閣の影響で執行が遅れている。予算発効は国会審議を経た2024年4月を予定しており,政府による新規プロジェクトは遅延を余儀なくされている。結果として,公共部門の公的固定資本形成は通年で-4.6%,とりわけ第4四半期は前年同期比-20.1%となり,下半期の景気回復が十分に進まない一因となった。

政策金利は,1月から小幅な利上げが実施され,9月から2013年以来の高金利となる2.5%を維持している。2023年はインフレ率も落ち着きをみせ,ターゲットインフレ率である1〜3%の範囲内にとどまるか,もしくは下回ったが,中央銀行は長期的な金融システムの安定性を確保するとして金融引き締め方針を保った。同時に,7月に発生したエルニーニョ現象による干ばつに伴う農産物価格の高騰や,新政権の消費刺激策によるインフレ圧力に警戒を続けている。

セーター首相の施政方針演説と初動

セーター首相は,2023年9月11日に議会に対し施政方針演説を行った。演説は政権の基本方針の表明であり,タイ貢献党が掲げた選挙公約の実施方針も含まれた。セーター政権は公約の実現に注力している一方,連立政権において成長戦略の長期的展望は大きく制約を受け,具体化への調整は複雑化している。以下では施政方針演説に沿ってセーター政権の具体的な動きについて言及し,その政策の効果や長期的政策の独自性が欠如する問題を指摘する。

政策方針演説の内容は主に,(1)電子マネーの配布,(2)緊急を要する課題,(3)中長期的な課題の3つに大別される。第1に,パンデミックの影響から回復できず,不況に陥っている経済を刺激するため,「デジタルウォレット」として1万バーツ相当の電子マネー配布を行う必要性を主張した。電子マネー配布はタイ貢献党の目玉公約であり,具体的にはブロックチェーン技術を用い,登録されている住居から4キロメートル以内の店舗で使用できる電子マネー1万バーツを16歳以上のタイ国民全員に配布するというものであった。この政策は,短期的には消費刺激による経済活性化を目的に掲げ,中長期的には透明性の高い電子支払いの普及によってデジタル技術発展と消費増に伴う税収増加を目指している。10月3日,セーター政権は足早に「デジタルウォレット委員会」を発足させたが,この政策に専門家から批判が相次いだ。批判の中身は,配布に必要な予算5600億バーツの財源の不透明さ,借り入れを行う場合に懸念される公的債務の増加,インフレ圧力の増大,そして,富裕層に対する経済効果の薄さなどであった。その後,経済学者や専門家99人が署名を集め,政策の廃止を求める嘆願書を提出し,セータプット中央銀行総裁も中長期的な経済効果が期待できる投資誘致を優先させるべきとの苦言を呈した。このような批判を受け,11月10日の記者会見でセーター首相は,月収7万バーツ以下かつ銀行預金が50万バーツ以下である国民約5000万人に対象を限定し,使用範囲を住民登録されている郡内へ拡大すること,予算5000億バーツは国債発行で調達すること,配布は官製の電子決済アプリ「パオタン」を通じて2024年5月から実施することを明らかにした。なお,国債発行には国会にて特別法を通す必要があり,審議は2024年に持ち越した。特別法に付随する課題は公的債務残高の増加である。2020年から2022年に設けられた新型コロナ感染症救済緊急借入金はすでに公的債務残高の約10%にあたるおおよそ1兆3000億バーツを占めている。これに続く大規模な借入は将来的に財政負担となる可能性があり,懸念は大きい。

国民のなかには「デジタルウォレット」への期待と批判が混在している。とりわけ,公約で追加の財政出動は不要としていたのに反し,財源が3カ月間明確にされず,最終的に国債発行が必要になったこと,また,財政出動に見合う経済効果が得られるか不透明なことに国民は不信感を募らせた。景気浮揚の重要性を訴えるセーター首相に対して,中央銀行は,すでに景気は回復局面に突入しており,電子マネー配布によるGDP成長率引き上げ幅は0.5%で,短期的な効果にとどまると評価しており,両者の見解には乖離がある。タイ貢献党はこれまで直接的な分配政策をてこに支持基盤を固めてきた背景があり,今回も政策の効果を度外視して公約実行を優先している印象を受ける。

第2に,緊急課題に挙げられた問題のうち,農家・中小企業の債務対策,電気代・燃料費の引き下げ,観光収入増加については,タイ貢献党が総選挙時の公約を迅速に実行し,農家および債務者に対する債務返還支払猶予措置の導入,エネルギー価格抑制,そして一部観光ビザの緩和を実現した。

まず,債務返還支払猶予措置では,9月26日の閣議で150億バーツの農民向け予算が決定された。これは,農業協同組合銀行(BAAC)から30万バーツ以下の融資を受ける約270万人の農民を対象に,利子を含む3年間の返済猶予を認める制度である。タクシン政権時代に導入された農民債務返還支払猶予制度とほぼ同様の仕組みを用いるが,今回の制度では,返済猶予期間中でも生産投資向けに追加借入できる点に特色がある。さらに,12月19日には中小零細企業および個人債務者に対する49億バーツの支援を閣議決定した。1000万バーツ未満の債務を有し,新型コロナ感染症の影響から90日以上の返済遅滞がある中小零細企業は,最大18カ月の返済猶予期間が認められるほか,不良債権を抱えた債務者に債務再編の機会を設ける。しかしながら,プオイ・ウンパーゴーン経済研究所の研究報告によれば,過去の農民債務返還支払猶予制度が与えた投資・貯蓄への正の影響はわずかであり,むしろ返済期間の長期化という悪影響を生み出している(PIER Discussion Papers,第195号,2022年12月30日)。債務返還支払猶予制度は,肥大する家計債務の短期的な緩和措置にすぎないといえよう。

エネルギー価格の削減では,セーター政権は9月から年末まで電気料金を時限的に3.99バーツ/kWhに抑制し,軽油に対する物品税軽減の再導入により軽油価格上限を1リットルあたり30バーツとした。2022年からの継続的なエネルギー価格抑制が功を奏し,インフレ率は落ち着きをみせた一方で,エネルギー価格の調整を担う石油基金(State Oil Fund)やタイ発電公団(EGAT)の負担が増大し,この施策の長期運用は慎重を要する。

観光収入の増加について,セーター政権は,査証免除により短期的に客足を回復させ,中長期的にはサービス部門全体の改善のため,運輸インフラの整備,安全性の向上,汚職の撲滅を目指す。2023年9月から2024年2月まで中国とカザフスタンに,2023年11月から2024年5月まで台湾とインドに短期観光査証免除を決定した。ただし年間を通じてみると,中国からの渡航制限が解除された1月以降,外国人旅行客約2800万人のうち中国人旅行者数は350万人程度と予想の500万人を下回っており,観光業に期待されたほどの回復をもたらしていない。

第3に,中長期課題では,所得増大,国民の経済的機会拡大,生活の質の向上が要点とされた。方針演説という場の制約から,課題の多くについて,具体的な施策および数値は明言されていない。例えば,タイ貢献党の公約では,大学新卒の公務員月給を1万5000バーツから2万5000バーツへ引き上げること,そして1日あたり最低賃金を2027年までに全国一律600バーツに改定することを宣言していた。ところが,施政方針演説では「公正な給与水準」を目指すと言及するにとどまった。ただし,党の公約である最低賃金については,強気の交渉もみられた。12月10日に政労使三者から構成される中央賃金委員会が,2024年1月1日から全国平均2.37%の最低賃金引き上げを決定したところ,セーター政権は閣議にて上げ幅の少なさを理由に委員会決定を差し戻した。最終的に中央賃金委員会の決定案に沿った最低賃金の引き上げと,2024年3月ごろ再度引き上げを行う計画を示しているが,経済界からはハイペースな賃上げへの反発の声も大きい。

中長期的な方針は,2017年憲法に定められた「20年国家戦略」に準拠しなければならないため,新規計画やタイ貢献党公約に示された新事業特区構想は含まれなかった。旧与党を含む連立政権において,戦略枠組みの転換や制度改革を図ることは容易ではない。演説では,タイが構造的に抱える課題として先端技術産業の促進,環境保全,農水産業の生産性向上,社会保障制度の改善,不平等の解消,教育の質向上が強調されたが,利害が錯綜するセーター政権において実現可能な政策をどこまで整えられるのかは未知数である。

高止まりする家計債務への対応

2023年,タイ政府および中央銀行は深刻化する家計債務問題に切り込んだ。タイの家計債務残高は,2023年9月時点で約16兆2000億バーツ,対GDP比は90.1%と高止まりしている。インラック政権下で消費刺激策が導入された2011年ごろから増加し,新型コロナ禍でさらにペースが加速した。国際決済銀行(BIS)によれば,同比率が80%を超えると長期的な経済成長に悪影響を及ぼす可能性があるとされ(BIS Working Papers,第607号,2017年1月26日),政府機関は危機感を募らせてきた。加えて,政府統計に含まれない未登録の金融業者や個人間融資といったインフォーマル・ローンもある。金融機関からのローン返済に困窮した場合にインフォーマル・ローンを利用した借り換えが一般化しており,金融機関の審査基準に満たない低所得者が高利子であっても多用する。国家統計局(NSO)の2023年上半期社会経済家計調査によれば,ローンを抱える家計の9割以上はインフォーマルな借入があると報告しており,家計債務残高は公式の統計値よりはるかに膨張している。

中央銀行は新型コロナ感染症流行時に,観光業などの中小零細企業を中心に債務負担軽減策を導入してきたが,家計債務への本格的対応は後手に回った。中央銀行は7月に包括的家計債務対策の実施を決定し,不良債権,長期ローンの削減,新規融資の質向上,そしてインフォーマル・ローンの削減問題に取り組むと公表した。具体的措置として,2024年1月1日から適用される債権者向けガイドラインを発布し,融資に関する広告規制,ローンに関する十分な情報提供と査定,そして債務再編プログラムの提供を定めた。さらに,長期債務者への支援を2024年4月から開始するとしている。同時に,債務者のリスクに基づく利子率設定,および債務者の月収に応じた返済金額の上限設定などについて規制導入も検討している。

家計債務の削減に向けたガイドライン導入と規則強化は,融資条件を満たすことができない低所得者を一層排除し,インフォーマル・ローンを増加させる可能性もある。前節で述べたとおり,セーター政権も家計債務問題に取り組み始めているが,過重債務に陥る根本的要因の解決は容易ではなく,低所得者の所得向上も含めた包括的かつ長期的取り組みが必要である。

定まらない中長期計画の行方

セーター政権はタイ貢献党が掲げた公約実現に奔走し,中長期的な成長戦略の全体像は判然としていない。それでも記者会見や活動のなかで積極姿勢がうかがえるのは,対内直接投資の誘致と東部経済回廊(EEC)開発計画の促進,電気自動車(EV)の奨励,そして大型インフラプロジェクトの「南部ランドブリッジ計画」である。

セーター首相は外遊の際,投資先としてのタイの優位性を自ら売り込んでいる(「対外関係」の項参照)。2023年の実績を俯瞰すると,タイ投資委員会(BOI)を通じた対内直接投資は,申請ベースで1394件6632億バーツ(前年比38%増,同72%増),認可ベースで1350件5590億バーツ(同68%増,同78%増)と大きく上向いた。申請ベース,認可ベースともに中国が投資国のトップである。業種別にみると,電機・電子,農業・食品加工への投資が大きく伸びた。特に電機・電子は,韓国と台湾からの大規模プロジェクトが承認され,前年と比べて2.5倍以上の投資額となった。また,「タイランド4.0」の中心事業であるEEC開発計画への投資額は,BOIを通じた対内直接投資のうち,承認ベースで593件2655億バーツ,投資額は前年比60%増と好調であった。10月17日のセーター首相を委員長とするEEC政策委員会では,投資奨励措置の拡充のほか,域内の利便性向上と手続き簡便化を推進する「99日以内に達成もしくは開始すべき事項」を承認しており,EECは今後の投資誘致における中心的事業になると考えられる。

生産拡大を目指す電気自動車(EV)分野では,2023年末に期限を迎えるEV奨励策の継続を国家EV政策委員会およびBOIが承認した。2024年から2025年に実施される継続策では,補助金の対象と金額を調整したが,補助金交付から数年以内にバッテリーや主要部品の国産化を義務付ける条件は変更していない。EV国内市場は急伸し,2023年の自動車新規登録台数63万台のうちバッテリー電気自動車(BEV)は7万6000台と12%を占め,ASEAN主要国と比較しても普及が進む。

さらに,大型インフラ投資プロジェクトとして,セーター政権は10月16日に投資総額1兆バーツを要する「南部ランドブリッジ計画」の継続を閣議で了承した。この計画は,タイ南部でタイ湾に面するチュムポーン県と,アンダマン海に面するラノーン県にそれぞれ深海港を建設し,東西の港を鉄道と高速道路で接続する陸上橋で結び新輸送ルートを構築する計画である。この東西接続計画は古くからあり,タイ南部の地峡に運河を掘削する「クラ運河」構想の起源は実に17世紀までさかのぼる。ただし,「クラ運河」は建設費用が現在価値で2兆バーツを超え,何度も計画,調査が行われては白紙に戻ってきた。タクシン政権期,プラユット政権期ともにマラッカ・シンガポール海峡を代替する新ルートを検討していたが,どちらも明確な資金調達計画が立たずに頓挫した。陸上橋が完成すれば,太平洋からインド洋への運送期間を最大4日間短縮し,燃料費などのコスト削減につながるとされる。とはいえ,港で荷を積み替える手間を考えれば,海運ルートと比較した競争力には疑問符が残る。セーター政権は,この計画を官民協力(PPP)事業として2024年中に取りまとめ,2025年の入札,2029年開通を目標とし,対外的にアピールしているが,海外投資家の関心は低く,十分な投資が集まるかは不透明である(「対外関係」の項を参照)。

タイは2010年代から経済成長の停滞を経験し,産業高度化による経済構造改革を目指して中長期経済戦略を考案してきた。しかし,これまで成長戦略の軸とされた「20年国家戦略」,およびその下位計画である「タイランド4.0」,「バイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済」に対する新政権の立場は明確ではない。セーター首相は2023年12月27日に開かれた国家戦略委員会において「20年国家戦略」の柔軟な修正を求めたが,具体的な変更案は提案しなかった。主要インフラ計画は大きな変更なく継続されると考えられるが,バンコク=ノーンカーイの高速鉄道計画,EECの一部でもある3空港連結高速鉄道計画には遅れが目立つ。インフラ計画の遅れは今後の投資誘致へも影響を及ぼす重大な懸念材料であるが,セーター政権の中長期計画にかける比重は大きくない。

(高橋)

対外関係

セーター政権の「積極的経済外交」

セーター政権は,基本的にプラユット政権の外交路線を踏襲し,2023年中は安全保障問題や民主主義といった政治問題には触れず,観光促進や貿易投資拡大といった経済問題に注力した。

2023年前半には,それまで停滞していた通商交渉が相次いで再開された。1月,プラユット政権は欧州連合(EU)との間で長く休止していた自由貿易協定交渉の再開で合意し,4月には20年ぶりにインドとの合同貿易委員会を再始動させた。また5月にはアラブ首長国連邦とのFTA交渉を開始した。

9月の新政権発足後,セーターは施政方針演説で「積極的経済外交」(proactive economic diplomacy)を掲げ,活発な首相外交を展開した。その特徴は,外遊時に首脳外交と企業訪問とをセットで行う点にある。9月に第78回国連総会出席のため赴いたアメリカでは,現地でベトナム,韓国,マレーシアの首脳と相次いで会談を行ったほか,マイクロソフトやゴールドマン・サックス,テスラなどの企業幹部と直接会談し,対タイ投資の可能性を探った。その後もセーターは10月の「一帯一路」国際協力フォーラム(北京)や,第1回ASEAN・湾岸諸国会議(リヤド),11月のAPECことアジア太平洋経済協力会議(サンフランシスコ),12月の日ASEAN特別首脳会議(東京)といった多国間会議の機会を利用して,各国の首脳と会談を行った。同時に大手企業を訪問したり,ビジネスフォーラムに登壇したりするなどして,タイへの投資の機会をアピールした。

セーターが「積極的経済外交」で強調したのが,タイの観光業振興と「南部ランドブリッジ計画」である。セーターは9月の第1回閣議で,中国とカザフスタンに半年間の短期観光査証免除措置を決定した。そして翌月に北京で行った中国の習近平国家主席との会談では,査証免除措置を無期限とする提案を行っている。同様に,セーターは北京訪問時に行ったロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談でも,ロシア人観光客に対する短期査証免除措置の期間延長を提案したほか,11月から台湾とインドに対し半年間の短期査証免除措置を開始して,訪問拡大を狙った。

一方「南部ランドブリッジ計画」については(計画の概要は「経済」の項を参照),首相自ら中国や日本,ロシア,アメリカ,中東湾岸諸国の政府や企業へ同計画への投資を呼びかけた。同時に,計画による海運ルート変更の影響を懸念するシンガポールやマレーシアといった近隣国から,理解と協力を得るべく首脳会談を重ねた。経済を介してすべての国と連携を深め,自国の戦略的重要性を高める政策は以前からタイ外交にしばしばみられ,セーターの「積極的経済外交」もそうした過去の政策の延長上に位置付けられる。

ガザ情勢への対応をめぐる批判

セーター政権は,安全保障面でも特定の勢力に肩入れすることなく全方位的に友好関係を維持する前政権の路線を継続した。対米関係では,タイ・米両国が中心となって行う多国間軍事演習「コブラ・ゴールド」が2月27日から約2週間にわたり実施され,コロナ禍による縮小の前と同じ規模となる30カ国約7400人が参加した。一方でコロナ中に休止していた中国との軍事演習も,陸海空の三軍の間で7月から9月にかけそれぞれタイ国内で実施された。タイは2010年代も米中対立から距離を保つなど,従来から比較的穏やかな安全保障環境を享受してきた。2023年もこの状況に大きな変化はない。

そうしたなか,10月7日にイスラエルでイスラーム組織ハマスが多数の人質を拉致・殺害する事態が発生した。イスラエルでは多数のタイ人が労働に従事している。これらのタイ人が事件に巻き込まれた結果,最終的にタイは人質32人,死者数は関係国のなかで最多の39人という大きな被害を出した。事件発生翌日の8日にジャッカポン外務副大臣はタイの「中立」を表明し,イスラエルとパレスチナの平和共存を支持する声明を出した。従来の全方位友好を確認したかたちだが,パレスチナの立場を支持する中東諸国の一部はこの声明に不満を抱いたとみられる。その後セーター政権は人質解放交渉や帰国希望者の移送などの対応を急いだが,移送空路をめぐり経路となる中東諸国との調整に手間取るなどの混乱が生じた。これについて専門家からは,政府は単に中立を維持するのではなく,ガザの人道状況に懸念を表明するなど中東諸国との連帯を示し,連携して現地にいるタイ国民のより迅速な移送を実現すべきだったとの批判が起きた。一連の出来事は,安全保障面での状況分析能力など,セーター外交が抱える課題を浮き彫りにしたといえる。

タイ独自のミャンマー外交の行方

ミャンマー国軍は2021年以降ASEAN高級会合に代表を出席させていない。これに対し,ASEANは暴力の即時停止など「5項目合意」の履行をミャンマー国軍に促し続けた。両者の関係が膠着状態に陥るなか,プラユット政権は2022年からミャンマー軍事政権に対し独自の働きかけを行ってきた。インドネシアなどASEAN内の民主派諸国は,タイの独自外交がミャンマー軍事政権の対外主権を既成事実化するとして批判してきたが,2023年もタイ政府は政権交代を越えて独自路線を継続した。

2023年4月にはプラユット政権のドーン・ポラマットウィナイ暫定副首相兼外相が非公式にネーピードーを訪問し,ミンアウンフライン国軍司令官と会談した。さらにドーンは6月にミャンマー問題をめぐる外相会議をタイで開き,ミャンマーを再びASEAN高級会合に受け入れるよう各国に呼びかけた。会議にはフィリピン,ブルネイ,カンボジア,ラオス,ベトナム,ミャンマー軍政のほか,インドや中国が参加したものの,ASEAN主要国であるインドネシア,マレーシア,シンガポールは欠席した。ドーンは7月にもミャンマーを非公式に訪問して国軍関係者や民主化指導者のアウンサンスーチーと会談し,その内容を11日からジャカルタで開催されたASEAN外相会議で報告した。

ドーンのミャンマー外交は国軍,一部の上院議員や企業などミャンマー国軍と近い関係にあるといわれる国内勢力の意向に沿ったものであり,保守派と連立を組んだセーター政権もこの路線を継承したとみられる。新政権発足の11月にはミャンマー北部のシャン州でミャンマー国軍と少数民族との戦闘が激化した。セーター政権はミャンマー国軍と協議のうえ,紛争地域に在留するタイ人を退避,帰国させた。また12月に北京で開かれた第8回瀾滄江・メコン協力外相会議では,タイのパーンプリー・パヒッターヌコン外相とミャンマー軍事政権のタンスェ外相が,国境地域における治安維持協力や人道支援拡大方針で合意した。

(青木)

2024年の課題

2024年1月31日,憲法裁判所は前進党とピター党首に対し,不敬罪改正の党公約が国家転覆を企図する行為にあたるとし,違憲判決を下した。2月1日には,違憲判決を踏まえ,元上院議員の活動家らが前進党解党と党役員の公民権停止を選挙管理委員会に請求した。憲法裁判所は選挙管理委員会の請求を受理し,前進党解党処分の是非を審議中である。解党となれば,前進党幹部は今後10年間政治活動ができなくなる。前進党は冷静な態度を保っているが,憲法裁判所の判断次第では支持者や革新派市民の抗議活動が活発化することもありうる。

一方,セーター政権の命脈は経済政策の成否にかかっている。目立った成果が出なければ,次期選挙でタイ貢献党に勝ち目はない。民意を否定するかたちで成立した連立政権とタイ貢献党が国民の信頼を取り戻すには,目にみえる経済回復が最低条件となるだろう。タイ貢献党と保守派との関係も安泰とはいえない。タクシンは2024年2月18日に仮釈放されたものの,同月に国家検察庁はタクシンの過去の発言が不敬罪にあたる可能性があるとの考えを示した。今後の司法の判断次第では,タクシンは再び警察に拘束され,刑事訴追を受ける可能性がある。2024年5月には憲法の首相選出に関する経過規定が終了し,下院だけで首相を選出できるようになる。国会内の勢力変化に備え,保守派がタクシンの身柄を取引材料にタイ貢献党へ圧力をかけ続けることも予想される。

経済面でも,新型コロナ禍以降伸び悩む経済をどのように成長させていくかが第1の課題である。家計債務の高止まりで家計消費の下押し圧力が高まるなか,景気浮揚の鍵は財輸出と外国人観光客にあり,不確実な外需に依存する構造は変わらない。また,2024年はエルニーニョ現象の状況次第では干ばつが広範囲で発生するおそれがあり,特に低所得者が集中する農業部門の被害が懸念される。このような状況でセーター政権は国民が効果を実感しやすい消費刺激策や短期的な支援策に傾倒していくだろう。しかし,「デジタルウォレット」などのいわゆるバラマキ策が将来の財政基盤へ与える影響に注意が必要である。また,EVなど一部の分野では国内産業構造の転換が徐々に始まっており,政権が一貫した産業政策を打ち出せるかが鍵となる。

対外関係では,経済外交でどれだけ外資を呼び寄せられるかに加え,ミャンマー問題への対応が課題である。2024年1月末,ラオスで開かれたASEAN外相会議には2年ぶりにミャンマー軍事政権代表が参加し,ASEANによるミャンマー国内への人道援助開始で合意した。援助の開始時期など詳細は不明だが,これまでミャンマー軍事政権との接触を重ねてきたタイが何らかの役割を担う可能性もある。今後タイがミャンマー問題をめぐって,自国の政策とASEAN全体の方針との間でどのように整合性を取っていくのかが注目される。

(青木:地域研究センター)

(高橋:地域研究センター)

重要日誌 タイ 2023年

   1月
8日 海外からの入国者すべてにワクチン接種証明書の提示を再要求(9日に撤回)。
9日 プラユット首相,タイ団結国家建国党(UTN)に入党発表。
10日 内閣,2024年度予算を大枠承認。
18日 収監中の反政府活動家2人,刑務所病院内でハンガーストライキを開始。
25日 ジュリン商務相,ベルギー訪問でタイEU・FTA交渉再開を協議(~27日)。
25日 中央銀行金融政策委員会,政策金利を0.25%引き上げ,1.5%を適用。
27日 パラン・プラチャーラット党(PPRP),プラウィット党首を首相候補に正式指名。
28日 2023年下院議員選挙法,2023年政党法が官報に掲載。
30日 PPRP,離党していたウッタマー元党首らの復党を発表。
   2月
2日 内閣,北部,東北部,中・西部,南部の4つの経済回廊を経済特区に指定。
7日 ジュリン商務相,アラブ首長国連邦(UAE)訪問。
13日 ドーン副首相兼外相,訪中(~14日)。秦外交部長と会談。
14日 内閣,タイEU・FTA交渉開始を承認。3月15日に交渉再開を正式発表。
14日 チューンチャイ海軍司令官,訪日。海上自衛隊との協力強化に関する定期協議実施要領を交換。
21日 上院,新憲法起草を問う国民投票実施に関わる国会審議の提案を否決。
21日 内閣,2025年以降の廃プラスチック輸入全面禁止を決定。
27日 多国間軍事演習「コブラ・ゴールド」実施(~3月10日)。
28日 内閣,国家福祉カードの給付対象者1460万人の登録を承認。
   3月
16日 選挙管理委員会,小選挙区の区割りを正式発表。
20日 プラユット首相,下院解散(即日官報掲載)。
21日 選挙管理委員会,下院選挙投票日を5月14日と決定。
24日 タクシン元首相,『日本経済新聞』の取材で「逮捕されても帰国する」と発言。
25日 UTN,プラユットを首相候補に正式指名。
28日 警察,王室寺院ワット・プラケーオの塀に不敬罪批判の落書きをした男を逮捕。
29日 中央銀行金融政策委員会,政策金利を0.25%引き上げ,1.75%を適用。
   4月
3日 選挙管理委員会,下院選挙立候補受付開始(~7日)。3日から小選挙区立候補,4日から比例代表立候補を受付開始。
5日 タイ貢献党,ペートーンターン,セーターらを党の首相候補に推挙。
20日 タイ・インド合同貿易委員会,デリーで20年ぶりに協議再開。
21日 ドーン暫定外相,ミャンマーのネーピードーを非公式訪問。ミンアウンフライン国軍総司令官らと会談。
25日 下院選挙,在外投票開始(~5月5日)。
   5月
7日 下院選挙,期日前投票日。
10日 不敬罪容疑で逮捕された少女の釈放を求めるデモ隊がバンコク都内で警察と衝突。9人逮捕。
14日 下院選挙投票日。
16日 タイ・アラブ首長国連邦FTA交渉第1ラウンド開始(~18日)。
18日 前進党のピター党首,選挙結果を踏まえ旧野党8党からなる連立政権構想を公表。22日に覚書締結。
31日 スリランカのグナワルダナ首相,来訪。プラユット暫定首相と会談。
31日 中央銀行金融政策委員会,政策金利を0.25%引き上げ,2.0%を適用。
   6月
19日 選挙管理委員会,下院議員総選挙500議席の当選を認定。
19日 ドーン暫定外相,ミャンマーへの再関与をめぐり関係国外相会議を開催。
27日 王・広東省長ら広東省代表団,来訪(~30日)。タイ・中国(広東)経済貿易交流会議,開催(バンコク)。
   7月
3日 国会開会。4日の下院本会議でプラチャーチャート党ワンムーハマット・ノーマター(ワンノー)党首を議長に選出。
9日 タイ・中国合同空軍軍事演習「ファルコン・ストライク」,ウドンターニー県で実施(~21日)。
9日 ドーン暫定外相,ミャンマー訪問。国軍関係者やアウンサンスーチーと会見。
11日 プラユット暫定首相,UTN離党を発表。
12日 選挙管理委員会,ピター前進党党首のメディア株保有疑惑に関する審理を憲法裁判所に請求。
12日 憲法裁判所,前進党とピター党首に対する憲法49条違反疑惑の審理請求を受理。
13日 国会での首相選出投票。ピター前進党党首への投票が過半数を下回ったため第2回投票へ持ち越し決定。
17日 民主派8党連立,首相選出第2回投票でピター前進党党首の再推薦で合意。
19日 UTN議員,ピター前進党党首の再推薦が国会規則違反との動議を提出。国会はこれを可決。
19日 憲法裁判所,ピター党首のメディア株保有に関する審理請求を受理。同党首の下院議員資格一時停止の命令を発出。
24日 国家オンブズマン,憲法裁判所に首相候補再推薦問題についての判断と,首相指名手続きの一時中断を請求。憲法裁判所はこれを受理するも8月16日に棄却。
25日 ワンノー下院議長,27日に予定されていた国会上下院合同会議の延期を発表。
25日 タイ貢献党,8党連立の会合を中止。
26日 ペートーンターン,タクシン元首相が8月10日に帰国する予定を公表。
   8月
2日 タイ貢献党,前進党との連立解消と自党のセーター首相候補の推薦を発表。
2日 中央銀行金融政策委員会,政策金利を0.25%引き上げ,2.25%を適用。
7日 タイ貢献党とタイ矜持党,連立合意。
8日 ワチラロンコーン国王と元妃との次男ワチャレーソン氏,居住先のアメリカから27年ぶりの帰国。各地訪問の後13日に帰米。
9日 タイ貢献党,連立に小政党6党が新たに参加と発表。
15日 前進党,次回の首相指名でセーターを支持と発表。
15日 タイ・中国合同陸軍軍事演習「ジョイント・ストライク」,ロッブリー県で実施(~9月2日)。
17日 UTN,タイ貢献党の連立枠組みに参加表明。
21日 タイ貢献党,PPRPなど11党との連立の成立を正式発表。
22日 タクシン元首相,帰国。
22日 国会上下院合同会議第3回首相選出投票,タイ貢献党セーターを首相に選出。
23日 プラユット暫定首相,国軍人事発表。
24日 選挙管理委員会,上院議員の首相選出参加を定めた憲法条項改正の可否を問う国民投票実施を求めた市民の署名を不受理。
29日 韓駐タイ中国大使,タイ貢献党本部訪問。セーター首相と会見。
31日 国王,タクシン元首相の恩赦を承認。
   9月
1日 国王,セーター内閣承認。2日に官報掲載。
2日 タイ・中国海軍合同軍事演習「ブルー・ストライク」,タイ東部で実施(~10日)。
5日 セーター内閣,国王宣誓式。
7日 ゴデック駐タイ米国大使,タイ貢献党本部訪問。セーター首相と会談。
11日 セーター内閣,国会上下院合同会議で施政方針演説。
13日 内閣,中国とカザフスタンからの観光客に対し半年間の査証免除を承認。
13日 梨田駐タイ日本大使,首相官邸訪問。セーター首相と会談。
13日 タマナット農業・協同組合相,ラーマ9世王による農業事業の継続発展を表明。
14日 セータプット・タイ中央銀行総裁,セーター政権の経済政策に懸念表明。
14日 内閣,電気料金引き下げ,および軽油にかかる物品税減税を承認。
15日 セーター首相,キティラット元財相らを首相顧問団に任命。
18日 内閣,2024年度予算案を大枠承認。相続税・固定資産税の見直しを決定。
18日 セーター首相,第78回国連総会出席のため訪米(~24日)。
20日 最高裁判所政治職者刑事法廷,旧新未来党パンニカー元下院議員の倫理違反行為を認め被選挙権の終生はく奪を決定。
20日 セーター首相,訪問先のアメリカでチン・ベトナム首相,尹韓国大統領,アンワル・マレーシア首相と相次いで会談。
23日 前進党チャイタワット幹事長,ピターに代わり同党党首に就任。
26日 内閣,農家向け債務返済猶予措置を承認。予算は120億バーツ。
26日 中央銀行金融政策委員会,政策金利を0.25%引き上げ,2.5%を適用。
28日 パディパット下院第1副議長,前進党から除名。
28日 セーター首相,カンボジア訪問。フン・マナエト首相と会談。
  10月
3日 首相を委員長とする国家ソフトパワー戦略委員会,初会合開催。
3日 大型商業施設サイアム・パラゴンで少年による銃乱射事件。2人死亡,5人負傷。
5日 前進党,2006年2月11日以降の政治活動・発言で訴追された者を対象とする恩赦法案を国会提出。
6日 経済学者や官僚ら99人,1万バーツ給付政策の中止を求める声明を発表。
7日 セーター首相,記者に対し1万バーツ給付政策の中止を否定。
8日 ジャッカポン副外相,7日に発生したハマスのイスラエル攻撃をめぐりタイの「中立」を表明。
9日 セーター首相,香港訪問。李行政長官と会談。
10日 セーター首相,ブルネイ訪問。ボルキア国王と会談。
11日 セーター首相,マレーシア,シンガポール訪問。アンワル・マレーシア首相,リー・シンガポール首相とそれぞれ会談。
16日 セーター首相,「一帯一路」国際協力フォーラム参加のため中国訪問(~19日)。
16日 内閣,「南部ランドブリッジ計画」継続を原則承認。
16日 内閣,国鉄(SRT)レッドラインおよび大量高速輸送公社(MRT)パープルラインの20バーツ均一運賃を承認,即日適用。
17日 セーター首相,訪問先の北京でプーチン・ロシア大統領と会談。
18日 セーター首相,訪問先の北京で中国の李首相,習国家主席と会談。
19日 タイ観光公団,中国主要8社と観光協力趣意書を交換。
19日 セーター首相,第1回ASEAN・湾岸諸国首脳会議参加のためサウジアラビアを訪問(~21日)。20日にムハンマド・ビン・サルマーン皇太子と会談。
27日 タイ貢献党,党大会でペートーンターンを党首に選出。
30日 セーター首相,ラオス訪問。トーンルン国家主席と会談。
31日 内閣,精製糖を商務省価格統制リストへ追加。
31日 バンコク南刑事裁判所,不敬罪に問われていた女子学生に禁錮2年8カ月,罰金8000バーツ,執行猶予2年の判決。
  11月
4日 前進党,国内安全保障維持本部(ISOC)廃止法案を国会に提出。
7日 スラチェート警察庁副長官,ヤンゴン訪問。同国軍当局者とミャンマー東北部シャン州にいるタイ人162人の救出を協議。
7日 内閣,予算550億バーツの米価安定措置を承認。さらに,14日に560億バーツのコメ農家追加支援策を決定。
9日 トヨタ自動車幹部,首相官邸訪問。セーター首相と会談。
12日 セーター首相,アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議と関連会議出席のためアメリカ訪問(~17日)。
15日 セーター首相,訪問先のアメリカで岸田首相と会談。
16日 セーター首相,訪問先のアメリカでアルバニージー豪首相と会談。
18日 ミャンマー北部シャン州に滞留のタイ人約300人,帰国開始(~20日)。
22日 セーター首相,南部サダオにてアンワル・マレーシア首相と会談。国境開発協力で合意。
28日 内閣,天然資源・環境省提出のクリーンエア管理法案を原則承認。
29日 国王,プラユット元首相を枢密院顧問官に任命(同日官報掲載)。
  12月
6日 国連教育科学文化機関(UNESCO),タイの正月行事ソンクラーンを無形文化遺産に登録。
8日 第8回瀾滄江・メコン協力外相会議(北京)で,タイ外相とミャンマーの軍事政権外相が国境地域治安維持協力や,同地帯での人道支援拡大で合意。
8日 国家賃金委員会,最低賃金引き上げ案を提出。内閣は12日に委員会に再考を要請。28日,国家賃金委員会案と同様の改定率で官報掲載。2024年1月1日から適用。
13日 刑事裁判所,前進党ラーチャノック議員に刑法112条違反で禁錮6年の実刑判決。
14日 セーター首相,日ASEAN特別首脳会議出席のため訪日(~18日)。15日に齋藤経産相と会談後,日ASEAN投資フォーラムで演説。17日には岸田首相と会談。
18日 スリヤ運輸相,「南部ランドブリッジ計画」で民間に50年間の事業権付与構想を公表。
19日 内閣,同性婚に異性婚と同じ権利を認める民商法典改正4案を承認。21日に下院第1読会を通過。
19日 内閣,予算340億バーツの電気自動車(EV)産業強化パッケージを承認。
26日 内閣,2024年度予算案を承認の後,国会に提出。
26日 最高裁判所政治事件審理部,2011年の国家安全保障会議事務局長および警察庁長官人事へのインラック元首相の不正介入疑惑について,無罪判決。

参考資料 タイ 2023年

① 国家機構図(2023年12月末現在)

(注) 各省の大臣官房は省略。

(出所) 官報など。

① 国家機構図(2023年12月末現在)(続き)

(注) 各省の大臣官房は省略。

(出所) 官報など。

② 閣僚名簿

(注) 政党名は,PPRP(パラン・プラチャーラット党),PJT(タイ矜持党),PT(タイ貢献党),UTN(タイ団結国家建国党),PCC(プラチャーチャート党),CTP(タイ国家開発党)。

* 女性閣僚,** 兼務。

(出所) タイ官報140巻,特別214 ngor号,2023年9月2日。

② 閣僚名簿(続き)

(注) 政党名は,PPRP(パラン・プラチャーラット党),PJT(タイ矜持党),PT(タイ貢献党),UTN(タイ団結国家建国党),PCC(プラチャーチャート党),CTP(タイ国家開発党)。

* 女性閣僚,** 兼務。

(出所) タイ官報140巻,特別214 ngor号,2023年9月2日。

③ 国軍人事

④ 警察人事

(注) カッコ内は着任日。

(出所) 官報および警察ウェブサイト。

主要統計 タイ 2023年

1 基礎統計

(出所) 人口:内務省地方行政局(https://dopa.go.th/)。労働人口,消費者物価上昇率,失業率,為替レート:タイ中央銀行(https://www.bot.or.th/)。

2 支出別国内総生産(名目価格)

(注) 2022年と2023年は暫定値。2020年と2021年は修正値。国内総生産(生産側)-国内総生産(支出側)は統計上の誤差。

(出所) 国家経済社会開発評議会事務局(https://www.nesdc.go.th/)。

3 産業別国内総生産(実質 基準年=2002)

(注) 2022年と2023年は暫定値。2020年と2021年は修正値。

(出所) 表2に同じ。

4 国・地域別貿易

(注) EUはイギリスを含む28カ国の合計値。CLMVはカンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナムの合計値。中東は15カ国の合計値。

(出所) タイ中央銀行(https://www.bot.or.th/)。

5 国際収支

(注) 2023年は暫定値。2022年は修正値。IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号は(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。

(出所) 表4に同じ。

 
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