アジア動向年報
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各国・地域の動向
2023年のマレーシア 州議会選挙を乗り越え,安定したアンワル政権
谷口 友季子(たにぐち ゆきこ)
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2024 年 2024 巻 p. 319-344

詳細

2023年のマレーシア

概 況

2023年のマレーシアの情勢は,変化の多かった近年に比して,政治,経済ともに落ち着いていた。

2022年11月に発足したアンワル政権は,同月の総選挙後に各政党・政党連合間の交渉を通じて,希望連盟(PH)や国民戦線(BN)などによって結成された。したがって,2023年8月に6州で実施された州議会選挙は,与党が初めて民意を問われる機会となった。いずれの州でも政権交代は生じず,与党は3州での州政権を維持し,信任を得た。しかし,前年総選挙に引き続き,マレー人有権者を中心に野党連合・国民同盟(PN)への票の流出が明らかになった。

支持回復を図りたいアンワル政権は,マレー人有権者に迎合するイスラーム保守的な対応を続けた。さらに,アンワルは1998年のレフォルマシ(改革)運動の旗手として政治改革を訴えてきたにもかかわらず,首相就任後,改革の実質的な成果は乏しく,メディアへの抑圧などもみられる。とりわけ,汚職容疑で刑事訴訟中であったザヒド副首相に対し,起訴取り下げの判断が下されたことには,PH支持者を中心に大きな失望が広がった。

経済面では,前年の好調をけん引した輸出が低迷したことにより,経済成長率は通年で3.7%に減速した。2023年も内需の安定的な拡大が,引き続き成長を支える要因となった。また政権は,新たな長期開発計画「マダニ(開明的)経済」政策を発表し,産業競争力の向上を通じた経済成長に注力する姿勢を示した。

対外関係では,イスラエルとパレスチナの衝突がマレーシア国内でも大きな問題となった。マレーシアは長年,パレスチナの独立を支持し,イスラエルを敵視してきた。今回も,首相はハマスを含めたパレスチナに対する揺るぎない支持を明言した。多くの市民も,パレスチナとの連帯を示す集会へ参加した。

国内政治

民意を問われる機会としての州議会選挙

2022年11月,第15回総選挙を経て,アンワル・イブラヒム人民公正党(PKR)総裁を首相とする新政権が誕生した。政権は,PKRが属するPHを中心に,統一マレー人国民組織(UMNO)率いるBN,サバ人民連合(GRS),サラワク政党連合(GPS)などから構成されている。こうした連立政権の結成に至ったのは,選挙前まで政権を担っていたBNと国民同盟(PN)間での連立が決裂し,各連合間での交渉が行われた結果であった。

2023年8月の各地での州議会選挙は,アンワル政権にとって初めて民意を問われる機会となった。この州議会選挙は,前年11月に連邦議会下院との同時解散をしなかったクランタン,トレンガヌ,クダ,ペナン,スランゴール,ヌグリスンビランの6州で行われた。2018年総選挙までは,サラワク州を除く全州が,下院選と合わせて解散総選挙を行うことが慣例となっていた。しかし,近年の流動的な政治情勢の影響を受けて地方でも権力闘争が激化した結果,サバ,マラッカ,サラワク,ジョホールでは2022年総選挙前に州議会の解散総選挙が行われた。2022年に下院との同時選挙を選択した州はプルリス,ペラ,パハンのみであり,残り6州の州政府は洪水リスクなどを訴えて選挙を先送りしていた。

マレー人与野党の選挙前の明暗

8月の州議会選挙以前の情勢を概観すると,ムヒディンおよびイスマイル・サブリと,2首相を擁し前政権を担っていたPNとBNは対照的な状況にあった。

政権交代直後から,与野党間の批判合戦で話題に挙げられてきたのは,ムヒディン前政権下での汚職疑惑であり,前年の総選挙で下野したPNには逆風が吹いていた。年明けには,前政権下での新型コロナウイルス対応の景気刺激策に関連した汚職容疑を汚職防止委員会(MACC)が捜査中であることが明るみになり,PN構成党であるマレーシア統一プリブミ党(PPBM)関係者の仲介業者が逮捕された。次いで,PPBMの情報責任者で下院議員のワン・サイフルが同政策下での収賄容疑で,さらに元首相でPPBM総裁のムヒディンも同様のマネー・ローンダリングや権力濫用などの容疑で逮捕されるに至った。

捜査の過程では,PPBMの銀行口座が凍結され,預金が差し押さえられた。州議会選挙を前にして,前年の総選挙での党勢拡大に貢献していた2人の人物とその豊富な資金源が,制約を受けることになったのである。ただし,ムヒディンについては,同年8月に一部の罪状に関して一審で無罪判決が出されたのち,翌2024年2月にこの無罪判決を無効とする検察側の上訴が認められるなど,裁判の見通しは不透明である。

このような状況にもかかわらず,今回の州議会選挙でもPNは支持拡大が予想されていた。背景には,前年の総選挙では結果的に下野したものの,マレー半島部の各州で有権者の支持を拡大していたことがある。主要な構成政党である汎マレーシア・イスラーム党(PAS)は大幅に議席を増やして議会第一党へ躍進し,PPBMも勢力を伸ばしていた。

他方,アンワル政権に合流したUMNOでは,ザヒド総裁が抵抗勢力を党から排除することに成功し,地盤固めが進んだ。2020年以降のBN-PN政権下では,イスマイル・サブリ首相,カイリー・ジャマルディン元保健相,ヒシャムディン・フセイン元国防相,アヌアル・ムサ元通信相など入閣していたUMNO政治家は政権安定のためPNとの協調を重視していた。しかし,PPBMとの対立から常に多数派工作を画策するザヒドら党中枢の幹部にとって,彼らは抵抗勢力であった。前年の総選挙では,閣僚であり現職議員である彼らの一部を,ザヒドは党の公認候補から外すなどの対応を取っていた(『アジア動向年報2023』)。

2023年1月に行われた党大会では,同年5月までに予定されていたUMNOの党内役員選挙で,総裁と副総裁への立候補を受け付けない動議が可決された。結果,現職への信任投票のみ実施されることになった。カイリーやヒシャムディンは,この役員選挙に立候補する意向を表明しており,ザヒドらに挑むとみられていた。ザヒドは,彼らの挑戦を封じる手立てをとったのである。さらに,党大会後,UMNO最高評議会はカイリーやヒシャムディンらに対し,党規律違反を理由に除名や6年間の党籍停止処分を下した。こうした画策の結果,党内の抵抗分子を一掃することに成功し,3月にザヒドは総裁留任に至ったのであった。

現状維持しつつも,マレー人与党の後退がみられた選挙結果

マレー人与野党では明暗が分かれるなか,6月末から7月にかけて6州の州議会が解散し,8月12日が6州一斉の投開票日に設定された。有権者総数は978万3347人で,前年総選挙時の有権者数と比べると,全有権者のうち約46%が対象となった選挙であった。

与党であるPHとBNの選挙協力はおおむね円滑に進んだ。連邦与党は,2月早々に,8月頃に予定されていた州議会選挙において全構成政党が協力することを決定したと発表した。その結果,前年総選挙のBN,PH,PNの三つ巴の争いから,今回は「与党BN-PH対野党PN」という構図に定まった。

とりわけ懸念点と想定された非マレー人政党間の候補者調整は,BN構成政党であるマレーシア華人協会(MCA)とマレーシア・インド人会議(MIC)が候補者を擁立しないことで落ち着いた。両党は,2018年以前のBN政権時代,非マレー人政党として与党の一角を占めていたが,近年は下院でも地方議会でも1,2議席を獲得できるかどうかにまで低迷している。対照的に,両党と候補者調整で競合するPHの民主行動党(DAP)は,非マレー人から圧倒的な支持を得ており,両党の不参加により非マレー人票の取りこぼしは阻止された。

他方,野党PNでは,州議会解散後,PAS所属のクダ州首相が逮捕されるという事件が起きた。2020年にクダ州首相に就いたムハマド・サヌシは,アメリカのトランプ前大統領に似たポピュリストとも評され,農村部を中心に州内で有権者の人気を集めている。7月11日に行われた選挙集会での演説が,国王やスランゴール州王に対する侮辱とみなされ,扇動罪での逮捕に至った。とはいえ,この逮捕が与党の選挙戦にとって有利に働くことはなかった。市民社会からはPHが長年批判してきたはずの扇動罪を適用したことに批判が上がった。さらに,地元有権者にはサヌシが政争の被害者であるというイメージをもたらした。

8月12日の投開票の結果,6州いずれの政府でも政権交代は生じなかった。クダ,クランタン,トレンガヌではPN政権が,ペナン,スランゴール,ヌグリスンビランではPH-BN政権が勝利するという勢力図が維持された。しかし,議席の増減や得票状況をみると,PNへの支持拡大が顕著に表れた。

クダ,クランタン,トレンガヌの北部3州で,PNは多くの議席を手中に収め,PH-BN政権が維持されたペナン,スランゴール,ヌグリスンビランの3州でも,PNは議席を増やした(表1)。北部3州では,とりわけ高い得票率を誇った(表2)。他方,与党UMNOはクランタンとトレンガヌでの支持離れが著しく,議席のほとんどを失った。

表1 2023年州議会選挙 政党連合別各州獲得議席数・投票率

(注) 網掛けが州与党。1)解散時空席が2議席。2)解散時空席が1議席。3)解散時空席が4議席。

(出所) マレーシア政府官報および各種報道をもとに筆者作成。

表2 2023年州議会選挙 各州政党別得票率(%)

(出所) マレーシア政府官報および各種報道をもとに筆者作成。

また,PH-BNが政権を維持した3州におけるマレー人与野党の得票率をみると,PH(PKRと国家信託党[Amanah])とBN(UMNO)を合わせた得票率は30~40%台で,PN(PASとPPBM)とほぼ拮抗している(表2)。UMNOだけでなく,アンワル首相率いるPKRへの支持も後退しており,従来支持基盤であったはずのスランゴール州でも党単独の得票率がPPBMを下回る状況である。他方,同じくPHのDAPは,候補者を立てた全選挙区のうち落選したのは1区のみであり,非マレー人からの支持は盤石であった。総じて,前年総選挙から引き続き,マレー人票が野党PNへ流出していることが示されたといえる。

期待とは異なる方向へ舵を切るアンワル政権

州議会選挙の結果は,アンワル政権が有権者から一応の信任を得られたことを示した。一方,継続的に支持を拡大するPNが,政権にとって依然として不安材料であることも意味した。政権は,州議会選挙の前にも後にも,マレー人からの支持をつなぎとめようと,イスラーム保守的な姿勢を示して彼らに迎合を試みていた。

4月から5月にかけて,首相府主催の慣例である,イスラーム教の断食明けの「オープンハウス」が6州で開催された。対象となったのは,まさに州議会選挙の実施が予定されていた6州である。首相は選挙キャンペーンの一環であることを否定したが,従来,行政首都プトラジャヤの首相官邸やクアラルンプールの会場で開催されており,地方を巡回するのは異例であった。また,国内のイスラーム教関連の問題を管轄するイスラーム開発局に関して,予算と権限の拡大を首相自ら命じるといった動きもみられた。

さらに,政権の保守性を誇示するための手段としてLGBT運動が繰り返しやり玉に挙げられた。5月,内務省は,スイスの時計ブランド・スウォッチの国内各店舗から,LGBTの象徴である虹の6色を用いた「プライド」コレクションの腕時計164点を押収した。これらには「LGBT運動を促進する要素」があるとされ,のちにこのモデルの腕時計の所有者や販売者には,懲役ないし罰金刑が科されると発表された。首相は,1月のインタビューで,世俗主義や共産主義と並べ,LGBT(の権利)が認められることは現政権下ではないと明言しており,一連の摘発はそうした姿勢が実践されたものとみられた。

アンワルは1998年の副首相解任以降,レフォルマシ運動を率いてきた。つまり近年の政治改革の機運をけん引してきた旗頭である。したがって,就任当初は,2018年の政権交代でも成しえなかった政治改革が進むと期待する声もあった。

しかし,実際には,政治改革で期待したほどの進捗はみられない。2023年中の政権下で実現した動きとしては,強制死刑の廃止の法制化などにとどまる。従来,テロや殺人など11の重大犯罪で有罪とされると,強制的に適用されていた死刑が廃止された。裁判官が例外的に死刑を科す裁量は保持されるが,死刑に代替する選択肢として,30~40年の懲役刑やむち打ち刑が定められた。他に,情報公開法や政府調達法の制定や扇動法の見直しが閣内で合意されたが,実質的な議論は始まっていない。

他方,スウォッチの件も含め,しばしばアンワル政権は,従来アンワルの支持者であったリベラルな都市中間層が,政権へ当初抱いていたであろう期待とは裏腹の行動を取っている。LGBTをテーマにした児童書や小説の発売の禁止,クアラルンプール近郊の書店での強制捜査や「共産主義的要素を含む」書籍の押収,あるいは一部のインターネットニュースサイトへのアクセス遮断といった事態が,2023年中に相次いだ。こうした表現の自由への抑圧は,内務大臣に検閲の権限を与えている印刷機・出版物法などを根拠に行われているが,一連の法の修正や廃止はPHが長年マニフェストに掲げてきた改革のひとつでもある。

さらに,副首相でUMNO総裁のザヒドに対し,9月に起訴取り下げ(discharge not amounting to an acquittal)の判断が下されたことは,PH支持者にとりわけ衝撃と失望を与えた。この措置は,裁判所が下す無罪判決ではなく,再捜査などを理由に,検察側が訴訟の中断を請求するものである。これにより,ザヒドは無罪ではないものの,検察が再度,起訴しない限り,一連の汚職容疑に問われることはなくなった。

検察による起訴取り下げのニュースは驚きをもって迎えられた。なぜならこの訴訟では,2022年1月に裁判所が検察側から提出された証拠に一応の有効性(prima facie)を認めて被告に反証を命じており,有罪判決が下される可能性が高いとみられていたからである。

起訴取り下げが発表されたのは,検察トップである司法長官が翌日に退任するタイミングであったため,説明責任を回避したという憶測を呼んだうえ,首相が介入し,有罪を覆したのではないかという批判が市民社会から集まった。

アンワルとザヒドはUMNO入党以前からの親しい仲であり,2020年以降のPN-BN政権下では,たびたび両者の間で多数派工作による政権交代を画策していた。ザヒドは今回のアンワル政権樹立の立役者であり,UMNOの参加が政権維持の必須条件である。よって,刑事訴訟中の被告を副首相として任命することにも,PH幹部は口をつぐまざるをえなかった。

近年,マレーシアでは,広く有権者が政治家のクリーンさを重視する傾向が強まっている。そうした状況下で,副首相の座にある人物が権力を使って汚職に及んだというだけでなく,処罰まで免れたという印象を,アンワル政権は有権者に与えてしまったことになる。

アンワル政権の安定性

2018年以降,短期間で政権や首相の交代が続いてきたにもかかわらず,アンワル政権が安定している背景には,2022年の憲法改正で導入された下院議員の党籍変更規制があった。この規制により,移籍や多数派工作といった政権の不安定化を招く政治家の行動が抑止された。しかし,2023年後半から,規制の間隙を突いた動きが現れている。

10月頃から12月末までに,野党PPBM所属の下院議員5人がアンワル首相への支持を表明した。転向の理由として共通して挙げたのは,下院議員が有権者への活動のために支出できる選挙区開発資金(CDF)が現状,野党所属だと受け取れない点である。彼らは,生活費の高騰などに直面している自身の選挙区の有権者に報いるため,首相を支持すると説明した。

党籍変更規制に抵触するのは,当選時の所属政党を離党,あるいは別の政党へ入党した場合のみであり,党からの除名処分等では対象とならない。今回,離党を明言した者はおらず,PPBMから該当者へは数年の党内活動停止処分が下された。UMNOやDAPは党議拘束への違反によって党籍をはく奪する党規約を保持しており,この場合は失職の対象となるが,PPBMではこうした規約は導入していない。

就任2年目に入ったアンワル政権は,12月,内閣改造に取り組んだ。首相が兼任してきた財務大臣に第2財務大臣を加え,実務経験が豊富であり,政府系電力会社テナガナショナルや従業員積立基金のCEOを務めたアミル・ハムザを任命した。首相が主導権を維持しやすいように,政治家ではなく民間から登用されたとみられる。また,複数の側近が汚職容疑で逮捕されていたシヴァクマル人的資源相を更迭する一方,初期の新型コロナ対応で有権者から好意的に評価されていたズルキフリ保健相ら3人の閣僚経験者が加わった。

11月に公表されたムルデカセンターによる世論調査では,首相・政府支持率は継続的に低下している。2023年3月の調査では政府支持率が50%,首相支持率が61%であった。しかし,10月の政府支持率では不支持(48%)が支持(41%)を上回り,首相への支持率は50%に下がった。この調査では,汚職に対する政府の姿勢への不満だけでなく,経済状況への不安が有権者の間で強まっていることも示された。改造は小規模であったものの,そうした状況への対応を示す人事となった。

経 済

輸出低迷により,成長は減速

通年で経済成長率8.7%という約20年ぶりの高水準であった前年からの反動もあり,2023年は通年で3.7%の成長となった。前年同期比の経済成長率を四半期別にみると,第1四半期から順に5.6%,2.9%,3.3%,3.0%という推移であった。

前年の好調の要因は大幅な輸出の伸びであり,電子・電機製品や価格高騰の恩恵を受けた一次産品によってけん引されていた。しかし,2023年は,輸出が低迷した。背景には,半導体を中心とする電子・電機産業での世界的な不況とともに,主要輸出先である中国などでの景気の減速,需要の減少がある。

この影響により,輸出は,通年で25%前後の成長を記録した2021年,2022年から一転し,前年比8%減となった。マレーシアの輸出は新型コロナ蔓延下であった2019年,2020年も,1%前後の減少で踏みとどまっており,世界経済危機の影響を受けた2009年以来の大きな下げ幅となった。ただし,2023年の減少は前年の値が高水準であった影響もある。輸出額としては,3年連続で1兆リンギを超えた。

輸出先をみると,各国への輸出は軒並み減少しているが,とりわけ中国(通年で8.7%減)と日本(13.1%減)は減少が著しかった。シンガポールに次いで第2位の輸出先である中国,第5位の日本向けは,ともに両国の内需の低迷から電子・電機製品の輸出が減少した。また前者ではパーム油・関連製品,後者では液化天然ガス(LNG)や石油製品の輸出も減少している。

品目別でも,全輸出の約40%を占める電子・電機製品は通年で3%減少した。輸出金額で続く石油製品(11%減),化学製品(11.3%減),パーム油・関連製品(23.2%減)では,さらに大きく減少した。

こうして輸出が停滞するなかでも,緩やかな経済成長を継続できたのは,内需が安定的に拡大を続けたためである。実質GDPを需要項目別にみると,民間消費支出は通年で4.7%増であった。労働市場の改善や最低賃金の引き上げ等の影響で10%を超えた前年に比べ,伸びは鈍化したが,GDPの6割を占める項目として,安定して成長を支えた。同様に民間投資も4.6%増と緩やかな拡大をみせた。政府部門は消費・支出ともに年後半にかけて伸び幅が大きくなり,通年で政府消費は3.9%増,政府投資は8.6%増,とりわけ第4四半期は11.3%増となった。

産業別にみると,建設業(通年で6.1%増)とサービス業(同5.3%増)が好調であった。前者は政府主導の大型インフラ計画に支えられ,2022年後半から2023年半ばにかけて大きく伸びた。後者は,コロナ禍明けの観光業の回復が成長に寄与している。一方,製造業は,輸出減少を背景に低迷した。前年の8.1%増から一転し,通年で0.7%増となった。第3四半期以降については,四半期別で0.1%減,0.3%減と,縮小もみられた。

消費者物価上昇率については,通年で2.5%の上昇であった。1月の3.7%から徐々に下落し,12月には1.5%となった。コロナ禍から経済活動が再開した2021年頃から続いていた物価上昇は,落ち着きをみせつつある。

為替市場については,前年末からリンギ高の方向に進んでいたが,2月頃よりリンギ安が進んだ。1月下旬の1ドル=4.2リンギ台から,10月26日には1ドル=4.7875リンギまで下落し,アジア通貨危機以来の安値をつけた。アメリカとの金利差の拡大とドル高を背景に,リンギ安が進行する展開が前年から引き続いている(『アジア動向年報2023』)。

アンワル政権が描く成長ロードマップ

2023年は長期計画の発表が相次ぎ,アンワル政権が描く成長路線を披露する場となった。7月末,「マダニ経済」というアンワル政権の経済ビジョンが発表された。これは,2019年にPH政権下で発表された「繁栄の共有ビジョン」に代わる,今後10年以内で達成する目標を示した長期開発計画であり,後述するさまざまな開発政策の根幹を成す指針となっている。

「マダニ(MADANI)」とは,アラビア語で「開明的な,思考や物質面において先進的な」ことを意味し,このビジョンの核とされた6つの価値観(持続可能性,繁栄,変革,敬意,信頼,思いやり)の単語から1字ずつ取ったと説明されている。この語を用いた「マレーシア・マダニ」が,アンワル政権のスローガンとなった。具体的には,今後10年以内に次のような目標を達成することが掲げられた。(1)GDP世界上位30位以内,(2)世界競争力指数で上位12位以内,(3)労働分配率の対GDP比を45%に向上,(4)女性の労働参加率を60%へ向上,(5)人間開発指数で上位25位以内,(6)腐敗認識指数で上位25位以内,(7)財政赤字を対GDP比で3%以下に縮小,という7項目である。現状4~5%の経済成長率が継続すると予測されているが,一連の目標達成により,5.5~6%の成長を目指すと宣言された。

本政策の特筆すべき点は,あらためて経済成長を志向する路線へと舵を切り,それを最重要課題として強調したことにある。「繁栄の共有ビジョン」を含め,近年の経済開発政策では富の公正な分配に重きが置かれており,経済成長は並立する数ある目標のひとつであった。しかし,今回政権は,高所得国入りを間近に控え,今後の持続的な経済成長には大きな変革が必要だという現状認識を示した。

そこで,本政策では,産業の競争力向上を通じた経済成長の道筋が示された。外資系企業を積極的に誘致する環境を政府主導で整えながら,従来,輸出をけん引してきた電子・電機産業や化学分野などを中心に,より付加価値の高い産業を発展させ,賃金の高い雇用を生み出す。そうした成長を通じてこそ,経済格差の是正や公平な分配が可能になるとして,近年の政策の傾向を踏襲しながら成長路線を正当化し,成長の果実が国民全体に分配されることを印象付けた。

製造業での具体的な方策を示したのが,その後9月に発表された「新産業マスタープラン(NIMP)2030」である。NIMPでは産業の競争力向上やデジタル技術のイノベーションに加え,脱炭素と経済安全保障が重要ミッションに挙げられた。後者のミッションの背景にある,気候変動,米中対立,新型コロナの蔓延に伴うサプライチェーンの混乱などは,マレーシア国外から波及してきた世界的な潮流であるが,そうした試練はむしろマレーシアの産業競争力の向上や経済成長につなげられる機会だという論理を展開した。

他方,同じく9月に公表された第12次マレーシア計画の中間報告および10月に下院に提出された2024年度予算案では,所得下位層への現金援助拡大や公務員への追加割り当て支給などで分配を強調しつつも,財政収支の改善が重視された。具体的には,売上サービス税(SST)を2%引き上げ,8%とすることや,ガソリンや食料品などに対する現在の一律の補助金から受給対象を限定した形態へと見直すことを明らかにした。

ESG意識の浸透と拡大

マレーシアではESG(環境,社会,ガバナンス)を重視する動きが進んでいる(『アジア動向年報2023』)。この流れは,2023年も官民で続いた。

とりわけ,環境に関して重要であったのは,政府が発表した「国家エネルギー移行ロードマップ」(NETR)である。第12次マレーシア計画で掲げられた,2050年までの脱炭素化という目標の達成に向けて,具体的な道筋を定めるものであった。NETRは,7月末と8月末の2回に分けて公表された。第1弾では,6分野(エネルギー効率,再生可能エネルギー,水素,バイオエネルギー,グリーンモビリティ,二酸化炭素回収・有効利用・貯留)における10の重要プロジェクトが示された。一連のプロジェクトは,250億リンギ以上の投資,2万3000人の雇用機会,二酸化炭素換算で年間1000万トン以上の温室効果ガスの削減を見込んでいる。

第2弾では,さらに具体的な50の取り組みと監督する官庁・政府系企業が挙げられた。また,NETRの下敷きである「国家エネルギー政策(2022~2040)」で示されていた数値目標が一部修正,追加された。2050年までに,石炭火力発電の全廃やハイブリッド車を含む電気自動車の普及率を80%,現地生産率を90%まで引き上げるなど,より詳細かつ野心的な目標値が設定された。近年の世界的な潮流を鑑み,政府主導で脱炭素化を推し進めていく姿勢の現れといえる。NETRの内容に基づき,10月には,天然資源・環境・気候変動大臣への助言や政府への勧告,大口エネルギー使用者の監視等を定めた「エネルギー効率・保全法」が国会で可決された。

また,政府は,産業界がESG慣行を考慮した事業運営を行うための指針として,「国家産業ESG(i-ESG)フレームワーク」を10月に発表した。ザフルル国際貿易産業相は,i-ESGは企業へESGへの配慮と事業をどのように両立するかを示したロードマップだと述べている。念頭に置かれているのは,製造業を中心とする中小企業である。これらはGDPや輸出への寄与が大きいものの,大企業と比してESGの実践に関する知識や経験を欠いている。近年,マレーシア企業では外国人労働者への不適切な処遇が,輸出先の他国で問題視され,禁輸措置を課される事態などにつながっている。政府には,そうしたESG非遵守によるリスク回避を支援しようという意図があるとみられる。

このように政府がESGの実践を推し進める背景には,脱炭素化という国家目標の達成や持続可能性への貢献だけでなく,「マダニ経済」というビジョンのもとでのマレーシアの持続的な経済成長や雇用機会の創出につなげたいという狙いがある。首相や閣僚も,そうした恩恵を強調して産業界へ働きかけている。

実際,大手企業ではすでにESG重視の潮流に乗った取り組みが盛んになっている。2023年は,EV市場への外資メーカーの参入が目立った。アメリカのEV大手テスラは,10月に「モデル3」の販売を開始し,スランゴール州のサイバージャヤに国内拠点を開設した。また,充電ステーションの設置も進めている。自動車販売流通大手のサイム・ダービー・モーターズは,2022年末より中国EV大手のBYDのEV車の輸入・販売を開始し,国民車メーカー・プロトンも,ドイツのメルセデス・ベンツと中国のGeely(吉利汽車)の合弁ブランドであるSmartのEV車を投入した。

さらに,プロトンの親会社であるDRBハイコムはGeelyとともに,EVなど新エネルギー車の研究開発から製造,サービスなどを網羅する国際的な次世代自動車生産拠点(自動車ハイテクバレー:AHTV)をペラ州のタンジュン・マリムに建設すると発表した。Geelyは約400億リンギの投資を予定しており,12月にはDRBハイコムと合弁契約を結んだ。調印式などにはたびたび首相が出席し,経済成長や地元の雇用創出への期待に言及しており,政権肝いりの計画であることがうかがえる。

対外関係

アンワル政権下の活発な外交

アンワル政権下での外交活動は2023年に入って活発化し,首相は積極的に外遊を行った。最初の外遊ではインドネシアを訪れ,その後ASEAN諸国,中東アラブ諸国,東アジアを頻繁に行き来した。

「経済」の項で述べたとおり,さらなる経済成長を目指すなかで外国投資を重視するアンワル政権は,外遊を通じた投資誘致に注力していた。アメリカや中国,日本,シンガポール等の訪問時には,首相自ら各国企業のトップと面会して投資を呼びかけた。とりわけ,中国とアメリカには2度訪れ,GeelyによるAHTV建設計画の進展や,アメリカ半導体大手・テキサスインスツルメンツによるマレーシア生産拠点の拡大などの成果を上げた。実際,前年に比べ,外国投資額は約15%増加し,件数でみても600件近く増え,2023年は約5100件に達している。

また,首相は中東アラブ諸国とのつながりを重視しており,それは外交にも現れている。2月にトルコで大規模な地震が発生すると,2週間後に被災地へ慰問に訪れたほか,10月にも再訪し,さらにエジプト,アラブ首長国連邦などを歴訪した。とくに,サウジアラビアには,11月に開催されたイスラーム協力機構の臨時サミットに出席するなど,3度訪問した。こうした中東地域での首相の精力的な外遊には,後述するパレスチナとイスラエルの紛争に関する議論という,イスラーム諸国にとって重要な議題があったことも影響している。

パレスチナへの揺るぎない連帯

10月にイスラエルとパレスチナのハマスの間で衝突が始まって以降,パレスチナ問題は,マレーシア国内でも重大な話題となった。それは,従来から,マレーシアの政治家や市民がパレスチナ問題に強い関心を寄せ,イスラーム教徒の同胞として「パレスチナの大義」を支持してきたことが背景にある。

マレーシアの外交関係では,自国の利益を第一に,各国と友好関係を築くというバランスの取れた基本姿勢がいずれの政権においても保持されてきた。しかし,そうしたいわば「全方位外交」の唯一の例外が,イスラエルである。マレーシアは,パレスチナの独立とイスラエルとの共存を求める「二国家解決」が実現していないことから,イスラエルと外交関係を結んだことはない。近年でも,マレーシアが国際スポーツ大会の開催地に選定されると,イスラエル選手団へのビザ発給を認めないため,国際委員会から開催権のはく奪や大会の中止などを命じられるといった事態が幾度も起きてきた。

今回の紛争においても,マレーシアはイスラエルを非難し,パレスチナを擁護する強硬な姿勢を維持した。10月16日,アンワル首相はハマス幹部と電話会談を行い,「パレスチナの人々に対する揺るぎない支持」を表明した。欧米各国はイスラエルに対するハマスの攻撃をテロと非難しており,首相は各国政府から同調した行動を取るよう幾度も要請を受けたが,そうした圧力には屈しないと議会で答弁した。

市民間では,イスラーム教徒であるマレー人を中心に,親パレスチナ/反イスラエル感情が強い。衝突の激化後,パレスチナを支持する集会が多く開催され,日頃からイスラエルを強く非難してきたマハティール元首相やムヒディンPPBM総裁など与野党問わず,多くの政治家が参加した。10月24日にクアラルンプールの国立競技場で開催された集会では,エジプト外遊帰りの首相も参加し,1万6000人以上の市民が集まったと報じられている。

また,教育省は10月29日から11月3日まで,全国の学校教育機関で「パレスチナ連帯週間」を実施した。人種,宗教,社会的地位にかかわらず,個人の窮状に対する思いやりや関心を育むことが目的とされ,パレスチナの人道問題に関連した課外活動や寄付活動などが奨励された。問題に対する理解が浅い子どもたちにとっては暴力性を助長しかねないなど反対の声が与党内から多く上がったが,そうした批判はパレスチナ支持の是非を問うものではない。

前述のとおり,与党はこれ以上マレー人有権者の支持を失いたくないという状況であるなか,もとより市民の関心が高いパレスチナ問題において弱腰な姿勢をとった場合,政権にとって命とりの失点につながる可能性がある。しかし,この問題に関して,野党が強い批判を挟み込む余地はあまりなさそうである。野党は,「パレスチナで苦難が続いているなかで娯楽イベントの開催は不適切で無神経」だと,パレスチナ問題を持ち出して外国人アーティストの国内公演開催に反対し,政府に公演中止の決定を求めるなどしているが,そうした動きが政権に対する市民の反発を喚起するには至っていない。したがって,アンワル政権のパレスチナ問題に関する戦略は,現在のところうまく機能しているといえるだろう。

2024年の課題

2024年2月2日,ワン・マレーシア開発公社(1MDB)をめぐる職権濫用などの容疑で有罪判決を受け,収監されているナジブ元首相に対し,刑期短縮の恩赦が与えられたと国王主宰の恩赦委員会が発表した。禁錮12年から6年へと刑期が半減され,ナジブは2028年8月に釈放される見通しとなった。総裁を務めたUMNO内では現在も根強い人気があり,同党支持者からは歓迎される一方,都市部に居住するリベラルなPH支持者からは反発が出ている。あくまで部分的な恩赦で即時釈放ではないことから,アンワル政権への影響は当面限定的とみられるが,長期的には与党内の対立や有権者の支持離れにつながる可能性がある。

また,政権にとってもうひとつの潜在的な懸念要因として,各州王の輪番制により即位した新国王の存在がある。恩赦の決定を下した翌日,パハン州王であるアブドゥラ国王は退任し,新国王にイブラヒム・ジョホール州王が即位した。イブラヒム国王は,2022年のジョホール州議会選挙において州首相の任命を拒否したことを明言し,「傀儡の王になるつもりはない」と述べている。現状,アンワル首相の支持を表明しているが,再び政治情勢が不安定になった場合,影響力を行使する可能性がある。

経済面では,中国やアメリカの経済状況がどうなるかが,輸出,ひいては経済成長を左右する鍵となる。また,前述したとおり,経済状況に対する市民の不安は強まっており,政権への不満につながっていることが2023年11月の世論調査で示されている。アンワル政権が目先の有権者の不満に対処しつつも,同時に経済成長路線を推し進められるかが問われている。

対外関係では,外資誘致を積極的に行う政権が,中国企業からのさらなる投資を期待し,国交樹立50周年を迎える中国と経済的な結びつきを強めていくと考えられる。他方,ASEAN各国と同様,マレーシアにとって課題となるのは,南シナ海をめぐる問題である。2024年は中国と親密な関係にあるラオスがASEAN議長国であり問題解決の進展は困難とみられるが,2025年にはマレーシアへ議長国がめぐってくるため,どのように関与を図っていくかが注目される。

(地域研究センター)

重要日誌 マレーシア 2023年

   1月
1日 改正雇用法施行。最長労働時間の短縮,産休期間の延長など。
1日 クダ州政府,州内の賭博および宝くじ販売の全施設の営業を禁止。
4日 首相,サバ・サラワク両州に対し,5000万リンギ以下の公共事業局の開発計画の実施に関して裁量権を与えると発表。
8日 アンワル首相,就任後初の外遊でインドネシアを訪問。ジョコ大統領と会談。
14日 統一マレー人国民組織(UMNO)年次大会で,次の党役員選挙では総裁,副総裁への立候補を受け付けず,信任投票とする動議が可決。
17日 人的資源省,外国人労働者の雇用申請処理の迅速化を発表。製造,建設,プランテーションなど5業種を対象。
17日 現政権下で最初のB40(下位40%層)向け現金給付プログラム(STR)が開始。
19日 首相,新政権のスローガン「マレーシア・マダニ[Malaysia MADANI](開明的なマレーシア)」を発表。
24日 首相,ブルネイを訪問。
28日 UMNO最高評議会,カイリー・ジャマルディン元保健大臣・青年部長らを除名。ヒシャムディン・フセインらへ6年間の党籍停止処分を決定。
30日 首相,シンガポールを訪問。
   2月
3日 米国の通関当局は,サイム・ダービー・プランテーション社のパーム油製品が強制労働によって生産されていないことを確認,2年続いた禁輸措置の解除を発表。
7日 首相,政権内の全政党が次期州議会選挙での選挙協力に合意したと発表。
8日 政府,同月6日に発生したトルコ・シリアの地震被災者支援のため200万米ドル以上の支援を発表。
9日 首相,タイを訪問。
10日 マハティール,祖国戦士党を離党。
13日 連邦議会下院が召集。
14日 首相,トルコを訪問。同月6日に発生した地震被災地を慰問。
17日 内閣,マレーシア女性と外国籍の男性との間に生まれた子に市民権を認めるよう連邦憲法を改正する提案に同意。
20日 汚職防止委員会(MACC),マレーシア統一プリブミ党(PPBM)情報責任者ワン・サイフルを収賄容疑で逮捕。
24日 アンワル政権下で修正された2023年度予算案が下院に上程。3月28日に可決。
27日 製薬大手ファーマニアガがマレーシア証券取引所の財政難(PN17)分類入り。新型コロナウイルスワクチン供給を担うが,需要減少により損失が拡大。
   3月
1日 国際貿易産業省,米国のテスラ社による電気自動車(EV)の輸入を承認。
1日 首相,フィリピンを訪問。
1日 アマゾンウェブサービスがマレーシアでのクラウドサービス整備計画を発表。
5日 ザヒドUMNO総裁,今年の党総裁・副総裁選出を信任投票とすることに対し,結社登録局から承認を得たと発表。
6日 ペナン州議会,州憲法の党籍変更規制に基づき,国民同盟(PN)議員の4議席を空席とする動議を可決。
9日 MACC,ムヒディンPPBM総裁をマネー・ローンダリングなどの容疑で逮捕。
9日 政府は,スールー王国の自称後継者との訴訟のため,アザリナ首相府大臣をヨーロッパへ派遣すると決定。
12日 米国でマレーシア出身のミシェル・ヨーがアカデミー主演女優賞を受賞。
13日 国有石油会社ペトロナス,2022年決算で過去最高益。
15日 ジョハリ・サラワク州首相が,州内に気候変動センターの設立を発表。
16日 クアラルンプール=プトラジャヤ間を結ぶ鉄道・MRT2号線が開通。
16日 マレーシア証券取引所の子会社ブルサ・カーボン・エクスチェンジが国内初の炭素クレジットオークションを実施。
19日 UMNO役員選挙。正副総裁は信任。
21日 PN,祖国戦士党の加盟申請を却下したと発表。理由は明かさず。
22日 首相,サウジアラビアを訪問。
27日 首相,カンボジアを訪問。
29日 首相,中国を訪問。シンガポールのリー首相と会談(30日)。習近平国家主席,李強首相らと会談(31日)。
29日 ストーカー行為を犯罪とする刑法の改正案および児童に対する性犯罪法の改正案等が下院で可決。後者は,オンラインでの児童への性犯罪増加に対処し,保護を強化。
29日 スレイマン・マラッカ州首相が辞任。同じくUMNOのアブ・ラウフが後任に就任。
31日 連邦裁,ナジブ元首相の判決再審査請求を却下。前年8月のSRCインターナショナルをめぐる背任等の有罪判決に関して。
   4月
3日 下院で強制死刑廃止法案が可決。殺人やテロを含む11の重大犯罪で有罪の場合,裁判官の裁量の余地なく死刑が科されてきたが,強制的な死刑の適用を廃止。裁判官が死刑を選択する裁量は維持。
3日 PN議員が,従業員積立基金(EPF)からの限定的な引き出しに関する議論を求める緊急動議を下院で提出。動議却下後,PN議員は抗議の退出。
7日 UMNO最高評議会はナジブ元首相に対する恩赦の申請を全会一致で決定。全191支部長の署名入りの覚書も提出予定。
11日 政府は,スールー王国の後継者を自称し,金銭の補償を求めて政府と争っている原告のうちの1人をテロリストに認定。
13日 MACCは,移民労働者の斡旋に関連した汚職の疑いで,シヴァクマル人的資源相の上級補佐官を逮捕。他側近2人も逮捕。
17日 レバノンの宝飾品会社がナジブ元首相の妻・ロスマを提訴。約6700万リンギ相当の宝飾品の返還か代金の支払いを要求。
20日 首相,クダ・クランタン・トレンガヌ各州で首相府主催の断食明けのオープンハウスを開催すると発表。地方開催は初めて。
28日 PPBM,サバ州の4つの下院議員議席について,当選者は選挙後離党したため議員資格を失ったと主張し,司法審査を申請。
   5月
3日 中央銀行,政策金利を0.25ポイント引き上げ,3%とすることを決定。前年11月以来の引き上げ。
3日 国境なき記者団が発表した「世界報道の自由ランキング」で73位。前年の113位から上昇し,過去最高位。
13日 内務省がスイス製時計ブランド・スウォッチの店舗全国11カ所を強制捜査。LGBTプライド月間に合わせた虹色のコレクションを問題視し,多数の時計を押収。
14日 与党,「統一政府大会」を開催。希望連盟(PH)や国民戦線(BN)などの全19政党の代表者が出席。
22日 連邦議会下院が召集。自殺を非犯罪化する刑法および刑事訴訟法の修正案を可決。
31日 カンボジアの野党指導者サム・ランシーらをマレーシア政府が国外追放したとして,カンボジア首相が謝意を表明。しかし,サム・ランシーらの滞在をアンワル首相は把握していなかったと外務省が声明。
   6月
1日 パナソニック子会社がスランゴール州シャーアラムの2工場閉鎖を発表。
6日 マハティール,PNとの協力を表明。
8日 首相,インドネシア大統領と会談。
10日 UMNO党総会開催。首相や民主行動党(DAP)のローク書記長ら出席。
13日 米国半導体大手テキサスインスツルメンツがクアラルンプールとマラッカに新たに組立・テスト工場を建設すると発表。
16日 米国国務省が発表した2023年版の人身取引報告書で,マレーシアは最下層の第3階層から「第2階層監視リスト」に上昇。
23日 高等裁判所,2018年総選挙後に離党したズライダ・カマルディンに対し1000万リンギの罰金の支払いを求める人民公正党(PKR)の主張を認め,支払いを命じる判決。
26日 マレーシア統一民主連盟(MUDA),州議会選でPHと協力せず,単独出馬を表明。
27日 トレンガヌ州選挙裁判所,前年総選挙での買収を認定し,クアラ・トレンガヌ下院選挙区での汎マレーシア・イスラーム党(PAS)候補者の当選を無効に。
   7月
1日 中銀総裁が交代。前副総裁のアブドゥル・ラシードが就任。
5日 公共交通機関や医療機関でのマスク着用義務が撤廃。
5日 マレーシア華人協会(MCA)とマレーシア・インド人会議(MIC)は6州の州議会選挙に候補者を擁立しないことを決定。連立政権の候補者を支援する用意があると表明。
11日 高速鉄道公社,クアラルンプール=シンガポール間の高速鉄道(HSR)計画の再始動を発表。
14日 首相,米国のテスラおよびスペースXのイーロン・マスクとオンライン会談。テスラはマレーシア進出を発表(20日)。
18日 クダ州首相のムハマド・サヌシが扇動罪の疑いで逮捕。
20日 首相,ベトナムを訪問。
22日 ファフミ・ファジル通信・デジタル相,クアラルンプールで開催されていた音楽祭の中止を命令。前日の公演中,イギリスのロックバンド「The 1975」のメンバーが同性同士でキスをするなどして物議。
22日 祖国戦士党,州議会選挙へ候補者を擁立しないと発表。
23日 サラフディン・アユブ国内商業・生活費大臣(国家信託党[Amanah])が脳出血により死去。
26日 首相,フィリピン大統領と会談。
27日 「国家エネルギー移行ロードマップ(NETR)」第1フェーズ発表。
31日 治安違反法(SOSMA)に基づく拘留者の家族が,スンガイ・ブロー刑務所の外でハンガーストライキ。約100人が参加。
   8月
7日 通信マルチメディア委員会(MCMC),国内通信会社のネットワークを通じたニュースポータル「UtusanTV」のウェブサイトへのアクセスを遮断。
10日 内務省は,虹をテーマにしたスイス・スウォッチの製品の着用,保有,販売等を禁止。違反した場合,最長3年の懲役刑等。
10日 ペナン州副州首相のP・ラマサミーがDAPを離党。党内の「粛清」を批判。
11日 首相,王毅中国外相と会談。
12日 クダ,クランタン,トレンガヌ,ペナン,スランゴール,ヌグリスンビランの6州で州議会選挙実施。
17日 スランゴール州シャーアラムで飛行機墜落事故。パハン州議会議員が死亡。
25日 首相,ジョホール州イスカンダル・プテリにある「フォレストシティ」を金融特区に指定すると発表。
29日 「NETR」第2フェーズ発表。
   9月
1日 首相,「新産業マスタープラン(NIMP)2030」を発表。
4日 クアラルンプール高等裁判所は,アカルブディ財団に関連したザヒドUMNO総裁の47件の汚職容疑に関して,検察の起訴取り下げ申請を認定。
4日 首相,インドネシアを訪問。ASEAN関連首脳会議に出席。
9日 ジョホール州の下院議員選挙区(プライ)および州議会選挙区(シンパン・ジェラム)で補欠選挙。PH・Amanahのサラフディン・アユブ議員の死去に伴うもの。両議席ともAmanahが勝利。
11日 特別国会が招集。首相,「第12次マレーシア計画」の中間報告を発表。
13日 首相,シンガポールを訪問。
14日 国家統治に関する内閣特別委員会は,情報公開法の制定に原則合意。
17日 首相,中国を訪問。
20日 首相,米国を訪問。国連総会出席。
  10月
9日 連邦議会下院が召集。
11日 首相,セーター・タイ首相と会談。
12日 PPBM所属のペラ州選出下院議員が首相への支持を表明。同ラブアン下院選挙区選出議員も同月30日に表明。
13日 2024年度予算案が下院へ提出。
16日 首相,パレスチナ・ハマスの政治局長と電話会談。パレスチナへのマレーシアの支持を表明。
16日 教育省,フランクフルト国際図書見本市への参加撤回。主催者がイスラエル支持を表明したため,政府の立場に沿って決定と説明。
17日 格安航空会社MyAirline創業者や関係者をマネー・ローンダリングやテロ資金供与などの容疑で逮捕。MyAirlineは同月12日に財政難を理由に操業を停止。
19日 首相,サウジアラビア,トルコ,エジプト歴訪(~23日)。
21日 UMNO青年部,ナジブ元首相への恩赦を求めるデモ。2000人以上の党員が参加。
24日 クアラルンプールの国立競技場でパレスチナとの連帯集会。約1万6000人が参加。
25日 PPBMワン・サイフル下院議員,マネー・ローンダリングなどの容疑で追起訴。
29日 教育省,全国の学校・教育機関においてパレスチナ連帯週間を実施。
  11月
1日 政府は,鶏肉に関する補助金と価格統制を終了。鶏卵への補助は継続。
4日 サラワク州議会ジュパック選挙区補欠選挙。サラワク政党連合(GPS)が議席を維持。
4日 岸田首相来訪,翌日アンワル首相と会談。
9日 サイード・サディク前青年・スポーツ相,PPBM青年部の基金をめぐる汚職で,懲役7年,むち打ち2回および罰金1000万リンギの判決。MUDA総裁を辞任。
16日 クアラルンプール高等裁判所,サバ州の下院議員選挙区4議席を空席とすることを求めるPPBMによる司法審査申請を却下。
20日 クランタン州のイスラーム法が定める犯罪に対し違憲を申し立てた訴訟。最高裁は判断を保留。訴訟への抗議デモが発生。
20日 公衆衛生のための喫煙製品規制法案が下院で可決。
28日 PPBM所属下院議員が首相支持を表明。10月頃から表明が続き,5人目。
  12月
2日 トレンガヌ州クママン下院議員選挙区で補欠選挙。PAS候補者が勝利。
6日 TikTokでイスラエルとの国交樹立を主張した男性が扇動罪等の容疑で逮捕。
12日 首相,内閣改造人事を発表。
16日 首相,日本を訪問。
20日 政府,イスラエル企業所有船舶のマレーシア国内への入港を禁止。
26日 パレスチナへ連帯する抗議集会で,クアラルンプールの米国大使館に向かい行進。

参考資料 マレーシア 2023年

① 国家機構図(2023年12月末現在)

(注) *連邦元首,州元首に関わる訴訟を取り扱う。

② アンワル・イブラヒム内閣名簿(2023年12月末現在)

(注) [ ]内は所属政党連合-所属政党。略称は以下のとおり。

≪政党連合≫ BN(Barisan Nasional):国民戦線,GRS(Gabungan Rakyat Sabah):サバ人民連合,GPS(Gabungan Parti Sarawak):サラワク政党連合,PH(Pakatan Harapan):希望連盟,PN(Perikatan Nasional)国民同盟。

≪政党≫ Amanah(Parti Amanah Negara):国家信託党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党,PDP(Progressive Democratic Party):進歩民主党,PGRS(Parti Gagasan Rakyat Sabah):サバ民意党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党,SUPP(Sarawak United People's Party):サラワク統一人民党,UMNO(United Malays National Organisation):統一マレー人国民組織,UPKO(United Progressive Kinabalu Organisation):統一進歩キナバル組織,Warisan(Parti Warisan):伝統党。

③ 州首相名簿

(注) [ ]内は所属政党連合-所属政党。略称は以下のとおり。

≪政党連合≫ BN(Barisan Nasional):国民戦線,GRS(Gabungan Rakyat Sabah):サバ人民連合,GPS(Gabungan Parti Sarawak):サラワク政党連合,PH(Pakatan Harapan):希望連盟,PN(Perikatan Nasional)国民同盟。

≪政党≫ Amanah(Parti Amanah Negara):国家信託党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党,PDP(Progressive Democratic Party):進歩民主党,PGRS(Parti Gagasan Rakyat Sabah):サバ民意党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党,SUPP(Sarawak United People's Party):サラワク統一人民党,UMNO(United Malays National Organisation):統一マレー人国民組織,UPKO(United Progressive Kinabalu Organisation):統一進歩キナバル組織,Warisan(Parti Warisan):伝統党。

主要統計 マレーシア 2023年

1 基礎統計

(注) 1)2019年以前は2010年センサスに基づく推計値。2020年以降は2020年センサスに基づく改定値。2)暫定値。3)2023年12月の値。4)年平均値。

(出所) 人口:Department of Statistics Malaysia, Principal Statistics of Population, Malaysia, 2023およびStatisticsYearbook Malaysia, 2021。労働力人口,消費者物価上昇率,失業率,為替レート:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2024年1月号。

2 連邦政府財政

(注) 1)暫定値。2)+は資産の取り崩しを意味する。

(出所) 2023年:Ministry of Finance, Fiscal Outlook and Federal Government Revenue Estimates 2024。2022年以前:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2024年1月号。

3 支出別国民総所得(名目価格)

(出所) Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2024年1月号。

4 産業別国内総生産(実質:2015年価格)

(注) 1)購入者価格表示。

(出所) 表3に同じ。

5 国際収支

(注) IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号については(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。1)特別引出権,IMFポジション,金および外貨。

(出所) 表3に同じ。

6 国・地域別貿易

(注) 輸出は本船渡し条件(FOB)価格,輸入は運賃保険料込み条件(CIF)価格での表示。1)EU27カ国+イギリス。

(出所) 表3に同じ。

 
© 2024 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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