アジア動向年報
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各国・地域の動向
2023年のネパール 政界再編,汚職問題に揺れたダハール政権
佐野 麻由子(さの まゆこ)
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2024 年 2024 巻 p. 497-520

詳細

2023年のネパール

概 況

2023年のネパール政治は,政界再編と汚職問題に揺れた。2022年末に誕生したネパール共産党毛沢東主義センター(CPN-MC)とネパール共産党統一マルクス・レーニン主義(CPN-UML)との連立政権は約2カ月で破綻し,CPN-MCとネパール会議派(NC)との連立政権が復活した。そしてCPN-MCの主導による,CPN-UMLを除く4つの左派政党の「緩やかなフォーラム」が立ち上がるなど,政界が大きく再編された。また,大物政治家による汚職事件の摘発が相次いだ。

経済面では,貿易赤字削減のための金融引き締めと輸入制限が経済減速の一因となり,2022/23年度の実質国内総生産(GDP)成長率は前年度比で低下し,過去10年の平均4.5%を大幅に下回った。他方,外貨準備高は2023年7月中旬の117億1000万ドルから2023年12月中旬には133億1000万ドルまで回復した。

対外関係では,プスパ・カマル・ダハール首相が就任後初の海外訪問先にインドを選び,多様な分野で協力関係を強化した。ネパールでの影響力復活を目論む中国が外交を積極的に展開し,米国もまたそれに対抗するように関与を増大させたが,ネパールは非同盟外交政策に徹した。

国内政治

大統領選挙を契機にNCとの連立政権が復活

NCと与党同盟を結び2022年11月の選挙を戦ったダハールCPN-MC議長は,一転してかつて袂を分かったKPシャルマ・オリCPN-UML議長と協定を結び,12月25日に首相に就任し世間を驚かせたが,協力関係は長くは続かなかった。

ダハール首相は,首相の宣誓から1カ月以内に連邦議会下院に当たる代表議会の信任投票に臨むことを義務付ける憲法に則り,2023年1月10日に実施された信任投票において270票中(総議員数275人)268票の賛成票を得て信任を勝ちとった。しかし,3月9日に予定されていた大統領選挙の候補者をめぐりCPN-UMLと対立した。CPN-UMLは,大統領ポストを要求していたが,2月19日の民主化記念日にカトマンドゥで講演したダハール首相は,国民の合意がなければ次期大統領を選出することはできないと述べそれを拒否した。CPN-UMLの大統領候補を支持するという連立政権発足時の協定を反故にされた同党の幹部らは,連立パートナーを「二枚舌」と批判した。

これは連立政権崩壊につながった。同日夜,CPN-MCとの同盟関係を復活させるチャンスとみたシェール・バハドゥール・デウバNC党首とガガン・タパら同党幹部は,ダハールCPN-MC議長と会談し,大統領選挙でのNCの候補への支持を取り付けた。2月25日,CPN-MC,ネパール共産党(統一社会党)(CPN-US),人民社会党ネパール(Janata Samajiwadi Party, Nepal: JSPN)はNCの大統領候補への支持を表明し,CPN-MCとCPN-UMLの同盟は事実上崩壊した。大統領は連邦議会議員と州議会議員で構成される選挙人団による間接選挙で選出されるため,両議会での支持固めが重要となる。同月26日にヒンドゥー民族主義の国民民主党(Rastriya Prajatantra Party: RPP)の3閣僚が政権から離脱し,翌日にCPN-UMLはダハール政権への支持を撤回したうえで閣僚8人が一斉に辞任した。連立政権はわずか2カ月で幕を下ろした。

CPN-MCがCPN-UMLの大統領候補への支持を拒否した理由として,(1)国政におけるCPN-UMLの影響力増大に懸念を抱いたこと,(2)インドや米国に配慮したことが指摘されている。大統領は儀礼的な国家元首に位置付けられるが,現職のビディヤ・デヴィ・バンダリ大統領(CPN-UML)が最高裁判所の判断を無視し議会の解散を承認したり,議会が提出した市民権法案の承認を憲法に反し保留にしたりしていることから,事実上権力を有すると判断したといえる。また,ダハールCPN-MC議長は会見で同盟の解散に「外国の影響」があったことをほのめかした。シャンカール・ポカレルCPN-UML書記長も,「インドは領土問題をめぐる交渉が困難になることを憂慮し,米国は干渉しづらくなることを嫌い,CPN-UMLとの連立政権を好まなかった」と述べた(The Diplomat,2023年3月6日およびKantipur,2023年3月1日)。インドはCPN-UMLが政治的基盤を強化するために国民の間で根強い反インド感情を利用することを警戒し,米国は中国寄りのオリCPN-UML議長を敬遠していた。

3月9日,NCのラム・チャンドラ・パウデルが新大統領に選出された。CPN-UMLとRPPが内閣支持を撤回したことを受け,同月20日,ダハール首相が再び代表議会で過半数の支持を得ていることを証明する必要があり,1月10日に続き信任投票が行われた。CPN-UMLとRPPは反対票を投じ,ネパール労働者・農民党(Nepal Workers Peasants Party: NWPP)は棄権した。一方,NC,CPN-MC,CPN-US,国民独立党(Rastriya Swatantra Party: RSP),JSPN,民主社会主義党ネパール(Loktantric Samajiwadi Party, Nepal),世論党(Janamat Party),人民自由党(Nagarik Unmukti Party),統一人民戦線(Rastriya Janamorcha)はダハールを支持し,出席した議員262人中172人の賛成により首相は再任された。

政権維持に腐心する首相

ダハールは2022年末に首相に就任して以降,連立政権の維持に腐心し,CPN-UMLとの連立政権下での組閣を含めて1年間に12回に及ぶ内閣改造を行った。それはいかに政党間の利害を調整し,大連立を維持することが難しいかを物語っている。2023年3月31日,新たに発足したCPN-MC,NC,CPN-US,人民自由党,世論党,JSPN,民主社会主義党ネパール党,統一人民戦線の8党による連立政権での閣僚の宣誓を予定していた日には,産業・商業・供給大臣のポストを要求していた世論党のアブドゥル・カーン水供給大臣が辞任を表明するなど,各党の調整に苦心した。5月23日の内閣改造により,憲法で定められている定員数の上限に達し,ようやく全閣僚が確定した。大臣が辞任したものの世論党は引き続きダハール政権を支持していたため,ダハール首相は同党に要職を与えることを検討した。そしてダハールは8月13日にCPN-MCのアマン・ラル・モディ連邦制度・総務大臣を解任し,代わりに世論党のアニタ・デヴィ・シャハを就任させることを決定した。

12月23日,ダハール首相は,首相就任1年の節目を前にCPN-MCの集会で演説し,停滞した政治を刷新し政権に勢いを与えるために,さらなる内閣改造を行うと述べた。だが,CPN-MCの党幹部らは2024年1月の連邦議会上院にあたる国民議会選挙前に改造が行われる可能性はないと述べ,NC幹部も内閣改造には慎重な姿勢を示した。

4つの左派政党による社会主義戦線ネパールの立ち上げ

NCと再び連立を組んだCPN-MCは6月19日,自党の国民議会議員16人,代表議会議員32人,マダブ・クマール・ネパール率いるCPN-US(国民議会議員7人,代表議会議員10人),ウペンドラ・ヤダブ率いるJSPN(同3人,同12人),ネトラ・ビクラム・チャンド率いるネパール共産党(Communist Party of Nepal,議員なし)とともに,「ネパールの特色をもった社会主義の確立」等15の目標を掲げ,緩やかなフォーラムである「社会主義戦線ネパール」(Samajwadi Morcha Nepal)を立ち上げた。ネパール共産党は,2022年の総選挙まで武力活動に訴えていたが,選挙後に当時のオリ政権と協定を結び武力活動を放棄した。多数の毛沢東主義者が殺害された2007年のラウタハト虐殺の首謀者といわれているヤダブが構成員になったことも世間の注目を集めた。他方,2022年7月にヤダブのJSPNから分離したバブラム・バッタライのネパール社会党(Nepal Samajiwadi Party)は参加しなかった。

発表式典でダハールCPN-MC議長は,社会主義戦線ネパールは(1)包括的和平協定を妨害し中傷しようとする者たちと戦い,和平プロセスの任務を達成する,(2)ネパール共産党を統合し,無政府主義,全体主義に反対するという任務をもつと述べた。しかし,多くの専門家は,戦線の結成はNCやCPN-UMLと同規模の勢力をCPN-MCが代表議会で維持するための戦術で,早くも4年後の選挙を見据え「社会主義」を国民に印象付ける思惑があると分析している。戦線の結成により代表議会での社会主義戦線ネパールの勢力は54人となり,88議席をもつNCと78議席をもつCPN-UMLをけん制する防衛線として機能する可能性がある。また,チャンドとヤダブの戦線への参加は,遠隔丘陵地域と中央タライで組織を拡大するための戦略と目されている。

社会主義戦線ネパールの立ち上げを受け,警戒を強めているNCに対し,CPN-UMLは,政権交替およびデウバの新首相就任への協力を持ち掛けているという。連立政権が再び崩壊する火種は消えていない。

相次いだ大物政治家が関与した汚職事件の摘発

汚職事件は珍しくないが,2023年は大物政治家や官僚が関わったとされる事件の摘発が相次ぎ,世間の注目を集めた。

第1は,偽ブータン難民詐欺事件である。1990年代にブータンでのネパール系住民への迫害から逃れ難民としてネパールに移住した人々がいる。この事件では,政治家やその親族ら16人が,ネパール市民をそのブータン難民として登録して米国やほかの国に再定住させると偽り,875人以上から数百万ルピーを詐取した疑いで逮捕,起訴された。5月3日,オリ政権で副首相兼エネルギー・水資源・灌漑大臣を務めたCPN-UML書記長トップ・バハドゥール・ラヤマジとその息子に対して逮捕状が出され,息子は3日に,ラヤマジは14日に逮捕された。5月7日,ソーシャルメディア上に難民詐欺に関与したとして逮捕・拘留されているサンデシュ・シャルマ容疑者が,デウバNC党首の妻アルジュ代表議会議員に2500万ルピーを,バル・クリシュナ・カンド元内務大臣の妻マンジュ代表議会議員に6000万ルピーを渡したと被害者に語った音声テープが流出した。しかし,警察は証拠不十分として両者の取り調べを行っていない。デウバNC党首が捜査を阻止し,捜査に関与した主要な警察職員を異動させるようダハール首相に圧力をかけたという憶測もある。5月10日には,NCのリーダーで元内務大臣バル・クリシュナ・カンドも拘束された。

第2は,公有地ラリタ・ニワス土地詐欺事件である。これは,ネパール首相官邸や中央銀行などがある公有地ラリタ・ニワスの土地所有権が,政治家や官僚などと共謀した土地ブローカーによって,大企業グループや個人らに不法に譲渡された事件である。この問題は1990年代から指摘され,2018年5月28日に当時のオリ政権が特別調査委員会を設置した。2019年より職権乱用調査委員会(CIAA)とネパール警察中央捜査局(CIB)が調査を開始し,翌2020年にCIAAはNCのリーダーでビジェイ・クマール・ガチャダール元公共事業・交通大臣を含む175人を特別法廷に起訴したが,最終判決は出ていない。2023年に入り,5月に大手スーパーマーケット,バート・バテニのオーナーで実業家であるミン・バハドゥール・グルンを含む406人に逮捕状が出された。最高裁判所は,ガチャダール被告が大臣在任時に土地の譲渡を合法化する閣議決定をしたマダブ・クマール元首相(現CPN-US),また架空の団体に土地の登録を許可する閣議決定をし,かつてCPN-MCに所属していたバブラム・バッタライ元首相の両名に対する捜査を命じたが,NCとCPN-US両党が連立政権に参加しているため捜査に進展はない。CPN-UMLのアグニ・カレルは,刑事司法制度に対する人々の信頼を弱めると批判した。

第3は,金密輸事件である。7月18日に同国史上最大量の金61キログラムがトリブバン国際空港から密輸され,歳入局の強制捜査で押収された。翌日,密輸に関与した税関職員,中国人,インド人,仲買人を含む21人が逮捕された。CPN-UMLは,22個の積荷が同様に税関を通過したとの報告もあるとし,首相と内務大臣の関与を疑い,ハイレベルの調査委員会の設置を要求したが,与党は応じなかった。CPN-UMLは調査委員会の設置を求め,7月26日以降の代表議会の開催を妨害し続けた。8月22日,主要政党の指導者らは,独立かつ中立のハイレベル調査委員会を設置し,金密輸事件の調査を開始することで合意した。

捜査の過程で,密売人らはCPN-MCの指導者や党関係者,その親族らと頻繁に接触していたことが判明した。8月30日,CIBはCPN-MCの副議長で元代表議会議長のクリシュナ・バハドゥール・マハラの息子,ラーフルを前年12月の金の密輸に関わった容疑で逮捕した。9月5日,CIBは,2015~2023年に副大統領を務めたCPN-MCのナンダ・バハドゥール・プンの息子ディペシュを,7月の金密輸事件関与の疑いで尋問した。CIBは密輸に関わった疑いのあるCPN-MCの指導者や活動家60人以上の捜査にあたっている。

以上の3つの事件では,元副首相,内務大臣,現職秘書などが逮捕されており,捜査の進展を評価する声がある一方で,CPN-MC,NC,CPN-UML主要3党の幹部がいずれかの事件に関与しており,真相解明に対して疑問の声もあがっている。国民の疑念を晴らし,政治不信を生まない対応が求められている。

経 済

概 況

2023年10月の世界銀行のNepal Development UpdateOctober 2023)によれば,2022/23年度の実質GDP成長率は1.9%と推計され,前年度の4.25%から低下し,2013~2022年の平均成長率4.5%をも大幅に下回った。貿易赤字削減のための金融引き締めと輸入制限が経済減速の一因となった。経済活動は工業とサービス部門で抑制された一方で,農業生産高は引き続き堅調に推移した。

農業生産高は2.7%拡大した。水稲生産が農業部門の成長を支えた。夏のモンスーンが良好だったことや種子品種の改良を反映して,生産量の成長率は6.9%であった。他方,4月上旬にランピー・スキン病が家畜を襲い,100万頭以上が感染し,5万頭近くが死亡した。その結果,乳製品と食肉の生産量が減少した。

製造業や建設業の生産は,原料となる植物油や建設資材の生産量不足により,それぞれ2%,2.6%縮小したが,堅調なエネルギー部門に支えられ,工業部門全体で0.6%の成長を確保した。新たに500MW近くの水力発電が追加されたことで,電力生産は2年連続で大幅に増加した。

卸売業・小売業の不振がサービス部門の成長を鈍化させた。政府が5月に発表した『経済白書(2022/23)』の推計によると,22/23年度のサービス部門の成長率は2.3%で,これは2020/21年度以降で最も低い。卸売・小売業の成長率は,高インフレ率と商品輸入の減少により前年度よりも0.5%低下した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって深刻な影響を受けた観光部門は,観光客の大幅な増加に後押しされ,2桁成長を続けたものの,入国者数は依然としてCOVID-19拡大前の水準を下回っている。

ネパール中央銀行が2023年12月中旬までの2023/24年度の当初5カ月間のデータに基づいて発表したCurrent Macroeconomic and Financial Situationによれば,消費者物価上昇率は,前年度同期の7.38%に対し4.95%であった。若干低下したもののウクライナ戦争後の食料品やエネルギー価格の高騰,ネパールルピーの対米ドルでの下落により食品,乳製品,家庭用消費財価格の上昇が続き,家計を圧迫している。特に,インドが2023年7月20日に非バスマティ米の輸出を禁止して以降は,コメ価格が2倍になった。

2023/24年度5カ月間の電力を除いた輸出は,前年度同期と比べて6.1%減の632億1000万ルピーとなった。インドへの輸出は11.3%減少したが,中国への輸出は322.3%増となった。このような大幅な増加は,COVID-19の拡大により3年間にわたり閉鎖と開放が繰り返されていたラスワガディとタトパニの国境が,それぞれ4月1日と5月1日に完全に再開されたことによる。輸出品の内訳をみると,亜鉛板,パーティクルボード,ジュース,ポリエステル糸・糸,既製服などが増加した一方,パーム油,大豆油,茶,絨毯,ロジンなどが減少した。輸入は前年度同期比3.4%減の6422億1000万ルピーとなった。インドとその他の国からの輸入はそれぞれ1.3%,28.4%減少したが,中国からの輸入は32.8%増加した。対中輸入増加の背景には先述の国境開放に加え,外貨準備高減少への対応として2022年2月より実施された輸入禁止措置が同年12月中旬に解除されたことがある。輸入品の内訳をみると,既製服,軟鋼線材,アルミ屑・棒・形材,コイル,電気機器,繊維製品,航空機のスペアパーツなどが増加した一方で,金,粗大豆油,粗パーム油,石油製品,コメなどが減少した。貿易赤字の総額は3.1%減少し,5億7900万ルピーとなった。なお外貨準備高は,2023年7月中旬の117億1000万ドルから12月中旬には13.6%増の133億1000万ドルまで回復した。

コロナ禍後に停滞した対中貿易が勢いを取り戻しつつあるが,貿易赤字が拡大している。対中輸入額は2013/14年度の797億2000万ルピーから2022/23年の2220億ルピーに増加する反面,対中輸出額は同期間で25億2000万ルピーから17億6000万ルピーに減少した。ネパールにとって中国市場へのアクセスは大きな課題である。この背景には,中国側が農産物や工業製品の標準化や原産地証明などの規制を強化したことがある。また,2016年4月に中国と締結した運輸協定と運輸・通過議定書の履行が停滞し,中国を通じて海路にアクセスできていない点も輸出全般の不振につながっている(My Republica,2023年9月23日)。

世界銀行は,輸入規制の解除と金融政策の段階的な緩和により,2023/24年度の経済成長率は3.9%に回復すると予測している。2023/2024年度中に完成予定である総設備容量900MWの各種水力発電プロジェクトが産業部門で力強い成長をもたらし,卸売業と小売業は輸入制限解除の恩恵を受け,サービス部門の成長を後押しすると期待される。

農業部門については,家畜のランピー・スキン病の蔓延や不規則なモンスーンにより,成長が鈍化する可能性がある。一方,インフレ率が高止まりし,人々の実質可処分所得や個人消費を圧迫する懸念材料となる。記録的な出稼ぎ者の増加は(後述),中期的には堅調な送金流入に反映されると期待されているものの,貿易赤字を縮小させるほどではなく,経常収支赤字は2024/25年度には対GDP比3.7%,2025/26年度には対GDP比4.6%に拡大するとみられている。

出稼ぎ労働者の増加

ネパール労働・雇用・社会保障省海外雇用局(DoFE)の報告書Countrywise Labour Approval for FY 2079/80によると,コロナ禍後の移動制限の緩和により労働者の海外移動は2022/23会計年度には,77万1000人を超えた。2021/22年度の63万7133人より13万4214人増加している。

労働力輸出の増加に伴い,海外からの送金額も拡大傾向にある。ネパール中央銀行によれば,2023/24会計年度の5カ月(7~11月)の送金流入額は,前年度同期比27.6%増の6132億5000万ルピーとなった(図1)。世界銀行が12月18日に発表したMigration and Development Brief 39によれば,2023年のネパールへの送金額は,COVID-19拡大前の水準を超え,前年比18%増の110億ドル(推計値)に達するとされている。また,送金額がGDPに占める割合は26.6%(2022年は23.1%)とされ,南アジアでは2位のスリランカの7.3%を大きく引き離し1位の座を占める。送金額増加の背景について同報告書は,主要出稼ぎ先の湾岸諸国のインフレ率が低かったこと,ネパールにおけるGDP成長率の急激な減速と高インフレ率,特に食料価格の高止まりが送金を促したとする。世界銀行によれば,2022,2023年には2桁の成長を記録したネパール人出稼ぎ労働者による本国への送金額は,原油価格低迷の影響により湾岸諸国での雇用拡大にブレーキがかかることで,増加率は下がるものの,2024年には120億ドルに達すると予想されている。

図1 送金流入額の推移(2019年4月~2023年12月)

(出所) Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial SituationBased on Five Months Data Ending Mid-December, 2023/24), Table 60: Monthly Situation of Major Economic Indicators(Rs. in Billion).

対外関係

インドとの関係

2022年末にインドとの関係改善を図ってきたデウバ首相からダハール首相に交代したことで,対印関係が不安視されたが杞憂に終わった。

ダハール首相は就任後初の外遊先として,5月31日~6月3日にインドを訪問した。かつてネパールでは,首相就任後初の海外訪問先をインドとする慣例があったが,2008年に首相に就任した当時のダハールはそれを破り中国を選んだ。今回の首相就任後,首相は中国から3月28~31日に開催される「ボアオ・アジア・フォーラム」への招待を受けたが,新たな連立政権発足後の国内政治の混乱を理由に訪問を取りやめた。それには政治の安定のためにも訪中の時期をずらしたほうがよいという在ネパール中国大使の助言もあった。そしてダハールは,2023年5月23日の国会での質疑で,「地理的,経済的状況,国境問題により,インドへの訪問が重要である」と明言した。結果的に就任後初の訪問先がインドになったことで,インドへの敬意を印象付けることに成功したといえる。

首相として4回目となる今回の訪問では,両国の間で7つの文書が交わされ多くの成果をあげた。(1)ネパール=インド間の通過条約,(2)ドダラ=チャンダニ間の統合検問所開発に関する覚書,(3)石油インフラ分野の協力に関する覚書,(4)ネパール外務省研究所(IFA)とインドのスシュマ・スワラジ外務省研究所(SSISI)との間の覚書,(5)プーコット・カルナリ水力発電プロジェクト(480MW)開発に関する覚書,(6)ロウワー・アルン水力発電プロジェクト(669MW)に関する開発契約,(7)ネパール・ナショナル・クリアリング・ハウス社(NCHL)とナショナル・ペイメント・カンパニー・インド(NPCIL)との間のクロスボーダー決済に関する覚書,である。特に通過条約は7年ぶりに更新され,ネパールは第三国貿易のためにインドの港に加えて,内陸水路へのアクセスが可能となった。またこのほかにも,両首脳は,首相官邸で行われたゴラクプール=ブトワル越境送電線(400キロボルト)の特別式典で礎石を据えた。インド政府はインド・ネパール信用枠(LOC)の下でベリ回廊,ニジガード=イナルワ,ガンダク=ネパールガンジの発電所および送電線建設のために,約6億7980万ドルを出資することに合意した。さらに,シリグリ=ジャパ間における新しい石油パイプラインの敷設,未開発の土地を使用した2つのグリーンフィールド・ターミナルの開発でも合意した。ネパールがインドの送電網を使用してバングラデシュにエネルギーを販売する史上初の三国間電力取引への同意もみられた。

中国とインドは長年隣国ネパールへの影響力を競っており,過去10年間,それぞれ数十億ドルをネパールの水力発電プロジェクトに投資している。特にインドは自国のエネルギー需要の増大という背景もある。ネパール電力庁の2022/23年度年次報告書によると,ネパールのインドへの電力総輸出量は前年度の493GWhから1346GWhに急増した。中国はヒマラヤ国境を越える送電線の建設という技術的課題もあり,ネパールから電力を輸入していない。インドが電力分野でさらにネパールへの影響力を強める可能性がある。

2019年に再燃した国境紛争問題についても成果があり,両首脳は交渉によって問題を解決することで同意した。インドとの国境紛争についてダハール首相は会談後の会見で,外交を通じて解決することを強調し,長期的な解決策としてネパールとバングラデシュが陸続きになることを可能にするインドの領地と引き換えに,リプレク,リンピヤドゥラ,カラパニをインドに渡す可能性について話し合ったことを明らかにした。

中国との関係

中国にとっては,2021年のネパール共産党(Nepal Communist Party,NCP)の分裂,2022年の米国の開発援助ミレニアム挑戦公社(MCC)の補助事業の承認など,ネパールに対する自国の影響力の限界を感じさせる出来事が続いた。中国はネパールにおける米国の影響力増大を警戒しながら,3期目を迎えた習近平国家主席の外交政策の3本の柱である,「グローバル発展イニシアティブ」(Global Development Initiative: GDI),グローバル安全保障イニシアティブ(Global Security Initiative: GSI),そしてグローバル文明イニシアティブ(Global Civilization Initiative: GCI)を前面に出し,外交を展開した。

6月21日,中国輸出入銀行の融資を受けて建設されたポカラ国際空港(PRIA)に,1月1日の開港以来初の国際線として四川航空のチャーター便が到着した。PRIAについては,2022年12月31日に在ネパール中国大使館が「一帯一路」の「顕著な旗艦プロジェクト」であると主張し,ネパール側との認識の相違が浮き彫りになり国内で物議を醸していた。ネパール民間航空局(CAAN)と中国輸出入銀行との間の融資契約には「一帯一路」への言及はない。

6月23日には,ネパールの観光セクターの活性化を目的とし,第1回ネパール・中国友好ドラゴン・ボートレース・フェスティバルがポカラで開催された。このイベントについて,松・中国大使はGCIの実践であると述べたが,ネパール政府は沈黙を選択した。外交専門家らは,中国政府の動きは,MCCに対抗しネパールにおける中国の影響力を拡大するための戦略で,GSIやGCIに参加するよう「圧力をかけている」と分析している。

8月28日に中国が発表した「2023年版中国標準地図」も物議を醸した。2020年5月,ネパール政府はリプレク,カラパニ,リンピヤドゥラを含めた新しい地図を発行した。中国はその地図を使用しなかったのである。8月30日,政府のスポークスパーソンでもあるレカ・シャルマ通信・情報・技術大臣は,中国政府と話し合った後に政府の立場を公表すると述べた。31日,バレン・シャハ・カトマンドゥ市長は抗議の意を示すため,中国への5日間の訪問を取りやめた。同日,中国大使館前では学生らが抗議活動を行うなど波紋を呼んだ。

9月23日から7日間の日程で,ダハール首相が李強首相の招待により中国を公式に訪問した。ダハールは23日に習近平国家主席と会談した際,地図問題などの懸案事項を強調することを避け,関係維持をはかった。また李強首相とは25日に会談し,両国間で13に及ぶ文書の署名が行われた。例えば,中国の国家発展改革委員会(NDRC)とネパールの国家計画委員会による協力に関する覚書,中国商務部と産業・商業・供給省による貿易支払協定(1981年署名)見直しのための共同技術作業部会の設立,中国税関総局と農業・畜産開発省による中国への医薬品材料の輸出に関する植物検疫要件議定書の合意,ヒルサ=シムコット道路プロジェクトに関する覚書,ネパール・中国送電網相互接続プロジェクト(チミレ=ケルン)の建設合意などである。

9月26日に発表された共同声明でネパールは,質の高い「一帯一路」協力を追求し,各分野での互恵協力を深化・拡大すること,中国が提案するGDIを支持しており,GDI友の会への参加も検討することを表明した。しかしGCIとGSIには言及しなかった。ダハール首相が,中国訪問前に滞在していたニューヨークでのメディアとのインタビューで,ネパールが中国の安全保障関連の同盟に参加する可能性を否定したことから,GDIへの支持を表明しながらも,GSI,GCIへの参加を求める中国の圧力をうまくかわしたと国内では受け止められている。また,ダハール首相は,中国訪問中にネパール総領事館が主催したプログラムで「今回の中国訪問は,2019年の習近平国家主席の来訪以来,ネパールからの初のハイレベル訪問となる。ネパールと中国間の相互の信頼を強化することができた」と演説し,成果を強調した。

一方,両国関係に水を差す事態もあった。10月16日付のThe New York Times紙は,PRIA建設に携わったCAANの技術者や外部コンサルタント,中国の建設企業China IPPR International Engineeringの副チームリーダー等6人へのインタビューと数千ページに及ぶ文書の調査に基づいた記事 “China Got a Big Contract. Nepal Got Debt and a Pricey Airport” を掲載した。それによれば,「中工国際工程股分有限公司(CAMC)が利益を優先してプロジェクトのコストをつり上げるとともに,品質保証のない資材を使い,ネパールの努力を台無しにした」という。この記事を受けて,ネパールの職権乱用調査委員会(CIAA)は,PRIAの建設に不正があったという疑いでCAANのポカラ事務所を強制捜査し,文書を押収した。会計検査院の報告書によれば,PRIAは大型航空機の着陸に十分な滑走路の距離が不足し,建設基準以下の構造物,費用の高騰などの問題があったという。CAMCは当初,予想の2倍となる3億500万ドルで入札したが,政治家からの批判を浴び総額は2億1600万ドルに引き下げられた。なお,中国外務省の毛寧報道官は,CIAAによる調査報告について,詳細については承知していないが,報告書で言及されている内容は事実と矛盾していると反論した。

また,PRIAについては,「中国の債務の罠」への懸念も高まっている。最終入札額の4分の1が中国輸出入銀行からの無利子融資,残額は金利2%の有償融資であり,20年の返済期間が設定されている。しかしすでに収益性に疑問が投げかけられている。

米国との関係

2022年12月25日の新政権発足後,米国の高官が相次いで来訪した。2023年1月29~30日,現バイデン政権初であり,かつダハール首相就任後に来訪した外国要人のなかで最高位となるビクトリア・ヌーランド米国国務次官(政治担当)が来訪した。目的は,ダハール新政府との関係を強化し,MCCの補助事業実施の基礎を築くことにあったとみられる。首相や与野党の幹部らとの会談において,中国に対しネパールが主権を守り,MCCプロジェクトが相互に利益をもたらすことを確実にするよう述べたという。

それ以降も米国から政府高官の訪問が相次いだ。2月7~9日には,サマンサ・パワー米国国際開発庁(USAID)長官が来訪し,政府高官と会談を行った。そしてネパールの発展,民主主義,長期的で包摂的な繁栄に対する米国の継続的な支援を約束した。同月13日には,アフリーン・アクテル米国国務省南・中央アジア局副次官補が来訪した。3月1日,米国は,ウィリアム・ジョセフ・バーンズ米国中央情報局(CIA)長官の訪問を打診したが,ダハール首相は大統領選挙を理由にそれを断った。

7月14日,ドナルド・ルー米国国務省南・中央アジア局国務次官補が来訪し,NPサウード外相,ダハール首相と会談を行い,MCCの円滑な実施と,2026年に予定されている後発開発途上国卒業後のネパールに対する米国の継続的な支援などについて議論した。また,デウバNC党首,オリCPN-UML議長を表敬訪問した。10月2日には,MCCが資金提供した315キロメートルの送電線プロジェクトが遅延するなか,MCCのアリス・オルブライト最高経営責任者(CEO)が来訪し,オリCPN-UML議長,シャクティ・バハドゥール・バスネット・エネルギー・水資源・灌漑大臣,プラカシュ・ジュワラ公共事業・交通大臣と会談を行った。翌3日にはダハール首相と会談し,MCCプロジェクトを含む支援について議論した。

一方ネパールからはサウード外相が訪米し,10月30日に首都ワシントンでアントニー・ブリンケン米国務長官と会談を行い,共通の関心事項である地域・国際問題について意見交換した。会談に先立ち,ブリンケン国務長官は,「ネパールと米国との間には76年間にわたる外交関係があり,ネパールは今日,インド太平洋地域において非常に貴重なパートナーだ」と述べた。サウード外相も「両国には非常に長く緊密な関係がある。米国はネパールの開発パートナーだ」とし,両国は「『自由で,開かれ,安全で,豊かな地域』を確保するために協力する」と述べた。

経済面でも,米国はインド太平洋ビジネスフォーラム(IPBF)の枠組みをとおして,ネパールとの関係強化をはかろうとしている。ネパールは加盟していないが,1月12日,インド太平洋地域を含む世界各国から1000人以上の政府指導者が集まった会議にアドバイザーとして参加した。同プロジェクトの目標は,インド太平洋地域における包括的かつ持続的な自由で公正な貿易を強化し,商業競争力を高めることにあるが,インド太平洋戦略(IPS)と同様,中国への対抗措置として捉えられている。

2024年の課題

政治の最大の課題は,政党の思惑により破綻が繰り返されてきた連立政権を安定させることだろう。2024年1月25日に実施された国民議会選挙では,与党4党の選挙同盟が功を奏し,NCが10議席,CPN-MCが5議席,CPN-USが2議席,JSPNが1議席と19議席中18議席を獲得し,連立与党が圧勝した。しかし,NC内では,ガガン・クマール・タパら若手リーダーから,NC主導での政権交代を望む声があがっている。

経済については,政府が歳入目標を達成し財政健全化をはかること,家計だけでなく資本市場にも影響を及ぼしている高いインフレ率を抑制することが課題になる。増加傾向にある若者の海外流出を食い止め送金依存を脱するためにも,経済の立て直しは急務である。

外交については,インドと米国,そして,中国との関係において引き続き非同盟政策に徹し,国益を護ることができるのかが課題になるだろう。2024年には,インドでの総選挙,米国での大統領選挙がひかえている。両国の選挙結果次第ではネパール政治・外交も大きく影響を受けることになる。また,中国経済が停滞するなかで,「一帯一路」を前に進め,ネパールが長年待ち望んでいた貿易の接続性を向上させることも課題である。それは経済成長を推し進めるうえでも重要だが,対米,対印関係とのバランスをとる必要も忘れてはならない。

(福岡県立大学人間社会学部教授)

重要日誌 ネパール 2023年

   1月
1日 ポカラ国際空港(PRIA)の運用が開始。
5日 ネパール石油公社,プスパ・カマル・ダハール首相が価格引き下げを命じたことを受け,8日にガソリン,ディーゼル,灯油の価格を3ルピー引き下げると発表。
10日 ダハール首相,連邦議会下院にあたる代表議会での信任投票で,270票中(総議員数275人)268票の賛成票を獲得。
29日 ビクトリア・ヌーランド米国国務次官(政治担当),来訪(~30日)。翌日に首相公邸を訪問。
   2月
7日 サマンサ・パワー米国国際開発庁(USAID)長官,来訪(~9日)。
13日 アフリーン・アクテル米国国務省南・中央アジア局副次官補,来訪。
19日 ネパール共産党毛沢東主義センター(CPN-MC),3月9日に予定される大統領選挙で「国民の支持する大統領候補」を支持する意向を表明し,大統領ポストを主張するネパール共産党統一マルクスレーニン主義(CPN-UML)と対立。
24日 CPN-MCを含む8政党がネパール会議派(NC)の大統領候補を支持することを決定。
25日 CPN-MC,人民社会党ネパール(Janta Smajibadi Party, Nepal,JSPN)およびネパール共産党(統一社会党)(CPN-US),NCの大統領候補支持を表明。
25日 NCの党中央活動実行委員会,全会一致でNCのラム・チャンドラ・パウデルを大統領候補に選出。
27日 CPN-UML,政府から離脱。内閣支持撤回を決定。CPN-MCとCPN-UMLの与党同盟崩壊。
   3月
1日 第1州議会,州名を第1州からコシ州に変更。
9日 連邦議会と州議会,ラム・チャンドラ・パウデルを新大統領に選出。
20日 ダハール首相,代表議会の出席議員262人中172人の信任票を獲得。
26日 世界銀行,ネパールの教育セクターに1億2000万ドルの拠出を決定。
30日 中国,3年ぶりに人の往来のためにラスワガディ国境の開放に合意。4月1日より実施。
31日 ダハール首相,就任後の3カ月で7回目となる内閣改造を行い,NCを含む5つの政党から閣僚を任命。世論党のアブドゥル・カーン水供給大臣は不満を表明し辞任。同党は産業・商業・供給大臣を要求していたが,首相は応じなかった。
   4月
5日 金価格,上昇。1トラ(11.6グラム)当たり11万1000ルピーを記録。
21日 インターネットベースの企業に課税する法律制定を受けて,Googleが最初に登録される大企業に。
   5月
1日 2015年の地震後に封鎖されていたタトパニ国境検問所,稼働再開。
2日 国家統計局(旧中央統計局),2023/24年度の経済成長率は2.16%にとどまると予測。
3日 KPシャルマ・オリ政権で副首相兼エネルギー・水資源・灌漑大臣を務めたトップ・バハドゥール・ラヤマジとその息子に対して偽ブータン難民詐欺に関わった疑いで逮捕状発行。ラヤマジは逃亡を続けていたが,5月14日に逮捕。
4日 金価格,再び上昇。1トラ当たり11万1800ルピーを記録。
10日 NCのリーダーで元内務大臣バル・クリシュナ・カンド,偽ブータン難民詐欺に関わった疑いで拘束。
12日 ジャジーラ航空,ゴータマ・ブッダ国際空港を発着する定期便を停止。国内2番目の同国際空港での国際線はゼロに。
15日 サジャ交通,パタンドカ=ラトナパーク=ギャネシュワール=ラトプル=ガウシャラ=チャバヒル=ボッダ=ジョルパティ=ダクシンドカ・ルートで3台の電気バスの運行を開始。
19日 CPN-MCの中央指導者ら,10日間の中国訪問のためカトマンドゥを出発。
23日 内閣改造により,憲法で定められている定員数の上限に達し,全閣僚が確定。
29日 プラカシュ・シャラン・マハト財務大臣,代表議会と連邦議会上院にあたる国民議会の合同会議で2023/24年度の年間予算計画を提出。
31日 ラム・チャンドラ・パウデル大統領,市民権法案を承認。同法案は2022年にビディヤ・デヴィ・バンダリ前大統領が両性の不平等などの理由で承認を拒否していた。
31日 金価格,再び上昇。1トラ当たりの価格は11万2000ルピーを記録。
31日 ダハール首相,インドのナレンドラ・モディ首相の招待により訪印(~6月3日)。水力発電プロジェクト建設を含む7つの協定や覚書などに署名。
   6月
8日 第77回国連総会における国連経済社会理事会(ECOSOC)理事国選挙にて,ネパールがアジア太平洋グループから最多の145票を獲得し,理事国に選出。2024年から2026年まで務める。
19日 CPN-MC(国民議会議員16人,代表議会議員32人),マダブ・クマール・ネパール率いるCPN-US(国民議会議員7人,代表議会議員10人),ウペンドラ・ヤダブ率いる人民社会党ネパール(JSPN,国民議会議員3人,代表議会議員12人),ネトラ・ビクラム・チャンド率いるネパール共産党(Communist Party of Nepal,議員なし)とともに,緩やかなフォーラムである「社会主義戦線ネパール」(Samajwadi Morcha Nepal)を立ち上げ。
21日 1月のPRIA開港以来初の国際線として四川航空のチャーター便が到着。
21日 ラメシュ・リジャル産業・商業・供給大臣,第13回中国新疆カシュガル・中央アジア・南アジア商品交易会に出席。
27日 ナラヤン・カジ・シュレスタ副首相兼内務大臣,7人からなる代表団を率いて中国・成都の見本市に出席。
27日 バート・バテニ・スーパーマーケットのオーナーで実業家のミン・バハドゥール・グルン,ラリタ・ニワスの土地詐欺事件に関与した疑いで逮捕。
   7月
14日 ドナルド・ルー米国国務省南・中央アジア局国務次官補,来訪(日帰り)。ダハール首相と会談。
20日 金価格,再び上昇。1トラ当たり11万3600ルピーを記録。
20日 インド,非バスマティ米のネパールへの輸出禁止を発表。ネパールは年間に必要なコメ400万トンの不足分をインドから輸入しており,懸念が高まる。
21日 ネパールと欧州連合(EU),2つの異なるプログラムに関して105億ルピーを超える無償資金協力協定締結。
23日 袁家軍・中国共産党政治局委員,来訪。
   8月
3日 CPN-UML,CPN-MC関係者が関与したとされる100kgの金密輸事件を調査するためのハイレベルの調査委員会設置を要求し国民議会の審議を妨害。8月7日まで延期。
3日 政府,金密輸事件の捜査が進行中であるため,ハイレベルの捜査委員会を設置する必要はないとの見解。
8日 CPN-UML,連邦議会両院の行き詰まりに終止符を打つことで合意。しかし,ナラヤン・カジ・シュレスタ副首相兼内務大臣の返答に満足せず,CPN-UMLは議会を妨害し続けることを決定。
9日 CPN-UML,招集された代表議会を再び妨害。議会は延期。
11日 CPN-UMLからの抗議を受けて,両院の開会が延期。CPN-UMLは,金密輸事件を調査するためのハイレベルの調査委員会設置を継続的に要求。与党政府は,中央捜査局(CIB)が捜査中であり,委員会設置の必要はないと回答。
13日 ダハール首相,CPN-MCのアマン・ラル・モディ連邦制度・総務大臣を解任し,代わりに世論党のアニタ・デヴィ・シャハを就任させることを決定。
16日 ネパール石油公社,軽油と灯油を1リットル当たり14ルピー,ガソリンを1リットル当たり5ルピー値上げ。
21日 議会公聴委員会は全会一致でハリ・クリシュナ・カルキ最高裁判所長官の後任にビシュウォンバル・プラサド・シュレスタ主席判事の就任を承認。
22日 ダハール首相,7月26日以来CPN-UMLによって継続的に妨害されてきた連邦議会両院の行き詰まりの打開策を探るため,全国政党の会議を招集。三大政党の作業部会は,ネパール警察中央捜査局(CIB)の捜査終了後に金密輸事件を調査するハイレベルの調査委員会を設置することで合意。
30日 政府のスポークスパーソンでもあるレカ・シャルマ通信・情報・技術大臣,中国が8月28日に発表した新地図にネパールが領土を主張するリプレク,カラパニ,リンピヤドゥラ地域が表示されていなかったことについて,中国政府と地図について話し合った後,政府の立場を公表すると述べた。
   9月
1日 駐日ネパール大使館は,日本政府および現地経済界と協力して,日本ネパール開発フォーラムを発足。
8日 ネパール最大の決済ネットワークであるFonepay Payment Serviceとインド国家決済公社の国際部門NPCI International Payments Ltd(NIPL),ネパールとインド間で初の国境を越えたQR決済サービスを開始。
16日 ダハール首相,第78回国連総会に出席するため,米国ニューヨークに向けて出発。
17日 ネパール中央銀行,同国への送金流入が25.8%急増し2023/24年度最初の月に1160億2000万ルピーに達したと報告。
21日 ダハール首相の訪中日程が公式に発表。
22日 ダハール首相とバイデン米大統領,米国ニューヨークで会談。両国間の相互利益のための協力について議論。
23日 ダハール首相,訪中(~30日)。習近平国家主席と杭州で会談。25日には李強首相と会談し,13項目の覚書に署名。
  10月
2日 アメリカの開発援助ミレニアム挑戦公社(MCC)のアリス・オルブライト最高経営責任者(CEO),来訪。KPシャルマ・オリCPN-UML議長,シャクティ・バハドゥール・バスネット・エネルギー・水資源・灌漑大臣,プラカシュ・ジュワラ公共事業・交通大臣と会談。3日にはダハール首相を表敬訪問。
9日 外務省,7日のハマスの襲撃によりイスラエルで少なくとも10人の自国民が殺害されたと発表。内閣は緊急閣議を開き,数千人の自国民の避難方法を議論すると発表。
10日 カリガンダキ回廊送電線の建設が完了。
13日 選挙管理委員会,海外在住のネパール国民の選挙人名簿への登録およびその更新にかかる手続きを起草。
19日 第3回「一帯一路」国際協力フォーラムに参加するため中国を訪れていたナラヤン・カジ・シュレスタ副首相兼内務大臣,急性心筋梗塞で北京の病院に入院。
28日 アントニオ・グテーレス国連事務総長,ダハール首相の招待を受け4日間の公式訪問のため来訪(~11月1日)。パウデル大統領およびダハール首相と個別に会談。シェール・バハドゥール・デウバNC議長,オリCPN-UML議長らとも会談。
29日 NP・サウード外務大臣,米国へ出発。翌30日に国務省でアントニー・ブリンケン米国国務長官と会談。二国間関係における共通の関心事項や地域・国際問題について意見交換。
31日 政府とアジア開発銀行(ADB),農村連結性プロジェクト追加融資の実施のための譲許的融資契約に署名。
  11月
2日 代表議会の予算委員会,閉会。
3日 ネパール北西部でマグニチュード5.6の地震が発生,複数の建物が倒壊。
8日 北朝鮮,駐ネパール大使館閉鎖を決定。チョ・ヨンマン大使はダハール首相と面会し,国内経済不況の進行と地政学的環境の変化を理由に大使館閉鎖を決定したと語った。
8日 王君正・中国共産党チベット自治区委員会書記,5日間の訪問のため来訪。
9日 閣僚会議,貯蓄・信用協同組合事業の健全な運営に係る法令が策定されるまで,貯蓄・信用協同組合事業の登録,サービス拡大の許可を停止することを決定。詐欺や預金を使った巨額投資により,組合員や預金者が貯蓄を取り戻す際に困難をきたしているため。
13日 閣僚会議,社会秩序を乱すとしてTikTokの禁止を決定。
29日 ダハール首相,国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)(11月30日~12月12日)に出席するためアラブ首長国連邦に出発。
29日 米国国際開発庁(USAID)アジア局のマイケル・シファー次官補来訪。マハト財務大臣ほか,政府高官と会談。
29日 金価格,再び上昇。1トラ当たり11万9300ルピーを記録。
29日 閣僚会議,国民議会選挙を2024年1月25日に実施すると発表。改選は59議席中6年間の任期が3月4日に終了する19議席。
  12月
4日 政府,ロシア・ウクライナ紛争で命を落としたネパール人6人の遺体を本国に送還するようロシア政府に正式に要請。
4日 金価格,再び上昇。1トラ当たり12万1600ルピーを記録。
8日 バングラデシュ政府,ネパールから40MWの電力を輸入することを決定。
14日 閣議,セワ・ラムサル上級共同書記を外務大臣に昇進させることを決定。女性初。
17日 選挙管理委員会,国民議会選挙に向けて,12の政党に選挙シンボルを割り当て。
22日 国内最大級のひとつとなるイナルワ変電所が開所。ダハール首相,バスネット・エネルギー・水資源・灌漑大臣らが落成式に参加。
29日 韓国の非熟練外国人労働者の雇用許可制度(EPS)の審査に抗議する若者のデモ隊,プラカシュ・ジュワラ公共事業・交通大臣の車に放火。デモ隊鎮圧のための警官による発砲で2人が死亡(バルクマリ事件)。
31日 ダハール首相,バルクマリ事件を調査するため,元裁判官が率いるハイレベル委員会を結成する意向を表明。

参考資料 ネパール 2023年

① 国家機構図(2023年12月末現在。一部は「ネパール憲法2015」の規定による)

② 政府要人および第3次ダハール内閣(2023年12月末)の閣僚

(注)*は女性。氏名の後のカッコ内は所属政党。 NC:ネパール会議派,CPN-MC:ネパール共産党毛沢東主義センター,CPN-UML:ネパール共産党統一マルクスレーニン主義,RSP:国民独立党(Rastriya Swatantra Party),CPN-US:ネパール共産党(統一社会党),JSPN:人民社会党ネパール,Nagarik Unmukti Party:人民自由党,Janamat Party:世論党,Rastriya Janata Party Nepal:ネパール国民人民党。

(出所)ネパール政府ウェブサイト(2024年1月14日取得,https://www.opmcm.gov.np/en/cabinet/)。ネパール議会上院ウェブサイト(2024年1月14日取得,https://na.parliament.gov.np/np)。ネパール議会下院ウェブサイト(2024年1月14日取得,https://hr.parliament.gov.np/np)。

主要統計 ネパール 2023年

1 基礎統計

(注) 1)基準年 2071/72(2014/15)。 2)推計値。

(出所) Government of Nepal, Ministry of Finance, Economic Survey 2022/23, Macroeconomic Indicators.

2 支出別国内総生産(名目価格)

(注) 1)修正値。2)暫定値。

(出所) Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial SituationBased on the Annual Data of 2022/23), Table 4: Gross Domestic Product by Expenditure Category (at current prices).

3 産業別国内総生産(2010/11年固定価格)

(注) 1)修正値。2)暫定値。

(出所) Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial SituationBased on the Annual Data of 2022/23), Table 3: Gross Domestic Product (at constant 2010/11 prices).

4 対外貿易

(注) 1)修正値。2)暫定値。3)最初の5カ月。

(出所) Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial SituationBased on Five months Data Ending Mid-December, 2023/24), Table 8. Direction of Foreign Trade.

5 国際収支

(注) IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。したがって,金融収支の符号は(-)は資本流入,(+)は資本流出を意味する。1)修正値。2)暫定値。

(出所) Nepal Rastra Bank, Current Macroeconomic and Financial Situation (Based on the Annual Data of 2022/23).

6 国家財政

(注) 1)実際値。2)推定値。3)予算額。

(出所) Government of Nepal, Ministry of Finance, 2023, Budget Speech of Fiscal Year 2023/24, Budget Summary Fiscal Year 2080/81 Annex-1.

 
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