アジア動向年報
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各国・地域の動向
2024年のインド 第3次モディ政権,不安の船出
佐藤 宏(さとう ひろし)湊 一樹(みなと かずき)
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2025 年 2025 巻 p. 465-496

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2024年のインド

概 況

2024年の第18次連邦下院選挙でインド人民党(BJP)は下院での単独過半数を失ったが,国民民主連合(NDA)参加政党をあわせて下院過半数は維持し,第3次モディ政権が発足した。BJPにとっては2014年選挙以来初の後退だが,年内のその後の州議会選挙では重点州で勝利し,さらなる後退は食い止めた。BJPの党勢回復と対照的に野党連合の「インド国民発展包摂連合」(略称INDIA)は連邦下院選直後の勢いを失い,結束力の回復が急がれている。

経済では,政府が掲げる野心的な目標とは裏腹に,インドがかつての勢いを取り戻せるかどうかはますます不透明である。2024/25年度の実質国内総生産(GDP)成長率は,マイナス成長を記録した2020/21年度以降で最も低くなると予想されている。また,楽観的な経済見通しを示す傾向のある経済白書でさえ,2025/26年度の成長率を6%台と予測している。これに呼応するように,長らく好調を維持してきた株式市場も2024年の後半から一転して下落傾向を示した。

対外関係では,ウクライナ戦争の長期化とガザの戦火の拡散のもとで,「戦略的自律性」をかかげるインド外交は対立する陣営間のバランス維持に苦慮した。2020年5月のガルワン峡谷での衝突で悪化した対中国関係には一定の改善がみられた。アメリカとの関係は今後のトランプ政権の動きにもかかるが,貿易赤字の解消や米製兵器購入に向けた圧力が強まっている。また2024年はバングラデシュをはじめとして近隣諸国での政変や政権交代が続き,インドは近隣諸国との関係再構築に奔走している。

国内政治

第18次連邦下院選挙,BJP単独過半数を割る

第18次連邦下院選挙は,4月19日から6月1日の44日間に,全国543小選挙区を7回に分けて実施された。開票日は6月4日であった。酷暑のために投票率の低さが危惧されたが,最終的には全有権者9億6800万人(前回は8億9600万人)のうちほぼ前回並みの65.79%が投票所に足を運んだ。

モディ政権は,2014年の282議席,2019年の303議席と,下院ではこの10年間圧倒的な優位を誇ってきた。インド国民会議派(以下,会議派)を中心とする野党は,2023年8月にINDIAを結成して,選挙協力に向けて動き始めたが,選挙区レベルでの合意達成には時間がかかった。野党はモディ政権のもとでインドの民主主義が幅広い攻撃にさらされていると批判した。

一方,モディ政権は過去10年の実績を強調した。国民固有番号(Aadhaar)を核とした国民生活のデジタル化によって効率的な福祉政策が実施され,国民経済も世界第3位の規模に近づいていると自賛した。またモディ首相自らの活発な外交活動によって,インドの国際的な威信がかつてなく高まったとアピールした。

2024年に入り,1月22日のウッタル・プラデーシュ州アヨーディヤーでのラーマ神像の開眼式(Pran Pratishtha)によって選挙戦の幕が上がった。式の当日には政府機関が午後2時半まで閉鎖され,行事に公的な性格が与えられた。翌23日には一般公開も始められ,初日には50万人の参拝客が押し寄せた。さらに24日には内閣が特別な決議を採択して,「500年来のインド国民の願望」を実現したとモディ首相を賞賛した。

野党連合による選挙調整の遅れをしり目に,モディ政権は次々と野党に対する強硬策を打ち出した。政府寄りの2人の選挙管理委員を任命し,汚職疑惑を理由にジャールカンド州やデリーの州首相を逮捕し,さらに会議派の銀行口座を凍結した。この間,最高裁判所は政党への主要な献金手段となっている無記名の選挙債券制度を違憲とする判決を出したが,選挙戦への直接の影響はみられなかった。

BJPによる選挙戦の特徴は何よりもモディ首相への極端な依存であった。党の選挙マニフェストには,公約の実現を約束する「モディの保証」(Modi ki guarantee)というスローガンが躍った。また44日という長い投票期間によって,モディ首相が全土で遊説の先頭に立つことができた。2019年総選挙では145回であったモディ首相による演説会は今回206回と大幅に増えている。並行してモディ首相の個人崇拝も加速した。個人崇拝はBJP支持者に限られた現象ではない。モディ首相自身も自分は母から生まれた生物学的な人間というより「神によって送られた者である」と,いささか神がかった発言をした。

選挙中の反ムスリム的言辞も顕著であった。首相やシャハ内相を先頭に,ムスリム全体を「不法侵入者」と非難し,正確な事実とは言い難いムスリム人口増加率の高さをことさらに強調した。また,会議派のマニフェストを攻撃して,ムスリムに肩入れし,ヒンドゥー教徒の財産や既婚女性の首飾り(マンガルスートラ)を強奪してムスリムに分け与えるものだなどと非難した。こうした訴えのうえに,BJPは自党で370議席,NDA全体で400議席という野心的な目標を掲げた。

一方,野党連合INDIAの参加政党間の選挙協力に目を向けると,1月13日にはINDIAの会合がデリーで開かれ,連合の議長と幹事長人事について意見が交わされたが合意に至らなかった。1月後半に入ると州レベルでの候補者調整が始まったが,西ベンガル州首相マムタ・バナージーは同州でのINDIA参加政党との調整を拒否すると言明し,パンジャーブの庶民党(AAP)州政権のバグワント・シン・マン州首相も同様の立場を表明した。INDIAの調整作業に暗雲が立ち込めるなか,28日には,INDIAの結成に大きな役割を果たしたビハール州首相ニティシュ・クマールが同連合を脱退してBJPとの連立で新たな州政権を樹立した。

これ以降も,INDIAは共同選挙綱領のみならず全国的な組織体制の不在なまま,州レベルで候補者調整作業を進めることになった。調整が難航したのは西ベンガル州やパンジャーブ州のようなINDIA加盟政党が与党である州であった。これに対してBJP与党州でのINDIA参加政党間の調整は比較的スムーズに進んだ。なかでもウッタル・プラデーシュ(以下UP)州での社会主義党と会議派,マハーラーシュトラ州での会議派,シヴ・セーナー(タークレー派)と民族主義会議派党(シャラド・パワル派),さらにはビハール州での民族ジャナター・ダルと会議派など,重要な州で野党連合は候補者の絞り込みに成功した。選挙管理委員会が下院選の日程を発表したのは3月16日であった。

4月19日に投票が開始されると,有権者の微妙な反応が表面化してきた。前2回の選挙時のようなモディ首相への熱狂的支持は影を潜めた。6月4日の開票では,目標達成どころかBJPは前回の303議席から63議席を減らす240議席と過半数の272議席を割る結果となった。それでもNDA全体としては,ビハール州,アーンドラ・プラデーシュ州などの地域政党の協力を得て293議席を確保し,下院の過半数維持には成功した(表1)。

表1 第18次連邦下院選挙結果 (連合党派別)

(注) カッコ内は得票率%。いずれの連合にも不参加の議員は6政党の合計9人,並びに無所属の7人。総議席は543議席。連合の合計得票率は議席を得た政党分のみ。

(出所) 議席と得票率はインド選挙委員会(https://results.eci.gov.in/PcResultGenJune2024/index.htm)。政党の連合所属は India Votes (https://www.indiavotes.com/alliance/partyWise/18)を参考に作成。

対する野党は会議派が52議席から99議席(得票率は19.6%から21.2%へ)と回復し,INDIA全体では234議席を確保した。有力な地域政党であるUP州の社会主義党,西ベンガル州の草の根会議派,タミル・ナードゥ州のドラヴィダ進歩同盟がそれぞれ37,29,22議席を獲得した。

BJPの得票率は全体としてみれば37.36%から36.56%で大きな下落ではない。BJPの議席減は得票パターンの地域差によるものであった。何よりも従来からの地盤であるヒンディー語地域のハリヤーナー(5議席減),ラージャスターン(10議席減),UP(29議席減)などでは得票率が10ポイント前後下落し,BJPの議席減の大きな要因になった。特に最大人口州UPではBJPは約半数の議席を失った。同州の注目選挙区でみれば,ラーマ寺院を含むファイザーバード選挙区でBJPは社会主義党候補に敗れた。ラーマ寺院の建立は必ずしも地元票にはつながらなかった。また勝ちはしたもののモディ首相のヴァラナシー選挙区では,次点との得票差が前回の47万9000票から15万2000票へと大幅に縮小した。

他方でBJPは南部のテーランガーナー州で4議席,ケーララ州,アーンドラ・プラデーシュ州で各1議席,東部オディシャ州で12議席を増やした。オディシャ州では同時に行われた州議会選挙でもBJPが州政権の奪取に成功した(後述)。またBJPは南部州ではいずれも得票率を伸ばしており,今後の足場を築いた。

BJPが不振に終わった州では共通して物価と雇用が敗因とされている。BJPはモディ首相の「不敗神話」に安住して,物価の高騰や若年層の失業,農産物価格の下落など鬱積した国民各層の不満を見落としていた。また後述するように,BJPの母体である民族奉仕団(RSS)との協力関係も万全ではなかった。

第3次モディ政権の閣僚人事と新議会の運営

過半数議席の獲得に失敗したBJPは,選挙協力を行ったビハール州のJD(U),アーンドラ・プラデーシュ州のテルグ・デーサム党(TDP)など地域政党(政党名は表1参照)の支持を得て連立政権を樹立した。

NDAは6月10日に首相を含め閣内相31人,閣外相41人(うち5人は閣議に出席する準閣内相である独立所管の閣外相も兼任),計72人からなる第3次モディ政権を発足させた(参考資料「閣僚名簿」参照)。内務,外務,国防,財務,陸上運輸などBJPの重要閣僚は留任した。新顔で目立つのは,農業・農民福祉相と農村開発相を兼務するS・チョウハン(マディヤ・プラデーシュ州),電力相のM・ラール(ハリヤーナー州)という2人の州首相経験者の入閣である。特にチョウハンは地元州での強力な地盤とともに,RSSの強い支持を受けているとされ,今後の処遇と動向が注目される。NDA参加政党が得た閣僚ポストは閣内相が5人,閣外相が6人である。改選前よりもNDA参加政党のポストは増えたが,モディ政権の特徴である首相と一部閣僚への権力集中の構図にはまったく変化はない。

議会内外でのBJPによる野党への対応にも大きな変化はみられない。新政権発足後,連邦議会では新議会発足(6月24日から7月3日),予算会期(7月22日から8月9日),冬期会期(11月25日から12月20日)の3会期がもたれた。与野党はまず下院議長の任命問題で対立した(上院議長は副大統領が役職上務める)。新議会では暫定議長として最先任議員を選出する習わしだが,会議派議員が最先任であることからBJPはこの慣例を無視した。またこれも慣例で野党に割り当てられる副議長は,2019年の前回総選挙以来,与党の反対で任命されていない。

冬期会期では,開会直前にモディ首相との関係がとかく噂されるアダニ・グループの総帥ゴータム・アダニら7人がアメリカ連邦司法省によって贈賄容疑で起訴され,野党による激しい追及が予想された。アダニ・グループの太陽光発電会社の売電先であるインド政府の太陽光エネルギー公社(SECI)と州の配電会社が買電契約を結ぶよう,数州の州首相らを買収した容疑である。アダニ・グループに関しては,アメリカの投資会社ヒンデンブルグ・リサーチ社がモーリシャスの投資ファンドを通じた株価操作疑惑を2023年1月に公表した。さらに同社は2024年8月,この疑惑を調査のうえ否定したインド証券取引委員会の委員長マーダビー・プリー・ブチとその夫がゴータムの兄が所有する投資ファンドに出資していることを暴露するに至った。過去2回とも,野党は両院合同委員会(JPC)による調査を要求したが,与党は応じなかった。今回も野党によるJPC設置要求を両院議長は直ちに却下し,議会は空転した。

与党が強硬な姿勢を崩さぬなか,後述のように,この間のハリヤーナー,マハーラーシュトラ州議選で敗北した野党は攻撃の決め手に欠き,長引く議会の麻痺がかえって野党連合INDIAの結束に亀裂を招いた。INDIA内部では会議派の指導力不足への批判が高まっている。

低迷する野党をよそに,BJPは自党のアジェンダを着々と進めている。第3次政権発足後には,ムスリムのモスクやマドラサ(神学校)の財政基盤であるワクフ(寄進財)の管理に非ムスリムの関与を大幅に認めるワクフ法案(8月)と,連邦下院と州立法議会選挙を同時に実施するための第129次憲法改正(「一国一選挙」)法案と関連法案(12月)が政府によって下院に上程され,いずれも両院の合同委員会に付託された。

堅持される「ヒンドゥー国家」化政策

BJPの党是である「ヒンドゥー国家」化政策に関しては,何よりもBJPとその母体組織であるRSSの関係が注目される。総選挙でのBJPの後退にRSSは危機感を抱きBJPとの協調体制の立て直しを図った。

過去2回の総選挙に比して今回の選挙では,選挙区レベルでのRSS活動家の動きが鈍いことはUP州ほかで確認されている。BJPとモディ首相の過剰な自信は,選挙期間中のJ・P・ナッダ党総裁による,RSSからの助力不要と言わんばかりの「BJP自立」発言からもうかがえた。結果判明後には,この「自立」発言とモディ首相に対する個人崇拝がRSS指導部によって批判された。

まずRSS最高指導者M・バグワットが選挙直後に「真のセヴァク(奉仕者)」を論じて,婉曲にモディ首相の慢心を戒めた。7月中旬には,バグワットはジャールカンド州の活動家集会で,個人崇拝の風潮を明確に批判した。さらに8月31日から9月2日の3日間にわたってRSSとBJPの調整会議が開催された。RSSはダリト(旧不可触民),経済的後進諸階級がBJPから離れたことを深刻に受け止め,彼らを包摂するプログラムの強化を打ち出した。また,ヴァラナシー,マトゥラーのモスク奪還も課題としてあげた(後述)。その後10月末には,RSSの全インド執行委員会の会合でホーサバレー書記長がナッダ総裁の「自立」発言はBJPの独自の努力を強調したもので,RSSとBJPの関係には影響ないと改めて発言した。総選挙が残した「しこり」はここにほぼ解消された。要するに,首相の政治的役割を認めたうえで,個人崇拝を抑制してヒンドゥー国家主義のアジェンダを前面に押し出す方向が確認されたのである。

こうした新たな協調体制のもとでBJPはハリヤーナー,マハーラーシュトラなどの州議選を戦う一方で,モスクをヒンドゥー教徒の手に取り戻す運動(寺院回復運動)を展開した。BJPにとって重要なもうひとつのアジェンダである統一民法典問題は,モディ首相自身が下院選マニフェストや独立記念日式典で強調しているが,具体的な進展はウッタラーカンド州などにとどまった。

これに対して寺院回復運動は元最高裁判事のロヒントン・ナリマンが「ヒドラ」に喩えたように,ヴァラナシー,マトゥラーだけでなく,ボージュシャーラー(マハーラーシュトラ州),サンバル(UP州),アジメール(ラージャスターン州)などで不気味な頭をもたげている。背後にあるのは言うまでもなくアヨーディヤー(ラーマ寺院)の「成功体験」である。モスク攻撃の最初の舞台は州の下級(県)裁判所で,モスクがヒンドゥー寺院の破壊跡に建てられたとする主張を立証するために当局やインド考古学調査所(ASI)による調査を求める訴訟が提起された。州の下級裁判所や高裁は概してヒンドゥー教徒の主張に同情的で,ヴァラナシーでもマトゥラーでもヒンドゥー側の調査要求を支持し,対抗するムスリム団体は最高裁に下級審命令の差し止めを請求している。

寺院回復運動に絡んで問題になるのは,1991年の礼拝所法である。同法はモスク・寺院論争の拡散を防ぐために,当時係争中のアヨーディヤーの「バーブルのモスク」(ラーマ寺院)を例外として,係争中の建造物をめぐる宗教的帰属はインド独立の1947年8月15日時点の帰属に固定し,下級裁判所による新たな訴訟の受理を禁じている。寺院回復運動は,2019年の最高裁によるアヨーディヤー判決が支持したこの法律すらも破ろうとしている。

しかし,寺院回復運動はRSS,BJP内部に混乱を生みつつある。12月21日,RSS最高指導者のバグワットはラーマ寺院には特別な意義があったので,他の事例まで掘り起こすことは認められないと発言した。こうしたバグワットの現状維持的な立場に対して,UP州首相アディティヤナートは,ラーマ寺院建立は万古不変の正統宗教(Sanatan dharma)確立への第一歩に過ぎないとして,さらなるアジェンダの存在を示唆している。RSSの機関誌でもモスク・寺院論争について「歴史の真実を明らかにすることが文明的正義・・・・・の前提」(傍点引用者)であると主張する評論が掲載されている。寺院回復運動がRSS,BJP内部に亀裂と混乱を広げる可能性も否定できない。

州議会選挙で総選挙での後退を挽回したBJP

2024年には総選挙と同時にアルナーチャル・プラデーシュ(以下AR),シッキム(SK),オディシャ(OD),アーンドラ・プラデーシュ(AP)の4州,総選挙以降にハリヤーナー(HR),ジャールカンド(JH),マハーラーシュトラ(MH)の3州と州から連邦直轄地域に格下げされたジャンムー・カシミール(JK),合計8つの州と地域で立法議会(州議会の正式呼称)選挙が実施された(表2)。

表2 2024年の立法(州)議会選挙結果

(出所) インド選挙委員会(http://results.eci.gov.in/ResultAcGen)ほかから作成。

まず北東部の2州であるAR州とSK州では,州の与党であるBJPとシッキム革命戦線(SKM)が議席と得票率をともに伸ばして政権を維持した。AR州ではペマ・カンドゥが,SK州ではP・S・タマンが引き続き政権を担った。また東部のOD州と南部AP州では政権党であったビジュー・ジャナター・ダル(BJD)と青年・労働者・農民(YSR)会議派党が,それぞれBJPとTDPに敗れて政権交代が行われた。

OD州では,2000年以来州政権の座にあったBJDが議席を112から51に半減させた(得票率は44.7%から40.2%へ)。新たに政権についたBJPは23議席から78議席と過半数を制した(得票率は前回の32.5%から40.1%へ)。6月11日,BJPはトライブ指導者モーハン・チャラン・マジーを州首相に選出した。

AP州では2019年選挙でYSR会議派党に敗れたTDPが政権を奪い返した。YSR会議派党は,得票率で50.0%から39.4%,議席数で151議席から11議席と前回から大きく後退し,惨敗を喫した。TDPはBJPと選挙協力を行い,得票率を39.2%から45.6%に,議席を23から135へと引き上げた。州首相に復帰したC・ナイドゥは連邦からの財政移転で有利な条件が適用される「特別カテゴリー州」の指定を要求しているが,モディ政権は連邦予算での個別,臨時的処置で対応する姿勢である。

2014年以来10年ぶりとなったJK立法議会選挙は,2019年の州分割と連邦直轄地への「格下げ」後初の選挙であった。選挙戦でジャンムー・カシミール民族協議会(JKNC)と会議派は協力関係にあったが,前者がインド憲法制定時にJK州に与えられた特殊な地位を定めた憲法第370条の復活を要求したのに対して,後者は憲法第370条には触れずに州の地位の回復を訴えた。10月8日開票の結果,JKNCは無所属4人を加えて過半数ぎりぎりの46議席を獲得した。インド共産党(マルクス主義)とAAPの各1人もJKNCを支持し,会議派の閣外支持を受けて10月16日にJKNCのオマル・アブドゥッラー内閣が発足した。

オマル政権はJK州の憲法的地位に関しては穏健な姿勢をとり,当面州資格の回復をめざし第370条の復活要求は棚上げしているが,モディ政権が州の地位復活に早期に応じる可能性は低い。なおこの時期,旧JK州から分離され立法議会のない連邦直轄地域とされたラダック地方でも,州昇格とインド憲法第6付則の規定する自治権限を要求する運動が環境活動家ソナム・ワンチュクの指導下に展開された。

10月5日にはHR州議会選挙が実施された。総選挙での結果からはBJPの苦戦が予想された。しかし,わずか半年あまりのちの州議選で会議派は得票率ではBJPの39.9%に対して39.1%と接戦を演じたが,議席では48議席に対する37議席(総議席90)と差がついた。10月17日,続投のN・S・サイニーが州首相に就任した。BJPは会議派の地盤であるジャート・カーストに対して,反ジャート・カースト票を結集した。またRSSは団員による末端での小規模集会や動員を通じて,BJP党組織にテコ入れを図った。こうしてHR州での勝利は連邦下院選の打撃からモディ政権を回復させ,BJPとRSSの関係修復の一助となった。

JH州議選では,ジャールカンド解放戦線(JMM)が会議派との選挙協力を主体に,民族ジャナター・ダル(RJD)などを加えて与党連合を結成し,BJPは全ジャールカンド学生連合党とJD(U)などを結集してこれに対抗した。BJPは選挙戦でもっぱらバングラデシュやミャンマーからのムスリムの「不法流入民」排斥に焦点を当てた。このキャンペーンにはモディ首相も加わり,バングラデシュ政変に伴うヒンドゥー教徒への攻撃もとりあげて宗教的な分断を煽った。

選挙結果ではBJPは得票率で33.2%とJMMの23.4%を上回ったが,議席では21とJMMの34議席に及ばなかった。JMMの選挙協力が功を奏し,宗教的対立に焦点を絞ったBJPの戦略は失敗に終わった。ヘマンタ・ソレンが引き続き州首相の座に就いた。

MH州ではBJPと会議派が両極となって,それぞれ2派に分裂したシヴ・セーナー党(SHS)と民族主義会議派党(NCP)の一方と協力関係をもち,そのうえこの6政党間でも党籍変更が横行するという目まぐるしい展開がみられた。連邦下院選挙ではBJPを中心とする「大連合」(Mahayuti)(BJP,SHS,NCP)18議席に対して「マハーラーシュトラ発展戦線」(MVA)(会議派,シヴ・セーナー[U・B・タークレー派],NCP[シャラド・パワル派])が29議席と後者が圧倒した。しかし11月の州議会選挙では「大連合」が230議席,MVAが46議席とまったく逆の展開になった。

HR州を再演するようなこの逆転劇は,BJPの入念な活動によるものであった。大連合政権は貧困世帯女性向けの現金給付政策の月1500ルピーから2100ルピーへの増額を約束した。モディ政権と州政府は連携して下層カースト(後進諸階級)への優遇措置を拡大した。12月5日にはBJPの前副首相のD・ファドナビスを州首相とする新内閣が発足した。

HRとMHでの勝利に自信を深めているBJPは引き続き2025年2月5日のデリー連邦直轄地域,その後のビハール州での立法議会選挙への態勢を固めている。

(佐藤)

経 済

マクロ経済の概況

2025年2月28日にインド統計・事業実施省国家統計局(NSO)が発表したプレスノートによると,2024/25年度(2024年4月~2025年3月)のインドの実質GDP成長率は6.5%と予想されている。新型コロナウイルスの感染拡大と全土封鎖の影響により,41年ぶりにマイナス成長に転落した2020/21年度以降では,最も低い経済成長率を記録する見通しである(表3)。さらに,モディ政権が成立した2014/15年度からの11年間でみても,2020/21年度の-5.8%,2019/20年度の3.9%に次いで3番目に低い成長率となっている。6.5%が高い成長率であるのは確かだが,インド経済が減速傾向にあることは否定できない。

表3 実質GDP成長率の推移(%)

(注) 2011/12年度価格。産業別の成長率は,基本価格表示の粗付加価値(GVA)にもとづいている。

(出所) 統計・事業実施省国家統計局(NSO)のプレスノート(2025年 2月28日付)に基づき作成。

生産部門別では,農林水産業を除くすべての部門で,2023/24年度の成長率を下回ると予想されている。そのなかでも,製造業の落ち込みが特に目立つ。一方,農林水産業の成長率は,2.7%から4.6%に上昇すると見込まれている。支出別では,実質GDPの半分以上を占める民間最終消費支出が7.6%と最大の伸びを示し,GDP成長率を上回った。反対に,総固定資本形成の成長率は6.1%と前年度(8.8%)を下回った。総固定資本形成の対GDP比は,前政権期(2004~2014年)には33~35%台に達していたが,モディ政権になって20%台後半まで落ち込み,ここ数年は30%前後でほとんど変化がない。

モディ首相は,独立100周年にあたる2047年までに「先進国インド」(Viksit Bharat)を実現すると公言している。だが,少なくとも経済水準の面では,目標の達成は容易ではない。2024年のインドの1人当たり国民所得は2540ドルであり,世界銀行の基準によると「下位中所得国」に分類される。現時点では,「高所得国」の基準である約1万4000ドルとの隔たりが大きいため,ここ数年の経済成長率を今後も持続したとしても,インドが2047年までに高所得国の仲間入りを果たすことは不可能である。実際,2025年1月31日に発表された2024/25年度経済白書は,2025/26年度の実質GDP成長率を6.3~6.8%と予測する一方,「先進国インド」の実現には「約10~20年間,平均して8%前後の成長率を達成する必要がある」と述べている。

物価は,1年を通して5%前後の上昇率(前年同月比)で推移した(図1)。その背後では,消費者物価指数で約半分のウェイトを占める食料の価格上昇率が9%前後と高い水準を保ち,物価を押し上げる要因となった(なお,2024年7月と8月の物価上昇率が大幅に低下しているのは,前年の7月と8月に野菜をはじめとする食料品の価格が一時的に急騰したため,対前年比でみると物価上昇率が低くなるからである)。2024年総選挙を目前に控え,国内での食料価格を抑制するために,政府はタマネギやコメなどの農作物の輸出規制を次々と実行していったが,総選挙後は輸出規制を徐々に緩和している。

図1 消費者物価の上昇率(%)

(注) 前年同月比。CPI全体に占めるCFPIのウェイトは,47.25である。

(出所) 統計・事業実施省国家統計局(NSO)のデータに基づき作成。

為替レートは,他の新興国通貨と同様に,対ドルでルピー安が急速に進行した。2023年8月以降,1ドル=83~84ルピーで安定的に推移していた時期が続いたが,2024年10月に入るとルピー安が一気に進み,2025年2月には1ドル=87ルピーを突破した。ルピー安を食い止めるために,インド準備銀行(RBI)が積極的に為替介入を行っていると指摘されるが,ドル需要の高まりと株式市場からの資金流出(次項参照)によって,ルピー安の流れが続いている。それと並行して,2024年9月末に7049億ドルと過去最高を記録した外貨準備高は,2025年1月末の時点で6300億ドルまで減少した。

総選挙後の2024年7月に発表された2024/25年度連邦予算案では,歳出の総額は48兆2051億ルピーと前年度から8.5%増加した。財政赤字の対GDP比は,2022/23年度に6.4%,2023/24年度に5.6%,2024/25年度に4.8%と減り続けており,財政規律を重視する政府の姿勢がはっきりと表れている。それと同時に,2024/25年度予算案には,政府・与党の政治的狙いも透けてみえる。与党BJPが総選挙で議席を減らした要因であるとされる雇用問題に対しては,雇用創出,技能育成,産業訓練を目的とするプログラムが新たに打ち出された。また,NDA政権に参画するTDPが州政権を握るアーンドラ・プラデーシュ州には,新州都建設のために1500億ルピーの財政支援が提供された。

株式市場の変化

物価上昇,雇用不足,賃金停滞など,一般庶民にとって厳しい経済状況が続くなか,インドの株式市場は長らく好調を維持してきた。そのため,最近は日本でも,インド株に投資する投資信託の人気が着実に高まっている。ところが,2024/25年度の後半に入ると,堅調に推移してきたインドの株式市場に変化の兆しが現れるようになった。

図2は,インドの代表的な株価指数である「SENSEX」(ボンベイ証券取引所に上場する主要30銘柄から構成される指数)と「Nifty 50」(ナショナル証券取引所に上場する主要50銘柄から構成される指数)の近年の推移を示している。2020年3月下旬から4月上旬にかけて,新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と政府による突然の全土封鎖実施の影響で,インドの株式市場は大きく混乱し,株価が一時的に急落した。その後は順調に株価の上昇が続き,2023年以降はSENSEXとNifty 50が最高値の更新を繰り返していった。しかし,2024年9月26日にSENSEXが85,836,Nifty 50が26,216とともに終値としての最高値を記録して以降,両指数は一転して下落傾向を示すようになる。

図2 株価指数の動き

(出所) ボンベイ証券取引所とナショナル証券取引所のデータに基づき筆者作成。

インドの株式市場が勢いを失っている要因のひとつとして,海外への資金流出があげられる。インドの国立証券保管機関(NSDL)が公開するデータによると,海外の機関投資家によるインド株の売り越しが,2024年10月には9401億ルピーに達した。これは,インドでコロナ禍が本格的に始まった2020年3月の6197億ルピーを上回り,1カ月の売り越し額としては過去最高である。その後も,2024年11月に2161億ルピー,2025年1月に7803億ルピー,2月に3457億ルピーと海外投資家によるインド株の売り越しが続いた(なお,2024年12月は1545億ルピーの買い越し)。

インドから資金が流出するようになった背景には,中国の経済政策の影響があるといわれている。景気後退に苦しむ中国では,政府が景気刺激策を積極的に打ち出す姿勢をみせるようになっており,このような政策動向を受けて,外国投資家がインドから中国に資金を移動しているというのである。海外への資金流出が今後も続けば,インドの株式市場はさらに低迷する可能性がある。さらに,インドの国内状況に目を向けても,GDP成長率の低下,市場予想を下回る企業業績など,インドの株式市場にとってマイナスの要素が存在する。

アダニ・グループと政治との関係

2024年には,インドの株式市場に関連して,もうひとつの興味深い出来事があった。総選挙の開票日の前後に株式市場が大きく変動したことで,経済と政治との間の深い結びつきが改めて浮き彫りになったのである。

6月1日(土曜日)の午後6時に全選挙区で投票が締め切られると,その直後にメディア各社が出口調査の結果を発表した。そのほとんどは,2014年と2019年の総選挙に続いて,モディ首相率いる与党BJPが単独過半数を確保して圧勝するとの予想だった。出口調査の結果が「与党圧勝」で一致したことを受けて,週明けの6月3日には,SENSEXとNifty 50がともに3%超上昇した。ところが,翌4日に開票が行われ,BJPが大幅に議席を減らして過半数を割り込むとの見通しが伝えられると,株価指数は一転して6%近く下落した。選挙結果をめぐって株価が変動する事態を受けて,日本でも資産運用会社などが状況説明に追われた。

株価の乱高下が特に激しかったのが,インドの新興財閥アダニ・グループの関連企業である。例えば,港湾・物流関連のアダニ・ポーツ・アンド・SEZの株価は,6月3日に10.2%上昇したが,翌4日には21.3%下落し,SENSEXを構成する30銘柄のなかで最大の変動幅を記録した。ボンベイ証券取引所に上場する,アダニ・グループ関連のその他の銘柄も軒並み同様の動きを示したが,インフラ関連企業の株価がより大きく変動した。

アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニについては,モディ首相がグジャラート州首相だった時から緊密な関係を築き,それをテコに一代で事業を急拡大させてきたといわれる。その一方で,インドを代表する巨大複合企業へと異例の成長を遂げる過程で,アダニ・グループには数々の不正疑惑がもち上がり,近年はますます厳しい視線が向けられている。そのなかでも特に衝撃が大きかったのが,2023年1月にアメリカの投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが,アダニ・グループによる組織的な会計不正と株価操作を告発したことである。さらに,2024年11月には米連邦検察が,ゴータム・アダニ会長らアダニ・グループ幹部をインド政府高官への贈賄の疑いと投資家への詐欺容疑で起訴した(詳しくは,「国内政治」を参照)。

アダニ・グループ各社の株価は,ヒンデンブルグ・リサーチが報告書を公表した直後に暴落したが,その後しばらくすると回復していった。モディ政権が安定している限り,アダニ・グループは不正疑惑について追及を受けることなく,国内外で事業を急拡大していくという認識が広く共有されているからだろう。与党大勝という出口調査の結果とBJP過半数割れという選挙結果に,アダニ・グループ各社の株価が極端に反応したことも,このように考えるとうまく説明がつく。

実際,アダニ・グループをめぐって不正疑惑が繰り返し噴出しているにもかかわらず,国会での議論を求める野党の要求は無視され,疑惑の真相を追及するような報道は主要メディアでは皆無である。なお,NDTVはモディ政権に批判的な姿勢を維持する唯一の主要テレビ局だったが,2022年12月にアダニ・グループの傘下に入っている。

問われる政府統計の信頼性

2019年12月24日に開かれた閣僚会議で,翌年度から開始予定の2021年国勢調査に875億4000万ルピーの予算を充てることが承認された。ところが,新型コロナウイルスの感染拡大を理由に延期となって以降,政府による明確な説明もないまま,国勢調査はいまだに行われていない。

最も基本的かつ重要な統計調査である国勢調査が,2011年を最後に実施されていないという異常な状況はさらに続きそうである。2024年10月に,匿名の政府関係者の発言として,2025年はじめに調査が始まり,2026年中には結果が公表される予定であるとメディア各社が一斉に報じた。しかしその後,政府による正式発表もメディアによる関連報道もなく,目立った進展はみられなかった。そして,2025年2月に発表された2025/26年度連邦予算案では,国勢調査を行うにはあまりにも少ない額(57億4000万ルピー)しか関連予算として計上されなかったため,2025/26年度中に調査が開始される可能性はないとみられている。

現政権のもとでは,統計調査は行われているのに,調査結果がいつまで経っても公表されないケースも相次いでいる。国家統計局(NSO)が2017~2018年に実施した雇用調査(PLFS)と家計消費支出調査をめぐる疑惑は,まさにその典型である。2019年総選挙が間近に迫っていた時期に,PLFSの結果が一向に公表されないことが話題となったが,リークされた情報をもとにした現地紙の報道によって,モディ政権下での雇用状況の悪化が明らかになった。また,家計消費支出調査についてもまったく同様のことが起こり,前回調査(2011~2012年)に比べて家計消費支出が低下するという衝撃的な結果だったことが報じられた。いずれのケースでも,政府が不都合な調査結果を隠蔽したのではないかとの疑惑が浮上した。

ただし,政府統計のなかでも注目度が高いためか,PLFSは2018~2019年以降は毎年のように報告書が刊行されている。そのおかげで,製造業部門の労働者の割合が停滞する(2021/22年度:11.6%,2022/23年度:11.4%,2023/24年度:11.4%)一方,農業部門の労働者の割合は増加している(2021/22年度:45.5%,2022/23年度:45.8%,2023/24年度:46.1%)など,雇用状況の深刻さを知ることができる。家計消費支出については,2017~2018年の調査結果を政府が公開していないため,2011~2012年から10年以上もデータが存在しない期間が続いたが,2024年には2022~2023年と2023~2024年の調査結果が立て続けに公表された。

一見すると,政府統計の収集と公表をめぐる問題が改善に向かっているかのような印象を受けるが,政府が手元にあるはずのデータを公表しない事例は,依然としていくつもある。例えば,出生および死亡の届出に関する統計は2020年を最後に公表が途絶えているし,内務省国家犯罪記録局が1953年から刊行を続けている犯罪統計の2023年版はいまだに公開されていない。いずれも理由は不明である。 

モディ政権が政府統計の収集と公表に後ろ向きの姿勢をみせるようになったのと並行して,公表されている政府統計の正確性や妥当性を疑問視する声が専門家の間でも聞かれるようになっている。政府統計の不足と信頼性低下によって,客観的データにもとづく現状把握がますます困難になっている状況で,政府が効果的な政策を行うことは果たして可能なのだろうか。

(湊)

対外関係

ウクライナとガザの戦争とインドの「バランス外交」

ロシア・ウクライナ戦争の長期化とガザでの戦火のレバノン,シリア,イランへの拡大に,インドの「バランス外交」は微妙な綱渡りを余儀なくされている。

インドの動きが国際的な注目を浴びたのは7月の首相によるロシア訪問であった。7月8日,ロシアを訪問したモディ首相がプーチン大統領と親密に抱きあう姿が報道された。このタイミングは最悪であった。直前にはロシアがウクライナ全土にミサイル攻撃をしかけ,標的となったキーウの子供病院では41人が死亡した。ゼレンスキー大統領はX(旧Twitter)で,「世界最大の民主主義国のリーダーが,世界で最も血にまみれたモスクワの犯罪者と,このような日にハグするのを目撃するのは,平和への努力にとってこの上ない失望と壊滅的な打撃」であると非難した。

アメリカ国務省報道官は直後にモディ首相のロシア訪問について不満を表明したが,アメリカの不信感をより明確に言明したのは駐印アメリカ大使ガーセティであった。大使は7月11日に,インド政府が標榜する「戦略的自律性」などというものは戦争のさなかにはありえない,米印間にはより緊密な相互理解が必要だと,インドの基本的な外交原理に批判の矢を向けた。

インドはその後,明らかに事態の収拾に動いた。8月19日,インド外務省はモディ首相が8月23日にポーランド経由でウクライナを訪問すると発表した。この訪問は,ロシア訪問時のプーチンとのハグが招いた不評を,ゼレンスキーとのハグで帳消しにしたが,具体的な和平への提案はみられなかった。訪問後の共同声明も戦争に関係する部分では双方の立場を併記したのみであった。

その後ジャイシャンカル外相は11月26日,イタリアでのG7外相会議後,「ある段階が来れば人々は交渉のテーブルにつく」と発言したが,自らが何らかの仲介に乗り出すわけでなかった。和平への中心的な議題となるウクライナの領土的一体性や停戦後の安全保障体制について,インドは立場を明らかにしていない。

ガザの戦争でもインドの「バランス外交」が目立つ。インドはイスラエルによる非人道的なガザ攻撃を批判し,長期的には「二国家解決」策に同調する一方で,兵器輸出やパレスチナ人に代わるイスラエルへの6000人あまりの労働者派遣など,イスラエル寄りの政策を維持している。ハイダラーバードにあるインドとイスラエルの合弁企業は軍事用のHermes 900 UAV(ドローン)を2019年から2023年までイスラエルに20機納入している。また国防省傘下のMunitions India Ltd.は2024年1月と4月の2度にわたって砲弾をイスラエルに売却した。

4月5日,国連人権委員会はガザの即時停戦とイスラエルに対する武器輸出禁輸決議を賛成28,反対6,棄権13で採択した。決議にインドは棄権した。他方で5月10日のパレスチナを正式メンバーとして受け入れる国連総会決議にインドは賛成している。また5月末にはラファ難民キャンプの民間人被害に対してネタニヤフ首相が責任を認めた後にインドも遺憾の意を表明した。だが9月18日の国連総会特別会合で採択されたパレスチナ占領地のイスラエルによる違法な駐留を12カ月以内に終了すべきとの決議にはインドは棄権した。ここでもインドは微妙な「バランス外交」を展開した。

10月にはイラン,イスラエルの全面戦争の危険を前にガザ停戦への動きが加速され,12月11日の国連総会ではガザでの即時停戦決議が採択された。インドもこれには賛成した。今後,ガザからのパレスチナ住民強制移住を主張するトランプ政権の露骨な親イスラエル政策へのインドの対応が注目される。

進む中国との関係改善

2024年には,秋のロシア・カザンでのBRICS首脳会議にむけて,インドと中国の関係改善が進展した。

7月3~4日のカザフスタン,アスタナでの上海協力機構(SCO)首脳会議にはジャイシャンカル外相が出席し,中国の王毅外相との間で,両国間の正常でない現状が「双方にとっての不利益である」ことに合意した。両外相はその後,ラオスの首都ビエンチャンでのASEAN外相会議でも協議を重ねた。

この流れをうけて7月31日(デリー)と8月30日(北京)で国境問題に関する事務レベルの会合がもたれた。さらに9月12日には,BRICSの安全保障担当官会合を機会に,両国の国境問題特別代表でもある国家安全保障補佐官アジット・ドーヴァルと王毅外相が会合し,両国部隊の衝突の原因となった実効支配線(LAC)をめぐる監視活動について大筋において合意した。

こうして10月23日にはカザンでインド・中国首脳会談が2019年のインド・マハバリプーラム以来5年ぶりに行われた。さらに12月18日には,ドーヴァル補佐官と王毅外相が北京で会談し,カイラース・マーンサローワル巡礼,ナトゥ・ラでの交易,国際河川をめぐる協力など6項目の合意が交わされた。

インドにとっては,ロシア・ウクライナ戦争のもとでの中露緊密化を前に,中国との一定の関係改善はBRICSなどの舞台での外交的孤立を避ける効果がある。また経済関係では2020年以来インドが中国を念頭に実施している隣接諸国に対する投資規制の見直しも経済界からは提起されている。

インドの対米関係

2024年の米印関係は,年の前半がインドの総選挙,それに並行して11月まではアメリカの大統領選挙もあり,米印「重要新興技術イニシアティブ」(iCET)発足や国賓待遇でのモディ首相の訪米が注目を引いた2023年に比べて目立たぬ展開に終わった。それでもバイデン政権下での両国関係の到達点は,6月の両国安全保障補佐官による第2回iCET会合と,9月の米印首脳会談の際にそれぞれ発表された米印関係の共同ファクトシートによって整理,確認された。

iCETは宇宙,半導体,高度テレコム,AI,量子コンピュータ,バイオテクノロジー,クリーンエネルギーの7分野にわたる先進技術ないし軍民両用技術の共同開発と対立国への流出防止などを課題にする。開発には両国の民間企業も参加し,今回の会合でも関係企業幹部との合同会合がもたれた。QUADおよび国連総会と時期を同じくして開催された9月21日の米印首脳会談後の共同ファクトシートでは,米宇宙軍にも納入する半導体工場の設立など両国間の懸案が列挙された。

米大統領選挙での共和党トランプ候補の勝利をモディ政権は表面的には冷静に受け止めたが楽観は許されない。政権発足直後から不法入国インド人の強制送還が実行され,広範な関税引き上げとセットに米国製兵器購入の圧力もインドにはかけられている。2025年2月のモディ首相訪米はこの圧力を背景に行われる。

なお,アメリカでのシク教徒活動家殺害未遂事件をめぐって2023年11月に設置されたインド政府の調査委員会は,ようやく2025年1月25日になって調査結果とそれに基づく関係者の処分を発表した。報告書は組織的犯罪集団,テロ組織,麻薬業者の活動をアメリカ政府提供の情報も参考に調査を進めた結果,過去に犯罪歴をもつ「人物」に対する法的措置を勧告するに至ったとした。報告書ではこの「人物」の名は明らかにされていないが,10月18日に米連邦司法省によって起訴されたインド政府の対外諜報機関・調査分析班(RAW)所属のヴィクラム・ヤーダヴであるとみられる。一方,問題の発端になったカナダでのシク教徒活動家殺害事件で悪化したインド・カナダ間外交関係の修復は,2025年1月6日のトルドー首相の辞任表明によってカナダの総選挙後にもち越された。

南アジア,インド洋諸国の政権交代とインド

2024年にはバングラデシュをはじめ南アジアの多くの国で総選挙や政変による新たな政権が誕生した。6月9日のモディ首相就任式に出席した近隣7カ国(バングラデシュ,ブータン,ネパール,スリランカ,モルディブ,モーリシャス,セーシェル)のうちバングラデシュ,ネパール,スリランカ,モーリシャスの4カ国の首脳が年内に交代した。バングラデシュの政変後に成立した暫定政権は機能停止状態にある南アジア地域協力連合(SAARC)の再活性化を呼びかけている。

バングラデシュは,1971年の独立運動参加者とその家族に対する公務員優遇採用制度への反対運動に端を発して,ハシナ首相の辞任,インドへの逃亡,さらには暫定政府成立と予期せぬ政変に見舞われた(詳細は「バングラデシュ」の項参照)。8月5日,インド政府はハシナ首相脱出への対応に追われ,公式の声明は発表されなかった。翌8月6日になってジャイシャンカル外相が,インドは前首相を暫定的に受け入れ,各方面に自制を呼びかけ,状況を注視していると議会で述べた。野党は政府による情報活動の失敗だと批判した。

インドが受け入れたハシナ前首相に対しては,12月23日にバングラデシュ政府から正式の引き渡し要請があった。バングラデシュでは,8月13日にハシナ前首相と6人の閣僚,および警察幹部が殺人容疑で告訴されており,アワミ連盟系学生組織の非合法化から連盟自体の非合法化にまで発展する可能性もある。インド政府は12月以降も,ハシナ前首相による暫定政府攻撃の発言を野放しにしており,バングラデシュ国内ではハシナとインド政府に対する反感が広がっている。

またハシナ前首相の出国以降,バングラデシュ国内でのヒンドゥー教徒への攻撃も続く。バングラデシュ政府はこれを政治的な対立の延長上の問題ととらえているが,インドの一部のメディアが宗教的な側面を実態以上に誇張している。シャハ内相やモディ首相らも,同時進行中のジャールカンド州議会選挙戦のなかで,バングラデシュでのヒンドゥー教徒抑圧を非難している。

影響は両国間の経済関係にも及んだ。政変後,バングラデシュ電力局によるアダニ・グループ傘下の電力会社(Adani Power Jharkhand Ltd.)からの買取価格の見直しが進んでいる。スリランカでも新政権の発足とともにアダニ傘下の風力発電事業に関する契約見直しの動きがあり(2025年2月に撤退決定),近隣諸国でのアダニ・グループのインフラ事業には逆風が吹いている。

スリランカでは,9月21日に大統領選挙が実施され左翼政党人民解放戦線(JVP)のA・K・ディサナヤケが当選した(詳細は「スリランカ」の章を参照)。インド政府の動きはすばやく,経済再建への協力も含めて10月4日には,ジャイシャンカル外相がスリランカを訪問し新大統領と会談した。11月の国民議会選挙でのJVPを含む人民の力(NPP)連合の勝利の後,12月15日には大統領が訪印し,1490万ドルの信用供与のほか,二重課税の回避,行政官の訓練などの協力を確認した。スリランカの新政権は,インドの対スリランカ外交が進むなか,2025年1月13日には大統領が中国を訪問し,37億ドルに及ぶハンバントタ港精油所投資に合意した。

インド洋地域では2023年9月のモルディブ大統領選挙で「インドは出ていけ」を掲げて当選した野党人民民族会議(PNC)のムハンマド・ムイズが,モルディブに駐留する88人のインド海軍兵士の撤退を要求した。撤兵交渉は2024年2月初めに,3月10日から2カ月間の段階的な引き揚げで合意した。この間,ムイズ大統領は1月10日に訪中し習近平主席と会談を行い,両国関係を「包括的戦略協力パートナーシップ」に格上げしている。また大統領は,「小国とはいえ好き勝手ないじめ」は許されないとインドを牽制した。

しかし3月10日に第一陣の撤兵が開始されると,両国関係の修復が始まった。5月の外相会談と撤兵終了,6月のムイズ大統領によるモディ首相就任式への出席,10月6~10日のムイズ大統領訪印による両国関係の「包括的経済・海洋パートナーシップ」への格上げと関係改善が急速に進んだ。中国も2025年1月11日には王毅外相が急遽モルディブを訪問し,インフラ協力についてムイズ大統領と協議を行った。スリランカを含むインド洋地域への影響力をめぐる中国とインドの角逐が続いている。

インド洋地域ではモーリシャスでも国民議会選挙が2024年11月10日に行われ,労働党のN・ラングーラムが率いる野党連合「変化の同盟」が勝利した。同党はチャゴス諸島の返還と交換に結ばれた,米軍基地のあるディエゴ・ガルシア島の対英長期貸与契約(インドも支持)に反対している。

(佐藤)

2025年の課題

2024年総選挙でBJPが240議席に後退したことで,モディ首相の「不敗神話」は傷ついた。2025年にはモディ首相は75歳をむかえる。モディ首相が強くこだわるネルー首相の18年の在職期間との比較でいえば,モディ首相にはもう1期が必要である。シャハ内相は2029年もモディが勝利すると早くも宣言しているが,第3次モディ政権ではいやおうなくポスト・モディの模索が始まる。2025年に創立百周年を祝うRSSの意向もポスト・モディの行方を占う重要な要素である。

経済は減速傾向にあるうえに,1期目に米印間で「小規模な貿易戦争」を引き起こしたトランプ大統領の再登場によって,先行きへの懸念が深まっている。こうした状況のなか,政府は需要を喚起する狙いから,2025/26年度連邦予算案で「中間層」に対する大規模な所得税減税を大々的に打ち出した。しかし,実際に減税措置の恩恵を受けるのは所得階層の上位10%程度にすぎないため,「中間層」向けという政府の説明に加えて,減税の効果にも大きな疑問符が付く。

2024年の外交の危うい綱渡りで,インドの外交戦略である「戦略的自律性」が,ウクライナとガザの戦火への積極的な対応に欠けることは明らかになった。トランプ主導のウクライナ和平とガザ停戦が進む2025年には,この2つの戦争に対するインドの主体的な対応が問われる。また近隣諸国との関係で最も注目されるのは,おそらく年内に総選挙が行われるバングラデシュとの関係である。

(佐藤:南アジア研究者)

(湊:地域研究センター)

重要日誌 インド 2024年

   1月
3日 最高裁,アダニ・グループをめぐる不正疑惑について,インド証券取引委員会(SEBI)に速やかな調査完了を指示し,他機関による追加調査を求める申し立てを棄却。
13日 野党連合INDIA会合。議長,幹事長人事決まらず。
14日 会議派,ラーフル・ガンディーによる「バーラトをつなぐ正義の行進」開始。
22日 建設中のラーマ寺院で,ラーマ神像の開眼式。政府機関は午後2時半まで閉鎖。
25日 インド考古調査局,ギャンバピー・モスク(ヴァラナシー)の敷地発掘調査報告書を訴訟関係者に公開。
28日 ビハール州,ニティシュ・クマールを首班としてBJPとの連立内閣成立。
31日 ジャールカンド州首相ヘマンタ・ソレン,資金洗浄容疑で強制執行庁により逮捕。
31日 連邦議会予算会期,開会(~2月10日)。
   2月
1日 2024/25年度暫定予算案,発表。
6日 ウッタラーカンド州政府,州議会に統一民法典法案を提出(7日可決)。
8日 アミット・シャハ内相,ミャンマーとの国境間自由移動制度(FMR)を停止。
13日 モディ首相,UAE訪問。14日にはカタール訪問。
13日 農民の最低支持価格要求デモ行進。パンジャーブ,ハリヤーナー州境で警察と衝突。
15日 最高裁,選挙債券の違憲判決。選挙委員会に3月中の詳細情報開示を命令。
16日 所得税局,26億ルピーの課税滞納を理由に会議派口座を凍結。会議派の訴えで所得税控訴審判所は時限的な解除を許可。
21日 政府,宇宙分野の海外直接投資に関する規制を緩和。
24日 国家統計局,2022~2023年に行った家計消費支出調査の結果の概要を公表。
   3月
3日 野党連合INDIA,初めての公式合同集会をパトナーで開催。
5日 モディ首相,パキスタンのシャハバーズ・シャリーフの新首相就任に祝意を表明。
10日 欧州自由貿易連合(EFTA)と貿易経済連携協定を締結。今後15年で,EFTA加盟の4カ国からインドへの直接投資を総額1000億ドル増やすとの目標を明記。
11日 政府,2019年市民権(改正)法の実施規則を通達。
16日 インド政府高官への贈賄の疑いで,アダニ・グループの関係者がアメリカの検察当局と司法省の捜査を受けているとブルームバーグが報道。アダニ・グループは否定。
16日 選挙委員会,連邦下院選挙の日程発表。
17日 ラーフル・ガンディーの「バーラトをつなぐ正義の行進」ムンバイで完了集会。
21日 強制執行庁,デリー首相ケジュリワルを酒類販売業者からの収賄と,党資金への流用容疑で逮捕。
22日 政府,3月末まで実施予定だったタマネギの輸出禁止措置を無期限で延長。
30日 中国民政部,「南チベット」(アルナーチャル・プラデーシュ)の30地点の中国名を発表。新地名を加えた地図も発表。
31日 野党連合INDIA,デリーでケジュリワル釈放を求めて「民主主義を救え」集会。
   4月
5日 会議派,連邦下院選マニフェストを発表。
14日 BJP,選挙マニフェストを発表。表題は「モディの保証2024」。
17日 ロシアと共同開発したブラモス巡航ミサイルをフィリピンに輸出。
19日 連邦下院選挙第1回投票日。6月1日まで7回に分けて実施。
21日 モディ首相,ラージャスターン州バンスワラでムスリムへのヘイトスピーチ。
29日 『ワシントン・ポスト』紙,シク教徒指導者殺害計画に関与したインド政府関係者を実名(ヴィクラム・ヤーダヴ)で報道。
   5月
2日 ネパール政府,インドとの係争地点を含む地図を図案とする新100ルピー札を発行。
4日 政府,タマネギの輸出禁止措置を解除し,1トンあたり550ドルの最低輸出価格と40%の輸出関税を導入。
10日 最高裁,ケジュリワルに暫定的な保釈を許可。ただし,6月1日まで州首相としての職務を制限。
11日 2022年10月から空席だった駐印中国大使に外交官の徐飛洪が任命される。
13日 イランに対するチャーバハール港関連3.7億ドルの投資協定成立。
30日 選挙運動期間終了。モディ首相,カンニャクマーリーで45時間の瞑想。
   6月
1日 第7回の投票日。全投票を終了。
2日 ケジュリワル,デリーのティハール刑務所に再び収監。
4日 総選挙開票,BJP単独過半数に達せず。首相,党本部で過半数割れには触れず,3期連続の勝利を「歴史的な審判」と称賛。
4日 医学部志望者を対象とする全国共通試験(NEET)の結果発表。高得点者が続出し,試験問題の漏洩などの不正疑惑が浮上。
7日 BJP議員総会,モディを首相候補に選出。ムルム大統領,モディを首相に指名。
9日 モディ首相就任式。
13日 モディ首相,イタリアでのG7首脳会談に参加。
17日 アメリカ国家安全保障補佐官ジェイク・サリヴァン,訪印。
21日 日本政府,軍事転用可能な物資をロシアに提供している疑いがあるとして,ベンガルールの半導体関連企業を含む海外10企業を対象とした輸出禁止措置を決定。
22日 バングラデシュのハシナ首相訪印,モディ首相と会談。国防,インフラ,交通など広範囲にわたる協力を協議。
26日 中央捜査局,ケジュリワルを逮捕。
27日 新議会発足にあたり両院合同会期で大統領演説。「強い決断する政府」を説く。
   7月
4日 ヘマンタ・ソレン,ジャールカンド州首相に復帰。
8日 モディ首相,ロシア訪問。プーチン大統領と会談。
9日 モディ首相,オーストリア訪問(~10日)。持続的経済技術連携に合意。
22日 連邦議会予算会期,開会(~8月9日)。2023/24年度経済白書,公表。
23日 2024/25年度予算案,発表。
25日 ASEAN外相会議出席のジャイシャンカル外相,中国の王毅外相と会談。実効支配線(LAC)での摩擦解消に合意。
   8月
1日 最高裁は指定カースト,指定部族と認定された集団内部の後進的なサブ集団を留保制度の対象とすることを合憲と判断。
5日 バングラデシュのハシナ首相辞任,インドに脱出。
8日 モディ首相,バングラデシュ臨時政府の最高顧問,ムハンマド・ユヌスに祝辞とともにヒンドゥー教徒の保護を要請。
8日 コルカタのR・G・コル大学病院で女性研修医が暴行殺害される。病院当局と警察による証拠隠滅の疑いから抗議拡大。
9日 ジャイシャンカル外相,モルディブ訪問(~11日)。ムイズ大統領と会談,保健衛生などの分野での援助。
10日 米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチ,アダニ・グループが関係する海外ファンドにSEBI委員長のマーダビー・プリー・ブチと夫が投資しているとする報告書を公表。
11日 ヴィクラーム・ミスリ外務次官がネパールを訪問,オリ首相ほかと会談。
15日 モディ首相は独立記念日演説で,現在の「コミュナルで差別的な」民法典から「世俗的な」民法典への切り替えを主張。
16日 選挙委員会,ジャンムー・カシミールとハリヤーナーの立法議会選挙日程発表。
20日 マレーシアのアンワル・イブラヒム首相,訪印。包括的戦略連携協定を締結。
20日 第3回日印2+2会合,ニューデリーで開催。艦船の通信アンテナのインドへの供与などを協議。
22日 モディ首相,ポーランドのD・トゥスク首相と会談。戦略的連携関係に合意。
23日 モディ首相,ウクライナ訪問。対話と外交による解決をゼレンスキーに要請。
29日 アリハントに続く2隻目の原子力潜水艦アリガートの就役。
   9月
3日 モディ首相,ブルネイ訪問。スルタンと会談。
4日 モディ首相,シンガポール訪問。ローレンス・ウォン首相と会談(5日)。
9日 首都ナイロビの国際空港の運営権をアダニ・グループが30年間取得する計画について,ケニア高裁が差止命令。
11日 年間50万ルピーまでの入院医療費を無料とする,貧困世帯向けの医療保険制度(AB PM-JAY)の対象を70歳以上に拡充することを内閣が承認。
13日 政府,タマネギの最低輸出価格を撤廃し,輸出関税を40%から20%に引き下げ。バスマティ米の最低輸出価格も撤廃。
17日 デリー首相ケジュリワル辞任,アティシを後任に指名。
20日 ボンベイ高裁,言論・表現の自由に反するとして,2023年IT(改正)規則を違憲とする判決。
21日 米デラウェア州ウィルミントンで米印首脳会談およびQUAD首脳会合。
22日 モディ首相,国連「未来サミット」で演説。人類の成功は戦場でなく集団的な力にあると語る。
24日 政府,IT機器の「輸入管理システム」の運用を年末まで延長すると発表。12月には,2025年末までの再延長を発表。
27日 インドのシビ・ジョージ駐日大使,年内に福岡県に総領事館を新たに開設する意向を表明(2025年2月末時点で未開設)。
28日 政府,白米の輸出禁止措置を解除し,1トンあたり490ドルの最低輸出価格を導入。
  10月
3日 企業問題省,「首相インターンシップ・スキーム」のパイロット版の実施要項を発表。2024/25年度は,12.5万人に企業でのインターンシップの機会の提供を目指す。
4日 ジャイシャンカル外相,スリランカを訪問。ディサナヤケ新大統領と会談。
7日 訪印中(6~10日)のモルディブのムイズ大統領,モディ首相と会談。防衛協力,借款利子負担軽減などについて合意。
10日 ASEAN・インド首脳会談。文化交流,サイバー政策など関係強化10項目提案。
11日 東アジア・サミットでモディ首相,間接的に中国の拡張主義に警告。
14日 カナダ政府,インドの高等弁務官ほか6人をシク教徒活動家の殺害に関与したとして追放。インド政府もカナダの高等弁務官ほか6人を追放。
16日 パキスタンを議長国としてSCO政府首脳会議。ジャイシャンカル外相,パキスタン外相と二国間の交流回復について会談。
17日 ジャンムー・カシミールのオマル・アブドゥッラー内閣初閣議。州資格復活要求を決議。
21日 外務次官ヴィクラーム・ミスリ,中国とのラダック実効支配線周辺の監視活動再開をめぐる両国間合意の成立を発表。
22日 ロシア・カザンでBRICSサミット。モディ首相,プーチン大統領と会談。イラン新大統領ペゼシュキアンと初会談。
23日 カザンでインド・中国首脳会談。
23日 政府,白米の最低輸出価格を撤廃。
30日 インド軍当局,ラダック地区の実効支配線に近接する2地点での中印の兵力引き離しが完了と発表。
  11月
5日 インド高速鉄道の建設現場で,作業員3人が死亡,1人が負傷。
5日 インド・オリンピック委員会,2036年オリンピック招聘の意思を国際委員会に正式表明。
9日 D・Y・チャンドラチュド最高裁長官,定年退官。後任はサンジーヴ・カンナ判事(2025年5月まで)。
13日 最高裁,当局による懲罰的な家屋の取り壊しを違憲とする判決を下す。
16日 モディ首相,ナイジェリア訪問。
18日 デリー首都圏での大気汚染の深刻化を受けて,4段階で最も厳しい対策を実施。
18日 モディ首相,ブラジルで開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会議参加(~19日)。20日にはガイアナ訪問。
19日 バングラデシュ最高裁,同国がアダニ・グループと結んだ電力関連の合意について調査委員会の設置を命じる。
20日 米連邦検察,ゴータム・アダニ会長らアダニ・グループ幹部を贈収賄と投資家への詐欺容疑で起訴。米証券取引委員会(SEC),アダニ会長らを提訴。
21日 ケニアのルト大統領,同国でアダニ・グループが国際空港の運営と送電網の整備をする計画を撤回すると発表。
  12月
4日 ニューヨークのアワミ連盟系の集会に,インド滞在中のハシナ前首相がビデオ・メッセージ。ユヌスを権力亡者と罵倒。ヒンドゥー教徒への迫害を非難。
6日 インド準備銀行(RBI),預金準備率(CRR)を4.0%へ0.5ポイント引き下げ。
9日 インド外務次官,バングラデシュ訪問,関係打開の協議。ヒンドゥー教徒の保護を要請。バングラデシュは国内問題との立場。
11日 RBIのシャクティカーンタ・ダース総裁の後任に,サンジャエ・マルホートラー財務次官(歳入担当)が就任。任期は3年。
12日 ロシア国営石油企業ロスネフチがリライアンス・インダストリーズに日量約50万バレルの原油を10年間にわたって供給することで合意とロイター通信が報道。
15日 スリランカのディサナヤケ大統領,訪印(~17日)。首脳会談で共同演習など安全保障協力,貿易投資の促進に合意。
17日 「一国一選挙」法案,賛成269対反対198で連邦下院に上程。両院合同委員会に付託。
18日 印中の国境問題特別代表として,国家安全保障補佐官アジット・ドーヴァルと王毅外相,北京で会談。カイラース・マーンサローワル巡礼,ナトゥ・ラでの交易,国際河川をめぐる協力など6項目で合意。
18日 内務省,マニプル,ミゾラム,ナガランドの3州への外国人の渡航制限の緩和措置を撤回。渡航制限は2011年1月以来。
21日 モディ首相,クウェート訪問(~22日)。
23日 バングラデシュ政府,ハシナ前首相の引き渡しをインド政府に公式に要求。
26日 マンモーハン・シン元首相,死去。92歳。12月28日国葬,7日間の服喪。

参考資料 インド 2024年

① 国家機構図(2024年12月末現在)

(出所) 政府発表の閣僚名簿(https://www.india.gov.in/my-government/whos-who/council-ministers)およびその他各省庁のウェブサイトなどから筆者作成。

② 連邦政府主要人名簿(2024年12月末現在)

③ 国民民主連合閣僚名簿(2024年12月末現在)

(注)カッコ内政党名略号は本文表1参照。表にない政党については,RPI(A):インド共和党(アトヴァレ派),AD(S):我が党(ソーネーラール),HAM(S):インド大衆戦線(世俗派)。

(出所)政府発表の閣僚名簿(Council of Ministers| National Portal of India)およびその他各省庁のウェブサイトなどから筆者作成。

主要統計 インド 2024年

1 基礎統計

(注) 1)暦年。2)年度平均値。2024/25は4~12月の平均値。3)第2次予測値。4)4~12月の平均に対する値。

(出所) 人口はMinistry of Statistics and Programme Implementation(MOSPI), Press Note on Second Advance Estimates of Annual Gross Domestic Product for 2024-25, 出生率はReserve Bank of India (RBI), Handbook of Statistics on Indian States 2023-24, 食糧穀物生産はMinistry of Agriculture and Farmers Welfare, Second Advance Estimates of Production of Foodgrains for 2023-24, 消費者物価上昇率はRBI, Handbook of Statistics on the Indian Economy 2023-24, およびMOSPIのウェブサイト・データ,為替レートはMinistry of Finance, Economic Survey 2024-25, およびRBIのウェブ・サイトデータより作成。

2 生産・物価指数

(注) 1)都市部と農村部の統合指数。2)4~12月。12月は暫定値。3)暫定値。4)4~12月。5)4~12月。

(出所) 鉱工業生産指数はRBI, Handbook of Statistics on the Indian Economy 2023-24, およびMOSPI, Press Note on Quick Estimates of Index of Industrial Production and Use-based Index for the Month of December, 2024, 農業生産指数, 卸売物価指数はRBI, Handbook of Statistics on the Indian Economy 2023-24, およびOffice of the Economic Adviserのウェブサイト・データ,消費者物価指数はRBI, Handbook of Statistics on the Indian Economy 2023-24, およびMOSPIのウェブサイト・データより作成。

3 支出別国民総所得(名目価格)

(注) 1)最終推定値。2)1次改定値。3)2次予測値。

(出所) MOSPI, Press Note on Second Advance Estimates of Annual Gross Domestic Product for 2024-25より作成。

4 産業別国内総生産(実質:2011/12年度価格)4)

(注) 1)最終推定値。2)1次改定値。3)2次予測値。4)基本価格表示の粗付加価値(GVA)。

(出所) MOSPI, Press Note on Second Advance Estimates of Annual Gross Domestic Product for 2024-25より作成。

5 国際収支

(注) 1)暫定値。2)4~9月の予測値。

(出所) RBI, Handbook of Statistics on Indian Economy 2023-24,およびRBI, Press Release(Development of India's Balance of Payments during the Second Quarter of 2024-25, 27/Dec/2024)より作成。IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号は(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。

6 国・地域別貿易

(注) 1)アイスランド,ノルウェー,スイス,リヒテンシュタイン。2)非特定地域(unspecified region)を含む。3)暫定値。

(出所) Ministry of Commerce and Industryのウェブサイト・データより作成。

7 中央政府財政

(出所) Ministry of Finance, Union Budget 2023-24, 2024-25, および2025-26より作成。

 
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