2024年は,不確実性と分断が深刻化した1年でした。ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの軍事衝突などの地政学的な問題に加え,アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが再選を果たしました。国際秩序は揺らぎ続け,政治や経済における見通しはさらに不透明になっています。
アジア地域の経済は引き続き世界経済をけん引して底堅さを示しましたが,前年に比べ減速傾向となりました。IMFの世界経済見通し(2025年4月)によると,2024年のアジアの新興市場国・発展途上国の経済成長率は,前年の5.3%から4.5%(予測値)に低下しました。インフレ率は低下し全体的に落ち着きを取り戻しましたが,食糧やサービス価格の高止まりが続き国民生活に影響が及んだ国もあります。
一方,政治に目を向けると,地域間や国内での分断が進んだといえます。アメリカや韓国国内の政治的亀裂はもはや修復が難しい状況です。ミャンマーでは激しい内戦が続き,状況はさらに複雑さを増しています。また,米中対立が恒常化し,地政学的分断も深まるなかで,グローバルサウス諸国による積極的な協力関係構築の動きもみられました。
このような各国・地域の動向を多面的に把握し,正確な分析を行うことは,アジア諸国・地域だけでなく,不安定化する世界を理解するうえでも欠かせません。
アジア経済研究所では,アジア各国・地域の政治,経済,対外関係に関する動向を的確に伝えることを目的に,1970年以来毎年『アジア動向年報』を発行してきました。本年報では,各国・地域を長年観察してきた研究者が一次資料や現地調査に基づき現状分析を行うのみならず,その歴史的背景や文脈についても明らかにし,アジアの「今」を理解するうえで有用な情報の提供に努めています。
また,本年報とともに,既刊の年報から各章を抽出して10年ごとに1冊に束ね,各国の動向を10年単位で把握できる「各国・地域別バンドル版」(1980~1989,1990~1999,2000~2009,2010~2019)もウェブサイトで公開中です。本年報がアジア地域・諸国の現状を理解するための一助となることを願っています。
2025年5月