要旨: 語音を含む自然界に存在する音は時間的に変動する。 聴覚は, 音の時間変動に含まれる情報を抽出し言葉や環境を認識している。 本稿では, 時間情報に対する聴覚系の感度の評価法, および聴覚による分析メカニズムについて概説する。 音の時間変動は, 振幅包絡と時間微細構造に分類して考えるとよい。 振幅包絡情報は, 語音の認識に重要な役割を果たす。 振幅包絡に対する感度の評価には, ギャップ検出閾値や時間変調伝達関数が広く用いられる。 振幅包絡の体系的な分析には, 変調スペクトルが有用である。 変調スペクトルを分析する聴覚メカニズムとして, 変調フィルタバンクの存在が示唆されている。 時間微細構造は, ピッチ知覚や音源定位に寄与するが, 背景音存在下の語音知覚にも何らかの貢献をすることが示唆されている。 基底板の微細な反応特性の変化や, 聴神経数の減少などにより, 時間微細構造に対する感度が低下する可能性がある。