Bulletin of Data Analysis of Japanese Classification Society
Online ISSN : 2434-3382
Print ISSN : 2186-4195
Article
Reminiscence: Quantification Theory and Graphs
Shizuhiko Nishisato
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2019 Volume 8 Issue 1 Pages 47-57

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要 旨

半世紀にわたる数量化理論の仕事で,取り残した一つの課題がある.それは1989 年にGreenacre の強烈な批判で失墜したCGS スケーリングを擁護する論文を書くという今は亡きCarroll への約束である.それは,分割表の数量化で得られる行と列の最適変量を,いかに同一空間に表現するかというグラフ法の問題である.行と列の変量は行と列の相関が1 でない限り同一空間にない.それにも拘らず,すべての場合に行と列を同一空間にプロットするという方法が,半世紀の間に定着化してしまった.その打開策として提起されたCGS スケーリングは握りつぶされ,そのあとCGS スケーリング正当化の論文を出すことは困難を極めた.本文は現在数量化理論の砦としてかまえる同時グラフ法の強固な壁を乗り越え,正当な同時グラフには2 倍の空間が必要であることを示した.残念ながら,CGS スケーリングは2 倍の空間を考慮しなかったためにGreenacre の批判に屈した.本論文の空間2 倍説に対し読者の理解が得られ,現在広く使われている対称グラフ法(フレンチプロット)と非対称グラフ法を批判の目で見直してくれれば何よりである.

Abstract

In 1986, Carroll, Green and Schaffer proposed the so-called CGS scaling, in which they tried to rectify the joint graphical display of quantification results as proposed in France and widely used throughout the world. The CGS proposal was severely criticized by Greenacre in 1989, and it was abandoned by most researchers. In 1989, Nishisato promised J.D. Carroll that he would write a paper to support the CGS scaling. As is known, the row variates and the column variates derived by quantification theory do not span the same space unless they are perfectly correlated. Yet, the traditional joint graphical display is based on the condition that row variates and column variates occupy the same space. 30 years since then, Nishisato finally succeeded in his paper accepted for publication. This is the current paper which demonstrates that we must double the space for graphical display of rows and columns of the contingency table. He employed the response-pattern table format for the contingency table, and identified contingency space, dual space and residual space, all of which constitute quantification space, and demonstrated that dual space is for the joint graphical display with interesting pair-wise subspace of dual space which shows how discrepant the traditional symmetric graph is from the exact coordinates. It is unfortunate that the CGS scaling did not fully discuss the quantification space but initiated the search for mathematically correct joint graphical display.

1. 序 言

1959 年,学士論文「不安の因子分析的研究」(1960)で北海道大学を卒業,修士課程の1960 年,慶応大学日吉キャンパスでの日本心理学会に出席.その時,恩師戸田正直先生のお世話で林知己夫先生と印東太郎先生に面識を得た.林先生の数量化の論文(1950, 1952) を十分理解もできないまま1961 年アメリカのノースカロライナ大学(UNC)に留学.その年のフルブライトの仲間には,池田央,(故)浜治世,今田寛氏などがいた.UNC では恩師R. Darrell Bock の講義の中に「最適尺度法」(optimal scaling;Bock, 1960) があった.それと「林の数量化理論」との関係を理解したのは,科学警察研究所の太田英昭氏(北大の先輩)が「林の数量化理論」を計量心理学研究所のセミナーで紹介したいといってきたときだった.私は日本からの訪問者には,いつも私の前で英語の予行演習をしてもらってきたが,それを始めたのが,その時.彼の話を聞き,「林の数量化理論」と「ボックの最適尺度法」との相似を発見,それを彼に告げたので急遽トピックを「プリズナーズデイレンマの実験」に変え,彼の講演は好評を得た.後年Bock は「ここには昔日本の警察官が来ていた」と自慢げに話していた.

私の博士論文はBock の指導下に“Minimum entropy clustering of test items” (1966),数量化理論ではなく,クラスター解析と対数線形模型を組み合わせたもので,当時は,クラスター解析も,線形対数模型も,よく知られていない時代だった.

留学後,日本に就職先がなく,1966 年カナダのマッギル大学に就職,翌年トロント大学に移り,数量化理論の講義を開始.最適尺度法の名前は,後に双対尺度法(dual scaling)に変わった.1976 年,計量心理学会のシンポジウムで,「双対尺度法」(dual scaling)の名前を提唱,トロント大学出版会から数学叢書シリーズの一つとして出た“Nishisato, S.: Analysis of categoricaldata: Dual scaling and its applications” (1980) で,「双対尺度法」が公的に登場した.1976 年のシンポジウムはYoung(アメリカ)がオーガナイザー,de Leeuw(オランダ),Saporta(フランス),Nishisato(カナダ)が数量化理論の独自の見解を紹介,Kruska(l アメリカ)が討論者.その時Zinnes(アメリカ)が「最適尺度法」というのはおかしい,もっと適当な名前を付けるべきだと発言,西里提案の「双対尺度法」が,多くの賛同を得たという背景がある.

当時は,日本の「数量化理論」,フランスの「コレスポンデンスアナリシス」,オランダの「等質性解析」,カナダの「双対尺度法」の4 つの名前が広く知られていたが,Greenacre (1984) 以来,「コレスポンデンスアナリシス」が学界を支配するようになり,同時にグラフが数量化理論の常用法として普及しはじめた.勿論,グラフ法の本場はフランスだったが,フランス語と英語の壁が厚く,グラフ法の英語圏進出にはGreenacre の一押しが必要だった.

2. 同時グラフ法(Joint Graphical Display)

Greenacre (1984) の前に出版されたNishisato (1980) には,ほとんどグラフ法に関する記述がない.このグラフ法の無視と新しい名前「双対尺度法」の提唱で,若造のNishisato (1980) はコレスポンデンスアナリシスの参考文献にも,しばしば無視された.しかし,数学叢書シリーズで出たNishisato (1980) に,数学的に問題のあるグラフ法を推進する余地はなかったのである.

現在の同時グラフ法は「使いやすい」を念頭に推進されたもので理論的には正当性を欠く.その問題の拠点は“joint”(同時)というところにある.分割表の数量化では,行に対する変量と列に対する変量を算出するが,行の変量と列の変量は,行と列の相関が1 でない限り,同じ空間にはない.それを無理やり同じ空間に押し込める同時グラフ法の「長年の問題」とは,同一空間にないものを同一空間で表すということである.

これほどはっきりした問題を持つ同時グラフ法が,何故普及し渡ったのか.それでもLebart,Morineau & Tabard (1977Lebart, Morineau & Warwick, 1984) などは,同時グラフに見られる行の変量と列の変量の距離は正しくないことを述べて,注意を喚起しているが,その忠告はほとんど無視されてきたように思われる.最も広く使われている同時グラフ法はフレンチプロットとも呼ばれる対称スケーリング法(symmetricscaling)である.これは,分割表の要素fij の特異値分解

  
f i j   =   f i . f . j f . . 1 + ρ 1 y i 1 x j 1   +   ρ 2 y i 2 x j 2   + + ρ T y i T x j T

を用いて,行と列の主成分座標(ρkyik, ρkxjk) をプロットするものである.ただし,上式のfi., f.j, f..は,それぞれ行iの周辺度数,列jの周辺度数,総度数で,ρkk番目の特異値,yikは行i の特異値ベクトルkの要素,xjk は列jの特異値ベクトルkの要素,Tは行数と列数の小さいほうから1を引いた数である.ここで「長年の問題」というのは,行と列の変量が,分割表の行列間の相関(数量化では特異値が相関を示す)が1でない限り,同一空間にはないことである.特異値は行と列の射影子でもある(Nishisato, 2007) ので,行変量が布置する軸と列変数が布置する軸の間の隔たりの角度をθで示すと,その角度は次の通りになる(Nishisato & Clavel, 2003).従って,対称スケーリング法というのは,この隔たりの角度が0であるとみなしてグラフを描くもので,特異値が1 に近くない限り,対称スケーリングのグラフは,実際のグラフへの歪められた近似グラフにすぎない.残念ながら,この点が全く無視されて,このグラフ法が一般に受け入れられているのが現状である.

  
θ = c o s - 1 ρ k

空間に隔たりがあるのなら,一方(行)を他(列)の空間に射影して,この隔たりの問題を乗りこえよう,というのが非対称グラフ法(non-symmetric scaling)である.先にも述べたように,特異値は射影子でもあるので,この方法は(yik, ρkxjk)のようにx の標準座標をy の標準座標空間に射影したもの(あるいは,その逆)をプロットするもので,空間は同じになったが,標準座標というのは,特異値とは無関係に標準化されたものであることに注意が必要である.つまり,標準座標では,データの構造を記述できないことである.違う空間にあるものの一方を他の空間に射影するということで,この方法は論理的であると信じる研究者もいるが,標準座標同士の射影である限りデータの構造の記述には役立たない.この方法は論理的に誤っている.

以上で,明らかなことは次の2点である.

 「1」対称スケーリング:異なった空間にある変量を,同一空間にあるものとして描くグラフ法で,おおざっぱな近似グラフにすぎない.

 「2」非対称グラフ:標準座標を操って描くグラフ法で,論理的にはデータの表示にならない.

結論として現在一般に使われている同時グラフ法は,満足のいくグラフ法ではない.

3. CGS スケーリング

1986 年,Carroll, Green & Schaffer は,同時グラフ法の問題を解決するために,いわゆるCGSスケーリングを提唱した.これは,分割表を2 個の多肢選択項目に対する反応であるとみなして,被験者x(2 項目の選択肢)というindicator 行列に書き換えた表を解析しようというものでる.分割表の行と列が,2 項目の選択肢として,すべて列に示されれば,この行列の数量化で得られる列の変量は,Young-Householder の定理(1938) により,同一空間に布置することが保証される.これで,長年の問題は解決した,というのが論文の趣旨であるが,Greenacre (1989) の猛反撃に会い,それに対する3 人の反論(Carroll, Green & Schaffer, 1989)も効を奏さず,失墜に終わった.双方の議論を見ると,3 人の出発点は正しかったが,「最後までデータ変換の行方を明らかにしなかった」ことが,敗北の原因になっている.Greenacre は,Bozdogan がバージニア大学で開いたIFCS1989 の講演で,CGS スケーリングの批判を繰り返した.会場にいたCarroll は,講演後即座に講堂の外の美しい緑の芝生に脱出.大衆の前であれほどの侮辱はなかったものと思われる.Nishisato はCarroll を追って外に出,CGS スケーリングを弁護する論文を書くことを彼に約束した.この学会は,この約束のほかに,日本からの有望な若い研究者(馬場,岡太,今泉,水田氏)に初めて会ったということでも記憶に残る.

上記の「最後までの追求」,ということは,CGS スケーリングが提唱される6 年前に,Nishisato(1980) が詳しく解説している.したがって,CGS スケーリングの解明の論文を書くことは易しいとNishisato は考えていた.IFCS1989 の後,CGS スケーリング弁護の論文を書いてJournalof Marketing Research(CGS スケーリングの提唱,Greenacre の反論,それに対する弁明,の論文を出版したジャーナル)に論文を送ったところ,「すべての議論はすでに交わされた」という編集者の考えで,Nishisato の弁護の論文は審査もされずに送り返され,Carroll への約束は果たせなかった.当時,Carroll, Green, Greenacre は,数量化理論では最先端にいた研究者で,編集者の考えも理解できた.それから30 年弱の月日が過ぎ去り,Nishisato は,Carroll への約束を思い出し,CGS スケーリング弁護の論文を書いて,別のジャーナルに投稿した.しかし,投稿論文は無条件棄却,さらに,その棄却の原因として,論文は根本的に誤り(“fundamentally flawed”)という理由がついていた.

この予想外の棄却は,対称スケーリング,非対称スケーリングの狂信的信奉者の反対によるものか,編集者,副編集者の個人的反対か,分からない.CGS スケーリングの弁護の論文にはどこにも誤りがなかった,という前提で数値例を用いて簡易化したのが本原稿である.半世紀にわたる研究の締めくくりとし,同時にCarroll への約束をこの論文で果たしたい.

4. 同時グラフ法の主軸座標:数量化全空間の数理

残念ながら,CGS スケーリングの提唱者たちも,反対者も,Nishisato (1980) の詳しい記述を参考にしなかった.1980 年の本の第4 章(74-97 ページ)には,分割表の数量化と,その反応パタン表(indicator matrix)の数量化の数理的関係が詳しく記されている.しかし,その記述を見ると,CGS スケーリングの出発点は正しいが,肝心の点が説明されていないことがわかり,中途半端な議論で,あれではGreenacre の反対も当然だと思われる.分割表と反応パタン表の数理的関係はNishisato (1980)に詳しく記述されているので,ここではその要点を数値例を通じて分かりやすく解説したい.

数値例をGarmize & Rycklak (1964)の研究に求めたい.この二人は,ロールシャッハのインクブロットで何が見えるかは人の感情状態による,という想定の下に,被験者に様々な情動(ムード)を実験的に引き起こして,実験に参加させ,データを集めた.元のデータは,11 種のインクブロットで得られる典型的な反応(蝙蝠,血,蝶,岩屋,雲,火,毛皮,仮面,山,岩,煙)のいずれが実験的に引き起こされた6 種のムード(恐怖,怒り,抑鬱,野望,安心感,愛)のもとで報告されるかを示した分割表である.このデータの数量化の結果はNishisato (1994)に詳しく検討されているので,ここでは紙面の都合で,そのデータの一部を解析したい.11 種のインクブロットの中から,蝙蝠,蝶,山の3 個をえらび,これと6 種のムードとの分割表を取りだして解析しよう.縮小されたデータは,表1 のとおりである.

これに対応する(1, 0) の反応パタン表を作ると,これは「全反応数x 行と列の数」(この例題の場合には,150 × 9)という膨大な表になる.例えば,蝙蝠と恐怖の選択の反応パタンは,33 回繰り返されて反応パタン表の33 行に現れる.これが,CGS スケーリングが用いた反応パタン表(incidence data)で,表の要素は1 か0.Greenacre (1989) は,1, 0 の要素に対して算出されるメトリックの質の弱さを批判している.Nishisato (1980)では,この膨大な(1, 0) の反応パタン行列の行に関して同じパタンを繰返さず,1 をそのパタンの度数に置き換えて作る(例えば,(33, 0))という縮小された反応パタン行列を作り,それを解析することを勧めている.この縮小された反応パタン表(condensed response-pattern table)と(1, 0) の数理的構造の同一性は,Benz´ecri etal. (1973)Nishisato (1984)などにも書かれている数量化の特性の一つてある.ここでは度数を入れる後者を用い,これを簡単に「反応パタン表」と呼ぶことにする.表1 に対応する反応パタン表は,表2 のとおりである.

表1. 分割表:Garmize-Rychlak (1964) のデータの一部

実験的に引き起こされたムード

表2. 表1 に対応する反応パタン表

Nishisato (1980) は,分割表の行数と列数が等しい場合には,表2 の解析では,表1 の解析の2 倍の成分が産出されること,分割表の行数と列数が異なる場合には,反応パタン表は,分割表の2倍以上の成分を産出することを示している.換言すれば,Young-Householder (1938)の定理に基づき,分割表の行変量と列変量を反応パタン表の解析により同じ空間に乗せるためには,分割表で使われる空間の次元数を少なくとも2 倍にしなければならない,ということである.これはCGS スケーリングを弁護するための最も重要な点であるが,CGS スケーリングの提唱者も反対者も,この点を完全に無視して議論を交わしている.これでは問題の解決口がみつからないことは当然のこと.先に述べたように,これを指摘しCGS スケーリングを弁護したNishisato (1989)の原稿は査読なく送り返され,2018 年,別のジャーナルに投稿した原稿も編集者の理解が全くえられなかったことは,不可解で,理解しがたい.最小二乗法を多く用いる研究者に次元数を増やすという考えは,常道からかけ離れたことなのかもしれない.

表3. 分割表の解析結果
表4. 反応パタン表の解析結果

さて,二つのデータの表現法のうち,分割表を数量化にかけると,表3 の通り,成分2 個が得 られる.

第1 成分でも第2 成分でも,行空間と列空間には大きな隔たりが見られるので,その隔たりを包括するには,各成分が2 次元を要することを考えると,データ全体で,行と列を同一次元に乗せるには,少なくとも4 次元空間が必要である.それにもかかわらず,現在最も広く使われている対称スケーリングでは,その隔たりを無視し,簡易化のために空間の隔たりが0 度であるとして,2 次元グラフを用いている.42 度,57 度を0 とみなすことは,途方もないことであることを覚えておこう.非対称スケーリングでは,行を列空間に射影するという,一見まともな方法を用いたグラフ法であるが,データの構造を表す主軸座標ではなく標準座標(ノルムが一定)を基礎にしたグラフ法なので,これではデータの構造の把握はできず,したがって非対称スケーリング法は,全く非合理なグラフ法で使用は避けなくてはならない.

これら7 成分の主軸座標は,表4 のとおりである.

ここで,Nishisato (1980)に書かれた反応パタンの数理構造と数値例を参考に,分割表の行変数と列変数を同じ空間に布置させる主軸座標を求めてみよう.その枠組みとして,次の諸空間(これはNishisato (1980)には記述されていない)を定義しよう.

 「1」共有空間(Contingency space).分割表の数量化(無意味解を除く)で用いる全空間.例題では,表4 の成分1 と2 が共有空間をなす.

 「2」双対空間(Dual space).共有空間の2 倍の空間で,分割表の行と列を抱合する空間.例題では,4 成分が双対空間を占めるが,7 成分のうち,どの4 成分が双対空間を占めるかは,この後に追究しよう.双対空間はそれぞれ2 次元の下位空間(Subspace) からなる.

 「3」全空間(Total space).反応パタン表を包括する空間で,例題では7 次元空間.

 「4」残差空間(Residual space).全空間と双対空間の差の空間.例題では,7−4 = 3 で,残差空間は3 次元空間.

 我々の例では,共有空間は2 次元,双対空間は4 次元,全空間は7 次元,残差空間は3 次元となる.分割表の行数と列数が等しい場合,残差空間は存在しない.

 我々の関心事は,双対空間における主軸座標を求めることである.それには,反応パタンデータに関する次の関係に注目しなくてはならない.

 (1) 全データの固有値の平均は0.5.(註:Nishisato (1980) に示されるように,多肢選択データの固有値の和は,選択肢の平均値から1 を引いた数で,例題の場合は,[(3+6)/2]−1 = 3.5,成分数7,従って,平均値は3.5/7 = 0.5 となる).

 (2) 残差空間の各成分の固有値は0.5.(註:多肢選択項目1 個の反応パタン表は,被験者がどれか1 個の選択肢を選ぶという背反的拘束条件により,すべての固有値は1.残差空間の場合,2 個の項目のうち,一個の項目の寄与は0 となっている(表6 を参照)ために,残差空間における各固有値は1 の半分で,0.5 となる).

 (3) 双対空間は,行変動,列変動を共有する空間で,残差空間とは独立,後に見る表6 にあるように,この空間では,固有値の平均値が0.5 となっている.

 (4) 双対空間の成分を調べると,平均固有値が0.5 となる「対の成分」が見つかる.これらの対からなる空間が双対空間の下位空間で,この例では,下位空間が2 個,それぞれの対の成分が共有空間における1 成分に対応している.つまり,各次元の下位空間の座標を用いてグラフを描くと,共有空間の成分の正しい2 次元グラフが得られる.この数学的証明は現存しないが,Nishisato の長年の研究により経験的に確立されている.

 これらは,反応パタン表の数理構造からでてくるものである.これらの拘束条件を用い表45 を参照に,次の結論が得られる.まず,残差空間は,各成分の固有値が0.5 であるので,直ちに判明できる.例題の各成分の固有値を見ると,残差空間は成分3,4,5 で構成されることがわかる.したがって,双対空間は,成分1,2,6,7 であり,4 成分の固有値の平均(0.895+0.811+0.189+0.105)/4 = 0.500が0.5 となっていることが確認できる.双対空間は,この例題の場合,二つの下位空間に分割され,それぞれで固有値の平均値が0.5 になるという条件から,下位空間の一つは成分1 と7 で構成され,(.895+0.105)/2 = 0.500.第二の下位空間は成分2 と6,(0.811+0.189)/2 = 0.500 からなる.

 全空間の主軸座標を双対空間,その下位空間,残差空間で示すと表6 の通りである.全空間は双対空間と残差空間に別れ,双対空間は,二つの下位空間を内包する.

 残差空間で特に注目すべきことは,例題の場合,その3 次元空間には,太字で示したように,ロールシャッハインクブロットの蝙蝠,蝶,山の3 個の寄与が0 である点である.つまり,反応パタン表からは,7 個の成分が摘出されたが,その3 成分には,インクブロット3 個の寄与が全くないということである.これからも,数量化で,解釈の対象は双対空間に限られるという主張が理解できる.この特定の解析こそ,「双対尺度法」の本髄で,その名前の妥当性を示しているのではないであろうか.

 また,この例題で,共有空間は成分1 と2 からなるが,同時グラフ法の立場から見ると,共有空間というのは,双対空間のそれぞれの下位空間の中から固有値の大きいほうの成分をとって構成されているということである.つまり,双対空間の下位空間は成分1 と7,成分2 と6 からなるが,共有空間は,それぞれの下位空間で固有値の大きい成分(成分1 と2)からなる.これはどういうことであろうか?

 まず,双対空間の下位空間の固有値の平均が0.5 であるという拘束条件は,下位空間の一つの成分の固有値が大きければ大きいほど,他の固有値は小さいということ,これは,大きいほうの固有値が大きいほど,分割表の同時グラフで,行と列の空間の隔たりの角度が小さくなるということである.すなわち,例題の場合,分割表の2 個の固有値だけでは,即座に2 次元同時グラフが,正確な4 次元グラフとどれほど隔たりがあるか皆目見当がつかないが,反応パタン表の2 個の下位空間のそれぞれにおいて2 個の固有値の差が大きければ大きいほど,対称スケーリングによるグラフは4 次グラフへの比較的良い近似になるという結論が得られる.これがフランス流の知恵である.

 表5 を空間ごとに置き換えると表6 のようになり,反応パタン表が数量化によりどのような空間に分解されるかが理解できよう.これから長年追求してきた分割表の行と列を同じ空間に布置させる場合の主軸座標は表5 に示される双対空間の座標である,という結論に達する.

表5. 7 成分の主軸座標

 これに対して,現在最も広く使われている対称スケーリング(フレンチプロット)は,必要な空間の半分の空間でデータの構造を表そうとする近似にすぎないことを銘記したい.行と列の変量の正確な記述には,反応パタン表から得られる双対空間の主軸座標が必要である.

 最後に,さらに理解を広げるために,グラフの観点から分割表の数量化と反応パタン表の数量化を比較してみよう.我々の数値例では,分割表から2 成分が得られたが,分割表の第1 成分は正確には1 次元ではなく,2 次元のデータを1 次元に押し込めたもので,行空間と列空間には42度のへだたりがあることを確かめた.実は,反応パタン表の双対空間の最初の下位空間に属する2 成分をプロットしてみると,二次元空間のグラフ上で,ロールシャッハのインクブロットは1線上に並び,ムードは別の1 線上に並び,この2 線の角度は42 度になっている.また分割表の第2 成分では,行空間と列空間の隔たりが57 度となったが,同様に反応パタン表で得られる双対空間の第2 の下位空間にある2 個の成分をプロットしてみると,上と同様に,インクブロットの蝙蝠,蝶,山は1 直線上にならび,6 種のムードは別の線上に並ぶ.そして,これら2 線の角度は57 度を示す.

 これにより,このデータで,インクブロットとムードを同じ空間にプロットするには,4 次元空間が必要で,その空間のための主軸座標は,表6 に記された4 次元を持つ双対空間の座標で与えられることがわかる.ここで展開した理論は,解釈によるものではなく,データの数理構造を取り上げたものである.

 以上で,Carroll への約束が十分果たされたと思われるが,結論は「CGS スケーリングの提唱の動機は正しかったが,肝心の説明が十分でなかった」ことに尽きる.ここでの説明は,CGS スケーリングの提唱より6 年前,Greenacre の本より4 年前に出版されたNishisato (1980)の第4 章に書かれたことを用いたに過ぎない.本文は,それをCGS スケーリングの観点から,書き改めたものである.この解説に基づいた某ジャーナルへの投稿論文が,編集者のまともな対応もなく,一方的に「根本的に誤っている(fundamentally flawed)」として棄却されたのは,一生の無念である.

表6. 双対空間,下位空間,残差空間の主軸座標

5. 結 語

 ここでは,分割表の行変量と列変量を同一空間に乗せるべく,反応パタン表を数量化し,双対空間で行変数と列変数の共有の座標を求めた.共有空間の2 倍の双対空間で求めた座標は,実用の観点からは次元が大きすぎるかもしれない.しかし,この論文はあくまでも数学的にユークリッド空間における分割表の行変数と列変数を完全に包括する座標を提供するのが目的で書かれたものである.これをCarroll に報告できないことが残念である.

謝 辞

 査読者3 人の非常に綿密,建設的,かつ,的を得たコメントに対し感謝したい.また,励ましの言葉をくれたEric Beh,前回の行動計量学会大会ラウンドテーブルにおける司会の馬場康維氏のサポート,この投稿を勧めてくれた吉野諒三氏の皆様に心から感謝したい.これは皆様のご協力により完成した論文である.

References
 
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