抄録
目的:上顎洞底挙上術は,歯槽骨吸収を認める上顎臼歯部にインプラント治療をおこなう場合に併用される骨造成の術式であり,過去の臨床研究において,上顎洞底挙上術をおこなった部位に埋入されたインプラント残存率は98%と報告されている.しかし,上顎洞底挙上術およびインプラント埋入術におけるリスク因子を全身的・局所的因子に分類し,各々のインプラント残存率への影響を検討した報告は少ない.そこで,上顎洞底挙上術を併用したインプラント治療において,インプラント残存率に影響する因子について検討した.
対象および方法:2000年から2014年までの間に,東京医科歯科大学歯学部附属病院インプラント外来において上顎洞底挙上術をおこなった398症例を対象とした.糖尿病,喫煙,鼻疾患,呼吸器疾患とステロイド使用,既存骨高径量と手術方法,インプラントシステム,骨移植材,上顎洞粘膜穿孔,カバースクリューの露出,歯周疾患の既往などの因子が,上顎洞底挙上術を併用したインプラント治療に及ぼす影響について,ロジスティック回帰分析をおこなった.
結果:398症例754本中,インプラントの喪失は43本,残存率は94.3%であった.鼻疾患(p=0.00856),インプラントシステム(p=0.00043),カバースクリューの露出(p=0.0390)に統計学的有意差が認められた.
考察および結論:本研究より,上顎洞底挙上術を併用したインプラント治療の成績に,鼻疾患,術後のカバースクリューの露出が影響することが示された.耳鼻咽喉科の医師との連携が必須であること,鼻疾患がある場合には治療をおこなってから上顎洞底挙上術をおこなうこと,そしてインプラント埋入後にはインプラント露出を起こさないように留意する必要がある.