抄録
1 ピースインプラントによる欠損補綴では、審美的修復の困難性が問題点として挙げられることがある。その理由の多くは、軟組織形態付与において、「良好な審美性と衛生管理の両立の困難性」であった。今回われわれは、規格化されたインプラント体アバットメント部を持つ1 ピースインプラントと、その形態的データを基にしCAD/CAM システムにより作製された歯冠修復物を用いて、比較的容易に審美的かつ衛生的にインプラント修復ができることを示す。
患者は60 歳の男性。下顎臼歯部咀嚼障害を主訴に当院来院。全身的特記事項はない。患者は可撤性床義歯を拒否、インプラントによる修復を希望した。通法に従いミューワンHA インプラントTL タイプ(山八歯材工業)を植立した。植立手術と同時に、予め得られているアバットメント部のデータより起こしたCAD/CAM により作成した歯肉保護キャップを装着。適切な術後養生期間を経た後、同じくCAD/CAM により作成した印象コーピングを用い、印象採得をした。歯冠修復物もCAD/CAM にて作成し、セメント固定した。規格性を具備するミューワンHA インプラントTL タイプとCAD/CAM システムの採用により、歯冠修復物マージン部のより正確な形態再現性が得られた。これによりインプラント体- 歯冠修復物の良好な適合性が得られた。さらにマージン部にショルダー形態を持つミューワンHA インプラントTL タイプの採用により、1 ピースインプラント修復においてしばしばインプラント周囲炎の原因となるインプラント体根尖方向へのセメント流出も防止できた。マージン部の位置も明確なため、セメント固定の際のセメント除去の失敗も無かった。
歯肉保護キャップの採用によりインプラント体植立時、軟組織縁下に位置する歯冠修復物マージン部形態を予め付与できる。規格化されたインプラント体- 歯冠修復物接合部を持つため、印象採得は容易化され、修復物の適合性も良好となる。セメント固定操作の際のセメント残留などのテクニカルエラーも防止できる。
よって、ミューワンHA インプラントTL タイプを用いての上記の手法を取ることにより、術者の負担軽減、患者の負担軽減、審美性の獲得、さらには長期的に良好な予後が得られることとなった。