Seibutsu Butsuri
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Review
Microtubule Destruction and Self-repair: Self-renewal of Microtubule Lattice by Biomolecular Motors
Daisuke INOUE
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2022 Volume 62 Issue 1 Pages 24-27

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Abstract

これまで,微小管のダイナミクスは,その末端でのみ生じると考えられてきたが,最近,格子中心部でも発生することが明らかとなってきた.本稿では,微小管格子内ダイナミクスに関する最近の研究について解説し,その中で,筆者らの生体分子モーターによる微小管格子内ダイナミクスの促進に関する研究について紹介する.

Translated Abstract

Microtubules have a unique dynamic behavior of stochastically switching between polymerization and depolymerization processes in the regulation of the cytoskeleton. Most previous researches have focused on the dynamics at microtubule ends. However, recent studies have found that the dynamics of microtubules occur in their shaft and regulate the microtubule stability and mechanical properties. Here, we review the latest researches describing the microtubule shaft dynamics and introduce our present work that reveals the microtubule shaft renewal by biomolecular motors.

1.  初めに

微小管は,チューブリン(α,β-チューブリンダイマー)が連なり結晶格子のように整列した,中空状の細胞骨格繊維であり,チューブリンが重合・脱重合することで,伸長・短縮を繰り返すダイナミクスを有する(動的不安定性,図1).微小管の動的不安定性は,細胞内における微小管ネットワークの組織化や染色体分離などに必要不可欠な機能である.これまで,微小管のダイナミクスは繊維の先端のみで観察されると考えられてきたが,近年,微小管の格子内中心部でも生じることが見出されている(図11).さらに,微小管の格子内ダイナミクスが,微小管の動的不安定性や機械的特性を変えるという実験的証拠も増えている.本稿では,近年注目されている微小管格子内ダイナミクスに関する研究の近況について解説し,その中で,筆者らが見出した生体分子モーターによる格子内ダイナミクスの促進についても紹介する2)

図1

微小管の2つのダイナミクスの模式図(左),微小管の動的不安定性のキモグラフ(右).

2.  微小管の格子内ダイナミクス

微小管を構成するチューブリンの重合・脱重合特性は,チューブリンに結合するグアノシン三リン酸(GTP)の状態に依存し,GTPチューブリンは容易に会合し,プロトフィラメント(PF)と呼ばれる小繊維の形成を経て,微小管を重合する(図1右①).一方,GTPが加水分解され,チューブリンが不安定なGDP型へと変換されると,微小管は繊維の先端から脱重合し,すぐさま短縮する(カタストロフ).短縮を始めた微小管はそのまま繊維が完全に崩壊するか(図1右②),崩壊の途中で停止し,遊離GTPチューブリンと再結合することで伸長を再開する(レスキュー)(図1右③).このように,微小管はGTPの状態依存的にダイナミクスを示す.

これまで,微小管のダイナミクスは,微小管の先端のみに注目されてきたが,1992年にDyeらは,微小管のダイナミクスが,すでに形成された微小管の中心部でも生じることを発見した3).彼らは,ウニ精子の軸糸断片を安定な微小管核形成テンプレートとし,遊離GTPチューブリン存在下で微小管を形成させた.この再構成系実験では,微小管が軸糸とアニーリングし,両端が軸糸断片により安定化されたGDPチューブリンからなる微小管(GDP微小管)が形成される(図2).系中の遊離チューブリンを除去すると,微小管は繊維の中心部が捻れた構造を形成し,やがて崩壊する.このプロセスは,遊離GTPチューブリンを再添加することにより阻害され,捻れた微小管は元の真っ直ぐな形状へと回復する(微小管の自己修復,図2).近年,軸糸断片の代わりにGTPの低加水分解性アナログであるGMPCPPを用いて,両末端を安定化したGDP微小管を調製し,同様の実験が繰り返されたところ,遊離チューブリン非存在下における微小管の不安定化および同様の回復プロセスが観察されている(図24).さらに,微小管と遊離チューブリンをそれぞれ異なる色の蛍光色素で標識し,同様の実験を行うと,微小管中心部の格子内に遊離チューブリンが取り込まれていることが観察されている.この結果から,微小管の格子内でも,チューブリンの交換が行われていることが実証された.

図2

両末端を安定化したGDP微小管およびその格子破壊と自己修復の模式図.

また,微小管格子内ダイナミクスは,微小管の動的不安定性にも影響を与える.格子内ダイナミクスにより,微小管格子内の不安定なGDPチューブリンが脱離し,新たなGTPチューブリンが挿入されると,微小管の崩壊は,格子内に挿入されたGTPチューブリン部位で停止し,そこから微小管が再伸長を開始する.このことから微小管格子内ダイナミクスは,微小管のレスキューを促進し,微小管の安定化に寄与している可能性が示唆されている5)

3.  微小管の格子欠陥

微小管格子内のチューブリン同士の結合力を実験的に測定することは困難であるが,いくつかの数理モデルにより推定されている4).これらの数理モデルは,微小管格子内からチューブリンが自発的に脱離することを示しているが,その頻度は数日レベルの時間スケールであり,再構成系実験との矛盾が生じている.しかし,この矛盾は,本項に述べる微小管内の格子欠陥により解消され,数理モデルに格子欠陥を取り入れると,実際の微小管のように高頻度で微小管の格子内ダイナミクスが誘発される4)

これまで,微小管はチューブリンが金属結晶のように規則的に整列した構造を持っていると信じられてきた.しかし,近年の電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などのイメージング技術により,微小管は,格子内の空孔や,PF数,螺旋ピッチの転移を生じることが観察されている(図34),6),7).欠陥の生成頻度は,微小管の成長速度に依存し,チューブリン濃度が高い条件や卵抽出物中における成長速度が速い微小管は,より多くの欠陥を持つ7).このことは,成長速度の速い金属などの結晶が,より多くの欠陥を持つことと類似している8)

図3

微小管の格子欠陥の種類.

微小管の格子欠陥は,格子構造のミスマッチを生じるため,機械的に弱い性質を持つ.従って,格子欠陥部位では,チューブリンやPFの脱離により微小管の不安定化が起こり,脱離部位に対して遊離GTPチューブリンが再装填されうる.

4.  微小管の機械的物性への影響

格子欠陥部位におけるチューブリンのダイナミクスは,熱揺らぎ程度のエネルギーでも生じるが,機械的ストレスなどの外的要因により触媒される.Schaedelらは,マイクロ流体デバイス内で微小管に対して流体力学的な流れ刺激を印加することで,微小管を繰り返し屈曲させ,機械的ストレスが微小管の格子内ダイナミクスに及ぼす影響を試験している(図4A, B9).この試験では,異なるチューブリン濃度条件下で微小管を調製し,格子欠陥の割合をチューブリン濃度依存的に制御している.各微小管を繰り返し屈曲させると,先天的に格子欠陥を多く有する微小管ほど格子欠陥が拡大し,徐々に屈曲した状態から回復しなくなり,繊維の剛性が低下する(図4C).この現象は,金属などの結晶が,点欠陥により材料疲労を起こす仕組みと類似している.しかし,微小管は金属結晶と異なり,自己修復能を有するため,遊離GTPチューブリンを導入することにより,元の真っ直ぐな状態へと復元され,機械的物性も回復する.

図4

(A)微小管の曲げ試験の模式図および(B)蛍光顕微鏡画像,(C)曲げサイクルごとの微小管の持続長(剛性を表す指標)変化を示すグラフ.微小管調製時のチューブリン濃度を14~26 μMに設定し,段階的に格子欠陥の数を制御している.(B,C,文献9より改変).

5.  生体分子モーターによるダイナミクスの促進

細胞内おいて,微小管に対して機械的ストレスを与える要因の一つとして,微小管と相補的に結合する生体分子モーター(キネシン,ダイニン)が挙げられる.生体分子モーターは,アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解により得られる化学エネルギーを利用し,二つの微小管結合ドメインを交互に動かすことで,微小管上を一方向的に二足歩行するタンパク質である.細胞内において,生体分子モーターは微小管に沿って様々なカーゴ分子を運び,細胞内物質輸送の担体として機能している.生体分子モーターがATP一分子の加水分解により得られるエネルギー(22 kBT)の一部を歩行運動に変換する際,一定の余剰エネルギーを生じる.いくつかの文献は,生体分子モーターが,この余剰エネルギーを利用して,チューブリン間の結合を切断しうると指摘している10),11)

Hessらは,ATP存在下,キネシン固定基板上で,微小管を並進運動させる古典的な運動試験(In vitro gliding assay)により,少量のTaxolで安定化した微小管の格子構造が摩耗することを見出している11).また,筆者らやBachandらの研究グループは,それぞれTaxol安定化微小管の先端が,運動試験中にPF断片へと分断されることを報告している12),13)

これらの結果は,生体分子モーターが,安定化された微小管の格子を破壊できることを示している.この効果は,Taxolで安定化されていない微小管ではより顕著であり,筆者らは両端のみを安定化したGDP微小管をキネシンまたはダイニン固定基板上で並進運動させ,GDP微小管が運動開始後数分以内に崩壊することを見出している(図5A, C2).この崩壊速度は,ATPの濃度に依存しており,高いATP濃度では,モーターの運動速度が上昇し,微小管はより短時間で崩壊する.また,GDP微小管の崩壊は,系内に遊離チューブリンが存在する場合には,自己修復により抑制される(図5B, C).自己修復部位は,蛍光色素で標識したチューブリンにより可視化でき,ダイニンと比べ,キネシンの方がより多くの自己修復部位を有することから,生体分子モーターごとの特性も微小管の格子内ダイナミクスに影響を与えている可能性が示唆される.

図5

(A)生体分子モーター(Kinesin1)固定基板上におけるGDP微小管の破壊と(B)自己修復,(C)微小管の生存割合の経時変化を表すグラフ.図A白矢印:微小管の運動方向を示す.実験データは文献2より.

これまでの生体分子モーターと微小管格子内ダイナミクスの関係を評価するシステムでは,主にIn vitro gliding assayが用いられてきた.Gliding assayは生体分子モーターの特性を簡便に評価できる反面,運動中の微小管が座屈を生じることや,基板との摩擦,微小管にかかるせん断応力の影響などを除外できないため,生体分子モーターが微小管格子に直接及ぼす影響を純粋に評価することができない.そこで筆者らは,微細加工技術を用いてGDP微小管の片末端のみを基板に固定し,微小管に沿って生体分子モーターを歩行させるIn vitro motility assayを行い,生体分子モーターが微小管格子に直接及ぼす影響を評価した.生体分子モーターおよび微小管を蛍光色素により標識し,モーターの運動と微小管の格子状態を可視化したところ,モーターが微小管上を運動するにつれ,微小管格子からチューブリンが脱離する様子が蛍光強度の局所的減少により観察され,やがて微小管はgliding assayで観察された結果と同様に崩壊した(図6A).微小管の崩壊は,生体分子モーターが高濃度の条件で,より顕著に観察され,遊離GTPチューブリン存在下では抑制された(図6B).

図6

(A)In vitro motility assayの模式図,キネシン(Klp2,図中白三角形)の運動によるGDP微小管の破壊と(B)自己修復.

これらの結果から,生体分子モーターは,既知の物質輸送担体としての機能に加え,微小管の格子を直接的に破壊し,微小管自体が有する自己修復機能とカップリングすることで,格子内ダイナミクスを促進する役目があることが明らかになった.近年では,カタニンやスパスチンなどに代表される微小管分解酵素も,生体分子モーターと同様に微小管の格子を不安定化させ14),15),微小管の格子内ダイナミクスを促進することも報告されている15).これらのことから,細胞内において,微小管の格子内ダイナミクスは生体分子モーターをはじめ様々な微小管関連タンパク質によって触媒されている可能性が示唆される.

6.  終わりに

多くの再構成系実験により,微小管は先端だけでなく,繊維中心部でもチューブリンの交換を行っていることが明らかとなった.そして,筆者らの研究により,生体分子モーターが微小管の格子内ダイナミクスを促進していることも実証された.しかしながら,微小管の格子内ダイナミクスを実際の生細胞内で観察することは困難であり,その頻度や細胞内機能については今後調査が必要である.近年では,光刺激により発光波長が変わる蛍光物質を用いてチューブリンを標識し,細胞内遊離GTPチューブリンの色を変換することで,格子内へのチューブリンの取り込みを可視化する試みもなされている(フォトコンバージョン)5).また,hMB-11はGTPチューブリン特異的抗体であり,免疫染色により微小管格子内におけるGTPチューブリンの分布を可視化することも可能である16).これらのツールを用いて,今後,細胞内における微小管格子内ダイナミクスの役割についてより詳細な知見が得られるであろう.

文献
Biographies

井上大介(いのうえ だいすけ)

九州大学大学院芸術工学研究院助教

 
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