Seibutsu Butsuri
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Theoretical Analyses for DNA Repair Function of Cryptochrome-DASH
Ryuma SATOYoshiharu MORIRisa MATSUINoriaki OKIMOTOJunpei YAMAMOTOMakoto TAIJI
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2022 Volume 62 Issue 2 Pages 116-118

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DASH型クリプトクロムは発見当初,紫外線損傷DNAを光回復できると推定された.しかし,現実にはその機能を発現せず,その明確な理由は明らかではない.本稿では,紫外線損傷DNAの光回復に欠くことのできない電子移動反応および基質の認識・結合の観点から機能の非発現の理由について調べた研究について紹介する.

1.  クリプトクロム/光回復酵素スーパーファミリー

クリプトクロム(CRY)は1993年にシロイヌナズナにおいて,胚軸伸長抑制の原因遺伝子として同定され1),現在ではバクテリアから哺乳類に至るまで幅広い生物種でその存在が確認されている2).CRYは生物種によって機能が異なり,植物では胚軸伸長抑制や花芽形成の調整,昆虫および脊椎動物では概日リズムの調整に関与している2).また鳥類では磁気センサーとして働いていることも示唆されている.このように幅広い生物種に存在しその機能は多様であるが,それらの機能は一部を除き,補酵素であるフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の青色光の吸収によって発現するという共通点をもつ2).FADを利用して機能を発現するタンパク質として,光回復酵素(PL)も知られており,紫外線によって損傷したDNAを修復する(光回復)3).CRYとPLは共通の祖先に由来するタンパク質であり,クリプトクロム/光回復酵素スーパーファミリーと呼ばれている.しかし,CRYはPLと一次構造のみならず三次構造も類似しているなど多くの共通点を有しているにもかかわらず,DNA修復機能を発現しない(図1a3)

図1

(a)クリプトクロム/光回復酵素スーパーファミリーの構造と機能.(b)フラビンアデニンジヌクレオチドの状態.

2.  DASH型クリプトクロムの構造と機能

上述したようにCRYは植物,昆虫および脊椎動物由来でそれぞれ性質が異なる.例えばCRYが共通して有するFADは,シロイヌナズナのCRY1,CRY2では,青色光の照射により,それぞれ二電子還元型(FADH)と中性ラジカル型(FADH)をとり,ショウジョウバエCRYではアニオンラジカル型(FAD•–)をとる(図1b).

他方,DASH型クリプトクロム(CRY-DASH,DASH型のDASHはDrosophila,Arabidopsis,Synechocystis,Humanの頭文字)では,FADがPLと同様に暗状態でFADHとして存在し青色光の照射によって励起状態(FADH*)となる4),5).加えて,各CRYの機能に重要な役割を果たしているC末端Extension(CCT)もPLと同様に存在しない(図1).これらのことから当初,CRY-DASHは紫外線損傷DNAの光回復が可能であると推定されたが,シロイヌナズナのCRY-DASH に対するin vitroの実験により一本鎖DNAに対しては弱い修復活性をもつが,二本鎖DNAに対しては修復活性をもたないことが報告され,加えて,二本鎖DNAとは結合親和性も低いことが示された5),6).また,in vivoでは一本鎖,二本鎖どちらに対しても光回復活性を示さず,未だにその生理機能は不明である.このようにCRY-DASHがその他の種類のCRYと比べて,よりPLに似た高次構造であることやFADの状態がPLと同じであるにもかかわらずDNA損傷を修復できない理由は,現在においても明確な解答が得られていない.筆者らはその理由を明らかにするために,計算機実験によりPLとのDNA修復反応における反応性を比較した7)

3.  DASH型クリプトクロムの電子移動反応性

PLによる紫外線損傷DNAの修復では,基質(DNA損傷)の認識と結合および青色光を吸収したFADH(FADH*)から基質への光誘起電子移動反応が必須である(図23).そこで,筆者らはCRY-DASHにおいてFADH*から基質への電子移動速度の観点から電子移動反応性を評価した.タンパク質中における電子供与体(Donor)から電子受容体(Acceptor)への電子移動速度を評価する際にはマーカス理論に基づく反応速度式kDA = 2π/ħ|TDA|2(FC)が用いられる.ここで,ħはディラック定数,TDAとFCはそれぞれ電子因子(電子が遷移するために必要なDonor-Acceptor間の電子的相互作用)と核因子(反応前後の核の反応座標の一致する確率)である.この式から反応速度はTDAとFCに依存していることがわかる.筆者らはCRY-DASHにおけるFADから基質への電子移動の際のTDA値を分子動力学(MD)計算と量子化学(QM)計算を用いて推定した.TDA値はDonorとAcceptorそれぞれの遷移双極子モーメントと励起エネルギーの差を用いて見積もることができる.MD計算で得た複数の構造に対してQM計算を実施しTDA値を見積もったところ,TDA値は5.3 ± 4.6 meVであった.この値は先行研究により推定されたPLのTDA値(4.5 ± 3.7 meV)8)とほぼ同値であり,CRY-DASHはPLと同程度の電子移動反応性を有していることが示唆された.しかしながら,現実にはCRY-DASHのDNA修復能はPLに劣っているため,その原因は電子移動反応性以外にあると考えられる.

図2

光回復酵素による紫外線損傷DNAの修復機構.

4.  DASH型クリプトクロム-紫外線損傷二本鎖DNAの複合体構造とDNA修復能の関係

上述の結果から筆者らはCRY-DASHが紫外線損傷DNAを修復できない原因は,紫外線損傷DNAとの結合親和性の低さであると推定し,その結合親和性の低さが何によるものかを調べた.筆者らはPL-紫外線損傷二本鎖DNA複合体構造とCRY-DASHの構造を立体構造アラインメントによって重ね合わることで,CRY-DASH-紫外線損傷二本鎖DNA複合体をモデルした.そして,そのモデル構造およびPL-DNA複合体に対してMD計算を実施し,それぞれ構造がどのように最適化されるかを観測した.CRY-DASHにおけるアルギニン(Arg443とArg446),PLにおけるリジン(Lys401)およびアルギニン(Arg404)とDNA間の塩橋形成に着目したところ,興味深いことにPLではLys401およびArg404はDNAと安定した塩橋を形成していたが,CRY-DASHのArg443とArg446は安定した塩橋を形成していなかった(図3).この塩橋形成がDNA修復能に関与していることが先行研究で示唆されていることから9),CRY-DASHのDNA修復能が低い理由のひとつはDNAと安定した塩橋を形成できず,それによって結合親和性が低くなるためであると示唆された.よって,筆者らはCRY-DASHのArg443とArg446の近傍のアミノ酸残基をPLと同じにすることで塩橋が形成され修復活性を示すと考え,CRY-DASHのPL型変異体(Arg443Lys/Glu444Pro/Asp445Leu)を作成しMD計算を実施したが,塩橋の安定化は確認できなかった.実際に,この変異体を遺伝子組換えタンパク質として取得し,そのDNA修復能を評価したが,紫外線損傷二本鎖DNAの修復機能の獲得には至らなかった.しかし,2015年に菌類のCRY-DASHは二本鎖DNAの修復活性を示すと報告されており10),本研究の結果に基づいて生物種間の違いも特定していくことで本問題の解決に向かっていくと期待される.

図3

特定のアミノ酸残基と基質間の距離の変化とDASH型クリプトクロムおよび光回復酵素と紫外線損傷二本鎖DNAの結合様式.

5.  おわりに

本研究では,計算科学によってCRY-DASHはPLと種々の点で類似性が高いにもかかわらず,紫外線損傷DNAの修復機能を発現できない原因の解明を試みた.その結果,CRY-DASHは電子移動反応性の点ではPLと同等の性能を有しており,PLと異なり紫外線損傷二本鎖DNAとの結合親和性の低さが特定のアミノ酸残基とDNA間の塩橋の不安定さに起因することを明らかにした.PLの紫外線損傷DNAの修復機構自体がまだ完全に理解されていないことも踏まえ,今後さらなる研究によりCRY-DASHがなぜ紫外線損傷DNAの修復機能を発現できないのかという謎を解明することで,DNA修復機構の全容を明らかにすることに繋がると期待している.

文献
Biographies

佐藤竜馬(さとう りゅうま)

産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門産総研特別研究員

森 義治(もり よしはる)

神戸大学大学院システム情報学研究科講師

松井理紗(まつい りさ)

大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程

沖本憲明(おきもと のりあき)

理化学研究所生命機能科学研究センター上級研究員

山元淳平(やまもと じゅんぺい)

大阪大学大学院基礎工学研究科准教授

泰地真弘人(たいじ まこと)

理化学研究所生命機能科学研究センター副センター長

 
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