Seibutsu Butsuri
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Development of Near-field Scanning Optical Microscopy toward Its Application for Biological Studies
Takayuki UMAKOSHI
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2022 Volume 62 Issue 2 Pages 128-130

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Abstract

近接場光学顕微鏡は,微小な近接場光を用いて,超解像イメージングを行う超解像顕微鏡法の一種である.ラマン分光法など,様々な光計測法を超解像化できるのが特長である.本稿では,特にバイオイメージング応用の視点から,近接場光学顕微鏡の最新技術について紹介する.

1.  はじめに

光学顕微鏡は,17世紀に発明されてから現在に至るまで,生命科学の発展に長く貢献してきた1).現在では光学顕微鏡を使ったことのない研究者を見つける方が難しい程に,広く浸透した身近な観察技術である.さらに近年は,より微小な生命現象を観察しようと,空間分解能の向上も著しい.光学顕微鏡の空間分解能は波長の半分程度に制限されるが(光の回折限界),この限界を超えるのが超解像の光学顕微鏡である.2014年にノーベル化学賞を受賞した超解像蛍光顕微鏡がその際たる例であり,ナノスケールの生命現象を観察できるようになった.また,超解像蛍光顕微鏡以外にも,異なる原理に基づく超解像顕微鏡法が様々に開発されてきた.本稿で紹介する近接場光学顕微鏡も,そんな超解像顕微鏡の一つである.

近接場光学顕微鏡は,ナノレベルに鋭い金属探針の先端に光を照射し,微小な近接場光を生成することによって,超解像を達成する(図12).近接場光は,金属自由電子が入射光電場で集団的・共鳴的に振動(プラズモン共鳴振動)することによって生成される.金属探針の先端に局在する光であり,その大きさは探針先端径(約10 nm)と同程度であるため,空間分解能の典型値としては10 nm程度である.探針ないしは試料を二次元に走査し,超解像イメージングを行う.微小な近接場光で試料を直接照明して観察するため,蛍光のみならずラベルフリーに試料からのラマン散乱光や赤外吸収光など様々な光信号を計測できることが,特長の一つである3)図1に示すようなカーボンナノチューブのラマン像を超解像で得ることができる.様々な光計測法を超解像で扱えるため,もちろん生体計測応用におけるポテンシャルも大きいのだが,超解像蛍光顕微鏡と比べ生命科学における存在感は未だ小さい.生体試料を観察するための技術としては広く認識されていないのが現状である.

図1

近接場光学顕微鏡の概要図.

本項では,近接場光学顕微鏡における近年の独自のアップデートについて紹介し,バイオイメージング応用の可能性について述べる.

2.  プラズモン超集束による高機能化

近接場光学顕微鏡の原理を図1と共に述べたが,実際の状況はより煩雑である.実際には,レーザー光を探針先端に集光照射して近接場光を励起するため,高強度な入射レーザー光が当たっている所に,微小な近接場光も共存しているような状態になっている.入射レーザー由来の信号もノイズとして多量に発生するため,感度を大きく低下させる上に,生体計測応用を考える上では光毒性も懸念となる.入射光を探針先端に照射することなく,暗環境で近接場光のみを生成することができれば理想である.

著者は,探針先端への光照射を回避する方法として,プラズモン超集束という現象を応用した4).プラズモン超集束では,探針先端ではなく探針上部のプラズモンカップラに光を照射する(図2a).カップラで発生したプラズモンが,探針表面を先端へ向かって伝搬・集束することによって近接場光を生成する現象である.近接場光のみを探針先端に生成できるので,感度を高められる上に,光毒性も大きく低減できる.加えて,近接場光の生成原理を変えることによって,広帯域性という副次効果も得られる.従来用いられてきたプラズモン共鳴は,文字通り特定の波長で起こる共鳴現象であるため,波長の自由度が低い(共鳴波長幅:100~200 nm程度).その点,プラズモン超集束は,プラズモンが伝搬するだけの非共鳴現象であり,様々な波長で広帯域に動作する5),6).種々の生体試料に合わせて,最適な波長を自在に選択することができる.複数の波長の光を必要とする非線形光学効果を用いた生体計測にも効果的である.

図2

(a)高感度かつ広帯域なプラズモン超集束の概要図.(b)プラズモン超集束用の金属探針.(c)プラズモン超集束の光学像.(d)白色の近接場光を用いたカーボンナノチューブの超解像・散乱スペクトルイメージング.

まず,図2bに示すようなカップラを有する金属探針を,微細加工技術を用いて作製した.カップラに白色光を照射することによって,探針先端に生成した近接場光からの発光のみを,入射光と空間的に分けて観察することに成功した(図2c).加えて,散乱スペクトルを計測することによって,広帯域な白色の近接場光が生成されていることも確認した.この白色近接場光を用いて,超解像の散乱スペクトルイメージング法を開発することにも成功した(図2d5)

近接場光を生成する場合は,入射光を直接照射するのが一般的であったが,新しい近接場光の生成方法として,プラズモン超集束を取り入れる研究報告が近年増えてきている.近接場光の生成原理を根本から変えることによって,高感度,低光毒性,広帯域性など様々な特性が得られる.上記はカーボン材料を対象とした実験であったが,もちろん生体計測にも有効である.著者もプラズモン超集束を用いた新しい生体計測技術を鋭意開発中であり,続報に期待頂ければ幸いである.

3.  高速原子間力顕微鏡を組み込んだ高速化

生体計測応用を目指した近接場光学顕微鏡開発は,様々に行われてきたが,一番大きな障壁とされてきたのが,やはりイメージング速度である.探針ないし試料を二次元走査して画像を得るため,早くとも数分以上を要する.生きた生命は,ぶれて像にならない.一方で,探針を高速に走査する技術としては,生物物理分野ではご存知の読者も多いと思われるが,高速原子間力顕微鏡(高速AFM)が広く認知されている7),8).従来の高速AFMは,設計上光学系を組み込むスペースを確保し難かったが,スタンドアロンなチップ走査型の高速AFMが近年開発されたこともあり,光計測技術との融合の可能性が大きく開けた.倒立型光学顕微鏡に搭載可能であり,実際に全反射照明蛍光顕微鏡との複合化も報告されている9)

近接場光学顕微鏡も高速AFMも,探針を用いるいわゆる走査型プローブ顕微鏡の一種であり,相互に親和性が高い.そこで,高速AFMを組み込んだ高速近接場光学顕微鏡の開発に取り組んだ10)図3aに示すような実験系を構築した.ピンホールを用いて共焦点系とすることによって,探針先端付近から発生するシグナルのみをアバランシェフォトダイオードで高感度検出した.また,高速AFMでは特殊な微小カンチレバーを用いるが,この先端を金属探針化する必要がある.電子線ビーム堆積法とスパッタリング法を用いて,図3bのような銀ナノロッド状の探針を作製する方法を確立した.図3c-eに高速近接場光学イメージングの結果を示す.生理条件下で,蛍光ビーズを1フレーム3.5秒,DNAを10秒で高速イメージングすることに成功した.従来の分オーダーから秒オーダーへと,100倍以上の高速化を実現した.連続でイメージングすることによって,動的な観察まで近接場光学顕微鏡でできるようになってきた(図3e).また,この成果を元に,さらに大幅改良した高速近接場光学顕微鏡2号機を現在開発中である.予備実験結果ではあるが,既にサブ秒オーダーで近接場光学イメージングしながら,ナノスケールの様相を動画で探索できるようになってきている.

図3

(a)高速近接場光学顕微鏡の実験系.(b)微小カンチレバー先端に作製した金属ナノロッド構造.(c)蛍光ビーズ,(d)DNA及び(e)DNA断片の高速近接場光学イメージング.図は文献10より許可を得て掲載.

4.  おわりに

本稿では,生体計測応用という視点で,近接場光学顕微鏡の近年の開発状況を紹介した.生体計測応用における近接場光学顕微鏡の一番の強みは,様々な光計測法をラベルフリーに超解像化できることであると考えている.物理的に小さい近接場光を用いる本顕微鏡法は,蛍光のみならずラマン散乱光,赤外吸収,フォトルミネッセンスなど様々な信号を超解像で計測できる.さらに,プラズモン超集束を用いた高感度化や低光毒化によって,より生体計測に有効な計測法になると期待する.また,広帯域化によって,波長の自由度を飛躍的に高めることができたため,例えばラマン散乱光と赤外吸収のナノスケールマルチモーダル計測など新たな展開も期待できる.より実用的な視点では,高速化によって生体ダイナミクス観察が可能になれば,生体試料のありのままの振る舞いを超解像ラマンイメージングできるため,生命科学に大きく貢献する顕微鏡法になると考えている.生体試料の化学結合状態をラベルフリーで超解像動画撮影できる.例えば,これまで蛍光計測でアクセスし難かった細胞膜脂質分子などのナノダイナミクス解明に,大きな力を発揮すると期待している.未だ本格的に生体計測応用されるには道半ばであるが,確実かつ加速度的に発展を続けており,今後の展開に注目頂ければ幸いである.

謝辞

これらの研究は,JSTさきがけ,科研費・基盤研究B,若手研究,セコム科学技術振興財団,中谷医工計測技術振興財団,その他多くの支援を頂き実施することができました.また,近接場光学顕微鏡の高速化は,金沢大学・安藤敏夫先生,名古屋大学・内橋貴之先生のご協力により実施することができました.ここに深く感謝致します.

文献
Biographies

馬越貴之(うまこし たかゆき)

大阪大学高等共創研究院講師

 
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