2023 Volume 63 Issue 2 Pages 107-109
Cas7-11はガイドRNA依存的に特定のRNAを分解する酵素である.筆者らは,クライオ電子顕微鏡を用いてCas7-11の立体構造を決定し,さらに構造情報をもとにCas7-11の小型化に成功した.小型Cas7-11はコンビニエントで使いやすい,RNAノックダウンツールとしての応用が期待される.
CRISPR-Casシステムは原核生物の獲得免疫機構であり,Cas酵素がCRISPR RNA(ガイドRNA)とCRISPR-Casエフェクター複合体を形成し,ファージやプラスミドなどの外来核酸に対する生体防御に関与する.例えば,Cas9はガイドRNAと相補的な2本鎖DNAを特異的に切断することから,動植物における遺伝子ノックアウトやノックインといったゲノム編集,新規機能遺伝子のスクリーニングや染色体イメージングなどに応用されている(図1A)1).Cas9の他にも,地球上に存在する様々な原核生物から,多彩な生化学的特性を示すCas酵素が次々と発見され,様々な新規技術に応用されてきた.Cas7-11は2021年に同定された新規Cas酵素であり,ガイドRNAと相補的な1本鎖RNA(標的RNA)を特異的に切断する(図1B).ガイドRNAは特定の配列をもつ5ʹタグ(8塩基),および,標的RNAと対合するガイド配列(23塩基)からなる.ガイド配列は任意の配列をとることができるため,Cas7-11は特定のmRNAを標的としたノックダウン技術への応用が期待されている.実際に培養細胞を用いた実験系では,Desulfonema ishimotonii由来のCas7-11(以下Cas7-11と表記)はRNAiのような既存のRNAノックダウン技術と同等のノックダウン活性を示した.遺伝子治療などにおける生物個体への遺伝子導入にはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターがよく用いられる.しかしながら,AAVベクターに搭載できる外来遺伝子のサイズには制限(最大4.7 kb)があり,Cas7-11は1601アミノ酸残基(遺伝子サイズにして約4.8 kb)と大きいタンパク質であることから,AAVベクターを用いた遺伝子導入が困難であるという問題があった.
多彩な生化学的特性を示すCRISPR-Cas酵素.(A)Cas9のRNA依存性DNA切断活性.Cas9はガイドRNAのガイド配列と相補的な標的2本鎖DNAを認識し切断する.(B)Cas7-11のRNA依存性RNA切断活性.Cas7-11はガイドRNAのガイド配列と相補的な標的1本鎖RNAを認識し規定された2箇所でRNAを切断する.
筆者らはCas7-11による標的RNA切断機構を明らかにするために,クライオ電子顕微鏡を用いてCas7-11-ガイドRNA-標的RNA複合体の立体構造を決定した(図2)2).Cas7-11は4つのCas7ドメイン(Cas7.1~Cas7.4)とCas11ドメインに加えて,挿入ドメイン(insertion(INS)ドメイン)とC末端ドメイン(C-terminal extension(CTE)ドメイン)からなり,それぞれのドメインが4つのリンカー領域(L1~L4)でつながった特徴的な立体構造をもつことが明らかとなった(図2).ガイドRNAの5ʹタグ領域はCas7.1ドメインとCas7.2ドメインによって認識されていた.一方,ガイド領域は標的RNAと塩基対を形成し,Cas7.2ドメイン~Cas7.4ドメイン,Cas11ドメイン,INSドメインによって認識されていた.興味深いことに,ガイドRNA-標的RNAの4番目,10番目の塩基はそれぞれCas7.2ドメイン,Cas7.3ドメインとの相互作用により,大きく向きを変え,切断されるリン酸ジエステル結合の近傍に触媒残基(Cas7.2のD429とCas7.3のD654)が位置していることが明らかとなった(図2).すなわち,Cas7-11はガイドRNA-標的RNA 2本鎖を認識し,Cas7.2ドメイン,Cas7.3ドメインによって標的RNAの特定の2箇所(標的RNAの3番目と4番目の塩基の間および9番目と10番目の塩基の間)で切断することが明らかとなった.
Cas7-11-ガイドRNA-標的RNA複合体のクライオ電子顕微鏡構造.(A)Cas7-11のドメイン構造.(B)Cas7-11-ガイドRNA-標的RNAの立体構造.Cas7-11タンパク質は表面モデルで,RNAはリボンモデルで示した.Cas7.2ドメインとCas7.3ドメインが標的RNAの切断に関与する.
冒頭で述べたようにCas7-11はAAVベクターに挿入するは遺伝子サイズが大きすぎるという問題があった.そこで構造情報をもとに,Cas7-11の標的RNAに対する切断活性を維持したまま,タンパク質サイズを小型化できないかと考えた(図3).INSドメインは活性部位のあるCas7.2ドメイン,および,Cas7.3ドメインから構造的に離れた場所に位置しており,INSドメインを欠損したCas7-11変異体(Cas7-11Sと命名)は,in vitroにおいてCas7-11と同様のRNA切断活性を示した.重要なことにCas7-11Sは1290アミノ酸残基とAAVベクターに挿入可能なサイズである.そこで,筆者らはCas7-11とガイドRNAを発現するような遺伝子カセットを設計した.この遺伝子カセットは約4.6 kbと,AAVベクターに挿入可能な外来遺伝子のサイズである4.7 kbを下回っている.実際にAAVベクターを用いてCas7-11SとガイドRNAをヒト培養細胞に導入し,標的RNAを効率的に抑制することに成功した.したがって,Cas7-11SはAAVベクターに搭載可能なRNAノックダウンツールとして機能することが明らかとなった.
Cas7-11の小型化によるRNAノックダウンツールの開発.活性部位より離れたINSドメインを削除することで,Cas7-11を小型化した.
これまでにCas酵素を利用したRNAノックダウン技術として,Cas13が用いられてきた.Cas13は標的RNA以外のRNAも非特異的に切断する活性をもつため,細胞毒性を示す.一方,Cas7-11は特異的なRNA切断活性をもつため,本研究で開発したCas7-11SはAAVベクターを用いて標的組織に送達可能な新規RNAノックダウンツールとして期待される.
筆者らはその後もCas7-11に関する研究を進めており,ごく最近,Cas7-11はCsx29というプロテアーゼと複合体を形成し,標的RNA依存的なプロテアーゼとしてもはたらくことが明らかにした3).すなわち,Cas7-11は標的RNA依存的RNA切断活性とプロテアーゼ活性をもつユニークな二機能性酵素複合体であることが明らかになった.筆者らは現在,Cas7-11-Csx29複合体を用いた様々な新規ツール開発にも取り組んでいる.