Seibutsu Butsuri
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Perspective
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Tomoyasu AIZAWA
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2023 Volume 63 Issue 2 Pages 75

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「競争」から「共創」へ,が今ビジネスの世界でトレンドのキーワードになっているそうである.自社の利益だけを考えて「競争」に明け暮れていたビジネスの世界では,市場の飽和が進んだことで単独では新しい商品やサービスを生み出せなくなり,従来の他社との対立ではなく,協力により新しい価値を生み出すこと,すなわち「共創」が必要と考えられ始めているようである.さらにそれにとどまらず,より多様なステークホルダーを巻き込んだ「共創」が重要視されているという.

翻って,アカデミアではどうであろうか?海外の各国が大幅に研究開発費を伸ばす中,ご承知の通り日本は経済的な停滞と財政難により非常に厳しい状態にある.特に,法人化以降の予算削減が続いてきた大学は,予算不足により危機的な状況に至っている.このような状況の中でも,基盤的な予算はさらに縮小され続け,学問とは異なる指標での評価による「競争」や,「競争的資金」の獲得が強く求められる.自分自身,日々の研究の中でふと気が付くと,このテーマなら競争的資金が取れそうか?という,自身の学問的な興味とは異なる視点で考えてしまうことが少なくない.

営利が最大目的のビジネスの世界が,多様性の重要さに気付き「共創」を説き始め,未知の探求や学術の発展が目的だったはずのアカデミアが,金になるかどうかという「競争」に翻弄されるとは,皮肉なことではないだろうか?考えてみると,そもそも学会の活動や学術集会は,異なる研究者達がお互いの研究成果を持ち寄り,情報交換し,議論する,まさにアカデミアでの「共創」へ繋がる基盤となるものだろう.さらに言えば,知の交換から次のサイエンスの芽を生み出すことそのものが,「知の共創」と言って良いかもしれない.昨年の生物物理学会の函館年会でも,その発表と議論の中から「共創」されたものが多かったこと,想像に難くない.

無論,基礎研究の成果が応用に繋がり,社会実装されビジネスに結びつくことの重要性は間違いない.しかし,GDPに占める教育機関への公的支出の割合がOECDの37加盟国中36位,大学等での高等教育を受ける学生の私費負担割合が67%と平均の31%の2倍以上といった状況を生み出しているのは,教育や基礎研究のもつ,公的,社会的な意味を十分に説くことができていない研究者の怠慢によるところも大きいだろう.その意味で,アカデミアが,「知の共創」に深く取り組める環境を作るためには,様々な学問の価値の社会への啓蒙活動を行う学会の役割,決して小さくはないと強く感じている.

 
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