2023 Volume 63 Issue 4 Pages 199-201
動物の光受容タンパク質オプシンは,Gタンパク質共役型受容体(GPCR)であることから,様々な生理応答を光で操作するためのツールとして注目されている.最近私たちはMosOpn3,LamPPという2種類のオプシンが,それぞれの分子特性に応じた高性能な光遺伝学ツールとしてはたらくことを示したので紹介する.

光作動性の分子を遺伝学的に導入することで,生命活動を光刺激によって操作する手法,光遺伝学が大きな発展を遂げ,生命科学研究の主要技術となって久しい.特に,クラミドモナスのチャネルロドプシンに代表される微生物由来のロドプシンを用いた神経活動の光制御技術の発展は,神経科学・脳科学分野にブレークスルーをもたらした.一方,動物にも視覚および概日リズムの光同調などの視覚以外(非視覚)の生理応答を支える光受容タンパク質(オプシン)が存在するが,それらをツールとして用いた光遺伝学はあまり盛んではない.オプシンはGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一種で,光吸収により活性化すると,三量体Gタンパク質を介したシグナル伝達系を駆動し,細胞応答を引き起こす.GPCRはヒトゲノム中に約800遺伝子存在する大きな受容体ファミリーで,メンバーには,ホルモン,神経伝達物質,匂い物質や味物質などの様々な刺激に対する受容体が含まれ,それらは刺激に応じた多様な生理応答の入口となる.したがって,オプシンを光遺伝学ツールとして用いれば,神経活動に限らず,GPCRが関与する様々な生理応答を光でコントロールできる.このような大きなポテンシャルがあるにもかかわらず,オプシンが光遺伝学ツールとしてあまり活用されてこなかったのは,主には,脊椎動物の視物質ロドプシンに代表される従来のオプシンが光遺伝学ツールとして不向きな性質をもっているためであり,実用的・汎用的なオプシンベースの光遺伝学ツールの開発が求められていた.
様々な動物の光感覚に注目した研究やゲノム解読によって,これまでに数千種のオプシン遺伝子が同定され,それらは系統的におよそ10種類のグループに大別される1),2).これらの多くは,共役するGタンパク質αサブユニットが異なっており,Gt,Gq,Go,GiおよびGsなど多様なGタンパク質共役型オプシンが存在する.また,波長感受性も多様で,吸収極大波長が~360 nmから~560 nmのオプシンが知られている.以上のオプシンの分子特性の多様性は,そのまま光遺伝学ツールとしての多様性の基盤となりうる.一方で,光遺伝学ツールとして機能するための基盤要素として,発色団の要求性と光反応が重要である.最も研究が進んでいる脊椎動物の視覚オプシンは11シス型のレチナールを結合して光受容タンパク質として機能し,光を吸収すると11シス型から全トランス型へのレチナールの光異性化を介して活性状態となり,その後壊れる(退色する).そのため,次の光受容のためには再度11シス型レチナールが必要となる(図1).レチノイド異性化酵素などの関与より生成される11シス型レチナールは網膜などの限られた組織にしか豊富には存在しないため,様々な組織で光遺伝学ツールとして効率的にはたらくためには,退色するという性質は不向きである.それに対して,無脊椎動物の視覚オプシンや視覚以外の光受容を担う非視覚オプシンの多くは,光を吸収して生じる活性状態が安定で壊れず,再度の光吸収によって元の不活性状態に戻る(図1).このような性質をもつオプシンのことを双安定型オプシン(bistable opsin)または光平衡型オプシンと呼び,光再生により何度でも機能できることから光遺伝学ツールとして適していると考えられる.私たちは,これまで様々な動物由来の多様なオプシンの分子特性の解析を行い,多数の双安定型オプシンを見出してきた1).その中で,特徴的な性質をもつ2種類の双安定型オプシン,Opn3とパラピノプシンについて,光遺伝学ツールとしての有用性を紹介したい.

動物のオプシンの光反応.退色型(上)と双安定型オプシン(下)の光受容による吸収スペクトルの変化(左)と状態の変化(右).
Opn3は最初に哺乳類の脳において発見されたオプシンで,当初はエンセファロプシンと名付けられた3).その後,そのホモログが脊椎動物から無脊椎動物まで様々な動物から見つかり,Opn3は動物界に広く存在するオプシングループということが明らかとなった.Opn3の興味深い点は,ほとんどの動物において,内臓や哺乳類の脳などの一般に光受容能がないと考えられている組織でも発現が認められる点である.すなわちOpn3は“非光受容組織”における未知の光受容の存在を示唆しており,近年,脂肪細胞における光応答との関連なども報告されるなど注目されている4).私たちはハマダラカという蚊のOpn3に着目し,Opn3グループとしては初めてとなる分子特性の解析に成功した.その結果,ハマダラカOpn3(MosOpn3)は~500 nmに吸収極大をもつ緑感受性Gi/Go共役型の双安定型オプシンであることが明らかとなった5).さらに,MosOpn3はオプシンの一般的な発色団である11シス型レチナールだけでなく,13シス型レチナールを結合して光受容タンパク質として機能できることがわかった.この性質は動物のオプシンとしては例外的で,現在でもMosOpn3にしか見られないユニークな特徴である.重要なのは,13シス型レチナールは,生体内のどこにでも存在する全トランス型レチナールから酵素を必要とせず熱異性化によって生じるという点である.したがって,13シス型レチナールを発色団として機能できるということは,MosOpn3が様々な組織で光遺伝学ツールとして機能できることを示唆している.このことを確かめるために,線虫を用いてMosOpn3の生体内での機能性を解析した.線虫はオプシン遺伝子を一つももたず,レチナールももたない.したがって,遺伝子導入したオプシンを光受容タンパク質としてはたらかせるためには線虫に外部からレチナールを加える必要があり,この点は,発色団要求性を調べる上で重要である.MosOpn3の機能性を調べるにあたり,ASHニューロンという,Gタンパク質共役型シグナル伝達系を介して忌避行動を引き起こす侵害受容細胞を標的とした.MosOpn3をASHニューロンで発現させ,光刺激による線虫の忌避行動の誘導を試みた結果,MosOpn3発現線虫は,11シス型レチナール存在下でも,全トランス型レチナール存在下でも同程度の感度で光刺激依存的な忌避行動を示すことが明らかとなった6)(図2).これは,全トランス型レチナールから13シス型レチナールが熱異性化によって生じ,それをMosOpn3が結合し,光受容能を有して機能したことを示している.微生物型ロドプシンの発色団は全トランス型レチナールで,この点も微生物型ロドプシンが光遺伝学ツールとして広く使われている理由の一つと考えられる.したがって,MosOpn3が全トランス型レチナール存在下で機能できるというこの結果は,発色団要求性において,MosOpn3と微生物型ロドプシンが同等であることを示している.さらに,報告されているASHニューロンでチャネルロドプシンを発現する遺伝子導入線虫の忌避行動の光感度と比べると,MosOpn3発現線虫の光感度は約7000倍も高いことが明らかとなった.これらの結果は,MosOpn3が高感度な光遺伝学ツールとして生体内の様々な組織ではたらくことができることを示している.

MosOpn3発現線虫の光忌避応答.動画URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2204341119#supplementary-materials(文献6より).
パラピノプシンは最初に魚類の松果体および副松果体(parapineal)に発現するオプシンとして同定された7).その後,私たちは,円口類ヤツメウナギを始め,魚類,両生類および爬虫類のホモログを同定し,それらの解析から,パラピノプシンは~360 nmに吸収極大をもつUV感受性の双安定型オプシンで,光依存的にGtやGiを活性化することを明らかにした8)-10).特筆すべき点は,パラピノプシンの活性状態の吸収極大波長は~500 nmで,UV感受性の不活性状態とは波長感受性が大きく異なっており,そのため緑色光照射によって完全に不活性状態に戻すことができる点である.このことは,パラピノプシンがUV光と緑色光によって活性状態と不活性状態を切り替えることができる“色制御”が可能な光遺伝学ツールとして活用できることを示唆している.このことを調べるために,ヤツメウナギパラピノプシン(LamPP)を用いた線虫の運動の色制御を試みた.線虫の運動ニューロンにLamPPを発現させ,11シス型レチナール存在下でUV光を照射したところ線虫は動きを停止し(コイル状になり),緑色光を照射すると再び動き出した6)(図3).この行動は,UV光照射と緑色光照射によって何度でも繰り返され,LamPPによって光の色で線虫の行動のオン・オフを切り替えられることが示された.また,LamPP発現線虫は,全トランス型レチナール存在下では光応答を示さなかったが,全トランス型レチナールの添加後に赤色光を照射すると,上述の色応答を示した.これは,LamPPが全トランス型レチナールを結合することで直接活性状態を生じ,続く赤色光照射によって不活性状態すなわちUV受容タンパク質に戻ったためだと考えられる.この結果は,LamPPも,赤色光照射を組み合わせることで,全トランス型レチナール存在下で光受容タンパク質として機能できることを示しており,MosOpn3や微生物型ロドプシンと同様,様々な組織で光遺伝学ツールとして機能できることを示唆している.

LamPP発現線虫の光の色による行動制御.動画URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2204341119#supplementary-materials(文献6より).
MosOpn3とLamPPは,双安定型という性質に加え,それぞれ13シス型レチナール結合能や完全光再生能といった特徴的な性質をもっており,それらの分子特性が光遺伝学ツールとしても十分に発揮されることが示された.加えて,MosOpn3,LamPPについて,活性化するGタンパク質選択性の変換にも成功しており,Gs共役型,Gq共役型のMosOpn3およびGs共役型のLamPPという光遺伝学ツールもできている6).また,これら2種類の双安定型オプシン以外にも,高いGs活性化能あるいはGq活性化能をもつオプシン(クラゲオプシン,ハエトリグモロドプシン)についても光遺伝学ツールとしての有用性が示されつつある.今後,これら動物のオプシンを用いた高性能な光遺伝学の発展が期待される.
本研究は,沈宝國博士,永田崇博士,孫蘭芳博士,和田清二博士,中台枝里子教授(大阪公大)との共同研究であり,深く感謝いたします.